Skull   作:つな*

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俺は起きた。


skullの覚醒

ふと、遠くの方で聞こえる機械のような音に意識が浮上した俺が瞼を開けば、目の前には白い空が見えた。

そしてすぐ横にとっても優しそうな顔で俺の名前を呼んでいるミニサイズのルーチェ先生がいて、寝ぼけた頭で何で自分の隣に彼女がいるのかを考えていた。

脳内はやけにふわふわしていて、重力に勝てずに再び重い瞼が閉じかける。

そんな俺は頭上から降ってくるルーチェ先生の声に夢現なまま返す。

 

 

「スカル……ここにはもうあなたを傷付けるものは何もありません」

ほん、とう……に?

「はい、怖いことも苦しいことも…辛いこともない……安全な場所です」

 

……よかっ…た………

 

 

俺はきっと死んだんだ。

ここは天国で、目の前の子供ルーチェは俺の天使像かなんかで、天国なんだからやっぱ極楽浄土的なもので、次の転生までここで自由に暮らせるのかなー……

 

 

じゆう、だ…

「………いいえスカル、あなたはまだ生きています……生きて、幸せな人生を歩むのです」

 

なんて思っていた自分をぶん殴りたいと切に思ったのは、真っ白い空だと思っていたものがコンクリートの質感であることに気付いた挙句、視界の端に黒いハットを被り、ぐるりと一周するもみあげが特徴のリボーンを捉えてからだった。

冷水を浴びたように思考が鮮明になると共に、自分が生きていることに気付いた挙句心臓開けられたり頭からヤバイ量の出血をした記憶を思い出してしまい顔面蒼白になる。

天国から地獄に叩き落とされたルシファーってきっとこんな気持ちだったのかな、って今まさにそう思う光景が目の前にあるわけだが、俺は一体どうしたらいいんだろう。

思わず死にたい…と呟いてしまったら、直後リボーンの顔が般若のように歪められたので怖さのあまりに悲鳴が全部引っ込んだ。

もう何なの、俺死ぬの?もっと痛いことして苦しませてから殺すとかそういう……?

残像が見える程震えてる俺の指を子供ルーチェが握ってきて、一瞬そのまま逆方向にボキッと曲げられるかと思って身構えてしまった俺はついに涙腺が崩壊してしまった。

 

「泣かないでスカル…生きることは決して怖くありません!」

 

怖いんだよ!主にお前らの所為でぇぇぇぇ!

一体お前ら何がしたいの?何で俺にヘイトがこんなに集中してるのか全く身に覚えがないんですが。

いやそれよりも、どこぞのバーローさんみたいに黒ずくめの人達に何飲まされたのか知らないけど今目の前の子供ルーチェが結構気になる。

 

「ルーチェおばあさんはあなたを最後まで想っていました……死んでも尚ずっと……あなたの心配ばかりしていました…」

 

ひえっ、なにそれ怖い。

いやそれよりもおばあちゃん……?ってことはこの子ルーチェの孫?あれどっかで聞いたような……?

 

「お願いですスカル………ルーチェおばあさんの為にも…私達のためにも………生きて…くれませんか?」

 

もうあなたを傷付ける者はいない今の世界で、と付け加えたルーチェの孫をしげしげと見つめる。

ヒエラルキー最上位に君臨しながら他の遺伝子を蹴散らせて粉々に握りつぶしたレベルでルーチェと似てるけど、血って怖いね。

っていうかこれ今どういう状況……

困惑しているところにリボーンが俺の名前呼んできたので、思わずに俺の指を握ってる幼女の手を握り返してしまった。

 

「………悪かったな」

 

一瞬幻聴じゃないかと思ったけど、リボーンの口が開閉してたから現実っぽい気がする。

しかし何でコイツが俺に謝ってるのか分からず、更に困惑する俺氏…取り合えず黙っていようと思った。

決して怖くて口が動かないとかそんなんじゃないから。

謝罪するリボーンに、………何が?と思い当たることが沢山ある俺は一体どれに対してだと思い出そうとするが、いきなり渡されたものに思考が遮られ手の中にあるものをじっと見つめる。

手の中にあるのは新聞紙に包まれた一輪の白い花だ。

はて、何の意味で……え、お見舞い品のつもり?このどこかの道端から引っこ抜いてきましたーって感じの花をラッピングせずそのまま?謝る気ゼロ…ていうか悪びれもなく渡すその根性に脱帽だわ。

そのまま返品したいところだったけどそんな度胸俺には微塵たりともないので、この状況にどうすればいいのか分からず花を見つめ続ける。

 

「お前をより狂人たらしめたのは俺でありボンゴレだ、お前が水に流そうが九代目はそれを良しとはしないだろう……まぁ何だ……諦めろ」

 

そう言っては病室の扉に手を掛けたリボーンが、ふと足を止めた。

 

「あなたの幸せを祈っています」

 

ルーチェからの言伝(ことづて)だと言い捨てて病室を出ていくリボーンに俺氏愕然。

色々言いたいことはあるけど、取り合えずお前俺に謝る気ないだろ。

リボーンの台詞を思い返してみる。

狂人たらしめたってことは人違いだったことに漸く気付いたってことかな……?

んでもって水に流すってのはあれか、両成敗だからってこと?

確かに俺はリボーンの腕を撃っちゃったけど、俺はそれ以上に被害被こうむってますがこれ如何に。

あと九代目って誰……ボンゴレは確かカルカッサのライバル会社でマフィアと繋がってる系のブラック企業だった気がするけど、もしかしてボンゴレの九代目社長ってこと?

これって…………俺ボンゴレとかいう危ない企業から狙われてるってことでおk?

だって九代目はそれを良しとしないってことはあれだろ、水で流すわけねぇだろコラァ!ってことだろ。

アカン、死んだ………なにこれお先真っ暗すぎる。

怖くて思わず手の中にある白い花を握りしめれば、ルーチェの孫が俺の顔を覗いてきた。

 

「スカル…体の方は大丈夫ですか?」

 

思い返せば体中どこもかしこもバッキバキで、今更ながら痛いなぁって思う。

何であの怪我で生きてるんだろうって思ってたら声に出てたみたいで、ルーチェの孫が助かる見込みは限りなくありませんでした、と告げる。

 

「リボーンの応急処置と、バミューダの協力……そして何よりもあなた自身が、生きようともがいた結果です」

 

ちょっと待って、状況が分からなくなった。

何でリボーンが俺を助けるんだ?……仮に人違いがバレて急遽助ける羽目になったとしても、いつ人違いに気付いたんだ?

ルーチェの孫に聞いてみようとしたら、病室が勢いよく開かれた。

 

「スカルの目が覚めたって本当!?」

 

あ、頭大炎上してた子供だ。

少年と目が合えば気まずそうに目を逸らされた、辛い。

 

「ス、スカル……その、俺………お前をずっと怖い奴だと…勘違いしてたけど、本当はそうじゃなくって………えっと、……その…ごめん…なさい…」

 

あー…やっぱり俺の人違いの件は周知の事実ってことか、なるほど。

にしても俺が待ってたのは君みたいなちゃんと謝れる子なんだよ!

そこらに咲いてそうな花を一輪だけ持ってきて悪かったなの一言で済ますアホじゃあないんだよ。

 

「お前が無事で本当に良かったよ……多分これから他のアルコバレーノ達も来ると思うけど、皆お前のことちゃんと理解してるから安心してほしいんだ……」

 

その言葉を信じていいのだろうか………

疑心暗鬼になりつつも、取り合えず納得した俺は首を縦に振れば、少年はとても満足そうに笑った。

 

「あ、自己紹介がまだだった!お、俺沢田綱吉っていいます!えっと………中学二年生です!」

「そういえば私も…この時代で会うのは初めてでしたね……私はユニ、ルーチェは私の祖母で、母はアリアです」

 

ユニとな…はて、どこかで聞いたことがあるような…?

どこで聞いたのか思い出せず悶々としていると、再び病室の扉が勢いよく開く。

ああ、今度は誰だと思い視線を向ければ、ラル姉さんと金髪のお兄さんがこちらに近寄って来た。

 

「スカル、無事目が覚めて良かった……それと、今まで悪かったな」

 

何だか謝罪をしてるっぽいんだけど、隣の金髪のお兄さんの眼光が怖すぎて、ラル姉さんの言葉が耳に入ってこない。

怖すぎて声が喉を通らない俺が、口を開いては閉じてを繰り返していると、金髪のお兄さんが手を伸ばしてきて思わず身構えてしまった。

 

「ヘルメットの下がこんなガキとはな……おいスカルおめー呪いを貰った時いくつだったんだコラ!」

「…………」

「おいコロネロ、もう少し落ち着いた口調で話してやれ」

 

金髪のお兄さん……コロネロさんが俺の頭に手を置いたことにビクついてしまったことを気遣って注意してくれたラル姉さんに感激しながら、コロネロさんの問いに応えようと咄嗟に口を開いて俺はあることに気付いた。

 

 

俺今何歳?

 

 

やべぇ、ずっと赤子のままだったから全く歳数えてなかった。

自分で自分の誕生日祝う虚しさを思い知った日から祝うことをやめた俺が誕生日なんて覚えているわけがない。

ひーふーみー…と、両手を広げて指を順に折っていきながら自分の年齢を数えようとして、(おぼろ)げな記憶で数えれば15で指が止まる。

そうだよ、チャコが死んだのが14歳のクリパの時だったから……えっと………15で無免許運転…………16でバイト?

あれ?ってことは俺そろそろ40?いやもう既に……?前世合わせたらシニアに片足突っ込んでんじゃん。

全然精神的に成長してないのはこの身体のせいなのかなぁ……

 

じゅ……じゅうろく…………?

 

自信なさげに告げれば案の定というかなんというか……その場にいた人たちの顔が歪んだ。

自分の年齢くらい把握しろやってことですかごめんなさい。

いや普通二十歳過ぎてから自分の年齢なんて数えたくなくなるだろ……

 

「俺と二個違い……そんな年で…アルコバレーノの呪いを貰って……」

 

少年の眼差しが哀れみを帯びていてむず痒い……俺的にこの呪いはラッキーだったとしかいいようがないわけで、他の連中みたいに必死に解きたいとか思ってたわけじゃなかったからなぁ。

あとコロネロさん、俺の頭撫でないで貰えますか?一応そこ怪我してて地味に痛いんです。

そういえば何で元の姿に戻ってるんだろうか。

自分の手のひらをまじまじと眺めていたら綱吉君が俺の思考に気付いたのか、元の姿に戻った経緯を教えてくれた。

ちょっと専門用語多くて意味が分からなかったけれど大雑把にまとめると、今はまだ呪いが解けていない状態で、これから日本に行ってちゃんと呪いを解いてもらいにいくらしい。

 

「呪いが解けた後のことはまだ分からないけれど……スカルがやりたいことをすればいいんじゃないかな…」

 

正直元の姿に戻っている今、俺のやりたいことって叶わない気がする。

ダメ元で自由(ニート)になりたいと言ってみれば即却下された…つらい。

 

「ま、まだ…お前が知らないだけで世界は広いんだ……少しでもいいから世界を…本当の目で、感情で…見てみなよ」

 

少年に社会復帰を諭されるとかなにこれ拷問か何か?

綱吉君の言葉に言い淀む俺の頭から手を離したコロネロさんが口を開く。

 

「カルカッサなら問題ねぇぜ、さっきボンゴレがヘルメットと一緒にお前の死亡報告をしてきたからな」

「え」

「あいつらが狂人スカルを崇拝している限り、お前は一生縛られたままだと思った俺達の総意でありエゴだが……お前は一度自分の足で手で、目で…生きてみた方がいい」

 

きっと生きるための何かを見つけられるはずだ、と付け加えるラル姉さん。

しかしながら俺の頭の中にあるのは、死亡扱いではあるもののあのカルカッサ企業を退職出来たという事実だけである。

僅かばかりの愛着なんて退職出来た喜びの前ではちっぽけな存在であり、正直このままどこにも就職せずに貯めに貯めた貯金で一生ニートしていたいが、目の前の人間たちがそれを見逃す奴等ではないことくらい分かっているので、建前だけでも満足させればあとは放って置いてくれるかなと思った俺はそれとなく納得する素振りを見せようとした。

 

い、生きるための……何か………

「狂人スカルは死んだ、これからはお前だけの人生を、生きて、歩いてみろ」

 

コロネロさんの言葉に思わず固まる。

え、本物の方死んじゃった感じですか?そうですか。

だから俺が全く無関係の一般人スカルってことが今頃分かったのかぁ。

何だか急に安堵が胸の中に広がってきて、俺は漸く呼吸が出来たような感覚に陥った。

いやちょっと待て、まだ九代目とやらの怒りが残ってるわ、やっぱ俺死ぬかもしんない。

そんなこと思っていると、失礼すると声がして病室の扉がゆっくりと開いて、ヴァイパーとヴェルデが現れる。

二人の包帯がちらちら見える姿にその元凶が自分であることに気付いた俺は、非常に気まずいまま視線を落とす。

 

「ふぅん…盗み聞きするつもりはなかったけど君がそこまで若かったなんて予想外だね、ま、元の姿に戻ったところで君の利用価値なんてありはしないよ……どこか僕らの視界に入らないところへ行って欲しいね」

「全くだ、私よりも一回り以上も年下であるただのガキが選ばれる素質を持っていたことが癪に障る…もう会わないことを願いたいものだ」

 

予想以上にディスってくる二人に盛大にダメージ喰らった俺が意気消沈していると、横でラル姉さんが溜め息を吐く。

 

「お前たち……素直に励ますことも出来ないのか全く…」

「あいつらああ言ってるが、ちゃんとおめーのこと心配してたからな」

「「ち、違う!」」

「お前にこれまでとは別の、新しい人生歩んで欲しいと言いたいだけだからそう真摯(しんし)に捉えるな」

「「ラル‼」」

 

コロネロさんとラル姉さんの言葉に思いっきり異議ありとでもいうかのような不満を(かも)し出してる二人なんですが、普通に俺が嫌いなだけだよね。

二人の気遣いが胸に沁みるぜ………

そのあと風が顔を出してきたりと、人生で一番賑やかだった気がする。

日本にはあと一時間もしたら向かうと言ってはユニちゃん以外出て行き、静まり返った病室でユニちゃんが声を掛けてきた。

 

「スカル、水でも持ってきましょうか?」

 

あー……そういえば喉乾いてる、と気付いた俺は素直に頷けばユニちゃんが嬉しそうに病室を出ていく。

一人になった病室で一息ついた俺はふと思い出した。

 

 

 

あ、そういえばポルポ………

 

 

 

この数分後、ボンゴレ本部に謎の生物が襲撃してきたが今の俺に知る余地はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

リボーンside

 

鼻を掠める香りを目線で辿れば、色取り取りの花が己の花弁を主張して咲いている。

そこはボンゴレ本部から歩いてすぐのフローリストで、昔から建っていることから存在を知っていた。

店へ足を運べば、中から初老の女性が現れ声を掛けられる。

 

「あら、何をお求めで?」

「ああ………」

 

           『希望よ』

 

いざ口からその花の名前を呟こうとすれば、ルーチェの言葉が脳裏を過ぎて言葉が喉で突っかかった。

 

「あの…?」

「…スノー、ドロップを……」

「スノードロップ……恐れ入りますが、贈り物でしょうか?」

「いや……頼まれてな」

「そうですか、何本お持ちしましょうか」

「一本だけ」

「かしこまりました」

 

喉から絞り出したそれは、俺がずっと忌み嫌っていた名前だった。

少しでも調べればすぐに分かるであろう花言葉を、ずっと調べられずにいた俺への当てつけだとでもいうかのように頭を垂れている花弁が脳裏を過ぎる。

贈り物なのか聞いてきた初老に否と告げれば頭を下げて店の中を奥へと進んでいった。

初老の手にある記憶と違わぬ白い花に、先ほどの言葉に疑問が生まれる。

 

「マダム、少し聞きたいことがあるんだが…」

「何ですか?」

「スノードロップを贈り物かと聞いた時に顔が強張ってたが、何か不都合でもあるのかと思ってな」

「そうですねぇ…スノードロップは人に贈ってはいけない花でして……取り扱ってる店もここらじゃこの店だけですよ」

「贈ってはいけない?」

「ええ、スノードロップの花言葉は『希望』、『慰め』ですが、贈り物となると『あなたの死を望みます』となるんです…イギリスから来る古い言い伝えですけどね」

 

なるほど、ヴェルデの言葉が嘘であったわけでもなかった…ということか。

恐らく贈り物になれば意味が変わる花言葉をスカルが知らなかった……花言葉を気にしそうな(たち)じゃなさそうだしな。

新聞紙に巻かれた一本の花を見ながら、会計を済ませた俺は店を出てはボンゴレ本部へと向かう。

 

「希望………か…」

 

ユニが何故俺にこの花を頼んだかなんて気付いている分、本部へと向かう足が進まない。

確かにスカルに対して悔恨はある、同情も……ある、自分が仕出かしたことの尻拭いくらいはするつもりだが、何が悲しくて男に贈る花を買いに行かなきゃならねぇんだって話だ。

しかも未だに毛嫌いしてる花を、だ。

無意識に漏れた舌打ちが不満を語るが、胸の内に巣食う自責の念は消えることなく自身の腕と腹の痛みを助長する。

これ以上考えても無駄だと分かりつつも、目的の部屋まで近づくにつれ足が重い。

風の言う通り俺達はあいつとは向き合わなきゃならねぇってのに………無様なもんだ。

内心ため息をつきながらも病室の扉を開けようとしたところで、扉越しにユニの焦った声が聞こえ扉を開く。

 

「どうしたユニ」

「い、今…スカルが反応して…」

 

そうユニが告げると共に、スカルの眉が僅かに歪められた。

 

……ん…………

 

ゆるりと開かれた瞳が天井を見つめ、次にユニへと視線が移れば、ユニがスカルの右手を握り直し言い聞かせるように呟く。

 

「スカル……ここにはもうあなたを傷付けるものは何もありません」

ほん、とう……に?

 

夢現(ゆめうつつ)な様子のスカルから発せられた声は、掠れていて今にも掻き消えそうなほどか細い。

 

「はい、怖いことも苦しいことも…辛いこともない……安全な場所です」

……よかっ…た………じゆう、だ…

 

自由、それが奴にとって何を意味するかなんて分かり切っている身としては、眉を顰める他ない。

死んだと、思っているのだろうか……ユニもそう悟ったのか、ゆるりと首を横に振るう。

 

「………いいえスカル、あなたはまだ生きています……生きて、幸せな人生を歩むのです」

 

ユニのその言葉を皮切りに青白い顔色をさらに悪くするスカルの瞳に浮かんだのは、まさしく絶望だった。

生きていることへの絶望を突きつけられた奴の震える唇からぽつりと言葉が零れる。

 

 

死にたい……

 

 

それは心の底から願っていた本心だった。

思わず表情が崩れそうになり、取り繕った俺の今の顔は決して人に見せれるようなものではないだろう。

その紫色の瞳から零れ落ちる涙は何を思って流したのかなんて………身に付けた読心術がこれほど憎たらしくなったことなどない。

 

「泣かないでスカル…生きることは決して怖くありません!」

「ルーチェおばあさんはあなたを最後まで想っていました……死んでも尚ずっと……あなたの心配ばかりしていました…」

「お願いですスカル………ルーチェおばあさんの為にも…私達のためにも………生きて…くれませんか?」

 

今にも泣き出しそうなユニの言葉にスカルはひたすら困惑している様子で、死を願われて来た奴からしたら今のこの状況が理解出来ないのも無理はない。

これ以上生きたくないと涙するガキと、死んでほしくないと縋る大空は何よりも眩しく見えた。

俺は無意識に花を強く握りしめていた手から力を抜き、奴の名前を呼べば目線が交差する。

俺を捉えるその瞳が、紫色の瞳が、恐怖に満ちた瞳が、何よりも俺を惨めにしてくれる。

 

「………悪かったな」

 

この一言で目に見えて動揺を表したスカルに、今更本人の目の前でユニに渡しても露骨なだけかと思い手元にあった花を放り投げるように渡す。

一本の花を見つめるスカルがそれが何の花であるのか気付いたのか、何故とばかりに訴えくるその瞳に、俺は目を伏せて告げる。

 

「お前をより狂人たらしめたのは俺でありボンゴレだ、お前が水に流そうが九代目はそれを良しとはしないだろう……まぁ何だ……諦めろ」

 

お前に死ぬという選択肢はない、と遠回しに伝えれば目を見開くスカルを横目にそのまま退室しようとして足を止める。

 

「『あなたの幸せを祈っています』」

 

ルーチェの最期の言伝(ことづて)を伝えた俺は今度こそ病室を出て行った。

ツナや他の奴等にあいつが目を覚ましたことを知らせに本部の長い廊下を渡りながら思考に耽る。

あの九代目のことだ…コイツに対して過剰なほどの措置を取るに違いない。

いや、それだけのことを俺達はしたのだから、九代目の判断は間違っちゃいないだろうが。

それでコイツが平穏を手に入れられるかなんて誰にも分からないのだ。

過去に囚われ、狂気に縛られ続けたコイツが……今更陽だまりに戻って何を望むのかなんて、いや…何かを望むことすらももう分からないのだろうから。

他の奴等に知らせるだけ知らせ、九代目の執務室へ足を向ける。

 

「そうか……目が覚めたか」

 

ため息混じりにそう零した九代目の目じりに存在する小皺が心労を主張しているようだった。

 

「既に時間はない、一時間もすればあいつも日本へ連れて行くつもりだ」

「分かった…だが、呪解出来た後も完治するまではボンゴレが彼を預かろう…暫くカルカッサが荒れるじゃろうし」

「だろうな、他のファミリーには?」

「通達しておる、幸い狂人スカルの素顔を知るのは限られた者のみ…そのまま死亡扱いとすることにしたのじゃ」

「それが、本人にとっても都合いいだろう」

 

()()スカルは死んだ。

素顔すら分からぬ狂気は、誰にも見られることなく死んだのだ。

スカルという名前だけが残った中身が空洞のあいつを誰も()()スカルとは思わないだろう。

一人の人間に恐怖を押し込み、縛り、狂わせ…膨らんだソレは跡形もなく破裂し消えていく様を、あいつは何を思いながら眺めるのだろうか……

ボンゴレや世界への憎悪ならそれもまた責めることの出来ない事柄で、悲嘆に暮れるというのならばそれもまた受け入れるが、全てを投げ捨て死に急ぐのならば……それを俺はどうすればいいのか。

ツナなら必ず止めて説得しようと試みるが、今やあいつの中身は空っぽだ。

軸とすべきものがないアイツに、誰の言葉すらも届かないことなんて明白だ。

長期戦だな…と零した俺の独り言を九代目が拾う。

 

「お前も何やら考え込んでいるようじゃなリボーン」

「大空に頼まれてな、それよりも—————」

 

「九代目!謎の生物が本部に襲撃してきました!現在他の守護者が討伐に向かっているようですが戦況は劣勢です!」

「何!?」

 

急に執務室の扉が開き部下が現れては、焦った声で襲撃の報告を受けた。

最初はカルカッサかと思ったが、直ぐにその生物の正体に思い至る。

 

「おい!直ぐに全員退避させろ!奴は古代生物だ!」

「まさかスカルの使役しているっ…」

「くそっ、ラルの報告で生存の可能性は疑っていたが俺達の居場所を特定されたのは予想外だな」

 

バミューダの瞬間移動を使ってここへ来たので、俺達の痕跡は一切なかったはずだ。

油断した…!相手は常識なんぞ通用しない古代生物だというのに。

九代目も俺の言葉に危機感を覚え、前線で古代生物の足止めをしている彼らの元へ向かおうとした。

既にあの生物が猛毒を持っていることを九代目は知っているが、俺達アルコバレーノが全員で立ち向かって辛勝した相手に九代目が単独で挑むことの勝率がかなり低いことを分かりきっている俺は、報告に来た者に他のアルコバレーノ達にも知らせるよう頼んだ。

こんな短時間でスカルの居場所を特定し、襲撃出来るほど回復する古代生物に今度こそヤバイな…と嫌な汗が背中を伝う。

本部の正面に近付くにつれ、騒音が大きくなり、遂には俺のすぐ近くの壁が壊れた。

瓦礫が足元に散らばる最中、聞こえるのはこの世のものとは思えぬほど低く(おぞ)ましい雄叫び。

間違いなくあの古代生物だと確信した俺は目の前に舞う埃を片手で払えば、案の定目線の先には存在を主張する巨大があった。

 

「蟻は蟻らしく……潰れて死ね‼」

 

禍々しい8本の足が周りを破壊しながら地面を這う姿に、俺は咄嗟に声を張り上げる。

 

「止まれ!スカルは生きてる‼」

 

ぎょろりと二つの目が俺を捉え、挙動が止む。

赤黒い血を垂れ流す巨体から見え隠れするギラついた牙と、黒い炎に目を見開いた。

あれは……夜の炎……なるほど、だから俺達の居場所を特定し現れることが出来たのか。

 

「貴様か………主はどこだ……戯言を申せばその心臓、二度と動かぬと知れ」

「……スカルは今目を覚ました、お前がここで暴れないというのなら案内する」

「駆け引きを申すかコバエ………身の程知らずがっ」

 

奴の怒気が肌を突き刺し腕と腹の傷が一際痛みを発するが、それをおくびにも出さぬまま睨み返す。

憎悪が今にも己の体全てを侵食しようと這い寄ってくる奴の夜の炎は、バミューダの比ではない。

少しでも気が緩めばすぐさま俺を飲み込み、容易く命を奪うだろう。

今までにないほど重い空気が張りつめる中、悲鳴をあげる腕と腹を歯を食いしばることで耐える。

双方動かず睨み合いが続けば痺れを切らすのはあちらで…その前に早く事態を聞きつけたコロネロ達がスカルを連れてくればこの場を収められる。

背中を伝う汗が傷に沁みてじくじくと痛むが、そんなことに顔を歪めていられない程神経が麻痺しそうになる炎圧が俺と隣にいた九代目を襲う。

腰に差している拳銃を抜こうと指の神経に集中したその瞬間、今まで俺を押し潰そうとしていた炎圧が急に消え去り、いきなり消えた炎圧に驚いた俺が生理的な瞬きを一つ、一秒にも足らないその合間に目の前の古代生物が忽然と姿を消していた。

残ったのは夜の炎の僅かな残骸だけで、一体どこへと視線を周りに移そうとした時、背後から叫びが聞こえた。

 

 

「主‼」

 

 

焦ったようなその声と共に感じる夜の炎の気配に後ろを振り向けば、数百m先に古代生物が瞬間移動していた。

瞬時に、古代生物が瞬間移動した方角がスカルの治療室だったことに気が付くが、俺の視界に入った光景は予想の斜め上だった。

 

 

 

 

俺の目の前で、動くことさえままならないはずのスカルが、4階の治療室の窓から落ちたのだ。

 

 

 

 

 

 




スカル:ポルポがいないことに遅れて気付く、スノードロップについて綺麗サッパリ忘れている。
ポルポ:死んだと思った?残念生きてたよ!憎悪によって死ぬ気の到達点にいっちゃって瞬間移動でボンゴレ本部にまで押し掛けた有能なセコム。
リボーン:フルボッコなう、最後の光景で寿命が三年くらい縮まったかもしれない人。



【挿絵表示】

描いてて気に入ったのでこれあらすじに貼り付けます。

呪いを受けた時の年齢+アリアの寿命(ここでは23年と仮定)を前提として計算すれば以下の通りになります。

スカル:39歳(当時16歳)原作でも一番若そうに見えた…多分原作じゃ19~22くらいじゃないかな。

マーモン:推定48歳(当時25歳)アルコバレーノの中でスカルの次に若そうな印象だったから。

リボーン:推定49歳(当時26歳)最強の殺し屋とか言われてるし妥当かな…?

コロネロ:推定49歳(当時26歳)リボーンとコロネロは同郷だし同い年っぽい、間違ってもリボーンより年上ではない。

風:推定50歳(当時27歳)精神的に一個上っぽかっただけ。

ラル:推定52歳(当時29歳)コロネロの上官だから必然的に年上かなぁっと。

ルーチェ:推定52歳(当時29歳)なんか年上っぽそうだなぁと(※妊婦フィルター)。

ヴェルデ:推定53歳(当時30歳)顎鬚(あごひげ)で老けて見えたので取り合えず最年長組。


>何故アリアの寿命?
(アニメ版と原作を重ねたら)虹の代理戦争の手前でアリア死んじゃってることになってて、アルコバレーノの呪いを掛けられる時にルーチェは既に身籠っていたので、必然的にアリアの寿命がアルコバレーノ期間になります。
因みに私的にアリアの年齢は23~29くらいかなーと思ってます…
結論から言うと、どれだけ足掻いてもアルコバレーノ勢は45~60くらいの年齢(一部シニアに片足突っ込んでますね)。
※今作のスカルは年齢弄ってるのでギリ40手前なだけで、原作じゃ40超えてると思います。

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