IS学園で非日常   作:和希

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44話 希の家族

「希と会うのは久しぶりね」

「ああ、だな」

 

 噂をすれば何とやら、二人の男女が会話していると、かなり広いマンションのチャイムが鳴った。

 

「今開けるわ」

 

 女性が扉を開くと、しばらく見てはいない……だが見慣れた顔の人間、希がいた。

 

「えっと、ただいま? 久しぶり」

「久しぶり。……お客さんがいっぱいいるわね、中に入って」

 

 お邪魔しますだの何だの言いながらぞろぞろ引き連れて合計7人。元々いた希の両親を含めて実に9人の大所帯になった。

 

「お久しぶりです」

「お久しぶり」

「あら、一夏くんに鈴ちゃん。鈴ちゃんは本当に久しぶり」

 

 居間で全員が座れるわけもなく、希と一夏は立つことになった。そして希がゴホンと喉をならしたあと、

 

「えっと、母さん、父さん、紹介したい人がいます」

「おおっ!? 皆さん美人だから期待だな」

「本当にそうね!」

「この銀髪の子が!」

「「子が!?」」

 

 期待値爆上げである。半年会っていない息子が可愛い恋人を連れてきたのだか__

 

「俺の妹だ!!」

「よ、よろしくお願いする! 兄の妹、ラウラ・ボーデヴィッヒだ!!」

 

 場が固まった。希の両親は口をあんぐりあけた後、

 

「あ、ありのまま起こった事を話す。半年会ってない息子が恋人をつれてきたと思ったら銀髪美少女の妹を連れてきた。何を言ってるか分からないと思うが本当にマジ分からん。ちょっと待て。え?」

 

 さり気なさを全く感じさせずにネタを口走る父親。一堂はあっ、希のアニメ好きの原因はこの人なのかなと感じた。

 

「苦労しすぎたの? たまには休んだほうがいいのよ?」

「ちっがーう! 義理の妹みたいなもんだ! 文句なしにめちゃくちゃ可愛いからいいだろうが!?」

 

 文句なしに滅茶苦茶可愛ければ義理の妹にしていいという訳ではない。当然のことだが。

 

 そこからは滅茶苦茶だった。シャルロットが怒って希がすいませんをし、全員の自己紹介が始まって終わり、大体の場を察した希の父が、一夏君は相変わらずもてるねぇと冷やかした瞬間箒、鈴、セシリア、ラウラに伝播。混乱したところで希が鎮めた。

 

「さて、それよりみなさんは昼食は食べたかしら?」

 

 全員が首を振る。そうするとにっこり微笑んで

 

「じゃあ昼食にしましょうか。材料が足りないから買ってこないと」

「いえ! 俺が買ってきます。ついでに作りますよ。希と積もる話もあるでしょうし。シャルロットは残るよな?」

「えっ?」

 

 ならばと箒、鈴、セシリア、ラウラが続いた。それぞれ健闘を祈るなどグッドラックなどと言い残して。残ったのは希とシャルロット、そして希の両親だけだ。皆が出て行ったあと、希の母親が何ともなさげに切り出した。

 

「それで、学校はどう?」

「あー、順調。成績は学内だと最悪レベルだけど、モチベーションがあるから勉強もしてるし。IS自体もとても楽しいから充実してる。まあ、頭に関しては自分の限界を感じるけどね」

「友人関係は?」

「いいよ。全員良い奴ばかり。一夏は相変わらず自分で種をまいては収穫せずにそのままにして俺が後片付け……じゃなくて整備をする羽目になってるけど。

 箒は入って初日に会った。一番最初から一夏に対して分かりやすくて、声をかけて友人関係になった。一夏のファースト幼馴染だと。剣道がめっちゃ強くてさ。今でも剣術指南をしてもらってる。

 セシリアも初日。英国貴族として誇り持ってて。一番最初は女尊男卑、イギリス最強と絵に書いたようなお嬢様でさ。決闘になって一夏は惜しい所で負けてたな。俺は勝ったけど。で、その性格ってのは重荷を背負い続けた仮面でさ。一夏に負けた後は年相応の乙女だし。苦手な英語を教えてくれる。狙撃とかの射撃全般も教えてくれてる。

 鈴は相変わらず。入学一か月後ぐらいにやってきて。今でも馬鹿やったりする。飯も食わせてもらえるし。近、中距離の立ち回りを教えてくれてる」

「そう……じゃあさっきの銀髪の子……ラウラちゃんは?」

 

 かなり真剣に尋ねる。妹と紹介されたのだ、それは当然気になる。

 

「一番最初お堅い真面目っこ……軍人だったけど、一夏がまたやらかしてね。その前にいろいろアドバイスしてたから、その後慕われてこうなった。満足してるよ? 可愛いし。そして込み入った話になると……試験管ベイビーって奴で親がいない。結構面倒見てるけど、こっちも軍隊関連の事で教えてもらってるからおあいこかな」

 

 さすがにこの話には驚いたようで、二人が難しい顔をした。

 

「なるほど。じゃあ最後に……あなたは、どうなの?」

 

 シャルロットに視線が集まった。希が話そうとしたが、睨まれて口を閉じた。シャルロットはオロオロしながら、でも覚悟を決めて

 

「わ、私は、その……えっと……希さんに色々と救われて、その……友人以上、恋人未満と言うのでしょうか……毎日ご飯を作ったりすり、ご飯を食べさせあったりする関係です」

 

 顔を真っ赤にして俯きながら語った。それに希が顔を赤くしながら立ち上がって

 

「色々しゃべりすぎ!」

「黙りなさい希」

 

 静かに母親が言い切った。

 

「はい、すいません」

 

 すぐ座った。また視線がシャルロットに集まる。

 

「恋人、じゃないの?」

「はっ、はいぃ! 告白したけどまだ返してくれてないです!」

「何もそこまで!?」

「希、詳しく話せ」

 

 最初以外あまり語らなかった父親がしゃべった。

 

「えっと……一夏が馬鹿やらかして中断してしまいまして……」

「言い訳するな」

 

 一刀両断だった。母親がため息をついた。

 

「あのね、希。あんたはいい子に育ってくれたと思う。わがままもあまり言わないし、お金もあまりかからない。家事の手伝いは良くするし、勉強もほどほど頑張ってる。部活もよ。

 友人関係はいい人としか付き合ってないようだし、アニメとか見ながらだけどいい倫理観を持ってると思うわ。困ってる人はなるべく助けつつも深入りしすぎない。近所の人にも良く挨拶してた。かなりいい子だと確信してる。でもね、育て方を間違えたのを今認めるわ……なんでこんなかわいい子に告白されて返事してないの!? 馬鹿なの! 何様のつもり!? 一夏君とは違うのよ!? 一夏君と長い事一緒にいるからって勘違いしてるの!?」

「はい、本当にすいません」

 

 さらに頭が低くなる。

 

「しかも毎日ご飯を作ってもらってるなんて! しかも食べさせあうなんて! 今時恋人でもそんなの無いわよ!? はー、もう」

「本当にすいません」

 

 さらにうなだれる希を見て、シャルロットはクスッと笑った。希はうなだれたまま

 

「どうした?」

「ううん……希にもこんな面があったんだって思って。いつも希はかっこいいと思う。ISを使ってるときや、皆を必死になだめたり相談したり。身を挺して皆の前で立ち塞がってくれたこともあったし、そのときはすごく凛々しかったよ。いつも飄々としてて、誰にもへりくだってなかったのに。でもこんな頭が上がらない面もあるんだなって。こんな面が見れるって、嬉しいなって」

「……さっさと告白しないの? 希」

 

 母親の呟きに希は呼吸を乱した。そして真剣な眼で

 

「ブッ!? こ、こっちはこっちで色々あんの! はい、やめやめ。……さて、そろそろこっちから聞く。最近の生活はどう? ……前に比べて不便になった?」

 

 歯に衣着せぬ直球勝負。今回希が来た本題。それに対して父親が平然と

 

「ああ、そうだな。以前のように友人ともそう簡単には会えないし、外に出ても黒服が警護に来る。ちょくちょく来る政府の要人と会うのも面倒だ。見知らぬ親族も増えたし、宗教どころか政治活動の勧誘電話が来るしな」

 希の父親が落ち着いて言う。希はその顔をじっくり見つめた。その言葉にシャルロットは反応した。勢い良く立ち上がって

「希は僕を救ってくれました! さっきの皆も希に助けられてます!! 希は大切な人です!! 希がいなかったら誰かが死んでたかもしれないんです!! だから__」

「落ち着きなさい。不便にはなったが、まあ仕事にも行かないでいいし。金もかなりもらえてる。黒服もいっぱいいるが将来的には少なくなってくようだし、友人と会える回数も増えてる。要人もこのごろ来てない。見知らぬ親族は増えたが、以前からの親戚とは良好な関係だ。勧誘電話も知れ渡ったのかあまり来てはいない。それに、お前の活躍は良く見てる。みっともない姿をさらしてるようだったら叱るつもりだったが……まあ、良くやっていると思うぞ。何だかんだで息子が活躍してるのを見れば親は嬉しいもんだ。俺たちの事は気にするな。上手い事やってるようだからその調子で励め。こっちもこっちで上手い事やるさ。

 とは言え、誰かが死んでたかもしれない、か。前のタッグトーナメントの決勝戦を見ていた。間違いなく危険な方のトラブルだったな。あれ以外にもあったのかもしれない。ちらほら噂には聞いてるからな。でもな、希、お前なら上手くやっていけるはずだ。そうした風に育てたつもりだ」

「……うん、アニメとかのお陰で色々助かったのもあるよ。これからも頑張るさ」

 その場の空気が弛緩した。ただシャルロットは顔を真っ赤にしてた。早とちりして勝手に自爆してしまったので顔を上げれなかった。

(そ、そんなー!? こ、これじゃあ受けが悪い!? ご両親に会うのは相手を値踏みする重要なイベントだって書いてあったし! こ、このままじゃ駄目!? ど、どうしよう!?)

 さらに自問自答で負のスパイラルに入りそうになるシャルロット。そこへ希の母親が

「それで、孫にはいつぐらいに会えるのかしら?」

「「ブフゥッ!?」」

 二人が一斉にむせた。ゴホッゴホッと鳴らした後、

「まだ俺たち15だっての!」

「じゃあ3年後? 楽しみにしてるわ」

「あっ、えっと、僕はそれもいいなとか、何なら今すぐにでも__」

 

 彼女の闇は深い。とは言え希は給料を大量にもらってるし、シャルロット自身も同様で財産を考えれば充分余裕だが。

 

「シャルゥ!? 流石に世間体とか他にも色々!!」

 

 

 そこからは二人が弄くられつつ雑談の模様になった。そこには確かな緩さと温かさがあった。

 

 

 

 

 

 三十分もすると買い物組が帰宅した。そして料理のお披露目会が始まった。セシリアもラウラもほかに負けじと腕を伸ばしていたので、奇蹟のカーニバルの開幕にはならなかった。ちょっとまだ経験値の足りなさを感じさせつつも、ちゃんとした料理の調理と食事が始まる……前に席の並びでまたいざこざがあったがじゃんけんで決着をつけていた。食事は騒がしすぎずも賑やかに進み、父親と母親がぞれぞに希に対しての心象を聞いてまわった。そして買ってきていたトランプで対戦したり、まさに年頃の少年少女として過ごした。そのまま時は流れて夕方になった。

「それじゃ、また」

 

「今度はいつ帰ってくる予定?」

「んー、冬休みかな。それと、今度からはちょくちょく電話をかけるよ」

「そうか。まあ、さっき言ったとおりだ。根を詰めすぎず、適当すぎず。いい所でやっておけ」

「分かってる。じゃ、また」

 

 別れの言葉を口に出し、そのままとなりそうだったが、母親が

 

「シャルロットちゃん」

「は、はい。何でしょう?」

「希を頼むわね。普段は全体的にバランスが取れてるけど、いざ夢中になるとその反動で周りの事が眼に入らなくなるから。その時はあなたが支えてあげてね」

「はっ、はい! もちろんです!!」

「そしてラウラちゃん」

「何だろうか?」

 

 母親は歩いて近づくと、ぎゅっと抱きしめた。

 

「なっ!? なっ!?」

「あなたは、希の妹なのよね? 娘と思うことにするわ。そしていつか本当に、心のそこからそう思えるようになったら、それは嬉しいと思うわ。あなたも希を励ましてあげて。そうすれば頑張るだろうから」

「わっ、分かった。……その、母上よ」

「ふふ、早速ね。お母さんよ」

「お、お母さん?」

「そう、じゃあ行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 

 そうして希たちは帰っていった。

 

 

 

 

「それでは、いつものように会議を始めます」

 

 帰ってきた日の夜、シャルロットはいつものごとく……というほどではないが、たまに集めてこうしたことをする。

 

「えっと、今日は皆どうだったと思う?」

「まー、昔から顔を知ってた私からしたら予想通り過ぎるわ。希も馬鹿ね。そんな事で不安になってたなんて。二人ともとっても出来た人よ? 何でこういったときに私に頼らないのかしら……希のばーか!」

「何かずれてるぞ、鈴。まあともかくいい事だな」

「私たちにはもう作れない光景ですから……。あ、箒さんは違いましたね、申し訳ありません」

「私も違うぞ。その、お母さんと呼べる相手が出来たのだ」

 

 何だかんだで友人の親と会うのはテンションが不安定になるものだ。

 

「って違うよ!? 確かにそうしたのも重要だけど!! 僕の希の両親に対する受けはどう!? 皆から見て!!」

 

 そう言うと、全員がはぁーっと溜息をついた。

 

「あのだな、アレで好意的ではないなんてこと無いだろう」

「かなり好意的だったと思いますけど。何せ最後に息子を宜しくお願いします発言をしていたのですから」

「あそこまで嬉しそうなおばさん初めて見たわよ」

「私もそう思ったぞ」

「だ、だよね。良かったー、勘違いじゃないよね」

 ふー、と溜息をつくシャルロット。それに対して

「はー、いいわよね。家族から援護がもらえてるなんて」

「私たちは織斑先生から弟は渡さん宣言なのに」

「しかもよりによって教官からだ」

「理不尽というレベルではないぞ。どうなっているのだ。ブラコンにもほどがありすぎる」

「確かにね。このままブラコンをこじらせてたら行き遅れちゃうよね」

 

 このごろシャルロットには希の一言余分に何かを言う癖がついてきている。朱が交えば赤くなる。希もシャルロットの癖がついてたりする。

 

「ほー、誰がブラコンだ? そしてデュノア、流石の私も少し本気になったぞ」

 

 5人の悲鳴が響き渡った。いつの間にかドアが開いており、そこからズカズカと入ってきた。そう、織斑千冬その人だった。

 

「うるさいぞ、静かにせんか」

「えっとですね、ブラコンとは私の友人の__」

「もういい。それより、希はどうなった?」

 

 一瞬しーんとなった。そして気付いたようにシャルロットが

 

「えっと、希の心配をしているんですか?」

「……まあ、そんな所だ。アイツには一夏が世話になってるからな」

 

 そして床に座り込んだ。良く見たら片手にビールの缶がある。

 

「それに、私自身も借りがある。希の親御さんにも少しな。さらに言えば、教師として生徒の精神状態を良好に保つのは義務みたいなものだ。まあ、ろくに協力してやれなかったが」

 

 ぷはぁとさらに飲み干した。トロンとした表情で天井を見上げ、

 

「奴はほかっといても大体どうにかする。自分に力が足りなければ他の奴に助けを求めるし、足りていない奴がいれば助けて輪を広げる。今回のようにな。たまに自棄になるときがあるが。とにかく、中々借りを返す事が出来ない。大人として少々悔しいな」

 誰も口を挟めなかった。千冬は続けて全員を見渡し、

「だからまあ、お前たちがほどほど支えてやってくれ。アイツがお前たちを支えてるように、な」

「「「「「当然(だ・ですわ・よ・です・です)」」」」」

「ふっ……さあ、今日はもう遅い。解散しろ。そしてやはり気に食わん、一発殴る」

 

 シャルロットの悲鳴が響いた。そうして千冬は解散を命じた。同時に、外で走り去ってく足音を二人分聞いた。

 

 

 

 シャルロットの部屋に用事があり向かおうとした最中、ちょうど聞こえた会話。

 

「一夏」

「何だ?」

「俺さ、この学園に来て本当に良かったと思ってる。何もかも」

「俺もだっつーの」


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