IS学園で非日常   作:和希

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八話 希と鈴

 午前中だけで注意七回、打撃五回を受けた一夏、多分昨日約束の言葉を思い出せ、と俺が言ったから。鈴は俺に対しては問題ないようだが、一夏に対しては猫のように髪を逆立てる。今朝遭遇して判明した。何というか、猫みたいだった。でもいつまでもそうしちゃいられない。ひとまず今日でやっておくことは何だろうか。一夏のフォローか。ごめんなさいと仲直りさせるのはまだ無理かなぁ。強攻策もあるけど、んー。

「おい、ラーメン伸びるぞ」

今日のラーメンはタンタンメン。美味い美味い。辛い辛い。夜食べるラーメンもまた格別。暑くなる前に熱いものを食べておきたい。夏はざる蕎麦とか食いたいね。

「それより鈴のことどうしたらいい?」

心のそこから困った顔。仲のいい友達と喧嘩したらこんな顔になるだろう。そんでもって原因が良く分からないのに(昔の約束はしっかり覚えてると思ってる)相手がすごく悲しそうに泣いた、という状況。そりゃとまどうわ。

「それなりにフォローしとく。多分お前の前では強がってるけど」

まだショックじゃないかなぁ。どうだろ。箒たちはフォローなんてことしなくていい、とはさすがに言ってこない。そんなひどい奴らじゃない。いくら恋敵とはいえアレをフォローしなくていい、なんてこと言うのとつるむきはない。アドバイスも絶対にしない。俺は善い人としかあまり仲良くしたくない。怖いし、臆病だから。彼女らは暴力振るいまくりだけど、善い人だ。

「ところで、お前たち三人はどうした仲なのだ?」

「ぜひお聞かせ願いませんか?」

そうだなぁ。どうしたもんか。

「んっとね。一夏と鈴とは中学時代に出会ったんだ。で、その時ちょうど一夏が鈴を怒らせたようで。困ってたところを俺がアドバイスしたんだ」

「最初はアドバイスしてくれる友達だったんだ。でも掃除も真面目にやってるし、意外と気が合うなと思ったんだ」

なつかしいなぁと想いながら続ける。

「で、途中である人が軽い嫌がらせを受けていたんだけど」

「それを俺と希でどうにかしたんだ。えっと、希が携帯電話で動画とかで証拠とって」

「嫌がらせしてた犯人たちに対峙して。奪い返そうとした所をさらに証拠にして」

「俺が体張って倒して終了。あ、でも希も体張ってたぞ。ちなみにその光景を嫌がらせされていた奴も見ていて」

「それから長い付き合いの始まりってわけ」

ふーん、へー、ほーと二人……だけでなく周りもうなずいた。で、のほほんさんが手を上げて

「そのー、嫌がらせされた相手ってー、鳳ちゃんじゃないー?」

「なんで分かった!?」

一夏が間抜けにも自白。だまっときゃいいんだよ!それにしても勘が鋭いね、のほほんさん。

「んー、何となくー?でもねー、凰ちゃんがしみずーを信頼してたからー」

「実際そうだけどな。希はいつも捻くれてそうだけど、言うときは言うぜ?あの時」

女子たちが一斉に耳を傾ける。でも残念だったな一夏。テメェは詰めがあまい。

「えー今から一夏の秘密話暴露大会ー!いえー!!」

「今はいい」

「後からお聞かせください」

「今はしみずーのが気になるなー」

あれ?俺の作戦が失敗しただと?泣いて一夏を斬るの計が。

「俺をいつも斬ってるのに泣くもあるか!」

だよね、いつもとかげの尻尾切り並に切ってるし。後から回収する優しさぐらいは持ち合わせてるけど。そうしないと再利用出来ないし。

「ともかく、その男たちに向かって『大の男が可愛い女の子によってたかって嫌がらせして恥ずかしくないのか?俺はお前たちみないなのをどうしても許せない。ぶっ潰してやる』ってね」

っく、予想外に恥ずかしい。女子たちがキャーと沸いた。俺の株上がったと思うけど、恥ずかしさで+-0以下だ。だって、俺の株上がっても一夏が全員フラグ掻っ攫うからね!もてて彼女出来るとかなら+ぐらいにはなったけど。

「それと千冬姉が出っ張らないですむように色々やってくれて。それでまあそれから四人でつるむ様になったんだ」

一夏はそういった関連の話は弱かった。もう一人、弾がそういったのを伝えてくれて動けた。あいつは情報を集めて、俺が考えて、一夏が体を張る。そんな役割があった。弾は控えで俺たちの様子を撮っていた。

「だがその一人と関係最悪だな」

箒がバサッと切り捨てた。その言葉に一夏がガクッと崩れ落ちた。

「ところで、次は一夏さんの秘密話をお話してくれませんか?」

セシリアがわくわくしながら聞いてくる。

「残念。目的は果たせなかったからまた今度。情報は重要だから」

そこを何とか頼んでくる彼女らを必死に回避した。

 

 

 

 

 珍しく誰も居ない……というか皆にお引取り願ったんだが。緑茶を自分の分だけでなく、一夏にも出す。そして

「なあ、鈴の事どう思ってる?」

「今は鈴とのことをどうにかする知恵がほしいんだが……」

「そのために必要なの。正直に答えてってね」

有無を言わさない。

「……そりゃあ、仲のいい友達……親友と思ってる」

「ただの?親友?……異性として見たりしないの?」

ブッとお茶を噴き出しそうになったが、一夏は飲み込んだようだ。

「それ関係あるか!?」

「あるね。ツインテールを猫の毛のごとく逆立てられ続けたいならかまわんが。どのくらいのコース?週?月?お望みでどうぞ」

「……分かったよ、そりゃ意識しないわけないだろ」

当たり前だよね。年頃の男女なら。意識しない奴は頭か体が腐ってるだろう。

「一年前によく肩車してたとき、お前最初びっくりしたり顔赤くしたもんな」

「そりゃ色々当たったからな!!」

ヤケクソ気味に一夏が答える。とんだ羞恥プレイ気分だろうが、男同士で喜ぶのは腐った猛者達だけだ。この学院にも結構いるのはかなり、本当に問題だが。

「将来鈴を嫁に迎える奴をどう思う?」

「鈴は料理美味かっただろ?それがさらに上達してるだろうし。自室だってしっかり片付けられててさ、金銭感覚もしっかりしてる。しかも代表候補生……てのは俺としちゃあまり関係ないけど、幸せ間違いないだろうと思う」

「お前は鈴と結婚したいとか思うの?」

次は耐え切れなかったようで、軽く噴き出した。ゲホゲホゲホと咽るのをとんとん叩いてやる。そして決め台詞。

「一体誰がこんなひどい事を!?」

「お前だ馬鹿野郎!!」

「ごめんね、たまにはボケたくて。で、どうなの?」

「……まだ、俺は正直良く分からない。そうした将来の結婚の事とかさ。誰かを好きになるなんて、どうしたことか分からないんだ。お前はどうなんだよ?」

「俺もさ。分からない。人を好きになるってどうなのか、ね。今はIS乗り回して楽しんで、休日はたまにボーッと過ごしたりする方がずっと性に合ってるから」

そんな非日常と日常が混ざり合った過ごし方が楽しい。日常が風化しないように非日常というスパイスを加えながらの日々が。淡い恋心と好きは違う。

「俺もだ。でも、鈴と結婚したとして、不幸には絶対ならないだろうなぁ。お前もそう思うだろ?」

まあ、確かにね。表情もころころ動いて猫みたいで。見ていて幸せになる。料理も美味いししっかりしてるとなればそりゃ文句はないだろう。飽きないで生活も出来るだろう。すっごく可愛くて、凛々しくて。でもこの馬鹿がいたから無理だった。

でもね、それでもね。

「だろうね。でも、親密であれば親密であるほど、中々想像できないだろ?」

中々に難しい。もっと近づきたいと思っても難しい。

「ああ、その通り。でも、お前とはいつまでも何だかんだで楽しくやっていけるってのは分かるよ」

ああ、一夏となかよくやっていけるってのは同感だ。……俺がつりあうように努力しないとな。それにしても、これは大収穫。さて、今のはしっかり録音完了。

「じゃ、ちょっと行って来る」

「ちょっと待った、俺がやらないと意味無いんじゃ?」

こいつはモテる。なぜならアドバイスを求めたら、後は自分で全部行動するから。しかもアドバイスの内容が何か違うと思えばしっかり否定する。芯がしっかりしてる奴だから。

「いや、別に。簡単なお仕事だから」

まだ八時半。問題ないだろう。ドアを開けて

「じゃ、行って来るわ」

 

 

 

 「鈴、いるかー?」

返事は無い、屍……見えてないからこの表現は不適当。もう一度ノック。すると鈴……ではなく、同室の人が現れた。コマンドはどうする?

「どうもこんばんは、夜遅くすいませんお嬢さん」

ひとまずセシリアのように金髪だったので問題無さそうなセリフをチョイス。

「いえ、それより凰さんは……ベッドに」

困ったような表情で。

「失礼」

上がらせてもらい、ベッド付近に移動。そしてベッドでこんもりしている場所の布団にトントン叩く。

「俺だ」

「知ってるわよ」

かなり不機嫌な声。まあ、それなりに落ち着いてきたようだ。

「話し合おうぜ」

「……茶を入れなさい」

大体予想通りだ。無理に布団を剥ぎ取らず、ポット付近に移動する。

「すみませんが、ポットとかを借りてよろしいでしょうか?コップはいやなら自分の部屋から持ってきますが?」

「いえ、どうぞおきになさらず。それと、私の名前はティナ・ハミルトンと言います。……て言うか、もっとくだけていい?金髪が全員お嬢様ってわけじゃないのよ」

「もちろんOK。それと偏見ごめんねー。あ、緑茶いる?俺の名前は知ってるだろうけど……知ってる?一夏に食われてる?」

「流石に知ってるわ。むしろ一部では織斑君より有名人よ。それとお茶私にもいいかしら?」

「あいさー。で、噂はいったいなんて?」

お湯の準備をしながら尋ねる。嫌な予感しかしないが。

「織斑君とのホモ仲間」

「死にたいぜアハハ」

すさまじいレベルで腐海が進行しているようだ。頭いいのに限って集まるのか、頭がいいからそうなるのか。

「冗談よ。オルコットさんと戦って奇抜な戦い方で勝利した清水希。あのときのセリフ録画されててキャーキャー言ってる子もいるわよ?」

「俺にモテ期がやってきた!」

「変人扱いね。あと教祖?」

「だと思ったよ!いつも一夏に人気が集中してるぜ!……ともかく、鈴の事よろしく」

「もちろん」

そして軽めに話し合いを続けながら、緑茶を淹れ終わる。今までに何度もやっていることだ。小学生ぐらいからずっと。

「おい、鈴。出来たぞ」

もぞもぞ布団が動いて表に出てくる。着席して、ずびずび飲みだす。そして一気に怒りが噴き出したようで。

「一夏のバーカ!!何で覚えていないのよ!ばかばかばーか!乙女心を踏みにじる奴なんて馬に蹴られて死んじゃえ!」

かなりお怒り気味だな。ハミルトンさんは引き気味。

「確かにアイツが鈍感なのは知ってるわよ。でもね、約束したのは小学六年生のときよ。今なら理解してくれてるかもって望みを持ってもいいじゃない!アイツは何であーなのよ!」

「うんうん、あいつは馬鹿だ」

望みだけに希を……くそどうでもいいな。鈴の愚痴がひたすら零れ落ちる。三分ほど罵声の爆撃を浴びせた後

「うー、頭撫でてー」

あれこの子すごく可愛い。知ってるけど。可愛さならあの二人より数段上だ。

「一夏に頼め」

「今はアンタでいいのよ」

「ありがたいお言葉で」

ゆっくり撫でる。髪が滑らかだなーとか思いながら、三十秒撫でると体調が戻ったようだ。グッと体を起こし、覇気が軽く戻る。

「ありがと」

「別にかまわんさ。それより、これやるよ」

MP3プレイヤー。録音したのをISを使って移し変えてる。ちなみに、どんな機能でもISの機能を使うのは校則違反だが、見つからない違反は違反じゃない、これは俺の信条だ。俺はバリバリ使ってる。ネットでニュースとかまとめサイトとか見たりするのにも使いまくり。ひどいときは部屋で武装展開の練習すらやってることもある。見つからないように外に隠しカメラを設置しながら。ISマジ便利。

ただし、人に本当に迷惑かけるような違反はもちろんしてない。

「何それ?」

「こんな感じ」

持ってきたスピーカーに接続。

 

 

 

そして五分後

「もー、一夏ったら!えへへえへへ!アタシを嫁にした人は絶対不幸にならないだって一夏が!一夏以外の嫁になるつもりなんてないのに!!ばっかみたいばっかみたい!」

これでも一夏のこと好きでもなんでもないんだからね!と外に対しては言うから驚きである。心の中じゃ好きだと認めてるのに周りには知られたくない感じだろう。でも今は喜びのあまり周りを全く意識していない。鈴は枕を抱きかかえてピョンピョン飛び跳ねいやもううるさい。防音がある程度してない部屋だったら隣から即刻苦情が来て金剛力士像もとい千冬さんが登場すること間違いない。

「もう一夏ったら!!」

しばらくハミルトンさんと可哀想な子もとい可愛い子を見る目で観察していた。録画したらぶっ殺されるかな、そう思ってさすがにやめといた。

 

 

 

 「あの、二人とも……さっきのは忘れて欲しいな、なんて」

すっごくシュンと、顔を真っ赤にしながら。

「いいわよ。でも、そのかわり鈴って呼んでいい?そして鈴も私をティナって呼ぶこと」

「……ありがと、ティナ」

「もちろん、俺も忘れるに決まってるよ」

「本当?」

「数年後にね!……へい、ジョーク。IS展開はやめようね」

改めて席に座り直す。あのときから十分ほど自分の世界に浸っていたが正気に戻り、こうなった。いや、本当にすごい。ここまでお花畑だと。

「ぶっ飛ばすわよ?」

「ごめんごめん。で、改めて。一夏のこと許せるかどうかって、どう?」

「……意地張っちゃったとも違うけど、約束の事は本当に支えだったのよ。でも今は落ち着いてるわ。だから、大丈夫。私も殴って悪かったと思ってる」

支えだった、か。もうこれ以上邪推の種増やさないでくれないか?それでも悟らせてはいけない。いつもと同じように気楽な表情で。

「あいつはストライクゾーンがめっちゃ狭いんだ。直球以外全部外れると思っとけ。中二のころには学習してただろ?鈍感な一夏も悪いが、お前もその事を理解しておくべきだったとは思う」

「……はい、そうです」

しゅんとうなだれる鈴。一夏に惚れたのは全員一夏が絡んでると(その場にいると)面倒だが、それ以外では比較的大人しい(もしくはまとも)。一夏のモテビームに浴びせられ、一夏付近では思考が狂うって学説が俺の中では確立されつつある。これは確定的な論である。

そんなことはおいといて、しゅんとした鈴の頭をポンポン叩いて

「そんでもって、一夏はお前の約束の事はしっかり覚えていた。そういうこと。一夏の中にお前はしっかりいる、自信を持てって」

「……ありがと。元気出てきたわ」

「そうそう、お前はいつも笑ってこそ鈴って感じだ。それでドンドン押せ。そうすりゃあいつも落ちるさ」

「うん、すっごく元気出てきた。希、いつもありがとうね」

そう言って、久しぶりにとびきりの笑顔を見せてくれた。ああ、これだ、微笑ましい気分になる。でも、後ろめいたのもある。こうしてやったのは、鈴の為を思っただけじゃなくて、自分は善い人だと思い込みたいためでもあるから。

「良かった良かった、それじゃ。落ち着いたら謝るんだな。下手にもたもたしてると、誰かに抜かされちゃうぞ?」

「そんなこと無いわよ!アタシが誰より速く駆け抜けるわ!!」

笑顔で俺に言う。良かった、調子はほぼ完璧に戻したな。

「さて、洗い物は頼んでいいか?」

「これぐらい簡単よ。何せ料理が上手なんだもの!」

このテンションで今日寝れるのか?

「そうかそうか。じゃ、ハミルトンさん、お騒がせしました~。またね」

「うん、じゃあまたー」

 

 

 

 

 

 「あっ」

「あっ」

次の日の朝、食堂でばたりと一夏と鈴が出くわした。周りの人間が一斉に静かになる。ちなみに今日は珍しく箒やセシリアはいない。

一昨日のことがことだけに二人とも気まずげに目を逸らす。だが二人は同時に向き合った。

「ごめん!」

「すまん!」

そして同時に謝った。一夏がガバッと体を起こして

「約束しっかり覚えてなかったのはごめん。絶対にしっかり思い出してみせる」

「私もビンタしてごめん。その……確かにそういった事言ったけど、微妙に違ってたのが悲しくて。でも、叩いてゴメン。ちょっと違うだけで、しっかり覚えてくれてたのに」

「女の子との約束を間違えて覚えたんだから仕方ない。絶対に埋め合わせをする」

「なら、駅前のパフェ奢りなさいよ」

そう言うと二人は少しだけ、でも確かに笑って握手をした。

「うん、よかったよかった」

軽くパチパチ拍手しながら近づく。

「希もありがとね」

「希、ありがとうな」

「別に。早朝ランニングのが疲れるぐらい簡単だったから」

うんうん、仲がいいのはいいことだ。見渡すと箒とセシリアがいたが複雑そうな顔をしながらも、よかったと思ってくれているようだった。うん、やっぱり善い人だ。

「それで、合同練習どうするんだ?参加するのか?」

「まあね。敵は多いからゆっくりしてられないし」

「だよな、他の奴らに負けてられないし」

コイツはもう相変わらずばかみたいな奴だな。鈴もため息をついていた。

「ん?なんだ?」

一番お花畑なのはコイツではないだろうか。


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