「くそ!希はどうなった!?」
セシリアは後ろから突如現れた武装に対して攻撃をした。ちょうどロケットブースターを撃つような形で。燃料に引火し、かなりの爆発を引き起こしていた。
「……運が良いやつめ」
千冬が呟いた瞬間、爆風が晴れた。そこにはしっかりと空を飛ぶ希の姿があった。
「運がいいですわね、でもそれなりに削れたのではなくて?」
「いや、なんとかロケットブースターを分離できてね。ダメージはそこそこだ。六十ぐらいか」
「ところで、その武装は何ですの?」
奇妙な形としか言いようがなかった。ただの四角の箱に見えるが九本のアームの先にカメラのようなものを取り付けてある。ただ、それだけの箱。
「第三世代……をさらに意欲的に、みんなに使えるようにといったコンセプトで作られた機体だ」
「まさか、背中のパックでそれぞれ特殊武器を使えるとでも?」
「さっすが、察しがいいね」
パチパチとISの腕でごつい拍手を行う。が、彼はため息をついて
「でも欲張りすぎでね。それぞれにひどい欠点があるけど……使いどころを間違えなければ十分使える。さて、行くよ。何度も言ったけど……いったっけ?まあいいや、ともかく男の希望のために!!」
一瞬で掻き消えた。今までの比ではないスピード。セシリアはあまりにもの速度の違いに反応が遅れた。それが出来た原因は単純に装甲や武装を取っ払ったことによる重量低下、さらにこの試合で初めて
「ですがっ!」
ライフルを構え、ビットの位置も調整。真っ直ぐ突っ込んでくる希に向け、射撃。狙いは完璧だった。タイミングは完璧に捉えられ、四本のレーザーが彼を通過した。百五十近くエネルギーが削られていても……
(え、何で)
おかしいことに気づいた。希を、大和を、ISをレーザーが通過した。普通なら表面で爆ぜるはず。なのに
(そんなことが!)
そう思った瞬間、下から直撃を受けた。衝撃で上に吹き飛ぶ。その上に希が回りこんできて、片手に構えている近接戦闘武器……全長140cmほどの刀を振り下ろす。またもやライフルとビットで応戦。が、またもや通過した。そうして
ガンッと大きな音が響いた。上からでなく、横からの攻撃。セシリアの目にはにやついた希の目が写った。
『試合終了。勝者、清水希』
彼は上空に飛び上がって右手を掲げて言った。
「この機体は企業の男の人たちが作ってくれた、最高の機体だ!夢もロマンも希望も詰まってる!まだまだ男は終わっちゃいない!!」
「やったな!希!!」
一夏がハイタッチをしてくる。それに俺は笑顔で同じように返す。
「うむ、良くやった。……何と言うか、袋叩きにしたという感じだったが」
箒が険しい顔をしながらも褒めてくれた。……褒めてくれた?
「まだまだだ、精進しろ。……が、良くやった」
この人に良くやったと言われるのはよっぽどじゃないと無理。地味に、かなりうれしい。
「まっ、あのセリフを顔を赤くしないで言えたら__」
黙って一夏をぶん殴った。
翌日
朝食はまたイギリス料理。隣で怪訝な顔をした二人を共にいつもより少し早めに食べた。そして、少し早めにいつものメンバー(俺、一夏、箒。たまにのほほんさんとか)で教室に移動した。そこでセシリアと目が合う。すたすたこちらからも、向こうからも近づいてくる。そしてセシリアはスカートをつまみながら優雅に礼をして
「清水さん、昨日はどうもありがとうございました」
「こちらこそ。それと……先日はかなりの無礼を言った。GDPや面積などの指標は所詮数字。国は国民の幸福をどれだけ高めているかが重要なのに。正直GDPなど数字だけだ。すいませんでした」
体を30度くらい下げる。顔を上げるとセシリアの驚いた顔が見えた。とても意外だったのだろうか、俺の人物像はどうなってるんだろう。
「いえ……こちらこそ、極東の文化遅れの国などと言ってしまい、申し訳ありませんでした。それより、負けてしまいましたね。これでは一夏さんに教えるなんて無理ですわね」
かなりしょぼくれ気味。そりゃ訓練始めて二ヶ月経ってない素人に負けりゃね。箒はよっしゃと思っているようだが……しゃあない。
「いや、所詮は初見殺しの武器ばっかりだったから仕方ない。射撃精度、機体操作、どれをとっても俺より上だ。格闘戦は無理でも、対狙撃戦の役をするのはセシリアの方がいいだろう。第一、固定したメンバーより様々な人と対戦したほうが腕を磨きやすいし。一緒に一夏に色々と教えてくれ」
「希、お前何を!?」
箒が怒る。殺気が怖いです。良く考えると一夏に絡みだしてからだなぁ、殺気が分かるようになったのは。でも逆に、セシリアはパァッと笑顔を輝かせ、俺の腕を持ち上げて
「そ、そうですわね!様々な人と対戦したほうが腕を磨きやすいですわね!だから私が一夏さんと放課後腕を磨きあうのも当然のことですわ!ですよね、一夏さん!」
いきなり一夏にふられ、一夏はどうしたものかと思ったようだが
「あ、ああ。希が言うならそうだと思う」
ここで俺の名前出すの失敗だよ君。まあいっか。さて、最後に
「そう言えば、昨日の昼食と今日の朝食、イギリス料理を食べたんだ。美味しかったよ」
「ええ、もちろんですわ!」
不味いと言ってしまった一夏は申し訳なさそう。でもそれでいい。
「でも紅茶の時間は午後がいいらしくてさ。なあ、一夏も一緒に本場の紅茶を体験させてもらおうぜ。俺たちセシリアと喧嘩してたし、仲直りとして改めてさ。一夏もイギリスの飯不味いとかいって後悔してるだろ?」
「まあ、そりゃつい言ったんだし……俺も飲んでみたいな」
そう言うと、セシリアは俺の腕をブンブン回して
「あなたは素晴らしい人ですわね!勲章を与えれないのが残念ですわ!あなたのこと、希さんと呼んでもよろしくて?」
「俺はセシリアって呼んでるしね。構わないさ。それと一度手を下ろして、改めて」
右手を差し出す。セシリアも右手を差し出し、握手をする。
「よろしく、セシリア」
「はい、希さん」
おお、これが英国貴族の女性の微笑み、すさまじいダメージ。これを一夏にぶつけてけば、どうなるかね。が、その笑顔が突然真面目な顔になる。
「ところで、昨日の戦いの最後、あれは一体?」
「ああ、『大和』の武装の一つ、幻想機動。簡単に言うと自分のエネルギーを大気中に散布してそれをレーザーとかで着色できる。数秒間の固定化も可能。将来的には動かすのも考えてるらしい」
「……最初から使えばよかったのでは?」
ところがどっこい、そうはいきません。それが現実ですッ……!
「欠点。エネルギーを使って回避するってこと。違う視点から見るとこっちの移動は丸分かりなんだ。しかも、自分の機体の正面だけに発動すると発動した瞬間自分も動いて分身状態になる。それを避ける為に正面だけじゃなくて自分の移動方向にもエネルギー散布するんだ。イメージ的には自分の前面に長くて厚めの板を展開する感じ。弱点は……もうわかるよね?」
「つまり、エネルギー消費が激しいと?」
「その通り。遠距離でレーザー撃たれるたびに回避するんじゃ割に合わなさ過ぎる。しかも幅1.5m、長さ5m程度までしか展開できないから。しかも薄く張ろうとするとセンサーに一瞬でばれちゃうからそれなりに厚さも必要でね」
相手の視点外に出しても、ISのセンサーを反応させるにはある程度のエネルギーが必要だ。そこに振り向いて像を見せ、そこで攻撃する必要がある。
「近距離で、短い距離じゃないと幻想を使って攻撃まで繋げれないんだ。ちなみに、あの時セシリアを攻撃して、二回でエネルギー50ぐらい喰った。使い勝手が悪い兵器さ」
ちなみにライフルを直撃して絶対防御発動で75ぐらい削れる。つまり三回発動したら絶対防御の直撃に匹敵するぐらい使うという超絶欠陥兵器。燃費さえよくなれば恐ろしく使い勝手がいいんだけど。近距離で一撃叩けば100以上けずれるのがざらだし。
「なるほど……でも、あなたは使いこなせましたわ」
「一発ネタには困らなくてね」
ちなみに、午後のティータイム箒もやって来ました。二人の睨み合いがすごかったです。セシリアのこの人どうにか出来ません?という視線と箒の貴様分かってるな?という視線の中、一夏の紅茶うめぇと言う声が一際苛立った。確かに美味いけどね、紅茶苦手だけどこれは飲める。
「少しいいか」
「一夏……じゃなくて、多分俺?」
「察しがいいな、めでたいことに」
ドナドナ気分で一人連行される。一夏は俺も行こうかとか言ったけど手でいらないと示す。箒に連行され、今日も相変わらずガードが薄いパジャマを着ている同級生たちに奇妙な目で見られながら箒の部屋に入る。同居人は外に出かけているようでいないようだった。で、ダンと足踏みしながら
「なんであの女の肩を持つ!?」
怖いね。専用IS持っていなかったら多分来る勇気なかった。美少女に木刀で叩かれて喜ぶ変態はこの世界に多く存在するらしいが俺はあいにくその趣味は無い。むしろ叩いて躾けたい側です。っといけない。
「あのね、俺は身にしみて経験をしてる。一人の肩を持つことの恐ろしさを」
「……どういうことだ?」
俺はため息をつきながら
「一夏はさ、女性関係とかで困ると俺に頼ってくるんだ。中一の時から。買い物に誘えだの髪型を褒めろだの。それでさ、いつからか俺が重要視され始めたんだ。一夏は俺に相談したとか言わないように言っておいたから、学校で盗み聞きされたんだろうな。それからある女子が『私を一夏とデートさせて』無理って答えたけど『じゃあどうしてあの子には買い物を一緒に行かせたの!?』それからさ。あちらを立てればこちらが立たず。しょうがないから自分の利用価値を大きく見せて、自分に手を出させないようにするしかなかった!だって酷いときにはヤンデレ少女に刺されそうだったんだ!!しょうがないだろ!!!あの時はもう楽しむ余裕はなかった!!!」
ダンッとつい机をたたいた。いかんいかんと自制するが、箒はかなりびっくりしたようで引いていた。自分で言うのもあれだけど、取り乱すことめったに無いしね。ちなみにヤンデレ少女は一夏がどうにかしてくれて普通の少女になっている。
「……すまなかった。幼馴染が迷惑かける」
「ほんとだよ。誰かが仕留めてくれればいいのに、アイツは鈍感・難聴・朴念仁の三拍子がそろった人間だし。でも誰かが仕留めるのをサポートしたら他から恨まれる」
「……さっきは悪かった」
猛省してるようで頭を深く下げる。さっきのとき服が乱れたようだ。胸見えちゃうよ君。とは言え下げようとした瞬間に横にずらしたから全く見えてないけど。さすがに誰か好きな相手がいる人の体をじろじろ見るのはマナー違反だよね。しかもそれが親友となればなおさら。
「なぜ顔をずらす?失礼ではないか」
まじ無防備だな。一夏はよくこういった人たちをスルーできるもんだ。
「むしろ俺の紳士力を褒めてくれ」
「何のことだ?」
「一夏以外にするな」
そう言われて気づいたのか、着物が少しはだけていて頭を下げた瞬間俺の角度からなら見えたであろう事に。箒は顔を真っ赤にして
「す、すまない。……お前は一夏と真逆みたいな奴だな」
「一夏なら見て顔真っ赤にしてばれて木刀コンボだよね。……ともかくさ、だから誰かに肩入れ出来ない。むしろ箒にはかなり肩入れしたと思うんだけど。自覚ない?」
「……いや、ある」
だよね。そりゃ、あるよね。俺でもやりすぎかなって思ったんだから。ちなみに肩入れして無くてもこうやって自覚ない?とか言えば相手はあるって言うのが多数。雰囲気で押し通すのがコツ。
「お前が仕留めてくれれば良かったのに」
心のそこから……ではないかもしれないが、それなりにそう思う。実際には、いつも悲劇を目の当たりにしてたアイツの方に勝って欲しいけどね。
「無茶を言うな!アイツはネジがいかれているとしか思えない!!」
想い人のことすさまじく悪く言うね君。今度は俺が勢いに驚いて腰が引けた。
「ともかく、そういうことで」
腰を上げて部屋を出る準備をする。が、その前に言って置くことがあった。
「一応他の理由もあるよ?」
「なんだ?」
「一夏には俺がサポートどうこうした奴じゃなくて、自分の意思で好きにさせた奴と幸せになってもらいたいってこと。ま、これでもダチなんだ。アイツの幸せぐらい願うさ」
「……お前は、とてもいい奴だと私は思う。だが、恋人とかそういったのにはどうしてかなかなか考えられない。なぜだろうか?」
そりゃあもう、昔から分かりきってる。
「胡散臭い性格ゆえさ」
「治す気はなさそうだな」
呆れたように言われた。
「意外と気に入ってるからね」