IS学園で非日常   作:和希

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二十八話 敗退と再挑戦

 午後四時前、旅館の一室でシャルロットは横たわっていた。近くには一夏も横たわっていた。一夏に比べ、シャルロットは怪我が少ないが、それでも少なからずあった。体を熱波で幾つか火傷のような症状がついてた。箒が一夏の傍にいる隣で、希はシャルロットの手を握り締めていた。希は帰った後、戦闘データを千冬に提出し、シャルロットの傍に付いていた。そして四時になった時、音声が鳴った。希からであった。そうすると希はシャルロットの手を離し、立ち上がった。同時にドアが乱暴に開き鈴が現れた。

「あー、あー、わかりやすいわねぇ……希は何してんのよ?」

「別に、散歩行ってくる」

「へー、どこまで?……正直に言いなさいよ」

近くまで迫り、顔を見上げ真剣な眼差しで希を見つめる。ただ、希は意に介してなさそうに見えた。

「別に、太平洋のそこまで。ISのエネルギーも回復したし」

そう言うと箒が立ち上がった。

「希!?まさか、行くつもりなのか?」

「……ああそうだよ!」

突然だった。一気に豹変をした。いつもの穏やかさは無かった。皮肉っぽさも無かった。顔を怒りにゆがませていた。

「あの木偶の棒を叩き折りに行かなきゃ、シャルに顔向けできねえよ。俺が間違えてたんだ。それをシャルが代わりに受けたんだ。だから、叩き落とす」

「希、記録を見させてもらったけど、あんたは間違えてないわ。あの状況で一番最適な指示を出したじゃない。悪いといえば、浮かれていた箒と、優しくて馬鹿な一夏でしょ。一夏が決めてれば勝ってたのよ」

「周りを観察してなかったリーダーが悪いだろ。一夏にだって集中するように言えばよかった。俺が全てとは絶対に言わないし、言えないけど、ミスした原因は確かに俺にもあったんだ」

「でも、四人でも無理だったのに戦いに行くの?」

「禁止兵器が幾つかある。そんでもって、良く分かった。ゲーム感覚でやってた気分があるんだって。死なないだろうなとか、どうにかなるとか思ってたって。でも、今回は本気だ。最高の装備で、最高のコンディションで、最大限作戦を練って、叩き落として来るんだよ。シャルに眼を合わせて会うには叩き落としに行くしかないんだよ」

「場所はどこにいるか分かるの?」

「千冬さんは顔が広い。ちょっとお話して、位置を聞いてくる。光学迷彩は壊してあったはずだから、ラウラにも頼んでみて衛星で発見してもらうしかないな」

「ちょうど良かった兄よ。ここから三十キロ離れた沖合上空に目標を確認した。衛星による目視でな」

「ありがとう、立派な妹を持ったよ」

希はラウラの頭を撫で、そのまま部屋を出る。格納庫に向かい、たくさんの兵器から迷わずに目的の物だけ選びとる。今朝、眼を全部通しておいたおかげだ。その途中で、彼女らはやってきた。

「ねえ、希。私たちも散歩に行くつもりなんだけど。あんたと散歩するなんて久しぶりね」

「しっかりエスコートしてくださいね」

「兄よ、家族と出かけるのはハイキングと言うのか」

「リベンジだッ!」

 

 

 

 「…………」

海上二百メートル。そこで福音は胎児のような格好でうずくまっていた。不意に福音が顔を上げる。次の瞬間、顔面にレーザーが直撃した。

「続いて狙撃しますわ!」

いつもと違い、ビットの代わりにブースターを接続し、いつものライフルより威力の強いスターダスト・シューターで狙撃を続けた。

〈情報通り……接近まで10秒……3、2、1、0〉

セシリアが急上昇で回避。それに追いすがる福音。だが

「終わりだ」

上空からステルスモードを解除したシュヴァルツア・レーゲンが急降下。そして、AICの発動。二門の大口径レールカノン、ブリッツと大型ビームライフル。さらに、もう一機、ステスルモードを解除した希の大和からの砲撃の雨が襲った。一瞬でエネルギーが三分の一ほど削られる。が、致命的になる前に砲撃をばらまきAICを解除させた。そして上空にいる敵から距離を取り、逃げるために急降下を行い

「逃がすか!」

海面から飛び出した甲龍から、いつもと違う四門の砲口から熱拡散衝撃砲が炸裂する。多大な弾幕にそれなりにダメージを受け、上昇してかわそうとしたら

「とどめだ!」

その後ろにいた現宙域最高速度を誇る紅椿が襲いかかった。胴体に直撃を一太刀、直撃を受け衝撃で吹き飛んだ。

「全員、それぞれ独自判断で戦闘続行。行くぞ!」

『了解!』

箒を除く全員が砲撃に移った。体勢が乱れていた福音は続けざまに砲撃を食らった。それでも負けじと全砲門を開き、濃密な弾幕を放った。それに対して

「グングニール!」

希が四発のミサイルを放った。エネルギー弾を何発か食らいながらも、そのミサイルは決して壊れなかった。福音は回避しようとするが、並ではない挙動で決して引き離さない。そして

ドガンッ!

爆煙が福音を覆った。

「ISのエネルギーを推進剤にし、正面にバリアがある禁止兵器の特殊弾頭だ。美味いか?」

返事はまたもや弾幕だった。希は複雑な軌道を描き、回避しながら接近する。仲間の援護のおかげもあった。そして距離100mまで詰めた時に大型ミサイルを四発展開し、発射。それらは直接向かうのではなく、大きな弧を描きながら接近する。いくらISとはいえ、ミサイルには速度で勝つのは難しい。周囲から援護されるように接近して

爆音が響いた。

半径75mほどの球が出来た。四発は液体火薬を満載し、空中に分布した後に電気信管で着火を行った。威力は装甲があれば少ないが、無い場所は絶対防御が発動するため大きなダメージを受けることになる。さらに火薬を広範囲に分布するため酸素も燃焼し、ブースターに少なくない影響を受ける。事実、さっきよりも体勢が乱れた福音にとどめとばかりに一斉射撃が行われ、希と箒が接近する。福音は今度は逃げるでなく、一気に攻めてきたが

「「落ちろ」」

希は大型の剣を振り下ろした。箒も一本の刀を両手で振り下ろした。両手で受け止めようとするが、希の足のプラズマサーベルが羽に直撃し、箒の爪先からエネルギー刃が反対の羽をえぐった。両手も大きく装甲が吹き飛んで福音は海中に没した。

「全員、状況終了。仕留める時はあっさりしたのもんだな。まっ、現代戦は初手で全部決まるって聞くけどな」

「希の久しぶりの本気モードは違うわね。これで、シャルロットとしっかり会えるわね」

「こうもあっさり……正直、まだ何かありそうな」

「それはフラグと言うのだそうだ」

「一夏、やったぞ」

箒の言葉がフラグだったわけはないだろうが、事実としてそれは目の前に現れた。海面が強烈な光の珠によって吹き飛んだ。ラウラが慌てたように

「!?まずい!第二形態移行(セカンドシフト)だ!」

それに対して希は、目を大きく見開いて拳を握った。そして口を震わせながら

「何でだよ……シャルは今眠ってるんぞ!?お前のせいでな!もしくは篠ノ之束のせいでな!!」

「なぜそこで姉さんが!?」

「八つ当たりかもしれねえけどな!俺は目の前でお前にシャルをやられたんだ!俺が弱かったせいもあるけどな!!でもお前が起き上がってくるのはいらつくんだよ!!」

そう言うなり、装甲の大部分と砲を量子化した。あるのは脚部プラズマブレードと手に持った二振りの刀。

「システム認証、殺人翼(キラーウィング)発動!」

そして、背中の機動パッケージが形態変化……量子展開で追加装備を取り付けた。先ほどまでよりさらに一段階大きくなったような。

「大和、不純な動機で悪いけどな、力を貸してくれよ!」

その瞬間、大和が光ったように彼女らは見えた。希は目を丸くして

(これが……一夏の言ってた一体感か?)

今までより強く、刀を握り締め突撃した。福音からはちぎれたはずの羽の部分からエネルギーの羽が生えた。それにも構わず一直線に突き進んだ。

「よせ!兄よ!それは__」

その羽が希を包んで撃墜__などしなかった。

「えっ」

鈴が思わず声を出した。希はいつの間にか背後に回って

「死ね」

一撃、それも不可解な速度の一撃。強烈な一撃で福音は数十mも吹き飛んだ。最大脅威目標を希に定めたようで、胸部から、背部から生えた小型の羽も希を狙った。大量の弾幕が張られるが全て無駄だった。希は福音から数mと離れない位置をひたすら追いすがっていた。

「援護射撃は無理か!?」

「無理ですわ、あの挙動では。分かってるでしょう!?」

「希はなにをしてるのだ!?あんな距離では倒されるぞ!」

「いえ、違うわ……最も近い位置にいれば羽に包まれそうになっても数m動くだけでいい。下手に10mぐらいまで離れると福音の加速性能と攻撃範囲に一瞬で包まれるけど、あの位置なら数m動けば羽から回避できるわ。トップスピードは勝ってる様だけど、圧倒的じゃないわ。それより不可解なのは、あの速度と機動性」

福音が逃げ切れない速度を叩き出している希の大和。良く見ると羽が何度も光っている。それを見てラウラは何かに気付いた。

「まさか……そんな馬鹿みたいなことを!?」

「何か分かりましたの?」

「兄は……火薬を推進剤に使ってる!多分、液体火薬だ!!それを背中の羽に充填させ、爆発させた推進力で移動してる!しかも瞬時加速と併用して弾幕を避けたりしている!早いだろうな、だがあんな挙動いつまで持つか!殺人翼とはよく言ったものだ、アレは自分を殺す翼だ!!」

他全員は顔を青ざめた。火薬をブースター代わりにしている、しかも瞬時加速の最中にも使っている。普通、瞬時加速で下手に横移動をすれば骨折する可能性もある、それなのに瞬時加速の最中に瞬時加速、体への負担は普通では耐えることは出来ないだろう。

「ある意味では合理的だ。兄の機体はスロットが多い。それに液体火薬を推進剤に詰め込めばエネルギーの節約にもなるだろう。だが、アレを入れたんだ、兄は!相討ちに覚悟でアレを倒そうとしていた!皆で帰らないと意味が無いはずなのに!さらに許せないのは、私たちが一緒に戦うと知ってても入れたままだった!兄の馬鹿者!作った企業もどうかしているあんなもの!!」

「待て、つまりあの刀……あの刀も光ってる。つまりアレも棟の部分に液体火薬を仕込んでるのか?」

ふざけた機体であった。だが、それでも互角の戦いを演じていた。あの化け物みたいだった福音がもう一回り化け物になったような機体と同等まで追いすがっているのだ。

「付いていけないわ、今の状況じゃ」

「楽観してもいけない。兄がやられた場合に備えるべきだ」

「説得しようにも、あんなに怒っている希は説得は不可能よ。あんな挙動じゃ残り数十秒の挙動だろうから、それまでに包囲陣形で。希が大きく引き離されたら援護射撃。無理はしないで。希が限界になったら一斉射撃後にアタシと箒で近接戦闘。ラウラは隙があったら接近してAICで動きを止めて。希のダメージがあまりに大きいなら誰かが護衛して撤退。残りで福音を相手よ。希ならそう指示するわ」

「了解だ」

「了解ですわ」

「分かった」

それぞれ全員が四方を囲みに移動をした。

 

 

 

 ああ、痛いな畜生。腕に持った刀も痛い。刀を火薬で加速とか馬鹿か。使ってる俺もだが。機体も火薬で加速、馬鹿かこの機構。使ってる俺もやはり馬鹿。あっ、今骨にヒビ入った。もうさらに一箇所もか。まだ二十秒なのに十カ所近くにヒビが出来た。

さっきまでの俺じゃ使えきれない武装。でも、大和と感じた一体感が出来ると思わせた。自由機動パックを第二形態から最終形態に移行させ、使った。師匠だって、三回しか見せてくれなかった上に三十秒だって使ってなかった。三十秒あれば負けるのにお釣りがきたけど。つーか十秒で余裕だった。

初めてにしてこれだけ扱えれば上出来だろう。でも

足りない、まだ足りない

こいつを叩き落すにもまだたりない。それに、ここで止まっちゃ駄目だろう。束博士が黒幕かもしれない。他にいるのかもしれない。福音は犠牲者かもしれない。なら、そうなら!束博士やいるなら他の黒幕の頬面ひっぱたけるぐらいの力は必要だ。それにしては滑稽だけどな、大和に言っちゃ何だが、自由に起爆可能な自爆装置積まれたような機体でしか頬面を叩けそうにも無いなんて。この機体のコアの開発者は束博士なんだ。あるんだか分からない遠隔操作装置だか何だかの解除をしないと始まりもしない。

でも、ひとまず先にこいつを倒さないと。そうしないと、俺は進めない。この先には。

「落ちろよ蚊トンボ!!」

刀を火薬で加速させ、腹部にたたきつけた。吹き飛んだ福音を、弾幕をかわしながら接近し、プラズマブレードを蹴りこむ。プラズマブレードは吹き飛びはあまりしないものの、着実にダメージを与えている。包み込もうとする羽を、こちらの羽の火薬を八枚連続点火し、円を描くような機動で後ろに回りこみ羽根を叩ききる。切った分のエネルギーは消費されているはずなのに、なお有り余るそのエネルギー。正直、もう1400ぐらいは消費させたはずだ。IS二機分ちょっとぐらいには消費させている。全く、化け物か。確かに腕とかの装甲の厚い部分でガードされたりしているにしてもさ。

「うおおおお!!」

次は下から斬りかかる。死角になる位置に回りこんで、攻撃__おい、マジか。

目の前に見えたのは脚部から生えたエネルギーの羽……刃。しかも足の裏から生えてきた。それが刀を防いだ。一瞬だけ。でも、それはIS戦闘では死活問題だった。

「LaLaLa……♪」

たたきつけた刀は衝撃を吸収され、今までとは違い数m吹き飛んだだけだった。そして、一番悪い位置状況。羽が包み込もうとするが、引くんじゃない。この状況でむしろまっすぐ、突っ込む。

「う__」

そだろと言おうと思った時には、吹き飛んでいた。

 

 

 

 「希がやられたわ!」

頭部……額から大型レーザーが直撃し、速度が仇となって吹き飛んだ。

「骨にヒビが十カ所ほど。ただ、内臓に大きなダメージは無し。無理がたたったのと緊張が切れて気絶したみたいですわ。ISの生命維持なら問題ないですわ」

希の情報を大和から取得したセシリアが伝えた。

「では救助をせずに戦闘を続ける。兄がここまでしてくれたのだから落とさねばならない」

「本当に大丈夫なのか?……お前たちの判断を信じる。行くぞ!」

四人が一斉に攻撃を開始した。遠距離からビーム刃、熱拡散衝撃砲、レールカノン、大型BTレーザーが福音を狙う。相変わらずの機動力で回避されるが、先ほどの戦闘でのダメージのためか、眼で何とか追えるレベルであった。

「これなら……!」

箒が刃を振り続けながら言った時、福音が視界から消えた。

「なっ」

のではなく、目の前に現れていた。だが長年の修行の成果か、的確に剣を打ち込んだ。そのまま接近戦にもつれ込む。

「またか!」

「でも、希さんの時に比べ戦闘力は落ちているようですわ」

「希があそこまでやればね。どうする?」

「やはり包囲がいいだろう。兄の状況も問題なさそうだ。ISの機能も生きているから、流れ弾が多少あっても問題は無い」

そして箒が優勢になりだし、

「とどめっ!」

雨月を打ち込もうとして__エネルギーが尽きた。

「またっ!?」

その一瞬、福音が右腕をのばし、喉を締め上げてきた。


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