日本国海上護衛軍・艦娘部隊に配属された堺修一中佐は、十一号作戦(カレー洋、ステビア海方面での大規模作戦)に後方支援として参加を命じられる。前線艦隊がリランカ島を攻略する中、彼は後方での補給と対潜警戒にあたっていた。
「支援艦隊を寄越せ?」
タウイタウイ泊地、堺艦隊司令部。
ただでさえ夏も近づいている上に、赤道に近いこともあって、かなり暑い。その暑さの中で、堺は大淀に尋ねていた。その手には、電文が握られている。
「はい、リランカ島攻略までは順調だったのですが、どうやらアンズ環礁の敵が予想以上に強力だったようです。なんでも、かなりの数の艦艇を周囲に展開しており、それらの司令部、及び補給拠点として活動しているらしいとのことです」
「司令部兼補給所か。それで敵さんも必死こいて守ろうとしてんだな。で、攻めあぐねている、と」
「その通りです。随伴の艦艇が多くて対処しきれず、助けて欲しい、と言ってきました」
「作戦の期限までは?」
「あと6日です」
「やるしかなさそうだな。だが、正式な命令は来てないんだろう?」
「はい。ですが、遠からぬうちに来るでしょう」
「だな」
堺は電文の紙を机に置いた。
「大淀、アンズ環礁周辺に遊弋している敵艦隊の編成はわかるか?」
「大丈夫、他の艦隊からの報告のまとめがあるはずです」
「了解。それと、泊地にいる艦娘たちの中で、改装を受けた者の予定表を」
「承知しました」
司令室から出ていく大淀を見送って、堺はひとつため息をつく。
「さて…これはマジメにやるっきゃないな」
「…はぁ」
40分後。
同じ司令室に、堺のため息が響く。
彼の目は、大淀が持ってきた資料…アンズ環礁周辺の敵艦隊の展開を示したもの…に落とされていた。
「なんだこりゃ…。戦艦を主軸とする艦隊が複数、それとヲ級改型を含む空母機動部隊。一部に敵潜水艦を認む…か」
どこをどう見ても、隙がない。深海棲艦はどれほどアンズ環礁を拠点として重視しているのだろう?
「面倒だな…。だが、こいつは味方が苦戦するわけだ。手伝うしかないな」
続いて、艦娘たちの予定表と、各スペックの一覧を取り寄せる。
「求められてるのは支援艦隊だから…おそらく、やるべき仕事は『露払い』なんだろうな。つまり、敵の軽巡や駆逐艦を沈め、敵戦艦などの大型艦に本隊の攻撃が通るようにすればいい。だったら…敵にしてみれば、当たらなければどうということはないって訳だから、こっちは当てなきゃ駄目なんだな。それも、遠距離から」
ぶつぶつ言いながら、演習報告も引っ張り出し、砲撃成績を示した部分と練度(レベル)を丹念に見比べる。
「じゃあ、支援艦隊は、戦艦、重巡をメインとして、それに空母を加えることにしよう。同時に、駆逐艦を2隻、支援艦隊の直掩として配置。なるべく練度と命中の高い子を…」
そして堺は、大淀の他に、伊勢も呼び出して支援艦隊の編成を考え始めた。
2時間後。
ついに堺は、支援艦隊の編成を決定した。
「提督!大本営からです。カレー洋方面に支援艦隊を出せとの命令です!」
タイミングを合わせたかのように、大淀が大本営からの通信命令を伝える。
「やはり来たか。大淀、命令受諾を大本営に伝えてくれ。伊勢、行くぞ!」
「承知しました」
「はーい」
堺は伊勢を引き連れ、講堂へと向かった。
支援艦隊の面々は、既に講堂に呼び出してある。
「…というわけで、ここに我が艦隊は、アンズ環礁の攻略を支援すべく、カレー洋に向け出撃する!編成は、表示してある通りだ。では、出撃せよ!」
講堂において、堺は、支援艦隊に選ばれた艦娘たちに訓示を行った後、伊勢に話しかける。
「決戦支援艦隊は預けたぞ。俺からの命令は1つだけだ。必ず、全員で、生きて帰ってこい。以上だ!」
「任せといて、提督。私は日向ともども、悪運が強いと言われた、栄えある伊勢型航空戦艦の1番艦よ。必ずみんなで帰って来るわ」
かくてタウイタウイ艦隊は出撃準備を整えた。編成は以下の通りである。
道中支援艦隊(堺直率艦隊)
旗艦: 日向
山城
最上
加賀
夕立
如月
決戦支援艦隊
旗艦: 伊勢
金剛
摩耶
赤城
吹雪
綾波
そして、艦隊が出撃する際に、音楽がかけられた…のだが、その曲は、いつもの「軍艦行進曲」ではなかった。堺のリクエストにより、現代日本の海上自衛隊でもよく使われる、あの曲になっていたのである。
賢明な読者諸賢は、歌詞を見れば曲が何であるか、ご理解いただけるだろう。
♪戦いの場へ 旅路は遥か
♪命の糸が 張り詰めている
♪別れじゃないと 心で叫び
♪今むらさきの 闇路の中へ
…いや、これでは分かりづらいだろうか。では、こちらならどうだろう?
♪宇宙の彼方 イスカンダルへ
♪運命背負い 今飛び立つ
♪必ずここへ 帰ってくると
♪手を振る人に 笑顔で応え
ともあれ、こうして堺艦隊は出撃した。
「現在の位置は?」
「はっ、リランカ島の南方およそ20㎞というところであります」
旗艦日向の艦橋内、妖精化して日向に乗り込んだ堺は、日向の艦長を務める妖精と話していた。
「そうか。では、そろそろ作戦海域だな」
「はい、いよいよであります」
艦長がそう言った時だった。
ゴオオオオォォォ!
突然、砲声とも爆発音とも違う、なんともいえない重低音が辺りに響き渡った。それは、日向の足元のほうから聞こえてくる。
「「「しまった!」」」
堺以下艦橋妖精一同は、何が起きたかをすぐ悟った。
「「「うずしおだぁぁぁぁ!」」」
「機関全速!脱出しろ!」
「はい!前進一杯ヨーソロー!」
こんな中でも艦長は冷静だ、すぐに指示を飛ばす。航海長がそれに応え、全速で離脱にかかる。
堺が後ろを振り返ると、他の艦もうずしおに引っかかってしまい、なんとか脱出しようともがいていた。
結局、全艦がうずしおから抜け出すのには、20分ほどかかった。
「やれやれ…ひどい目にあったぜ。さ、先を急ぐぞ!攻略艦隊が到達する前に、敵艦隊を見つけださないといけないんだからな!」
『『『はい!』』』
通信で、堺は指示を飛ばす。
そして、敵艦隊がいるとされる地点へ向かったのだが…。
「…あれ?敵艦隊がいない?」
「て、提督!あれを!」
「!?」
戦術長に指さされ、堺が見たものは…海面に散らばる残骸と、大破して航行不能になったままほったらかしにされた、戦艦ル級の姿だった。
「しまった!俺たちがうずしおで足を掬われてる間に、本隊が先に行っちまったぞ!急げ、全速前進DA!」
何があったかを悟り、堺は慌てて号令する。
堺艦隊は直ちに針路を変え、速度を上げてアンズ環礁に近づいていった。
なお、動けなくなっていたル級には、当然のように夕立から酸素魚雷が撃ち込まれ、沈められた。いわゆる介錯というやつである。
「ようし、今度は本隊より先に来られたか!砲撃用意!」
2戦目は支援艦隊の到着のほうが早かった。すぐさま、堺艦隊は砲撃態勢を取る。
「てー!」
そして、本隊と対峙する敵道中艦隊に向けて、(主に戦艦の)主砲の一斉砲火を浴びせた。
堺が目に当てた双眼鏡の中で、水柱に囲まれる深海棲艦と、その中から火柱が立ち上るのが見える。
…やがて、砲火が収まってみると、敵艦隊の軽巡が1隻、猛火と黒煙を吹き上げて大破し、駆逐艦はいなくなっていた。
「ほう、これが支援砲撃というやつか。使えそうだな」
「はい、使える機会があれば使いたいところです」
艦娘たちの戦果を確認し、砲撃の戦果が誰のものか確認しながら、堺は日向の艦長と話していた。
遠方では、本隊が肉薄し、敵艦隊を蹴散らしている。やはり、取り巻きを減らしたことで敵大型艦への攻撃が通りやすくなっているようだ。
見ていると、本隊は最終的に何の損害も受けぬまま、敵艦隊を撃滅した。
未だ硝煙くすぶる中で、本隊の先頭を行く艦娘から発光信号が短く送られてくる。
「本隊旗艦より発光信号にて入電。『来援を謝す』です」
「いい仕事をしたってことだよ。さ、次行くぞ!」
結局、初戦こそうずしおのおかげで出遅れたものの、なんとか本隊に追いついた堺艦隊は、支援艦隊としての役割を存分に発揮した。挙げた戦果は、合計で駆逐艦級5隻轟沈、軽巡級1隻撃沈1隻大破、戦艦1隻撃沈、軽空母級1隻中破。なかなかのものといえるだろう。
「さーて、本隊は敵泊地に突入したみたいだし、仕事は終わった。長居は無用、引き上げるぞ!」
『『『はい!』』』
堺率いる道中支援艦隊は、意気揚々とタウイタウイ泊地へ帰還した。
道中支援艦隊が帰還してから1時間後、決戦支援艦隊も戻ってきた。
戻ってきたのだが…全員、なんともいえない微妙な表情をしている。まるで、思わぬ事態が発生して、それに困惑しているかのようだ。
「随分と微妙な顔してるじゃないか。何かあったか?まさか、砲弾外したなんて言わないよな?」
堺は、旗艦の伊勢に尋ねる。
「あー、うん。当てたよ?当てたんだけど、実は…」
「は!?」
アンズ環礁攻略艦隊からの報告を受けた藤原…彼は今、リランカ島の仮設司令部で指揮を取っている…は、艦隊からの報告を受けて絶句していた。
「支援艦隊の砲撃が全部敵旗艦・泊地水鬼を直撃して、そのまま撃沈しちまった、だとぉ!?」
こんな馬鹿げた話がまたとあるだろうか?
さんざん苦心して追い詰めた敵旗艦を、横から現れた支援艦隊にあっさり倒されるなんてことが?
「くそぉぉぉ!」
藤原は、悔し涙を流すのだった。
「な、なんというかそれは…」
同時刻、堺もまた絶句していた。
「本隊の連中には申し訳ないことになったな」
「いやー、張り切りすぎたよ」
苦笑する堺に、伊勢が頭をかきながら応じる。
「だがまあ、アンズ環礁は攻略できたし、いいじゃねえか、結果オーライだ」
「ありがとう、提督」
「命令も守ってくれたしな。そんじゃ、あと一押しと行こうか!ステビア海方面の支援も命じられるだろうし、頼むぞ、伊勢」
「任せてなさい、提督」
こうして、アンズ環礁攻略作戦は成功したのであった。
なお作戦終了後、堺は藤原から軽く恨まれることとなったが、別にどうということはないので割愛する。
………
その頃。
日本国・神奈川県横浜市。その一角の「国立科学研究所・動力機械研究部」にて。
「あとはここを締めれば……よし。部長!ついに完成しました!」
作業用の灰色のツナギを着て、手にドライバーを持った研究員が、部長を呼ぶ。
「おおっ!できたか!!…あとは、こいつのテストとお披露目だな!」
喜びと興奮を隠さぬ部長。
「かなりの時間と金がかかったが…ついに、ついに完成したのだな!」
「まぁ、まだ承認待ちですけどね」
対照的に、研究員は少し落ち着いているように見える。
「さあ、あとは…こいつが認められるかどうかだ!認められれば…ノーベル賞も夢ではないぞ!フフフ…」
部長の言うことも無理はなかった。
彼らが開発していたのは、新型の動力機械。
燃料は水素。なのだが、なんとこの機械、燃料となる水素を、「ある一定以上の濃度のイオンを含む水」があれば、それを電気分解その他の工程を加えることによって補充することが可能なのだ。
早い話が、海水さえあれば、いくらでも燃料となる水素を抽出し、補充し、使うことができるというトンデモナイ代物なのである。
「こいつは、果たして認めてもらえるでしょうか?」
「俺たちは人事を尽くしただろう?だったら、あとは運を天に任せるだけさ。心配すんな、きっと大丈夫だ」
もしこれが実用化されたら、どうなるだろうか?
航空機用のエンジンとなったならば、まず水上機の航続距離は事実上の無限大となる。1度に飛べる距離は限られるが、海上ならばわざわざ基地に帰らなくても燃料の補充ができる。
次に、航空機の燃料タンクはこの機械と、多少の海水タンクだけで済むから、その分空母の艦載機搭載量が増加するはずだ。他に、魚雷に使えば酸素魚雷以上の隠密性と雷速、威力を両立できるだろう。
(こいつが、戦局に風穴を開けるブレイクスルーになるといいが…!)
部長は、そう思わずにはいられなかった。
皆様、たいへんお久しぶりでございます。Red Octoberです。
今後の構想を考えたり、イベントやったりしてたら投稿が遅くなりました。たいへん申し訳ありません。
作中、支援艦隊を出撃させる時に流した曲ですが……書いていて疑問に思いました。
あの曲の2番までならともかく、3番や4番を知っている人、どれだけいるんだろう…?
うp主も初めて知った時はたいへん驚いたものであります。しかし、同時に即座に納得できるレベルの歌詞のカッコよさもありました。
なんであの歌詞、歌われないんだろう…相当カッコいいのに…
さて、今話の最後で登場した機械ですが…もちろん、元ネタがあります。わかる人はわかるかと思います。
こいつを出す以上、いつか後で必ずあの飛空機を登場させます。エンテ式+逆ガル翼+二重反転プロペラとかいう、未成に終わった日本機の特徴とロマンをかき集めたような、あの機体を…
読者の皆様は、イベントのほう如何でしょうか?
うp主はE6乙第二ゲージのラストです。ダイソン改固すぎワロタ…カットイン要員の無事を祈るだけのお祈りゲーじゃねえか!お祈りゲーなんて大ッ嫌いだ!バーカ!
次回の投稿はなるべく早めにしたいと思います。どうかよろしくお願いします!
p.s. 感想、評価、お気に入り登録よろしくお願いします!特に感想大募集中です。皆様から拙作がどう受け取られているか、気になりますので…