魔法主従まどか☆ギャラクトロン   作:ルシエド

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美樹さんってほんとバカ

 さやかはどうしたものかと迷っていた。

 既に時刻は夜。ギャラクトロンに何か言ってやろうと思って家の横まで連れて来たのだが、特に思いつかない。

 ギャラクトロンの巨体であれば、ここからでも帰宅後のまどかとその家を見守ることはできるようで、まどかの家の方角をじっと見ていた。

 

(ユーウツだ……)

 

 さやかは苦悩する。

 ギャラクトロンの説明をすれば恭介は納得するか?

 いや、ギャラクトロンは謎魔法陣で姿を隠している。実際にその姿を見せなければ恭介は納得しないだろう。

 ……音楽があればいい、と割り切られてしまったらどうしよう、という想いも少しある。

 ともかく、現状どうにもならなかった。

 

 さやかの中に沸き起こるのは嫉妬心。

 恭介の心を射止めたギャラクトロンへの嫉妬心だ。

 が、ギャラクトロンと恭介が結ばれるということはないはずだ、という想いもあって、ギャラクトロンに嫉妬しつつも"恭介が取られちゃう"という想いは発生していない。

 問題点は、恭介がギャラクトロンの音楽に強烈に惚れているという一点に収束する。

 

 恭介が誰よりも太くて固くて大きい(抽象的表現)ギャラクトロンでしか満足できない体になっしまったか否かは、神のみぞ知るといったところか。

 

「あんた、争いを止めに来たんだっけ?」

 

『肯定する』

 

「恋が理由の争いも止めたりする?」

 

『無論』

 

「人類から争いはなくならないよねぇ……」

 

 はぁ、とさやかは溜め息を吐く。

 その溜め息はままならない現実ゆえのものか、こんなロボ野郎にも恋愛的に嫉妬してしまう自分の心のままならさゆえのものか。

 

『この文明から争いがなくならないのは、この星の残虐な生態系を模倣しているからだ』

 

「ふーん、人間が邪悪だから、とかじゃないんだ」

 

『本来、邪悪な命など存在しない。

 ただし、進化の途中で間違ってしまうことはある』

 

「食物連鎖やってる地球がそれだって、あんたは主張するわけだ」

 

『地球の生態系は残虐である。

 宇宙は他生物から何かを奪わずともいけるようにデザインされている』

 

「間違ったらやり直せばいいんじゃないの?」

 

『進化はやり直せない』

 

「退化すればいいじゃん? ライチュウからピカチュウに戻すようなもんでしょ」

 

 さやかの絶妙なアホさ漂う発言に、ギャラクトロンは一瞬だけ絶句した。

 

『退化も進化の一種だ。

 必要なものを残し、不要なものを削ぎ落とし、新たな何かを自らに備える。

 それが進化である。飛ぶ必要がない世界であるならば、羽を退化させるのは進化なのだ』

 

「あ、なーるほど」

 

 なら、恋愛感情も人間に必要なものだから残ったんだろうか、とさやかは思った。

 

『食物連鎖も『進化』の一種。

 進化自体は、間違った現象などではない。

 だが地球の生態系は間違った……人間が言うところの、ガラパゴス的進化でしかない』

 

「ちょっと待って、検索する」

 

 ガラパゴスってなによ、とさやかが携帯電話で検索を始める。

 ギャラクトロンは彼女の検索終了を座って待つことにした。

 

「ガラパゴス……狭い島という閉鎖環境で生物が好き勝手に進化……

 へー……珍生物がいっぱい……あ、この鳥かわいい……

 周囲と隔絶された狭い環境で、特異な進化を遂げたもの……なーるほど……」

 

『もうよいか』

 

「あ、うん、もういいよ。で、それなんか問題あんの?」

 

 ギャラクトロン、起立。

 その瞳はさやかの首後ろ辺りをこっそり飛んでいた蚊を捉える。

 "人を傷付けるな"というまどかからのコマンドを守りつつ、ギャラクトロンは出力を絞ったビームを発射した。

 ビームはさやかの髪をかすめ、さやかの背後で蚊を爆散させた。

 

「ひゃっ!?」

 

『他の命から何かを奪い、生き永らえることは醜悪である』

 

「……あ、あー、うん。で、地球の命は皆殺したいってわけね」

 

『そうだ』

 

 ギャラクトロンの行動原理を再認識し、さやかはふとあることに気付いた。

 

 最近の見滝原――特にこの周辺の地域――では、ゴミ捨て場を荒らす野良犬・野良猫・カラスなどの増加が問題になっていた。

 小学生の子が野良犬に襲われたということもあって、近所の小学校では集団下校や大人付き添いの登下校などが徹底されている。

 野良犬と野良猫は捕まえられては保健所に送られ、処分されているという話を聞き、まどかが少し悲しそうな顔をしていたことを、さやかはよく覚えている。

 

 前は少し道を歩くだけで野良犬や野良猫、カラスを見た。

 それらの生物が道にフンをしたりして、道も随分汚くなっていた。

 なのに、最近それらの姿を全く見ていない。

 空を飛ぶカラスも、ゴミ袋を食い荒らして道を汚す野良猫も、子供に吠え掛かり噛みつきに行く野良犬も。

 最近の街で、ただの一匹も見ていない。

 

 少しばかり、さやかは背筋がゾッとした。

 

「……うーん」

 

 普段のさやかなら、ここで引き下がっていただろう。

 だが、今日のさやかは違う。

 今日のさやかは寝取られさやか。

 惚れた男を他の誰かに取られ、攻撃性がちょっと増したさやかちゃんだ。

 惚れた男を奪っていった寝取りドラゴンに、一矢報いたいという気持ちがあった。

 

「人間が進化してったら、どっかで食物連鎖とか卒業したりするんじゃない?

 もしかしたらそういう未来もあるんじゃないかなって思う。あんた、答えを急ぎ過ぎだよ」

 

 "答えを急ぎ過ぎ"という言葉は、さやかがいつだか誰かに言われた言葉だ。まどかか、まどかの母か、親友の仁美か、クラス担任の早乙女先生か。

 さやかは誰に言われたかも忘れてしまったその言葉を、自分の言葉として口にした。

 

『そんな未来はない。

 この星の命にそんな可能性はない。できるわけがない』

 

「やってみなくちゃわかんなくない?」

 

『不可能だ』

 

「いーや、やってみなくちゃわかんないね!

 ネバー・セイ・ネバー! できないなんて言わないで!」

 

 よし、決まった、とさやかは得意気に思った。

 

『美樹さやかは上条恭介と生殖活動を行えるか』

 

「で、でででででできるわけないでしょ!?」

 

『できないと言うのか』

 

「うぐっ」

 

『耳が痛いか。だから君達は耳を塞ぐ。都合の悪いことは無視しようとする』

 

「くうっ」

 

『ゆえに、醜悪だ』

 

 ぎゃふんと言わされてしまった。

 さやかは反論できないが、何かないか、何かないかと考える。

 GALACTRON(ギャラクトロン)などという、名前にNTRの文字列が含まれる機械竜にさやかが負けたまま、してやられたままなど哀れ過ぎる。

 さやかは考えに考え、そして一つ思いついた。

 

「そうだ!

 あんたの大好きなまどか様居るじゃん?

 そのまどか様は今も食物連鎖の中にいるわけだけど、その辺の矛盾はどう消化してんの?」

 

 ギャラクトロンは答えない。

 そのままの姿勢で硬直し、ピコーンピコーンと音を鳴らして何かを考え始めた。

 返答に窮しているというのが誰の目にも明らかである。

 

「勝った……!」

 

 さやかは満足して寝始めた。

 今日はいい気分で寝れそうだ、と思って寝床に入った様子。

 それから数時間の時が流れた。

 やがて誰もが寝静まった、深夜二時頃。

 

 ギャラクトロンはさやかの家をぶん殴ろうとするが、まどかの言葉を思い出し思い留まる。

 そしてさやかの耳の穴にコードを一本突っ込んで、大音量の音楽を流し、叩き起こした。

 

「ふぎゃあああああ!?」

 

『解答の構成を完了した』

 

「何事!? 何事!?」

 

『まどか様は因果を超越し、はるか古代にまで時を遡る干渉を行っている。

 それは地球に食物連鎖が誕生する以前のこと。

 それは過去現在未来から自分の所業による罪業を消し去る行為。

 時系列を考えれば、地球に食物連鎖が発生したのはまどか様の干渉より後である』

 

「夜中に叩き起こした挙句意味わかんない理屈並べんのやめろ!」

 

 寝ぼけた頭がギャラクトロンの理屈のほとんどを聞き流しつつも、ギャラクトロンが何か理屈を捏ねてまどかを正当化しようとしていることだけは、さやかにも理解できた。

 

 

 

 

 

 嫌な時間に目が冴えてしまったさやか。

 ギャラクトロンを怒ろうとするが、今ギャラクトロンに起こされるまで悪夢を見ていたこと、ギャラクトロンのお陰で悪夢が途切れたことを思い出し、口ごもってしまう。

 

「……はぁ」

 

 嫌な夢だった。

 恭介に告白したのにフラれ、恭介が別の女の子とくっついてしまう夢だ。

 しかも夢の途中から、恭介の恋人になった女の子の顔がギャラクトロンになっていた。

 ガチのガチな悪夢である。

 

「あんたみたいに、あたしにも鉄の体と鋼の心があればまた別だったのかな」

 

 戦う動機と、恭介の手を治した動機と、自分が望んでいるものは別だと思っていたはずなのに。

 見返りが欲しくて願ったわけではないと、思っていたはずなのに。

 恭介が自分以外の誰かに惚れたというだけで――恭介が自分に好意を持っていないと理解しただけで――さやかの戦意は揺らいでしまう。

 さやかは綺麗な想いだけで立っていられなくなってしまう。

 

「守りたいものがこの街にあるから、戦ってたつもりだったのに……

 魔法少女になって、願いを叶えた後は世の中の平和守るつもりだったのに……

 その守りたいものの一つが揺らいだだけで、あたしはこんなにも迷うんだね……」

 

 マミさんみたいにはなれないや、とさやかは隠しきれない悔しさを誤魔化すように笑った。

 ギャラクトロンは少し思案し、さやかに手を差し伸べる。

 

『騎乗を推奨する』

 

「乗れってこと? 何よ一体」

 

『飛翔する』

 

「え? うわっ!?」

 

 さやかを手の上に乗せ――ドデカイ鉤爪しかないため魔法陣で固定――、ギャラクトロンは日本の夜空へと飛び上がった。

 その飛翔速度は、現在地球に存在するあらゆる飛行機械の速度を遥かに凌駕する。

 

「ちょ、ちょっと! 何すんのさいきなり!」

 

『下を見よ』

 

「下?」

 

 いつの間にか空の色は夜から昼のものへと変わっており、パジャマ姿のさやかが下を見下ろしてみれば、そこには世界の残虐があった。

 

 偉い人の私利私欲を満たすためだけの紛争で、死んでいく民衆が居た。

 利権が欲しくて、民族間で殺し合う者達が居た。

 二人の男が、互いの家族を互いに殺した復讐者となっていた。

 飢饉で食料がなく、痩せ細った子供が死にそうになっていた。

 死にそうになっているその子供の横で、餓死済みの子供が鳥にその肉を食われていた。

 

 無数の悲劇があり、無数の戦乱があり、その中のいくつかには、悲劇を止めようとする魔法少女の姿もあった。

 

 ギャラクトロンはさやかがそれらを目にできるように様々な工夫を施していたが、高速で各所の上空を通り過ぎていくがゆえに、さやかはそれらの戦いに介入する暇も貰えない。

 助けないと、止めないと、と思っても、思った瞬間にはそこを通り過ぎている。

 さやかがテレビで時々見る、"恵まれない子供達のために募金を"というCMの『恵まれない子供達』が、今は彼女の目で直接見えるところにあった。

 

『魔法少女が守っているものなど多くはない。

 全ての争いを止めたいのならば、全てを破壊しなくてはならない』

 

「争いを止めるには……全部殺すしか、ないって言うの!?」

 

『そうだ』

 

「そんなことない! 絶対に!」

 

 ギャラクトロンは争いを止めるのが第一で、さやかは何かを守るのが第一だ。

 守ろうとするものはさやかの恋心であったり、誰かが胸に秘めた想いであったり、人が平和な日常を過ごす権利であったり……もっと単純に、罪なき人の命だったりする。

 さやかは守るためなら争いを躊躇わず、ギャラクトロンは争いを止めるためなら破壊も殺害も躊躇わない。

 

 地球の残酷さを見下ろしながらも、二人の想いは真逆だった。

 

『美樹さやかは、自己評価が低く、理想が高い。

 それが争いを引き起こしやすい性格の原因である。改めることを推奨する』

 

「んなっ」

 

『"世界"は、"世の中"は、君が頑張れば守りきれるほど小さくはない』

 

「―――」

 

『願えば叶う、努力すれば全てが手に入る、それは人間の傲慢である』

 

 それらの悲劇は、地球上にありふれている"当たり前"だ。

 一時であっても消し去るならば、奇跡が要る。

 全てを消し去るのであれば、神域の奇跡か全ての消滅が必要になってくる。

 そしてさやかは、自分の魂を差し出しての一度きりの奇跡を、恋した幼馴染のために使い切ってしまった者だった。

 

 ギャラクトロンの言葉は、罵倒のようで、真理のようで、暴論のようで、忠告のようで。

 

「ちょっ……ああもう! 一回降ろして一回!」

 

 ギャラクトロンに訴えかけて、さやかはとりあえず一回降ろしてもらう。

 一度地に足付けて考えたかったのだろうか。

 ギャラクトロンが森の木々を踏み倒しながら着陸し、さやかを地面に降ろす。

 

「あたしだって、世界で起きてる悲劇くらい知ってるっての……

 ったくもう、宇宙から来たロボットが人間にお説教とか世も末……ん?」

 

 恭介のこと、ギャラクトロンに見せられたもの、それらのことでごちゃごちゃと考えていたさやかの思考が晴れる。

 何かが解決したからではない。

 ただ、その場所から見える景色が、とても美しかったからだ。

 

「あれ、ここルサールカじゃん」

 

『肯定する。現在位置はルサールカと呼称される場所だ』

 

「知ってる?

 恭介が好きな昔の音楽家、ナターシャ・ロマノワの出身地がここなんだよ。

 画集でこの風景見たことあるんだよね……わぁ、いい景色だわぁ。

 ナターシャはここで生まれて、後に日本に来て、昔名盤をいくつも残したんだよね」

 

 ルサールカは、名音楽家ナターシャを排出した音楽の聖地だ。

 ルサールカという地名の由来は、若くして死んだ花嫁や水難事故で死んだ少女が幽霊のように水辺を漂うようになった怪異・水の精霊ルサールカに由来する。

 水の魔法少女であるさやかには、少し感じ入るものがあるのかもしれない。

 

『興味はない』

 

「えー、ホントに? 知らない? こういうのなんだけど。らー、ららららーらーららー……」

 

 さやかが曲を口ずさむ。

 えー、こんな有名な曲なのに知らないのー? とギャラクトロンを少しからかうつもりだったさやかは、ギャラクトロンの予想外の行動に驚く。

 さやかが口ずさんでいた曲のメロディを、ギャラクトロンが奏で始めたのだ。

 

「!」

 

 ギャラクトロンは既に地球上のスキャニングを完了している。

 地球の多くをギャラクトロンは既に理解しており、その上でとんでもない暴論を展開するからこそ、この機械竜はシビルジャッジメンター足りうるのだ。

 さやかが口ずさんでいた歌を、ギャラクトロンは既に知っている。

 竜と少女のセッションが始まった。

 

「~♪」

 

 水の精霊の名を戴いた地で、水の魔法少女が歌う。

 機械が奏で、人は歌う。

 一人と一機が音楽を創り、大気が震える。

 

 さやかの歌唱力はお世辞にも高くはない。

 音楽の才能があったなら、さやかはCDを買ってくるだけでなく、恭介と同じ世界に生きる努力くらいはしていたはずだ。

 さやかの内にある絶望の一部は、さやかに音楽の才能がなく、さやかには恭介と同じ世界を見ることが出来ないという現実からも生まれている。

 さやかに、音楽の才能はない。

 

 だが、今ここにあるさやかとギャラクトロンの音楽は、言葉の通じない別宇宙の生物にすら、音楽の良さというものを伝えて余りあるものだった。

 

(ああ、そうだよね 音楽で心は動く……動かされる。

 あたしは……あたしのこの気持ちの出発点は……きっと、そこで……)

 

 さやかは初心を思い出す。

 何故、恭介を好きになったか。

 何故、恭介に音楽を取り戻して欲しいと切望したか。

 その想いの源泉を、幼少期に上条恭介の演奏に覚えた感動を、想い出と共に思い出す。

 

 歌って、歌って、歌って。

 ギャラクトロンの曲に、腹から出した声を合わせて。

 

「……ふぅ」

 

 一曲歌いきったなら、なんだか満足してしまった。

 

「あー……結果的にだけど、イライラした後カラオケ行ったみたいな感じになったね」

 

『歌えば発散できるストレスを、他生物への攻撃で発散するのが地球生物の悪―――』

 

「あーはいはいわかったから! 日本帰ろ帰ろ!」

 

 ここまで来た時にあった気持ちが、日本へ帰る道程では不思議と綺麗さっぱり消えていた。

 さやかの心は晴れ晴れとしている。

 まるで、自分の中にあった『争いの原因となる気持ち』を片っ端からギャラクトロンに虐殺されてしまったかのように。

 

「あ、ギャラクトロン、そこで一回降ろして」

 

 自宅に帰る前に、と、さやかはコンビニの前で降ろしてもらう。

 そしてコンビニに入り、パジャマのポケットに入れたままだった財布を開いて、財布の中身を全て『人道的支援募金』と書かれた箱の中にぶち込んだ。

 

『焼け石に水と言って良い行為だ』

 

「いいじゃん、やらないよかマシでしょ?

 まあ明日のあたしは小遣いがなくなったー、って後悔するかもしれないけど……

 今日のあたしはそうしたかった。だからいいんだ、これでいいの。

 知らない? ナターシャの明言。『握った手の中、愛が生まれる』だよ」

 

『握ったのは金だ』

 

「愛だよ愛! あたしの愛さ! 人助けしようっていう、ちょっとした気持ち!」

 

 中学生なんて、千円ですら大金だというのに、さやかは財布の全額を募金してみせた。

 

「さ、帰ろう。んで頑張ろう!

 今日も明日も明後日も!

 きっと色々、なんとかなると信じよう!」

 

『安易な期待に大半の要素を期待する作戦は、その大半が失敗に終わるものだ』

 

「ネバー・セイ・ネバー! やってみなくちゃ、わかんないさ!」

 

 あはは、とさやかは笑う。

 そこには何の憂いも無さそうだ。

 彼女が抱えた問題は何も解決してはいない。

 変化があったのは問題そのものではなく、さやかの心の方だ。

 問題や悩みを抱えても笑える程度の成長。ちょっとばかりの、けれども確かな成長だった。

 

「ん? 何この音……」

 

 ギャラクトロンの内側から、何かを叩く音がする。

 さやかが首を傾げると、ギャラクトロンの胸部が開く。

 そこには、暁美ほむらが居た。

 

「えっ」

 

 ギャラクトロンの淡々とした口調は、時に声の聞き分けを難しくさせる。

 佐倉杏子や暁美ほむらと言った、さやかとの付き合いが一ヶ月以下の者達の声なら、尚更に。

 

「……んん、えふっ、いい言葉じゃない。ネバー・セイ・ネバー」

 

「うわあああああああああああっ!!」

 

 さやかの色恋話からずっと聞いていたほむらが、ちょっとばかり笑いを堪えながら言う。

 

 さやかは変身し、全力でギャラクトロンの足を蹴り飛ばした。

 

 

 




ギャラクトロン CV:斎藤千和
クールぶってるくせにクールキャラを維持できないクールキャラの恥

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