Skull   作:つな*

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俺は眠っていた。


skullの生死

リボーンside

 

 

そこには雲一つない快晴を主張する空があった。

最早脅威は去ったといわんばかりの晴天は、一人の人間の悲鳴すらも拾えぬままこの身に降り注ぐ。

太陽によって熱を帯びた脳が沸々と思考力を失う中、スカルと泣きながら名前を呼ぶルーチェの声が遠く聞こえていた。

 

 

 

 

「リボーン!」

 

ツナの声で我に返った俺は、すぐさま足を動かしルーチェの元へと駆け寄る。

何度も名前を呼びかけるルーチェの腕の中で死んでいるように目を閉じるスカルを地面に横にした俺は、傷を確認しようと奴のレーシングスーツの前チャックを心臓辺りまで下げれば、ぽっかりと空いた空洞が視界に入り眉を顰める。

これでよく動けたもんだと化け物じみた生命力に感嘆すると同時に焦りを覚えた俺は、出血を止めようと考えるが、重傷なだけに圧迫止血では無理だと悟り背後にいるであろうバミューダへと声を掛ける。

 

「バミューダ、今すぐワープをボンゴレ本部へ繋げろ!本部が一番医療機器が揃っている」

「そいつを助けるのか?……そのまま死なせてやるのも(やぶさ)かではないと僕は思うがな」

「だめだ!そんなの俺が許さない‼」

 

バミューダの言葉に俺が返す前に、ツナが叫んだ。

ツナとバミューダの視線が交差し、数秒の沈黙の後バミューダが溜息を吐く。

 

「まぁ僕は彼の生死にどうこういうつもりはない…トゥリニテッセのこともあるからな」

 

バミューダはそれだけ言えばワープホールを作り出し、一番軽傷だったコロネロがスカルを背負いながらワープホールへと入っていく。

俺達もそれに続くが、コロネロの次に動けるラルだけ、クロームのこともありその場に残った。

ワープホールをそのまま残しておくとだけ言い捨てたバミューダと共にボンゴレの本部の敷地内へ姿を現わせば、その場にいた警備の者や九代目の守護者が何事かと構えだし、俺達アルコバレーノの姿を捉えて素っ頓狂な声を出す。

 

「おいおい一体どうしたってんだよ!」

 

偶然その場に居合わせた九代目の雷の守護者、ガナッシュ・Ⅲが俺達のボロボロな姿に目を丸くしながら駆け付けるなり状況を悟ったのか医療班を呼び出した。

 

「色々あって今話せる状況じゃねぇが、取り合えず治療を頼む」

「分かりました、今しがた救護班を呼びましたが……他に何か必要な人員はありますか?」

「医療班とは別に…雨の炎を使える奴を…数人連れてきてくれ」

 

古代生物の毒が回って来たせいで呼吸器官は半分ほど機能せず、呼吸が思うように出来なくなった俺は息が途切れ途切れになる。

コロネロも毒の侵入を許してしまったらしく息が荒いが、一番重症なのはバミューダとツナだ。

接近戦をしていた二人は毒の回りが早く、コロネロやラルの炎の鎮静でどうにか毒の進行を抑えてはいたが、既に毒が全身に回り始めているのか膝を床についている他、直接の原液を浴びた風は額に汗を浮かばせながらルーチェに肩を借りながら立ってる。

少しすれば遠くから複数の足音が聞こえ、それが医療班であると分かったところで気が緩んだのかツナが気を失い倒れた。

 

「全員毒にやられてる、俺の血を抜き取って…解析班に回してくれ」

「分かりました」

 

重傷者から運ばれる際に、俺はガナッシュに後から数人がこちらに来るとだけ伝えて治療室へと運ばれた。

既に体が限界を迎えていた俺は治療中の数分間、完全に意識を飛ばしていて、今思えば最強の殺し屋(ヒットマン)と呼ばれてからの数少ない失態だったと思い至る。

ただボンゴレの治療班に全てを丸投げ出来る程事態は軽くなく、意識を取り戻した俺はすぐさま他の奴等の状態を聞けば案の定新種の毒だとなんだと慌ただしくなっていた。

出血箇所の止血が終わった俺は、麻酔と点滴を受ける間だけ毒の進行を早めないように安静にしていると病室にルーチェが現れる。

 

「あちらに残ったラルも無事到着し治療中に取り掛かりました」

「そうか……」

「あまり私に時間はないので、一方的に全てを話しますが……聞いて下さい」

「ああ」

 

ルーチェは窓の外を眺めながら、おしゃぶりに残った残留思念が意思を持ったもの…それが自分であると告げた。

ユニへ影響を与えてしまったことや、ユニが一時的に体の支配権を渡してくれていること……そして何故自身がそうまでして出てきたのかを語り出す。

 

 

「あの子が…スカルが……ずっと心配だったの……」

 

 

私はあの子の本質をずっと昔に…生前に既に知っていた。

死を望んでいることも、愛を知らないことも……あの子が過酷な現実を担っていることも……全て知っていながら誰にも教えることがなかったのは、それが私の私情であり仕事に持ち出すべきものではないと判断した……人生で最大の(あやま)ち。

ずっとあの子が心配で、気を掛けていたけれど……私の方があっけなく死んでしまい、死ぬに死にきれなかった私の残留思念がおしゃぶりに宿ってしまった。

あなた達の間に大きな(みぞ)があることをおしゃぶりを通して見て、いつも気が気じゃなかったわ。

あの子の過去を知ってしまった私は己の罪を……あの子に中途半端な愛を教え必要以上に苦しめていた現実を突きつけられた。

だから……ずっともがき苦しむあの子を守りたくて、愛していると伝えたくて…

全て私のエゴに過ぎないけれど…あの子の苦しむ姿はもう見たくなかったの。

あの子を茨の道へ突き落し、より狂気に束縛してしまったのは他でもなく私……私なのリボーン。

 

 

今にも零れ落ちそうな涙を溜めたルーチェの瞳に日差しが入り込み、溜まった涙が光を反射したことで(かす)んだルーチェの輪郭は、彼女の存在を曖昧にする。

俺は何故スカルがルーチェばかりに反応するのかが納得でき、一番疑問であり憎悪の根源ともいえるであろうあの光景を思い出し口を開いた。

 

「お前はあの花を貰い……何を思って死んだんだ」

「花………スノードロップのこと?」

「ああ…」

 

こちらを見たルーチェは目を丸くしたあと、目尻から一筋の涙を零しながら微笑んだ。

 

「生きろ…と言われて嬉しくないわけがないじゃない………」

「生きろ…だと?」

 

    輪郭が

 

「ええ、だってスノードロップの花言葉は——————」

 

 

   (かす)んでいく

 

 

日差しに反射するルーチェの涙が頬を伝い零れ落ちる様を脳裏に焼き付け、彼女の口から零れ落ちた言葉が心臓に突き刺さり、小さな痛みを訴えていた。

ルーチェが(おもむろ)に呟く。

 

「ああ、時間だわ……リボーン…スカルを、頼んでいいかしら?……ほんの少し、あの子が一人で歩けるまででいいの」

「……」

「お願い…」

「………それをあいつが許容するのなら」

「それでいいわ」

 

最期に、とルーチェは俺にスカルへの言伝を頼み、俺は快く了承した。

既にルーチェの影は薄くなりユニの気配が表に出始めている中、ルーチェの声にならない言葉を俺は確かに聞き届けた。

 

 

「—————————————」

 

 

その最後にルーチェの瞼は閉じられ、特有の気配が紛散したのを感じ取りながらぐらりと傾くユニの体へと腕を伸ばす。

眠っているユニをベッドに寝かせた俺は点滴が終わったのを確認した後、麻酔で痛みのない体を起こし病室を出て現状を聞きにツナの治療室へ足を向けた。

そこは人が(せわ)しなく走っていて、奥のベッドに見慣れた茶髪を捉えた俺はそこへと近寄る。

医療器具を運ぶ為に中途半端に開けっ放しにされたカーテンの隙間から見え隠れしていた椅子を引っ張り、教え子のベッドの隣へと座った俺は、人工呼吸器をつけたツナを見下ろした。

まだ抗毒素が生成出来ていない今、ただ毒の進行を抑える以外方法はなく病室の中は鎮静の性質を持つ雨の炎で充満している。

恐らくバミューダも同じ状態だろうと視界の端にあるもう一つの閉められたカーテンを横目で流し見た俺に、背後から声が降ってきた。

 

「リボーン、もう動いて大丈夫なのか?貴様も少なくない量の毒を吸い込んだだろう」

「ヴェルデか…既に毒の進行はある程度止まってるから動けない程ではねぇ」

「だがまぁチェッカーフェイスの期限まで一日を切っている…早く抗毒素を生成せねば全てが水の泡になるぞ」

「分かっている……マーモンは?」

「スカルの心臓を霧の守護者…クロームと共に幻術で補っている」

 

未だ手術中の表示が消えないであろう方向へ指を向けたヴェルデに、俺は本格的に抗毒素に関して考え出す。

古代生物の猛毒だ…直ぐに抗毒薬が作れるとは思ってねぇが、生憎残された時間はあまりない。

毒の専門知識のあるビアンキを呼びたいところだが奴は今イタリアにいない……万事休すかと思われたその時、俺とヴェルデに声が掛かり、そちらへと視線を移せば風が松葉杖をつきながらこちらへ歩いてきた。

 

「足はどうだった…」

「リボーンの応急処置のお陰で腐敗は免れていたようで、今は麻酔で痛みはありません」

 

ありがとうございます、と礼を述べる風に俺はふと古代生物の猛毒であるあの黒い毒液が風に降り掛かった時の毒の進行速度と、スカルを飲み込んだ光景を思い出した。

 

「おい…スカルは確か古代生物の猛毒を浴びたか?」

「え?ええ…私の記憶が正しければ沢田綱吉のXXBURNER(ダブルイクスバーナー)で彼を覆っていた毒は全て拭われてしまいましたが…確かに彼はあの猛毒を浴びていた」

「だが風、お前が直接あの毒を浴びた時、かなりの速度で毒が進行していたはずだ」

「……そういうことか!」

 

スカルは同じ原液を浴びたにもかかわらず腐敗した様子も、毒に侵された様子もなかったのは恐らく奴に抗体があったからだという推測を俺と風の会話でヴェルデも気付いたようで、俺は直ぐに医療班の一人を捕まえスカルが毒に対して抗体を持っているかもしれないことを教えれば、直ぐに確認すると言い慌てて手術中のランプが光っている手術室へと姿を消した。

暫くすれば、案の定抗体を持っていたことを確認した医療班の者が、ツナとバミューダに投与し始める。

投与から数十分後にツナとバミューダの容態が回復し、あの戦場にいた者全員に抗体を投与された。

 

「リボーン!」

 

聞き慣れた知古の声に、座っていた俺が視線をあげれば増えた皺と白髪を携えた九代目がこちらへと向かってきては俺の姿に驚き、俺の状態に眉を顰めた。

漸く呼吸が落ち着いた俺の腹と腕に見える白い包帯は、今回の戦いの過激さを察するには十分だった。

ツナとバミューダの意識の回復とスカルの手術を待つだけとなった俺は、九代目に今回のスカルの件を説明しようと場所を移す。

九代目の執務室へ行き、全て…とまではいかずとも代理戦争のことやスカルの過去、奴の精神状態を、そして古代生物との闘いを話し始め、数十分に渡る俺の話は九代目が顔を覆うに値する内容だった。

 

「なんということだ……狂人を創り悪たらしめたのは我々だったなどと………」

 

相当ショックを受けたのか声には覇気がなく、俺は数時間前の自分を突きつけられたような気分になった。

俺達は無知であり、加害者だった………それがどれほどの衝撃をもたらしたことだろうか。

 

一人の人間に狂気を押し込め、悪へと昇華させ、その存在を糾弾(きゅうだん)した

 

殺し屋をしている俺からしたら倫理もくそも言えた義理じゃねぇが、それでも殺し屋としてのプライドを誇示し秩序を築き上げていた。

それがどうした、直視出来ぬ汚れ全てを一人の人間に押し込め、それを憎むことで己の秩序を確立し続けていたなど……笑止千万と鼻で笑われたところで何も言えない程、惨めで虚しかった。

後ろ指を指されて笑われようとも俺達の仕出かした罪は色褪(いろあ)せることはなく、間接的に数多の命を奪い取ったという事実が突きつけられる。

偶然から出来上がった狂気は膨らみ破裂し消えたが、残された傷跡はあまりにも深く痛ましかった。

もう苦しいのはいやだとルーチェに縋りついたスカルの声は、人の声だった。

救いを求めて伸ばすことさえ知らない手を、ルーチェは握りしめ救いだしたにも関わらず俺がしたことは何だ…?

ボンゴレと懇意にしたあまりに奴を目の敵にし、警戒し憎悪し嫌悪し忌避した。

 

 

『お前もまた奴等(村人)と同じだったのさ』

 

 

黒く塗りつぶされた、年端も行かぬであろう背丈の小さな影が口を開けて嘲笑う。

影を前にして引き金に掛けた右手の人差し指が僅かに動くが、直ぐに指から力を抜けば地面へ銃口が(こうべ)を垂れる。

でも、だなんて口にする資格のない俺は未だ(いびつ)に笑う影を覗いた。

 

 

ああ 惨めだなと 

 

    誰かが笑えば 俺はきっと 

 

 

 

  気が楽になるだろうさ

 

 

 

我に返った俺の目の前に影の姿はなく視線を落とす。

目の前のテーブルに置かれるティーカップの中に注がれている、透明さを失わぬ紅茶の表面に映し出された俺の顔は今までで一番情けなかった。

 

 

 

「スカルのことは元凶の一端を担ってしまったボンゴレが総力をあげて何とかしよう…」

「ああ」

「綱吉君や他のアルコバレーノはどうしているんじゃ」

「一命は取り留めた…後はスカルの手術が終わるのを待つだけだ」

「そうか………これは直ぐに片付く問題ではない、取り合えず今は君たちアルコバレーノの呪いをどうにかすることを優先的に考えた方がいいだろう」

 

沈黙を破った九代目の言葉に淡々と返す俺は、麻酔で痛覚が麻痺しているはずの腕の傷がひどく痛みを訴えてはお前のせいだと子供のか細い声が脳裏を反芻(はんすう)していた。

その言葉を振り切るように瞼を閉じては立ち上がり、執務室の扉へと向かう。

 

「俺は書庫にいる……スカルの手術が終わるか、ツナの目が覚めた時に誰かを寄越してくれ」

「書庫…?」

「少し…気になることが出来ただけだ」

 

それだけを言い捨てた俺は執務室を出ると、書庫へと足を向けた。

数分程歩けば目的の場所に辿り着き、医療系の専門書が陳列している棚へと向かえば、数百数千とあるだろう本の題名に目を通す。

『発達障害の知識』という本を手に取り、パラパラと数ページ(めく)る。

 

少しだけ疑問に思っていたことがあった。

村で会ったシスターの話では、幼少期のスカルは何度も注意され村人たちから気味悪がられたはずなのに呪われた木に通い続けていた。

何故、同じ場所に通い続けるという思考に至ったのか。

子供の意地にしては度が過ぎているし、常に一人だったという状況にも引っ掛かる。

両親が死んだにも関わらず放った「笑えばよかった」という場違いな言葉。

精神的に追い詰められていた、又は両親に対して並みならぬ憎悪を抱いていた……どちらでもないとしても、スカルの異常性は多々見られる。

 

まず人格形成の妨げがあったからといって誰もが自己や自我を喪失するということは考えにくい。

ということは、喪失しやすい要因があったはずだ。

不十分なコミュニケーション能力、一つのものに固定される異常な執着心、そして周りに対しての無関心さ………

目立った異常をあげていく中、探していた内容が記載されているページで指が止まる。

そこには大きく、こう書かれていた。

 

 

『自閉症』

 

 

恐らく、スカルにはこの自閉症のきらいがある。

コミュニケーション能力の乏しさ、そして相手の感情を読み取る能力が著しく低いという病状が、奴を孤立させ狂人という名に拍車をかけた大きな原因の一つだ。

専門の知識があるわけではない俺は、本棚からそれらしい題名の本を数冊抜き取り近くのデスクに座って、紙切れの間へと指を指し込みページに記述されるその文字の羅列を目で追っていった。

書庫に足を入れてからどれほど経ったのか……既に片手で数えられない数の文献が側に乱雑に重ねられ、麻酔が切れてきてるのか腹部と腕にじわじわと痛みが広がっていくのを感じながらも指はページを捲るのをやめはしない。

 

 

スカルを、頼んでいいかしら?

 

 

ふとルーチェの声が過ぎり、忙しなく動いていた目線がピタリと止まった。

ルーチェの手前ではああ言ったが自分の感情に折り合いをつけ切れていないのが現状であり、そう容易いことではないと自覚しているだけに溜息を吐きたくなる。

目の前のページに並ぶ文字の羅列を指でなぞりながら、頬杖をつけば少し離れた場所で扉が開く音を聞き、そちらへ視線を流す。

 

「リボーンさん!ボンゴレ10代目が目を覚ましました!」

「ああ…今行く」

 

ここで漸く俺は壁に掛けられていた時計を見て、数時間経過していることに気付く。

そしてチェッカーフェイスの告げた期限まで一日を切っていることを思い出し、俺は内心舌打ちをしてツナのいるであろう病室へと足を向けた。

 

「ようやく起きたか」

「リボーン‼」

 

ベットの上で上体を起こしてこちらを見る包帯と管だらけのツナと、その横で座っている風とユニを視界に捉えた俺はツナに向かって皮肉交じりに二枚目になったじゃねぇかといえば、ツナは半目になり俺を睨んできて、隣の風が苦笑いを零す。

 

「も、もう傷は大丈夫なのか?」

「そこまで酷い怪我じゃなかったからな…」

 

嘘だ―!と喚くツナを無視して風へと視線を向ければ、俺の意図に気付いた風は現状を説明し始める。

 

「バミューダも意識が回復していますし、約束の期限までにはワープを使える体力は回復するだろうと本人が言っていました……他のアルコバレーノもある程度回復しているようです」

「ならあとはスカルだけか」

「そうなりますね…」

「あ!そうだ、スカル!なぁリボーン!スカルの今後ってどうなるんだよ!?」

 

俺に問いかけるツナの瞳には、明らかに焦燥と不安が表れていた。

奴の今後の扱いは九代目が追って伝えるからそれまで保留になっていると言えばツナが言葉に詰まっていて、スカルの事情は話したから九代目も酷い扱いはしないと付け加えれば、ツナとユニが目に見えて安心しだした。

その後、風はラルからの報告を口にした。

 

「あの古代生物…ラルがクロームと合流しワープホールのある場所へ戻った時には消えていたらしいのですが……恐らく生き延びている可能性が高いですね」

「ええ!?あれで生きてるの!?ど、どうしよう!」

「あれだけダメージを食らっているのだから当分は姿を現すことはないと思いますが……こればかりはスカル頼みになりますね」

 

先ほどとは一変して顔を青褪めたツナが頭を抱えてはまた倒すなんて無理だと喚き出し、俺は思わずといった様子のツナの頭を叩いた。

ツナの悲鳴が病室に響き渡ったと同時に病室の扉が開き、中からボンゴレの専属医師が入ってきて口を覆う血の付いたマスクを外しこちらへと歩み寄る。

 

「スカルの手術は成功し、一命を取り留めましたよ」

 

その言葉に、ツナとユニが声をあげて喜ぶ姿を視界の端に入れながら俺は胸の内に重々しく鎮座していた鉛が抜け落ちたように肩が軽くなった。

俺も知らぬうちに焦っていた内の一人だったかと気付きながら、奴の一命を取り留めた事実に安堵する。

よろめきながらもベッドから起き上がったツナがユニに支えられながらスカルの病室に向かおうとしていて、俺もそれについていこうとしたが重くなる足が動いてはくれず一歩二歩と足を引き摺っては立ち止まった。

脳裏に過ぎるのは助けてと懇願(こんがん)する小さな声で、俺の足をその場に縛り付ける。

 

 

『どの面下げて行くってんだよ』

 

 

背後から聞こえる黒い影の声に、腕と腹の痛みがじわじわと広がっていくのを感じながらただ立ち止まってツナとユニの後ろ姿を眺めた。

 

「リボーン」

 

ふと側から呼ばれた自身の名前に反応すれば、風がこちらを見つめていた。

 

「あなたが自責の念に駆られていることなど誰もが気付いています………ですが、あなたも私も……他のアルコバレーノも…スカルと本当の意味で向き合わなければ、前に進むことは愚か…悔恨に囚われたまま生きていくことになります」

 

かくいう私も(いささ)か緊張していて麻酔が効いているはずの足が疼きます、と言い捨てて俺の前を歩く風の背中を眺めては、鉛のように重い自身の足を引き摺るようにツナの病室を出た。

向き合うべき………か。

頭のどこかで気付いていた事実に目を背け、後から現実を突きつけられる方がよっぽど惨めになることなど…わかっていたはずだったのに。

 

 

 

「え………?子供……?」

 

 

ツナの声が響く中、俺は何を思って閉じられた瞼を眺めていただろうか。

額には包帯が巻かれ、腕と心臓は管に繋がれ、呼吸器を付けられているスカルの顔が、血を拭われ露わになっていた。

精悍(せいかん)な顔つきなどどこにも見当たらず、あるのは皺ひとつない幼い顔だけだ。

ツナと同じか少し上…少なくとも成人ではないことは明らかな程、未発達な幼い顔立ちだった。

シスターの話や、ルーチェの言葉からスカルの年齢が高くないことくらいは予想がついていたが、無意識に目を背けていた俺は今目の前の現実を突きつけられる。

よく観察すれば、スカルの体は子供特有の未発達な身体で、衰えを知らぬ肌がそれを物語っていた。

 

「スカルの本当の姿は……俺とそんなに変わらない子供だったっていうの!?」

「ああっ…スカル……」

 

ツナの悲壮めいた声とユニの切羽詰まった声は、まるで俺を責め立てるかのように突き刺さる。

ユニが泣きながらスカルに近寄り、管に繋がれている右腕をそっと握りしめながらスカルの血の気の無い顔を見つめていた。

 

「生きててくれて……ありがとう…ございますっ」

 

機械音が病室を満たす中、ユニの嗚咽(おえつ)だけが届いていた。

村人から忌避され狂わされ、数多の偶像に縛られその手を赤に染め上げ、呪を刻まれた子供の姿が今も変わらずそこに在るかのように俺の視線を奪う。

スカルの直ぐ側まで這い寄っていた黒い影が、俺を見つめながら歪な笑みを浮かべ眠っているスカルを指差す。

 

()()を造ったのは誰だ』

 

 

俺の中で(くす)ぶる黒い感情に呼応しているのか、影は段々と膨張し始める。

瞬き一つでクリアになった視界には、あの黒い影はまるで最初からいなかったかのように見当たらず、ツナとユニ…そして風だけがそこにいた。

 

 

「スカルは……大人になれないで、ずっと……ずっと子供のまま苦しんでたんだ……」

 

苦し気な声でそう呟くツナは、今にも泣き出しそうになりながらも気丈にスカルへと向き合っていた。

少し沈黙が続いていると医師が病室に入り、スカルの状態を診ながら俺達へと声を掛けてくる。

 

「状態は安定しているので意識が戻るのもそう掛からないかと…」

 

正直あれで手術が成功するとは思っていませんでしたと付け加えた医師にそらそうだと俺は共感した。

心臓が機能するしない以前に抉られていた上にあの出血量…普通であれば確実に死ぬ傷でありながらも生き永らえたのはスカルの半不死性の体質故だ。

多量出血のせいで顔色の悪いスカルの首元に視線を向けながら眉を顰める。

そこには爪の引っ掻き傷が数か所に渡って存在し、何度も爪を立てたと分かる程くっきりと赤みを帯びていた。

 

どれだけ死のうと試みたのか…、そしてどれだけ死ぬことが出来ずに絶望したのか……

想像し難い絶望を押し付けられ、一人で抱え、死に急いだその人生に……救いはきっとありはしなかっただろう。

ルーチェの存在がなければあいつの核にすら触れることが出来ない程壊れかけだった人格は、生を望むだろうか。

あのまま死なせた方がどれだけ楽だったか、それが分からぬ程焼きが回ったわけではないけれど………ルーチェに縋る子供の姿が、声が、涙が……頭の中に焼き付いて離れなかった。

 

 

『偽善者ぶってないで早くその狂人を殺しちまえよ、殺し屋(ヒットマン)

 

 

愉快そうに笑う声を振り切りるように瞼を閉じた俺の脳裏に過ぎるのはルーチェの言葉。

 

 

 

『スノードロップの花言葉は——————』

 

 

“償い”だなんて都合のいい言葉が欲しいわけではない。

 

 

ただ、コイツが俺を憎んでいるのなら

 

 

『希望よ』

 

 

 

 

俺は心の底から安堵するんだろうなと、ふと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニside

 

 

ルーチェおばあさんが私の身体から抜けていくような感覚の中、私の意識が段々と明瞭になっていく。

瞼を開ければ先ず目に入ったのは医療室の天井で、私は一人ベッドの上で横に寝かされていた。

ルーチェおばあさんの意識が表に出ている間の記憶は曖昧で、確か最後にリボーンおじさまと話していたような…と記憶を探りながら周りを見渡すがリボーンおじさまの姿はなく、恐らく私を寝かせてどこかに移動したのだろうと思い上体を起こす。

ベッドから起き上がった私はここがどこなのか分からず室外へと出てみると、白衣を着た人たちが忙しなくあちらこちらを走っていた。

それが、先の戦いで怪我をしたアルコバレーノ達の治療の為であると思った私は白衣の方々の後ろを着いて行けば、コロネロとラルが視界に入りあちらも私の存在に気付くと目を見開く。

 

「ラル、コロネロ!」

「ルーチェ……ではないな、ユニか」

「はい、既にルーチェおばあさんはおしゃぶりに還っていきました…二人とも怪我は大丈夫ですか?」

「心配ない、既に解毒している」

「ユニこそ擦り傷とかあったろ、大丈夫なのか?」

 

何ともありませんと告げ、今の状況を聞いてみれば沢田さんとバミューダ、スカル以外の治療は終わったとだけが返ってくる。

沢田さんの治療が終わるまで二人と共に彼の治療室で待っていると、ヴェルデと風が顔を見せた。

約束の時まで既に一日を切っているというヴェルデの言葉に、現状がどれだけ切羽詰まっているのかが分かる。

その上古代生物が生きている可能性があると推測しているラルの言葉で緊張が残る中、ヴェルデとコロネロ、ラルが治療の邪魔にならない別室で対策を講じると言って出て行った。

沢田さんの治療が終わりあとは意識の回復を待つだけになった今、治療室に残るのは私と風のみとなる。

私は風に先の戦いを全て聞いていた。

 

「――――、そしてボンゴレ本部に移動して今に至るわけです」

「そう、ですか……風の足は大丈夫ですか?」

「ええ…リボーンの応急処置とボンゴレの医療班の方々の懸命な治療のお陰で数日後には包帯も取れるだろうと言われました」

 

その言葉に安堵の息を漏らした直後、直ぐ側でうめき声が聞こえすぐさま振り返れば、沢田さんの瞼がゆっくりと開かれていた。

沢田さんと名前を呼べば、ユニと返ってきて意識はちゃんとあることに安心する。

ボンゴレ本部に来た時から全く記憶のない沢田さんに現状を教えていようとしたところで、リボーンおじさまが治療室に入って来た。

リボーンおじさまは目を覚ました沢田さんにちょっかいを出していたけれど、その目には確かに安堵の色が浮かんでいて、私は無意識に笑みが零れる。

スカルの今後のことをリボーンおじさまが沢田さんに伝えていると、医師が入室してきてスカルの手術が終わったことを告げた。

私はすぐさまスカルの顔を見に、ふらつく沢田さんの背中を支えながら治療室を出て彼の病室へと入る。

先ず見えたのは細い管が繋がっている青白い肌と、呼吸器越しでも分かる程明らかな彼の幼い素顔だった。

ルーチェおばあさんの言葉や心情から、スカルの年齢がそこまで高いわけではないことはなんとなく気付いていたけれど、いざ突きつけられる幼さに胸が締め付けられる程苦しかったのだ。

私の今の年よりもずっとずっと幼かった頃に受けた心の傷が、今もまだそこに在るのだというかのように包帯が巻かれた痛々しい心臓付近に、何を思えばいいのかすら分からない。

沢田さんの驚きに満ちた声と機器の音が入り混じり、遂に私の涙腺は決壊した。

彼の管の繋がった右腕をそっと握りしめ、心の底から彼に感謝する。

 

「生きててくれて……ありがとう…ございますっ」

 

これは一体誰の心情なのだろうか。

私であり、ルーチェおばあさんであり……きっと、どちらの心でもあるのだ。

γとは別の愛しさが込み上げてきて、溢れては涙として零れだす。

 

 

ありがとう

 

 

懐かしい声が脳裏を過ぎっては消える。

 

ああ 眩しいのだ

 

彼の命の(ともしび)が 途切れることのない炎が (まばゆ)いほど 美しいのだ

 

 

 

 

 

それから他のアルコバレーノ達がスカルの顔を覗きにきていたけれど、一向に起きる気配はなく時間は過ぎていく。

既にスカルの人工呼吸器は取り外され意識の回復を待つだけとなっている今、交代交代で人が変わる中私とリボーンおじさまだけはスカルの側にいた。

リボーンおじさまがスカルに対して何を思っているのかは定かでないけれど、きっと後悔しているのだろうと悟ってしまう。

リボーンおじさまがどれだけスカルを憎んでいたかを知っていただけ、彼の心の内側が荒れていることを分かってしまい心苦しかった。

少しでも彼の心が軽くなればと思っていると、あることを思いついた私はリボーンおじさまに声を掛ける。

 

「リボーンおじさま」

「何だユニ」

「花を……一輪欲しいのです………おばあさんが貰った…あの花を」

 

そう云えば、リボーンおじさまの瞳が僅かに揺れ、しばしの沈黙の後席を離れた。

おばあさんがスカルから貰った希望を、私がスカルに渡そうと…そう思ったのだ。

本当はリボーンおじさまに渡してもらいたかったけれど、おじさまのことだ、男に花をやる趣味はねぇとか言って断りそうだった。

だから私がスカルにあの花を渡した時に、リボーンおじさまがもってきてくれたことを教えてあげよう。

 

「スカル……早く目を覚まして………皆、あなたの目覚めを待っています」

 

私は優しく、そして愛おしく彼に言葉をかけた。

どれくらい経っただろうか……リボーンおじさまの帰りを待っている最中、握っていた彼の手がピクリと動き、私は目を見開く。

 

「スカル!?」

 

握っていた手を握り返された私が焦ったように彼の名を呼べば、病室の扉が開きリボーンおじさまが入ってくる。

 

「どうしたユニ」

「い、今…スカルが反応して…」

 

 

「……ん…………」

 

 

スカルの口から零れた僅かな声に、私とリボーンおじさまの視線がスカルへと固定される。

彼の瞼が一際震え、ゆっくりと開いたその時、私は母の言葉を思い出した。

 

 

『とても綺麗だったの……』

 

 

濁りを知らぬそのアメジストは美しく

 

 

『彼の瞳が』

 

 

(まばゆ)い命の灯が  確かにそこにあった

 

 

 

 

 

 

 

 




スカル:(˘ω˘)スヤア…………(゚д゚)ハッ!
ヒットマンなあの人:幻聴聞こえちゃうほどSAN値ピンチなもみあげ、愉悦式反射機能によってフルボッコなう、花言葉を知って瀕死状態のうえにスカル自閉症説をあげては自分で自分を追い詰めていくセルフフルボッコスタイル。
ツナ:スカルが未成年であることに驚きを隠せない、これからも罪悪感と正義感に往復ビンタされるが頑張れ。
風:リボーン程ではないが愉悦式反射機能によりダメージを食らう。
ユニたん:スカルを守り隊きっての精鋭。
ルーチェ:愉悦式反射機能でフルボッコなリボーンに追撃して逝っちゃった人。


死体蹴り?知らない言葉だなぁ(´∀`)




ps:
あ、因みに自閉症うんぬんは上辺だけ調べて書いてるだけです、本気で信じないで下さい。
専門の人いたらゴメンネ—

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