IS学園で非日常   作:和希

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十七話 シャルロットとラウラ

 「ああああああ!!」

すぐさまバックダッシュをし、比較的アレの付近にいる一夏・シャルル前に立ち塞がる。

「またイベントが起きたよ!!」

IS学園は波乱万丈だね!どうしてこうも楽しませて……くれそうにはないな。一人犠牲になってるし。

「そんなこと言ってるひ……なんだよあれ」

「えっ」

ラウラのISが変形……ISの装甲を粘土を作り直しているような感覚だ。ISは基本肌を露出させるが、あれは全て包み込んでいた。咄嗟にドイツの高官たちをみる。顔が青ざめていた。確信犯?恐ろしい状態のIS、と言うか泥人形の製作途中。だが、まだ形は整っていない。今すぐ砲撃するか?……いや、ラウラに対して危険がある。えっ?変身途中で攻撃することにためらわないのか?……正義のヒーローでも出来る悪役でもないし。

「お前たち、下がってろ」

ジョークもほどほどにしないと。

「希!体を張るのは俺だ!」

「ひどいよ希!一緒に戦った仲間でしょ!?」

二人が自分こそと前に出てくる。全く、頼もしい二人だ。

「アレは、ヤバイ。見ただけで分かるだろ?一夏は張る体力も無いし、シャルルは俺より武装が貧弱だ。その点俺のは防御武装もまだ少し残ってる。お前たちが距離をとったら俺も距離をとる」

二人は渋々黒い機体から離れていく……が、ラウラのISの変形……変態を終えると俺はヤバイと本当に思った。武器が、今ではエクスカリバーすら上回る知名度を持った武器。

「雪片か」

千冬さんが世界を仕留めた武器。中身は知らないが、形は同じだった。知名度では最強を誇る武器だ。黒いISはモノアイを俺に向けた。すぐに空中に盾を展開するが俺は安心するつもりは無い。後ろに飛び跳ねた後、黒盾の物理シールドが吹き飛んだ。実体に対する防御機能は白盾より強いのに。が、そのまま動かない。凄まじく集中力を削る数秒の後、後ろから声がした。

「ふざけやがって!叩ききってやる!!」

いきなり突っ込もうとした一夏の顔面を叩いた。……どうやら、武器とかに反応するようだ。一夏がもう少し接近してたらやばかったのかな。

「落ち着け!……千冬さんの技が真似られてキレるのは分かる。でも、少し待て」

落ち着いて少しずつ距離をとり、様子を見る。……問題なさそうだ。それでも注意を逸らさないようにしながら一夏と話を続ける。

「……分かった。でも、それだけじゃない。あんな、わけわかんねえ力に振り回されているラウラも気にいらねえ。せっかく、結構仲良くなれたと思って、いい所もあるって思ったのに。何だよ……。どっちも一発ぶったたいてやらないと気がすまねえよ。こんなの……。これから、もっと仲良くなっていけるって思ったんだよ……」

かなりの落胆だ。そりゃ、いきなりは平手打ちだったけど、それなりに和解出来てきて、最終的には少しだけどコンビを組んで戦ったんだ。一夏は基本的に人を憎めない奴だ。だから、余計に気に入らなくなったんだろう。

「でも、IS無しでISに挑んでいいのは千冬さんだけだ。えっと……」

生身でISに挑むのはロマン溢れるけど、ロマンと危険(無謀さ実用無さ)は比例する。人型ロボットだってISコアが無ければ役に立ちはしない、今は。

『非常事態発令!トーナメント中止!状況をレベルDと認定、鎮圧の為教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!』

「はぁ、さっさとやらないといけないな。本当は危険なことして欲しくないけどさ……」

「お前は俺の兄貴か何かか。全く」

頭をポリポリかきながら、照れくさそうに、バツが悪そうに。

「似たようなもんだって。それにしても、相変わらず真っ直ぐに馬鹿だな」

「そうだよ。ほら、騒動も治まるんだし。下がろう?僕たちがやる必要は無いんだ」

シャルロットが一夏に提案する。現状把握がしっかりしてるシャルロットの意見は完璧に正しい。

不審者が現れた。警察が周りに現れた。どうする?次のコマンドで戦うを選ぶ奴はよっぽどの馬鹿だろう。不審者と一対一でご対面なら生き残る為に仕方ないかもしれない。逃げてる最中に後ろから殴られるのが一番危ないし。でも、周りに不審者、アレをどうにか出来る人たちはたくさんいる。逃げるのが懸命だ。

でも、うなずくような奴じゃない。

「違うぜシャルル。全然違う。俺がやらなきゃいけないんじゃなくて、俺がやりたいんだ。他の誰かどうだとか知るか。ここで引いたらもう俺じゃねえよ。織斑一夏じゃない」

「だよな。そんな馬鹿で楽しいから俺はこうやって来たんだ。さて、コア・バイパスを移す練習を何度かやっといてよかった。さすが最新世代」

「さっすが。頼む」

「けどな。約束だ。負けるな。一度ばあちゃんの葬式をやった事があるが、葬式は二度とやりたくないからな」

これから先、一度も葬式をしないなんてことは無いが。昔の人はいったものだ、君について二つのことを知っている。一つ、生まれたこと、二つ、いずれ死ぬと言う事って。

「不吉な事言うなよ……まっ、もちろん。ここまで啖呵を切って飛び出すんだ。負けたら男じゃねえよ」

「負けたら女子制服で通ってくれ。そうすれば俺はハーレムだ」

「うっ……って、シャルルも男だろ?」

うわっ、ヤバイ。少し動揺していたようだ。シャルロットも見るとあわあわしていた。

「シャ、シャルルは見た目は女みたいだからな!シャルルも女装すればいい」

「僕まで巻き込まれてる!?」

「あはは。……さて」

軽口を叩きながら一夏の白式に接続。……でも問題があるんだよな。

「忘れてた。白式のモードを一極限定で頼む。……それでも、やるんだよな、お前は」

「……ああ」

正直、今すぐ叩いて無理やり引きずっていこうかと思った。この世界に100%の事は無い。ここで一夏を信じて送り出すのが正しいのか、無理をさせずに引きかえさせるのがいいのか。……俺にはわからない。普通は退かせるべきなんだ。でも、俺はエネルギーを送った。見るととてもスッキリしている……初めてISを動かした時の顔をしていた。

「あの、一体感か?」

「ああ、今なら何でも出来そうだ」

俺には一度も来たことが無い一体感。ISとは意識がある。でも、どこまで行っても俺には一体感を味わえた事は無い。外につけた装甲、みたいな感覚でしか。資質の問題だろうか。それとも、気持ちだろうか。

「……終了。こっちはもう無い」

大和が粒子となって消え、ブレスレットの状態となった。ふわっと、衝撃を吸収して着地する。

「武器と右腕か……頼むぞ」

「もちろん」

構える……前に言っておこう。

「なあ、正直悩んだんだ。ここでお前が死ぬかもしれないのに送り出すのが正しいのか、殴って引きかえさせるのがいいのか。正直、意見は割れると思う。でも……お前を信じる事にした。都合のいい言葉だよな、俺には害が無いから信じようと信じまいと同じだろうに。でも、信じると言えば罪悪感が薄れるんだ」

そう、信じるとは都合のいい言葉だ。相手が死地に飛び出そうとしても、相手を信じると言えば美化されやすいものだ。でも一夏は首を振って、笑ってこっちを向いた。

「そういうところが、いいところだよ。お前の。俺も同じ状況なら悩む。でも、お前の意思を尊重すると思う。お前の事を信頼してるから。信じて頼ってるんだよ。お前が俺を頼ってくれるように。お前なら大丈夫だって送り出すよ。絶対に大丈夫だって」

ああ、全く、こいつは本当に、どこまでも馬鹿で、誰よりも最高な奴だよ。俺がどこまで行っても追いつけない、俺の理想。本心でこう言うんだから。俺も笑って言った。

「……明日の朝食は和食を食べよう。馬鹿みたいに皆でしゃべりながら。今日は聴取で長引きそうだ。問題を増やす奴もいるし」

ピシッと指を一夏にさした。悪い悪いと苦笑いしながら、

「ごめんな。明日、和食を食べよう」

勝って来いとは言わなかった。それでいいと思った。勝って来るのは最低条件なのだから。……ちがうな、傷無しで勝って来るのが最低条件か。なんともまぁ、ハードな条件。それでも、コイツならやってくれると思わせてくれる。

「じゃあ行くぜ、偽者野郎」

やろうじゃないぜとかいつもなら言っただろうな。そう思いながら、世界がコマ送りになる。

コマ送りに見えた。だが本当は一瞬だった。

直後にはラウラを抱えた一夏が立っていた。

「……まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

一夏の人気があるのもうなずけるよ。ここまでイケメンだとね。

 

 

 

 「やあ、気分はどうだい?」

千冬さんと入れ替わりで病室に足を踏み入れた。さっきまで聴取とか受けまくって、気付けば食堂が終わる時間ギリギリだけど、もういいやって思った。当事者だから色々質問されまくりだろうし。あの二人に任せる。後から部屋にあるカロリーメイトでも食べればいい。

「……今まですまなかった」

痛いであろう体を曲げてまで謝ってくれた。

「別にいいさ。飲みたい物は?」

「いや……いい」

ぼーっとしたような彼女は、今までよりずっと近づきやすい雰囲気だった。ランクチェンジで例えると、堅物の軍人からクラスのマスコット?んー、何か違うな。

「……一夏に惚れたな」

「なっ、なぜ分かった!?」

貴様エスパーかっ!?みたいな顔で見られてもね。

「人の心を見通すのは得意でね」

実際には一夏に大きく関われば9割以上が惚れるというだけである。そろそろ研究機関に送り込んでモテビームの研究をするべきじゃないかと悩む。俺も恩恵に……いや、いいや。ただでさえちょっと色々とね。ちょっとなのにいろいろっておかしいだろうけど。

「それで、俺が今まで言った意味分かったか?」

俺自身何言ってるかサッパリになってるけど。

「……ああ。力、だけでは駄目なのだな」

あ、それだそれ。多分そんな感じ。

「人によるけどさ、誰かを守りたいと思う方が力が強く出せる時がある。他にも色々あるけど、誰かを関わりあうのはいい事だ。そりゃ、悪い奴と関わるのは悪い。究極的に言えば強盗とか人殺しと仲良くなってはいけないということ。だけど、ここにいる人間はいい人ばかりだ。多分、色々学べるはずさ。俺たちはまだ15しか生きてないんだ。

俺も、お前から何か学べていけたらいいと思ってるよ。お互いが教え合って、一緒に磨けあえればいいなってね。お前から学べる事は良い事がたくさんありそうだ。もちろん、こっちからも色々教えるよ」

「ああ、そうだな。……今まで色々と忠告をしてくれた。感謝する」

「その言い方も変えるべきだね。感謝する、じゃなくて、ありがとう、だ。そうした方が異性受けもいいぞ?」

「……ありがとう」

少し、不器用ながらもしっかりと笑ってる表情は、とても穏やかであった。うん、ほほえましい気分になる。

「じゃ。一夏の倍率は高いぞ。気をつけろ」

そう言って部屋を立ち去った。

 

 

 

 

 「ただいま」

「おかえりなさい。……やっぱり少し恥ずかしいな」

あいかわらず分からない。

「どこが?……それで、食堂はどうだった?」

「えっと……聞きたい?」

「二人が質問攻めじゃないの?」

シャルルは目を逸らしながら

「えっと……一夏と付き合うのは希なのかとかどうとか」

「腐ってやがる。遅すぎたんだ……。まあいいや。他に?」

「一夏が『買い物に付き合うことだろ?』って言って箒に殴られてたよ。そして鈴が『希が言ってたのそういう意味か!』とか」

「平常運転だな。問題ない」

鈴に対して少し注意するだけだ。うーっとかしている鈴は見ていてハラハラするけど和みもするから。

「あっ、それと、とうとう大浴場が使えるようになっただって」

「ほー」

シャルロットが来る前俺と一夏は二人だった。

でも何となく予想はしていた。女子に聞いた話によると、どうやら風呂が使えるのは女子の意見の大きさによるらしい。俺の人気が少なかったが、美少年シャルル(女でシャルロットだけどね)が来た事で大浴場使用可能派が増えていったらしいから。学園もそれで許可を出したのだろう。ちなみに、俺はそこまで困ってなかった。企業に出かけるたびに風呂を借りればよかったし。

「シャルルが問題か。どうする?」

「僕はお風呂苦手ってことに……無理かな?」

「一夏は多分__」

ちょうどあらわれた。どうする?

「おーい!希!シャルル!一緒に風呂入ろうぜ!!大浴場だぞ!!」

「こう言って来る。風呂の楽しさを分からせてやるとか」

「う、うん……先に行ってて?一夏を説得して先に行ってもらうから」

「大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫。また後でね」

ふん、まあいいか。着替えを用意して俺は先に行く事にした。

 

 

 

 「あ、来ましたね。それじゃあどうぞ!一番風呂ですよ!」

「あっ、今日は多分シャルルが来ないので。ちょっと色々あるらしくて……」

「そ、そうですか……後は織斑くんだけですか?」

「はい。それでは」

テキパキと脱いでタオルを一枚持ってさっさと行く。そして、貸切の風呂!素晴らしいね!泳ぎたくなる!……が、その前に。人が沢山いる浴場ならもういいやとなるが、体を洗ったりするのを一夏は気にする。それに、そこら辺は俺も賛成なので頭と体を先に洗い湯船に浸かる。

「ふー。……自分以外誰もいない風呂ってのも不気味だな」

ちなみに、シャルルを優先させなかった理由はシンプル。どうしても一夏をとどめる理由が無かったから、時間別に入るようにしようぜ!と言っても難しかっただろうし。宗教云々も風呂の場では一夏の名の下に平等になる奴だし。着替えのときは通用するけど、風呂は譲らない人間だ、一夏は。奴は風呂奉行だ。鍋奉行に鍋について文句を言っても封殺されるのと同じぐらいに無駄だ。

そうやって一分ほどノンビリしていると脱衣所に気配がした。五分ほどで説得したか、早いと言うべきか、遅いと言うべきか。

そしてドアが開いた。

「うー、一人じゃ不気味だったところだ。シャルルは何て言ってた?」

だが答えはない。そしてヒトヒトとこっちに足音が近づいて……おかしい。一夏と一緒に風呂に入ったのは修学旅行ぐらいなもんだが、その時だって先に体を洗ってたし、銭湯の話で何度か言ってた。風呂に入る前に体を洗うと。これは

「ダッシュ!!」

すぐに風呂の湯から逃げ出そうとする。が、遅かった。湯船で頭がゆだってやがる、遅すぎたんだ。

「だ、駄目だよ?湯船で急激に動いちゃ?」

「そういう問題じゃないッ……それで、シャルルさん?どうしてここに」

と言いたいが、一夏のような人として終わってる奴じゃない。そりゃ、気付いてはいる。自惚れじゃなければ。でも、向き合うのは怖い。本当の気持ちと向き合うのは怖い。臆病者なんだよ、俺は。俺一人だって俺の人生の責任を背負うのが難しいのに、他の人の人生の責任を負ってくのはどうしても腰が引けてしまう。

「その、今日はありがと」

「どこがでしょう?」

後ろから抱きつかれているので、正直さっさと脱出したい。今日はありがと、これが耳元で囁かれるように呟かれる。これはいけない。色々いけない。ラブコメで良く水着に抱きつかれたり服の上から押し倒したりしてるのがいるが、これには間が無い。何も無い。タオル装備し欲しい。だがそれすらない。強いて言うなら皮膚のみ間にある。二人の間を隔てるのはこの皮膚だけ、死ぬ。世界の男からは死ねと言われるけど!!

「その、あの時……目の前に出てきてくれて」

「それが最善だったし」

後ろから抱きつかれてて良かった。自分で表情がどうなってるのか分からない。取り繕えてる自信は無い。当たり前だ。この状況で演技が出来る男がいるならそいつは絶対に信用しない。もしくはロリコンか熟女趣味。

「むぅ、いつもそう。たまには、素直に受け取ってよ」

本当に、耳元で囁くのやめてね欲しいな。やばいからさ。俺だって男なんだけど。本当にやばいよ。いつぞやの無人機の時ですら逃げようとか思わず、楽しい!とか思えたのに。今は逃げたい半分このまま幸せ享受したいとかもうどうすりゃいいんだよ!

「分かった。どういたしまして。それで、どうして一夏を説得したの?」

「とても卑怯だと思ったけれど……30分、とても大切なことがあるから、お風呂に入るのを待って欲しいって言ったんだ」

「なるほど……それで、いつまでもこうしてるの?そしてどうしてやって来たの?シャルルは」

どうしてやって来たの?これふざけた質問に入るだろうか。

「そっ、それだよ!どうしてシャルルって呼ぶの?それがいけないんだよ。希は僕が女の子って知ってて、二人きりの時はシャルロットって呼んでっていったのに」

「私、と言うなら考える」

必死で逃げてみよう。不誠実だけど、今は整理できてない。今はそうするしかな__

「ぼ、わ、私って、そんなに魅力が無いのかな……」

「ごめんなさい。すごく魅力的だと思う、シャルロットは」

「……ありがとうね」

耳元でそっと囁かれる声。頭の中に溶けてきて、まるで麻薬か洗脳か。この子がハニトラだったら世界中の誰でも逆らえないのではないだろうか?それより、この状況どうやって収拾をつければいいんだ?……どうするよ俺。一夏、俺に力を与えてく……アレだと被害が増えるだけか。加速度的にね!

「って、そうじゃなくて、じゃなく、そうじゃないの……前に言ったよね、学園に残るって話」

「それで、どうするつもりかな」

「ぼ、私はここにいようと思う。私は、まだここだって思える居場所を見つけられてないから。でも……希は、居場所になってくれるの?」

不安そうな、縋り付くような、聞く人がどうにかしなきゃって思わせる声。それと同時に、背中から直に鼓動が伝わってくる。ドクンドクンと、自分の心臓の動きも高鳴って、何も考えられないと同時に心地よくなってくる。

「もちろん。……そして、一夏も、他の皆もなってくれる」

「……卑怯だよ」

もっとぎゅっと抱きつかれる。首に腕を回された。心臓が、本当にドクンとなって、温かさや、温もりに包まれてるような。

でもやばい、後三分この状況が続くとのぼせるかもしれない。もしくは死ぬ。

「ごめん……。でも、事実だと思う。誰だってシャルロットの力に、居場所になってくれる」

「……ありがとう。でも、希の居場所って見つかってるの?」

さらに強めに心臓がはねた。ただでさえ限界なのに。

「……どうしてそんなことを?」

「だって、希も両親と離れ離れになったんでしょ?なら……」

「大丈夫。会おうと思えば会えるし、生き別れたわけじゃない。企業と交渉して、政府にかけあってもらって、両親は同居していて安全も確保されてる。夏にでも会いに行くさ。……そりゃ、少しだけ居場所が消えた、って思いもあるけど。ここは楽しい人が沢山いるから。居場所になってる」

嘘は言っていない。たぶん。

「……私も居場所の一人?」

「もちろんさ。なんたって、俺の同居人だろ?」

「……うん、ありがとう。本当に……希に会えてよかった」

肌が触れ合うのが、とても温かくて、でも優しくて、気持ちがとても落ち着いていった。心臓はこんなにも動いているのと反対に。

それからちょくちょく、血液型から始まって、お互いの誕生日とか趣味、本当に仲良くならないと知らないような事を教えあったり、最近の事について会話をしながら、十五分ほどしたら外に出た。不思議な事に、何度聞いても分からない事もあるけど、シャルロットから教えてもらった事は全て覚えていた。あ、もちろん着替えは別々だった。俺があとで。

「じゃあ、戻ろう」

「うん」

顔はとても赤かった。俺も多分、そうなんだと思う。

外に出た時ちょうど一夏と遭遇した。

「いったいどうしたんだ?二人とも」

「……すまん。またな」

「ちょっとね。何も言わないのに信じてくれて、ありがとう」

「助け合いが重要だから、別にいい。じゃ、またな」

その後、良く覚えていなかったがぐっすり眠れる事が出来た。

 

 

 

 朝、とてもスッキリした目覚めと共に起きた後、いつものように……でも、少し温かい様な、どきどきするような感覚を伴いながら着替えなどを終わらせた。何とも気分がいい。

「じゃ、先に行くね」

そうやって出て行こうとしたシャルロットを止めた。昔から、周りの情報を無意識に統合して判断してるのか知らないけど、極端に集中している時にこういった事がたまにあった。

「性別をばらすのか?」

「……たまに、希は心を覗けるのかなって思うよ」

自分でもそう思う。何と言うか、ピンッ!と来る時がある。戦闘中も集中してると出来るんだけどね。棚に置いてある石にチラッと目を向けた。昔なら、お守りに願ったりするだけだっただろう。でも、自分で動かないとな。しっかり、自分でやらないと。

「何となく、かな。決意を固めてた感じだから。……ゴメン、一日だけ待って欲しい」

「……分かった。希を信じるから」

 

 

 

 「みなさん、お、おはようございます……」

昨日の後始末で疲れたのか、とてもフラフラしてる。一夏がくだらないことを考えていたようでグチグチ言われている。

「昨日は面倒な事がありましたが、今日も張り切って……行きましょう」

アカン、寝かした方がいいよ。この人。だが、その中にズカズカ突き進んでいく少女が居た。

「その前に、言っておきたいことがある」

見ると綺麗な銀髪っこラウラである。

「今まですまなかった」

ペコリと頭を下げた。そして

「一夏、希。来てくれ」

とくに悪い感じはしないので背筋を伸ばして近寄る。そしてラウラは

ズギュウウウウン!!

なんと!一夏の唇を奪った!俺たちに出来ない(ry

「お、お前を私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

「……え?」

「日本では気に入った相手を嫁にするというのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」

呆然としている一夏をそのままにして、こっちに振り返る。そして俺に抱き付いて

「お前は私の姉だ!何度も忠告し、私の身を案じてくれる心遣い。それでいて、上からでなく一緒の立場で進もうと言ってくれた事。優しさと厳しさを兼ね備え、少し先で微笑んでいてくれる。まさに姉だ!」

な、何を言っているのか分からねーと思うが俺も何を言われてるのか分からなかった。断じてちゃちなもんじゃ……混乱してる。だが、ここは!

「っくっくっく、そうではない。俺のことを兄と呼ぶんだ!日本でこういったとき兄と呼ぶ!」

「な、なるほど。兄よ。これから頼む」

「いや、兄上、と俺の顔を見上げるように頼む」

「兄上、これから頼む」

「最後はおにいちゃん、これからよろしくお願いします、だ」

「お、お兄ちゃん?これからよろしくお願いします」

素晴らしい、これはすんばらしぃ。新世界の扉が開けそうだ!俺は新世界の神となる!!

「ヒャッフゥ!!俺の事はおにいちゃん!そうだ!ラウラよ妹よ!一夏のバカを落とす手伝いをしてやろう!お兄ちゃんは何でもでき__」

「希、少し、落ち着こうか」

すっごい笑顔だった。見た者を全て虜にするような、美しくて……怖い笑顔。

「ヒッ」

恐怖の塊が居た。クラスの皆も、山田先生も、いつの間にか隣のクラスから沸いてきていた鈴も、セシリアも、箒も、一夏も、ラウラでさえも、そして何より俺が、恐怖した。

「ねぇ、昨日のこと、覚えてるよね……なんでかな?」

傍から見ると、ただ昨日のことに対して疑問を投げかけているだけだ。やってって言ったこと何でやってないの?を気軽に聞くような。でも、ヤクザがナイフを取り出して脅してるよりよっぽど恐怖だった。

「あは、あはははは」

「とっても昨日かっこよかったよ?僕の前にISがあんなことになって、すかさず間に入った時とか。そのときの二人の会話とかずるいとも思ったよ?夜にも色々お話したよね?」

あれー、俺一夏の前にも立ち塞がったよーな(現実逃避)。

「でも、でもね。小さな女の子にそんな事言わすのはね……?悪いと思うな」

「で、ですよねー」

同年代です、なんて無粋な事を言ったらどうなるだろうか。昨日のは比喩で死ぬとかだけど、比喩じゃなくて死ぬかもしれない。

「どうすればいいと思うの?希は」

ここで選択肢を間違えたら、しぬっ!!

「ご、ごめんなさい」

てへっと言うように謝った。後から思うともう少しマシな謝り方があったのだろうけど、あの時は恐怖で思考が錯乱してたんだ。

「うんそれ無理」

シャキンとISが展開された。ラピッド・スイッチはいらないらしい。昨日一夏に対して使った盾殺し(シールドピアース)はアーマーと一緒に展開されているのだから。最強火力の武器は、もうあるのだ。

「は、ははは」

そうか、いつも一夏はこのハードスケジュールをこなしてたのか。恐怖はシャルロットが圧倒的だが。一夏を見るとご愁傷様というのか、両手を合わせて気の毒そうにしてた。

「最後のガラスを」

ぶち破って飛び出した。ドアアアアアアンッ!という音の後に衝撃波が上を通り過ぎる。

 

ISって怖い、本当にそう思った。

 

P.S 一夏もひどい目にあってました。ざまあみろ




シャルロットの一人称が私になりますが、いずれ戻ります。福音の時に。シャルロットは僕っ子で行かないとね。
それと更新速度を五日ぐらいの周期に変更します。

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