あの後、俺退出した方がいいかなと思ってセシリアと密談しようとしたらインターホンがまた鳴った。そんでもって、ああ、これ流れ読めたと感じた。鈴もラウラも箒も登場してきたのでもう後は野となれだったので仲間はずれも可哀想と思い、シャルを呼んだ。入ってきたらジト眼でにらまれました。こっそり抜け出したのが少々お気に召さなかったようだ。ただし、ジト眼で睨んでくるのはシャル的にはあまり怒ってない部類に入る。一番分かりやすい表現だと「もう、ばか」と言ったところか。
一番怖いのが笑顔である。そのあたりからISで襲ってくる可能性が出てくる。
「しかし、来るなら来るで誰か一人くらい事前に連絡くれよ」
それぞれが今朝暇になっただとか言い訳しまくるが嘘である。あと鈴、はしたない言葉をしゃべってはいけません。
そこそこ早い昼飯時、ざる蕎麦をすすりつつ(ネギたっぷりノリたっぷりわさび少々天カスもあったから買ってきた、金が無尽蔵に使えるってのはいいね)、こいつらを観察する。相変わらずおしゃれ度が高い。おしゃれ度最低は間違いなく俺。次点で一夏。その次におしゃれをまだ一生懸命勉強中のラウラ(それでも天使だけど、何着ても天使だけど)。後は全員同じぐらいのおしゃれ度か。でもぶっちゃけこいつら何着ても似合うけどな。
ラウラが驚かせたかったのだとしゃべってうはっ、天使と思いました。あっいつもか。
「ところでこれからどうする? こんなにいるならどっか行くか?」
女子勢が眼を合わせる。そんなのいかんわな。わざわざ一夏がいるこのタイミングを狙ってきたのだし。シャルは正直どっちでもよさげだったけど、他のメンツに合わせてる。
「じゃあ茶を入れるか」
「あいよ」
すっと立ってから、あっと思いなおしたけど今更すぎて諦めた。いかん、一夏の自宅ってのがあっていつもの癖が出てしまった。俺バーベキューがあるなら一生懸命焼くタイプですので。大人しく他の女子に譲るべきだった。女子たちから視線を逸らしつつ、次のお片づけイベントは注意しようと思いなおす。いや、皿洗い誰か頼めるかと振っちゃうか。
「誰か皿洗いやってくれるか?」
素早い反応をした鈴と箒。家庭力の差が出たな。一夏は客人だからとか止めさせようとしたけど俺がなあなあして問題なし。
熱茶(緑茶)をすすりながら血を流す自体にはさすまいと努力する。一夏の家にあるゲームはいかん。ちなみになんであるかって? 千冬さんが誕生日だとかクリスマスの時に買ってあげたものだ。何で知ってるか? 俺が相談を受けたからさ。俺の家で最も楽しそうだったゲームを教えたらそれを買ってた。金には余裕があっただろうし。一夏も遠慮してたけど嬉しそうだった。
ともかく、この家のゲームは四人までしか出来ない。この場にいるのは七人。俺とシャルを省いても一人省く事になる。ので却下。どうするかと思ったら鈴が色々用意してきてくれたようだ。隙の無いゲームの布陣を見るとこれで一日中遊び倒すつもりだったなと思った。ついでに言えばその後ムフフも狙ってただろうけど。罰ゲームとかを組み込むとかね。フッ、所詮程度が知れる。
さらに言うとツイスターを見たときは二人じゃどうしようもないだろと思った。
「おー、そういや鈴はこういうの好きだったな」
「そりゃそうよ。勝てるもん」
「俺には負けるだろ」
ボードゲームは大体俺が強い。と言うかゲーム全般強い。何だかんだで一般的な中学生をやってきたのだ。ゲームの経験なら負けはしない。たとえやった事ないゲームでもこれまでの経験から比較的飲み込みも早いし。この超人ども相手でもそうそう遅れをとるつもりはない。
「うっさいわね、アンタは所々反則なのよ。人の考えでも読んでるのって時があるし」
「それはテメェラもだろうが。とにかく、全員でやれそうなのでいくか」
大富豪。ただの大富豪ではつまらないと思い、ありとあらゆる特殊ルールを採用。ジョーカー以外全てに特殊効果を付与、いちいち特殊ルールを定めた紙を覗き込む必要があったが大盛り上がり。一応考えてこれなんだ。七人だと一人頭七、八枚なのでカード差がもろに出てくる。だからそれぞれ強みを持たせたようと考えてこれなのだ。
「俺のターン、5スキップ!」
「俺のターンがぁ!?」
「さらに9リバース!」
「お前酷すぎだろ!」
「9を二枚、カード復活よ! みんなパスね。7がこれで二枚、七渡しで二枚パス! 上がりよ!」
「そんなに押し付けるな!」
次、人生ゲーム。一夏があまりにも不幸。俺は財産はそこそこだけど子沢山だった。いつも通りシャルから飛んで来る精神攻撃をいなす。ちなみにセシリアがぶっちぎりの大富豪だった。コレクションもたくさん。何? リアルでも金持ちならゲームでも金持ちになれるの? こいつ金運A+あるだろ。
「ひ、ひどすぎる」
「まっ、元気出しなさい。本当の人生だったらその……アタシも支えてあげるから」
「聞き捨てならんぞ」
「私が最強の大富豪でしてよ! イギリス貴族として当然ですわ!」
「僕、子供はもっと多いほうがいいなぁ」
次、バルバロッサ。俺は初めて見るゲーム。シャルが本気で作った馬をお土産にされた。俺は良く当てる一方で外されまくると言う状況を経験。一生懸命作ってるのに……鈴と一夏に相変わらずド下手だなと言われた。中学の技術工作は得意だったけど、彫像とかの芸術は苦手だったからなぁ。クラスでよく晒された記憶がある。ちなみにラウラが(ry。
「希、それは何?」
「猫のつもりだったんだけどな……」
「普通に四本脚にすりゃいいでしょうが。何で招き猫に近い形なのよ」
「反則ギリギリ狙いのつもりだった」
「その結果がこれだろう……にしても、こうしたことは苦手だったのだな」
「ところでラウラ、それは? ピラミッド?」
「竪穴式住居だ」
そしていつの間にか午後四時。
「なんだ、賑やかだと思ったらお前たちか……ん? 希か」
「こんにちは、千冬さん。ちなみに最初に俺がいて後からこいつらが来ました」
一応自分自身を擁護しとく。空気読めないわけじゃないと。
「千冬姉、おかえり」
「ああ、ただいま」
すぐさま駆け寄りカバンとかを受け取る様は相変わらず執事のようだ。文化祭はこいつにタキシード着せて執事喫茶で決定だな。あ、いかん。下手したら俺に飛び火する。却下だばっかも~ん。
さて、それより千冬さんがどうでるか。女子たちに気遣って出ていくかも? こいつらを追い出すなんてことはまずしないはず。千冬さんはどうしようもないブラコンだけど弟に手を出そうとする変態痴女ではないのだ。
待てよ、姉弟で結婚できる国があるなら移住を勧めるのも手か……?
「希、私に何か言いたいことはあるか?」
「ありません」
「この世に言い残したことは?」
痛む頭を手で押さえつつ、千冬さんが出て行ったのを横目で見た。その際に女子は泊まるなと宣言をなされて。つまりお泊まりじゃなければいいんですね分かります。あっ、睨まないでください。
その後、不機嫌な女子たちがゼリーをねだる。今日はコーヒーゼリー。数は六つなので俺がシャルとわけっこして周りが砂糖吐きたそうな表情をしてた。そして夜までいるならと料理を作ることになった。
ふむ、ちょうどいいか。箒、鈴、ラウラ、セシリア。あと一人なら加われるだろう。女子たちが張り切って私が作ると言ってるなか、
「ちょうどいい、俺もやっと自分で合格を出せたから参加しよう」
その瞬間、波紋が走った。吸血鬼を退治するためのアレではない。そして、走ったのはシャルロットまでもが含まれる。女子五人が一斉に集まり、
(の、希さんが参戦!? 料理下手はありえないにしても一体どんな料理が……)
(そういえばあたし、あいつが料理を作ってるの見たことないわ。家庭科で調理実習はやったけど同じ班じゃなかったし。聞いたことはあるけど、それはセシリアの時のだし。シャルロット、何か知ってる?)
(正直に言うと一回も食べたことないし、作ってるのを見た事もないよ)
(これまた何とも想像しづらい。皆は腕前をどう考える? 私は何だかんだで良さげだと思うが)
(意外と普通なんじゃない?)
(いやいや、兄だぞ。多分料理も上手いはずだ)
(ですわね、私も上手だと思いますわ。いつもたくさんの種類の料理を食べてますし、知識がある分有利では?)
(……僕より上手だったらどうしよう)
(さすがにそれはないんじゃない? 前に希が言ってたわ。料理の腕は総合だと今の所、悔しい事に一夏が一番で次にシャルロットと私、そして箒。続いてセシリア、ラウラだって。セシリアも上達したんだし、同じぐらいじゃない?)
(まあ……そんな所ですわね)
「いきなりなんだお前ら。最初の頃のセシリアみたいにはならんから安心しろ」
「その事はお忘れくださいと何度もおっしゃったはずです! それで、何を作るのですか?」
「んー……ハンバーグかな。寝かす時間はないけどまあいいだろ。じゃあ買い物行こうぜ」
さっさと出かける希を横に、一堂は顔を見合わせた。
「待つだけってのは新鮮だなぁ。結構腹減るのな」
「そうだね、僕も待つのは無かったから新鮮だよ」
いつも作り手側の二人が感想を言う。キッチンから仲良さげな声と微妙に不安になったりする音が聞こえるが、十分許容範囲だ。さらに言えば嗅覚的にも不安が無い。前回希の家で食べてもいるし、その点でも安心だ。
「アンタ、結構手馴れてるじゃない。どうしたのよ?」
「パワーレベリング」
「パワーレベリング? どういう意味なのだ?」
「簡単に言うと、自分で技術を上げるんじゃなくて周りに引き上げてもらう方法。詳しくは後から話すよ。ラウラ、醤油が多いよ。鈴はジャガイモが小さい。それと荒削りで余分が多いといいお嫁さんになれんぞ」
「むっ、本当だ。助かる」
「うっ、うっさいわね! べっ、別に一夏の嫁になりたいわけじゃないし!」
「希さん、このハッシュドビーフをどう思われます?」
「見た目は完璧じゃないけど……いい匂いだと思うよ。ちなみにアドバイスは出来ん、作ったことないし」
「でも、良かったです」
そんなこんなで一夏は時間の良さと悪さを感じることなく、シャルロットと希についてのことだったり学園の事だったりISについてだったりの雑談をし、時間が緩やかに流れた。そしてテーブルに五人の料理が並ぶ。
「えっと……希、お前料理得意だっけ?」
「どうだろ、最近始めたばかりだし。まあ、同じ時間練習した中なら平均よりはけっこう上手い方だと思うけど」
皆に配られたのはまずご飯。そしてそれにセシリアのハッシュドビーフ。かけるかは個人の自由のため分割である。鈴の肉じゃが。ラウラのから揚げ、箒のカレイの煮付け、希のハンバーグ。どれもこれも危険地帯はない。どれも大丈夫なものばかりが一夏の心を安らげた。
「じゃ、皆で食べるか」
「コップと飲み物は準備したぞ」
「こうやってお互いに作った料理を食べると言うのは、不思議な気分だな。しかし、悪くない」
「これがな、楽しい、嬉しいって気分だ」
「……そうか。いいものだ」
「さ、食べよう。席について」
全員が席に着いた所で一夏がいただきますと言う。それに全員が続く。そして全員が最初にハンバーグに手を付けた。そして身体が固まる。だが心は動いた。
((((う、美味い!!))))
「ま、負けた……この僕が……いつも料理してるこの僕が……。そ、そんな……まさか……」
「ちょっと、どういうことよ!? いつの間にこんなに上手く作れるようになったのよ!?」
「そ、そんな……まさか……」
「まさかここまでとは、予想していなかった」
「美味いぞ!!」
「ちょっと落ち着けよ」
あまりにもの状況に希がたじろいだ。
「普段何してたのよ!?」
「あー、企業の方でな。社員食堂で主婦の皆さんにアドバイスをもらったんだ。さらに企業に頼んで食堂で修業した。実験ハンバーグ一個三十円で焼き加減を極めたり。その後感想をもらったりした。あと企業のコネと俺の人気&知名度で有名料理店のハンバーグのレシピとかも。とにかく、それで自分にできる最高に近いハンバーグを練り上げて、ISにインプット。主婦の皆様からもらった細かいポイントも完璧にサポートしてくれる料理レシピ。後はサポートを使いつつ、ハンバーグを作ってそれを覚えるだけ。サポートなしで大丈夫までに。まだハンバーグしか作れないけど」
全員が絶句した。
「うーん、確かに美味く出来るけど、やっぱり他の人のを食べる方が好きだな。うん、気持ちがこもってる気がする」
「じゃないわよ! 反則よ! 反則!」
「全力投球しすぎではないでしょうか……」
「負けてられない……もっと! もっと本気で!」
「兄は本当にすごいのだな」
「私も精進せねば」
「驚いたぜ、希。すげーな!」
こうしてにぎやかに夜は更けていった。