とある提督の追憶   作:Red October

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…ここまでのあらすじ…

堺修一は教育隊卒業の夜に、少女たちから司令やら提督やら呼ばれる夢を見て、日本国海上護衛軍・艦娘部隊に配属され、タウイタウイ泊地の提督となる。彼は主力の艦娘たち全てを率いて泊地南方の航路を守るべく出撃するも、戦艦ル級を仕留め損なうのだった。


007 提督、洗礼を受ける

「ふぃーっ、やっと終わった…」

 

 プレハブの艦隊司令部に、堺の疲れた声が響いた。

 

「お茶にいたしましょうか?」

 

 今日の秘書艦・綾波が尋ねる。

 

「おぅ、頼むよ。いやぁ、やっぱ書類仕事は肩が凝る…」

「何じゃ提督よ、書類仕事は苦手なのか?」

 

 いかにプレハブの司令部といえど、多少の彩りくらいはあってもいいだろう。幸い、前にここにいた提督たちが遺した家具類があったため、堺はありがたく使わせてもらっている。

 現在の堺の提督室には、緑色のソファーと質素な執務机、そして布団と枕がある。机から立ち上がり、肩を回す堺に、ソファーに寝そべっていた艦娘が尋ねた。

 利根型重巡洋艦の1番艦(ネームシップ)、利根である。加古や摩耶同様、建造により着任した艦娘だった。長いツインテールと主砲を集中的に配備した艤装、古風なしゃべり方が特徴である。

 

「ああ、俺は体を動かすほうが性に合ってるんだよ」

「なら、運動でもするがよかろう?留守は我輩が預かるぞ」

「おお、そうか。んじゃ、茶を飲んだらひと運動してこようかな」

 

 と、この時、執務室の戸がガラガラと開けられた。

 

「練習航海が終わりました…」

「ん、そうか。お疲れ様」

 

 入ってきたのは、長良型3番艦・軽巡名取。堺の元に初めて着任した軽巡だ。

 余談ながら、堺の配下に入った巡洋艦は、摩耶、利根、名取と続けて、某ちょび髭の男言うところの「おっぱいぷるーんぷるん!」な子ばかりである。巡洋艦の子はみんなデカいのか?等と疑問に思う堺である。

 それだけならいいが、堺は…一言で言うと「女性慣れしていない」人である。そのため、こんな大奥みたいな場所では、どうにもなんとなく落ち着かない。

 

「じゃあ、私はこれで…」

「はい、了解」

 

 そのまま提督室から退出し、自室に戻ろうとする名取だったが…提督室を出た所で、災難が待ち構えていた。

 

「よっ、名取!いいところに!演習行こうぜ!ちょうど加古にリターンマッチ挑まれてさ、メンバーが足りなくて困ってたんだよ~」

 

 演習に行こうとしていた、堺艦隊の武闘派筆頭、摩耶に捕まったのである。

 

「ふえっ!?ま、摩耶さん!?私、今練習航海終わったところで…」

「つべこべ言わずに、付き合ってくれよー。ほら、お前らも行くぜ!」

 

 摩耶が声をかけた先には、新たに着任した駆逐艦の艦娘が2人。

 1人は、服装が吹雪や綾波と似ているが、艤装は大幅に異なっている。手に魚雷を1本抱えていた。

 もう1人は、これまでと違う、黒を基調としたセーラー服。クリーム色の長髪の下には、端正整った顔立ちがあった。緑色の瞳が印象的である。

 ちなみに2人とも、名取と共に練習航海をしていた子たちである。

 

「はわわわ、摩耶さん、かなり強引なのです…」

「今に始まったことじゃないっぽいから、しょうがないっぽい」

 

 駆逐艦・電と夕立である。練習航海から帰投したばかりの3人は、そのまま摩耶に引っ張られ、ひと演習させられることとなってしまった。

 

………

 

「演習が終わったぜー。さて、補給して来るか!」

 

 30分後、提督が運動から戻ったと同じタイミングで摩耶たちが帰投した。摩耶がやたら上機嫌なのを見ると、どうやらまた勝ったらしい。

 

「艦隊が戻ってきたっぽい」

「お疲れ様、夕立、電。演習はどうだった?」

「はわわ…摩耶さんも夕立ちゃんも、全速で相手に突っ込んでいくから、ついていくのも大変だったのです」

「楽しかったっぽい。夕立は、突撃して悪夢を見せるっぽい!」

「そうか、大変だったな」

 

 と、その瞬間だった。

 プーッという、長いサイレンが鳴り渡ったのだ。

 

「どうした!」

「提督、対空電探に感ありです!深海棲艦の艦載機が編隊を組んで接近中!数、約40!」

「空襲か!」

 

 大淀の通信に堺がそう怒鳴った時、提督室の戸が開いて、摩耶が飛び込んできた。

 

「提督!空襲警報を聞いたぜ!」

「ああ、どうやら敵の空母がいるらしい。探し出して潰したいが、今は敵機の迎撃が先だな」

「対空戦かい?よーし、アタシの後ろに隠れてな!」

「摩耶お前、対空戦闘できるのか?」

「得意分野だぜ!アタシに任せとけってんだ!」

「ようし、摩耶!加古・利根・白雪・敷波・潮を率いて泊地正面に出撃!敵機を捕捉し、これを撃墜せよ!」

「おう、行くぜ!抜錨だ!」

 

 摩耶たちの出撃を提督室から確認した直後。

 

「提督、早く防空壕へ!」

「おう、わかった!」

 

 大淀に呼ばれ、俺は提督室を飛び出した。

 後ろ手に、提督室の戸を閉める。その途端、爆発音が響いた。見ると、近くにあった竪穴式住居が崩れ、炎に包まれている。

 ダダダダッという機銃音と共に、地面が抉られ、土くれや何かの破片が飛び散る。

 

 空を見上げれば、ハチ類とハエ類の羽音を混ぜ合わせたような、耳障りな音を立てて、一種の甲殻類を思わせる、黒い異形の機体が飛ぶ。

 それらをめがけて、高射砲弾の爆発が空を黒く染め、対空機銃の曳光弾が空に昇っていく。

 それらに背を向け、堺は大急ぎでコンクリート製のトーチカ、そしてその地下に広がる防空壕にかけ込んでいった。

 

………

 

 1時間もすると、爆発音も砲声も聞こえなくなり、堺は大淀と共に防空壕から出てきた。

 周囲は惨憺たることになっていた。竪穴式住居はほぼ全部が消失し、司令部、及び新たな艦娘の寮として建てていたプレハブは半ば崩壊していた。だが、港やドックの被害は、摩耶たちの対空迎撃のおかげで抑えられたようだ。

 

「提督、無事だったかー?」

 

 対空射撃で煤けた顔の摩耶が尋ねる。

 

「ああ、大丈夫だよ。みんなは?」

「白雪が爆撃で大破しちまったよ。潮も中破したな。それ以外は大丈夫だぜ」

「そうか。しかし、建物は相当やられたな…。建て直さないと」

「まあ、取り壊す手間が省けたんじゃねえか?」

「はは、それもそうだな」

 

 妖精たちに指示を出し、再建のための資材の注文書を書きながら、提督は半壊した提督室で1人呟いた。

 

「我が艦隊にも空母が要るな、こりゃ…」




如何でしたか?

本来、拠点へのダイレクトアタックは艦これではありません。が、拙作においては艦これ改の要素を取り入れてみました。
基地航空隊による空襲があるので、それぐらいはあるかな、と。

余談ながら、駆け出しのころ、1-3は羅針盤に振り回されました…。そして今も振り回されています…

それでは、次回もよろしくお願いします!

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