リリカルでマジカルな世界に憑依転生した正義の味方(StrikerS編制作検討中) 作:四条小鳩
固有結界という禁忌の魔術が協会に知られ、封印指定執行者に追われた衛宮士郎の前に赤が似合う魔術師が現れますが、それは聖杯戦争のような過酷な戦いの幕開けへの序章となります。
第一話「プロローグ」
恐れていた自身の異常な魔術が知られ、封印指定となり、魔術協会の執行者を振り切って人目につかない木陰で休んでいた魔術使いである青年、衛宮士郎の目の前にかつて魔術の師匠で恋人であった赤い服がよく似合う遠坂凛が現れた。
「や、やあ…遠坂。久しぶりだな」
「久しぶりね、士郎」
数年前に彼女は魔術の道を、己は自身の信念をと道を別れた後も、中東やアフリカ、アジアの紛争地帯などを渡り歩いている頃も彼女の活躍や遠坂家の呪いであるうっかりでの盛大な失敗などが時折耳に入っていた。
「私がここに来た意味、わかる?」
微笑んでいる彼女が自分のもとに来た理由、考えられるとしたら封印指定を受けた自分を消しにきたぐらいだ。彼女も時計塔所属の魔術師だから当然推測できる。
「封印指定の俺を殺しに来たのか?遠坂に消されるなら俺も本望だけどさ」
途中で道を別れはしたが、守護者となる運命から守り理想を共有し導いてくれた彼女に殺されるのなら満足だ。
「まったく馬鹿ね。それは勘違いだから。アンタは十分に頑張ってアーチャーと同じ道を歩まなかったわ。だからこれは私と大師父からの第二の人生って名のささやかなご褒美、と言えばいいのかしら」
「話がよくわからないぞ。どういうことなんだよ」
遠坂の言葉に困惑する。
こんないつ死ぬかわからない状況でいきなりご褒美云々と言われて理解できるか。
「数日前からずっと執行者に追われてるんでしょ?だからゆっくり説明してる時間はないの。行けばわかるから。それじゃあ向こうで新しい人生を謳歌してね、士郎。そっちに行けそうだったら会いに行くから」
額に彼女が手を当てられ、魔力が流れてくるのを感じるのと同時に急速に意識が薄れていく。
眠りの魔術でもかけられたのだろうか。
「ちょっと待て遠坂!俺は一体どう…なるん───だ…」
「行けばわかるから。でも数年は自分が誰だったかを思い出すのにかかるかもしれないけどね。じゃあね、士郎。しばしのお別れよ」
そう告げられ、意識は完全にブラックアウトした。
それから人間としての意識を持ち始めたのは生後しばらくしてからの時だ。
ただその時はお腹がすいたとか、眠いとか、トイレとか人として極めて単純な欲望や不満を赤子のように泣くことで表現する程度だった。だから、自分がどこの誰だったかなんて思い出せなかった。
ようやく明確な自我を持ち始め、かつての記憶を取り戻したのは三歳になるぐらいであった。ある日、高町なのはという見知らぬ少女に自分が転生していたことに気がついた。海鳴市という日本にいたときには聞いたこともない街、あるはずの生地である冬木も存在せず全く知らない世界の平凡な少女に転生したことに大いに動揺したが、遠坂の言葉を思い出し、封印指定となった自分を不憫に思って魔術に関わりのない世界に送り出してくれたのだろうと考えたら自然と落ち着いた。
そして自分の父、高町士郎が入院し経営している喫茶店翠屋が大変であったり、兄の高町恭也が雰囲気が少し険しくなったことはなんとなく感じ取っていたが、年頃の幼い子にはありがちな寂しさは感じず、大変な家族の手伝いをできる範囲でしたりと年相応以上にできることをした。
───ちなみに女の子になって生活することは、元となった少女の体に精神が引っ張られていたためか困ることは特になかった。
そして明確に自分の生き方を意識したのは五歳の頃で、この世界で高町なのはという少女として新たな生を謳歌すると決めた時だ。だが、同時に自分が転生したことに気づいた魔術協会なりに狙われるかもしれないと危機感を抱いた。だから体内に感じていた強い魔力を元にまず魔術回路を構築し、彼のみに許された魔術を再現してみることにした。身体は高町なのはという別存在だが、宿っている魂は衛宮士郎なので
「───
深夜、寝静まった高町家の自室で生前のように魔術回路を撃鉄を降ろすイメージで回路を慎重に構築した。
下手をすれば待ち受けるのは死か重症になり魔術師として生きることができなる可能性があったが、それはそれで仕方ないと考えていた。
そうしていると胸のあたりに刺すような痛みが走り、身体全体に広がっていく。痛みは強かったがとりあえず一番の懸案事項であった回路は無事に構築できた。
「この子、かなりすごいな」
ざっと身体に解析をかけたが魔術師としての才能は予想以上であった。回路数はおよそメインで70以上、サブの数は不明だが多数。彼の師であった
先祖の名前は知らないが、素体となった子の祖先にはさぞ偉大な魔術師がいたのだろう。元の世界でこれは下手すると一発で封印指定を受けるレベルのものだ。この世界に魔術協会があるかどうかはまだわからないが、またもホルマリン漬けにされそうになるのは御免蒙りたいので今後は魔術の行使をする際には十分に神経を使う必要があるかもしれない。
「───
無事に回路を構築できたので、試しに使い慣れた
「これは前のイメージを思い出すしかないかあ」
またいろいろな剣を見て投影の鍛錬が必要だと思いながら剣を消し、この魔力量ならと今まではカラキシだった他の魔術、今回の場合は修復の魔術をやってみたが結構うまくいったので驚いた。
限られた魔術しか使えなかった以前と違い、使える魔術の幅が広がるなら戦いの幅も広がるという利点がある。幸い、遠坂ができなくても知っておいて損はないと座学で様々な魔術を教えてくれていたのでそれをゆっくり実践してみればいい。
魔術が使えるとなると次に確かめたくなったのは剣術だ。
魔術が使えない状況下では、物理的な手段で身を守ることも必要だ。魔術は自衛の手段の一つにすぎないし、身を守るための手札は多い方がいいに決まっている。
───この問題の解決には武道家の父に相手をしてもらえばいいという結論に至った。
「なのは、急に稽古したいなんてどうしたんだ?」
家族は突然まだ小学校にも入っていない自分が稽古をつけてほしいと言い出したことに当然ながら驚いていた。
「なのはが武道に興味を持つことは止めないが、いきなり私とでいいのかい?まずはちゃんと基礎から練習を…」
父の名前はなぜか転生前の自分の下の名前と同じで最初は少し戸惑っていたが今は慣れた。
「うん、平気なの〜。なのははお父さんと戦ってみたいんだ」
「そう言うなら私は構わないが…ううむ」
雰囲気から彼はどうも本気になれないようだ。
武道を知らないはずの愛娘が突然試合したいと言えば親としては渋るのは当然か───。生前、魔術をあまり教えてくれなかった育ての親の切嗣のことをふと思い出したが、本気になってくれないと困るとも思った。
「はい、なのは。竹刀ね」
姉の美由希から子供用の小さな竹刀を渡されたが、少し動かしやっぱり慣れたほうがいいと思ってこう告げた。
「お姉ちゃん、竹刀もう一本貸してなの」
「あれ?ごめん。その竹刀壊れてた?」
「ううん、そうじゃなくて二刀流の方がしっくりくるな〜って」
「そっかあ。じゃあもう一本ね」
彼女は剣道で二刀流?と首を傾げながら竹刀をもう一本渡し、夫婦剣を使う時の慣れたスタイルで構えた。やはりこのやり方が自分の型には馴染む。
「なのは、随分変わった構え方だけどそれで大丈夫なのか?」
兄も心配そうに見つめながらどの流派にもない型で構えた彼女に対して剣道はチャンバラごっこではないのだと思っていた。
「大丈夫、なのはは本気なの…!」
目が元の士郎のような鷹のような鋭さを纏ったことで雰囲気から戦士としての隠された才能を感じ取ったのか、父は竹刀を真面目に構えなおしこう告げた。
「いいだろうなのは、いつでも来なさい」
そうこなくては。
「いくよ、全力全開!」
久々に剣を誰かと交えることに、興奮が抑えきれなかった。
十分後…ボロボロに打ち負かされ、ゼエゼエと肩で息をして道場の床に寝転がっていた。
「お父さん、やっぱりすごい強いの。なのはじゃまだまだ叶わないなあ」
こんなになったのは第五次聖杯戦争を共に駆け抜けた大切なパートナーであったセイバーに剣の稽古をつけてもらった時以来かもしれない。
ちなみに筋力差を補うためにバレない程度に身体強化をこっそり使ってみたものの、やはり今までトレーニングもろくにしていなかったので筋力そのものが無く、体力差や晩年に比べて1メートル以上身長が縮まったため、大きく異なるリーチ差の修正を入れながらやっていたのでまったくうまく戦えなかった。これではイメージする最強の自分には程遠い。
今後迎えるであろう成長期を待ちつつ肉体面での鍛錬も積む必要があるだろう。
「いや、お父さんもびっくりしたし、大したもんだ。気を抜いたら負けそうだったよ。いったいどこでこんな剣術を学んだんだい?」
彼は娘の才能に素直に感嘆していた。
「私もあんな剣術見たこと無いわね」
御神流の剣技や型を盗んだのではない、また今まで目にしてきたどの流派にも見られない物で、なのは本人が何かしらの戦いから生み出したであろう防御に特化した、されど非常に実戦的で努力と経験に裏打ちされたかのような研ぎ澄まされた物に驚いていた。
今は成長期前で体がついていっていないだけで、成長し筋肉が付けばいずれは素晴らしい剣士となるだろうと三人は感じていた。
「なんとなく…なの、あはは…」
流石に剣術は衛宮士郎としての様々な経験と努力の蓄積の結果であるとは言えなかったのでお茶を濁す。
「なんとなくでお父さんをあそこまで追い詰められる?しかも一日や二日で身につくような技じゃないわよ、アレ」
「なのははうちとはまた別の流派を開ける逸材かもしれないな」
彼女の才能を兄と姉が評価する。
「皆いいすぎなの〜」
久々に褒められ恥ずかしいので頰をぽりぽりかきながら答えた。
「いや、これは紛れもなく本心だぞ。なのはは優れた剣の才能があったんだな。先程の言葉は訂正しよう。私では今の型を崩しかねないのでなのはの剣技を直接は教えられないが、一緒に稽古するぐらいはできるだろう。やるかい?」
「うん、そうするね。ありがとなの」
こうして、彼女は兄と姉に混じって剣の稽古に参加することになった。
なおこの子は左利きであったが、努力の結果両利きにすることができた。
そうして父や母、姉や兄といった生前には記憶がなかった肉親達の愛を全力全開で一身に受けすくすくと成長して小学生となり、大切な友人であるアリサ・バニングスと月村すずかとすずかを虐めていたアリサを止める形で喧───お話を経て親友となり、魔術使いということを隠しながらも楽しい毎日を過ごしていた。そして子供ながらも時間があるときには家族で営む翠屋を健気に手伝う姿はご近所でも評判であったりした。
だがある日を境にそんな平穏な日々は脆くも崩れ去ることになった。発端となった事件は令嬢であるアリサとすずかが何者かに誘拐されそうになった時にたまたま居合わせた時だ。相手はナイフなどを持っており、その際手頃な武器になりそうなものを持ち合わせていなかったので、殺さないように仕方なく刃を潰した日本刀を投影して犯人達をあっという間に気絶させ、手近な物で縛り上げた。
その時いきなり武器が出てきたことへの疑問がアリサから投げかけられた。
「なのは、今のその剣どうやって出したの。手品じゃないよね?そんな大きな剣、隠す場所なんて無かったし」
アリサ達は彼女がいつものように家族に混じって剣道をしており優れた剣の使い手であることは知っていたが、何もないところから突然剣が出てきたことには心底驚いていた。
「えっと……」
魔術は基本的に隠匿されるべきものだが、いくらなんでも親友の記憶を自分の都合で勝手に操作するのは戸惑ったので二人に目を向けて問いかけた。
もちろん、知りたいと答えられたら今後は彼女達を外道な魔術師から守りぬく覚悟はもちろんあった。
「アリサちゃんとすずかちゃんに話すことがあるの。でもね、この話を聞いたら二人が今日なんかと比べ物にならないぐらい危険な目に巻き込まれるかもしれないの…。だから怖かったら帰って、今日のことはさっぱり忘れちゃってもいいよ。それでもなのはは二人の友達だから。あと、もし怖くて忘れられないってなら記憶を消すよ」
二人の回答を待つためにじっと待つ。
もし、ダメだと言われてそのまま帰られたり、関係が変わってしまっても仕方がないと考えていた。自分はそもそもこの世界には存在してはならない異質な者だということは嫌というほど自覚していた。
だがそんな僅かな疑念もなんのそのの二人はあっという間に答えを決めた。
「大丈夫だよ」
「聞かせてほしいな」
彼女達の決意を得て、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「なのはは魔術…わかりやすく言うと魔法が使えるんだ。特に剣に関する魔術が得意なの。さっきのはその魔法で作り出した剣。だから私は普通の人じゃない。それに、高町なのはって子も本来の私じゃない」
由来などの詳細は伏せながら自身の魔術と生前についてを話す。
「どういうこと?」
「えと…?」
前半はともかく、後半が理解できないのかアリサとすずかは首を傾げた。
───当然の反応だろう。
「私はなのはという子の存在、つまりこの世界で高町なのはっていう子にいるはずの魂に私の魂を上書きして生まれた人間といえばいいのかな。だから本当の高町なのはじゃないの」
話を聞いた彼女達は何も口にしなかった。いきなり、本来のなのはではないと言われれば驚くだろう。
正直この話をすれば嫌われると思っていた。
「よくわからないんだけど、生まれ変わりってことなのかしら?中身が別人でも、私が友達になったのはなのはよ。ずっと友達で付き合ってきて、そんなことぐらいで私がなのはのこと嫌いになると思ってたの?見くびらないでよ」
「私も…魔法が使えても、なのはちゃんじゃなくてもすずかのお友達だよ」
「アリサちゃん、すずかちゃん……!」
顔が明るくなり、同時に涙が頬を伝っていく。なんだ…私は最初から素晴らしい友達に恵まれていて、自分が勝手に友達じゃなくなるって怖がっていただけじゃないか。
「あ…りがとう……なのはね…このことが知られたら二人に嫌われるんじゃないかってずっと怖くって」
「あんた、本当にバカね」
つられてアリサも泣き出した。
「今まで嘘ついてると思って辛かったんだね、なのはちゃん。もう大丈夫だよ」
すずかが優しく私を撫でてくれたので、二人に顔を埋める。
「うう〜」
魂は成人男性でも、心の根本は女の子になっていたので泣き虫になってしまい涙目になって二人に抱きつく。
二人の気遣いという温もりが心地よい。
「よしよし、大丈夫だよなのはちゃん」
「ごめんね、二人共…ずっと黙ってて」
「いいんだよ…怖いことは───誰にだってあるだから」
一瞬、すずかの顔が曇ったのはなぜだろうか。
「ぐすっ……隠し事なんかしないでもっと話してよね」
「うん、ありがとなの」
そうして、三人は今まで以上に打ち解けた。
そして後にすずかの一家が吸血鬼の末裔であることを知った。
兄、恭也がすずかの姉の忍と付き合っていたのは知っていたので、なぜいきなり修業を重ねていくようになったのかも理解した。
そういう事情があってもすずかはとても大事な友達であり、自身も異能を行使する魔術使いだし彼女の出自など気にするほどのことでもない些細な事だ。だから「それぐらいですずかちゃんを嫌いにならないの。これからもよろしくね」と笑顔で言った日から彼女のスキンシップがなぜか女の子同士というレベルを超えて激しくなったことに首を傾げた。
そんな小学生でありながら既に百合の園を築き上げつつある彼女がある少女に出会ったのは、とある日の図書館であった。
たまたま学校の宿題の資料と投影の鍛錬のために武器の歴史書を借りに来ていた時に出会った。
私が貸出コーナーへ向かう途中、小説のコーナーの一角で車椅子の少女が高い位置にある本を取りたがっていたのを見かけた。少女は本を取ろうと何度か背伸びをして試みたが、うまくいかず取るのを諦めてしまったようだった。
偶然、周囲には人がおらず、助けられる人がいなかったので足は自然とそちらへ動いた。
「あの…よかったら取りましょうか?」
「あ、ええですか?」
この少女は見たところ同学年ぐらいなようだ。なら敬語じゃなくてもいいかな。
「もちろんなの。それでどれを取ればいいのかな?」
「あの上から二段目の左端のハードカバーの小説や。ごめんな、うちこんなだから取れなくて」
これは高校生や晩年の頃の自分でないと取れない高さだ。何か足場となるものを探さないと。
「いいのいいの。ちょっと待っててね」
「うん」
視界の隅にあった書棚用の踏み台をとてとてと持ってきて踏み台に上がり、彼女の言った本を取り出して渡した。
「はい、これでいいかな?」
「そうや、これやこれ。ほんまありがとな〜。これずっと読みたかったんや。近くに司書さんもいなかったし、うちがちゃんとしてりゃ、あんたさんに迷惑かけることもなかったんやけど」
自身のあり方は衛宮士郎であり、あくまで己よりも他人が優先されるため、できないことでなければ手助けをすることに何も躊躇いがない。
だから彼女が懸念したような迷惑などとは全く思わないし感じないし、むしろ人助けが出来たことのほうが嬉しいと思っている。
なので申し訳なさそうにしている彼女の心をほぐそうとニコっと笑って答えた。
「大丈夫。私の好きでやってるから気にしないでね」
「ありが…ってうわ、困ってるウチをさりげなく助けてからのいきなりのとびきり笑顔とフォローを披露で正統派美少女におっぱいのついたイケメン属性が加わったわ!こりゃ百合ハーレムを作って出会った数多の女の子を泣かせまくってきたな!?」
「なんでなの!?」
いきなりハイテンションになって訳の分からないことを言い始めた少女に、思わず生前の口癖を口走ってしまった。
自身は気づいていないが少女の言うことは本人が積極的な百合属性持ちではないことを除けば大体あっている。
「ほんじゃまたな。本、ありがとね。あんまり女の子、泣かせちゃあかんよ〜」
そう言って車椅子の少女は暴風のようなテンションで去っていった。
「一体なんだったの……」
この少女は後にアリサとも知り合いの八神はやてという名の女の子であることを知り、この子を巡って世界が危機に瀕する大変な事件に巻き込まれるのだが、それはまだ先の話である。
それから数日後の夜、久々に奇妙な夢を見た。セイバーやアーチャーの壮絶な夢を見た時以来かもしれない。
「誰か力を貸して」
謎の少年が夢の中で助けを求めてくるというとんでもないものを見た。
なお翌朝、たまたま家族全員が忙しく誰も起こしに来なかったので壮大に寝坊したため学校で担任の先生にひどく叱───お話されたのはここだけの話だ。
泣きたい。
そして、その日の帰り道、怪我をしていたフェレットを塾に向かう途中で近道をした公園でいつもの三人で偶然助けた。
なぜか溢れ出るほどの魔力をその動物が帯びていたことを不審に思い、明日預けた動物病院に様子を見に行こうと考えながら眠りについていた際に耳に「助けて」という昨日の夢と同じ少年の声がまた聞こえた。戦場で仮眠をとる際の習性が残っていたのか一瞬で私は飛び起き、パジャマのままで部屋を飛び出した。
もう一度耳を澄ますと声が聞こえた方角は最初にフェレットを見かけた公園の方だった。そういえば公園の手前に預けた動物病院があったと思い出し、あのフェレットに何かあったのかと身体強化をかけてトップスピードで街中を駆け抜けた。屋根伝いに飛ぶ際、途中にあった動物病院を視力を強化した目で見ると既に外壁が何者かによって破壊されており、推測は確信へと変わった。
「間に合ってなの!」
裸足のままであったがなんとか公園にたどり着くと、フェレットが何物かと戦っていた。
動物が謎の生命体と戦うなど、どこのSFだ。
「なんなの、アレ!?というかどういうこと!?」
「君は!?」
「えっとフェレットさん、とりあえず下がってて!」
フェレットが流暢に喋ったことはとりあえず脇においておくとして、あの暴れまわっている怪物のほうが問題だ。
「ゴーレム?グール?キメラ?いや…今までどれも見てきたけど違うよね…」
それはまるで純粋な魔力が意思を持ったようなものであった。ここで倒さなければあのフェレットが逆に倒されてしまうし、これが街に出れば大災害は免れないだろう。遠坂に叱られそうだが魔術という神秘の隠匿をいちいち気にしている暇はない。
「こうなったら認識阻害とか結界を使ってる暇はないかな───
いつもの言葉で両手に使い慣れた干将・莫耶が投影された。あれから日が経ち日課の鍛錬の結果も出て、投影の精度は上がり今では全盛期よりも少し劣る程度まで投影ができるようになった。まだ精度には不満があるが、こればかりは日々の積み重ねなので仕方がない。
「はああ!!」
トレーニングと稽古で鍛えた筋力に身体強化で力を乗せ斬る。魔物の体の一部が両断され、たまらずに魔物は悲鳴を上げる。
これならなんとか倒せそうかも…と思っていた矢先、背後にいるフェレットから予想外の言葉が聞こえたので動きが止まってしまった。
「あっ、そこのあなた!それをこれ以上傷つけないで下さい!」
「なんでなの!?」
倒そうとしたら倒しちゃ駄目だと言われれば流石に混乱する。
「えっと、それはきちんと手続きを踏んで封印をしなくちゃいけなくて、封印するにはこれが必要なんです。今から僕がいう詠唱を繰り返して下さい」
一旦戻った私にフェレットはそう告げて、首から下げていた赤い小さな宝石のようなものを手渡してきて、必要な呪文を言った。
「わ、わかったの」
なるほど、どうやら魔術で倒すのでは駄目らしい。
「細かいことは全部このレイジングハートがやってくれますから」
それなら話は早い。早く倒さなければこれはまた動き出してしまう。もたもたして自己再生とかされたりしたら堪ったものではない。
「───我、使命を受けし者なり。契約の元、解き放て。風は空に、星は天に。その不屈の心は───この胸に!」
レイジングハートと呼ばれた赤い玉からまばゆい光が出て、自身の青色の魔力と混ざり合っていく。
「この手に魔法を!レイジングハート、セットアップ!」
「Stand by, device mode set up.」
無機質な女性のプログラム音声と同時になのはの足元に魔術では見たことがない魔法陣が描かれ、青色の莫大な魔力が迸る。
「な、なんて魔力だ!───はっ、落ち着いてイメージして!君の魔法を制御する、魔法の杖の姿を!そして、君の身を護る強い衣服の姿を!」
「え?ええっ?でもそんな急に言われても!?」
とっさにどこかの世界で義理の姉ではなく義理の妹となった少女が魔法少女?として着ている衣装をイメージし、杖はその相方?である愉快型魔術礼装で割烹着の悪魔の声から並行世界を跨ぐ不思議な喫茶店にいる渋いおっさんなナマモノの声まで出せるステッキをイメージした。
そうしてまたたく間のうちに、レイジングハートが巨大化し、そのステッキを模した形へと姿を変え、自身も変身をしたなのはであった。
───後に、自業自得でレイジングハートは何も悪くないと分かっていながらも、変身する度に魔法少女になってしまった遠坂の悪夢をなんか思い出して嫌だと何度か周囲に愚痴ることになった。
「成功だね。ともかく急いで封印を!」
「どうすればいいの?」
干将・莫耶などで倒すのは駄目ときたら、封印する方法はこのインテリジェントデバイスという魔術礼装のようなものを使うしかないようだが、あいにくその方法を知らない。
「僕達の世界の魔法というのはプログラムなんです。発動に必要なのは術者である貴女の精神エネルギーで、今対峙しているのはロストロギアが生み出した意思を持つ思念体です。あれを止めるには───」
「ようはなのはがこの杖を使って封印すればいいんだね?」
「そうで…ってずいぶんあっさりと理解したね」
「結構慣れっこだから、こういうこと」
「はあ…?」
フェレットはこんな少女がなぜこんな状況に慣れているのだろうと思ったが、転生する前には銃弾や砲弾が日常的に飛び交う紛争地帯をウロウロしていたし、魔術協会や聖堂教会からの依頼で死徒やグールを狩ったり、遠坂と共に何も知らない一般人を実験に利用しようとした外道な魔術師を倒したりしたこともあったので、この程度の怪異や脅威には慣れていた。
「それで、封印の仕方は?急がないといけないんじゃないかな?」
「あ、えと…また頭のなかに必要な呪文が自動的に浮かんできますのでそれを口にすればOKです」
ユーノはあまりに順応しすぎな少女の態度に首を傾げながらも努めて冷静に手順を説明する。
「了解なの」
さっきは慌てていたので考えもしなかったが、冷静に考えると発動に必要な呪文が自動で思い浮かぶなんて高速詠唱が使えるキャスターが聞いたら卒倒しそうだ。正直自分も驚いている。
そう思いながらあの怪異生物を封印するためのキーとプログラムをイメージする。
「リリカル・マジカル───封印すべきは忌まわしき器!ジュエルシード!」
その声と同時にものすごい音とともに莫大な魔力砲が放たれ謎の敵が断末魔と共に倒された。
「あうう…」
まさか時代遅れの大艦巨砲主義ではあるまいし、こんな莫大な魔力の使い方では完全にオーバースペックで無駄遣いだ。
それにこんな爆音を毎回鳴らしていては近所迷惑にも程がある。生前には
今後封印を続けていく必要があるなら、防音や防御の結界を魔術で用意するか、魔力の使い方を可能な限り制御する必要があるだろう。
「無事に封印できたみたいだけど、いったいどうしたんだい?」
「ううん、なんでもないの。ただ自分はひどく近所迷惑な魔法少女だなあって思っただけ…」
「…?」
がっくりと項垂れる私に謎の喋るフェレットは不思議そうな目線を送っていた。
「えと、それでもうジュエルシードってのは封印できたの?」
「まだです。ジュエルシードに杖で触って封印を完了して下さい。呪文はまた頭に浮かびますので」
「わかった」
思い浮かんだ言葉と動き通りに宙に浮いたジュエルシードに杖を当てると、レイジングハートが反応し頭にまた呪文が浮かんだ。
「ジュエルシード、封印!」
「Sealing mode set up. Stand by...ready.」
レイジングハートの声に応じてジュエルシードの表面にシリアルナンバーが浮かび上がった。
「ジュエルシード!シリアル21、封印!」
「Sealing.」
まばゆい光とともに、レイジングハートの中にジュエルシードが封印された。
「これで無事に封印完了です。この度はご協力感謝します」
「いえいえなの」
これでやっと一息つけた。まずはこの喋れる謎のフェレットから話を聞いて今置かれている状況をしっかりと確認しなきゃと思ったら、耳にとても嫌な音が聞こえてきた。
「あはは…逃げなきゃいけないかな」
たらりと額に一筋の冷や汗を流れた。
───なんでいつもこうなるのか。
聖杯戦争の時は警察や消防が来る前に手を打つ教会がいたが、ここにはいない。
「どうしたの?」
「警察っていうかおまわりさんが来て、なのはが悪い人として連れてかれちゃうから逃げなきゃなの!」
そう言って慌てて血まみれのユーノをやさしく抱きかかえると、遠くから聞こえるパトカーのサイレンをBGMに盗んだバイクではなく身体強化をかけた足で公園を速やかに離脱した。
正義の味方としていいことをしてもイコールで評価されないのはよくあることだとわかっているが、やはり理不尽だ。
───こうして、衛宮士郎こと今は高町なのはという憑依転生者はリリカルでマジカルな世界でまたも己の信念、正義の味方になるために戦うこととなる。