とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

日本国海上護衛軍・艦娘部隊の提督、堺修一は、総司令部より発令された「あ号艦隊決戦」の成功で中佐に任命される。そして新たに、十一号作戦への参加を命じられた。作戦の補給拠点となったタウイタウイ泊地で、彼はかつての友・藤原海斗と再会する。


025 提督と、十一号作戦(Ⅰ)

 タウイタウイ泊地。

 いつもなら工事の音と、波の音以外には特に物音も聞こえない静かな場所なのだが、今やそこはかなりの喧騒に包まれていた。そして、あちこち代わり映えしている。

 

 まず、初期の頃に存在していた、プレハブだの竪穴式住居だのは全て姿を消し、代わりにそこにあるのは、鉄筋コンクリートの建物が複数。各艦娘たちのための寮である。

 また、食堂を併設した泊地司令部の建物の建設が予定されていたが、資材や資金のメドが立たないため、建設はいったん中断。建設予定地は、臨時運動場兼防空陣地と化した。土嚢が積み上げられ、空を照らす探照灯が設置され、九六式25㎜連装対空機銃が空を睨んでいる。

 

 また、泊地のあちこちから、飛行船のような形の、それでいて動力がついているわけでもない、妙なものが空に浮かんでいた。よく見ると、それらはワイヤーで地面に繋がっている。

 そう、阻塞気球である。まだ防空体制は脆弱であるため、その補助として上げられているのだ。

 

 そして各艦の寮は、これまでにない大にぎわいである。まあ、いきなり仲間が増えたのだから無理もないが。

 

 

 そんな騒々しいタウイ泊地、空母寮に移設した臨時提督室では、堺が仕事に追われていた。

 

 

「対潜哨戒、終わりました…。じゃあ、私はこれで…」

「待て待て待て、異常はなかったのか!?」

「だ、大丈夫でした!」

 

 名取が対潜哨戒から帰ったと思えば…

 

「演習終わったよ、提督」

「おう最上、お疲れ様。どうだ、新入りの子たちは?」

「島風はやたら血気に逸って突撃するね。速度には自信があるみたいだし、実際速いんだけど、無理に突っ込んでいくんだよ…」

「同じ突撃でも、摩耶や綾波は押さえるとこきっちり押さえてるからな。そこが、まだ足りないんだな」

「そう。千代田さんは割と堅実な攻め方するね。姉バカだけど」

「はは、姉バカがもう1人できたか」

「あとさ、雪風なんだけど…あれは何なの?」

「何、とは?」

「島風ほど速力があるわけじゃないのに、相手の砲や魚雷はかわす、自分が撃った魚雷は全弾命中させる…なんか別の意味で凄いんだよ」

「何…だと…!?」

 

 最上が演習の報告を行う。またある時は、

 

「テートクー!Burning Love!」

「うおっ!?ちょ、おま、金剛!急に抱きつくなよ!」

 

 いきなり金剛に襲われる。

 

 

「おうおう、お仲がよろしいことで」

 

 

 そして提督室のソファに陣取る藤原に冷やかされる。

 

「お前いつからいたんだよ!」

 

 

 

 

 当初こそひたすら騒々しかったタウイだが、作戦発動が迫るにつれ、うるさい中にも緊張感が混じっていった。

 

 そして…その日は来た。

 

 

 

 0559時。

 

 タウイタウイ艦隊、佐世保鎮守府艦隊。その全ての艦娘たちが講堂に集結していた。提督は、2人とも壇の上に立っている。艦娘たち全員の視線は、講堂の時計に注がれていた。

 

 極度の緊張感を伴った重苦しい沈黙が、講堂を支配している。

 誰一人、身動き1つせず、言葉も発さない。

 

 

 注目の中、時計の針が少し動き、長針が「12」に重なった。

 それと同時に、堺が壇上で宣言する。

 

「ただいまより、第十一号作戦を発動する!全艦出撃!己が本分に全力を尽くし、暁の水平線に勝利を刻め!」

 

 全員が、一斉に敬礼する。

 

 かくして、ついに「第十一号作戦」は開始された。

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ、行ってきてくれ!」

「任せて任せて!」

 

 藤原の号令一下、阿武隈率いる佐世保艦隊がカレー洋へ向けて出撃していく。

 

「あれ、貴様は行かないのか?」

「ああ、俺はこっちにいるほうが好きだな」

「へぇー。俺と逆か」

「貴様は旗艦先頭か?」

「ああ、俺はどっちかというと海の上のほうがいい。そっちのほうが心が落ち着くんだ」

 

 堺と藤原がそんな会話を交わした時、提督室の戸を開けて、神通が顔を出した。

 

「提督、周辺哨戒部隊の出撃準備、完了しました」

「了解!んじゃ、ちょっと回ってくる」

「気ぃつけろよ」

 

 藤原の言葉を背中に受け、堺は神通に乗り込んで出撃した。

 

 

 

 …で。

 

 堺艦隊は、深海棲艦の水上艦隊には遭遇しなかった。

 しなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 哨戒より帰投しようとする神通率いる警備艦隊。

 タウイタウイから約5㎞の沖合いまで戻ってきたところで、それは起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時分、堺は神通艦橋において、周辺を飛行している零式水偵の報告を待っていた。

 

「そろそろ佐世保の第一陣が戻ってくる頃だな、出迎えの用意でも発令するか」

 

 そうつぶやいた時だった。

 突然、けたたましく「戦闘」のラッパが鳴った。

 

「左舷9時の方向、距離約2000、潜望鏡!あの形状は…深海棲艦です!恐らく潜水カ級!数は1、なれど何隻いるかは不明!」

 

 ついで、伝声管から切迫した声が飛び出してくる。見張り所にいる妖精からの報告だ。

 

「総員戦闘配置につけ!」

「爆雷用意、急げ!」

 

 たちまち艦上は騒がしくなる。

 

『全艦、落ち着いて、単横陣を取ってください。これより本艦隊は、敵潜水艦隊との戦闘に入ります。両舷前進原速、聴音機始動。爆雷投下用意!』

『承知しました!』

『了解っぽい!』

 

 通信で、神通が指揮下の駆逐艦、吹雪と夕立に指示を飛ばす。

 

 神通艦橋では、音響妖精がヘッドホンを装着し、目の前の装置のハンドルをぐるぐる回し始めた。どうやら、これが水中聴音機…ソナーらしい。

 

 

 

 

 

 

 聴音機妖精を勤める彼女は、ハンドルを回しながら、ヘッドホンに注意を注いでいた。少しでも、怪しい音があれば、知らせなければ。

 

 と、その時、ヘッドホンに音が入った。

 

しゃしゃしゃしゃしゃ…

 

 何か、小さなものが水をかきわけて走るような音。音の感覚から考えて、かなり早い。30ノットくらいか。数は2つ。

 潜水艦にはそんな足はない。ということは。

 

「9時方向より推進音!魚雷接近!数2!」

 

 咄嗟に艦長に向けて叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「9時方向より推進音!魚雷接近!数2!」

「狙いは本艦だ、取り舵いっぱい!魚雷の間に艦を割り込ませろ!」

 

 報告を受けて、艦長妖精が回答を命じる。海面に白い航跡が2本浮かび、こちらに迫ってきていた。

 

「よーそろー!」

「爆雷投下用意!敵潜水艦の位置は探知できたか!?」

「魚雷航走音から逆探知を試みました、概算ですが予想はついています!」

「そっちに向けて進撃しろ!爆雷をお見舞いしてやる」

 

 神通の両脇を、航跡が駆け抜ける。回避成功だ。

 

「夕立から報告!『我雷撃受ク。1時方向ヨリ数2。被害ハナシ。敵潜撃沈ノ許可ヲ乞ウ』」

「許可すると伝えて!」

 

 通信妖精に神通が指示する。

 

「ここです!」

「爆雷投下!」

「投下ぁ!」

 

 神通のカタパルト付近にある投射機が回転し、ぽん、ぽん、と軽い音を立てて、九四式爆雷投射機から爆雷が放たれた。

 ドラム缶のような形の物体が、波間に消えていく。

 

「起爆まであと10秒!」

「通信入りました。吹雪、爆雷投下完了!」

「前進第3戦速。ここから離脱します!」

「よーそろー!」

 

 神通による、増速指示が出された。直ちに神通は速度を上げる。吹雪もぴったりついてきた。

 

「おい聴音機!何ぼさっとしてる、さっさとコード抜け!耳がつぶれるぞ!」

「は、はい!」

 

 艦長妖精の怒鳴り声に、聴音機妖精があわててヘッドホンのコードを引っこ抜く。爆雷の起爆音を拾って聞いてしまうと、鼓膜が一瞬でお陀仏になるのだ。

 

「起爆、今!」

 

 伝声管の向こうで観測妖精が叫んだ。

 

 直後、どーん!どーん!という、鈍い水中爆発の音が連続して響く。爆雷を飲み込んだ海面が一瞬白くなり、次いでズズーンと水柱が立ち上った。

 さあ、果たして当たったかどうか…

 

「観測、何か見えるか?」

 

 水柱が消えるのを待ち、艦長が伝声管で観測妖精に尋ねる。

 

「お待ちを……あ、爆雷投下地点に油が浮きました!損傷を与えたもよう!」

「こちら聴音機、水中に不審な音なし!損傷は確実のもよう!」

「「「やった!」」」

 

 報告に、艦橋要員一同が色めき立つ。初弾命中だ、幸先がいい。

 

「気を抜かないで。次、仕留めますよ!」

 

 神通が指示した時、水偵から通信が入ってきた。

 

「艦長!水偵から通信!『我艦隊付近マデ帰投ス、海面ニ潜望鏡ラシキモノ見ユ。微力ナガラ助太刀イタス』」

「潜望鏡?どこだ?」

「それが、水偵からはそれだけしか言わなくて…ん?」

 

 通信妖精がヘッドホンに手を当てる。どうやら続報が入ったらしい。

 

 その時、堺はもちろん、通信妖精以外の全員が見た。

 

 

 神通の進行方向1時の方向に突然、零式水偵が緩降下し、60㎏爆弾を落とすのを。

 そして、その爆弾が爆発し、水柱を立てるのを。

 

「やりました、水偵から続報!『我対潜爆撃ヲ実行、海面ニ油ノ浮遊アリ』」

「見事だな」

 

 艦長の独り言。そこへ、通信妖精が更に興奮した声で叫ぶ。

 

「水偵から報告、海面に艦影浮上しつつあり!」

「なに!?潜水艦が、さっきの爆撃で損傷して潜れなくなったのか、ちょうどいい!砲術!」

「は!右舷、砲戦用意!」

 

 砲術長妖精に指示が飛んだ。わざわざ浮いてきてくれるのだ、爆雷なんぞより直接撃つほうが早い。

 

 後ろを見ると、吹雪も砲を回転させていた。

 

「こちら見張り所、1時方向距離約1000に敵潜水艦カ級浮上!数1!」

「撃ち方用意!」

 

 砲術長が舌なめずりをする。少々小さいが、潜水艦なんていう紙装甲の鈍足艦ごとき、的も同然だ。

 神通が腕を海面と平行になるように上げる。7門の14㎝砲が動き、すべての砲口がカ級を睨み付ける。

 

「測敵よし!照準よし、射撃用意よし!」

「撃ち方始め!」

「第1斉射、てぇー!」

 

ドドォォォン!

 

 14㎝砲7門の一斉射。しかし、潜水艦には当たらず、代わりに潜水艦を取り囲むように水柱が立った。

 続いて、それより少し小さい水柱が2本立つ。吹雪の砲だ、こちらも当たっていない。

 

「初弾夾叉!照準はそのままでいい、各砲は装填が終わり次第個別に発砲!吹雪にやらせるな、こっちで仕留めろ!」

 

 砲術妖精が口角泡を飛ばして指示を出す。

 

 装填の終わった神通の砲が放たれる。

 3発が外れ…4発目が直撃した。

 

 水柱の代わりに火柱が立つ。

 一瞬、カ級の断末魔らしき悲鳴が聞こえたような気がしたが、それも一瞬のこと、爆発音にかき消されてしまった。

 

「しゃー!いひひひ、倒してやったぜ!」

 

 神通1番主砲の妖精たちは、笑いが止まらない。カ級を仕留めたのは、1番主砲だったのだ。

 

『こちら神通。吹雪、夕立、大丈夫ですか?』

『こちら吹雪、問題ありません!』

『こちら夕立、無事っぽい!潜水艦は倒したよ!』

 

「よし!哨戒終了、水中聴音しつつ、原速で前進!艦隊を出迎え、泊地へ帰投しよう!」

『『『はい!』』』

 

 …こうして、哨戒任務は終了した。

 

 

 

 そしてこの日のうちに、十一号作戦の初動、アンマン・コバルト両諸島周辺の平定が完了した。さすがに5艦隊が同時に作戦行動すると、あっという間である。




お久しぶりでございます。

うーん、どうも対潜戦闘の描写は難しい。砲戦や航空戦みたいに派手じゃないからかな…精進します。


初日でE1終了。しかし、まだまだこれからです。頑張って描いていきます!

それでは、また次回お会いしましょう!


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