夕食の時間、食堂で。
(もうっ!一夏と同レベルだよアレは!)
先ほどのことをまだ微妙に怒っていた。高い場所から落ちた分痛くなる現象である。似たような効果としてはジャイアン映画効果(普段駄目な分映画との落差で褒められる)がある。しっかりと指切りして約束はしたが。
「どこか空いてるかな……あ、あれは」
見ると箒、セシリア、鈴の三人が必死に一つのテーブルを眺めていた。顔見知りばかり揃ってるので、張りつめた空気がありながらもそこに決めた。
「ここ、いい?」
「ああ、構わん」
「同じですわ」
「同じく」
シャルロットをちらりとも見ずに返事をした。三人の視線の方向を見ると、一夏とラウラが話しあっていた。
「やっぱり、希の全面サポートは恐ろしいわ」
「ISでも意外とサポートの方が上手いですわね。一対一より厄介ですわ」
「相手の気持ちになって考えれるからだろう」
「うん、本当にすごいんだ。希は」
そう言うと、鈴はガバッと思い出したように叫んだ。先ほどまでと打って変わった雰囲気である。それは剣呑な雰囲気ではなく、良い獲物を見つけたとか、年頃の女の子の表情であった。
「それでその希よ!シャルロット、二人で一ヶ月以上同棲してたんでしょ。何かあった?こう、何か!」
「年頃の男女が性別を隠して二人きりで同棲生活、とても気になるな」
「いつぐらいからバレていたのですか?」
「っていうかアイツ二人きりだとどうなるの?すっごく気になるんだけど。私の時は別に何も無いけど」
「わっ、そんな一気に言われても……」
そう言うと三人はそれぞれで謝りながら微妙に楽しそうに
「では、いつぐらいにバレたのですか?」
「えっとね。バレてたのは最初からだったらしいけど、五日後の土曜日の午後にね。緑茶を用意して突然に言ってきたんだ。女だよな?って」
「それで、どうしたの?」
鈴がかなりワクワクしながら尋ねる。それに対してシャルロットは目を軽く瞑りながら
「『別にどうこう言う趣味はない。俺の持論だが、人には人に話せない事の一つや二つある。そんでもって、話してもらえるにはその人からの信頼が必要だと思う』って」
「えっと……なぜ一字一句同じ感じですの?」
「希の事は何でも知ってるよ。鈴よりね」
こんな事を言っても仕方が無いと彼女は思ったが、どうしても自身こそがと彼女は示したかった。
「ちょっと。私と敵対する必要はないわよね?味方になれるはずよ」
鈴は軽く身を引いた。恐怖を覚えたのだ。他二人の視線がシャルロットを仲間にしようとするなと警戒の目を滲ませた。
「そ、そうだった、つい……で、その後ね、コルセットをとった姿で事情を説明したんだ。でも全部予測済みだったみたいで、驚かれはしなかったよ」
自分の出自とかも予測してたみたいと付け加えた。それに三人は
「あいかわらずアイツの思考力は何なのだ?」
いつもツンデレしているからこその意見である。
「アイツは本の知識とか、周りの環境を見渡して直感的に判断するのよ。論理的積み重ねでもあるけど同時に直感頼り。相変わらずキレるわね」
「うん……その後ね、この状況になった原因の人に対して怒りも見せてくれたんだ。そしてここにいればいいよ、って言ってくれたんだ。嬉しかったなぁ」
「っく!アイツも言うわね!やっぱり一夏の次ぐらいにいい男なだけあるわ」
「えっ?鈴さんはそうした目で見ているのですか?」
まあ驚き!みたいに口を手に当てて驚いた。鈴は違うわよと前置きをして
「見てないわ。多分だけど。でも、何だかんだで一番世話になってるのは私だろうし。しゃくだけどね」
しかし、それに対してシャルロットが張りあうように
「僕、だよ。僕が一番世話をしてもらったんだ。居場所も作ってくれた。色がなかった世界が色がある世界になったんだ。すっごく、感謝してる」
「希……シャルロットに一体何したのよ……それで、脈はありそうなの?」
水を飲んでいたがシャルロットはむせた。
「ゲホッ!ゲホッ!……な、なんのことかなー」
「一夏じゃあるまいし。気づいてるわよ。って言うか、ここまで言っておいてシラを切れるはず無いじゃない」
「正直、前は同性愛者かと思ってしまいましたが……」
「当然気付いている。分かりやすいな」
「……分かりやすいかな?」
「「「とても」」」
むしろここまで言ってもバレてないと思うのはどうだろうか。所々抜けているシャルロットらしいといえばらしかった。彼女はため息をついた。だが気持ちを持ち直す。バレているなら開き直ったほうがいい。彼女らは一夏を狙っているので敵対はしていない。むしろ仲間になれるのだ。
「僕も分からないんだ。二人きりの時は私とかにしたり、愛称で呼んでとか言ったんだけど……。まさか、希も一夏並に鈍感ってことは無いよね?中学校の時どうだった?」
鈴は水を飲みながら唸らせ、目を宙に泳がせながら軽く口を開いて
「正直、彼女は作ってないわね。一夏が人気を全部取ってたし。中三は知らないけど。でも、昔からアイツは赤面とかもしなかったし。そりゃ恋愛感情もあるにはあるんでしょうけど、正直まだ楽しく遊んだ方が楽しくていい、って思ってそうだし。……あ、でも恋愛感覚に関してちょっと知ってるわ」
「教えて!!」
ガバッと身を乗り出す。鈴は傍から見たら自分たちもこうなのだろうか、そう思いながら
「えっと、一人を好きになったらその人とずっと歩めたらいい。楽しく、幸せに、飽きないでずっといられたらいいな。とかだっけ。他にも前に不倫のニュースもやってたじゃない?あの発言もこの言葉にピッタリでしょ。一人をずっと好きでいたいってことだと思うけど」
「じゃあ、まさかもういるのかな……脈はないのかな……」
一気にテンションが下がるシャルロット。今朝の夢が夢だけに落差が大きかった。三人は大慌てで慰めようとする。
「希にはいないって!一夏とかからも彼女が出来たとか伝わってないし!」
「それに高校生になって出来たとしても、ここは全寮制の学校だ。すぐに広まるに決まってる」
「そのとおりですわ。ですから……あっ」
いけないことに気付いたようにセシリアは口を当てた。あっ、という発言は時に大変だ!とか言うよりよっぽど重くのしかかる時がある。この時はまさにそれだった。
「どうしたのよ?」
「えっと……低い確率ですが、希さんのこと全く知らない点があるのです。その、一週間ごとに企業に出向いているようですが……確か師匠と呼んでた人が美人だったかと」
と言うよりIS乗りは驚異的確率で美人だけである。スポーツ雑誌の売り上げでISの売り上げ(選手)は全世界で大盛況である。刷れば刷るだけ売り切れる。
「確率的に低いわね。でもその一日だけ、希の行動が全く分からないのね。確かに……」
「まさか……その時に逢引きをしてるのでは」
「堅物に見えて意外と、とはあるものだ」
三人はだんだんと調子をあげ始めた。女子三人集まれば姦しいとやらである。才女も何も関係は無かった。
「ISの訓練中でも希って女子を全く見ないものね」
「ああ、同性愛者かと思ったこともある」
「ですが、恋人がいるなら納得ですわ。特にあんな美人さんが恋人なら同年代の女子には目を向けないでしょうし」
うんうん、と三人が頷いたが、直後に気付いた。慰めるつもりだったがいつの間にか追い打ちをかけていた。しかも徹底的に追撃して復帰する機会すら奪っている。何を言ってるか分からねーと思うがいつの間にか進んでたと三人はにたようなことを思った。希に次第に感化されているのに気づいて危ないと思ったが今は目の前の方がよっぽど危ない。
シャルロットの笑顔がカラカラである。そして目が虚ろになっている。霊感がある人間なら頭から抜けていく魂が見えてもおかしくないレベルであった。
「そ、そうだよね……僕なんかじゃ釣り合わないよね……よくよく考えたら、希に対して特に何かしてあげれた訳じゃないし。助けられたのは僕だけで、希を助けた事なんてないもんね。しょうがないよね。希は何でも出来て、誰でも助けれるけど。僕はだれだって救ったことないし。こんなの駄目だよね、あはは、あはははは」
壊れた人形を見ているようだった。三人はすぐさま
「(どうすればいいのだ!?)」
「(セシリアが余計な事思いつくからでしょうが!どうにかしなさい!)」
「(他人になすりつけないでください!会話に乗ったのは皆さん同じですわ!)」
「(しょうがないわ、最終手段よ。希を呼び出せば解決よ!)」
鈴の希に対しての信頼は高い。どんな時でも希を頼ればどうにかなってきたからだ。困った時には考える前に希にレッツゴーが信条である。一夏も大体同様である。さすがに大事な事を最初から頼りにしに行きはしないが。
「(それだ!(ですわ!)」
周りを見渡すと噂をすれば何とやら、ちょうどやってきたのが見えた。
「希!こっち来て!!」
「ん?どうした……ってシャル!?大丈夫か!?一体だれがこんなことをしたんだ!?」
「あんたよ」
「お前だ」
「あなたですわ」
三人が同時に発言した。責任転嫁もいい所である。
「な、なんてことだ、俺がそんな……ってんなわけあるか!お前らだろうが!……どうした、この三人に何か言われたのか?」
シャルロットは少し目に輝きを取り戻して
「ねえ、希って恋人いるの?」
涙眼+目遣い+庇護欲をそそる声で言われたので、うっと言葉を詰まらせたが
「いないよ、彼女いない歴=年齢だ。一夏がいるから全部出会いは取られてるよ。一夏の周りにいるとアホみたいに美女や美少女に出会うのにね」
「本当?」
「こういったので嘘はつかんって。それより一緒にご飯食べていいか?一緒に食べてくれるのはシャルぐらいしかいないんだ」
「……うんっ、もちろん!」
三人はいつもと同じように笑ったシャルロットを見て安心して息をついた。だが希は三人を軽く睨みつけ、
「おいお前ら、シャルを無暗に悲しませたら、怒るぞ?」
「「「はい、気をつけます」」」
「よろしい。じゃ、食事とってくるわ」
希を見送った後、四人は顔を見合わせた。
「ねえ、今のって……」
「シャルを悲しませたら、怒るぞ?ですって!」
「まさかこれは……」
「長い付き合いだけど、あんなセリフは中々聞かないわ」
四人は一斉に手のひらをパシンと合わせた。三人は結果オーライですごく安心した。
「こちら、ブラボー1、聞こえるか」
「すぐ下にいるんだから聞こえるよ。それにしても、企業に行くんじゃなかったの?」
意外にも冷淡だった。乗ってくれるかと思ったのに。
「今日は休みにしてもらった。それに、妹のデートを見て後から話の種にするのが兄貴の務めだ」
「……帰っていい?」
すごく冷たい目を向けてきた。正直背筋が凍るかと思った。エターナルフォース以下略。
「ごめんなさい。で……何でそんな不満そうなの?」
「……何でもない」
それはおかしい。あ、ちなみにシャルの服装は似合う半袖のホワイト・ブラウス。その下はスカートと同じライトグレーのタンクトップで、ふわりとしたティアードスカート。正直、すごくかわいい。もし鈴とかがこうした可愛い恰好してきたのなら、かわいいねと言えるんだけど、何というか、言えない。何というか気恥ずかしい感じがする。しかもとても。
「ねえ、せっかくこうやって付き合ってるんだから、お願い聞いてくれる?」
「内容によるけど、何?」
「手を繋いでくれないかな?」
……正直、キツイ。色々な意味できつい。嬉しいとは思うけど、どうすればいい?一夏ならいいよ、とか言って終了だが、俺はそんなトンチンカンではない。こういった時は一夏並の鈍感さがうらやましいわ。
「……分かった」
すっ、とこちらから伸ばし手をとる。何というか、とても柔らかく、吸いつかれそうである。というか魅力で吸い付いてしまう。離れたくないと思ってしまう魔性の手だ。恐ろしい。もう、何というか、恐ろしいとしか言えない。魅力の魔法でも使えるのかシャルは。
「じゃ、行こうか」
手を引っ張って動こうとしたら、二人があらわれた。
「何やってんの?お二人さん?」
どうせストーカーだが。相変わらずいい根性してる。こいつらの根性を見習いたいわ。真面目に。
「「ギクッ!」」
そう声に出すと二人が慌てるが
「奇遇ね」
「珍しい事もあるものですわ」
いやその理屈はおかしい。そんな目を逸らしながら言っても……。どんな嘘でも相手の眼を見るのは基本だぞ?いつも真面目な生徒が先生の眼に合わせてしっかりはっきり言えば大体どんな嘘でも通るから。態度で示す事から始めよう。
「ま、居るとは思ったけどね。一夏をストーカーしに来たんだろ?邪魔して悪かった」
「断定しないでよ!言い方も悪いわ!一夏が他の女に手を出さないように見に来たのよ!」
それこそストーカーではなかろうか。男女逆なら犯罪だな。いや、この状況でも犯罪か?男女逆だと痴漢とかは全くでないよね。女が男に痴漢とか。意外と理不尽であるか?うーむ、難しい。喜びそうなのもいっぱいいるだろうけど。下世話な話をすればイケメン、美女だったら問題ないってじっちゃんが言ってた(言ってない)。冤罪は完璧理不尽だが。
「はいはい、でもラウラの邪魔しないでね?ま、そりゃお前たち二人を痛めつけたのは怒ってるけど、ちゃんと謝らせるから」
「このごろ思うんですが、本当に兄みたいにしてますわね。ホームシックですか?聞く限り妹はいないはずだったと思うのですが……」
純粋に心配する目だが、むしろそれが俺の心を傷つけてるよ?
「純粋な子が少なくてね。ラウラは疑いを知らなくて可愛い。恋人とかにはほとんど考えれないけどね。ひとまず、乱入するならせめて午後ぐらいからにしてくれ。あまりに一夏がひどいなら許すけど」
「分かったわ。……その、邪魔してごめんね」
鈴がとても申し訳なさそうに謝った。まさか、勘違いしてるのか?
「二人とも引き続きデートをしていてください。邪魔をしてすいませんでした」
ですよね。そうした勘違いするよね。
「勘違いのようだが、ラウラを見守りに来たんだ」
「110番したほうがよさそうね。親友だからこそ通報しないといけないって思うのよ」
目が結構マジなんだけどどうしよう。すでに携帯を手にしているのが余計に怖い。
「このごろ子供の誘拐事件が多いらしいですわ」
こっちも意外とマジだ。本気と冗談の比率が半々ぐらいと見るが、高いと見るべきかどうだろうか。仮にも友達を通報する気が半分もあるってのは大きいと思うべきか?
「お前ら喧嘩売ってるなら買うぞ?全火力で」
「わっ、わっ、落ち着いて希!」
腕に抱きついてくるシャル。正直、これを狙ってやってない(と思う)のだから恐ろしい。だが生を経験した俺には確かにダメージは食らうがどうとでも……思いだしちゃうだろうが!
「だたのジョークだって。ひとまず、共同戦線だな」
「分かったわ」
「では行きましょう」
こうして奇妙なパーティーが結成された。
結構嫉妬の視線が飛んできたよ?男女両方ね。男からは美少女三人侍らせてるのと、女性からはこの子達の可愛さからかな?内容を知ればどうなるか知らないけど。
駅前のショッピングモールの二階。よく中学の頃に俺、一夏、鈴、弾で繰り出していた。懐かしさが心をよぎった。そして今、
「そうだラウラ!攻めるんだ!機体の色の黒のビキニを!ロリビキニも需要はある!」
大人のグラマスな女性こそ似合うという一般的共通感覚の逆を突いて攻めるロリビキニ。これは効果的になるはずだ。
「ねえ、さっきのは半分冗談だったんだけど、全部本気にしていい?」
完璧に目がマジだった。セシリアも同様である。
「これもジョークです。はい」
通報されてはたまらん。ちょっと本心は込めてあるけど、大げさに言いたくなる時もあるよね。隣のシャルを見る。ちょっと……ちょっと?けっこう目が怖い。さっきからちょっと気分が落ち込んでいて、それが追い打ちをかけたのだろうか。それより……もういいかな。
「……ラウラは問題ないな。もうコンプリートだし。後はお前らに任せるわ」
「え?どういうこと?」
「一夏が馬鹿やったらしばいてくれ。ところでシャル」
「なに?」
怖い目つきを直して首をかしげる。そんな仕草がいちいちもう!
「確か、水着って買ってなかったよな?」
「うん、そうだけど……」
次の言葉を繰り出すのに、結構勇気を使った。ここまで勇気を出すのは久しぶりだ。無人機相手に突っ込む時よりためらった。
「日ごろお世話になってるからさ。水着、買うよ。そりゃ、シャルも給料はたくさんもらってるだろうけどさ。自分で買って、ってのもどうかと思うし。どう?」
そう言うとシャルはパァッと笑顔を見せてくれた。今まで見た中でも、屈指で華やかな笑顔。どの笑顔も可愛いけどね。怒ってる時は美しいと言うべきだけど。
「うん、嬉しいよ!それと……良かったら、希が選んで欲しいな。水着」
ハードル高いねそれ。……仕方ないよね。第一、それを嬉しがってる自分がいるんだし。
隣の鈴とセシリアを見た。
「頑張ってきなさいよ。私は、いつでもアンタの味方よ」
「しっかりエスコートをしてくださいね」
二人に笑顔で見送られた。
拳を握っていたのには二人は気付かなかった。彼女たちは意識していなかったのだろうが、鈍感男に大変な思いをしている傍ら、普通に男女の仲をやっている二人に無意識で嫉妬したのだろうか。