IS学園で非日常   作:和希

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45話 一夏の成長

「あーもう!!」

 

 最初っから俺が叫んでるのは理由がある。先日、勇気を出してシャルを花火デートに誘った。泊りがけでどっか行こうかとか色々考えたけど、考えすぎて頭がふっとーしそぅだよぉになったの諦めて花火デートで埋め合わせにしてもらった。そんでもって無事では無いけど行ってきました。浴衣姿も新鮮でとても良く、さすがにこっちもそれは予想してたので普段着でなくそれに合わせたのを着て行った。

 

 そんで気分上場で子供の頃に例の石を拾った神社に行ったらやけに胸のでかい巫女がいると思ったら箒だった。何言ってるか(ry)。いや、篠ノ之神社ってことは知ってたけど帰ってるとは思わなんだ。事前に聞いておけば……まっ、それでもここにしただろうけど。正直そこまで問題にならないし。

 

 まあここまではいい。実家の手伝いとか普通にあるよね。新鮮な姿でとても似合ってた。いつもなら似合ってるなと軽口を叩いたとこだけど場合が場合なのでそんなことせず安全祈願のお守りを二つ買って……恋愛祈願じゃないだって? 俺たちにはいらないねぇ(キリッ)。そう思ってた時期がありました。

 

 でも一夏がやってきた。やっぱりお守りが必要だった。ダース単位で必要だ。なし崩しでダブルデートになるかと思ったが案外一夏が気を利かせてまたなと言ってきた。やっぱりお守りはいらなかった。屋台をくるくる回って楽しんだ。弓矢でシャルが無双して、射的でも無双して、お化け屋敷であまり怖がってないのに抱きついてきて、金魚すくいでまた無双して(持って帰ったのは三匹だけど)。日本の夏を楽しんでくれてすごく良かった。

 と思ったら一夏に同行者が増えていた。蘭である。上機嫌の蘭と不機嫌の箒。そして上機嫌の蘭がいきなり

 

「なんでこんな状況になるまで教えてくれなかったんですか!? ってすいません! お邪魔しました!」

 

 とか言われた。ちなみにこんな状況ってのは一夏の周りの女性関係だ。当然だけど。

 で、ともかくまた別れたらあの女子組に合流。尋問されて一夏と箒を売って

 

「ほどほどにしておけよ」

 

 と言っておいた。奴らを売り飛ばしてしまって、心の中で悪いな、だが謝らないとだけ思った。でもあいつら暴れないかなと気にかかって微妙に集中出来なかった。ふぁっく。

 何はともあれそろそろ花火の打ち上げが始まる時間。今日こそはと思い、神社裏の林に向かう。石を拾ったポイントで、隠れた名所。背の高い針葉樹が集まってできた林の裏に一角だけが天窓を開けたように開いている。昔から俺は探索心が高く、それが役立ったのだ。そして手を引っ張って林を抜けた時、

 

『あっ』

 

 一夏と箒に鉢合わせ。俺と箒はどうにかこの状況から立て直せないか、まだ一分あるならどうにか思っていたら

 

「あーっ、いい場所ねここ! ……あっ」

「私もそう思いますわ! ……あっ」

「なるほど、ここはいい。 おっ、兄ではない……か……?」

 

 もうどうにでもな~れ~。やけになって屋台を買い漁り、食いまくって青春を過ごしましたまる

 追記すると一夏が普通に楽しそうに食い、俺と箒は互いに気まずげに、鈴たちは俺とシャルに気まずげにしてたまる

ついでに言えばやっぱり恋愛祈願のお守りを買っとくべきだと思いましたダース単位で。

 

 

 

 

「ありえんやろ」

 

 振り返ったらあまりの事態のひどさに関西弁が出てきた。一夏め、そろそろ滅殺を考えるべきか?

 とまあそんな事を考えていたら一夏に久しぶりに家で遊ぼうぜと誘われた。ストレスを発散するためにゲームで滅殺することを心に決めた。訓練を適当な所で繰り上げてシャルと朝食を食べた後にさりげなく出発。たまには男だけってのもいいもんだと思ってね。

 と言うわけで学園からバスにのって出発。九時半ぐらいには一夏の家に到着した。

 

「よっす、ここは久しぶりだな」

「お、来たな。でも悪い。今からちょっと買い物行ってくる」

「んー、お前も久しぶりの家だろ? まだやることあるなら俺が代わりに行って来るぞ」

 

 一夏は少し悩んだようだが

 

「分かった、ありがとな」

「おけー、何を買ってこればいい?」

 

 欲しいものをISでメモし、出発。そんでもって近場なのですぐに帰宅。家の鍵が空いてたので勝手に入る。どうせ俺のために開けといたんだろうし。入ったらちゃんと閉める。

 

「買ってきたぞ」

「お帰り、レシートは置いといてくれ」

「端金だ。今度なんか奢ってくれればそれでいい」

「分かった。さて、整理終わったー」

 

 居間でソファーにもたれてくつろぐ。離れたところに一夏がお茶を持ってきて座る。

 

「それで、何するよ?」

 

 出来ればゲームで滅殺したいのだけれど。味の薄い麦茶を飲みながら問いかける。俺とは対照的に一夏は深刻そうに

 

「ゲームでもするかといいたいけど、実は相談があるんだ」

「鈴たちのことか?」

「お察しの通りでございます」

 

 まあ、それ以外に悩む所ないもんな、こいつには。女泣かしの二つ名は伊達じゃない。

 

「すごく失礼なこと考えてないか?」

「いつもの気のせいだ。それで何が悩みなんだ?」

「実は、その……このごろ距離感と言うか、気持ちをどうしたらいいかなって。ほら、俺たちは男同士だけどあいつらは女で。仲良くしてきたいけどあいつらだって彼氏とか出来て、離れ離れになってくと思う」

 

 真面目に滅殺した方がいいやもしれぬ。もしくは彼女らに滅殺されるやもしれぬ。

 

「それで?」

「それってさ、いい事だよな? 大切な人が出来て、そいつと楽しくやっていく。あいつらにはいいことだと思うんだけど……その、何となく嫌だなって思ったんだ」

 

 俺は今、感動の波に飲み込まれそうだった。

 

「へ、へぇ……どんな風に?」

「何ていうか、確かにいつも色々変な事に巻き込まれたりするけど、でもそれもこのごろ心地よくなってさ。こうやっていつまでもやっていきたいなとか。他の誰でもない俺が……あーもう、良く分からん!!」

 

 微妙なところですな。でもこのまま行けば彼女らの未来も明るいと考えるでござ候。いかん、テンションが上がりすぎて変になってますぞ。

 

「ふーん、そういうのは時間が解決してくれるのを祈るしかない……と言いたいけど、内蔵出血大サービスだ」

「内蔵は止めろ。で?」

「まず全く持って近づかないようにする。断ち切るわけだ。当然だけどお勧めしない。そこであえて逆を行く!! あいつらともっと親しくなればいい」

「つまりどういうことだってばよ?」

 

 誰もいないからこそできる爆弾発言をぶち込む。

 

「あいつらと恋人になりたいとか考えないのか? 前も鈴について聞いたよな?」

「……分かんねえ。確かにこうやって過ごしていけたらいいと思うけど、でも恋人になるだとか結婚するだとか……どうしたらいいんだよ……」

「俺だって知るかよググレカス、と言いたいところだが今回は内蔵出血大サービスと言ったからな、もうちょいつけてやる。とっても簡単だ」

 

 一夏は期待の眼差しで俺を見る。

 

「素直になれ。好きなら好き、口に出すのは難しいけどな。俺がその例だ。この地球上で実に九割以上の人間が結婚して子供を育ててく。お前もいつか奥さんができるだろう。千冬さんと結婚するわけにはいかんのだからさ。そして、その時にはあいつらの誰かの可能性が高い」

 

 いかん、ちょっとしゃべりすぎか?

 

「あいつらは俺のことそう思ってないっての」

「だからカスなのです。前言った通り悪く思ってるわけ無いっての。ともかく、そうした可能性もあるんだ。これから先まだ二年と半年は一緒に過ごす事になる。もしかしたらさらにあるかもしれない。だから、素直になるときには素直になれ。辛い時は辛いと言えばいいし、楽しい時は素直に笑う。心の底で思ったことを、恥ずかしがらずってのは無理だから……少しでも伝えてみろ。

 鈴に抱きつかれたなら男と女だから恥ずかしいって言え。

 ラウラに布団に潜り込まれたなら女の子がそんなことしちゃダメだとか。

 箒には昔と違って女性らしくなったなとか。

 セシリアには気品があって大人の女性らしいなとか。

 そうすれば上手くいくさ、あいつらとも。本音を見せる、これに勝るコミュニケーション手段はこの世界にはない」

「そう……かな」

 

 こいつも段々と変わってきてる、いい兆候だ。さて、最後は軽く冗談で締めればいい。

 

「なせばなる、なさねばならぬ、何事も。なしてもならぬのなら後は野となれ山となれ」

「すっげえぶん投げたなオイ!! ……ありがとな、気が楽になったよ」

「別にいいさ、相談を受けるだけならただだからな」

「時間は使うだろ?」

「別にいいさ」

 

 ちょうど終わった時、インターホンが鳴った。一夏が向かうのを視界の端に収めつつ、麦茶を飲み干した。先ほどより少しぬるい。

 

「おーい、希! セシリアが来たぞ!」

 

 お茶吹きかけたぞクソが。


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