IS学園で非日常   作:和希

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二十九話 福音の波紋と傷跡

 「ここは……?」

目が覚めてみると、森の中だった。隣を見ると小川が流れていて、海に続いていた。

「アレか、精神空間って奴か?」

周りを見渡す。森の匂い、川の音、潮の香りがかすかに。正直、最高だ。でも

「何だ、思い出せ」

……そうだ、もたついている暇は無い。ふと、後ろに気配を感じた。振り向くと、大きな岩の上に小さな少女が居た。

「あ、起きた?」

優しく問いかけるような声。

「おかげでね」

適当に返す。

「何もしてないと思うよ?」

「だよね」

そして、しばらく間が開いた。十秒もしないうちに、にこやかに笑いながら女の子は

「ねえ、今楽しい?」

「昨日まではね。今は最悪。でも、進む為には乗り越えないと」

正直に答えた。

「そう、良かった」

「何が?」

「さあ」

そう言うと、少女はクスッと笑った。そして後ろからひょっこりと、別の少女が顔を覗かせた。少女と言うより、幼女だ。

「ってアレ?二人?多分君、女神的な何かだと思ったんだけど。一人だけだよね普通」

「あなたがISを乗れる原因なのです♪」

指でVを作る少女は和やかだった。

 

 

 

 「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」

ヒーローが参上した。

「「「「一夏(さん)!!」」」」

「おう、待たせたな」

白馬の王子様並の登場だが、箒は怪我を心配した。一夏が大丈夫だと返し、

「誕生日、おめでとうな」

「あっ……」

リボンを渡した。戦闘中にも関わらず他のメンツは歯軋りをした。

「それ、せっかくだし使えよ」

「あ、ああ……」

「じゃあ、行って__希はどうした?」

「希は落ちたわ。アレがセカンドシフトをしてから、7割ぐらいは希が削ったと思う。気絶中って所ね。傷は軽いわ。でも、骨にヒビは覚悟ね。さっさと落として助けに行きましょ」

「そうか。じゃあ、さっさと落とさないとな!」

五人が、福音に向けて攻撃を開始した。

 

 

 

 「ん……あれ……そうだっ!希は!?」

シャルロットはガバッと跳ね起きた。周りを見渡すと

「ふん……あいつらめ」

近くで千冬が壁にもたれながら立っていた。

「織斑先生!希は!?」

「大丈夫だ。リベンジに行ってる」

「そうだ……ISダメージ問題なし……行ってきます!」

「怪我人だろう?」

「そ、そうですが……軽い火傷とかだけですから」

首筋あたりなどに軽い火傷の跡が残っていた。

「ふむ……だが規則として行かせるわけにはいかないんだ。だから」

「だから?」

「今から昼寝をする。知らん」

「……ありがとうございます!!」

 

 

 

 「これで、とどめっ!!」

一夏の新型はエネルギーを馬鹿食いする機体だったが、紅椿のワンオフアビリティー・絢爛舞踏によりエネルギーを回復させ、五人は福音を追い詰め、一夏がとどめの一撃を食らわせようとしていた。だが

「LALALA!!!」

羽が、細分化した。それによって一夏は弾き飛ばされた。よく見ると、形が希の大和に似ていた。そして、機構も。背中の羽からISエネルギーを噴射して機動力を得ている。

「一夏っ!?まだ持つのか福音は!?」

「いくらなんでもおかしいぞ!?」

「ラスボスって三回変身を残してるらしいわよ、希が言うには!」

「不吉なこと言わないでください!」

吹き飛ばされた一夏に向かって福音が瞬時加速を行った。その間に箒がたちふさがった。

「そう何度も__」

エネルギーの羽が直接弾き飛ばした。そのまま目もくれず一夏に向かい、喉元を締め上げた。

「くそっ!!」

「「「「一夏(さん)っ!!!」」」」

 

 

 

 

 「あっ……呼んでるわね」

何となくだけど、分かった。今、危ないな。

「ねえ、力がほしいの?」

「そりゃあね、あれば便利だろう」

能力だって、金だって、人脈だって、あればあればで困らない。むしろ、あれば役に立つものが多い。力だってそうだ。あって困らない物なんて、この世界には殆ど無い。ありすぎたら世の中あまり簡単でつまらないように見えるらしいが。その気持ちもわからないでもない。戦国ゲームで最強キャラ百人作って天下統一は当然できることだから、つまらなくなる。絶対勝てる相手と戦っても当然としか思わないからだ。

でも、つまらなく見えてもいいから、今は欲しい。力が。

「どうしてほしいの?」

「うーん、今まではさ、自分が理不尽なことに巻き込まれてもどうにかできるようにしたかった。でも、違う。今は、誰よりも護りたい人がいる。そのためには、何でも欲しい。タダでも、代償があっても、力が欲しいんだ。もちろん、一夏たち仲間も守れればいいけど、俺は凄い人間じゃない。一般人に毛が生えた程度だから、多くは守れない。でも、一人、たった一人護れる位の力は、誰だってあるはずなんだ。普通の人でも、大切な人を一人は護れるぐらいには世界は優しいはずだ」

そう、俺はたしかに出来る人間だと思う。でも、鈴とかのラインには及ばない。でも、ただ誰かを倒すために準備をして、いい装備を整えて、対策をとればセシリアだって倒せたように。

例えあいつらにかなわないようなそこそこの一般人でも、強い想いを胸に宿して努力すれば、大切な人の一人ぐらいは護れるはずなんだ。例え英雄とかの器じゃなくても。一人は守れるはずなんだ。

「……でも、借りることになっちゃうな、君から。自分の力じゃないのかな?」

全く、強いのか弱いのか。

「違うのです、君たちから、です!」

「その通りです。では力を上げましょう。ただし、あなたはまだ慣れていませんので少し力を貸す程度です。そして、タダより高いものはありません。いい言葉です」

「私もあげるのだ!」

「ありがとう……二人?とも。行ってくるよ」

「「行ってらっしゃい」」

 

 

 

 「一夏を離せ!!」

箒が殴りにかかるが、羽によって刃は防がれた。

「今ですわ!」

狙撃が襲うが、数十cm移動して避ける。その間も一夏はとらえられていた。

「くそっ!」

そして、羽が大きく振りかぶられた時、海面から飛び出てくる物体が一夏以外からは見えた。

「吹っ飛べ!!」

懲りずに火薬推進を使って音速で近づく。福音も驚いたようで、羽で防御しようとするが少し、遅かった。音速に近い速度で突っ込まれたため反応が遅れた。最初から一夏を盾にするべきだったが、もう遅い。

「だぁ!」

機体の速度と重量だけでなく、刀も火薬で加速させ、福音に当てる。福音は一夏を離し、数十m吹き飛んだ。

「っち!バックしてダメージを抑えたか」

『希(さん)っ!!』

「おっす」

(それにしても、さっきまで九ヵ所ぐらいにヒビが入ってたのに。全部回復してるか。エネルギー自体も、自然回復よりずっと多い。全く、助けられてばっかだな)

「よし!箒、何となくわかってる。三十秒で仕度しな!それまでは一人で抑えてやるから!」

「分かった!」

希は両手の刀を抜く。それだけではない。今度はプラズマブレードも収納し、足には同じ刀を装着した。足着用の為、少し形は違っていたが。

(さっきまでのが一体感なら、今のは一体感とは違う。今は俺がISだ!みたいな感覚だ。何もかも分かる、そんな気がする。さてと)

刀を福音に向けて

「リベンジってほど恰好よくはねえけどな!」

羽を光らせながら突撃し、切り結んだ。先ほどよりさらにきつい戦闘。急激なGが体を襲うが、先ほどより痛みは無く、ヒビも入りはしない。体が急激なGでダメージを全く受けていない。ただ、羽が至近距離の格闘に対応しだしたため、先ほどと違い近距離でも福音は防戦一方ににはならない。羽でガードされ、羽で攻撃され。負けじと刀を打ち込み、羽を逸らす。

(いつもより、感覚が鋭い。次に攻撃がくる場所が直感でわかる!)

相手の攻撃を100%防ぎながらも手数では圧倒できていなかった。優勢ではあったが、押し込めるほどではなかった。ただ、同時に何かとんでもないことが起きているような、何かが進んでいるような感覚もした。希は、それでもその感覚を振り切って刀を振り続けた。そして、福音へ当てた数が五になった時、

「終わったぞ!」

「っしゃあ!」

急激に後方にバック、同時に刀を投げた(・・・)。しかも、火薬で加速して四本。面食らったようでダダッと二本被弾をした。

「攻撃だ!」

『了解!』

一斉に砲撃が行われた。機動力がずいぶんと落ちていた福音は、数々の被弾を受けた。それでも最後とばかりに瞬時加速を希に行った。

「当たるか__」

そこで、致命的なミスが起きた。バキッとの音とともに、羽が欠損した。火薬で推進している反動、それの負荷が限界を超え、付け根の部分が吹き飛んだ。酷使されすぎた結果であった。

「くっ!」

(やばい……けど問題ない。皆散開してるから、むしろ動きを止めててチャンスだ。その中から一夏が突撃してきて終わりってところか)

と思う前に、福音は吹き飛んだ。

「えっ?」

「僕を忘れないでほしいな!」

「シャル!!」

ステスルモードでずっと機を窺ってたシャルがパイルバンカーで福音を上に飛ばす。希はすかさず武器を取り出した。

「ダブルショット!」

二つの大型グレネードを取り出し、射撃。爆風で動きが乱れた福音が上に吹き飛んだ。そこへ一夏が

「とどめ!!」

零落白夜の刃を突き当てた。その瞬間、福音の動きは停止。零落白夜を停止して数秒後、装甲は消え去った。スーツだけのIS操縦者が海へと落ちていくが、ちょうど希のところに落ちてくる。希は残りのエネルギーを使い、相対速度を合わせながらゆっくり受け止めた。

「終わったね」

「シャ……シャルロット、来てくれて嬉しいけどさ。せっかく倒した後、仇を取ったぞ、そう言おうと思ってたのに」

希は顔を背けて小さくつぶやいた。

「でも、希を助けれて良かったな。それとね……さっきはシャルって言ってくれたよね?また、そう言って欲しいな」

少し照れくさそうに、でも今朝などとは違い明るい声でシャルロットは言った。

「……ああもう!分かったよ。本当にありがとう、シャル」

「__うんっ!」

その笑顔を見た瞬間、緊張が切れたのか。希のISも落下していった。

「希!?」

 

 

 

 

 目が覚めてみると、おぼろげに白い天井が見えた。フラフラしているが、一分ぐらいすると目が合わさりだした。体が重い感じがする。時計を見ると、十二時ぐらいになっていた。反対方向を見ると、シャルがいた。

「シャル」

良く見ると、俺の手を握りながら俺にもたれかかっていた。そりゃ重い気もするか。何で気付かなかったのか不思議だ。さて、この状況のままにするべきか、でももたれながら眠るのって体に悪いし。起こすべきか、どうか。

「希?」

ありゃ、起こしちゃったのか。

「起こしちゃった?」

「ううん、大丈夫。それより、希は?気絶して、……六時間以上寝てたんだよ?」

時計を見ながらシャルが言った。その顔は不安そうだけども、致命的ではない。となると、後遺症は特になし。わかってたけどね。それでも不安そうだったのは、一夏でも寝てたのが三時間半ぐらいだったのによりずっと寝てたから。寝てたというか、気絶?

「それにさっきの戦闘データを確認してたら、骨に九ヵ所ぐらいヒビがあったから。治ってるようだけどね」

「女神さまに会ってきてね」

「どういうこと?」

「ISの守護神みたいな?まあいっか。それより、飯逃しちゃったな」

「二人分、取ってもらってる。ちょっとだけわがまま言って」

「ありがとう」

「いいよ、したいからしたんだよ」

「……他の皆は?」

「えっとね。織斑先生から説教を受けた後に僕と一緒に希を看てたけど。容態が完璧に落ち着いてからは皆帰ったよ。とくに一夏と箒が申し訳なさそうでいたけど、鈴が『希なら私たちがいつも通りしてるほうがいいわよ。私たちに出来ることはもうないし。それに、邪魔しちゃ悪いし』って。一時間ぐらい前かな」

全く、鈴め。微妙に気をきかせやがって。一夏たちが申し訳なさそうなのは、最初の時があったからか。

ちなみに、鈴の言うことはあってる。容態は完全に落ち着いていて、寝てるも同然の状態なのに六人に囲まれてもね、申し訳ない。俺なら勝手に帰ってる。俺のミスで寝込んでる状態にさせたなら別だけど。

「そうか。あいつらに怪我は?」

「皆無事だよ。一夏もね」

「そうか」

そう言って、沈黙が続いた。十秒ほどだろうか。俺もシャルも口を開き、目をきょろきょろさせて

「ん?やっと起きたか」

「「わっ!?」」

「あー、邪魔するつもりはなかったがな。最低限連絡をとな」

「どういうことでしょう?」

とは言うものの、軍紀違反してるしね。仕方ないか。

「まず独自行動により重大な違反を犯した。帰ったら反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ」

ちょうどいいや、それなら。

「ありがたいですね。織村先生のメニューとは。……強くなりたかったところです」

「ふむ……それとだ、説教を他のメンツにしておいた。デュノアは清水の看病のため説教をしていなかったので、明日二人で来い」

「了解です」

「あ、そうだ。トレーニングはお前はしばらく禁止だ」

「どういうことです?」

今までの二倍ぐらいはしようと思ってたけど。

「戦闘データを見たぞ。馬鹿者。狂った兵器を使いおって」

「叩き落としたかったんですよ。ともかく」

俺にとってどんなものでも勝負は楽しめればよかった。そりゃ、負けたら悔しいし勝ったら嬉しい。でも楽しめるかどうかが重要だった。撤退するとき、一体一で福音と戦ってた時も楽しんでいた。

でも、あの時は勝ったら嬉しいじゃなくて勝たなきゃダメだったんだ。心の底からあの時は思った。

「身体検査は簡易でやったが、ヒビはないものの全身微妙に危ないそうだ。三日間安静にしろとのことだ」

「はぁ、しゃーないですね」

その後から頑張らないと。そして、千冬さんは少し楽しそうな目をしながら

「ただし、日常的に動く分には問題ない。軽く走るぐらいでも問題はない。短距離走などは念のためやめておけだそうだが。あー、そのだな、それとだ。修学旅行の最中、夜は枕投げをするそうだが物を壊すか教師に見つから無ければ処罰はされないそうだ」

「は、はぁ」

この人まさか。

「では、気をつけろよ。……ああ、そうだ。希、言い忘れてた。今日は曇がない。星が空一面に広がってる」

そう言って俺の視界から姿を消した。横顔が微妙に良い事した気分、ってなってるのがウザいです。この人やっぱり一夏の姉だよ。良いことしたと思ってるんだろうけど、正直どうすりゃいいの?俺達関係複雑なんだよ……いや、そんなんじゃだめだ。しっかり、ちゃんと言わないと。いけないしね、ダラダラ関係を伸ばすのは。それに、シャルが期待した目で見てるし。

「……シャル、星、見に行かないか?町よりずっと星が見えるだろうから」

「うん!」

 

 

 

 

 「星、綺麗だね」

シャルが星空を見上げながら言った。場所は浜辺、波が目の前でザブンザブンしてる位置。地面に座りながらの状況。

さて、どうすればいい?こういうときのお約束は君のほうが綺麗だよ、という奴だ。事実、一夏に対してはそう言うように言った。当事者じゃなければどうとでもいえる。

さて、謝罪しよう。一夏のヒロインズたち、いつも馬鹿だな、もっと計画的に攻めろと言ってたけど、すいません考えがまとまりません。ここまでで一秒。

「シャルのほうが綺麗だ。……本当に」

考えがまとまる前に勝手に口に出してた。な、何を言ってるか(ry

「あ、ありがとう……」

頬をとても赤く染めて、俯くように呟いた。星空に照らされたシャルの横顔はとても綺麗で……続かねえ!どうすればいいの!?俺が切り出すのがいいのシャルが切り出すのがいいの?ISの戦闘は一秒ですさまじく考えて手を出せるのに、こっちは何秒あっても一手も打ち出せないよ!助けてよ!!カード百枚くれ!ハズレ抜きのカードをね!でもあのCMこのごろ見ない気がする、いやどうでもいい。

「……希って、こんな星空をみたことある?」

でも、その思考もシャルの真剣そうな声で落ち着きだした。

「えっと、数回だけ、親戚とキャンプに行った時。ここに来ると分かって楽しみにしてたのは、星空も一つある」

昨日はドタバタして見れなかったけど。

「私は、13歳までいつも見てたよ。前に言ったよね?田舎で暮らしてて、毎晩星空をお母さんと眺めてたんだ。あの時は、確かに幸せだった。それ以来、IS学園に来るまではずっとイヤだった、とかを通り越して何も感じなかったんだ」

俺は黙って聞き続けた。

「それをね、希が変えてくれたんだ。希はたまたま相部屋になっただけって言った。でもね、他の誰かが私と相部屋になるより、希がなってくれた方がずっと幸せだと思ってる。良く分からないけど、希が相部屋になってくれることより良くなったとは思わないよ。例え、一夏が相部屋だったとしても、その結果一夏を好きになってたとしても、希の事を好き以上にはなってない。……何て言ったらいいのか良く分からないけど、希が良かった。他の誰かじゃなくて、希が良かったんだよ?」

「でも、それでもシャルを守れなくて……」

シャルの首を見る。少しだけど、火傷の跡が残っていた。あの時ほど俺自身をぶっ飛ばしたくなった事は未だに無い。

「こう言うのは嫌だけど、一夏だって箒を守れなかった。希があんなに、俺より一夏の方がいい、そう言ってたのに。私たちはまだ子供だから仕方ないと思う。重要なのはこれからだよ。そうでしょ?」

「でも、弱かったんだ」

あの時、もっと違う方法があったかもしれない。今更こんな事を思うのは愚かだって知ってる。思わないよりは愚かじゃない、次に繋げるように心に刻むのが大事だってのも重要だって分かる。過去を反省する事と思い出すだけは違う、実行に移すかどうかも違う。

でも、シャルは続けて

「弱くない。希はかっこいいし、誰より頼れて優しいよ。さっきだって、福音を一番追いつめてたのは希だったでしょ?希はいつも誰より堂々と、飄々としてるけど、実は臆病だよね。

自分は下心があって駄目な人間だと思ってても、誰より人を助けて。下心が無い人間なんて、ほとんどいないと思う。私はさっき言ってたと思うけど、希に少しでも可愛く、優しく、頼れる女の子だって思われたい。そのために努力してるし、行動してる。悪い事かな?」

「ひ、一人の為に何かしようとするのは、いい事だろうけど、でも俺はあの時シャルだけじゃなくて皆にも好かれようとやったんだと思う。数撃ちゃ当たる、みたいに」

俺だって男だ。いい人と恋人になりたいとか思いながら、やってたんだと思う。

「その時から、希は私の事を少し好きだったなんて、嬉しいな。気にかけてくれたってことだよね?」

「結果論だろ?」

「それでも、幸せなんだよ?私は」

いつの間にか立ち上がってた。俺もつられて立ち上がってた。目の前で向き合う。夜空に月が浮かび、星空が俺たちを照らしていた。そして、シャルはにっこりと微笑んでくれた。見てる自分すら微笑みたくなるような、そして心が安らいでいくような微笑み。

「だからね、希の事が好きだよ。どこがとはあまり言えないかもしれないけど、これから先、この世界の誰よりも、私……ううん、僕は、ずっと希のことが好きです」

……良く分かった。俺の心も。ずっと知ってたけど知らない振りしてた。けど、見て見ぬふりはもうできない。わざわざ、使い慣れない私って言葉を使ってまで女だと意識させようとしてきたことに始まって、色々してきてくれた事を見てみぬ振りしてきて。俺って、どこまで馬鹿で不誠実だったんだ。色々な物語の鈍い主人公は気付いていないから仕方ないとしても、俺は気付いてて無視するなんて。え、何だって?みたいな事を言うのよりよっぽど卑劣で、不誠実だ。

「あー、今更だけど、先に言わせちゃったなぁ。……あの不良たちに言われる前はさ、合宿の最中にはどうにかしないととか思ってたんだけどな。先にさ」

シャルの眼をしっかり見つめる。

「今まで色々……一か月とちょっとだけど。それでも色々あった、気がする。それで思った。確かに俺からそうなったってわけじゃないかもしれない。シャルに想われての、受身の想いなのかもしれない。それでも、あまり確信できることがない俺でも、しっかり確信してる。

俺はシャル……シャルロットの事が__」

ドーン!!砲撃の音が聞こえた。思ったらシャルを抱えて伏せていた。

「……被害は無さそうだな。師匠助かった」

師匠が爆発したらすぐ倒れこめと訓練受けさせられたおかげだ。ただ、無意識でやるようになったのは酷いと思うけど。今気づいたけど、これは鈴の衝撃砲だ。シャルもそのことに気づいてるようで、深刻そうな顔はしていない。ただ、

「あ、ありがとう……」

押し倒した結果、シャルにのしかかっていた。頭を打たないように腕をまわしていて、頬が赤く染まっていて、ちょっとはだけた服が色っぽい。けどいかん!

でも顔を赤らめて、少し、ほんの少し服が乱れてるのに興奮してしまって。起こそうとする意思とは裏腹に少し顔を近づけてしまった。それに対してシャルは

「希が、いいなら」

俺は深呼吸したあとに、

「俺はシャ__」

ドーン。良く聞いた音。ラウラのグレネード。もう一度根性を出して仕切り直そうとする。

「俺__」

ドーン。

シャルは笑っていた。俺は立ち上がったあと、シャルの手を握ってゆっくり起こした。

「ちょっと、待っててね?」

あいつらにここまで殺意を覚えたのは初めてだ、そうとだけ言っておく。

そして、ここまでシャルに恐怖を覚えたのも。まだ福音に突っ込めって言われた方がマシだ。千冬さんを倒しにいけと言われる方が生存率が高そう。

 

 

 

 

 翌朝。朝食を終えてISの撤収作業に当たる。ちなみに、箒は砲撃してないようだったが大岡裁き?されていた。一夏もである。全員シャルにボロクソにされてシャルを怒らせてはいけないと再確認してた。というかラウラは部屋の隅で縮こまっていてね、シャル見ただけで。同室だよ?

ちなみに、昨日はシャルが全員を叩きのめし、正座させて説教させた後、千冬さんが来たと同時に逃げてあのメンバーになすりつけられていた。シャルはおとがめなし、見つかってないから。ただし、密告しようものなら酷い目に会うだろうから、誰もばらしていないのだろう。

「台無しになっちゃったね」

あははと笑うシャルが印象的だった。俺はどんなコマンドもできなかった。

冷めた食事を少ししゃべりながら取り、お休みをしたあと別れて眠った。

そして今ここ。

「すまん……誰か、飲み物持ってないか……?」

「……ツバでも飲んでいろ」妹

「知りませんわ」セシリア

「マグマでも欲しいの?」シャル

他全員が怖がってるからね?ちなみに俺は通路側でシャルが窓側。右の二列の通路側に一夏で箒が隣。

「何を見ているか!」

箒にすがりつく子犬の目で見た後、一夏は俺を見てきた。俺は笑顔で

「硫酸でも飲んでろゴミ」

「俺が何かしたか!?うー……しんど……」

そしてそれから十秒後ぐらい。

『一夏!』

三人が一斉に一夏を呼び掛けた。全く、最初から攻めないといけないんだよ。だがもっと気になる人がいた。目の前に見知らぬ……いや、昨日の操縦者か。

「ねえ、清水希くんっているかしら?」

「俺です」

立ち上がって向き合った。わずかに香るなんかのコロンの香りがする。おしゃれ全開のカジュアルスーツに開いた胸元。そこにサングラスを預けた、恐ろしい人である。こんな事本当にする人がいるだなんて、本当にあったアニメの話。都市伝説かと。

「君がそうなんだ。へぇ」

「昨日はどうも?こっちがお世話したと言えば?」

「多分、そうね」

「希、誰だこの人?」

「名前は知らない。ただ__」

俺のセリフは華麗な名乗りで途切れた。

「私はナターシャ・ファイルス。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の操縦者よ」

「えっと、お悔やみ申し上げますとか、どう言えばいいのか……福音は残念でした」

「しょうがないわ。暴走しちゃったんだから」

推測で言ったんだけど、この返答だとISコアは凍結か。あんな暴走した後じゃ仕方ない。壊すって選択肢はありえない。世界で467個しかない物、しかも芸術品とかじゃない国家の軍事力に直結する物を壊すなんてありえない。多分、数年以内にはまた再使用されるだろう。

「では、気を付けてください」

何に対して気をつければいいのか知らないけど、何と言えば良いのか知らないので適当に返した。そうしたら頬にいきなり唇が触れた。えっ

「ちゅっ……これはお礼。ありがとう、騎士さん」

「えっと、どうも?」

やったーとかより困惑の方が多い。そしてどんどんある感情が増えてくる。

「じゃあ、またね。バーイ」

「さよならー」

手を軽く振って、湧き上がる感情から逃げる為にのほほんさんの所へ。

「さーて、のほほほんさん。席をかわってくれる約束だったよねー?」

「それはないなー」

ですよね。ゆっくり後ろを振り向いた。ざわついてた車内はとっても静かだった。通路には一人、シャルが立ってるだけで。ラウラはビクビクしている。頭に腕を抱えていた。セシリアも箒も一夏も。

「希、僕と同じ席でしょ?学園まで長いからね」

あー、とってもいいお顔。昨日ほどじゃなくて助かったと言うべきだろうか。どう言えばいいのだろうか。

「えっと、昨日の今日で疲れてたんです。反応できなかったんです」

事実である。あの後一睡も出来なかったわけじゃないけど、睡眠はあまり取れてない。

「へー、そうなんだー」

最終奥義を使う事にした。

「お、俺は無実だっ!!」

バッと両手を開いた。ですが女神は無情である。

「今から話し合って決めようね」

極上の笑顔が嬉しくもあり、恐ろしくもある。周りの目を見ると、ご愁傷様とか、何と言うか。地獄へ行ってらっしゃい、みたいな?

「ほら、早く」

近づいてきて、手を握られた。とても力強かった。

 

 

 

天国と地獄を味わった。隣で腕に胸を当てて密着されてはいたけど、固め技。動かせないうえに、ニコニコと笑ってきて、怖かった。暴力行為は昨日のことに配慮してくれてか、固め技以外無かったけど、胃がすこぶる悪かった。

 

 

 

 

 シャルの隣にいながら、恐怖を味わいながらも日常に戻ってきたと思った。

非日常を求めて俺はISを動かした。でも、非日常がメインになったらそれが日常だ。銃を抱えて走り回る自衛隊とかは傍から見れば非日常でも、入隊すればいずれ日常になる。ISをぶんまわしてすっごく楽しいとは思う、非日常だと思った。でも、それでも日常になっていた。日常ばっかりは少し退屈だと思っていた。ま、アイツらのおかげで退屈はあまりしなかったけど。

でも、再確認した。

日常がメインなんだ。非日常はどこまでもスパイスだって。それに、メインをしっかり堪能すれば問題はない。これからもアイツらとしっかりと日常を堪能しようと、そう思った




鈴は出来る子。希はとうとう限界突破。ツケはあとに回します

希は非日常を求めてきましたが、積極的に求めてませんでした
積極的に求めてしまったら非日常ではなくなってしまう、ただそれだけです。そして非日常を何度も体験して日常が大切だと気づきました。めでたしめでたし
ではなく、まだまだ続きます

それと初アンケートみたいなのを

主人公の性格はどう思いますか?です。良い奴か悪い奴か、普通か。
主人公のスペックはもう少し落としても問題なかったかなと反省
あとシャルの告白時って
「希のことが好きです(だよ)」
どっちのがシャルっぽいでしょうか?悩みました。これもよければ

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