IS学園で非日常   作:和希

36 / 50
三十二話 希と鈴の微妙な関係

 朝、時刻六時半。朝六時から起きてシャルの髪を溶かし、グラウンドを走り回ってる。死線を越えてからというもの、体全体の能力がアップしている。人体って不思議!だからと言って、訓練とかでもう手抜きをするつもりは無いが。

「アンタら朝から本当に元気よね。特に希」

「何だかんだでお前も元気だよな」

このごろ、早朝訓練参加者が賑やかになってる。夏休みに入るまだまだ前、そう、終業式の一週間ぐらい。湿度が高いこの時期も元気に走っていた。

「朝からは来るものがありますわ」

完璧超人に見えるセシリアもつらいようだ。俺もそっちに視線を向けないようにつらい。

「むぅ……私と一夏だけ……いや、希もシャルロットもいたが」

「ひどいね」

箒はご機嫌斜め。臨海学校が終わってから彼女ら全員訓練に参加するようになっていた。皆がやりだしたら次々加わらないといけないから大変である。最初は箒と別々でトレーニングしてたが(とは言え早朝訓練の半分は一緒だったけど。ランニングも一緒に走るようになった)、箒が俺たちと参加しだすとゾロゾロ集まった。乙女の努力は大変だ。箒が参加しだしたのは、周りに危機感を持ったからだろう。

話を変えるけど、世界各国から軍は無くならない。なぜか?他の国が攻撃してくるかもしれないから。だから他の国の軍事費が上がったらこっちも上げるのが普通だし、下げたらこっちも同様に下げる。でも上がり続けたら、最後には破滅だ。そうしないように世界各国が足並み揃えて軍縮するわけだ。

彼女たちもどんどんどんどん気付いたら既に泥沼!みたいにならないように気を使っている。一夏も四六時中女子といるのは辛かろうし。

一夏が毎日弁当爆撃されるのも可哀想なので、毎日一人交代で弁当を作ってる。これを七月弁当協定と言う。締結は臨海学校から帰ってきて一週間後だっけな。ラウラ以外もろ被りをしたから。ちなみに、今日はラウラが当番だ。

「ラウラって弁当作れるのかな」

シャルが心配そうにしている。

「大丈夫、俺が教えといた」

軍人っ子にありがちな事を想定しておいたので問題なし。

他の奴らに負けたくない!と言ってきたので断れる訳無かった。断る必要はどこにも無かった。当然だよね!

蛇を焼けるぞ!と笑顔で言って来たので頭をよしよし撫でてから料理本を読み込ませ、可愛いウサギのエプロンを着せてクッキングしたから。いやぁ、可愛いな。とか思い返してるとジト目で見られた。シャルにだ。

「ラ、ラウラは可愛いから仕方ないし」

そう言うと余計ジトッとした眼で睨んできた。当然だよな、こんな発言すれば。

「もう……あっ、じゃあ僕は弁当を作ってくるね」

「いつもありがとな」

「おいしく食べてくれて僕も嬉しいよ。じゃあ、また後で」

それを見送った後、鈴を振り向く。

「相変わらず、ラウラには甘いわね」

鈴もジト目だった。

「手間のかかる子ほど可愛いって言うだろう?」

「全く、希は」

「ヘイヘイ」

 

 

 

 

 朝食時。それぞれ食器を取って食堂に集まった。

 「ヘイ」

「はい、箸ね」

「ありがとな。これ、水な」

「ありがとね」

鈴と隣の席に座る。俺の目の前に一夏の隣に箒とセシリア。シャルはまだいない。ちなみに、鈴はいつも一夏の隣に座るわけでない。一夏の隣が空席でもそれなりの頻度で俺の隣にも来る。

「よっす」

「おう。早朝ランニングは疲れるな」

「まあな。ほれ、お手拭」

「ありがと。はい、醤油」

何と朝から豪勢に刺身もある。俺の金をかけるべき所は食費だ。問題ない。

「あっ、マグロもらっていい?」

「ああ、いいぞ。そのかわりその肉くれ」

「いいわよ。はい、交換ね」

箸で鈴の肉を貰う。鈴は醤油にマグロを浸して食べた。

「やっぱ刺身はいいわね」

「和食の極みの一つだな」

そして水を一気に飲み干す。このごろ朝が辛いから水を多く摂取しないと。今まで以上に訓練に打ち込んでるからきつい。もう一杯欲しいなと思ってるとすぐに水が注がれた。

「はい、おかわりね」

「ありがとな。それで、一夏。今日はどこのアリーナが開いてるっけ?」

「第三だったと思うぞ。近接戦闘だっけ?」

「ああ、それ頼む。箒も頼むわ」

「無論だ。二刀流を学びたいのだな?」

「一刀流のが使いやすいとか威力が強いってのがあるけど、俺の装備なら片手で使っても一刀流と同程度の威力が出せるからな。このごろやっと機体制御になれてきたから剣に手が出せる」

前までは慌てすぎてた。だからまず機体制御を覚える事にした。使い方間違えると危ないしね。

普通は片手で持った剣で両手で持った剣を防ぐ事は不可能だ。片手で振り下ろした剣は両手で受け止めることは結構簡単だ。ただし、俺のあの武装は違う。火薬で推進するから威力は両手で剣を振り回すのと同程度、もしくはそれ以上の威力が出る。さらに機体の推進を最大限に活かせばパイルバンカーを連射してるのと同じぐらいの威力も出せる。箒の二刀流とは勝手は違うにしても学べる点は多い。

「分かった。それと、ずっと前から気になってたのだが……二人は本当に仲がいいな」

「「えっ、誰が」」

俺と鈴が首をかしげる。箒はため息をついて

「お前たちだ。先ほどのように作業を分担したりしながらしっかり連携を取っている「あっ、ご飯付いてるわよ」「ああ、すまん」それもだ。普通取った米粒を食べないと思うのだが」

んー、よくよく考えるとそうだな。

「ねぇ、希!ご飯粒つけて!」

隣でシャルが無茶な事を言う。

「みっともないから嫌だ。ほら、鈴。スカート乱れてるぞ」

「朝から運動したからだるいのよ。まあ、確かに仲が良くないとは言えないけど、それがどうかしたの?」

仲が悪い事が問題になるのは当然だけど、仲がいいのは問題になるとは思えない。でもセシリアが

「あまりに男女とかを気にしていないような気がしますわ」

「やめてよ、気になってくるでしょ?」

舌の置く位置みんなどうしてる!?気にしちゃ駄目だよね!そういうこと。

「気になるから止めてくれ。さあ、早く食べよう。織斑先生が待ってる」

 

 

 

 

 「うりゃあ!」

力をため、バスケットボールを一気に投げ飛ばす。そのときには既に鈴が走ってパスを上手く取り、敵のガード一人を抜きさってそのままゴール。

「ナイス!」

「あんたもね」

体育は1組、2組合同だ。敵側の一夏は

「まだだ!」

「だよね」

個人技では一夏には及ばないが、突っ込んでくる一夏をサイドにずらしてそこをもう一人が突撃などの戦法で封じたりする。もしくは裏から鈴がこっそりやってきて奪い去るとか。俺のポジションは専ら自陣の防衛。ちょっと前衛に出るセンターって所。俺は一夏のようにバスケ部員でもないのに足元を走りながらボールくぐらせたりは出来ないので、ひたすら邪魔をしてまわりに比べて高い身長を活かしてゴール下を守るって戦法だ。相手の邪魔をするのはボールを運ぶのに比べ技術は低くてすむから。それに、

「リバウンド!」

ボールをゲットし、そのままためて一気に投射。ハンドボール投げは学年どころか全校一位だ。僅かのためで一気に持っていける。そしてそれを鈴が受け取って敵のガードにはばまれながらもシュートした。投げた時に入ると思った。

「ナイシュー」

ぱちぱち拍手をする。駆け寄ってきた鈴とパチンと手を合わせる。俺はバランス型だけど、正直言って役割別に分担して特化した方が強いチームが出来ると信じてる。軍隊がそれを証明してる。それぞれの特化を合わせる方が普通は強いって。鈴は小回りが利いてボール扱いも上手いのでアタッカーだ。こうした役割分担に文句を言わずやってくれるのでありがたい。

「さっすが、やるわね」

「お前らみたいにボールをくぐらせれないんでね」

鈴ももちろんボールを足元くぐらせたり出来る。でも、それはそれ、これはこれ。役割を分担して最善を尽くせば大体勝てる。役割論理最強。ポケモンやったことないけど。

俺の特技は相手の位置を把握してのパスカットやパスの邪魔。長距離から近距離までの正確なパス。そして強い相手をゴール付近でマーキング。まさに

「一夏、やらせはせんぞ!」

「相変わらず厄介だな!」

ガンガン攻めてきてシュートを決めようとするこいつを相手にすること。

「ただでさえ厄介なのに、鈴と組まれると本当に厄介だな!」

「まあね!」

鈴と一夏が組んでも厄介だけどな!一夏がボールを持って、シュートしようとする。それを立ちはばかって手を上に伸ばす。それでも一夏は撃った。入ると思った。が、

「あれ!?入ると思ったのに!?」

一夏が叫んだ。惜しくも外れた。

まあ、バスケ部じゃなかったししかたないよね。上手いけど。

 

 

 

 「やっぱ楽しみだよな。昼は」

食事と言う物は素晴らしい。本当に素晴らしい。今日は更に素晴らしい。なぜかって?

「兄よ、あーん」

Fantastic!Elegant!!今なら英語で100点取れそう!錯覚だけどね!!シャルと鈴の冷たい視線も気にならない!義理の妹がお弁当を作ってきてくれてアーンさせてくれてる。一夏より先ね!

「美味いよ」

「うむ、私が作ったからな!」

ああ、和むわ。

「俺、今感動してる……ラウラがこんなに大きくなって」

「まだ出会って二ヶ月でしょ!」

シャルがピシッと言ってきた。

「……まあ、真面目に話をするとそうなるのか。でも、ラウラは変わったな。本当に、普通の十五歳になってきた」

皆と笑いあって、好きな人のために料理を作り、運動するのが好きな。……銃をブッパしてるけどね。けど、そうなんだな。

「言い忘れていたが、少し違うのだ」

ラウラが忘れてた、というような表情をした。

「えっ?違うのか?」

一夏も驚いたようだ。俺も驚いた。

「確かに体は十五歳なのだが、試験管では六歳の体まで育てられた」

ああ、なるほど。確かに0歳で試験管から出して軍人達が哺乳瓶でミルクを与えてあやしたりする姿はアホの極みだ。六歳ぐらいまで育てて教育した方がいいだろう。とは言え、急速な成長は体に悪影響だと思うが。試験管の中なら羊水とかより育ちやすくなるのか?

「試験管の中で一年間と、外に出てから九年だな」

ああ、なるほど。一年かければそれなりに負担も減る……のか?んー、ISが出てきて以来凄まじい速度で科学が進歩してるしな。でもIS登場は10年前でピッタリ同じ時期だけど。ISの登場時期から科学が発展してる、のか。……束博士?さすがに憶測か。

「だから実際には十歳なのだ」

へー、なるほどね。道理で純粋なわけだ。……おい、ちょっと待て。あの時、あの日、俺は、ラウラに何をした。六月の終わりごろ。ラウラが添い寝をしてくれと言ってきた日。

あの日、俺はラウラに裸Tシャツをさせて、そう、外見十五歳?中身十歳のちぐはぐ幼女に裸Tシャツをさせて、本当の妹じゃないのにおにいちゃん呼ばわりさせて、ベッドに一緒にもぐりこんだだと……ッ!?

あの時、あの時がまさに俺の絶頂期だったの__

「いってええ!」

かっ!!と思ったら両足に鋭い痛みが走った。慌てて両方を見るとシャルと鈴が笑顔で足を踏み抜いていた。

「ねえ、今はご飯だからね?」

「そうよ、希」

「え、あ、はい。すいません」

凄まじい圧力だった。ラウラにあーんされてる一夏を見てぶん殴りたくなった。

 

 

 

 

 「ねー、そこの漫画とってー」

「あいよ」

夜、全ての訓練を終えてほっと一息俺たちの部屋でそれぞれがくつろいでいた。とくに鈴なんか俺のベッドを占領してぐてーっとなってる。全く、一夏がいるのにそんなだらしない姿見せるなや。そんな事をしているとベッドに座っていたシャルが

「本当に二人は仲がいいね」

ちょっとじーっと睨みながら?言ってきた。やーだなー、鈴とはそういう関係じゃないよ。昔はちょっとね。

「長い付き合いだからよ。もう三年も前なのよね」

「だなぁ」

「それでも、本当に仲がよいと思いますわ」

んー、やっぱそう見えるのかな。否定する要素が無いし。仲良くやれてると思ってる。

 

だが、次の日事は起こった。

 

 

 

 

 「おはよう……どうした?」

「別に!何でもないわよ!」

いつも俺に対してはそれなりに平和的な鈴がつっつけどんだった。あれー、俺何かしたっけ?髪の毛を逆立てる方法教えて欲しいなー。どうやってるのソレ?一夏が俺に耳打ちして

「鈴の事、胸が小さいとか言ったり着替え中に覗いたりとかしたのか?」

そのまま弁当を作りに去っていった鈴を見送りながら、一夏にコブラツイストをかけつつ昨日の事を振り返る。昨日は漫画を読み終わった後、適当な時間になったからそのまま皆で解散した。それまで平和的だったのになぜだ?となると、それより以前の事が何かしら伝わった?んー、聞いた方が早いけど、あの状態の鈴はどうして?と言っても答えてはくれないし。それならこんな事にはなってない。当然である。

「ちょっ!ギブギブッ!ギブアップ!!」

「へい。それで、何か心当たりは?」

「希が知らないなら俺が知ってるわけないな」

そんな自信満々で言われても。こいつは本当に役に立たない時は役に立たない。

「おい、言い過ぎじゃないか?」

心読めるならもう少し役に立ってくれよ。

「となると、他の奴らから聞くしかないか」

本人に聞いて駄目なら周りからだ。基本の戦術である。

 

 

 

「えっ?鈴さんが怒ってるですって?一夏さん!また変な事を!!」

 

「何?鈴が怒ってるだと?一夏!貴様、また何かしたのか!!」

 

「鈴が怒ったの?全くもう、一夏ったら。少しは女心を分かって上げようね。その……希みたいに、ね」

 

 「何だ……すっげえ納得いかねえ……」

「当然の結果だろ」

横で一夏がうめいてた。とは言え、ちゃんと解決に付き合おうって心意気はやっぱりありがたい。こういったところはやっぱモテる所だよな。ここでじゃあさいならする奴じゃないから。ここでさいならするような奴なら俺はあの時、鈴を怒らせた時助けはしなかっただろう。

誰かを怒らせるには相手の図星をつくとかその人にとって大切な相手かどうかが重要だ。どうでもいい他人にお前はバカ!とか言われても傷つくわけ無い。何百人に言われたらどうだか知らんけど。でも、信頼度が高い相手に見損なったぞみたいなことを言われると当然傷つく。好きな相手に、つまり一夏に俺たち一生友達だよな!とか言われたら彼女らは立ち直れないだろう。表面上は明るくあ、当たり前じゃない!とか言いながらも裏では泣く、絶対に。その後始末は多分俺がすることになるが、仕方ない。割り切れる。

だから俺たちレベルで関係を結んでる相手の暴言じゃないと鈴は傷つかない。そして、俺は鈴に一線を越える暴言を吐いたことは無いと信じたい。基本的に友達の間ではその本人の前で悪口を言うのが俺の主義。先生の悪口は友達の間で言うのが主義。で、鈴が怒りそうなキーワード、貧乳を一夏との間で使った事は無い。というか使う状況ってヤバ過ぎる。本人の前で軽口で使いそうだったのはあるけど、いつも一線は守ってる。

よって俺は詰んだ。何が原因か分からなくなった。自慢の頭脳も情報がなければ役に立たない。極論すれば世界一の料理人を連れてきても材料が無ければ料理を作れないのと一緒だ。ただ、シャルが最後に希望を与えてくれてた。

「そう言えば昨日、ラウラと話した後に不機嫌になってたような」

らしい。ラウラ自身は機嫌の変化は無かったそうだ。そこでだ。授業も全て終わり、特訓も終わり夜もそこそこの時間。シャルとラウラの部屋に転がり込んでいた。

「なあ、ラウラ。昨日鈴と何話したか覚えてるか?」

「昨日?む、そうだな……あの日の事だ。福音に挑んだ日のこと」

「あー、アレね。……忘れられないな」

あの日は絶対に忘れない。忘れちゃいけない。あの時の想いをしたくないから、今さらに努力してる。ISを使って楽しみたいだとかの理由じゃなく、あの時みたいになりたくないから今、努力してる。

「で、どんな事を?」

「その、だな……あの時、兄はシャルロットを傷つけたと言っただろう?俺たちの問題だとも」

「ああ、言ったな」

あの時は誰にも相談できない問題だ。俺が解決しないといけない事だったんだ。出来たかどうかは別として。

「でもどうしてそんな話になった?」

あの日の事はあまりぶり返したくない事だろうけど。俺は今でも毎日思い出すが。

「むう……そうだ。鈴が言ってた。『いつも希に相談してもらってるけど、頼りすぎちゃダメよ。アレでも中学校の時負担になってたから。……私が言うのもどうかと思うけど』と言ってきたから私も兄の相談に乗ってるぞ。シャルとの事もだと言った」

「まー、確かに相談に乗ってもらってるけど」

シャルと同室のラウラはちょくちょく相談に乗ってもらってる。シャルの好きそうな物とかそうした奴。いやね?その、プレゼントとかする必要があるかもしれないし?

「それで福音の日の事を話したら、そのときに不機嫌になったと思うぞ」

「そうか。うん、ありがとな」

収穫、全く分からん。こうなったらしかない、最終兵器DOGEZAでも使うか。女の武器が涙なら男はDOGEZAだ。DOGEZAならなんだってやれる。これを覆す最終奥義はHRAKIRIかSEPPUKUしかないので困る。

「なあ、希」

「何?」

今DOGEZAの型をどれにするか迷ってる最中なんだけど。

「あの日って鈴もお前の事気にかけてたよな?」

「ああ、そうだな」

「それだよ!それ!」

「つまり、どういうことだってばよ?」

何が何だか分からん。でも一夏は笑って言った。

「大丈夫!さあ、鈴に会いに行くぞ!」

「えっ、ちょっ、まっ」

手を引っ張られて「あっ、希いたの?ってすぐ行っちゃうの!?」出て行った。

 

 

 

 「何よ?屋上になんて呼び出して」

怒りながらも鈴は屋上に来てくれた。七月も中盤を過ぎてる。日差しは無いけれども、ジメジメとした感覚が俺たちを襲ってる。

「鈴、まあ気持ちは分かるぞ」

そしてしゃべってるのは俺じゃなくて一夏である。

「一体何が分かるっての?」

「そりゃ、出会って一ヶ月程度してない相手のが自分より信頼されてたらいじけるよな」

一夏がそう言うと、鈴は顔を真っ赤にした。って、えっ?

「なっ、何が私が希に信頼されてないよ!!」

……ああ、なるほど。そういうことか。あーあ、悪い事しちゃったなぁ。

「べっ、別にラウラにはシャルロットの事を話したのに、アタシに対しては何も言わなかったのが悔しかったとかそういうのじゃないわよ!!」

鈴はちょっと涙ぐんでいた。俺は黙って近づいて頭を撫でた。

「なっ、何するのよ!」

「ごめんな。別にラウラの方を信頼してたってわけじゃないんだ。ただな、見栄を張りたかっただけだ。鈴にはな」

「……バカ」

しばらく撫でた後、手を離した。そして海のほうを見ながら話した。

「あのさ、俺はずっと立派だっただろ?一夏の事もぱぱっと解決してさ。それなのに、シャルに対してみっともない事をした自分を見せたくなかったんだ」

そう、単純な理由。でも鈴は納得して無いようで、ゴシゴシ涙をぬぐいながら

「ラウラに対しても同じじゃないの?」

……んー、まあいっか。ばらしちゃっても。

「あのさ、俺、鈴の事が好きだったんだ。異性として」

そう言うと空気が固まった。と思ったらガタンとどっかで音が大きく響いた。ラウラの大丈夫か!?と言う声も階段あたりから。目の前にいる一夏が訳の分からない顔をして、鈴は顔を真っ赤にして

「えっ!そっ、その!?そりゃ嬉しいけど!すっごく嬉しいけど!!アタシには一夏がいるし!?アンタもシャルロットがいるでしょ!?だから、その!!」

その慌てふためっぷりが可愛くて、面白くて俺は笑った。

「落ち着け。だったって言っただろ?今は違うよ。あの時さ、好きだったんだよ。まあね、そりゃ料理も出来て良く笑って、元気で可愛くて。でもさ、あるバカがいたからな。無理だって分かった。それでも、付き合えないと分かってもみっともない姿を見せたくなかった。それの名残かな?そんな所」

淡い恋心みたいなものだった。

「あー、なるほど。お前って鈴が中国行ったとき悲しんでたよな」

「うっせ。まあ、中学二年も終わりの頃には恋愛感情は吹き飛んでたけど、それでも、みっともない姿は見せたくなかった。そういう事」

「……全く、意地っ張りなんだから。希はいつでも」

鈴は顔を紅潮させながらも笑っていた。

「男は意地を通してナンボだよ」

「それで、今はどういう風に思ってるの?」

よし、ここでギャグを決めよう!明日に引き摺らないように。

「妹だよ!すっごく可愛い妹だよ!!お兄ちゃんと呼んで欲しいね!!そう、こう、手を胸あたりでぎゅっとしながら__」

直後、俺の死を復帰したあの時から明確になった直感が叫んだ。横にドバッと転がり込む。俺がいた空間を何かが通り抜けていった。飛んできた方角をみる。ラウラが視界の隅にいた。すっごく怖がっていた。そして視界のど真ん中に、ラファールを装備したシャルが。

「希、ラウラだけで妹はいっぱいだと思うよ?あとね、鈴が好きだったってことは別にかまわないよ?これは言っておくね」

あれー、まさかさっきのラウラの大丈夫か発言は一緒にいたシャルに対してですか。そりゃね、良く考えたらあの状況で屋上に出てきたからシャル付いてくるよね。

「あ、あのですね。ちょっとは鈴の事を妹と思ってますが。今のはギャグっぽくいってこの場を和ませて明日に引き摺らないようにしたかっただけなんです。はい」

「へー、そうなんだ」

シャルは一歩ずつ近づいてきた。俺は仕方なく、こう言うんだ。

「おっ、俺は無実だ!」

「うん、今回はそれ絶対無理」

俺の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 「うー、酷い目に合った」

散々追い回された後にシャルと仲良く千冬さんと説教を受けた。しかもその後に「見境が無さ過ぎるよ」「人類皆兄弟じゃなくて姉妹って言いたいの?」「妹萌えが過ぎるよ」とかネチネチ文句を言ってきた。そんなところも可愛かったけどね。でも、睡眠不足は仕方なかった。昨日の疲れの為、七時に起きる羽目になったがどうにか問題無さそうだ。食堂の途中でばったりと鈴に出会った。

「おっす。昨日のは冗談だ」

でも、鈴はぷるぷる震えてたかと思うと、すっと俺に距離を詰めて俺のネクタイをきゅっと縛った。

「ネ、ネクタイが曲がってるわよ!希おにぃ!」

顔を真っ赤にぷるぷるさせながらやる鈴が可愛くて、面白くて、すっごく笑った。

 

すぐに蹴りを入れられた。しかもそれ以降は普通に希。

 

 

 

俺はあの時みたいに命を賭けた戦いが好きな人間だ。シャルが傷ついてしまったけど、あのときの感覚は、感情は否定できない。でも、こうした日常もあるからこそあの時も輝く。

この時間を守れるように、力をつけないとな。




普通デキる美少女と仲良くしてたら惚れますよね!とは言え希の恋心は消え去っていましたが
現時点では希と鈴は異性を殆どと言っていいほど気にしていません。兄妹に近いような、親友に近いような、そんな微妙なラインです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。