Skull   作:つな*

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skull 番外編6

今日は久々にローマを散歩していた。

ほらやっぱずっと閉じこもってるのは体に悪いっていうか?

俺もそろそろ引き籠りは卒業しなきゃなって思ったりして……

嘘です。

リボーン達が正面玄関から来るのが見えた瞬間に裏口から逃げました、ごめんなさい。

もう条件反射の如くリボーンから逃げることが当たり前になった最近だが、久々に街に出た俺は見知らぬ道で迷子になっていたりする。

ポルポも置いてきてしまったが、頭と鼻の良いあの子のことだから俺のこと見つけてくれるって信じてる、うん。

それよりもえらい入り組んだ道に入ってしまったようで360度どこを見ても似たような住宅がある。

スラム街ではないけれど治安がとてもいいとは思えないその街路地で、(ようや)く開けた場所に出た俺は視界の端に小さな公園を捉えた。

申し訳なさ程度の砂場があるだけで、広さもない寂れた公園がポツリと住宅街の中に佇んでいる。

入口から整備されている芝生に足を踏み入れると、昨晩の雨水を吸った土が靴の裏で不快な音を立てたが、これといって気にしていない俺は赤いペンキが剥がれかけたベンチに座ろうと一歩踏み出した。

取っ手は錆びついており流石にそこに触りたくないと思い、比較的汚れていない場所に腰を下ろし公園を見渡す。

今頃家ではリボーン達が俺の行方を探っているのだろうかと思いはすれど申し訳なさは一切湧いてこない。

リボーン達というのは、他にちらっとだったが人影が見えたからで、恐らく綱吉君達ではないかと俺は思っている。

あいつらが来ると碌なことがないのは体験談からくるもので、毎回爆発やら破壊行動やら…挙句の果てに社会復帰支援という名の拉致で日本に連れていかれたことがある。

毎度綱吉君が謝っているのを見るとリボーンの独断で綱吉君も巻き込まれたんだろうが、何気に彼が満更じゃないことくらい俺は知ってるからな。

にしてもこの前の日本拉致事件から何故か皆が俺の所に押しかけてくる頻度が増えたような気がする。

正直うざいんだが、口にしたところであいつらが訪問回数を控えてくれる良心を持ち合わせていないことくらい分かっているので、不満は心の中で延々と呟くことにした。

日が傾いていくのが分かり、公園の中に時計がないことに気付く。

ポルえも~ん!

頭の中に頼りがいのあり過ぎるペットを思い浮かべてみるが、未だ迎えは来そうにない。

 

「スカル……さん?」

 

ふいに名前を呼ぶ声が耳に届き、俺は自分の泥が付着した靴に合わせていた視線を上げて、声のする方へと移した。

そこには黒のロングヘアの女性が立っていたのだ。

誰だ、コイツ。

そう思った俺は悪くない、だって微塵たりともこんな女性と知り合った記憶がないんだもの。

俺と目が合ったことで、俺=スカルの方程式が出来上がったのか知らんが女性はその場で呆然と突っ立っていること数十秒、ふと動いたかと思えば公園の中に入ってきて俺の座っているベンチの前で微動だにせず立ち尽くす。

なにこれ怖い。

目が死んでいるような気がしなくもない女性は目の下に色濃く残っている隈を(たず)えながら、どこか空虚な瞳で俺を覗き込んでいる。

 

「ああ、幻でも嬉しい……嬉しいんですスカルさん……私の前にあなたが現れたことがこの上なく幸せなんです」

 

恍惚(こうこつ)な表情で見つめる女性の両腕が俺に伸びてきたが、俺はそれが怖くて、というよりも不気味過ぎて顔を(しか)めて避けようとしたが、俺が動く前に女性は両手を一瞬で引きぐちゃりと音を立てて膝を雨水の残る地面に付けへたり込んだ。

何だコイツ…というのが俺の正直な感想で、マジもんの変人に恐怖を抱く。

 

「ああスカルさん違うんですあなたに触れたかっただけなんですあなたを不快にしたかったわけじゃあないんですスカルさん私はあなたの為を思いあなたの為に動きあなたの為に生きてきたんですそこに私の人生はあったんです信じて下さいお願いします私の忠誠は崇拝は愛慕はすべてすべてすべてあなたにあなただけに捧げてきた唯一なんです心からお慕いしていましたいえ今もなお心酔していますスカルさんスカルさん!」

 

ここまでノンブレスである。

怖い通り越して吐き気を(もよお)してきた俺氏。

何なのこの人、正気ではないのは確かだけど何だろうこの久々なデジャヴ。

両手で顔を覆いながら泣いているのか肩を震わせる女性をもう一度じっくり見つめるが、はやり見覚えはない。

完璧な他人の上この異常な反応といえばもう一つしか答えがない、というかこれしかない。

 

「スカルさん、私はあなたが死んでしまったなんて思えないんです」

 

で す よ ね 。

分かってたよ、うん。

これあれだ、狂人の方のスカルとやらの信者ですね、はい。

女性はしゃくりを上げて泣き出してはスカルさんと今は亡き俺にとって忌まわしき人違いの元凶を連呼している。

こんな立派な狂信者がいるなんて流石狂人スカルさん、マジぱねぇッスわ。

そこに痺れもしないし憧れもしないがな。

さて、気持ち悪いからといって目の前の女性を放って置くのはかなり後味が悪いので取り合えず座らせようかな。

 

「座れば?」

 

そういえば女性は即座に顔をあげて俺の顔を凝視してくる。

涙に濡れるやつれた頬と、色濃く残った隈、そして死んだ魚のような目…もう何から何までがアウトだった。

スリーアウト、チェンジお願いします。

凝視してくる目線はやがてゆるりと逸らされ、女性は俺の隣に腰掛けてくる。

なんかもうこの世の絶望をドブで煮詰めたような顔をしているんだが、そこまで狂人の方のスカルが好きだったのだろうか。

ん?待てよ。

狂信者まで俺をスカルと思ってるってことは、スカルは俺と同じ背丈ってこと?

いや姿を見せないミステリアスな人だったらまた別だけど、ここまで重度な信者に姿を見せないってあり得る?

つーかこれ背丈同じ別人だったらどうなのそれはそれで。

子供に現抜かしてやっべーレベルまで心酔するってなにそれ怖い。

俺の背丈って赤ちゃんじゃん!ベイビーじゃん!マジで怖い。

そんなこと考えているとふいに俺の腕に伸びてくる手に気付いて、じわじわと湧いていた恐怖が爆発したように俺はその手をはじいてしまった。

パン、と乾いた音と共にはじいた右手にじんわりと僅かな痛みが走る。

帰る、と言ってその場を離れようとした俺の腕をガシリと掴んできた目の前の女性に、声にならない悲鳴が喉の奥を通った。

 

「やはりあなたはスカルさんだ」

 

いやあんたさっき死んだって言ってたやん。

そうツッコめるほど軽い雰囲気ではなく、そこはかとなく漂う陰鬱(いんうつ)で息苦しい空気に()せ返りそうになるのを堪えていると目線が女性と交差した。

先ほどのように空虚な眼差しから一転し、涙を溜め輝かんばかりの生気が宿っている目をしている。

と同時に俺の腕を掴む力が僅かに強くなり、俺は少しだけ命の危機を感じ取ったりしてた。

 

「触れる現実だ本物だあなたはスカルさんだ死んでいなかった生きていた私のすべてスカルさんに触れたことは謝りますこの命を捧げてでもあなたへの非礼を詫びましょうしかしあなたが生きていることへの幸せに今私の心は満ち溢れているのですあなたの為にもう一度私をお使いくださいお願いします今度こそあなたを守ってみせます」

 

またもやノンブレス。

この人息してるの?大丈夫?

いや待て、その前に俺が狂人スカルとやらではないことを言わなければ。

 

「俺は狂人スカルじゃない」

「いえ、いえ!何を言いますか!あなたはっ」

 

おおっと、これは嫌な予感。

しかし俺も学習した。

ここで黙って諦めれば悪循環であることを!学習!したんだ!

 

「人違いだ、俺は狂人スカルじゃない、俺はお前を知らない……」

 

ゆっくりと、人違いの部分を強調して俺はベンチから腰を上げた。

そして伸ばされてくる手をそっと避けて公園を出て、人通りの多い道を目指して歩き出す。

フラフラと歩いていると案の定俺を見つけてくれたのは頼もしいポルポ君で、そのあと家に帰るとリボーン達が仁王立ちで待っていた。

このあとじっくりと叱られたが反省も後悔もしていない。

にしても、ああも人の人生を狂わせた狂人スカルって奴が何で俺なんかと人違いされたんだろうか。

一度でもいいから顔を拝んでみたかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

???Side

 

幸せだった。

あの方の為だけを思い、あの方の為だけに生きていた。

それが私の宿命であり、なによりの幸せだった。

狂おしいほど愛していた、愛していたのだ。

私の造った武器で人を殺し、嬲り、葬った時、私は認められた気がして堪らなかった。

あの方……狂人スカルに命すらも捧げることが何よりも誇らしかった。

生きてるということが実感出来ていた日々だった。

 

あの日が来るまでは。

 

ヘルメットと共にボンゴレの使者が報せたのは、スカルさんの死だった。

最初は何の冗談だと鼻で笑いながらヘルメットを分析したが、正真正銘カルカッサが開発したスカルさん専用のヘルメットだった。

その日カルカッサは混乱に陥った。

狂信すべき道標を失った者で自殺に走った者は少なくなかったし、ボンゴレを殺そうと血眼になって次期ボスである沢田綱吉の暗殺に躍起になっていた者もいた。

しかしそんな中私だけは呆然と研究室に引き籠っていた。

信じられなかったのだ。

スカルさんが死んでしまったことが…

あの方がこんなことで死ぬはずがないと、一週間以上経っても姿を現さないあの人の背中を思い出しては、殺戮用兵器を作り続けた。

一ヶ月が過ぎ、半年が過ぎた。

もうカルカッサに以前のような活気溢れた光景はない。

惰性で生きている者、食い扶持がないから留まっている者、狂ってしまった者、絶望している者、ボンゴレへの復讐に躍起になる者、あの人の死を受け入れられず以前のように働く者……誰一人として生きた目をしている者はいない。

かくいう私も死にたくてしょうがない。

スカルさんが生きているかもしれないという一筋の可能性だけに縋って生きているようなものだった。

気付けば私は外にいた。

最近、無意識に街の中をふらつく癖がついてしまった。

それも全て愛しいスカルさんを探す為の行動だと思えば嫌でもなかったし、少し思考を休ませるには丁度よかったのだ。

住宅街に入り、狭い道を歩き何の目的もなしに視界に入った者を目で追っては逸らすをひたすら繰り返す。

スカルさんの顔すら見たこともない私がしたところで見つかる可能性は万一にもないというのに、と理性が嘲笑っているけれど。

少しだけ開けた場所に公園があり、子供の声もない寂れたそこへ一瞬だけ視線を向けたその時だった。

赤子の影を見つけた。

ただそれだけなら直ぐに視線を逸らして、再び周りを見渡していたのに、その時だけ…目が離せなかったのだ。

足元に目線を落とす赤子を見て、無意識に声が出ていた。

 

「スカル……さん?」

 

別人だと分かっている。

あの方はもう少し小さい。

私の声にふと赤子が目線をあげ、私の方を見たのだ。

まるで自分の名前が呼ばれたと言いたげな目で、私を見たのだ。

これが幻覚でもいい、私の都合のいい様に脳内が作り出した幻想でもなんでもよかった。

ふらつく足取りで赤子の前に立ち竦み赤子を眺める。

今の私は傍から見て不気味だと思うだろうが、目の前の赤子は怯えを見せずただ私を見つめ返していた。

それがまた記憶の中のスカルさんに似ていて、私は耐えきれずに喉を震わせる。

 

「ああ、幻でも嬉しい……嬉しいんですスカルさん……私の前にあなたが現れたことがこの上なく幸せなんです」

 

そう呟いて目の前の彼に手を伸ばそうとした。

だが、一瞬彼の眉が僅かに顰められ彼の中にある嫌悪を垣間見た瞬間、私の中の禁忌に触れたのだ。

そして恐怖した。

彼に嫌われることだけはあってはならない。

あの人に見捨てられることは、嫌われることは……死ぬよりも恐ろしいっ!

私は泥に汚れる膝をも気にせずその場に膝をつき無我夢中で弁明を(まく)し立てた。

 

「ああスカルさん違うんですあなたに触れたかっただけなんですあなたを不快にしたかったわけじゃあないんですスカルさん私はあなたの為を思いあなたの為に動きあなたの為に生きてきたんですそこに私の人生はあったんです信じて下さいお願いします私の忠誠は崇拝は愛慕はすべてすべてすべてあなたにあなただけに捧げてきた唯一なんです心からお慕いしていましたいえ今もなお心酔していますスカルさんスカルさん!」

 

もう何を言っているのか自分で理解していなかったけれど、私は心の内を全て曝け出して信じてもらいたかった。

あなたを今でも崇拝していることを…愛していることを!

 

「スカルさん、私はあなたが死んでしまったなんて思えないんです」

 

でなきゃあなたの死を聞いてから私が生きてきた半年間は何の意味があるのだろうか。

あなたは生き続ける。

永遠に生き続けなければならない。

人々を絶望に陥れ、狂わせ、従わせるような…そんな存在であってほしいと……

 

「座れば?」

 

思考回路がバラバラになるような感覚の中、ふと耳に小さく、淡々とした声が届いた。

彼の声を聞いたのは初めてで、このような声をしていらっしゃったのかと思う反面、私の幻想であり妄想であると思えば納得する。

スカルさんは他人に基本無関心で、泣き喚き(すが)ったところで淡々と声をかけ、仕事を催促してくるようなお方だ。

私如きが慰められるなど…妄想であっても恐れ多い……

それでも、これが私の脳が見せる幻覚ならば……少しでもいい、少しでもいいから……彼に触れたいと…思ってもいいのだろうか。

(おもむろ)に伸ばした手が彼の腕へと触れそうになった時、予想だにもしていなかった衝撃が自身を襲った。

乾いた音とじんわりと広がる痛みに目を見開く。

手を、弾かれたのだ……否、それだけならばまだ妄想の域を出ない、出ないけれど……右手にじんわりと残る痛みがこれは現実だと意識を引き戻させる。

思わず再び腕を伸ばし目の前の彼に触れた。

触れてしまったという恐怖と、触れることが出来ることへの歓喜が()い交ぜになりながらも理性が言葉を介することを手放しはしなかった。

 

「やはりあなたはスカルさんだ」

 

確信を持った言葉が喉を通り、歓喜で震える。

今目の前が輝かんばかりに色づいたのが分かるほど、私の心臓は息を吹き返したのだ。

 

「触れる現実だ本物だあなたはスカルさんだ死んでいなかった生きていた私のすべてスカルさんに触れたことは謝りますこの命を捧げてでもあなたへの非礼を詫びましょうしかしあなたが生きていることへの幸せに今私の心は満ち溢れているのですあなたの為にもう一度私をお使いくださいお願いします今度こそあなたを守ってみせます」

 

あの人が……スカルさんが生きてる。

それだけが今の私を突き動かす言葉だった。

現実で触れて、見て、声を交わしている。

ああ、やはり私は信じていた!

彼が死んでいないということを!私はっ、私は信じていた!

涙を流していることすらも気にならず私はただ頭を垂れて、あなたにまた尽くすことを精一杯示したかった。

 

 

「俺は狂人スカルじゃない」

 

 

けれど、彼の口から出るのは私の予想とは違い、拒絶の色を伴って吐かれた。

 

「いえ、いえ!何を言いますか!あなたはっ」

「人違いだ、俺は狂人スカルじゃない、俺はお前を知らない……」

 

有無を言わせず続けられた言葉は私を突き放し、私の中の生きる希望に(もや)が掛かる。

違う、あなたはスカルさんだ。

私のお慕いするスカルさんだ。

私のすべてだ。

私の唯一だ。

私の生きる意味だ。

何故、何故…嘘をつくんですか、何故…

涙でぼやける視界で遠ざかる彼の背中へと手を伸ばしたが、それすらも不快だといわんばかりに避けられ空を切る。

気が付けば目の前には誰もおらず、一時的に意識が飛んでいたのだと思い至った。

既に陽は落ちていて、薄暗い公園で座り尽くす私は、先ほどの光景が全て幻想だったのではないかと疑ったが、靄が掛かってなお満ち溢れた心はスカルさんの存在を言い張っている。

少しの可能性にも縋る思いで一度研究室に戻り、再び公園に行くと、先ほどのベンチにある全ての指紋を採取した。

スカルさんと一致する指紋があれば、あの人は生きているに違いない。

私は検査結果を映し出す画面をただひたすら眺めた。

あと少しで結果が表示されるそのディスプレイを。

 

 

私の生き続けた意味は……きっと、きっと…あったと信じたいのだ。

 

 

「スカルさん……」

 

 

 

 

月が雲で覆い隠された日の夜、とある場所で機器が音をあげて文字を青白く光るディスプレイに映し出した。

 

 




指紋検査の結果は各自ご想像にお任せします(笑顔)

スカル:一度でいいから狂人スカルを見たいらしい、モブ子のことはヘルメット越しでしかしらないので気付かない、声?それをコイツが覚えているわけもなかった。
女性:誰と言わずもがなモブ子である、狂信者モブ子である(集中線)、もう色々と手遅れ。




投稿が大幅に遅れてすみません。
リアルな事情もろもろあったんですが一つだけ言わせてもらいます。


おのれ台風。





PS:大幅に遅れたのもあってか熱が冷めつつあるので次の番外出したら別の作品考えてみようかと思ってます。

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