沢田綱吉(原作)side
「午後三時に綱吉君がスカルにバズーカーを打つ、相互確認は終えたよ」
正一君がパソコンに表示されている時刻を眺めながらそう呟き、俺は緊張を隠さず唾を飲み込む。
どちらの世界も今回の騒動に関して、時間に余裕がないと分かってから早かった。
白蘭の協力で日取りを決めて、細かい時間まで正一君の指示で決定し現在に至る。
バズーカーはランボから借りることになったが、またそこでもひと悶着あり、リボーンがランボを殴って気絶させたことで収まった。
スカルは自殺を試みたあの日から部屋に籠って外に出ていない。
流石に夕飯は顔を出すけれど、日に日にやつれていく様子に何て声を掛けていいのか分からず言葉に詰まる。
顔色が悪いけど大丈夫、なんて何度目か分からない言葉を繰り出しては、返ってこない言葉に遣る瀬無くなった。
小さな首に施された包帯が、あの
心臓に悪いどころじゃないと冗談交じりに笑い飛ばせればどれだけマシだったことか。
俺達だけじゃ対応の仕様がないこともあってあちらの世界に帰すけれど、戻った先がスカルにとって安心できる場所じゃないかもしれないとか、余計なことまで考えてしまう俺は少し精神的に参っていたのだと思う。
山本や獄寺君、それにスカルと仲の良かった炎真君がスカルを心配している素振りを見せてたけれど、スカル自身部屋から出ようとしないから、周りがもどかしい思いをしてたことだけはなんとなく分かってた。
なんの解決もしないまま時間だけは過ぎてスカルを元の世界に帰すことになってしまう。
部屋から呼び出されたスカルは周りを警戒しているように見渡していて、一度だって安心してはくれなかったことが悲しくなった。
俺は
「スカル、3時丁度にバズーカーを打って、あちらの世界に帰すよ」
スカルの汗が浮かんでいる小さな手は僅かに震えていて、心なしか顔色がいつもより酷い。
ふらつくスカルを咄嗟にリボーンが背中を支えることでなんとか踏みとどまり、スカルが覚束ない歩みで近寄ってくる。
俺が出来ることなんてなかった。
何もなかった。
どれだけ助けたいって思っても、助けられなかった。
声が、届かなかった。
遠すぎたんだ。
「スカル…」
バズーカーを傾けてぽつりと名前を呼べば、ふと目線が交差した。
時計の針がカチリと音を立てて90度を知らせる。
「あっちの世界でも元気でね」
引き金を引いた先に見えたのは
魅入るほど美しいアメジストではなく
ただただ 絶望し すべてを諦めきっていた 濁る瞳だけだった
俺はその目をこの先ずっと ずっと 忘れることはないと思った。
スカルside
「スカル、そろそろ時間だよ」
洗面所カミソリ事件の後、何だか皆が俺のことを凝視してくるので出来るだけ部屋に籠ってたんだが、やっぱり断りもなくカミソリ使ったこと怒ってんのかな。
あの一件から誰かと鉢合わせしないように過ごしていたが、今日、綱吉君が部屋まで入ってきてリビングに来るように言われた。
そろそろ時間だよ…って…何が?
え?ん?あ、昼飯ってことか?待てよ、もう3時だぞ?
いやまあ俺は昼まで寝てたからまだ食べてないけど、起きたんならはよ食えってことかな。
頭上に疑問符を浮かべながら恐る恐る階段を降りると何故か人が集まっているという珍事態。
どういうことなの。
綱吉君の周りに友達らしき男の子たちが数名いて、リボーンもいるという謎状況、その上集団の真ん中にいる綱吉君に至っては何か物騒な玩具を手にしている。
なにこれ怖い。
俺何されるの?
いつもへらへらしてる綱吉君が硬い表情してるから余計に怖いし、正直二階の部屋に逃げたい、切実に。
「スカル、3時丁度にバズーカーを打って、あちらの世界に帰すよ」
んんんんんん?
え?………はい?………ごめん何て?
バズーカー?綱吉君の持っているその物騒な玩具のことかな?
それを打つの?誰に?
………もしかして:俺
………?……………!?
嘘やん、そんなものぶっ放されたら死んでしまいます。
あ、あちらの世界ってそういうこと?
あの世的な……?そういうことなの?
え、なにこいつらめっちゃ怖い!
いやだあああああああああああああ!
咄嗟に後ろへ一歩下がろうと体を傾けると、背中からがっしりと押さえられた。
言わずもがなリボーンである。
コイツぅぅぅぅぅぅうううううう、マジで許さん。
逃げるんじゃねえよ、って感じで背中を押してくる。
死にたい。
違う、死にたくない。
何で?何で俺殺され掛けてんの?
ニートに慈悲はないってか、死ねってか、え、イタリアから拉致監禁してPCを取り上げた上、バズーカーで死ねと?
悪魔かコイツら。
綱吉君の周りにいる男の子たちがこの状況を静観してるってことは、コイツらグルかよ、オワタ。
怖すぎて顔から血の気が一気に引いた気分になった俺はひたすら背後で逃走経路を潰してくるリボーンに殺意が湧いた。
「スカル…」
ぽつりと綱吉君が呟いた俺の名前に顔を恐る恐る上げると、ふと目線が交差した。
綱吉君は苦笑しながらバズーカーを俺に向けてきて、俺はそこで初めて悟る。
あ、死んだ。
涙が出る余裕がない瞳は瞬きも忘れて、渇きを訴えている瞳の瞳孔が僅かに開いていく感覚だけが脳へと伝達される。
喉が張り付いていて、僅かに開かれた口からは音のない吐息だけが漏れた。
「あっちの世界でも元気でね」
綱吉君の引き金を引く指の動きがひどく遅く見えて、発射口から放たれた弾丸らしき何かが視界の真ん中に映った。
そして俺は漸く思考する。
元気もくそもねえだろ、って声に出して叫んで、逃げて、隠れて、やり過ごして……そこまで考えて目の前の現実から目を逸らそうとしたその時、俺の頭に三つの選択肢が浮かんだ。
➀頭の良いスカルは突如回避のアイデアがひらめく
➁
➂かわせない。現実は非情である。
➂ですね、わかります。
視界のすべてが真白に覆われ、いきなり体を襲う浮遊感に目を
死ぬときってこんな感覚なのか………まるで空中に放り出されたような――――――…
「スカル!」
ふと耳につんざくような声が届いて目を開けた。
視界は白い煙に覆われ目の前を何かが掻き分けている気配だけが伝わる。
にゅっと煙から這い出てきたのは、暫くぶりに見かけるペットの足で、俺は幻覚じゃないだろうかと咄嗟にそれを引っ掴んだ。
「ポルポ…?」
無意識に零れた名前に反応したのか、手の中の一本の足が小さく揺れ、次の瞬間体が軋むほど締め上げられた。
それが抱きしめられていると気付くまで数秒かかり、圧迫される内蔵が悲鳴をあげ意識が遠のきかけたところで漸く解放される。
「スカル、スカル……」
ゼーゼーと息が上げる俺にお構いなしのポルポは、泣きそうな声で俺の名前を呼んでいるが、俺は状況が分からず困惑するばかりだった。
あれ………?俺、死んだハズじゃ…………
でもポルポいるし、なんかイタリアの家に戻ってるし………あれ?
下を見て足があるか確認したが、ちゃんとついているということは死んでいるわけじゃないのか?
死んでないならさっきのは何だ?夢?
周りを見渡しても分かるのは、自分の家ということだけで、何故ポルポに抱きしめられているのかが分からない。
煙が完全に無くなったころには、その場に数名人がいることに気付く。
「スカル!良かった、戻ったんだね!」
「おー、心配したぜー」
その声の主は、先ほど俺にバズーカーを向けていた綱吉君と、その友達である黒い髪の男の子だ。
俺は殺されかけたことを思いだして咄嗟にポルポにしがみつきながら状況を整理しようと努める。
どうなってるんだ?
夢?まさかの夢オチ?
いや確かにいきなり日本にいたり、PCのない生活だったりと非現実すぎたけど、あれほどリアルな夢ってありえるのか?
確かに中学生が普通バズーカーで人殺すわけないよな。
夢か、夢だ、夢だったんだ。
じゃあ今が現実で…イタリアで、ポルポいて、PCあって、ゲーム出来て………
ゲーム!
俺はポルポの足から抜け出して、一目散に部屋に走り込み、部屋のドアを勢いよく開ける。
ドアは反対側の壁にぶつかるように乱暴な音をたてたが今の俺にはそれを気にする余裕はなく、すぐさまデスクの上に設置されているPCを起動し、ゲームのアイコンをクリックした。
するとどうだろう、ディスプレイにはログイン画面が表示され、IDとパスワード入力画面に切り替わる。
その光景に思わずほろりと頬に雫が伝い、止めどなく溢れた。
そのままキーボードに手を置くと、ぶわりと鳥肌が立つほど感動に打ち震え、今すぐにでも部屋の鍵を閉めろと本能が叫んでいるような気がした。
だが僅かばかりの理性で欲望を押しとどめ、取り合えずPCをスリーブモードにしてから、部屋の外から響く足音に耳を傾ける。
「スカル、どこか具合が悪いの?」
静かに、しかし気遣う音色を漂わせるポルポの声に、俺は乱暴に開かれたドアへと徐々に目線を上げる。
「どうして………泣いているの?」
そう言われて初めて自分が泣いていることに気付き、頬に指を滑らせ透明の雫で指を湿らせた。
すん、と鼻を啜りパーカーの袖で顔を強引に拭う。
なんでもない、と言おうとして喉が引き攣る。
ポルポの心配そうな気持を表しているように足が俺の周りを弱弱しく漂っていた。
そんなポルポを安心させてやりたいという思いも少なからずあったけれど、俺の中には確かな安心で埋め尽くされていて、周りを気遣う余裕すらないのだ。
「どこか…痛いの?」
ポルポの優し気な声も相まって、今まで溜まっていたストレスが全部吐き出されるようにみっともなく泣き出した。
引き攣った声しか出なくて、堪えることすら忘れた涙腺からはただただ透明な雫が溢れ出す。
恥も外聞もなく泣き出した俺に困惑しているポルポの、困ったように揺らついている足だけが、今の俺の波打つ心情を表現しているような気がした。
後日、当然のように連日ゲームする為に引き籠った俺は悪くない。
リボーンside
「こ、これで本当に戻れるのか~!?」
「うん、戻れると思う」
バズーカーをまじまじと見つめながら何度も確認してくる目の前のスカルは、能天気にジュースを飲んでいる。
3時まで残り5分を切っていて、ツナもどこかそわそわと落ち着きのない様子で時計を見ていた。
カチリと短針が傾いていく音が響き渡り、ついに一分を切るとツナがバズーカーを持ちスカルへと向ける。
「これ死なねーよなー!?」
「死なないよ、飛ばされる前も打たれたろ…」
「それもそうか!」
カチリ
90度の針が視界に入ると同時に、目の前にいたツナとスカルを中心に白い煙が巻きあがる。
山本達や獄寺がツナに駆け寄り煙を散らしていると、近くで様子を見守っていた古代生物が動き出した。
ツナがスカルの名前を短く呼ぶ最中、古代生物の触手が煙の中へと伸びていき何かを探るように揺れている。
そんな時、小さな声が、集中してなければ聞き逃したであろうか細い声が、僅かに俺の鼓膜を震わせた。
「ポルポ…?」
瞬間数本の触手が煙の中へと消えていき、一気に煙が散布する。
「スカル、スカル……」
愛おしい存在を確かめるように嘆かれた声と共に紫が
煙を勢いよく吸ってしまったのか呼吸が安定していないそれは、胸を激しく上下させている。
皺を寄せている眉間と薄く開かれた瞼が見え、その奥に潜む瞳を視界に捉えた。
アメジストの奥に潜む困惑、恐怖、疲労を感じとった俺は妙に懐かし気な気分になる。
戻って来た、と瞬時にわかるほど俺はその瞳の奥の仄暗い感情に思い馳せていたのかもしれない。
次に視界に入ったのは奴の首に巻かれている白い包帯だった。
包帯を巻くようなことが起こった、という事実に眉を顰める。
胸を撫で下ろすというには穏やかではない俺の心情に応えるように、スカルの瞳の奥もまた緊張が波打った。
「スカル!良かった、戻ったんだね!」
「おー、心配したぜー」
ツナと山本の歓喜する声が響く中、当の本人は古代生物にしがみつきながら乱れる呼吸を繰り返している。
今日この時間に元の世界に戻ることは伝えられているハズだ。
にもかかわらず何故ここまで混乱しているのか、それが分からずスカルに声を掛けようと口を開いたその瞬間、スカルが古代生物から離れ俺達の合間を縫ってリビングから走り去っていった。
急なことに反応出来なかった俺達を他所に、古代生物が即座に追いかける。
「ど、どうしたんだろう…」
「追いかけるぞ、ツナ」
「うん!」
困惑するツナにそう告げれば返事が返ってきて、俺達はリビングを出てスカルが向かったであろう自室へ足を向けた。
段々と目的の場所へ近づいていくにつれ、小さな掠れた音を拾う。
鼻を啜るような音と、漏れ出した吐息のようなそれが、部屋に駆け込んだあいつが泣いていることだけを知らしめる。
「どこか…痛いの?」
気遣わし気に呟かれた、人ならざる者の問いに応える声はない。
ツナもそれに気付いたのか僅かに開いている扉の前から動こうとはしなかった。
「ぅ………う"っ…」
すん、と鼻を啜る音が部屋の外にも響いていた。
あの世界で何を見たんだ。
お前が泣く程、幸せな世界だったのか。
狂人のいない、
罵倒も、殺意も、苦痛もない幸せな世界だったのか。
それだけ
なぁ そんなにあちらが 羨ましくて 辛くて 泣いているのなら
俺は一体お前に何をしてやれたんだ――――――――――…
壁越しに鼓膜を震わせる
ツナ(原作):このあと元のスカルが帰ってきて元気な姿を見て余計SAN値減った人。
スカル(原作):無意識SAN値チェックを仕掛けていった人、でも全部原因はSkullのせい。
スカル:ゲーム中毒症状でSAN値が減ってた人、しかし本人の周りはもっと被害が出ていた、元の世界に戻ったはいいけどそれから追い打ちSAN値チェックを周りに掛ける、さすがスカル!俺たちにできない事を平然とやってのけるッそこにシビれる!あこがれるゥ!
リボーン:このあと首の傷の理由を聞いてSAN値チェック掛けられる人、結果はお察しの通りである。
Skull側の皆:引き籠ったスカルに安心安定のSAN値チェック掛けられる予定。
これでトリップシリーズは終了です。
また通常の番外編に戻りますね。
まさか衝動で掻き始めてパート7まで書くとは思いもしませんでした(笑)