Skull   作:つな*

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俺は焦った。


skullの焦燥

「スカルさん、スーツ出来ました‼」

 

そう言ったモブ子を殴りたくなった俺氏。

出来てしまったのだ…身体強化レーシングスーツが。

一週間で出来る予定が思ったよりも伸びていたことに希望を乗せていたところ、見事に挫かれた俺は、日本支部の同僚にビッ〇ライトを浴びせられた後、大人用のレーシングスーツを渡された。

レーシングスーツをよく見れば、所々金属反射のような光が見える。

太陽に(かざ)せば、まるで神経のように端から端まで伸びていて、正直キモかった。

モブ子曰く、スーツの裏地に埋めているナノマシンが肌から侵入し、直接神経へと繋がるらしい。

何それ怖い。

操作は慣れですよ、と言ったモブ子を日本海に沈めたい。

首にスイッチがあって、それでオンオフが出来ると言っていた。

まぁちょっと使って直ぐに返却すればいいかな。

オンにしてみたら全身くすぐったかったが、数秒経てば収まり、正常に機能しているのかが分からなかった。

っていうかスーツだけで何をしろと…そんなこと思ってた時期が俺にもありました。

用意されてたんです、バイクが。

乗ってみろってか。

俺が赤ちゃんになってしまってから数十年経っているが、あの頃よりもさらに技術発達したバイクはそれはそれは想像以上だった。

まず壁を走れる時点で興奮しなかったといえば嘘だが、それ以上に壁を走る機会があるのかが疑問だ。

あんまりにもバイクを興味津々に覗いていたもんだから、モブ子のスーツへの操作解説をほぼ聞いていなかった。

バイクの説明書はないのだろうかと思っていたら、ナビが内蔵されているらしい。

やべぇ、このバイクやべぇ。

試しに乗ってみれば、『エンジン起動、エネルギー出力0%』と音声ナビが流れた時は興奮し過ぎて鼻血出た。

早速乗り回そうとしたら日本支部の同僚に新しいヘルメットを渡された。

弾丸さえ弾くほどの頑丈なヘルメットをしなければ、転倒した時に頭蓋骨複雑骨折になりかねないらしい。

そこまで速度が出るバイクは法律的にアウトじゃないんだろうかという疑問もあったが、俺が数十年前に乗ってたバイクも数百㎞も出る改造バイクだったので何も言えなかった。

頑丈さを追求し過ぎてその他の機能があまりないらしいこのヘルメットだが、頭を保護する以外に必要な機能なんてヘルメットにあっただろうか。

音声が明瞭に聞こえるようにとイヤホンを内蔵されてる他、ズーム機能まで付けたと言っている同僚に、現在の技術が半端ないことだけは分かった。

今してるヘルメットを外そうとしたら焦ったように制止され、同僚達はそそくさと部屋を出る。

どうぞ!ヘルメット交換お願いします、とドア越しに言われたけど何故なのか。

俺の顔がそこまで見たくないのかと地味に傷付いた。

ヘルメットを被った俺は、音声ナビを待つ。

 

『シフトペダルを踏み、アクセルを開けて下さい』

 

あー、基本操作までナビがあるのか。

これは要らないかな…どうやって切るんだろう。

あ、あった…けどまだ初回だし。あとで音声案内切ればいいか。

徐々に速度を出しながら法定速度で並盛町を回り始める。

大きくなった身体での運転はひやひやするものがあったけれど、小さい身体でも乗ってたのでなんの問題もなく進んだ。

正直赤ちゃんの頃となんら変わらぬドライブに、やっぱり赤ちゃんのままでよかったなと再確認する。

そういえばこれ、どれくらい速度出るんだろうか。

昔俺が改造してたバイクは200㎞以上出していたが、科学技術が進歩した今の時代では一体どれほど出るのか。

赤ちゃんの腕力じゃ精々100㎞が限界で、100㎞超えるとなればポルポに跨ってる時ぐらいだった。

ギアを上げようとしてふと気付く。

ギアの隣にある「超加速」という文字の入ったボタンだ。

 

……………ポチ

 

『超加速モードへ移行します、エネルギー出力110%』

 

!?

急に大きな音と共に熱気のようなものがバイクの後ろから噴き出したのが分かった。

 

『障害物を感知しました、オートモードへ移行しますか』

 

あれ、やばい、ミスったかもしれない。

一旦エンジン止めようと思うが時すでに遅し。

 

「!?」

 

ぐん、と速度が一気に30㎞ほど上がったのか体に掛かる圧力が増し、速度メーターを見ればそこには100㎞と表示されている。

だがメーターは止まることを知らず、段々と上がり、それに比例して俺は焦り出す。

アクセルを戻そうとすれば音声案内で「ギアを通常モードへ移行して下さい」が聞こえ、通常モードへの戻し方を模索する。

だがどこにそれがあるのか分からず再び「超加速」を押せば戻るのだろうか?と考えボタンを押す。

 

『超加速モード及び垂直走行モードに移ります』

 

あるぇ?ミスった。

既に速度は160㎞、街中で走るにはぶっ飛びすぎている速度だ。

あわばばばばばば

久々…というよりも何十年ぶりかの100㎞超えに余裕のない俺は、取り合えず障害物に当たらぬよう細心の注意を払う。

ととと取り合えず市街地から離れないとヤバイ。

速度が200㎞を超えた辺りで、既に車やら人やらを避けるのが難しくなってくる。

…そういえばコイツさっき垂直走行モード…って言ってたよな。

ってことは壁走れるってことか?

道路で走ることが難しくなってきた俺はイチかバチかで直ぐ横にあるビルへと方向転換する。

これぶつかったらどうしよう、怖気づいて道路に戻ろうとすれば音声案内が流れた。

 

『正面に障害物を感知、回避します』

 

ん?

次の瞬間、バイクがビルの壁に並行に方向転換し登り始めた。

おお、おおおお…

あまりにも非現実的な光景に反応が遅くなるが、我に返って次の進路を探り始める。

いくつか建物の壁を跨いでいると、それはいきなりだった。

 

「!」

 

目の前に黒い布のようなものが現れ、回避のしようもなかった俺はそれを思い切り轢いてしまった。

次に衝撃がこの身に襲い掛かり、俺はハンドルを手離してしまい、バイクから放り出される。

うん十mもの高さから街並みを目にした。

 

 

 

あ、やば―――――――

 

い、と文字が頭の中を過ぎったその瞬間、視界一面に広がる白に目を見開いた。

白い……布…?

 

 

 

だが俺の思考とは別に本能が生に縋ったのか、俺の腕はその白へと伸ばされる。

 

 

ふわり

 

腕の中に納まる白は柔らかく

 

でもどこか重く

 

まるで生命を抱いているかのようで

 

 

 

 

『ハンドル、操縦者共に感知不能、オートドライブモードに移行します』

 

 

そして耳に届く機械的な声に我に返った。

状況が分からず腕の中にある温度を強く握りしめる。

 

『ペアリング機器の位置情報検索中、追跡します』

 

ふと音声のする方へと視線を向ければ、落下中の真下にさきほど乗っていたバイクがまるで「待ってたぜあんちゃん、はやく乗りな」と言っているように佇んでいた。

幸い俺の今の体勢は、足が地面へと向かっている。

左腕の中にある何かを取り落とさぬよう、左半身に重心を落とし、右足からバイクのペダルへと着地する。

重い音と共に足の痺れを感じ、右へと傾くバイクのハンドルを握りながら、左へと体重をかける。

重心を整える微細な作業に集中しつつ、バランスが取れたところで周りを見回そうとした。

先ほどの黒い布のようなものはなんだったのか。

バイクから放り出される程の衝撃があったのだからきっと質量の大きい何かだったに違いない、人でないことを祈りながら後ろを振り向こうとした瞬間、再びあの機械的な声が耳に入る。

 

『ハンドル、操縦者共に感知、マニュアルモードに移行します』

 

その前にこのバイクをどうにか止めねば。

街中を抜けて人気のあまりない道に入り、少し余裕が出来たところでボタンを探り出す。

ふと脇に抱えてる白い何かの存在を思い出し、横目でちらりと見た時だった。

 

「んん…………」

「!?」

「……んーっ」

 

声!?

子供特有の高い声が聞こえ、俺は今まで以上に困惑した。

ちょっと待て、あれ人間だったのか!?

いやでも確かにあの感触は今思い出せば、人の身体みたいだったけど。

脇に抱えていた白い何かはもぞもぞと動き出し、腕の中からスポンと抜けるような音と共に白くて楕円形のクッションが出てきた。

何だこれ。

そう思わずには言られなかったが、その白いクッションがぐるりと回り、二つの瞳とかち合った。

青いような緑のような澄み切った瞳、左目の下にあるオレンジ色の花型の痣…それらはすべてとある人物を彷彿(ほうふつ)させた。

有り得ない、と俺の思考は固まる。

 

「あ、あの………あなたは一体…?」

 

困惑、といった顔している少女の顔があまりにもあの人に似ていた。

周りの音が遠くに感じて、ハンドルを握る感覚がないような気さえした。

 

ドン、と後ろの方で大きな音が聞こえ、我に返った俺は後ろを振り向く。

次にスーツから守られていない、露出した僅か数㎜の首元に熱風を感じる。

何かが爆発したのだといち早く理解すれば、上空に飛んでいるハエのようなものが段々と遠ざかっていくことに気付いた。

それはハエではなく、人のような気がするが如何せん遠すぎる上に空飛ぶ人間は見たことがないので、その選択肢は排除する。

直ぐ隣で息を飲む声が聞こえれば、少女が爆発に怯えているような表情をしていた。

いや、掴んでいた腕の力が強まったから、多分怯えてるんだと思う。

……にしてもさっきの爆発は一体何だったのか。

爆発は一回きりでそれ以降何もない。

 

『エネルギー出力150%、前方にカーブが続きます』

 

音声ナビの言葉で前を見れば、段々と森に近付いているようで、道が急カーブを描いている。

慌ててハンドルを右へときり、あなたは誰ですか、という質問を投げかける少女を他所に速度を落とすボタンを模索する。

このままでは俺はロリ誘拐罪でしょっ引かれる。

俺は断じてロリコンではない。

直ぐにバイク停めて、この少女をさっきの場所に返してこないと……

数分の奮闘の末、漸く速度を落とすボタンを見つけた俺は、すっかり森の中へ入っていることに気付く。

いきなり誘拐されたうえに、森の中……アカン、これはギルティ。

前科者になりたくなんですけど、マジでこの子はよ返さねば。

バイクを森の中で止めれば、少女を下ろした。

少女は目をパチクリさせながら俺の方を向いて、周りを見ては再び俺を見る。

 

「あ、あの……ここアジトの近く…ですよね…」

 

アジト?ああ、子供の頃秘密基地作って遊ぶようなあれか。

 

「えっと、多分、ここから行けると思うんですけど……あなたは一体…!」

 

何かを言いかけて目を見開いた少女に、あ、誘拐されたと思われてる、と俺は絶望した。

ここで泣き叫ばれても森の中だし、誰も人が来ないのはある意味救いかもしれない。

 

「紫のおしゃぶり………あなた、もしかして……スカル…ですか?」

 

アウトー!

名前バレちゃったよ!何で!?

紫のおしゃぶりって…え、これ、いや確かに取り外せないけど……何でこの子がこのおしゃぶりのこと知ってんの!?

いや、ちょっと待て、クールになれ俺。

この少女はルーチェ先生に似てるっていうか本人って言われたら納得するレベルでそっくりさんだ。

普通ならルーチェ先生の孫とか、まぁ血縁者だと分かるけど、問題は少女の胸にあるオレンジ色のおしゃぶりだ。

俺のおしゃぶりは絶対に取れない、だからルーチェ先生のおしゃぶりも絶対に取れないハズだ。

でもっておしゃぶり持ってる奴等って呪い貰ったからであって、全員小さくなってるハズで……でもルーチェ先生は大人のままで……今目の前にいる少女は俺の名前を知っていて、ルーチェ先生のミニチュア版みたいな感じで………あれ?やっぱこの少女ルーチェ先生の本人じゃね?ってなる俺はおかしくないと思います!

だけどリボーンの言葉が本当ならあの人死んでるよな。

でもリボーンの証言だし……出鱈目だった可能性もなくはない、よなぁ…

いやもうこの際、本人に直接聞いた方が早いよ、うん。

 

 

「ルーチェ………」

「え…」

「ルーチェ…なのか……」

 

少女は目を丸くする。

 

「私はユニ、ルーチェは私の祖母です……やはりあなたは最後のアルコバレーノ…スカルなんですね」

 

そ、祖母!?

待て待て、ってこたあやっぱこの子ルーチェの孫かよ。

本気で本人だと思ってた、うわ、恥ずかしい。

ああ、そんな澄んでる瞳で俺を見ないで、恥ずか死ぬ。

 

「あなたのことは母から、少しだけ聞いていました…」

 

少女の言葉に、孫の母親…ってことはルーチェの娘?

ああ、確か…いたな、名前なんだっけ、えーと……

 

「10年前、母が他界する少し前に…あなたの名前を呟いていました」

 

そうだ、アリアだ……って、え?

たかい……他界……え、死んだの?ルーチェの娘死んだん?

アリアってあいつだよね、初対面にずけずけと俺のヘルメットぶんどった女の子だよね。

10年前っつったらまだ20代か……ルーチェもそうだけど、何でそんな短命なの。

父子家庭とか…年頃の娘には辛いな。

 

「母はあなたのことを――――」

 

少女がそこまで呟くと、遠くの方から声が聞こえた。

ユニ、と複数人がこの子の名前を呼ぶ声に、俺は焦り出した。

この場面を見られたら確実にしょっ引かれる。

ユニが沢田さん…って呟いてたから知り合いだろ、なら俺はこの子をここに放置してこの場から離れても大丈夫だよな!?

ってなわけでアデュー!

俺はバイクのエンジンを入れ、音声案内を聞きながら発進させようとした。

 

「あ、あの!」

 

ユニが慌てて俺の腕を掴むもんだから、発進する寸での所で止める。

 

「あなたに会えて良かったです!」

 

ユニは今世の別れのような表情で、そう言い放ち俺の腕を放した。

でも、多分もう会わないんだろうな…

俺なんて会社と家行き来するだけの人生ですし。

彼女からしたら俺は誘拐犯で、祖母と母親の知り合いなのか、なんて複雑なんだおい。

最後にとユニの頭を撫でようとしたけれど、遠くからの近づいてくる声に手を引っ込めて、バイクを走らせた。

 

「生きろよ」

 

去り際に呟いた俺の声が、エンジン音でユニという少女に聞こえていないのは百も承知だった。

短命であった祖母と母を持つ彼女だったからか、なんかすっげー早死にしそうな気がする。

ただの気のせいであればいいんだけど。

ああ、なんかフラグ立てた気が……

にしてもルーチェ一族の遺伝子やべえな。

帰りは絶対に超加速のボタンを押さないように、慎重に帰った。

途中で迷子になりかけたがナビが助けてくれた。

 

「ナノマシーン内臓のスーツの具合はどうでしたか?」

 

会社に戻ってから直ぐのモブ子の言葉で、そういえば…と思い返してみた。

使った自覚がないので何とも言えなかった。

最初だけくすぐったかったがそれ以降これといって変化がなかったからだ。

でもあんな速度が赤ちゃんの腕力でどうにか出来るものでもないし、多分ちゃんと起動していたと思う。

取り合えず首を縦に振ればモブ子が満足そうにして通信を切り、返却するの忘れたとあとで気付いた。

多分俺のニート生活もここまでか……

哀愁漂う背中でホテルに帰ったが、ポルポとフグ男で癒された。

 

 

 

 

 

 

 

ユニside

 

 

チョイスが行われた時、私の精神はこの世界軸へと戻った。

そして真っ先に感じたことは、今まで白蘭から逃げられたことへの安堵と、もう時間があまり残されていないという焦燥だ。

すぐさまチョイスを中断する為に向かう。

勿論白蘭がそれを断ることは知っているし、それを理由に私はミルフィオーレを脱退してボンゴレに助けを求めることが出来る。

あちらにはリボーンおじさまがいる上に、沢田綱吉さんは断わらないことを知っているからこその行動だ。

時間はない、早く行動に移さなければ。

 

結果を言えば、ことは上手く進んだ。

私はミルフィオーレを抜け、ボンゴレの庇護下に入り、白蘭の魔の手から逃げきれた。

いや、まだ逃げ切れたわけではないが、一時といえど彼と距離を放せたことは幸いだった。

γ(ガンマ)のいない今、私はボンゴレに頼るしかなく、無力さがこの身に突き付けられる。

けれど今ここで諦めてはいけない、嘆いてはいけない…最後の炎を絶やしてはならないのだ。

 

チョイスの会場から逃げた数時間後、白蘭の追手がアジトへと侵入してきた。

私はアジトから一足先に逃がされ、ハルさんの助言で向かった川平不動産という場所に逃げ込んだ。

川平不動産にいた男性は私達の事情を理解しながらも、匿ってくれて、追手のザクロを撒いてくれたのだ。

何者かは分からなかったが感謝を述べ、危険が過ぎ去るまで不動産で身を顰めようとしたが、それは予想外の形で裏切られた。

既に潜んでいた真・6弔花のトリカブトがランボ君の姿に化けていたのだ。

恐怖で動かない身体を黒い大きなマントが包み込み、私はトリカブトに捕まってしまう。

そしてそのまま川平不動産を飛び出し、上空へと連れていかれたその時だった。

 

「ユニ!」

 

沢田さんの声が遠く聞こえる中、小さなエンジンの音が聞こえ、次に大きな衝撃が私を襲った。

そしてカブトから放り出された私は宙を舞う。

 

空が、澄んだ空が、大空が

 

体が竦み、強張り、悲鳴すらもあげられぬまま、この身にかかる浮遊感に恐怖した。

ふわりと、背中に何かが当たり、それが地面だと思った私は目を固く瞑る。

だが予想した痛みは来ない。

その代わりに大きな衝撃が、それでいて優しく、どこか包み込むような衝撃が私に降り掛かった。

重力が身体に掛かり、ふいに安堵が広がる。

緊張していた身体が弛緩し、それにつられ意識が薄れていき、私はそれに抗うことが出来なかった。

 

 

風が  温かい  

 

瞼を  押し開く  風が  まるで  命の灯り火のように

 

 

眩しい生命よ

 

 

 

目を見開いた瞬間、自分がどこにいるかが分からなかった。

先ほど起こったことを思い返し、混乱、そして何かが私の頭の上で私を()き止めていると感じた。

上へ、上へ、腕を伸ばせば、一抹の光が差し込み、私は思わずそこへ頭を突き出した。

瞬間、視界が広がり、眩しさが目に染み、瞼を瞑った。

徐々に慣れていく光に、自身の状況を把握しようと頭を働かせる。

漸く落ち着いた私は、今自分が何か乗り物に乗っていることと、それがバイクであること、そしてお腹に回されている腕に気付く。

後ろへ振り向き、目にしたのは黒。

黒いヘルメットに、黒いレーシングスーツ…全身真っ黒なその人は、私が目を覚ましたことにも無反応で、ただ道を進む。

 

「あ、あの………あなたは一体…?」

 

そう私が問いかけた瞬間、私達の後ろの方で大きな爆発音が鳴り響いた。

すぐさま後ろへ視線を移せば、遠くに宙に浮く人影が二体…真・6弔花だ。

身体が強張り、先ほどの不安と恐怖が再びこの身を侵食する感覚に襲われるが、それも一瞬のことで、体を預けている黒い人の体温で何故か安心を覚えた。

余程バイクが速いのか、追ってくる彼らの姿が小さくなっていくのが分かり、徐々に強張っていた身体が弛緩する。

 

『エネルギー出力150%、前方にカーブが続きます』

 

機械じみた声、いや、まさに機械で作られた声に私は驚き、それがバイクから発せられたのだと理解した。

再び黒い人を眺める。

知らない、今まで会ったことがない人であることを、何故か私は分かってしまった。

それなのに彼の側が安全であることも同時に分かってしまったのだ。

分からない、分からないけれど、私は彼を知ってる気がした。

 

「あなたは誰ですか?」

 

声を聞けばその正体が分かるかもしれないと問いかけるが、その者は沈黙を貫いていた。

少しすると、私達は森の中に入っていく。

そこで私は、今走っている場所がボンゴレアジトの入り口付近であることを思い出したのだ。

彼らのアジトに赴き、複数ある脱出口を確認をした時に、森の中にある脱出口が確かにあったハズだ。

バイクが止まり、その者は私を地面へと下ろす。

私は周囲を見渡し、再び目の前の人を見る。

 

「あ、あの……ここアジトの近く…ですよね…」

 

沈黙。

早く行け、と言われているようで足が動きそうになるが、その前にこの者の正体が知りたかった。

 

「えっと、多分、ここから行けると思うんですけど……あなたは一体…!」

 

そこでやっと私は、彼の胸元にあるおしゃぶりに気付く。

紫色の…おしゃぶり………

 

「紫のおしゃぶり………あなた、もしかして……スカル…ですか?」

 

今、私の手元にない唯一のおしゃぶり。

死亡は確認されていなかった。

確かになかったが、まさか彼が元の姿に戻っていたことは予想外だったのだ。

どんな方法であれ、この呪いを解くことは不可能であるとなんとなく理解していたから。

彼の場合、呪いを解かずに元の姿に戻ったようであるが…

 

「ルーチェ………」

 

「え…」

 

ふいに聞こえた彼の声に目を見開く。

小さく、そしてどこか震えていた、か細い声…

彼は呟いた、ルーチェ、と。

 

「ルーチェ…なのか……」

 

 

眩しい生命よ

 

 

 

小さく震える彼の声に、急に脳裏を過ぎる言葉と共に心臓が苦しくなる。

まるで、まるでその声が母親を探す迷い子のようで……私の中の何かが泣き叫んだ。

分からない、彼に会ったのはこれが初めてであり、私は彼について何も知らない。

だけど、おばあちゃんと彼は親しい関係だったのだろうと、それだけは分かる。

だって、あれほど…縋るような声を聞いてしまったのだから。

 

 

「私はユニ、ルーチェは私の祖母です……やはりあなたは最後のアルコバレーノ…スカルなんですね」

 

ふと、お母さんが他界する少し前に呟いていたことを思い出した。

あの時は、ただ母の言葉を忘れまいとよく理解もせずに聞いていただけだった。

 

「あなたのことは母から、少しだけ聞いていました…」

 

 

『紫のおしゃぶりを持ったアルコバレーノってどんな人なの?』

『紫…雲ね………私もあまり知らないの、一度、子供の頃に会っただけだから…』

 

 

「10年前、母が他界する少し前に…あなたの名前を呟いていました」

 

『彼の名前はスカル…裏の世界では冷徹非道な男だと言われているけど、私はそう思わないわ』

『どうして?』

『それはね、』

 

「母はあなたのことを――――」

 

「ユニー!」

「!」

 

後方から私の名前を呼ぶ声が聞こえ、反射的に振り返る。

再び私の名前が森の中を木霊す。

 

「沢田さん……」

 

その声が沢田さんのものであると確信した私の横で、バイクのエンジン音が聞こえ、私は直ぐにスカルへと視線を戻す。

今にもこの場を去ろうとしている彼の腕を掴もうと手を伸ばす。

 

「あ、あの!」

 

既にこの場に用がなくなった彼をずっと引き留めるわけにもいかず、彼に送る言葉を探した。

でも頭に出かかった言葉よりも先に、口が勝手に呟いた。

 

 

「あなたに会えて良かったです!」

 

 

『とても綺麗だったの……彼の瞳が』

 

 

訳も分からないほど、彼を見送ることが悲しかった。

彼は私に手を伸ばしかけた。

グローブ越しの指先がびくりと震えるのが分かって、どうしようもなく苦しくなった。

何に怯えているのかが分からず、胸に込み上げる苦しさに涙が溢れそうになる。

伸ばしかけた手を戻した彼は、両手でハンドルを握り、今度こそ走りだした。

 

 

「生きろよ」

 

 

僅かに聞き取れた、エンジン音に紛れる小さな、小さな声

 

だがそのか細い言葉は私の心臓を鷲掴むほどの衝撃をもたらした

 

今にも(こぼ)れだしそうだった涙が、雫となって瞼から溢れる

 

 

ああ、運命の日はすぐそこだ

私の灯り火を全て使い果たすべき時が すぐそこにあるのだ

 

世界の為に 未来の為に 愛する者達の為に

 

なのに  それなのに

 

 

彼の言葉で すべてを投げ出したいなどと  そう思ってしまった

 

 

 

「怖いっ…」

 

 

死が  すぐそこまで這い寄る死が なんと恐ろしいことか

 

 

 

その場で崩れ落ちた私は、ただただ押し寄せる恐怖で竦み上がる我が身を、両手であらんばかりの力で抱きしめることしか出来なかった。

やっと体の震えが収まったのは、リボーンおじさまと、沢田さんが駆け付けてくれた時だった。

 

 

 

眩しい生命よ

 

 

 

彼と出会って、片時も離れず頭の中を駆け巡るその言葉の意味を、終ぞ理解することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




スカル:女性人を着々と網羅していく狂人()、ついにロリ誘拐が罪状に加わった、トリカブトを200㎞以上のスピードで思いっきり轢いた、ルーチェがアポトキシンでも飲んだのかと思ったけどただの孫だったようだ、フラグ乱立中

ユニ:誘拐された愛でるべきロリ、その笑顔を守りたい、アリアから聞いていたスカルの印象とルーチェの名前を出してきたスカルとトリカブトから助けてくれた現状にスカルへの好感度が初っ端からやや高め

トリカブト:思いっきり轢かれたお方、どのみちツナにやられる運命だったのが今回はスカルの渾身の一撃()で葬られた

ヒットマンなあの人:スカル絶対殺すマンは健在、多分カルカッサと不可侵である現状でも鉢合わせしたらガチで狩りに行く


沢田綱吉sideを入れたかったけれど、文字数が一万超えそうだったので断念、多分次話くらいで入れる。
あ、あとアンケート取った結果、別にアルコバレーノの試練入れなくてよくね?の意見が多く見られたので省きます。

一応、暇ではなかったんですが描きたかったので描いてみました。


【挿絵表示】




あ、あとこれから二週間くらいめっちゃ忙しくなる予定なので、投稿控えます。

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