IS学園で非日常   作:和希

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遅くなりました。一ヶ月に一回は更新したいです


三十九話 息抜き

 『ツッコミだけじゃないデース!半分は優しさで出来てまース!』

「あー、和むわー、あー」

女子に理不尽(?)な怒りをぶつけられてしばらく。今現在、今期話題沸騰中のゆるふわ日常系アニメを見ていた。あー、考えないですむアニメってのもいいもんだ。一クールごとに一本か二本あるのがいい。

「全く、私たちみたいな美少女がいるのに、何でアニメみてんだか」

「怒ってこないからね。理不尽な暴力にもさらされないからね。癒されるからね」

「私たちじゃ不足っての?」

ずらっとここの室内にいる女子達を見渡す。いつもの一夏ハーレム+シャルがいる。ちなみに、どうしてこのタイミングできんモザ見てるかって?あてつけだよ!したくもなるよ。漫画も全巻買ってきて俺の漫画棚におすすめ!って張り紙するぐらいにはあてつけてるよ!

「お前たちが癒し運んできてくれるなら考える」

「全く、よく思い出しなさいよ。私たちはちゃんと癒してあげてるじゃない」

コイツは記憶を創造する力でもあるのだろうか。そんな記憶は無いはずだ。

「お前はいつから記憶を創造する力を手に入れたの?面倒事を運んでくる記憶しかないよ。ラウラはすっごく癒してくれるけど」

「僕じゃ駄目なの?」

「あのね、いい意味でだけど、一番精神を削るのはシャルなんだけど」

面倒ごとは対処すればすむ。ただ、シャルだけはどうやって対処したらいいのか。いつも心臓をばくばく動かされっぱなしだ。シャルには。

「なら、どうしたら癒されるのかな?」

「何されても心臓が激しく動くよ」

一緒にいるだけでもそれなので。それに対してシャルは嬉しそうな顔をした。だから、こういうのが困るんだって!

「イチャイチャしないの。まあ、確かにそこそこ迷惑かけてる気がするけどね」

「自覚があるなら注意してくれな」

「だよな」

おい、テメェだよ、だよなーとか言いながらうんうん頷いてアホ面さらしてるテメェだよ一夏!

 

 

 

「なあ、シャルロット」

「なあに?」

「いつも私は兄に迷惑をかけている。そこでだが、ISのコーチ以外にもなにか恩返しをしたいのだが、シャルロットならなにかいい方法を知っているだろうと思ってたのだが」

(肩たたきでもしてあげれば喜ぶだろうけど、希がもっとシスコンになっちゃうよね。うーん、でも僕じゃ残念だけど駄目みたいだから。たまには息抜きさせてあげないと。それに息抜きしたら)

「あのね、ラウラ」

続きを言おうとしたときだった。

「それ、いいですわね」

「乗ったわ」

「私もだ 」

(あれ?もっと負担かけるだけにならないかな?これ。い、いや大丈夫。皆成長したし大丈夫!)

事態は膨れ上がって進みそうだった。

 

 

 

 

「疲れたー」

いつも通りハードな訓練を終えた夜、ばたんとベッドに倒れこんだ。一夏はどっか行ったようだった。今日の訓練を思い出しながら明日の予定を組み立てる。そんな気だるげながらも一息ついてるとき、ノックの音が響いた。この音はラウラだ。

「いいよー」

「お邪魔する」

見るといつもの格好、一夏に選んでもらったパジャマを着ていた。って言うかこれ以外を見たことがない。普段どうしているのか、このパジャマがないときは前みたいに裸で徘徊するのだろうか?とか考えながら見つめてると、ラウラがぎゅっと拳を握って

「その、兄よ。そのだな」

「一夏に関して……じゃなさそうだね。どうしたの?」

「兄は私に世話をかけてもらってると思ってるだろうが、私こそいつも兄に世話になりぱなっしだと思ってる。そこでだ、マッサージをたまにはしようと思って来たのだ」

「ら、ラウラ……ラウラァッ!!」

涙腺が緩んだ。完璧に油断してた。大切な妹からのお返しご褒美。しかもちょっと恥ずかしげに、でも視線を合わせての!ヒャッハァ!

「どっ、どうしたのだ!?」

「いや、ただ感謝、圧倒的感謝してただけだよ……じゃあ、頼もうかな」

「もちろんだ!」

見る人を明るくするような笑顔。その笑顔にさらに泣きそうになる。

「では兄よ、うつ伏せになってくれ」

「ん」

ベッドの上で俯きになる。そして添えられる小さな手の感触。あー、シャルの手よりまたちょっと小さいな。あー、心地いいな。背中をせっせ押してくれたり、腕を揉んでくれたり。

「どうだ?」

「いいよー、あー、いいよー」

小さいけど非力なわけじゃなく、小さいながらの力強さ。ぎゅっぎゅっぎゅと擬音が聞こえそう。っていうか頭の中で勝手に付けてる。ひそかにISでカメラ機能を発動しようか悩むぐらいにはいい感覚。二十分ぐらいだろうか。至福の時が続いた。そして

「ふぅっ、次は座ってくれるか?」

「もちろん」

次は椅子に移動する。すると今度は肩を揉んでくれたり叩いてくれたり。そして、思い出す昔の光景。……いや、中学校の時でもやってたけどね?母さんに肩もみとか。でも、それよりさらに前の小学生低学年ぐらいを思い出す。喜んでくれたな……あれよく覚えてないぞ?とか思いながらも、肩もみが昔から廃れない理由がわかった。これはいいものだ。この振動がじゃなくて、可愛い妹がやってくれてるという点が!

「あっ、兄よ!どうしたのだ!?なぜ泣いているのだ!?痛かったのか!?」

横から覗き込んできたラウラがうろたえた。

「えっ……あ、泣いてるのか」

気づかなかった。泣いているのか、俺は。別に家族に妹はいなかったんだけどな。

「ちょっと、家族のことを思い出してね。俺もこうやって母さんとかにやってたなって」

「そういえば、兄の家族のことはまったく聞いていないが、どうしたのだ?」

そっか、そういやあまり話してないな。シャルにもあまり話してないし。

「どうだろ、連絡取ってないし。連絡は出来るようだけど」

「なぜだ?なぜ連絡を取らないのだ」

「……分かんないや」

「そうか。……どんな人たちだったのか?兄の両親は」

そう言われると、分からないな。

「一般的な家庭だったよ。一戸建てに両親と俺の核家族。でも、改めて言われるとどうだったっけな。口にするとなると難しいな。これでも結構真面目だったからさ。朝練のために早起きしてさ、勝手にパンとか餅を食って出て行って。一夏たちと中学校でわいわいしながら部活やって。帰ってきたら三人でご飯食って。テレビを見ながら他愛もない話をして、ちょくちょく勉強はどうだとか聞いてきたりして……」

「兄よ……また」

また涙が流れたようだ。服で拭う。

「その後に風呂入ってね。学校で終わらせれなかった宿題を片付けて。父さんとFPSゲームして、柔道着を洗って干して。でも、今はどうなんだろうな……俺のせいだよなぁ……」

ぎゅっと、後ろから抱きつかれた。

「兄よ、私は家族を知らない。兄しか家族はいない。だから良く分からないが、辛いのだと思う。兄がいなくなったら私は辛いから。そして、辛いときは泣いてもいいと思うのだ」

「……大丈夫。死別したわけじゃない。それより、ありがとな、ラウラ。こんな立派な妹がいてくれて幸せだよ」

「私も、立派な兄がいてくてれ幸せだ」

ぎゅっとよりいっそう抱きしめてくれた。その小さな手に俺は自分のを重ねた。微かだけど、確かな温かさがここにあった。

 

 

 

 「いい話ですわ」

「全く、意地っ張りなんだから」

「希も普通の面があるのだな」

扉から聞き耳立てながらうんうん頷いていた。が、不穏な気配がした。

「希……僕には家族のことあまり話してくれなかったのに……ラウラのほうがいいの?妹のほうがいいの?はたから聞いてると許されない関係みたいだよ?」

いい話で終わるはずなのにと三人は思った。

「か、家族は家族のことでしか分からないこともありますわ!」

「希は僕を家族として見てないの?」

「ちょっと気が早すぎるのではないか?」

「た、多分弱いところを見せたくないだけよ!前アタシにそんな感じのこと言ってたし!」

「普通は僕にこそ吐くべきだよ、希は」

めんどくせー、三人はそう思った。希が絡んでいじけたときの面倒くささは圧倒的だ。一生懸命におだてたりしないと暗黒空間を作ったままになる。

「日本男児たる者そういうものだ。シャルロットはフランス生まれだから分かりにくいかもしれないが、日本ではそういった風に育つ。弱いところを見せず、立派であれと。だからシャルロットは希が倒れないように傍でじっと支えてやればいい。苦労を分かち合うように、悲しみを和らげるように。日本で育った私がそう保障しよう」

「……分かった。傍で希を支えれるように頑張るよ」

やっと立ち直ったことに安堵する。

「さて、じゃあ戻りましょ。じゃあ明日は私ね」

その一言で解散となった。

 

 

 

 「いや-、今日はすっげえ調子が良かった」

多分ラウラのおかげだろう。動きのキレが上がったというべきか、吹っ切れたというべきか。まあ負けたけどな。でも、いい動きになったといわれた。今日の感覚を思い出しながらベッドで寝転んでいるとノックが響いた。これは、鈴か。

「あいよー」

「邪魔するわ」

鈴がすっと入ってくる。んー、何だろうな。ぼーっと見つめてると、鈴はそっぽ向きながら

「その、今日も疲れたでしょ?マッサージしてあげるわ。今日は暇だし」

「んー、じゃあ頼む」

なるほど、なるほどな。発端は誰かな。多分、ラウラか。トップバッターだったし。となるとあと三人……いや、シャルは多分ないかな?

「ほら、さっさとうつ伏せになって」

「へーい」

シャルより小さいけど、ラウラよりちょっと大きい手。昨日のような温かさではないけど、元気が出てくるような気力をもらってる気がする。

「それで、このごろ調子はどう?」

「今日はラウラのマッサージのおかげで絶好調」

「マッサージだけじゃないでしょ。……あ」

つい口に滑らせたようだな、こいつ。

「聞いてたか、迂闊」

ISを起動。音声を拾おうとすると、慌てて四人分の去っていく足音がした。

「シャルはなんだって?」

「僕は家族じゃないの?とか僕にこそ弱みを見せるべきだよとか言ってたわ。アンタのこととなると面倒なぐらいイジケるわね」

「みっともない姿見せたくないだけなんだけどなぁ」

「家族を想って泣くのは悪いわけないじゃない。アタシもしたわよ」

「そう、か」

「そうよ。それと、やっぱり気付いてる?」

「二日連続じゃあねぇ。発端はラウラ?」

「相変わらずいい勘してるわ。兄として気分はどう?」

「妹の成長を見るってのはいいもんだ」

「アタシは成長した?」

「したよ。すっごくな。一年たったら変わるもんだ。一年前の俺に今の光景を見せても絶対信じないだろうな」

「でしょうね、男がIS乗れるだなんて。しかもアンタが」

「だな」

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。まあ、冒頭のこの出だし。どんなものでも移ろいゆくとかそんな意味だけど(多分)。まさにそうだな。人間三か月とか半年で細胞とか全部入れ替わるらしいし。

「これからも変わってくのよ。多分、シャルロットは家族になるのよ?」

それには何も答えれなかった。

 

 

 

「何しようかな」

土曜日の午後。食後の運動にIS動かした後、このごろ無理をしてたので今から休むことに決めた。 午後四時ごろ。すると、今日は二人でやってきた。

「あら、奇遇ですわね」

「奇遇だな」

「だな」

多分違うのだろうけど合わせるのが礼儀なので合わせた。セシリアがわざとらしそうに

「そうですわ、私、手作りのクッキーを作ったのですがどうでしょう?一緒にお茶をしませんか?」

「実は私も久しぶりに和菓子を作ってな、茶もある。一緒に食べないか」

 

 

 

珍しい組み合わせの三人で休憩所?みたいな場所に移動した。屋上に行こうかと思ったけど暑いので諦めた。

「どうですか?」

「うん、クッキーをも美味いし紅茶もうまい」

「私のはどうだ?」

「団子とかもうまいしお茶もうまい。いいねー」

適当に雑談をしながら時間が過ぎて行く。これこそ日常、そんな穏やかさだ。重い会話もなく、他愛ないことを話しながら外を眺め、時間が過ぎて行くのを感じる。授業でここが難しいとか、あの先生は厳しいとか。お前たち成長したなとか。そして、

「ありがとな。美味しかった。また呼んでくれ」

「はい、もちろんですわ」

「もちろんだとも」

さあ、解散となろうとしたけど、一つ思い出した。箒に聞いておくことを。

「なあ、箒。束博士を恨んでるのか?」

「突然なんだ」

「いいから」

「そうだな。よく分からん。昔はすごい姉だと思ってたし、今でも思ってる。でも、好きなのかは。気持ちが整理できてない。だが、恨んでいるのは間違いないと思う」

なるほど。

「一夏と離れることになったからか?」

慌てふためいて違うぞとか言いそうになったが、何かを察してくれたのか赤いながらも真面目な顔で

「そうだと思う。それに姉さんがISを開発しなけれ、いや、それは違うな。ISを開発してくれてここにいる皆と出会えた。でも、開発しなければとつい思ってしまう」

「そうか、分かった。ありがとな。また今度呼んでくれ」

 

 

 

「じゃあ寝るわ」

「分かった」

十時半、高校生にしては早いけど。でも仕方ない。疲れてるし。ベッドに移動しようとしたところでノックの音が響いた。

「誰だー?」

「私たちだ。一夏、少し来てくれ」

そう言われると一夏は外に出ていった。入れ替わりで来たのはシャルだった。

「どう?少し息抜きできた?」

「お陰さまでね。穏やかなのもやっぱりいいもんだって実感した」

「なら、よかった。それなら」

シャルはベッドに腰掛けてる俺の背後にまわると、急に抱きついてきた。パジャマは制服より薄いからダイレクトで伝わってくる。

「シャ、シャル!?ちょっ」

「いや、かな?」

「そうじゃないけど、すごくどきどきする」

「そのために皆に協力してもらったんだよ。ここ最近で心が落ち着いただろうから僕がドキドキさせても大丈夫でしょ?」

「全くもう、無茶苦茶な理屈だなあ。でも、いいな。このドキドキ感覚もいいもんだ」

「良かった」

せいぜい五分程度だったけど、とてもいい時間だった。


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