少女たちに提督やら司令やら呼ばれるという、妙な夢を見た堺修一は、日本国海上護衛軍・艦娘部隊に配属され、タウイタウイ泊地に送られる。慣れぬ仕事に戸惑い、泊地のド田舎ぶりに絶望しながらも、彼は艦娘たちを指揮し、泊地正面の海の平定を完了した。
ドォオオォォォンッ!
タウイタウイ泊地正面の海に、砲声が響いた。
敵襲…ではない。堺配下の艦娘たちが、新たな仲間と自分たちの練度向上のため、対抗演習「紅白戦」を行っていたのだ。
「ちっくしょー!負けたぁぁぁ!」
演習弾の黄色いペイントにまみれ、撃沈判定を喰らった紅軍の旗艦、重巡加古が地団駄を踏む。艤装のマストに揚げられた白旗が、海風に揺れていた。
一方、白軍はというと…
「わぁー…すごいです!あの距離で加古さんの装甲を抜くなんて…」
「あったり前だろ?」
吹雪の感嘆に言葉を返したのは、新たな艦娘の1人だった。
その子は、加古と同じくへそ出しセーラー服というスタイルだが、加古が青襟に白地のセーラー服なのに対し、この子は逆に、白の襟に青地の服だった。その下に、白のスカートを履いている…が、やはり丈が短い。加古も霞むレベルでよくしまった太ももが眩しく見える。そして、加古とは対称的に、セーラー服の胸のところには、巨大な膨らみが2つあった。とあるちょび髭の男言うところの「おっぱいぷるーんぷるん!」である。
両腕に1基ずつ連装主砲を持ち、頭部のあちこちからアンテナを兼ねたカチューシャが多数突き出ている。
高雄型重巡洋艦3番艦・摩耶。それが彼女の名である。
泊地南西方面海域の平定の記念として、提督が建造を行ったところ、着任したのだった。そして今、彼女は白軍の旗艦である。
「摩耶さんもだけど…綾波ちゃんも凄いよ、摩耶さんに続いて突っ込んでいって…」
「綾波は、大して何もしてないですよ?」
吹雪に「綾波」と呼ばれたのは、敷波と似た格好をした、茶髪のサイドテールが印象的な少女だった。
彼女はおっとりした性格である…のだが、戦闘になった途端、人が変わる。さっきの演習だって、ここに配属されている艦娘の中では血の気の多い摩耶に続いて、砲弾飛び交う中を紅軍に正面から突っ込み、子日に至近で魚雷を発射、撃沈判定をもぎ取っているのだ。
ふだん大人しい子ほどケンカになると怖い、とはこういうことを言うのだろうか。
「くそぅ…あたしの方が先輩だってのに…!摩耶!もう1回やるよ!」
「やるのかぃ?よーし、もう一暴れするぜ!」
加古と摩耶はがぜんやる気だ。
加古は子日・敷波・如月・潮を、摩耶は綾波・吹雪・白雪を率い、一直線にぶつかっていく。
「加古スペシャルを食らいやがれ!」
「摩耶様の攻撃、食らえーっ!」
加古と、摩耶。重巡2人が、正面きって激突した。
「いやー、すごいなぁ摩耶は」
その様子を、提督である堺は埠頭に立ち、双眼鏡で眺めながら一人つぶやいた。
「まだ着任したばかりだってのに、結構な距離からの砲撃で加古の撃沈判定を取るとはな…。こりゃ頼りになりそうな子だ」
実際、摩耶は自分のことを「摩耶様」と言い、なんだか偉そうな口のきき方をしているし、若干口の悪い所もある。
だが、的確なタイミングで攻撃し、的確にダメージを与えている。積極的に突撃する攻撃パターンも相まって、摩耶ならやってくれそうだ、という感じが半端ないのである。
(ところで、摩耶は重巡洋艦だから、当然駆逐艦より火力高いよな…。そしてその摩耶が、これだけの成績を出している。ということは、火力の高いやつ揃えたらいけるんじゃねえか?)
演習風景を眺めていた堺は、ふと以上のような考えを抱いた。
これはいわゆる「大艦火力主義」というやつである。強力な打撃力を持った艦で隊を組めばイケる、というもので、初心者が陥りやすい考え方の1つだ。目に見えて派手な戦果があがるので、そう思えるのも仕方ないのだが。
…結局、2回目の激突の結果は、「紅軍全滅」という判定結果に終わった。摩耶の的確な砲撃と、綾波の突貫しての砲雷撃により紅軍の陣形が崩され、各個撃破されたのである。
………
「演習が終わったぜー」
勝利の余韻から、意気揚々と帰還する摩耶。
「くっそぉ…次はこうはいかせないから…!」
悔しさをにじませる加古。
「おう、戻ったか。ところで…補給が済んだら、すぐ集合してくれないか?出撃任務があるんだ」
「えー、マジ?ちょっと寝たかったんだけどぉ…」
「よーし!この摩耶様に任せとけってんだ!」
対称的な答えを返す2人。
「加古、悪いがお前さんにも出てもらわなきゃ厳しそうだ」
「えー…わかったよ…」
………
「さて、君たちを呼んだのは、他でもない…」
艦隊司令部にて、堺が説明を行っていた。堺の前には、6人の艦娘が並んでいる。摩耶、加古、吹雪、子日、白雪、綾波の6隻だ。
「大本営からの要請だ。この泊地の南を航行する資源輸送船団の安全のため、深海棲艦の掃討を行ってほしい」
「よーし!アタシたちの出番だね!」
「この辺りに出る深海棲艦についてだが…重巡クラスがいるらしい。それと、未確認ながら大型のヤツがいたとの報告もある。気を付けてくれ」
「重巡か…めんどくさいなぁ…眠い…」
「任務成功して帰ってきたら、存分に寝ていいよ」
…かくして、堺の艦隊は出撃した。が…
「だぁっ、またか!」
摩耶の艦橋内で頭を抱える堺。また羅針盤が狂ったのである。
「羅針盤が狂う」とは、羅針盤が行きたいポイント(例えば潰したい敵艦隊がいる所)とは違う方向をさし、そこに行けなくなってしまう現象を言う、提督や艦娘の間で使われる用語の1つである。
この羅針盤の狂いがかれこれ6回も起きており、堺の艦隊はまだ一度として敵主力と会敵できていない。
「しょうがない…帰還しよう」
「おぅ、わかったぜ」
摩耶たちに帰還指令を出し、上手くいかない状況に歯ぎしりをする堺であった。
だが、念願叶って、7回目でついにこれまで行ったことのないポイント…妖精たちによれば、そこに敵主力がいるとされる…へと向かうことができた。
「…日が落ちてきたな」
摩耶の艦橋で、堺はひとりごちる。既に空は西側がオレンジ色に染まっており、もう2時間もすれば夜になるだろう。
「ここまできても何もいねえし…大丈夫じゃねえか?」
摩耶がそういった時だった。
どこからか、ヒュルルルル…という風切り音が響いてきたのだ。
「「砲撃…!」」
堺と摩耶がその音の正体に気付いた直後、
ズドォォォォォォォォン!!
腹の底に響く爆発音。
そして、艦隊の前方10メートルほどの海面に、水柱が立ち上った。その高さは、8インチ砲のそれより遥かに高く、摩耶たちの背丈よりも高かった。
水柱といい音といい、これまで見てきた、重巡リ級の8インチ砲弾の砲撃とは桁違いの力を感じさせる。
直後、加古からの通信。
『あたしの偵察機が敵を発見したよ!10時方向、距離2000、速度18ノット、複縦陣で北上、接近中。詳細不明だけど、軽巡級2、駆逐級2。それと、艦隊中央にデカイのがいる、戦艦ル級1!』
「なんてこった!戦艦か!」
堺は愕然とした。報告にあった、未確認のデカイやつというのは、ル級のことだろう。
こっちは重巡2に駆逐艦4(摩耶、加古、吹雪、綾波、敷波、子日)、戦艦に対抗できる火力を持った子はいない。水雷戦隊はどうにかなるだろうが、戦艦はどうしようもない。
…戦艦を倒すには、雷撃しかないか。
「さっきの砲撃は戦艦だよな?主砲の口径は?」
「おそらく、16インチかと!」
堺の質問に答えたのは、観測長だった。
(16インチ…うちの重巡の砲の2倍かよ、当たったらオシマイじゃねぇか!)
心の中で罵りつつ、堺は命令を下す。
「仕方ない…砲雷撃戦用意!」
「全艦戦闘配備!」
即座に艦長が、戦闘配置を命じた。
艦内に、警報ブザーが鳴り響く。
「第4戦速!」
「了解!」
航海長に増速を命じ、堺は観測長に問う。
「こっちの艦隊は単縦陣だから…もう少し接近するか。距離は?」
「距離1500!」
答えを得た堺は、指示を飛ばした。
「全艦に通達!撃ち方準備、弾種徹甲弾!射撃方位3時方向!」
「承知しました!」
「提督、お前何する気だ!?」
摩耶の質問に答える暇もなく、堺は次の指示を出す。
「魚雷発射管も右に指向しろ!」
「御意」
水雷長が仕事にかかったのを見て、堺はもう1度、観測長に敵の位置を訊いた。
「敵の方位と距離は!?」
「10時方向、距離1000!敵戦艦発砲!」
「ここだ!艦隊、取り舵いっぱい!」
「取ーりかーじ、いっぱーい!」
読者の皆様、堺が何をしようとしているか、お分かりいただけますでしょうか?
「衝撃に備え!」
艦長の指示が飛んだ直後。
ヒュルル…と風切り音が響き、ドガァァァン!!という爆発音がした。爆発音ということは、まさか…
『そんなっ!駄目ですぅ!』
やはり、被弾した艦が出てしまったのだ。
「吹雪、敵16インチ砲直撃!大破です!」
「くそっ、やってくれる!」
堺は舌打ちした。
「距離800!敵軽巡級動かず!」
その舌打ちに、観測長の報告が重なる。
陣形…
堺艦隊→摩耶、加古、吹雪、綾波、敷波、子日の順で単縦陣
敵艦隊→複縦陣、先列は右軽巡ヘ級 左雷巡チ級、次列は右戦艦ル級 左駆逐イ級、後列左が駆逐イ級
右T字戦(堺艦隊有利)!
…そう、先ほどの質問の答えは、「敵前大回頭」である。もしくは、「東郷ターン」。
「撃ち方始め!」
「てぇー!!」
堺の号令。それと同時に、各艦の艦長が発砲を命じた。
全艦が一斉に砲撃を放つ。そして…
ヒュルルル…ドカァン!ズシーン!
「やりました!加古の砲撃が雷巡に命中、敵雷巡轟沈!」
「続いて、本艦の砲撃は敵軽巡に命中、大破させた模様!」
「駆逐隊の砲撃は至近弾多し、命中あるも
観測長が、矢継ぎ早に報告を入れた。
「魚雷発射!」
「テェー!」
距離が十分近くなったのを受け、堺は魚雷発射を命ずる。
吹雪以外の全艦が、一斉に魚雷を発射した。水面下に飛び込んだ必殺の魚雷が、敵艦を狙う。
「発射数は?」
「本艦と加古が8、駆逐隊は…合わせて24本、合計40本です!」
堺に尋ねられた「摩耶」の水雷長が、そう答えた直後、
ズズーン!グワァァァァン!
艦橋の外から、爆発音が響いてきた。
「魚雷命中多数!水柱のため観測不能!」
観測長が叫んだその時、水柱の向こうから、巨大な砲声が轟いた。戦艦の砲撃だ。
「敵戦艦発砲!」
「衝撃に備え!」
艦長のとっさの命令で、全員が対ショック体勢をとる。
次の瞬間、これまで堺の経験したことのない振動が摩耶を揺さぶった。艦底からくる、突き上げるような衝撃に足を取られ、堺は転倒する。艦橋からみて右と左に水柱が立ち、凄まじい爆発音で耳がつぶれそうだ。
「16インチ砲です、夾叉されました!それと至近弾1!」
「んだよぉ!」
今の一撃で、摩耶は至近弾の破片を受け、小破した。
摩耶の練度不足もあるだろうが、それでもル級の砲弾は、確かに重巡の装甲を撃ち抜いたのである。恐るべし16インチ砲。
「雷撃の結果を報告!敵軽巡ヘ級撃沈!敵駆逐艦は所在不明。戦艦は…未だ健在です!」
「あれだけやっといて、小破もしてないのか…!」
観測長からの報告に、堺は愕然とした。
戦艦ル級は、若干傾いているように見え、幾つもの駆逐艦の主砲の徹甲弾が当たったことで、小さな丸い傷を複数、その身につけていた。だが、それ以上の外見的変化はない。砲もまだ健在のようだ。
「! 戦艦の後方に、敵駆逐イ級1!魚雷発射態勢…目標は恐らく本艦!」
「ちっ、生きていたか…」
さらに、敵駆逐艦がまだ生きていたとの報告が入る。
堺が舌打ちをした、その時。
『綾波が、守ります!』
通信機に、綾波の声が飛び込んだ。
「あっ、おい!」
堺の制止を置き去りにして、綾波はなんと、艦列を離れて、敵艦隊に向け単艦で突撃していったのだ。それも、30ノット以上出している。止める暇もありゃしない。
ル級の副砲が次々と火を吹く。が、派手な水柱が上がるばかりで、綾波にはかすりもしない。
イ級めがけ、突進する綾波。イ級は慌ててかわそうとしたが、間に合わない。
「よく狙って…てぇーい!」
綾波はイ級に主砲を発射。と同時に、どこに隠していたのか魚雷3本をばら蒔いた。イ級は回避もままならず、主砲弾と魚雷をほぼ同時に浴び、爆発して沈んでいく。
(…綾波のやつ、どれだけ命知らずなんだよ…。見てるこっちの寿命が縮むよ…)
堺が考えていた時。
「綾波すげーな!水雷戦ってのはこうでなきゃな!」
摩耶が、綾波を称賛するのが聞こえた。
(摩耶、お前もか。勘弁してくれ…)
堺の胃が痛くなりかけたところに、綾波が戻ってくる。
『綾波戻りました。敵駆逐についてですが、もう1隻いたはずですが、見当たりません。海面に油が浮いているので、沈んだかなと思います』
「わかった。それと、あまり無茶しなさんなよ」
半ばあきれつつ、堺が綾波に注意した時、
「敵戦艦、撤退していきます!追撃しますか?」
観測長から報告が入った。
「何だと?…いや、やめとこう。主力艦隊を撃退できたんだ、これでいいでしょう!全艦反転!泊地へ帰投せよ!」
『了解!』
…こうして、堺艦隊の出撃は、終了した。
戦闘における被害
堺艦隊→吹雪大破、摩耶小破、子日
敵艦隊→戦艦ル級
結果:A勝利
MVP:綾波
帰投する摩耶の中で、堺は1人考えていた。
(やっぱ火力こそ正義だな!資源貯めたら、次は戦艦狙ってみるか!)
如何でしょうか?
戦闘シーン、やっぱり会話が多くなるな…しょうがないかな、提督が旗艦の艦橋に妖精化して乗り込んで指揮してるって設定だし…
主人公≒うp主 の通り、私は加古に続いて摩耶を手に入れております。軽巡がなかなか手に入らなかったのです…
そして、もちろん大艦火力主義にばっちり引っ掛かりました。このせいで、十一号作戦はE1丙すら突破できなかった…今となっては一つの思い出です。
ついでに、1-3ボス旗艦のル級も、当時は沈められませんでした。あんな固くて強いヤツをどうやって倒すんだ?と思ってましたが…今や水雷戦隊で昼間のうちに沈めるようになってしまった、時代が変わったのですね。
独り言が多くなってしまいました。すみません。
それでは次回もよろしくお願いいたします!