IS学園で非日常   作:和希

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九話 敵機襲来

 「ちょっ、やめなさいよおおお!!」

「うひゃひゃひゃひゃ!!」

ただいまIS訓練中。ミサイルぶっ放したり大砲ぶっ放したりして鈴を追いかけている。正直、一番最初こそ衝撃砲に面食らったが、所詮直進しかしないしIS本体からしか発射しない。砲弾が出てから測定しても遅いが、空気中の塵とかをレーザー測定機を用いれば大砲の向きを大雑把には割り出せる。後はその直線状付近に入らなければいいだけだ。そんでもって一夏との付き合いやらなんやら、他色々のおかげで先読みにかけてはそれなりにできる。特に鈴とは昔からの付き合いだ。それなりにゲームもやった(テレビゲームは弱かった)。それが全部とは言わないが、とにかく砲門も多いし読みが強いこっちのが砲撃戦は有利だった。

「アハハハハ!大火力による殲滅戦!それこそ至高!」

「調子乗ってんじゃ無いわよ!」

鈴は一気に反転してこっちに突っ込んできた。上手い具合に砲撃をかわしながら接近してくる。見えない砲弾も見えないからどうしても実弾とかより反応が遅れる。砲門の向きの測定もどうしても誤差が出るし。徐々に距離が詰まって

「吹っ飛びなさい!」

「いやだね!」

青竜刀を振り下ろしてくるが当たる趣味はない。横に回避して後ろ回し蹴り。ついでに足に装着されたプラズマサーベルを叩きつける。セシリア戦では使わなかったが、基本装備の一つ。プラズマブレード足と手に四本と、他にワイヤー前方四つ、後方二つが付いてる。ただし、固定装備というわけではない。

「あたるか!」

鈴は横からの攻撃に上体をそらして回避。そのまま下から青竜刀を叩きつけてくるが肘に装着した実体盾でガード。それから出力を上げ接近し、

「食らえ!」

パイルバンカーを射出。しかもただのパイルバンカーでなく、射出するパイルバンカー。もはやパイルバンカーと言えるか怪しい。ともかく長さ50cm近い鉄杭が射出され

「なっ!?」

直撃してひるんだ瞬間に__

 

 

 

 

 「卑怯よ!アンタの機体と武装!ガッチガチに固めてるじゃない!」

「偉大な傭兵は言った。戦場では試作型とかより信頼性ある武器の方が大切だと」

とは言う物のトリッキーな武器がかなり多いけど。射出するパイルバンカーだったり火力だけ追及したIS用手榴弾だったりランスだと思ったらショットガンが飛び出すとか。ちなみに個人的に好きなのでそうした武器は結構入れている。

「ま、どこもかしこも第三世代は試作をやっと投入って感じだし。甲龍は安定性はいいようだけどやっぱり基本を抑えてるこっちの機体のが有利だよね」

下手な特化機体よりよっぽど凡庸機のが強い。まあ、鈴はまだあまり慣れてないようだし。仕方ないと言えば仕方ない。一年前に中国に帰って、二ヶ月ぐらいでIS乗れるようになったって所だろうか。となるとこれに乗り出したのは数ヶ月前って読みだが。

「手持ち武器だけで勝負しなさい!」

「いやだよ、勝ち目ないじゃん。基礎で劣ってるんだし」

普通の練習は手持ち武器だけで基礎を上げる練習をしてる。鈴に中距離武器で挑んだり、セシリアに狙撃戦を挑んだり、一夏や箒に近接戦を挑んだりと。結果?一回も勝ったことはない。ただ、いつもの面子でドベが何か奢る模擬戦は別。今まで賭けの模擬戦をやってるが、鈴に対する勝率は最初の頃は何と六割を超えた。が、次の週には三割前半を切ってる。やはりさっさと基礎部分を上げないといけないな。皆それぞれ上手くなってきたとは言ってくれるけど。

ちなみに、俺は賭けが好きじゃないが、今は給料たんまり入ってくるのでいいかなと思いながらやってる。

「おーい、タオルとスポドリ」

一夏がぽんぽんと渡してくれる。皆でサンキュと言ってからゴクゴク飲む。俺や鈴だけでなく、練習機を持ってきた箒、セシリアとかもだ。

「ですが、このごろ狙撃も上手くなってますわよ、希さん」

「ああ、近接戦闘も確実に上昇している」

「指導者がいい人ばかりだからね。助かってる」

「でも皆ざっくばらん過ぎる気がするが……」

一夏の言いたい事も分かる。ともかく感覚主義だったり完璧理論主義だったりの人たちだが、何とか理解しながらやれてる。

「あんたの理解力が不足してるんでしょうが。希は問題ないでしょ?」

「それは希の理解力が高いだけだろ」

地味に自慢だが、理解力はかなり高い方だ。向き不向きはあるけど、ISは理解しやすいことのようで。で、ちょうどそのときだ。

「ん?スポドリ少なすぎたな。新しいの買ってくる」

ここの自販機はぬるめ、というスポドリがある。一夏が自販機に移動しようとしたとき、

「わ、私のを飲んでもいいのだぞ?」

「私のを飲みなさいよ」

「私のを飲みませんか?」

こいつは本当にまぁ。たまにはギャグ入れるか。

「俺の飲むか?」

ちなみに、ここで同姓から受け取る奴は殆どいないだろう。まわり全員美少女なんだから、そっちの方を取りたい諸君が九割五分を占めるはずだ。残りの五分?ホモ。人類の一割が同性愛者らしいから。男と女二で割れば五分だ。

あー、でも男の方を取った方が無難かな。女子一人からならともかく、三人の誰かからもらうとなるとその人に対して好意を持ってるって解釈が普通されちゃうだろうし。となると俺も男選ぶかな。

「ああ、サン__」

こんな風に。

「見損なったぞ!お前たち!」

「見損ないましたわ!お二人とも!」

「ずっと昔から怪しいと思ってたのよ!」

「ヘイ、ジョーク。あと鈴、お前そんなこと思ってたの?」

「べ、別にあんたたちが付き合ってるとか思ってないわよ!」

すっげえ目を逸らしてる。

「ん?昔から俺たち付き合ってるだろ?中一ぐらいのときからだな」

「自白してくれるツンデレありがと。ちょっと部屋の隅で丸くなってくる。あと一夏、お前は……」

一夏を生贄にささげて俺は逃げ出した。そして心の中で泣いた。

 

 

 

 P.S 誤解は解けたようです

 

 

 

 

 試合当日、第二アリーナ第一試合。組み合わせは一夏と鈴。噂の新入生同士の試合のためか、人は満員。通路にいたりモニターで観戦してる人もいるとか。

「じゃあもう一度確認するぞ。チャンスは一回と思え」

「分かってる。瞬時加速(イグニッションブースト)で突撃だよな」

何度も対戦しているが、これだけは隠し通していた。これに期待の半分をかけているレベルだ。

「残念なことにそれぐらいしかない。でも何度か対戦してるから、見えない砲弾もそれなりにかわせるだろ?」

「ああ、大丈夫だ」

「分かった。……織斑一夏、白式、発進!」

カタパルトで加速して飛び出していった。後ろを見ると心配そうな二人がいた。

「そのだな……一夏は勝てるのか?」

「あのな、お前たちが信じないでどうするんだ?勝つって信じてやれよ」

「……そうですわね」

ここからじゃ見にくい。ちょうどよくリアルタイムモニターがあるのでそっちのほうに移動する。かなりのサイズだ。見ると二人は規定の位置……互い五メートルの位置に移動していた。さて、それより鈴にアドバイスしたが、本当に切り出せるのかね。まあ昔から負けたら奢りとかやってたからそれなりにやれるかな。

 

 

 

 

 鈴はすさまじい精神力で心を落ち着ける。別に大勢の前で試合するのが緊張するわけではない。問題は、今から言う言葉だった。

「ねえ、一夏」

「なんだ?」

「どどどどうせなら、賭けをしない!?」

「大丈夫か?」

当然の心配である。目の前で顔を真っ赤にしながらどどどどと言葉が不安定な人間を見たらまず誰でも心配する。

「うっさいわね!するのしないの!?」

「いいぜ。真剣勝負だしな。それで何を?」

「えっと……その……勝った方が相手に何でも言うことを聞かせれるのって、どう?」

「ああ、いいぜ」

(駅前のパフェは高いから負ける気はない!)

ちなみに、なぜ一夏がパフェに直通で考えたかと言うと、希がわざとらしく鈴が駅前のパフェ食べたがってたなーと前日わざとらしくこぼしたからだ。一夏が賭けを受けやすくするためにだ。彼にかかれば多少の思考誘導は簡単だ。一夏が単純なのもあるが。

「今更変更はなしよ!」

「もちろんだ」

『それでは両者、試合を開始してください』

試合が始まった。

 

 

 

 

 「うん。いい調子だな」

一夏はいい戦いをしていた。相手の砲撃をかわす一方で隙があれば斬りかかる。一度つめたら離されないように必死に食らいつく。鈴も青竜刀を振り回して接戦したり、距離を離せば衝撃砲で攻撃したり。両者ともレベルが高い試合で会場も盛り上がっている。そんな試合を十分ほど続け、鈴が一瞬だけ気を緩めたように見えた。その瞬間、一夏が仕掛けた。瞬時加速、鈴が驚いて、一夏の雪片弐型が輝いた直後

『ズドオオオオオンッ!!!』

アリーナから轟音が響いた。直後には俺は駆け出していた。よくもまあと自分でも思う。こんな非常事態なのに体は勝手に動く。普通は反対方向に逃げるはずなのに、何がなんだか分からなくて動けなくなるはずなのに、ISを展開してピットのカタパルトの場所から飛び立った。もちろん、カタパルトなんて使ってる時間はない。自分でも、自分は周りよりちょっと変わってるとは思ってた。別に優れた人間、というわけじゃない。俺の能力は大体の人が努力すれば十分手に届くレベルだ……IS乗れることを除けば。でも、こんな非常事態なのに一瞬で駆け出すとは。

結構変わってるね、俺って。

 

 

 

 「!来るぞ!」

そう警告した瞬間だった。

「ファイエルッ!!」

突然反対側から大量の火力が投射される。ミサイルや砲弾が。無人機は難なく回避するが、ダメージをそこそこ負ったようだ。

「やっほー、遊びに来たよ」

それはコイツなら何とかしてくれると思わせる声を漂わせる希だった。

「よく来れたな。助かる」

だが鈴は

「ちょっと!これは遊びじゃないのよ!さっさと逃げなさい!」

「おい、鈴。いくら国家で訓練受けたとか言ってもな、俺たちは仲間だと思ってる。それとも、二人きりのが良かったか?」

「さ、さすがにそこまでお花畑じゃないわ。……はあ、しゃあないわね。作戦は任せたわよ」

「お前、一瞬二人の__」

「うるさいわね!さっさと考えなさい!!」

『織斑くん!凰《ファン》さん!それと何でいるんですか清水くん!?今すぐアリーナから脱出してください!』

だが希が首を振って

「無駄ですよ。シールドを張り直されてます。なーに、三対一です。生徒たちが避難する時間は稼げますよ。第一、もうやるしかないんですよ」

『何でそんなに楽しそうなんですか清水くん!?』

「火遊びってのは危険だから面白いんですよ。したことないけど。一夏、お前は接近戦を挑め。鈴は衝撃砲で援護。二人とも試合でエネルギー削れてるから主に俺が前に出る、残量に注意しろよ。倒そうとはあまり考えるな。石橋を叩くつもりでいくぞ。仲間が怪我するのは嫌だからな」

「「了解!」」

 

 

 

 「せいっ!」

俺の薙刀を振り回すが回避。その上から一夏が斬りかかるが回避。そこに衝撃砲が来てやっとヒットした。

「くそっ!相手の動き人間じゃねえな」

考える考える、考えている間に二人がいちゃついた会話をしているが……

「おい、アイツさっきからパターン化してないか?」

何と言うか、機械じみている。機体の動きも、何かおかしい。

「ん?まあそうね」

「やっぱりお前も気付いてたか」

「一夏もか。アレ……機械じみてるよな」

「ああ」

「は?人が乗らなきゃISは動かな……そういえばアレ、さっきからあたしたちが会話してるとき……」

「うん、攻撃してきていない」

「でも、ISが無人で動くなんてありえない。ISは人が乗らないと絶対に動かないでしょ?」

「男が乗っても動かないはずなのにISは動いてる。ありえないことは今確実におきてるんだ。アレもありえない事を起こしてるのかもしれない」

ちなみに、他の可能性として、人の脳味噌だけクローン栽培してあの頭脳に乗っけてるとか。もしくは人体実験で脳味噌だけ取り出してとか。漫画や小説の見すぎか。

「じゃあ、無人機だったとしてどうするの?」

「一夏、当てろよ」

一夏にパース。

「カバー頼むな」

「肝心なところで人頼みよね、希」

「うっせ。人が繁栄して来た理由は知恵と道具と協力の三つだ。俺はその全てを生かしているだけだ」

「物は言い様ね」

さてと、では。

「最大武装展開」

二秒で展開した合計八門。さらに空中発射ミサイル十六発を二秒で展開。

「鈴。合図したら俺に向かって衝撃砲を撃ってくれ。最大威力で」

「何言ってんの……ってああ、そうゆうことね」

その時突然だ。

「一夏ぁっ!男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

モノアイが箒を見た。……いかんかな。

「行くぞ!」

一斉発射。周りから詰めるようにミサイルが一斉に発射。こっちに注意をそらした。無人機は大きな動きはあまりしない。小さく、最小限の動きで動く。弾幕を張ってもあまり動かずに回避をした。でもそれが油断。

「終わって」

小さくつぶやいた瞬間。ミサイルからネットが射出された。無人機の眼が驚いたようだった。回避しようとしても、もう遅い。複雑に絡まった。レーザーで焼き切るにも時間がかかる。

「凶悪ね、相変わらず」

同時に最大威力の衝撃砲が一夏の背中にヒット……する瞬間に、イグニッションブースト。エネルギーを吐き出したあとそれを吸収し、また吐き出すのがイグニッションブーストの原理。外部から取り入れてもそれは可能。

「オオオッ!!」

剣閃が閃いた。その瞬間に、相手の胴体を……いや、無人機じゃないかもしれないという思いがあったのか、右手を切り落とした。だが人で無いと判断した瞬間、一瞬でまた斬り返し左腕も切断。イグニッションブースト(強)で加速している最中に二回切り裂くとか、化け物である。

「とどめもらうねー」

俺が取り出している武器は全長4.5m、口径55mmになる超大型粒子加速砲。最大威力で放てばラファールは下手したら一撃で沈む威力がある。

「ファイエル」

胴体に直撃し、敵機体は爆発した。……いやっ!

「一夏ぁっ!」

その中から一筋の光線が飛び出た。敵の断末魔のかわりだろうか。それが一夏に直撃した。

 

 

 

 「正確には『料理が上達したら、毎日あたしの酢豚を食べてくれる?』だっけ。で、どうよ?上達したか?」

「え、あ、う……」

お見舞いに訪れたら一夏が衝撃的なことを言っていた。何を言っているか(ry

「なあ、ふと思ったんだが、その約束って違う意味なのか?俺は__」

えっと、小学生時代の話かな。俺に会う前のはずだし。となると気付かないのも無理は無い……今なら思い返して気付いて上げれるんじゃないの?普通なら。あ、一夏は普通じゃねえ。まあいっか、しっかり思い出したんだし。鈴も照れ隠ししてこれで手打ちって所だろう。

「深読みしすぎじゃない!?あは、あははははは!!」

「勝負は決めれるときに決めれない奴は弱いんだ。大富豪の札だって出すときに出さないのは弱い奴。どんなことだってね」

「簡単に言ってくれるわね……」

「よっ、希。大丈夫か?」

「間違っても怪我人に言われる言葉じゃないな。……すまんかった、とは言っておく。もっと精進する」

「別にいいさ。こうやって笑えあえてるんだから」

「だな」

懐かしいあの頃。まだ日常を過ごしていたころみたいだ。今はもはや日常とはいえないだろう。日常と感じるようになってしまっているけれど。でも、日々変わらずに過ごしているのが日常だ。今日は、完璧に非日常だったな。

「あ、そう言えば鈴。こっちに戻ってきたってことは、またお店や__」

「一夏!調子は大丈夫か!?」

「あ、ああ、大丈夫だけど……いきなりどうしたんだ」

間に合うか、このタイミング。

「希……あんたは察しが良すぎる奴よね。いつから?」

……遅かったようだ。

「最初あったとき。親父さんについて一夏が聞いたとき、元気にしてるはずとかいっただろ。おばさんは元気だって答えたのに。そこで怪しくて、今一夏がしゃべってるときにお前の表情が……」

「え?え?どういうことだ?」

「あたしの両親、離婚しちゃったの……」

「今思えばお前が国に帰るときも……」

あのときから表情が暗かった。だから何となくで分かってしまった。

「その通りよ」

「そうだったのか……」

「一応、母さんの方が親権なのよ。ほら、今ってどこでも女の方が立場が上だし、待遇もいいしね。だから……父さんとは一年会ってないの。たぶん、元気だとは思うけど」

一夏が悩んだあと、俺に眼を向けた。首を振ってクイクイ一夏を示す。ええっ、という表情をするがお前じゃないとこれはきつい。いや、俺でもフォロー出来るだろうけど、一夏のほうが上だと言わざるをえない。

「家族って、難しいよね」

「なあ鈴」

「ん、なに?」

「今度どっか遊びに行くか」

ISから器具を取り出す。すばやく『二人きりで。俺はいいから』と掲げる。

「え!?それって、そのデート!?」

「デートかは知らんけど、二人きりで」

「えっ!?いいところで落とす一夏が!?……まさか」

パッと鈴が振り向いた。ちょっと反応が遅れて仕舞うのが遅れた。一夏がバツの悪そうな顔をする。俺?いつもと同じ表情。

「……私は、希のことを大事な友達と思ってるわよ。まあそりゃ、一夏と二人きりってのもアレだけど……希なら大丈夫よ。一緒にいたいと思うのよ?」

「ホント、友達甲斐があるよ。弾も誘おうぜ」

「久しぶりだな、四人で揃うのは」

そう言うと鈴はにっこりと微笑んだ。ああ、これだ。戦場での戦いも楽しい。でも、この日常も、確かに楽しいんだ。

「そうね、楽しくなるわね」

その時、バーンッと扉が開け放たれる。

「一夏さん、具合はいかがですか?」

「あのね、バーンッて開けるのは駄目だよ?ね?響くよね?」

「あ、はい、すいません……ともかく!どうしてあなたがここに?一夏さんは一組の人間、二組の人にお見舞いされる筋合いはなくってよ」

「大きな怪我を負った友達を見舞わない奴がいたらおれは縁を切るね」

「あんたこそただの他人じゃん」

「わ、わたくしはクラスメイトだからいいんです!それに、今は一夏さんの特別コーチでしてよ!」

「大声は響くからな?出てってもらうよ?第一鈴もコーチみたいなもんだ」

「あ、はい、すいません……というか、今日はやけに厳しくないですか?希さん」

「今は状況効果が働いていてね。今日は100%鈴の味方だ、すまん」

「つまり、アタシの勝ちは不動ってことよ」

俺に対しての信頼が嬉しいです。セシリアはうっと身を引いた。だがそれぐらいで下がるなら一夏争奪戦に参加することはない。

「まっ、どちらでもあれ、一夏は微妙に怪我人だ。騒ぐなよ」

「そうですわね。ささ、それでは早速今日の戦闘の分析をはじめましょう」

「俺たち三人でやってるよ。戦ったの俺達だし」

「本当にひどいですわ!」

「まあまあ、ほら。リンゴ持ってきたんだ。剥いてくれ」

袋の中からリンゴを取り出す。

「分かりましたわ」

「ところでリンゴ剥いたことあるか?」

「いえ、正直やったことはありません」

「なら仕方ない。鈴、頼む。むさい男がやるより美少女の手で剥かれた方が一夏も喜ぶだろうし」

「び、美少女なんて!……ちょっと待ってなさいよ」

さっと消えた鈴を尻目に、セシリアが俺に近づく。ワナワナ震えながら、二十秒ぐらいして。

「あの、本当に今日は凰さんの味方ですか?」

「うん、全力で」

グッと親指も立てた。

「……ここで私の底力を見せ付けてあげますわ!」

「頑張ってね。……お、鈴さすが早い。いいお嫁さんになりそうだ」

「ま、まあね!」

「所で一夏、いくら大方大丈夫と言われてても、あまり動くのはよろしくない。鈴、食べさせてあげろ」

「えっ、ちょっ、それはレベル高いんじゃ!?」

「さすがに自分で食べれるって」

「そうですわ!」

「まあまあ、今日の共闘の証ってことでいいだろ」

「まあ、鈴がいいなら」

この日、セシリアは完全敗北を喫した。それから女子力を上げようと努力している最中である。


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