IS学園で非日常   作:和希

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予約投稿忘れてました。と言うわけで今投下


三十六話 二人の帰還

 「それじゃ、明日の朝ぐらいに帰ってくるんだな?」

『うん。待ち合わせ場所は夜に決めよ』

「分かった。じゃあ気を付けて」

『希もあまり無理しちゃだめだからね』

「大丈夫。じゃ、お休み」

『行ってらっしゃい』

 

シャルは今から寝る時間なのに、俺は今から活動してく時間。そんなことを少し不思議に思いながらも俺は覚醒した頭でやるべき事を組み立ててく。まあ、殆どは訓練だけど。あー、そうだ。レポートの提出もしないといけないな。

服を着替えつつ、鏡を見て変なところがないか確かめる。ちなみに、寝癖はオシャレと言うことにして気にしない。

 

「うし、行くか」

 

 

 

 

 「あっ、希。お前は昨日言ってたレポートか?」

 

うだるような暑さの廊下を歩いていると一夏と遭遇した。にしてもこいつは涼しい顔してるな。まぁ、なるべく節約するために普段は冷房使ってなかったし。耐性は強い。

 

「その通り。ちゃっちゃっと終わらせて訓練しないと」

「前みたいになるなよ」

「分かってる……ん?」

 

ちょうど目の前に鈴が現れた。そして

 

「い、い、一夏!?希!?なんでアンタらここにいんのよ!部屋じゃないの!?」

 

ふーん、この慌てぶり、何か考えてたな。一夏の事を。

 

「いや、レポートの提出忘れてたから」

「俺は違うレポート。キッチリ期限を守ってる。……それ、チケットか」

 

ギクッとなった鈴を置いといてそのチケットの場所を思い出す。あー、そういや有名な奴だったな。ウォーターワールド。

 

「鈴、俺たちの部屋で待ってろ。ちょっとすぐにレポート提出してくるから」

「えっ、ちょっ!?」

 

さっさと一夏を引き連れてレポートを提出し、部屋に戻ってきた。すると借りてきた猫のようにおとなしくして……なかった。テーブルの上に置いてあった本を凝視していた。鈴は現在読みたいけど、そりゃちょっといけないよねみたいな気持ちをしてると思う。遅くなって反応をして

 

「記念写真ってまだ続けてたの?」

「ん?まあな。でもここ数年は千冬がいなかったから。鈴が映ってるのは、俺たちと弾の四人で撮った奴。中二の時の、鈴が引っ越す直前くらいのやつ」

 

ちなみに、それからも俺たち弾含め三人で何枚か撮ってる。だから鈴が映ってるのはそれが最後。

 

「なんとなくはね」

「俺はしっかり覚えてるけどな」

 

忘れない。淡い片思いも消えて見守るポジションをしてた時。それでも悲しかったあの時。

 

「しかし、よくわかんないわね。これって千冬さんがはじめてやつなんでしょ?」

「あー、それは確かに俺も思った。理由聞いてなかったな。こんなのに千冬さんはこだわらないはずだけどな」

 

あの人なら人とのつながり、残したいと思った時は自分の心の中に留めるものだとか言いそうだけど。

 

「ちょっと言い過ぎじゃない?」

 

だから止めてくれません?心読むの。

 

「んー、このごろ分かりやすくなった気がするわよ。福音の後ぐらいから。ピンッ、て伝わるような」

「しょうがないから諦めるわ。それで、一夏は理由知ってるか?」

「たぶん、俺と二人だけじゃないのが重要なんだよ。過去にそばに誰がいたかちゃんと覚えておけって前に言ってた。ほれ、お茶。ちゃんと冷えてやつ」

「「ありがと」」

 

それにしても、他人のアルバムほど時間をつぶせる写真はあるだろうか、いやありはしない(反語)。

 

「見ていいか?」

「お前のも今度見せろよ」

「あったらな」

 

そう言ってからページをめくる。あー、小さいころからイケメンだな。中学生ぐらいの千冬さんと、あと千冬小学校低学年ぐらいの一夏が映ってる。ちなみに、このころから千冬さんは何か凄い。こう、武人だ。それより気になったのが、両親が映ってないこと。両親と撮った写真がないのか、千冬さんが燃やしたもとい捨てたか。

 

「それは小学校一年のやつだな」

「あれ?これが一番最初なの?」

「ん、まあな。そういや、これより前のはないなぁ」

 

ああ、そっか。俺は整理を見てたからこれが最初だって知ってたから、これより前があると思ったのか。

 

「まあ、昔の事はいいだろ」

 

そう言って写真を見ながら笑ったり、(主に一夏が)懐かしんで時間はつぶれてく。

 

 

 

そうしてしばらく経った。それでアルバムが終わった。

 

「それにしても、ほかの人のアルバムほど時間つぶせるものはないわね」

「同感だ」

「見られる方は恥ずかしいぞ、結構。お前らも今度見せろよ!」

「へいへい」

「わ、わかってるわよ!」

 

鈴は嬉しい半分恥ずかしい半分ってところか。まあ、想定通りアルバムを見せ合う形に進んだ。この頃鈴が相談してこないから、ちょっとした手助け。と思ったけど、まさかこれ鈴が自分で事を運んだのか?成長したな。前ラウラに忠告したことを実践してるようで感心だけどね、でもやっぱり寂しいような。

 

「さて、それよりさ。いくら何でも夏休みを訓練だけでつぶすのもどうかと思うんだ。どっか行きたくないか?」

「うーん、そりゃ言われるとどっか行きたくなるなぁ」

 

そう言って鈴に目配せする。

 

「ったく、しょうがないわねぇ。このあたしが融通利かせてあげるよ」

「どうせ金取るんだろ?」

 

いつも鈴は金をとってる。前に聞いた所、まあ色々あったらしい。

 

「あったり前でしょ。あのねぇ、遊び場を都合してもらって金も払わないってどんな図々しさよ。まったく」

 

表面上はかなりいつも通り。でも、かなり内心無理をしてるのだろう。と言うか今こいつ落ち込んだ。考え込みすぎだ。で、落ち込んだ表情を引っ込めると同時にチケットを四枚出した。……四枚?

 

「どうして?」

「二枚はあんたに売りつけようと思ったのよ。別に、他に行こうと思ってるなら他の人に売るから気にしないでもいいわよ」

 

よし!今日はお前の味方だぜ!とは言え、あんな不特定多数がいる所にシャルと行きたくはあまりないなぁ。一人でならまだいいけど。一応、色々と考えてるんだけど。

 

「すまん、二枚は遠慮しとくわ」

「いいって言ったでしょ。別に」

「でっ、いつ行くんだ?」

「い、行くの?」

 

普通に考えたらおかしいってレベルじゃない。チケットを見せびらかして行くの?と聞いたら見せびらかした奴が行くの?って言い返す。お前行く気ないのかよって突っ込みがはいる所。実際一夏に突っ込まれた。

 

「まっ、一夏を誘うなんてあたしたちくらいなもんよね。感謝しなさいよ」

 

実際には四人……五人。本命でこれだけいるし、不特定多数がさらにいる。俺こそ誘ってくれるのが殆どいない。別に構わんのだけど。

 

「で、いくらだよ?」

「二千五百円」

「……高くないか?」

「ヤならいいのよ?別に、一夏以外にも買い手はいるし」

 

 

しっかり準備を整えるようになったんだな。自分で予約したに違いない。しかも俺のためにってのも考えると泣けてくる。

 

「分かった。それで、いつぐらいまで使えるんだ?」

「四日以内なら問題ないわよ」

「じゃあ、明日にでも行くか。金曜日だし、土日に比べれば人も少ないだろ。プールならそこまで準備いらないよな?」

「分かったわ」

「そうだ、希は行くのか?」

 

さて、どう答えようか。鈴の邪魔をしないためにやめとくのが正解。と言うか、泳ぐのは好きだけど人ごみの中やるほどじゃないし。となると、断り方か。

 

「いや、俺は止めとく。明日シャルが帰ってくるから」

「なら、明後日にプールをずらしてもいいぞ」

 

なんてしつこい野郎なんだ。おとなしく美少女と二人きりで遊べるというのに何で親友とは言え呼ぶのか。こいつは。んー、いい理由ないな。最初から昼に毎日企業の人が来るって言って置けばよかった。今更言ったら取ってつけた感が出るし。こりゃドタキャン作戦で行くか。

 

「分かった。二枚買うよ。明後日な、途中で用事が入らなけりゃ行くよ」

「分かったわ。はい、二枚」

 

鈴も察したようで普通に売った。

 

「でも、どうして二枚なんだ?あ、そうか。シャルロットの……いや、さっき断ってたし」

「別に。ただ欲しそうなやつがいたら三千円で売り飛ばすだけ」

「金に困ってないのに……」

「人脈づくりみたいなもんだって」

 

五千円札を出して二枚買った。

 

 

 

そして、この事を俺はすさまじく後悔した。

 

 

次の日

--職員室--

 

「ふう、やっと一段落つきました……あれ、この書類……まずい、これはまずいですよ……」

 

 

 

 IS学園の正面ゲート前。俺はもうすぐ来るはずのシャルを待つために日陰で待っていた。もうすぐである、一週間、凄まじく長かった。と、そんな時、遠くから車が見えた。あのロールス・ロイス、間違いない。セシリアだ。車が止まると同時に俺は近寄った。そして、セシリアは俺を見ると満面の笑みで俺に駆け寄ってきた。しかも俺の手を両手で取って

 

「希さん!どうもありがとうございます!希さんのおかげで分かりました。お父様は、お父様は立派なお人でした!」

「おめでとう。ただ、アドバイスしただけさ。それより、少し落ち着いて」

 

感謝されて嬉しいけど、そんな手を握りしめながら詰められてもちょっと嬉しいような恥ずかしいような。一夏もいるし悪い気がしてくるからね。

 

「そうですよ、お嬢様」

 

車のドアから出てきた人を見る。何と言うか、一言でいえばメイド。でも二言で言い表すことはできない。そう、メイドだ。

 

「それでは、お荷物の方は私どもがお部屋まで運んでおきますので。それでは、織斑様、お嬢様の事をよろしくお願いします」

 

……ファッ!?

 

「勘違いされているようですが、自分は清水希と言います」

「あっ、どうもお恥ずかしいです。確かに、想い人に迫るようではありませんでしたわね。少し勘違いを。確かにお名前が違うような気がしました」

 

さっきのアクションから俺の事を一夏と勘違いしたのか。いや、それよりも。

 

「いえ、別に構いません。それにしても……本当にメイドさんっているんですね。しかも、ミニスカだとかバイトだとかそんなもんじゃなくて、本当のメイドさんが」

「はい、見習いを含めればもうすぐ十年になります」

 

凄まじく、感激した。

 

「すいません、握手を」

「はい。どうぞ」

 

握手をすると、ああ、確かに仕事人の手……いや、よくわからん。

 

「感激です」

「えっと、お嬢様。この人があの、お嬢様の悩み所か他のどんな人の悩みも一瞬で解消してゆく清水様ですか?」

「はい、そうですわ!今回のお父様の事も、希さんのアドバイスです。確かに少し変なところもありますけど、頭脳明晰で、どんな悩みも解決してくれる頼れる男性ですわ」

 

あれ?言い過ぎじゃない?お父さんの事効きすぎた?21世紀の猫型ロボット並に頼りにされても困るよ?ひとまず、ちょっとメイドさんに引き気味なことをしすぎたのでここで体勢をたて直す。

 

「では、改めて自己紹介を。自分の名前は清水希。セシリアさんの学友の一人です。いつも世話かけられてますが、その分ISの狙撃訓練のコーチでお世話になってます。これからも良き友人として交友を続けたいと思います」

「そうでした。お初にお目にかかります。セシリア様にお仕えするメイドで、チェルシー・ブランケットと申します。以後、お見知りおきを」

 

今度は、向こうから手を差し出してきた。一瞬ギュッとつかみ手を放す。

 

「それでは、お荷物を」

 

そう言って去っていこうとしたとき、背中に悪寒が走る。

 

「へぇー、僕が帰ってきたのに。希は年上の綺麗なメイドさんといちゃついてるんだ。へー」

 

いつの間にかバス停から現れたシャルが、平坦な声で。

 

「い、いやだなぁ。社交辞令だよ。世話かけられてるし、お世話になってるし。セシリアには」

「じゃあ、その前は?遠くから見てたけど、メイドさんに感激しすぎだと思うんだ」

「そ、それは仕方ない。うん」

 

いつの間にかチェルシーさんは消えていた。セシリアは逃げるタイミングを失ってこの場にとどまってる。

 

「どうしてかな?どうして仕方ないのかな?」

 

あとは野となれ山となれだった。

 

「メイドってのはロマンあふれてるからね!」

 

そう言うと、時が止まった。緊迫したその場の空気。でも、最終的にシャルはため息をついて

 

「あんまり怒ってないよ。分かってたから。それでも……もう、バカ」

「ごめん。それより……お帰り」

「うん、ただいま」

 

にっこりと、いつもの見る人を安心させる笑みだった。

 

「じゃあ、荷物を持つよ」

「お願い」

大きなトランクを引き受ける。ちょうどセシリアもふぅっと一息をついた。

自然とただいまと言えた。この場所で。そう、ここがシャルの帰ってくる場所なんだ。そう実感する。と、そこに。チェルシーさんが登場してきた。

 

「あれ、荷物を置きに行ったのでは?」

「はい、実は一つ確認しておくことを恥ずかしながら失念しておりまして、戻ってまいりました」

「そ、そう。それで、確認とは?」

 

チェルシーさんはセシリアに耳打ちをする。セシリアは顔を真っ赤にした。そしてシャルと二人は普通に自己紹介をしあった。

 

「では、これで」

 

荷物を運んで去って行った。ちょうど入れ替わりで一夏がやってきた。しかも、いいタイミングでチェルシーさんも乱入してきた。タイミング計ってたんだろうな。メイドってのは奥が深い。


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