IS学園で非日常   作:和希

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九.五話 おしとやかに行こう

 「なあ、お前っていつも休日何してるんだ?」

五月も終わりの日の日曜日。いつものメンツで食事の最中に質問をされた。

「俺?会社に出向いてる」

「えっ!?お前就職……ああ、そうだった」

「武器の報告やら……ってのは月に一回ぐらい、というかメール送信とかでいいんだけど。実際のメインは違って師匠に特訓を手伝ってもらってるんだ」

「師匠って誰よ」

「あれ?鈴知らなかったっけ?……そうか、知らないよな」

「どんなお人ですの」

うーん、そうだな。

「名前は森羅香苗。年齢は秘密。身長は168cm、スタイル抜群でモデルと言われた方がしっくり来る。そんでもって戦闘スタイルは俺と同じくバランス型の変則攻撃を使う。ただ、その多彩さは俺の比じゃないよ」

「どれぐらいなのだ?」

「えっと、近距離なら……ナイフ、二刀ナイフ、刀、直剣、二刀流、鞭、格闘、パイルバンカー、槍、薙刀、矛とか他にも。遠距離なら二丁拳銃からスナイパーライフルまで。俺が教えて欲しいと言ったら全て教えてくれた」

「すごいな。でも、そんなに種類あるっけ?ISって」

世界中で普及している人型兵器ならあるかもしれない。けど、ISは全世界で467しかない。どうしても優秀なのが全体に広まる傾向がある。採算を考えたらそうなるのだ。ただし、例外はある。

「ウチの企業……大和重工は大企業がいい所を出し合った複合連合体なんだ。それぞれの長所を出して作ってる。ほら、ISの強い会社は成績が上がるって言うだろ。それが日本ならなお顕著に現れるから」

日本はロボット大国である。昔から戦隊物を見て、それが終わればロボット物に移り変わる。マニアならアニメを見るだけでなくフィギュアなど保持しているし、一般人ですらロボットを嫌っているのはいない。むしろみたら興奮する人間ばかり。だからロボットが強い=その会社がいいというのが無意識ですりこまれているらしい。

「そんでもってその企業の人たちもちょうど運良く?ロボット好きだったらしくてさ。大企業が集まって日本こそ最強のIS大国にしようと集まったらしい。数々のロマンを滾らせた人がやってきて、それなりに実績も出している。オーダーメイドも結構安く作れる生産体制もあるから。俺の剣に見えたら銃だったみたいなのはあの会社ぐらいしか作ってないし」

IS発祥の国と言う自負もあるようだし。ISコアも一応一番多い。

「あんなのを作る会社がたくさんあっても困るわよ」

「だよね。ともかく、そこで多種多様な武器を操るのが上手い師匠がスカウトされて、さらに磨きがかかったらしい。師匠の意見とか上層部の昔からの夢や社会に広告効果を出す為にひっきりなしにたくさんの武器を製造してる。もちろん正統な武器の売り上げも大きいよ?IS開発は違うけど、IS武器の売り上げは世界三位。装甲とかの基本素材は一位だったけな。輸出用ダウングレード版でさえ」

「へー、あんたの武器の出所はそれか。そう言えばあんなの大和重工しか作ってないわよね。そりゃああんたはあの企業所属か。どれもえげつないのが多いから気になってたけど、作ってるのはそこしかないわね」

「うん。師匠は正統派な武器だけでも恐ろしく強いけど、俺が使ってるインチキ武器使うと手に負えない。ウチの会社にやって来てから世界大会に出場したら総合部門で3位、だったらしいから」

「へー、なら千冬姉とも面識あるかもな」

「あるかもね。前一度来たとき親しそうだったし」

「それで、一体どんな特訓をしてるんだ?」

「それは言えないな。いつか見せれるときが来たら見せるよ」

「希さんの新戦法……えげつない予感しかしませんわ」

「ああ、だな」

あいかわらず俺の評価は高いのか低いのか。俺的には高いね!

「一夏は戦法考えないでいいもんな」

「回避して突っ込んで斬るだけだし」

「そんなことないわよ。ほら、コンビネーションとか考えないと。やっぱり中近距離のバランスタイプの私とか」

「いえいえ、中遠距離タイプの私と組むのがよろしくてよ。私が撃って牽制し、一夏さんがすかさず斬りかかる、これこそ王道ですわ」

「いや、二人で斬りかかって叩きのめすのが一番だ。なあ、一夏?」

一夏は突然話をふられ困惑する。が食べ物を飲み込んだ後

「え?全部をこなす希と組めば問題ないんじゃないか?」

「ここで巻き込むのがお前だよね」

ギロッと三人に睨まれるが、思い悩んだようにしながら

「確かに色々とこなすから否定しづらいわ」

「相手の弱点を突けると言うのがいいですわね」

「一夏は完璧近接特化な分、全体を幅広くカバー出来るのは利点か」

この三人は俺とはある程度友好的な関係なので俺に対しては冷静に見るようにしているようだ。他の三人に対しては長所を無視して短所ばかりあげまくるが。

「器用貧乏にならないように気をつけてるんだけどね。その点優秀な教師人が揃ってるから助かってる」

「お互いよ」

「こっちも助かる」

「お互い様ですわ」

俺たちの関係はギブアンドテイク、まさにそれ。普段は俺がギブしてばっかりだけどね。美人とお近づきしてるだけでテイクと思っておこうか。お弁当のおこぼれもらえたりするし。

「それで最初の話だけど、お前今日も行くのか?」

「そのつもり。お前が伸びてきてるし。追いつかれないように気をつけないと」

白鳥が優雅に泳いでいるのは足を高速で動かしてるから。これでも冷静変人キャラ維持する為努力している。ここまで努力しやすい環境が整ってるのも滅多にないし。だって、周り美女ばっか、親友は素晴らしい、男代表の一人、将来安泰?、男のロマンパワードスーツ(専用)、これで頑張らないならどこで頑張るかって話。

「いつか追い越す!……じゃなくて、俺も行けるか?」

「なら私も」

「私もだ」

「私もいいですか?」

一夏のあとを金魚の糞のごとくついてきて……軽くストーカーだよ?君たち。男なら研究対象の一環としてどうとかだけど女は無理とか言えば問題ないかな。

「ストーカーじゃあるまいし」

いけね、たまにあるよね。心の中に思ったのと別な事を言う時ってあるよね。三人は一瞬ぽかんっとした後、にっこり最上級の笑顔を見せてくれた。あはは、一夏に笑顔を向けたほうがいいよ。こんな笑顔向けられても逃げられるだけだと思うけど。笑顔って獲物を狩る前触れとかなんとか。

「予定変更ね」

「ああ、そうだな。師匠とやらに連絡をするんだ」

「私たち三人が相手ですわ」

いかん、これは死んじゃう。どうにか回避しないと俺の命日になる。死に目ぐらいは家族に看取られたいから却下である。異世界に転移したわけじゃないから頼みこめば多分会えるし。どうにか切り抜けないと……そうだ!

「こらこら、お前たち、ちょっとこっち来い」

「言い訳はいらないわよ」

「命乞いもですわ」

「そうじゃない。大事な話だ」

訝しげになりながらも三人は俺に近づいてくる。俺は小声で

「あのな、すぐに暴力はよくない。例えばの話だ、一夏が簡単に暴力を振るうよう奴なら、嫌いになるだろ?」

「当然ですわ」

「それは逆からも言える。もちろん、男女の力の強さとかで女のが暴力を振るっても問題ないという風潮はあるが、それでも暴力を振るうのはおしとやかではない=敬遠されやすい」

な、なんとっ!?みたいな顔で驚く三人。いや、常識だよね?なんでそんなに驚いているの。物を投げたら地面に落ちるぐらい常識だよね?この子達は常識が無いの?お兄さん不安。

「その点一夏はすばらしい。理不尽な目にあっても文句を言わず、暴力も振るわない。家事も出来るしイケメンだ。だがお前たちは?確かに方向性が違う美少女とは認めよう。だがしかし!暴力を振るいやすい!怒りやすい!これは問題だ。千冬さんを考えろ。授業中暴力を振るいやすい面はあるが、それは教師だから仕方ない。

だが一般生活ではほとんど暴力を振るわない。いざというとき誰かを想い暴力……否、力を振るう。一夏の好みとはまさにそれ!」

知らないけどね。千冬さんが好みなのは分かるけど。あと千冬さんは暴力振るいやすいっけ?俺にはあまり振るわないけど……あれ?どうだっけ?叩かれてる?まあいいか。一夏に対してはどうだろ。まっ、適当に誤魔化せたようで三人はそうだったのかッ!みたいな顔をしている。

「なるほどね!」

「その通りですわ!」

「そうだ!」

後一押し。論理より勢いで、テンポ良くリズムに乗せて!馬鹿を乗せるにはその場の雰囲気と、語ってる本人がそう信じてると思い込ませる事!!

「だからおしとやかになる第一条!力に有無を言わせない。第二条!暴力関係の言葉は控えよう。第三条!相手が何か悪いことをしても笑顔で許す寛大さ!」

三人が目をキッと交錯させた。さて、これでどうなることやら……。

「一夏、終わった。それでさっきの話だけど、多分無茶かな。俺の会社の人は問題ないだろうけど、一応お前別会社所属扱いだろうし。そこの会社の人があまりやって欲しくないと思う。何だかんだでさ、俺たちの機体には数百億、いや男だから千億、もしかしたら一兆を超える情報価値があるかもしれないんだ。そう軽率には使わないがいい。金が飛ぶだけならまだしも、それで職にあぶれて生活に困る人が出てくるのは駄目だろ?」

「なるほど、たしかにそうだよな。分かった、じゃあ気をつけてな」

残念そうにした後、さわやかな笑顔を向ける一夏。建前でもあるけど、本音でもある。この機体は本当に大事な物だ。一夏の機体もそうだろう。

「ありがと。ごちそうさま」

じゃあなと声をかけた後、席を後にした。

 

 

 

 

 「おー、お帰り。疲れたか?」

「あいかわらずきっつい。エネルギーが切れたらエネルギー装置から供給受けてすぐ再稼動。それを何度も。あまりに高い頻度でやると危ないから時間をおいたりしたけど、一時間ぐらいで一試合やったかな。エネルギー補給中は反省とか、格闘訓練とか」

「大変そうだな。あっ、そうだ。今日三人が変だったんだ」

おっ、どのようにだ。

「いやさ、昼に屋上で食べる事になったんだけど、のほほんさんがやってきて背中から抱きつかれたんだよ」

それは天国地獄だな。スタイルの良さでは意外とかなりの上位に来るし。無駄に発育のいい女子が多いくせに、なぜ太ってる子がいないのか、本当に。

「それ欲しい~とか言ったから箸で肉団子をあげたんだけどさ。箒が「わ、わわ……私もしてやろう」とか怖い笑顔で言ってさ。殺気がすごかった。鈴もセシリアも似たような事言ってたけどさ、怖い笑顔で。いつもなら色々まくし立ててくるのに。いやぁ、怖かった」

おお、笑顔で対応できるようになったか。逆に引かれ気味だが。当たり前だ。引きつりながらじゃ二流以下。

「他にも剣道場で練習してたとき、他の女子から練習を頼まれたら箒の竹刀が折れたんだ」

おい、おい。IS学園の女子は化け物か。

「鈴はISで他の女子に教えてもらってたら顔がちょっと引きつってた」

なんとまあそこまで無自覚に。

「セシリアはおほほ、おほほほ、とか笑顔で不気味だった」

あいつら駄目だ、はやくなんとかしないと。知ってたけど。

「まっ、明日ぐらいには治ってるよな!女心は変わりやすいって言うし!変な物食べたとか、調子が悪かったとかだろ?」

あははと快活に笑う様子を見て、明日の訓練の的が決まったんだなと思いました。

 

 

 

 

 「こっち、こっち」

三人に手をちょいちょいやられて固まっている場所に。

「それで、一夏はどうだったのだ?」

「効果がありまして?」

わくわくどきどきというような顔をしていて正直ためらわれるが、正直に言った方がいいよな。一夏はご愁傷様だけど。

「えっと、三人とも笑顔が怖かっただって」

ぴくっ、と三人が震えた。追い討ちで

「あと女心は変わりやすい、変な物食べたとか、調子が悪かったとか。明日には治ってるよな、とかあんまり気にして無かった。」

プチッ、そんな音がした。幻聴だろうけど、幻聴だろうけど、でもしたんだ。聞きたくないけど、聞こえたくなかったけど、聞こえてしまった。俺も段々嫌な方向に進んでってる。でも面白い!

「へえ」

「明日には」

「治ってる、ですか」

ゆらりと三人が立ち上がって一夏に向かってく。一夏は

「よっ、おはよう」

「おはよう、一夏」

「今日の放課後訓練をしよう」

「一生懸命教えてさしあげますわね」

なにやら凄い気配を出しているのに生存本能が働いたのか、一夏は

「あ、ありがたいけど、俺は今日希に付きっ切りで練習を……」

ギロッ×3、必死に目を逸らして

「あー、そんな約束なかったなー」

「そこは合わせてくれよ!?」

「大丈夫」

「時間は」

「たっぷり」

過ぎたるは猶及ばざるが如し。美女は怒ると怖い。一夏の様子を見て、正直天国と地獄って紙一重なのではないかと思った。俺はゆっくり慎重に行こう、心からそう思った。

 

 

 

 

P.S 一夏の悲鳴と助けの叫び声が大きかったです


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