現在俺は日本にいる。
理由は至ってシンプル、気になっていたゲームソフトが日本限定でしか発売されていなかったからだ。
この時代にまだ通販という手段が世界的に普及していないので、現地に向かわざるをえなかった。
ポルポのお口の中で海を渡ること数時間、漸く日本列島の港に到着することが出来た俺は、目当てであるゲームソフトの在庫があると確認出来た並盛という場所へ向かっている。
以前日本に来た時も並盛という場所だった気がするなぁと
赤信号へと変わったのを見送ると、数台の車が煙を吐き出しながら走り始める。
近くを歩く小学生に背負われた黒光りしているランドセルや、電柱に貼られている広告のチラシを見ては日本だな…と少し懐かし気に思った。
青信号になったところで、消えかかっている横断歩道の白線を踏むように大股で歩こうと試みては失敗しながら最後まで渡り切った俺は、目と鼻の先にあるモールを視界に入れる。
「あれ?スカル君……ですか?」
「え?スカル君?」
自分の目的地がこのモールのどこかにあることは確かなので、正面玄関付近に設置されている案内板を探そうと自動ドアを潜り抜けたその時、どこかで聞いたことがあるような快活な声とお
俺がそちらに目線を受けると目線の先にいるのは女の子二人で、どこかで見たことあるような顔ぶれだ。
………誰だ。
何となく目の前の女性二人に関する記憶が朧気ながら浮かんでくる。
ゲーム譲った子と公園…いや川岸かな、そこで喋った子だと思うんだけど…間違ってたらどうしよう。
「はひ!?京子ちゃんもスカル君のこと知ってるんですか!?」
「ハルちゃんも知ってたの?偶然ね」
二人が和気あいあいと喋っている間でポツンと取り残されてる俺の空気感……会話は俺のことなのに。
このまま何も言わなければこいつら立ちながら一時間は喋り続けるんじゃないだろうかという勢いで喋っているわけだが、この場から抜け出したい。
そう思っていると黒髪の……ハルという女の子が何故ここにいるのかを聞いて来たので短く買い物、とだけ呟いた。
「スカル君はショッピングというわけですね!ハルもご一緒したいです!」
「私達もついていっていいかな?スカル君」
あれれ?
何で?普通ここで手を振ってバイバイで終わらない?
まあ女性の誘いを断るのは申し訳ないし、何よりも断った後が気まずいので首を縦に振ったところ、二人は笑顔で質問攻めしてきた。
日本には旅行に来たのか、親御さんはどうしたのか、何を買いに来たのか、日本が好きなのか、終わりの見えない質問攻めに既に気力がごっそり削がれた俺は小さくなったポルポにひっつきながらモール内を歩き出す。
一応案内板からして二階にありそうだということは分かったので、上の階に行くことだけ教えると、女子二人はエスカレーターのある方角へと向かう。
エスカレーターで二階へ着くと、俺はゲーム関係の店を探し始めたが、途中でトイレに行きたくなり二人を椅子のある場所で待たせて一人男子トイレへと向かった。
ポルポを男子トイレの前に待たせて、さっさと済ませようと子供用の便器を使おうとした時、遠くの方で何かが破裂する音が聞こえる。
「スカル」
風船か何かが破裂したのだろうかと思いながら手を洗おうとしたら、ポルポがトイレに入ってきて俺に声を掛けてきた。
「どうした?」
「今の銃声、危ないから帰ろう」
……………ぱーどぅん?
一拍して、外の方から多くの悲鳴が聞こえたところで俺は漸くポルポの言葉を理解した。
あれ?日本ってこんなに物騒な国だったっけ?
銃声……立て籠もり?それとも無差別…?
悲しいかな、リボーンのせいで銃声を聞き慣れている俺は、瞬時に避難ルートを頭の中で叩き出し、んじゃ逃げますかと思い立ったところで足を止める。
京子ちゃんとハルちゃんを思い出して、一人で帰れないことを悟った。
二人とも今どうしてるんだろう、俺のことを探し始めてたら申し訳ないし……一応合流するのが妥当かなぁ。
バタバタと沢山の逃げる足音と、数名がトイレに駆け込んでくる様子におどおどしながら人混みを縫って外に出ようと試みたその時、再び大きな聞き慣れた破裂音…否、銃声が響いた。
「誰も動くんじゃねぇぞ‼逃げても無駄だ!階段は閉鎖してあんだからなぁ!」
男の人の野太い声が聞こえる中、トイレで騒いでいた人たちが一旦静まり、次に恐ろしくなったのか震えだす。
大人は無理だが子供である俺ならトイレの小さな扉から出ることは出来るんだよなぁ…あー、逃げてー。
「おい早くこっちに来いっつってんだろ!殺すぞ!」
野太い怒鳴り声と共に数発の銃声、そして大勢の悲鳴が聞こえる中、俺はトイレから少しだけ顔をだして近くにあった植木鉢の陰に隠れる。
観葉植物の隙間から銃声と犯人のいる方向を覗いてみると、案の定この階の買い物客や店員が一箇所に集められているところだった。
この様子じゃあトイレも見回りが来るんだろうなぁと思った俺は、隠れる場所を探す為に見える範囲で見渡す。
四階まであるモールは真ん中が吹き抜けで一階が見渡せるようになっていて、真ん中の吹き抜けを通り越した向かい側にファッションコーナーが広がっていた。
比較的隠れやすいと思った俺は忍び足でそちらへと走りだす。
背後からポルポがついてくるが、ポルポをどこに隠そうか……いやここはぬいぐるみとして振る舞ってもらえればなんとかなるか?
まあバレてもポルポなら大丈夫だろうとは思うが。
「!…ポルポ、こっち来い」
ブーツの駆ける音を聞いて、衣類が仕舞われている引き出しの中にポルポと共に隠れると、カツカツと足音が店内を彷徨っている。
隠れてる人を探してるのかな?
「トイレの方は全部調べたか?」
「ああ、にしてもこれから人質は全員地下のホールに連れて行くんだろ?」
「人数は三百ちょいか…まあまずまずだろ、どのみち全員殺すだけだ」
「さて、と……一応ここまで爆発の範囲内だし、行くか」
「ああ」
ん?今なんて?爆発の範囲内?
そそくさと足音が段々と遠ざかっていく中、俺は嫌な汗が背中からぶわりと浮かび上がり引き出しを開け外に出ようとした。
刹那、耳に衝撃が伝わる。
「!?」
いきなりクラッカーを耳元で当てられたような衝撃に驚くが、自身に何の衝撃もないこと気付き目線を上げれば、ポルポが俺を衝撃から庇ってくれたことが分かった。
俺のペットが有能すぎる件について。
ガラガラとコンクリートが崩れる様子から見るに、隣の店で爆弾が爆発でもしたのだろうか。
俺が隠れていた引き出しは位置がかなりズレていて、部屋の中央にあったはずなのにいざ外を見ると部屋の隅まで移動していた。
それほどの衝撃があったのか。
「ポルポ、近くに人いるか?」
「……人はいるけど、生きていない」
おおう、初っ端からヘヴィ。
今更ながら怖くなってきた、逃げたい。
でもあの子達が……マジでどこにいったんだろうあの子達。
取り合えず人質が連れていかれた地下のホールとやらに行って彼女達がいるかだけ確認しよう。
いなかったら悪いが帰ろう……命、大事に。
「ポ、ポルポ……地下のホールを探そう……あの子達がいるかもしれない」
「助けるの?」
「……」
「逃げようよ」
「………でも…」
警察に任せればいいじゃないか。
待て、警察に任せて済んだことが今までにあったか?
でもここは日本だ。
イタリアと違って警察は優秀かもしれない。
じゃあ警察に頼んで俺はイタリアに帰る……?
でも……
ん?待てよ。
京子ちゃんとやらは綱吉君の友人じゃあなかったか?
それってもしも俺が彼女達を見限って先に逃げることがあったとして、彼女達が運よく生き残ってそれが綱吉君にバレると仮定しよう。
綱吉君にバレる=リボーンにバレる=死
あ"あ"あ"あ"あ"あああァァァァァ
「助けなきゃ…」
じゃなきゃ俺が死"ぬぅぅぅぅううううううううう
涙目でポルポに縋れば、ポルポは何も言わずに頷いてくれた。
これは何としてでも助けなければ。
勿論ポルポがな!(集中線)
鉄の匂いと壊れた壁の埃っぽさが鼻を掠め眉を顰めた俺は、ファッションコーナーから出て吹き抜けから上の階と下の階を順に見ていく。
下の階の人は誰もいなく、既に連れていかれたのが分かる。
上の階は二階と同様爆発されたのかパラパラとコンクリートの破片が降って来た。
視界の範囲内で人は見えず、それなら階段か非常用階段で移動しているかもしれないと思い、二階の廊下にある案内板を見て地下のホールの位置を確認する。
地下のホールに行く階段は一つしかなく、エレベーターも一つのみ。
なるほど、警察の挟み撃ちを防ぐために出口の少ない地下を選んだのか。
現在位置は東側施設におり、地下への階段は西側階段だけであることに気付き、反対方向かよ…と独り言ちる。
「ポルポ、行こう……」
俺は煙たい廊下一歩踏み出した。
「ごぎゃっ…」
小さな虫を手の平で潰したらこういう悲鳴をあげるんだろうなと頭のどこかで思ってしまった俺は、遠い目をしている自覚がある。
何故なら目の前でポルポが銃を持った男たちを片っ端から投げ飛ばしたり腕をへし折ったり気絶させたりと暴れまわっているからである。
再起不能とまではいかずとも暫くは絶対に動けないなと思うほど犯人たちは地に伏せていた。
大きな音と共に壁に衝突した男性が地面に尻もちをつき意識を失ったのが分かると、俺はその場に立てる者が誰もいないことを確認する。
そしてなんとも思っていないであろう呑気に足をくねらせている自身のペットを見て、生態系としてどの位置にいるんだろうという疑問を浮かばせざるを得なかった。
因みに現在俺は西側階段の一階にいて、目の前には地下への階段がある。
途中途中で見張りがいたが、お察しの通りポルポが俺の視界に入る前に駆除してくれた。
最初は音がしたら人が倒れているという謎事態に困惑したが、流石にそれが何回も続けば慣れてくるというもので……そういえばこいつ俺とユニ除いたアルコバレーノ達に対して多対一でほぼ対等に戦ってたわーと思い出したりして納得する。
俺のペットまじ有能。
地下への入り口は爆発の影響で瓦礫によって塞がっていた。
ファッションコーナーでの男たちの会話を思い出して、ああ…生かして帰すつもりないんだったと一人納得しては瓦礫の隙間を潜って侵入していく。
赤ちゃんだからこそできる芸当だなぁと思わなくもないが、地下以外にいた見張りはどこに逃げる予定だったんだろうか。
正直地下にいる犯人たちは無理心中的な感じで人質諸共あの世逝きコースを選びそうな気がしてならない。
ああー怖いなー……でもリボーンの方が何十倍も怖いなー
なんせアイツ俺のこと十数年も忘れずに殺そうとしてたやつだからな。
少し歩けば分厚い壁があり、コンサートホールの防音式の扉だと分かった俺は、ここに皆が入れられていることになんとなく気付き、二階席に行く為の階段を探す。
階段をあがり右方向にぐるりと回っていけば途中で扉があり、勿論途中で出くわした見張りはポルポが張り倒していった。
扉をゆっくりと開けて入ると、俺の身長的にどこからも俺の姿が見えないことに気付く。
ポルポに頼んでそっと体を持ち上げてもらい下を覗けばステージに男性が二人、各所に6人、そしてざっと見た感じ三百人の人質がいた。
「スカル、いた……あっち、扉の近く」
ポルポの言葉に俺は視線をそちらへ向けると、探していた二人を見つけた。
あーあーやっぱり逃げられずに捕まってるよチクショー…
本格的に助けなきゃいけなくなったなぁ。
変な方向で落ち込む俺はもう一度ホールから出て、外に待機している見張りを片っ端から見つけてポルポに倒してもらう。
あと残っているのは中で待機している8人の犯人たちだけということを確認してから、警備室に向かった。
「照明といえばこっちかな…?」
勘で辿り着いた警備室に照明ボタンやらなんやらがあり、隣に鍵穴がある。
ボタンを連打しても作動しないことから多分この鍵穴に鍵突っ込まないと無理ってことになるな…
近くを見渡してもなかったので、テーブルの下に置かれていた工具入れを発見した俺は中からアイスピックを手に取り鍵穴に突き刺した。
どうせ犯人たちがやったと思われるので俺はノーカン、ノーカン!
鍵穴ごと装置カバーを引きはがし、露わになった中身をじーっと見つめること数秒、多分これかなという軽い気持ちで赤いランプの付いた細い突起を下に下げればランプが黄色に変わり、先ほどまでうんともすんとも言わなかった照明ボタンが黄色く点滅し始めた。
操作可能になったところで俺はポルポに声をかける。
「ポルポ、照明消すからそのうちに銃持ってる奴等倒せるか?」
「できる」
「分かった、じゃあこれから消すから二階席の方で待っててくれ」
「分かった、ここのドアの鍵…掛けて」
もし誰かが来た時スカルが危ないから、と言い残してその場を離れるポルポの言葉に従って施錠して、ポルポが二階席に行くまで待つことにする。
そんな時だった。
背後からドアノブが回るぎこちない音が聞こえた。
俺は今何が起こったのか分からず固まっていると、一拍した後背後のドアが何度か音を立てる。
我に返った俺は後ろを振り向いてみれば、ドアノブが左右にガチャガチャと軋んでいて、しまいには蹴られているのか鈍く大きな音が鳴り響く。
鍵を掛けといてよかったけど相手は銃を持っていると思い出して、冷や汗を浮かべる。
一歩後ろへ下がれば背中にひんやりとした壁が当たり、頭上には先ほどの照明ボタンが見えた。
警備室のガラス窓から見える二階席に見慣れた足が見えた瞬間すぐさまボタンを全部押して、自分は近くのロッカーに隠れようと試みたが、行動に移す前にドアの向こうから銃声が鳴り響き勢いよくドアが開く。
「くそがっ、そこにいやがるのは誰だ!」
凄まじい形相の男性が部屋に入ってきて、俺は隠れることも出来ないまま立ち竦んでしまった。
目の前の男と視線が交差すると、男の眉間は先ほどよりも深く皺を刻み俺を睨みつける。
「あぁ!?ガキだと!?ふざっけんなよ!おい、てめぇ!一緒にいた奴はどこいった!?」
銃口を頭部に突きつけられて固まる俺氏、何を言っていいのか分からない上に喉が引き攣って声が出せないでいる。
相手は俺が照明を消したことに気付いておらず、子供の俺を比較的安全かもしれないここに置いていったと思い至ったらしい。
「教えねーと殺す!今すぐ殺す!」
赤ちゃんが喋れるわけないだろ!という常識を、常識に当てはまらない俺が説こうにも喋った時点で常識ではなくなるから何も言えない。
あれ?これ俺詰んだ?
いまさらながらポルポと分かれたことを後悔した俺に迫るバッドエンドを幻視しては、これ何回死を覚悟せにゃならないんだと少し理不尽に思ってみる。
男が銃の引き金に指を掛けたその瞬間、俺は目を瞑った。
「…………?」
だが予想した衝撃は何一つ来ない。
しかし次の瞬間俺の顔に鉄臭い液体が大量に降り掛かって来た。
「ぷぇっ……」
変な声出た。
口と鼻の中に入った液体を吐き出しながら、目を擦って開いてみるとそこにはポルポが一匹がいた。
否、ポルポしかいなかったのだ。
「……ポルポ…?」
「うん、スカル…帰ろう」
「お、おう……?待て、さっきここに男がいただろ?」
「逃げた」
な、なるほど……?
ポルポって見た目だけ見れば怖いもんな…そりゃ逃げる、か?
なんか釈然としないまま警備室から出て、地下の廊下を歩いていると途中で小さな鏡が壁に取り付けられていて偶々鏡に映る自分気付き硬直する。
顔が全て真っ赤になっていて、髪も所々赤くなっていた。
あれ?俺どこか怪我したっけ?
体をあちこち探るが痛みはなく返り血だと判断するが、誰の?となった俺はふいに銃口を向けてきた男を思い出して、ポルポが男を怪我させた際にその血が俺の顔に当たったのかと思い至る。
だから逃げたのか……
「ポルポ、逃げた男…」
「さっき怪我させた、だから何も出来ない」
「なら帰るか」
多分両腕か両足折ったなこいつ…と思った俺はポルポと共に来た道を帰っていく。
こんな姿じゃ二人に会うことも出来ないなぁ……
血まみれの顔と髪を見られたら事情聴取まっしぐらな上、密入国がバレる為、誰にもバレずに帰らなければいけないのだ。
幸い警察はまだ到着していなくて、なんたるスピード解決!と自画自賛したが正直ほとんどがポルポの功績だと気付いて空笑いする。
モールの外は野次馬だらけだったが地下水道から出ていった俺は誰にも見られることなくそのまま海へと向かい、ポルポと共にイタリアに直帰した。
ポルポの口の中で海を渡っている最中、ふと本来の目的であるゲームソフトを思い出してはかなり落ち込み少し泣いた。
ああ、今日はとんだ厄日だった。
結局これ誰がやったとか分かっていないわけで、リボーンからしてみれば俺があの子たちを見捨てたように見えるだけじゃね?と思い至り、数日家のチャイムに怯えることを今の俺は知らない。
笹川京子Side
どうしてこんなことになったんだろう。
「おめぇら!動いたやつから殺していくからな!女子供関わらずだ!」
男性の怒鳴り声がするたびに震える自身の心を少しでも落ち着かせるために、両手を胸に添えて深呼吸する。
大丈夫……大丈夫……
何度も自分に言い聞かせるように呟きながら、隣で震えるハルちゃんと離れないように体を寄せあう。
怖い……けど、それよりも……スカル君が心配……
「何処に行ったのスカル君っ……」
銃声が聞こえたのは、スカル君がトイレに行って数分もしない内だった。
いきなり近くから何かが破裂するような音がして、私達は同時にどうしたのかと音の元へ視線を移しては目を見開いた。
そこには顔をマスクで隠した男性が銃を持っていて、その男性の足元には一人の女性が倒れていたのだから。
私は驚いて悲鳴をあげたけれど、それは周りも同じで、すぐさまそこは阿鼻叫喚となった。
倒れる女性に駆け寄ろうにも直ぐ側で直立している男性が怖くて近づけず、咄嗟にハルちゃんの手を握ってしまう。
ハルちゃんがいち早く我に返って、私の手を引いてその場を離れようとしたけど、再度銃声が鳴り響き男性の怒号が鼓膜を震わせた。
「誰も動くんじゃねぇぞ‼逃げても無駄だ!階段は閉鎖してあんだからなぁ!」
その言葉を飲み込むまで数秒掛かった私は、意味を理解して顔から一気に血の気が引いた感覚に襲われた。
足が震えてうまく動かないし、ハルちゃんが耳元で何か言ってるけどそれすら聞き取れない。
怖い……
沢山の人の悲鳴が、血しぶきが、銃声が、激しく鼓動して張り裂けそうな心臓をさらに叱咤するようで、苦しさのあまり目の奥が熱くなった。
ツナ君達のマフィア同士の戦いに巻き込まれた時も怖かったけれど、あの時はツナ君が隣にいた、側にいて守ってくれたから……だから信じてこれた。
でも、今ツナ君は側にいない。
「おい早くこっちに来いっつってんだろ!殺すぞ!」
銃口を突きつけられて怒鳴られたそれに従うように、人が集められている場所へ連れていかれる。
座れと命令されて座ったところで、ハルちゃんが不安そうに辺りを見渡していることに気付く。
「どうしましょう……スカル君いません…」
「‼」
そうだ、今この場には私やハルちゃんよりもひ弱な存在がいるのだ。
まだ赤ちゃんのスカル君がトイレで怯えているのかもしれないと思うと、自分が怖がっている場合ではないと悟る。
でもこの状況でスカル君を探すことも出来ないし、どうすれば……
そんな私の不安を他所に銃口を突きつけられた人たちは近くにあった階段を降りるように命令され、降りたところで長い廊下を歩かされた。
一体どこに向かっているんだろう。
モールの突き当りでさらに階段を降りるよう言われ、私達は地下へと降りた。
降りた先には大きな分厚い扉が見え、そういえば地下はコンサートホールになっていたんだっけ…と思い出しながら重たい扉を潜る。
中へ入ると他の階にいた人たちが集められていて、老若男女問わず皆泣きながら身を寄せ合っていた。
私達で最後だったのか、ステージに一人の男性が現れ銃口を天井へと向け一発撃つ込む。
銃声で悲鳴をあげる人たちに向かって銃口を向け、黙れと怒鳴り散らした。
「お前たちは人質だ、政府と交渉し政府が取引に応じたならばお前たちを逃がしてやる」
何だか映画の場面のように見えて、全然現実味がしなかった。
でも身の内を蝕む恐怖がそれは現実だと訴えているのだ。
何度か会場内を見渡し、目を凝らしてもスカル君の姿は見えない。
「あ、あの…」
私が近くにいた銃を持った男性に声を掛けると、すぐさま銃口を向けられた。
ハルちゃんが息を飲む音が背後から聞こえる。
「子供が……トイレに行ってたんです……せめて迎えにいってはダメですか?」
「子供…?無駄無駄、一階から四階まで今しがた爆弾を作動させた、生きちゃいねーだろうよ」
「そ、そんな!」
「それより早く元の場所に戻れ、その女と一緒に撃ち殺すぞ!」
そう言って男性はハルちゃんにも銃口を向けてきて、私はハルちゃんを庇うように両手を広げて唇を噛みながら座り込んだ。
「スカル君……どうしよう…」
「ぜ、絶対生きてますよ……ぜったい……」
ハルちゃんの覇気のない声だけが私の鼓膜を震わせた。
どれだけ時間が経ったのか分からないまま、私達は恐怖で震えていた。
怖いけど、スカル君の無事を祈るしかなくて、自分達では何も出来ないんだと悲しくなる。
早く警察が助けに来て、スカル君の無事を聞きたい……
だって、私はあの子の最初の友達なんだものっ
鼻の奥がツンとして、目の奥が熱くなった私はどうにか泣き出さないように唇を噛んで堪える。
「京子ちゃん」
落ち着かせてくれるような優しい声に顔をあげれば、ハルちゃんが今にも泣き出しそうな顔で私の手を握る。
「大丈夫…大丈夫ですよ、京子ちゃん」
まるで自分に言い聞かせているみたい…
そう思いながらも、確かに泣きたくなるほど重かった心が少しだけ軽くなった。
私は涙の溜まった瞼を人撫でして、湿った指で拳を作り握りしめる。
その時だった。
いきなり目の前が暗くなり、私は一瞬何が起こったのか分からず硬直してしまう。
次に聞こえたのは何かが風を切る音と、液体を床に零したような音だけが鼓膜を震わせた。
急な暗闇に何も出来ず、周りは密かに悲鳴を飲み込むことしか出来ないでいる。
子供や赤子の鳴き声がひしひしと伝わってきて、銃を持った人たちに撃たれてしまうと恐怖した。
しかしいつまで経っても銃声は聞こえず、男の人達の声も聞こえず、暗闇だけがその場を支配している。
「……どう、したんだろう…」
「な、なんだか……静かすぎません?」
「うん……」
可笑しな状況ではあったけれど、それよりも勝手に動いて撃たれてしまうことが怖くて動けなかった。
震える肩を必死に押さえ付け、ハルちゃんの右手を握りしめたまま闇が遠ざかるのを今か今かと待っていた。
どれくらい経っただろうか…
10分、いや…15分…私にとってとても長い時の中を暗闇で縮こまっていると、いきなり扉が勢いよく開くと共に眩い光が視界を一面真っ白にする。
その後の記憶は曖昧であまり覚えていないけれど、次に目を覚ました病院で私達は警察に助けられたのだと教えられた。
ただ、どうしてあの真っ白になった光景の先を覚えていないのかが思い出せず、私達は極度の緊張状態から抜け出したことでその時の記憶がすっぽり抜けてしまったのではないかと医者に言われて、そうなんだとしか言えなかった。
「ねぇ京子ちゃん…」
「どうしたのハルちゃん」
「私……あの日のことうろ覚えでしか思い出せないし、最後の方に至っては全然思い出せないんですけど」
「うん」
「何だか……凄く…怖かったと…感じてたんです」
私がハルちゃんの言葉に何も言い返せなかったのは、恐らく、私もそう感じたからだ。
何故かあの日のことは朧げにしか思い出せていない。
ハルちゃんと買い物にいって、誰かを待っていたような気がして……地下に閉じ込められて…、白い光景を見たところでブツリと途切れている。
白い光景の先にあったもの……
私達はあの時、何かを見たのだ。
「うん……私も…怖かった」
ただそれが何だったのかを知りたいとは…とても思えなかった。
―――Side
「その場の人間全員の記憶を消してくれたことは礼を言うぜ」
「今回だけですよ…にしても、随分派手にやったようですね…彼」
男が二人、赤いカーペットの上に佇んでいた。
片方が階段に敷かれたカーペットの上を一歩上へと進むと、ぐっしょりと雨に濡れた後のように、靴底に気持ち悪さを残す感覚が刻まれる。
何かを吸ってそこは濡れぼそっているのだ。
しかし赤いカーペットには何も見えはしない、否、表面にこびり付く僅かな赤黒い色はカーペットをはみ出し地面を侵食していく。
鉄臭さが鼻を掠めるも男は眉一つ顰めることなく、目の前の光景を見つめる。
「
「……」
男はもう一歩上へと進む。
靴の裏はびっしょりと濡れていて、カーペットの乾いた箇所で液体を拭うように足裏を擦りつけながら引き
もう一人は動かず、スポットライトがぽつりと一つだけ照らされている舞台上へと視線を移す。
スポットライトが照らしているのは勇敢なる主人公でも、悲劇を演じるヒロインでもなく、
物言わぬ首が二つ――――。
また視線を横に移せば、首、首、首、首、首。
胴体と別れを告げた物言わぬ五つの首だけがカーペットの上に転がっていた。
首といってもいくつかは脳が飛び出て、いくつかは鼻を境に右半分がない。
グロテスクという言葉で表現出来ぬほどの残酷な光景に、嘔吐感が込み上がらないのはその男がそれなりの場数を踏んでいたからだ。
「僕の幻術を行使している間に掃除お願いしますよ」
「分かっている」
階段を上っていた男は重苦しい防音の扉をゆっくりと音を立てて開けていく。
「ああ、残り一人……警備室だと思っていましたが当てが外れましたね……あと、これ以上の捜索は僕でも御免
男は一歩踏み出し、その場を離れていく。
「流石にどこぞの化け物の腹の中を裂いて探し出すのは骨が折れますので」
扉がゆっくりと閉まり、まるでこれ以上立ち入ってはならないと警告するかのように、錆びついた音だけがその場に響き渡る。
中で佇む男もこれ以上ここにいても意味はないと思ったのか、
「俺だ……ああ……掃除屋を送ってくれ……ああ、頼む」
通話が終わった男は警備室へ足を向け、鍵の掛けられていない警備室のドアを開いた。
警備室の真ん中には血だまりが一つ、そして血だまりから足跡が出口へと続いている。
男は警備室の監視カメラによる過去の録画を流し始め、ふと手を止めたかと思うと、
ぽつりぽつりと次々画面が砂嵐を作っていく中、最後まで映っていた画面を見て男は初めて眉を
「何で……今になって……」
そこには紫色であったはずの髪を赤く染め、
「くそっ」
思わず右手で壁を強く殴り、鈍い音だけが密室の空間に響き渡る。
黒いハットを被った男の表情は誰にも見られることはなく、闇に消えていった。
スカル:笹川京子とは未来で会っている為こいつからしたら夢で会った人に入るが当然ながら本人はどこでどうやって会ったかなどほとんど覚えていないので笹川に対して不思議にすら思っていない、照明操作で鍵が必要だった警備室では試しに照明ボタンを押して本当に照明が消えたら待機している犯人が驚いて銃を乱射するという可能性を何も考えていなかった、単なるアホ。
ポルポ:MVP、正直こいつだけで良かったのでは……テロリストたちの胴体と首をバイバイさせた、スカルが見てなければかなりえぐいことをやっていくスタイルのクトゥルフ、因みにスカルを殺そうとした奴はポルポたんの胃の中。
笹川京子:生首を見たことでSAN値チェック→失敗、一時発狂による気絶のあと故意な部分的記憶喪失
三浦ハル:生首を見たことでSAN値チェック→失敗、一時発狂による気絶のあと故意な部分的記憶喪失
黒いハットを被った男:SAN値フルボッコ系ヒットマン、スカルが最後に空笑いしたところだけを録画で見てしまった不運な人、勿論SAN値チェックは失敗です。
クフフがなかった人:クフフがなかったのはSAN値チェックで発狂一歩手前まで削られちゃったから。
テロリスト:クトゥルフに出会ったのが運の尽き。
裏世界で狂人の再来とか言われたら面白いけど、この件に関してSAN値直葬系ヒットマンが頑張って隠滅すると思うので表にも裏にも出ることはない。
蛇足
最近体調不良が続いて投稿が遅れました。
連日に続く体調不良にむしゃくしゃして癒し系おにゃのこ達までSANチェックしたことは謝るが、後悔はしていない。
後悔はしていない。
あと多分明日から二週間ほどリアルが忙しくなるかもしれないので投稿が出来ないかもしれません、ご了承下さい。
↓↓落書き
【挿絵表示】
※上の落書きにヤンデレポルポを付け足したもの。
【挿絵表示】