魔法主従まどか☆ギャラクトロン   作:ルシエド

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黒き少女の祝福

 あれから、数年が経った。

 美樹さやかは魔法と縁の無い生活を送り、今は地方のちょっとばかり偏差値の高い大学に通っている。

 彼氏も居る。

 大学で出来た友達も居る。

 あれから数年、さやかにも大切な想い出は増えた。

 

 けれども、魔法との出会いに始まり、ギャラクトロンとの別れに終わったあの激動の二週間の想い出は、その中でも特に鮮烈に輝いている。

 

「お、さやかじゃん。久しぶり」

 

「おはよう杏子。久しぶりって、先週会ったばっかでしょうが」

 

「あり、そうだっけか?

 最近は珍しく時間合ってなかったんだな、あたしら」

 

「あたしは大学。杏子はバイト?」

 

「へへっ、聞いて驚くなよ?

 最近上のオッサンに気に入られてさ、正規雇用扱いになったんだ」

 

「マジで!? やったじゃん!」

 

「まあ見滝原に居るのは変わんねーけどなー。ちょっと給料は増えたね」

 

 時は流れる。

 見滝原からいくつかの建物が消え、いくつか建物が増え、風景が変わった。

 公園が一つ消え、森林が住宅街になり、子供達の遊ぶ場所も変わった。

 マガワルプルギスがもたらした街の破壊の跡も跡形も無く消え、まどかとさやかの行きつけの店もいくつか潰れ、彼女らの想い出は街からゆっくりと姿を消していく。

 さやかも杏子も、大人になっていく。

 

「今日晩御飯マミさんと一緒に食べる予定なんだけど、杏子も来る?」

 

「さやかの奢りなら」

 

「自分で払え自分で! あんた他人の財布だと好き勝手高いもん頼みまくるでしょうが!」

 

「ちっ、しゃーねーな。行くよ行く行く」

 

 二人は途中まで同じ道を行く。

 だがその途中、かつてギャラクトロンがマガワルプルギスと戦った街の一角に歩を進めると、さやかと杏子の会話は自然と途切れてしまった。

 自然に訪れた会話の沈黙。

 どこか葬式に近い、死者を悼む静寂だった。

 

「あたしさ」

 

 杏子がおもむろに口を開く。

 

「ギャラクトロンの奴が、正直言って怖かった」

 

「うん」

 

「あいつは、あたしらの味方じゃなかった。

 人の味方ですらなかった。

 あいつはまどかの味方だった。

 まどかとの約束に抜け道を見つけたら、その瞬間にあたしらを殺してたかもしれない」

 

「かも、ね」

 

 薄氷の上に立つような共闘だったと、杏子は思っている。

 

「でもアイツ、最後にあたしらのこと庇っただろ?」

 

「だね。今思えば、マガワルプルギスはあれを狙って広く攻撃してた気がする」

 

「あの時は、ギャラクトロンの奴を怖いとは思わなかった。

 つーか、なんというか……

 今になって、あの時、アイツのために泣いてやるべきだったんじゃないかって思ってる」

 

 ギャラクトロンは味方ではない。

 ただ、共に戦う仲間ではあった。

 

「ちゃんと泣いてやらなかったからな。

 あたしが泣いたくらいじゃ、あいつはなんとも思わないんだろうけどさ。

 それでも、悲しんでることを形にしてやった方が良かったんじゃないかって。

 ……入力された命令に従ってるだけのロボットに何言ってんだ、って笑ってくれ」

 

 死した仲間をどう送ってやるべきだったか、という部分で後悔しているのは、元々教会の生まれである杏子らしい思考だろう。

 対し、さやかはギャラクトロンに杏子とはまるで違う感情を抱いていた。

 

「アイツは入力された命令に淡々と従うようないい子ちゃんじゃないよ」

 

「まあ、そうだな。もっと物騒なやつだった」

 

「アイツは入力された命令を自分なりに解釈してた。

 自分なりに選択して行動してた。

 多分さ、だから普通に道具として使うには面倒臭いロボットになっちゃったんじゃないかな」

 

「さやかはそいつが、ギャラクトロンの捨てられた理由だと思ってるってわけだ」

 

「まーね。

 だってそうじゃん?

 普通ロボットの扱いに困って捨てるなんてことにはならないよ。

 ロボットなんて普通命令されたことだけやるもんだし。でも、アイツは普通じゃなかった」

 

 機械とは従順なものだ。

 機械とは入力された命令だけを実行するものだ。

 兵器とは人の意図した以上の結果も以下の結果ももたらさないものであることが望ましい。

 けれど、ギャラクトロンはそうではなかった。

 

「アイツはただ、嫌いだった、ただそれだけだったんだとあたしは思う」

 

「嫌い? 何がだ」

 

「誰かと誰かが争ってることが、さ」

 

 製作者の思い通りに動かない欠陥兵器だったからこそ、ギャラクトロンはこの次元に捨てられてしまい、この世界の悲劇を皆殺しにしてしまった。

 

「だから、優しい奴でも生きていくために何かを殺さないといけないってことが……

 戦いを望んでない奴でも、強制的に何かを食わないと生きていけない世界が……

 食う者と食われる者が分かれてるってことが、心底気に食わなかったんじゃないかなって」

 

 さやかは、ギャラクトロンは嫌いなものを壊していっただけだと想像する。

 魔法少女と魔女の仕組み、インキュベーター、マガワルプルギス、人の心を痛めて争いを生み出すもの、目につくそれらを片っ端からギャラクトロンは壊していった。

 争いを否定する聖女ですらも、他の命を食べて生きているというこの星は、『誰も争わず、誰も傷つけられない世界』を理想とするギャラクトロンからすればまさしく地獄。

 

 数年前よりちょっとだけ背が伸びて、ちょっとだけおしとやかになったさやかは、ギャラクトロンの気持ちを少しだけ理解できるようになっていた。

 

「で、それでどうすんだ?

 ギャラクトロンの奴に気ぃ使って、ベジタリアンにでもなんのか?」

 

「まっさかぁ。ご飯美味しいし、あたしには無理だよ」

 

 理解はすれど、賛成はしない。

 賛成はしないが、理解はした。

 だからさやかは、ギャラクトロンに賛同しないまま、ギャラクトロンの影響を受けて、将来の進路を決めることにした。

 

「でも、ま、就職先はちょっと考えて選ぶことにしたよ」

 

「自然保護活動でもすんのか?」

 

「秘密!」

 

 にしし、と笑ってさやかは駆け出していく。

 分かれ道で二人は別れた。

 進む道は別で、歩く道も別で、向いている方向も別。さやかと杏子は別々の道を歩んでいく。

 

 されど、心はいつも共にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪降る街で、マミはキュゥべえにマスケットを突きつける。

 真っ白なキュゥべえの体の大半が、雪の景色に保護色代わりになって溶け込んで、真っ赤な目が怖いくらいに際立って見えた。

 

「見事だ、マミ。

 僕が正真正銘、最後の個体となったインキュベーターだよ。

 君がその引き金を引けば、君達はめでたく僕らを絶滅させたことになる」

 

「そう」

 

 ギャラクトロンが絶滅寸前まで追い込んだインキュベーターは、魔法少女達の手によって――主に、マミの手によって――その最期を迎えようとしていた。

 

「僕らも滅ぶことに憂いはない。

 まあ、僕らも絶滅するのは喜ばしいことでは無いけどね。

 まどかは別宇宙から『光』を呼んだ。

 あれは宇宙を超える奇跡だ。

 絶望を希望へと相転移させたあの奇跡は、宇宙を救済するには十分なエネルギーだったよ」

 

 僕らは果たすべき役目を終えたんだ、とキュゥべえは微笑む。

 

「あなたを見ていると、よく分かるわ。

 "助けてくれ"と命乞いをする人が、醜くともどれだけ真っ当なのか。

 死にたくないと叫ぶことができない人に、犠牲になる人の痛みは決して分からない」

 

「僕も君も同じさ、マミ。

 君には感情があり、僕には感情がない。

 君は僕を完全に理解できないし、僕は君を完全に理解できない。

 いや……君達人間は、人間同士ですら互いを完全に理解できないんだったね」

 

「だから私達は、相手の痛みを想像して、行動を思い留まるのよ。完全に理解できなくても、ね」

 

 今、魔法少女の真実とキュウべぇの正体、及び魔法少女をただの少女に戻す術式のデータは急速に世界中に拡散されている。

 インターネットという媒体を通して、今や世界中の魔法少女が繋がっていた。

 

「人間らしい思考だ。

 君達がインターネットというものを生み出したのも、遠くの誰かと繋がるためだろう?

 インターネットというものは、人間(きみたち)にとって珠玉の発明と言えるだろうね」

 

「ソウルジェム、グリーフシード、キュゥべえ……

 魔法少女(わたしたち)しか使わないワードは、いくつもあるもの。

 検索で魔法少女を見つけるのも、魔法少女に見つけられるのも、そんなに難しくなかったわ」

 

「後は根気の問題、というわけだ」

 

「方向性の問題、でもあるわ。

 だって魔法少女はわざわざキュゥべえを見つけて殺す魔法なんて作らないでしょう?

 そんなこと考えもしないもの。

 でも、ひとたびキュゥべえを敵と認定したなら、私達はそういう魔法を作りもするわ」

 

「だろうね。合理的だ」

 

 孤立環境であるがために、今の世界の動きを何も知らない魔法少女も居る。

 魔女が全て消えるまでは人間に戻らない、という魔法少女も居る。

 魔法をまだ悪用していたいから余計なお世話だ、という魔法少女も居る。

 そんな悪の魔法少女を止める抑止力で居続ける、という魔法少女も居る。

 だがいずれ、全ての魔女と魔法少女は地球上から消えるだろう。

 ギャラクトロンは魔法少女と魔女の円環を破壊した。

 

 魔法少女をいつでも辞める権利がある、ということはそういうことだ。

 

「他次元宇宙からの来訪者が全てを変えていくとは、僕も流石に予想外だ。

 ギャラクトロンは壊していった。

 光の巨人は守っていった。

 特にあの光の巨人は凄まじい。

 あれはおそらく、信仰や希望から光の感情を抽出し、自分の力に変えられる生き物だよ」

 

「……他人から感情を受け取るだけで、生きていけるっていうの?」

 

「そうさ。一言で言うなら、あれは"心の光を糧に生きる生き物"なんだろう。

 ギャラクトロンが言うところの『間違っていない生命』とは、おそらくあれを指すんだろうね」

 

 奇しくも、まどかの祈りによって、キュウべぇはギャラクトロンに対する『正解』である光の巨人を観測・分析することができていた。

 まさに次元が違う強さだった。

 彼が来なければ、勝機などまるで無かっただろう。

 だがキュゥべえは、その強さになどまるで興味がないようだった。

 

「何も殺さず生きていける。

 光があれば生きていける。

 ただ他の命を助けるだけの生涯を送っていける存在。

 まさに理想的だよ。

 彼らは生きるために戦う必要がなく、食うために殺す必要がない。

 光さえあればいいわけだからね。にもかかわらず、君達という弱者を助けに飛んで来た」

 

「あれを、正義の味方と言うのかしら?」

 

「さあ。もっと俗物的なものかもしれないし、もっと聖なるものかもしれない」

 

 観測と分析だけじゃそこまで分からないさ、とキュゥべえは瞳を閉じた。

 

「僕や君とは根本的に違う生命体だよ。

 僕は宇宙の延命に少数ながらも命を費やし、それを肯定した。

 君達人間は言わずもがな、だね。それはギャラクトロンが指摘した通りだろう」

 

「……」

 

「あれは僕らの魔法少女システムの、ある意味究極系だ。

 なんでもない人の心の光を集め、星をも砕く力を発することもできるだろう」

 

 光の巨人も、キュゥべえも、一点を見れば類似している。

 それは、何の才能も無い子供でも、その心の光には力があると証明できるということ。心の力で世界を変えることができるということだ。

 ただし、それを理由に子供を宇宙のための人柱にするキュゥべえと、子供を守ろうとする光の巨人では、最終的な方向性は真逆となる。

 

「分かるかい? マミ。

 君達がギャラクトロンの裁きの対象から外れるためには……

 地球人は、いつかあの光の巨人に追いつかなくてはならないということだ」

 

「素敵ね。なら、私達はそこを目指すことにするわ」

 

「困難な道だ」

 

「望んだ道よ」

 

「君は光を追うのかい」

 

「追うのではなく、光になるのよ。

 誰かを照らす光になりたい。魔法少女なんて、大体そんなものだもの」

 

 マスケットの引き金に、指がかけられる。

 

「さよなら、キュゥべえ。

 私が一人ぼっちだった頃、一緒に居てくれてありがとう。大嫌いよ」

 

「さようなら、マミ。君はとても優秀な魔法少女だった」

 

 ドン、と砲火が額を撃ち抜く。

 一つの終わりを迎え、マミは空を仰ぎ見た。

 これを機に魔法少女を辞めてしまおうか、と少し思う。

 

■■■■■■■■

 

「ねえ、約束して」

「私達が魔女になったら、私達が誰かを殺す前に、私達を殺してくれるって」

「私達が希望を振り撒く存在から、絶望を振り撒く存在になる前に、私達を止めて欲しい」

 

■■■■■■■■

 

 果たされない約束があった。

 もう何がどうなろうとも、その約束は果たされない。

 それでも、ギャラクトロンに何の断りもなく魔法少女を辞めるのは、なんとなく申し訳ない気持ちになって、気が引けてしまって。

 魔法少女を辞めることで、自分から約束を破ってしまうことが、なんだか嫌で。

 

 巴マミは大学生になってもまだ、魔法少女を続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿目まどかは一軒家の横に置かれたガレージの中に足を踏み入れる。

 長い髪を赤いリボンでポニーテールに纏め、髪を纏めないと汚れてしまう作業をしている、暁美ほむらの背中が見えた。

 ほむらはまどかの足音を聞き振り返り、まどかと目を合わせて微笑んだ。

 

「いらっしゃい、まどか」

 

「お邪魔してます、ほむらちゃん」

 

 パンパンと服の汚れを払いながら、ほむらはドライバー片手に立ち上がる。

 一緒の大学に行きたかったな、とまどかは益体もなく考えるが、ほむらには大学に行くよりも大切なことがあった。

 

「そろそろ完成しそうって言ってたけど、どう?」

 

「とりあえず暫定だけど、完成よ。まどかもいいタイミングで帰って来たわね」

 

「本当!?」

 

「今日に終わってしまったら、明日の有給がまるで意味の無いものになりそうだわ」

 

 まどかがドキドキしながらガレージの奥を見ると、そこには2mサイズのギャラクトロンが立っていた。

 

 ……ほむら視点、苦労に満ちた数年だったと言える。

 ギャラクトロンの残骸を全て集め、選り分け、整理するだけで一年かかった。

 ギャラクトロンのパーツの中で人工知能を成立させる部分を見つけた頃には、中学校生活が終わってしまっていた。

 

 努力だけではどうにもならなくて、金で他に調査機械・検証機械を買う必要があって、仕事もちゃんとやって金を貰って。

 機械の仕組みを学んで、ギャラクトロンの新しい体を作って、そこに元のギャラクトロンの知能を組み込んで、起動しなくて試行錯誤して。

 ギャラクトロンが暴走しないよう、ちゃんとリミッターも付けて、武装は持たせないようにしつつも以前と同じ姿にして。

 

 気付けば、中学生だった友人達は大学生になっていた。

 

「おめでとう、ほむらちゃん」

 

「まだ完全に完成したか分からないわ。気が早いわよ」

 

「えへへ、でもね、私達ずっと凄いなって思ってたんだよ。

 ほむらちゃんは本当に根気強くて、ずっと頑張ってたから」

 

「……そうでもないわ」

 

 ほむらが照れた様子で髪をかき上げ誤魔化そうとして、髪を纏めていたことを思い出して、恥ずかしそうに手を後ろに回す。

 誰もが音を上げるような不毛な作業でも、長々と延々と頑張っていける根気強さが、暁美ほむらの長所で強みだ。

 一定のラインを越えると意地になっていつまでも頑張り続ける、とも言う。

 希望をもって挑み、絶望の結果に裏切られても、彼女はコツコツ積み上げ続ける。

 無知な中学生だった彼女が、たった数年で他次元文明のロボットを曲がりなりにも修理してみせたのだから、この数年の密度は推して知るべしといったところか。

 

 なにはともあれ、ほむらは意地を通して道理を突破したようだ。

 

「これで起動したら、ほむらちゃんが起こした奇跡だよ」

 

「私もまだ魔法少女よ。夢と希望を叶えるのが魔法少女、でしょう?」

 

「うんうん」

 

 ほむらの解答は、まどか的には百点満点だったらしい。

 大学の通学カバンを抱きしめたまどかが、喜ばしそうにうんうんと頷いている。

 

「まどかに、巴さんに、杏子に、さやかに……

 皆が協力してくれたことにも、感謝してる。一人じゃここまで来れなかった」

 

「わぁ、ほむらちゃんが素直に皆に感謝してる……」

 

「何? おかしい?」

 

「ううん、それもほむらちゃんらしさだよ。

 でも感謝の気持ちがあるなら、皆に一人一人ちゃんとお礼を言っていって欲しいな」

 

「……努力はするわ」

 

 こっちの解答は、六十点くらいだったらしい。

 まどかは目を逸らすほむらを、微笑ましいものを見るような目で見つめていた。

 

「スイッチを入れて起動してみるわ。

 まどか、呼びかけてみて。

 ギャラクトロンのAIが起動すれば成功、起動しなければ失敗よ」

 

「え? 私が? ほむらちゃんはやらないの?」

 

「希望や、奇跡や、光っていうものは……きっと私よりあなたの方を好いているもの」

 

 そんなことはないと思うけどな、と思いつつも、まどかはその頼みを請け負った。

 ほむらはいつでも、奇跡はまどかの下にやって来ることを知っている。

 ギャラクトロンがまどかの声にいつも応えて来たことを知っている。

 

「ギャラクトロンくん?」

 

 ほむらはまどかを信じ、ギャラクトロンを信じ、この声掛けが奇跡を起こすことを信じた。

 

 知っていたのではなく、信じた。

 

『―――私は、私に与えられた、いくつものコマンドを実行する』

 

「ほむらちゃん!」

「……よし!」

 

 ぐっと拳を握り、過去の全てを噛みしめるほむらに、まどかが感極まって抱きつく。

 ほむらはまどかから離れ、最後のループを共にした戦友にかける言葉を選んだ。

 ギャラクトロンは、ほむらの最高の友達でもなく、最高の理解者でもなく、最高の肯定者でもない。だが、最高の戦友ではあった。

 

「ギャラクトロン、私が……いえ」

 

 ほむらは自分が主人だ、と言おうとして、言い直す。

 

「私とここに居るまどかが、あなたの主人よ」

 

『了解しました』

 

 それは、ほむらなりのこだわりだった。

 

 これまでの戦いが、各々の主張が、目を閉じたほむらの脳裏に蘇る。

 

 キュゥべえは自分の延命ではなく、宇宙の延命のために人柱を立て続けた。

 それは、食物連鎖の外側からその連鎖が成立するよう調整を施すようなもの。

 宇宙を頂点とした食物連鎖を肯定するそれは、見方によっては独善だ。

 見方によっては大局的だ。

 何にせよ、犠牲になる者のことを何も慮っていない。

 それを地球の生態系ごと否定したのが、ギャラクトロンだ。

 

 マクロな視点で見れば、食物連鎖は肯定して然るべきものだ。

 ミクロな視点で見れば、食物連鎖を肯定することはできない。

 食物連鎖とは、どこかの誰かが弱肉強食の犠牲となるということであり、一を犠牲にして全の循環を維持するということを繰り返すということ。

 大きな動物が小さな動物を捕食し、その口の中で小動物が「痛い」「助けて」と叫ぼうとも、それは食物連鎖の流れを構成するものであるがゆえに、肯定されなければならない。

 それがどんなに残酷でも、肯定されなければならない。

 

 『残酷』こそが世界を回す。それが条理だ。

 暴走する正義(ギャラクトロン)は全てを破壊する。

 シビルジャッジメンターはいつとて、搾取者を裁くために存在するのだから。

 その対象がインキュベーターでも、人類でも構わない。関係がない。知ったことではない。

 裁きの剣は躊躇わない。

 優しい正義が弱者の味方なら、暴走する正義はいつとて強者の敵となる。

 食い物にされているのが弱者で、食い物にしているのが強者だ。

 魔法少女を食い物にする立場的強者を、ギャラクトロンは許さない。

 

 かつてのギャラクトロンは、その在り方を変えなかった。

 これからのギャラクトロンがどうなるか、それは誰にも分からない。

 

「きゃっ、虫!?」

 

 まどかが変な声を上げる。

 ほむらはまどかを驚かした虫を潰すべく、ハエ叩きを振り上げ……それが振り下ろされる前に、勝手に動いたギャラクトロンがほむらの腕を掴み止めた。

 

『無益な殺生は回避することを推奨します』

 

「……私はあなたの主よ? 主に意見するの?」

 

『存じております。意見もします』

 

 ああ、"争いを止めたんだ"と思って、まどかは思わず吹き出してしまう。

 

「ぷっ」

 

 こらえようとするがこらえきれない。

 吹き出したまどかを、ほむらが少し怒った顔で睨みつけた。

 

「あははははは! うん、これは間違いなくギャラクトロンくんだ!」

 

「まどか!」

 

「ごめんね、ほむらちゃん、でもおかしくて!」

 

『胸が無い方の主。ご命令を』

 

「その呼称は何!?

 ……ああ、私達の名前を入力してないからそうなったの?

 私は暁美ほむら。こっちの子は鹿目まどか。今度からはちゃんと名前で呼びなさい」

 

『了解しました、ほむら様。お守りします』

 

「よろしい」

 

 ほむらが満足げに頷いていると、誰かが呼んだわけでもないのに、ぞろぞろと見知った顔がガレージの中に入ってくる。

 

「ほむら居るー? 暇なら一緒に晩飯でも……うわあああああ!?」

 

 さやかが叫ぶ。

 

「どうしたさやか、女捨てた悲鳴してんぞ……って、オイオイ、マジかよ」

 

 ポッキーを咥えた杏子が、ニヤリと笑う。

 

「佐倉さん、美樹さん、どうしたの……って……あ……ああっ!」

 

 マミが、口元を抑える。

 

『この世界のために、争い全てを停止させる。

 別の世界でもそうさせてきたように、全ての争いを止める。

 まずは主を守り、ありとあらゆる争いを否定する。それが我が使命。我が正義』

 

 ギャラクトロンは、相変わらず製作者の思い通りのままであり。

 争いを止めるために頑なになる、面倒臭いロボットのままであり。

 自分の正義を疑うこともなく、自分が間違っていると想像すらしないけれども。

 

 人が、機械が、地球の文明が、未来にどうなっているかなんて、誰にも分からない。

 

 繰り返された過去は、暴走する正義を間に挟み、不確定の未来に繋がっていった。

 

 

 




【ギャラクトロンの呼称】
 以前のループでギャラクトロンの通信システムが繋げたのは、宇宙の魔女ムルナウが改造した個体ではなく、ウルトラマンオーブ本編のギャラクトロンです。
 このループではムルナウの宝石術式の獲得に使われましたが、以前のループでは『ギャラクトロン』という名前の獲得に使われました。
 勿論、ギャラクトロンが名前を得た経緯を覚えているのはほむらのみです。

 SSPの「ギャラクシードラゴンと救世主(サルヴァトロン)の名前が合体した時、新たな勇者が生まれる」という名付けの祈りは、ここに継承されていました、という話。
 以前のループでギャラクトロンの名前の由来を聞いたマミさんが大いに気に入り、ほむらもそれなりに気に入っていたという裏設定。
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