リリカルでマジカルな世界に憑依転生した正義の味方(StrikerS編制作検討中)   作:四条小鳩

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 ようやっと闇の書事件が終わった高町なのはちゃんの前に第二魔法の行使ができるようになったあかいあくまこと遠坂凛が現れ、生まれ故郷である冬木に里帰りしないかと提案され、彼女は友達を連れて冬木に戻ることとなりました。


番外編
その1「冬の日、懐かしの衛宮邸」


 ───年明けに突然来た遠坂凛から冬木に里帰りしろと言われた翌日。

「じゃあ皆、準備はいいかしら?」

「はーい」

 旅行の支度をした全員の同意の声が、月村邸の広い庭に響く。

 結局私以外に誰が行くかのかというゴタゴタを経て、今回冬木に行くのは親友であるアリサ・バニングス、月村すずか、フェイト・テスタロッサ、八神はやて、そしてサーヴァントのアリシア・テスタロッサにはやての護衛に守護騎士のシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラに保護者のプレシア・テスタロッサというメンバーに落ち着いた。

 私と遠坂はプレシアやヴォルケンリッターを最初連れていく予定ではなかったのだが、プレシアは娘も行くならといいつつ元研究者としての性なのか並行世界というものがどういうものか見たいと言い、守護騎士である彼女達は知らない世界で主を守るから連れて行けと言い、最終的にこちらが折れて彼女達の世界の保護者と護衛という立場で無理やり同行させることにした。

 ちなみにユーノはアースラで事後処理の手伝いがあるため行けなかった。彼も研究者なので行けないことにたいそう悔しがっていたので、今度は連れて行ってあげて今回は新都でなにかお土産でも買っていこうと考えていた。

 闇の書の管理プログラムであるリインフォースは流石に人数が多すぎると思ったらしく、彼女自身が遠慮した。ユーノやアースラ所属の執行官であるクロノ・ハラオウンのと合わせて彼女の分のお土産も買っておこう。

 そして保護観察処分中のプレシア達が並行世界に行くことに渋い顔をしたクロノだったが、遠坂の顔を見た瞬間に旅行の許可を出した。

 ───この世界でまで恐れられるなんてどんだけだ、あかいあくま。

 ちなみに彼の母親かつ上官である提督のリンディ・ハラオウンは二つ返事で了承を出した。

「じゃあなのは、いってらっしゃい」

「気をつけるんだぞ」

「なのは、怪我しないようにな」

「今度はお姉ちゃんも連れて行ってね〜」

 翠屋はたまたまおやすみだったので、家族全員が見送りに来てくれた。今度余裕がある時は家族も連れて行こうと思っている。

「すずか、気をつけていってらっしゃいね」

「うん、お姉ちゃんありがとう」

 すずかの姉である月村忍も見送りに出てきた。

「主様、お気をつけて」

 出迎えに来たリインフォースがはやてに一礼した。

「ありがとな、リインフォース。お土産たくさん買ってくるから楽しみにしててな」

「お気遣いありがとうございます」

「いきますかね、遠坂」

 私は彼女へ目配せする。

「じゃあ行くわよ。並行世界の間で迷子になっても知らないから絶対に全員手を離さないこと。いいわね?」

 

 そうして並行世界を渡ってやって来たのは大きな地下空洞であった。

 ───そこはあまりにも見知った場所であった。

「すごい…広い所」

 フェイトが大聖杯があった空間の巨大さに驚いていた。

「───大聖杯、か」

 ここは正義の味方として明確に歩み始めるキッカケとなった聖杯戦争のために二百年以上前に遠坂、間桐、アインツベルンの三家により作られた場所であった。

「複数人連れてくるってことでここの霊脈の力を座標としてちょこっと利用したの。うちでも良かったけど、全員が出るのはちょっと狭いしね」

「ここ、わずかだけど何かしらの大規模な儀式の痕跡と魔力の痕跡があるみたい。ここが前に聞いた聖杯…というものの本体なわけかしら?」

 プレシアは大聖杯の残した痕跡に気がついたようだ。

 これにすぐに気付くとはさすがは元研究者だなあ。

「プレシアさん流石ですね。でももうこの大聖杯は機能しませんよ。数年前に私が桜達と一緒に無事に解体しましたから」

「お、あの魔力は坊主か。ずいぶんちんちくりんになってるが可愛くなったもんだ」

 聞き慣れた声に青い髪のマッチョな男…あのアロハシャツ姿じゃないがあれはおそらくランサーか。相変わらずケルトの大英雄らしくないノリが軽い男だなあ。

 ざっと待ち受けていた面々を見渡せば、知っているメンバーばかりだった。おそらく大聖杯の解体時に溜め込まれた魔力を消費するために受肉したり復活したりしたのであろう。

 聖杯戦争で亡くなった者も多くいてなんだか同窓会のようだ。

 その集団の中から、特徴的な美しい金髪をイギリス巻にした碧眼の少女が飛び出してきた。

 私にとって、転生してからも忘れることがない彼女との出会いと日々。自分がまだ衛宮士郎だった時に偶然召喚し、聖杯戦争を共に戦った大切なパートナーであり受肉したのであろう騎士王がそこにいた。

「ああシロウ!いえ…いまはナノハですね。お久しぶりです、あなたにずっと逢いたかったです!」

 久々に見た彼女の慈愛に満ちた目に、思わず泣きそうになった。

「セイバー…なのはもずっと会いたかったの」

 駆け寄ってきた彼女にぎゅっとハグされ、昔は見下ろしていた顔を今は見上げることになって泣きそうなのに嬉しいという不思議な気分となった。

 彼女の穏やかな温もりが心地よい。

「ナノハ、危ない!」

 私がセイバーとの再会の余韻に浸っているとなぜか彼女はとっさに概念礼装姿となって武装し、不可視の聖剣でセイバーめがけて飛来した物体を叩き落とした。

 急に何があった?

 聖杯戦争が終わり、遠坂や桜といった有能な魔術師や実力者揃いのサーヴァントがいる中で攻撃をしてくる馬鹿な魔術師などいないはずが…。

「そこの人、なのはちゃんから離れてくれませんか?」

 訂正───そんな人がいました。

 ハイライトが消えた目ですずかが複数の黒鍵を投擲し、それが地面に刺さっていた。

 彼女は更に黒鍵を投擲しようとしていたし、横にいるアリサもなぜか不機嫌だし、フェイトは悔しそうにハンカチをかんでいた。

 どうしたんだ急に皆して。

「あらあら、この世界に来ていきなり修羅場とはなのははんは凄まじい女好きなんやねえ」

「でしょー?本当に参っちゃうわ〜」

 はやてが無意味に煽り、遠坂がそれに乗る。

 相変わらず失礼なことを言う声がやけに似ている友人と師であったが、今はそんなのを相手にしている余裕はない。

 この混乱を冷静にそして誰もが怪我をせずに収めなければならないからだ。

「貴様、いきなりなんという狼藉を働くのですか!対応次第では我が聖剣の錆にします!」

「───そういう貴女こそなのはちゃんのなんなんです?さっきからなのはちゃんとベタベタして、何様のつもりですか」

「私はブリテンの騎士王、アルトリア・ペンドラゴンだ。そしてここにいるナノハは私のかつてのマスターであり、伴侶で大切な鞘だ。久々の再会でハグするぐらいなんだというのです。貴様こそ何様のつもりだ」

「へえ、伴侶なんですか。伴侶…伴侶……」

 騎士王と吸血鬼の末裔の少女との間でぱちぱちと火花が散る。

 あれ、おかしいな…なんで女同士で女である私を巡って喧嘩をしているのだろう。

 ともかくこんな場所で聖剣を振り回されたりしたら大変だ、二人を止めなきゃと思って口を開く。

「セイバー、落ち着いて!それとすずかちゃん、セイバーとなのはは聖杯戦争のマスターとサーヴァントであっただけで、何もやましいことはないからね?ちょっと落ち着いてもらえないかな」

「それは本当なの、なのはちゃん?この女の人とは何もなかったの?」

 彼女の正気が抜けた目でじっと見つめられ、うわあ、ここから逃げ出したいよお…と背中に冷や汗をかく。

 それもそのはず彼女がまだ彼であった過去の記憶から聖杯戦争の時に遠坂とともにデートに付き合ってもらったり、うっすらと繰り返す四日間の中でセイバーとプールなどでデートしたり、挙げ句の果てには風呂場で乳繰り合ったりしていたことを思い出したので、言い逃れ出来ない余罪がバッチリとあった。

 あの世界にいた私は正確には『アンリマユ』で自分ではないのだが、それも込みで説明をするとなると大変すぎる。

「───ウン、ソウデスヨ」

 なので、片言の日本語になる感じで応えるしか無かった。

「私、なのはちゃんのこと信じてるからね?裏切ったりしないって」

 レイプ目でとんでもないことを言うすずか。

 なにか、倫理とかいろいろな意味で子供がしていい目や発していい言葉ではない。

 ───うん、これはとてつもなくまずいぞ。

「誤解なの〜!」

 そんな騒ぎを他所に、なのはの義理の姉であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは…。

「お兄ちゃんたらまた新しい子連れて、やっちゃえ、バーサーカー!」

 とバーサーカーをけしかけようとして、狂化しているとはいえ根は紳士なヘラクレスは、中身が士郎とはいえ聖杯戦争中でもないし過去の自分でもないのに幼い子供を手に掛けてなどという無茶苦茶な命令には従えないとおろおろしている。

 後輩で間桐の魔術師である間桐桜はニッコリと笑いながら…。

「先輩ったら………転生した先の世界でも女の子を侍らせて」

 とボソボソと呟きながら黒い触手をウネウネさせ、それをオロオロとした顔でなだめるライダーがいた。

 この中で数少ない味方になりそうな男性のランサーは…。

「アーチャーの野郎と同じで相変わらずの女難だな」

 と慰めるつもりが欠片もないようにゲラゲラと腹を抱えて笑っているし、キャスターに至ってはなぜか手に何着も持ったフリフリの服をフェイトやヴィータ達に着せようとしてとてもウザがられていた。

 そんな何とも言えない混沌さがこの場を支配していた。

 この時の私はあの愉悦神父は八極拳と中華料理(反面教師的な意味で)以外にこの状況を作り出した妹弟子になんという教育を施したのか、地獄まで行ってお話したいと思った。

 ───なんともいえないカオスな空気を打ち砕いたのは、この騒動の原因を作った少女であった。

「おお…これはなんとも夢とロマンが詰まりすぎた乳袋やないか!弾力、張り、大きさ、触感、何もかも全てがパーフェクトや!ここが…こここそがウチの全て遠き理想郷(アヴァロン)やったのか!」

 いつの間にかはやてがライダーと黒い桜の背後に回り込み、二人の胸を一人で揉むという荒業をやってのけ、黒くなった彼女が驚きのあまり元に戻ってしまった。

 それが引き金となって、大聖杯内がしんと静まり返る。

 そもそもあの触手やサーヴァントすら飲み込む力をどう掻い潜ったのだろうか。それは彼女のおっぱいに対するはてなき欲望が不可能を可能にしたのだろうか…。

「あ、あの…先輩?これは…?」

「この少女は一体なんなのですか…ナノハ」

 二人はいきなり見知らぬ少女に胸を遠慮なく揉まれていることに大変困惑していた。

「はやてちゃん、二人にセクハラ禁止!!それとライダー、遠慮なく魔眼でこのおっぱい馬鹿魔神を石化してなの!」

「ああん、なのははん堪忍や。うちの全て遠き理想郷が〜」

「いいかげんにして!!」

 未だに揉もうとするはやてをなんとか二人から引き剥がして、説────もといお話をする。

 桜はいくらなんでも石化させるのはやりすぎだと思い、とりあえずはやてへ助け舟を出した。

「まあまあ先輩、子供がやったことですし私は気にしてませんから」

「はい、私も気にしてませんよ」

 本来は心優しい間桐の主従コンビは苦笑いを浮かべながら進言してきた。

 二人がそう言うならとはやての首根っこを掴んだまま私は渋々従った。

 

 やっと大聖杯内での馬鹿げた騒ぎを収めて、私が育った家にやってきた一同。

 会うと非常に気まずいというか説明などがややこしいことになる相変わらず穂村原で英語教師をやっているらしい冬木の虎こと藤村大河(ふじねえ)は、隣の県に泊りがけの教員研修に行ってるらしいので今日から数日間不在で、今回堂々とここへ来ることができたのだ。

「ここが私の家だったの」

 本来の我が家を彼女たちに紹介する。

「ザ・豪邸って感じやな」

「私、こんな和風の家って初めて見ました」

「すずかのお屋敷とはまた違った豪邸ね〜」

 小学生三人は衛宮邸の広さにびっくりしていた。

 住んでいた屋敷はともかく生前も今も庶民な自分からしてみれば、二人の家も十分豪邸にカテゴライズされるんだけど。

「すごい家ね…」

「ふむ…なのはは和風?という家に住んでいたのだな」

 プレシアとシグナムも感嘆していた。

「あ、マスターの家だ」

 アリシアは私の記憶を見たから知っていたのだろう。あまり驚いていなかった。

 しかし、あれから結構な年数がたっているはずなのに殆ど外観が変わっていないのは、あの家事バカ(アーチャー)か桜などが熱心に手入れや掃除をしていたからなのだろう。

 様々な意味で思い出深い場所なので綺麗にしてくれているのはありがたい。

「あはは…この家は私の爺さん、えっとこっちの世界の大災害で家族を失った私を拾って育ててくれた義理のお父さん、衛宮切嗣が買った家なの」

「リンディさんの部屋よりなんかちゃんとしてる?」

 フェイトはどこでも見たことがない立派な武家屋敷をぽかんとしながら呟いた。

 あのいい加減な日本趣味の部屋と我が家を一緒にされては困るんだけど…。

「あれはだいぶ日本文化を曲解してるから…。増改築はしてるけど、こっちがそれなりにちゃんとした日本家屋だよ」

「いつまでも門の前で突っ立ってないで入りましょ」

「そうだね」

 そうしていつものように門から入り母屋の戸を開け、家に入る。

 中は私が住んでいた頃のようにホコリ一つなくピカピカに掃除され、嗅ぎ慣れた木の匂いに満ちていた。

 この雰囲気も久々で懐かしいし、戻ることはないと思っていたもう一つの我が家にまた戻ることができたのが心の底から嬉しい。

「お邪魔します」

 全員の声が揃う。

「どうぞ〜って今のなのはもある意味じゃ部外者だけどね、にゃはは」

 そうしてとりあえず大人数が入れるだろうと思っていつものように居間に行ったらアイツがいた───しかも上座の一番いい席を陣取って。

 最古の王(きんぴか)のふてぶてしい態度はいつまでたっても変わらないようだなあ。

「なんでギルガメッシュがウチにいるの!」

「英雄王!」

 セイバーも瞬時に武装して、約束された勝利の剣(エクスカリバー)を構えて皆の前に出た。

「セイバー、アイツを倒すのはいいけど、部屋の中で聖剣をブッパしたりはやめてね?対城宝具なんだから片付けるのが大変なの」

 相変わらず、いつものメンバーの中では家よりも扱いが下で雑な英雄王だが、セイバーに夢中なのかそれに気付いていない。

「おお、セイバーよやはりいたか。良い良い。今日の我は気分がいいから答えてやろう。簡単なものだ。この世の全ては我の物と何度も言っているだろう。となれば贋作者(フェイカー)の粗末な荒屋も我の物だろう?」

 ───ジャイアニズムもびっくりな極論が来た。

 我が家が荒屋かどうかはともかく、家主は小学生の女の子になっているけど一応は私なんだけど…という文句は心中に留めておく。

 怒って王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)でも使われたら知らない人間は大騒ぎになる。

「はあ…もう勝手にして」

 真面目に相手をしてもしょうがないので放置することにした。何かしようとすればセイバーが止めるだろうし。

 そんなワガママ過ぎる王様は一瞬で自分と周囲の人間たちの関係性を理解したようだ。

「貴様、生前だけならまだしも転生した後にも己の後宮を築くとはな。我からの最大の賛辞とハーレム王という称号を与えよう。大いに誇るがいい」

 あの親子と同じく愉悦が大好物な英雄王がランサーと同じように腹を抱えて笑っていた。

 そんな不名誉な名前はいらない!

「マスター、後宮とハーレムってなあに?」

「なのはさん?」

 無垢な目で意味を聞いてくるアリシアとジト目になったプレシアの目線が痛い。

 冤罪です!と言いたいけど、人生の中で身に覚えがありすぎるのでしっかり反論できないのが悲しい。

「ああもうこの色情魔王!小学生達の教育に悪いからだまっててなの!」

「今の貴様もその小学生ではないか」

 ───また子供のような屁理屈を。

「そんな子供みたいな屁理屈は言わない!!」

「英雄王、あんまりふざけるとカレンから預かったアレ、燃やすわよ」

 さすがに話が進まないと判断した遠坂が割って入ってきた。

「ぬぅ!?このぉ!貴様雑種のくせに人の弱みを握るなど卑怯だぞ!」

 お前が言うな、と思ったのはここだけの話だ。

「卑怯で結構。士郎の家を吹き飛ばされたくないしね」

「ぐぬうう!!」

 彼は怒りのやりどころが見つからないのか、王の財宝を突如開くと若返りの薬を出して幼体化した。

「まったくもう、怒ったらすぐに引きこもりですか…。いい加減、文字通りの意味で大人になって欲しいですよ。なんか皆さんすみません、大人の僕が」

「あの人、ちっちゃくなったで!?」

 はやて達が驚いている。

 そりゃいきなり小さくなれば驚くか。

「ああ、大人の僕が薬で若返ったのが今の僕なんです。ええとはじめまして、ギルガメッシュです。気軽にギルくんとでも呼んでください」

「ギルガメッシュ…?」

 フェイトがぽかんとして尋ねる。

「ああ、こいつは英霊の一人で世界で最古の王様よ。メソポタミア文明にギルガメッシュ叙事詩ってのがあるんだけど、その主人公よ」

「よろしくお願いしますね、並行世界の皆さん」

 ニッコリと笑った小さな英雄王を見て、傲慢なところはさておきどうしてこのまま大人にならなかったのだろうと私は呆れた。

 

 そうして騒ぎが収まって桜がいつものように人数分のお茶を淹れて、自己紹介の流れになった。

 一通り海鳴組の自己紹介を終え、次は冬木組だ。

「さて、次は冬木側の紹介に移りましょ。私はもう向こうで済ませたからまずはセイバーからお願いできる?」

「はい、凛」

 まずは隣に座っているセイバーだ。

 自分が女の子になったとはいえ、この座り順も久々だなあと思った。

「私はブリテンで王をしていた、ユーサー・ペンドラゴンの嫡子、アルトリア・ペンドラゴン…有り体に言えばアーサー王と言えばいいでしょうか」

「アーサー王物語、私知ってます!お姉ちゃんと一緒に行った演劇で見たことあります。でも確かアーサー王って男性だったような?」

 正気に戻ったすずかが彼女の由来に疑問符を浮かべる。

 数多ある並行世界をくまなく探せば、伝承通り男性である騎士王アーサー・ペンドラゴンもいるかもしれない。

「うちも知ってる。前に本で読んだことあるわ。たしかブリテン…?イギリスだっけな?その国を外敵から守ったりしたカッコイイ王様の一生のお話だったっけな」

「でも結構悲劇だったわよね。ランスロットだっけ?を倒しに行っている間に息子のモードレッドに裏切られたり…最後はカムランだっけで一騎打ちになって死んだんだっけ?」

 少女たちが口々にアーサー王物語について話すので、意外と博識だなあと思った。

 自身も聖杯戦争に巻き込まれるまでそういう知識は詳しくなかった。

 これが育ちの差なのだろうか。

「ええ、あなた方がおっしゃる通りです。私の性別以外はだいたい伝承通りです。皆様よろしくお願いします」

「あとは、伝承と違うところと言えば腹ペコなとこだろうな」

 笑いながらランサーが付け足す。

「ランサー!」

 彼女は顔を真っ赤にしてからかった彼に食いかかる。

 だが彼女が腹ペコニートなことについては残念ながらまったく弁護はできないのである。

「セイバー、そればっかりはフォローできないの」

 一緒にいた頃はさんざん彼女の食費に頭を悩ませたのだから仕方ない。まあその頃の自分が未熟でまともに魔力供給できなかったのも原因だが。

「ナノハまで酷いです」

「だって…ねえ。聖杯戦争してる時にそんなに酷いのかと思ってブリテンの料理はどうだったの?って聞いたら『……………………………雑でした』とか言ったり、大事なときにまで食事の心配をするから冗談で断食って言ったらひどい目にあったんだもん」

 なんで軽い冗談を言ったらあのへんてこりんな道場にたどり着くことになったのか、未だに納得がいかない。

「あの時は…」

 ゆでダコのようになったセイバーを見て、え、王様って普通の食事で一喜一憂するほど庶民的なものなの?と素を知らないメンツは驚いていた。

 中世初期の食糧事情や食材を何でもかんでもマッシュにしていたガヴェイン卿の事情を鑑みたとしても、彼女にとっては食事は現世での大きな関心事だからだ。

 次は桜だ。

「間桐桜です。えと、私の隣に座っているライダーのマスターでなのはさんの後輩でした。今は逆に私が先輩、というかお姉さんになってますけど。皆さんよろしくお願いしますね」

 そういってにこやかに挨拶する。

 おだやかな彼女の方がやはりいい。

 微笑んで挨拶をした桜の次は彼女のサーヴァントであるライダーを紹介することとなった。

「それで、桜姉さんの隣にいるおっぱいがでかい眼鏡の姉さんは誰なの?」

「はやてちゃん、人を判別する基準がおっぱいなのはおかしいからね?」

 自身も美綴綾子のような中性的な女の子が好きなバイセクシャルとはいえ、こんな少女なのに好き者だと苦笑いしながら彼女は自己紹介を始める。

「私はライダー、わかりやすくいえば機動力を活かした戦いに特化したサーヴァント、ギリシャ神話由来で真名はメデューサと言えばわかりますかね?」

「ええっとメデューサ…なんかで聞いたことあるような?ないような気がするわね。ううーん…」

 アリサが手に口を当てて首を傾げる。

「もう少しわかりやすく言えば、ゴルゴンです」

「あ、私知ってます!ギリシャ神話のゴルゴン!確か目を見ると…って!?」

 またすずかが彼女の正体に気付いたが、すぐにハッとなる。目を合わせると石化することを思い出したのだろう。

「ああ大丈夫ですよ。今はこのように魔眼殺しのメガネをかけていますから。石化することはありませんので安心して下さい」

 私は事故だったとはいえ一度風呂場で石化させられかけたことがあったけどね…。

「そんなことができるんですか」

 プレシアが魔眼殺しのメガネの存在に驚いていた。

 この世には様々な魔術師が居るのだ。その中には封印指定なのに生き残っているという破格の才能を持つ魔眼殺しのメガネを作れる魔術師もいる。

「魔導師と同じく、この世界には私達以外にもたくさん魔術師はいるからね。それである人にライダーの魔眼を封じるメガネを作るようにお願いしたのよ」

 遠坂がライダーの説明に付け足す。

 次は古代に生きた英雄の中で現代に一番馴染んでいるランサーの番だ。

 ───まあ英霊と紹介されても戦闘時じゃなければ初見ではちゃらそうな男にしか見えないだろう。

「俺はランサー…槍を使うのが得意なサーヴァントのクー・フーリンだ。マスターはこのちっこいギルガメッシュと同じなんだが、あいにく今日は教会でミサがあるから外してる」

「誰…?」

 髪が青い以外はどこにでもいそうなマッチョな兄ちゃんもどきなので、もっともな質問をフェイトがする。

 大雑把すぎる説明をした彼に変わって自分が説明する。

「ケルト神話の一つ、イギリスの横にあるアイルランドが舞台の神話に登場する赤枝騎士団の一人、太陽神ルーの息子で大英雄だよ。国から出れない他の戦士に変わって一人で戦ったり、影の国の女王スカサハの元で修行したりした槍使いではトップクラス、おそらく世界で三本の指に入ると思うの」

 そういえば、最初アーチャーとランサーの決闘を目撃してコイツに学校と家で襲われたんだっけ…と回想する。ああして巻き込まれることがなければセイバーに会うこともなかったと思うと、襲われたとはいえ逆に今は感謝したくなった。

「ほえー、エミヤの兄ちゃんともまた違ってすごいんだねクーの兄ちゃんは」

「青い兄ちゃん、強そうだな!」

 はやてとヴィータが感心する。

「槍じゃ誰にも負けない自信があるぜ。それにしてもはやての嬢ちゃん達は赤いのに会ったことがあるのか」

 ランサーは世界が違うのに会ったのか?と思い疑問を投げる。

「うちが闇の書…リインフォースの中に閉じ込められた時に助けてもらったんや」

「アーチャーが現れたということは人類滅亡の危機でもあったのですか?」

 アーチャーはアラヤに属する守護者であり、彼が出てくるのはよほどのことだ。ライダーの疑問も当然だろう。

 私と認めたくはないがアーチャーや遠坂が頑張ったおかげでなんとか人が殺されるなどのことはなかったが、聖杯戦争レベルの過酷な戦いが度々あり冬木市と似たような運命にあった場所が海鳴市なのだ。

 管理局から委託され実質的な管理者(セカンドオーナー)である自分にとっては頭が痛いことが多い。

「まあ何回かね。一回は防衛戦だったけど」

 とりあえずお茶を濁す。

「一体ナノハに何があったのですか…」

「世界相手にお前さん達は一体何したんだよ、核戦争か?それとも遠坂の嬢ちゃんがいってた魔導なんとかの絡みなのか?」

 ランサーとライダーは呆れ返る。

 アラヤを相手にしたということは世界を敵にしたということだ。

「まあ───色々?」

「あの時はけっこうやばかったわね〜。私がいなかったらなのは多分死んでと思うわ」

「いったいナノハに何が…」

 のほほんとPT事件を振り返る遠坂と驚くセイバーを他所にプレシアやフェイトが気まずそうに顔を横にそらす。PT事件の犯人なので、彼女達にとってはいたたまれないだろう。

 もう一つの騒動であった闇の書の関係者であるヴォルケンリッターもなんとも言えない表情をしていた。

「正義の味方なのは変わらずなのですね、ナノハ」

 ライダーも親子や彼女らを見てなんとなく事情を察したのか苦笑していた。

「困っている人を助けないわけにはいかないの。それに皆大事な友達だし」

 たとえそれが世界だろうがなんだろうが、救いたいと思う友達や人がいれば助けるのが私の生き方だ。

「ああ、ナノハはやはり私の鞘だ」

 何もしていないのにドヤ顔なのは相変わらずセイバーらしい。

「んで、そういや肝心のあの野郎はどこに行ったんだ?」

「そういえばまだ来ていないようですね。なんとなく屋敷の何処かには気配がするのですが…」

 ライダーは周囲を見回す。

「今日は何があっても士郎の家に来いとは海鳴に行く前に言っておいたはずなんだけど」

「また遠坂のうっかり?」

「失礼ね、あっちに行く前にちゃんとアイツの目の前で今日の日付と曜日を言ったわよ」

 順番的にはバーサーカーなのだが…あの外見で住宅街を歩かせるわけにはいかず専用の車(どうやら最近用意したらしい)で大聖杯からアインツベルンの森に帰ってもらったので、代わりにマスターであるイリヤの紹介を兼ねて説明した。

「えと、彼女はドイツ出身のイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。なのはの義理のお姉ちゃんで、サーヴァントはバーサーカー…ギリシャ神話の大英雄、ヘラクレスのマスターだよ」

「ご紹介にあずかったイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。皆様、よろしく」

 ドイツの令嬢はスカートをつまんで優雅にお辞儀をする。

「すごい…お嬢様だね」

「纏っている雰囲気が違うわね」

 すずかやアリサを上回る箱入りお嬢様だったので驚いているようだ。

「まさか私もこの歳になって今度は義理の妹ができるなんて思ってもいなかったけど。でも今のお兄ちゃん、けっこう可愛いと思うわよ。なのは、一緒に新都へショッピングに行きましょ。貴女に合う可愛い服をたくさん買ってあげるわ」

 その瞬間、複数の方向から嫉妬の目線が飛んできたが、復活した彼女の齢は既に二十半ばになる。その程度の感情を向けられようとどこ吹く風だ。

「まあまた今度ね?」

「ほうほう、この御方が例のお方ですか」

「その件は誤解だからね?」

 あの騒動はもうゴメンだと思っていたなのはが新たに余計な誤解が生まれる前にはやてへ釘を刺す。

 最後はキャスターの番だ。彼女が召喚した腕が長いほうじゃないアサシン、佐々木小次郎は相変わらず受肉した後も寺の雑用を強いられているようで不在だ。

 なんとも不憫なので明日にでも会いに行こう。

 ちなみに腕が長い真アサシンもとい呪腕のハサンはどうやら間桐家で臓硯を介護しているらしい。アイツのように家事をするのはともかく、サーヴァントが介護?と首を傾げた。

 しかしライダーとは仲が悪いし、いつもは隙さえあれば愛しの葛木先生と一緒にいるほどの彼女が今日はやけに協力的だと感じていた。

「バーサーカーやライダーはともかく、ギリシャ神話のメディア…じゃあそんなにわからないわよね。まあ普段はこの家から見える山のお寺にいる一人の魔術師兼主婦と思ってくれればいいわ。それと遠坂のお嬢さん、約束通りそこの可愛い子たちに私の服を着せるのとあとで魔法とかインテリジェントデバイスっての見せなさいよ?」

「ええ、もちろん」

 遠坂の返答に頷いたキャスターに食い気味に見つめられたフェイト達はビクリとした。

「遠坂、餌で釣ったのね…」

 ああ、だからこの人妻がわざわざうちまで来てたのかと納得した。

 うわあ、セイバーが頑なに可愛い服着てくれないからって可愛い子に対して見境なくなってるし、遠坂は遠坂で私に無断で友達を売ってるしとドン引きした。

 キャスターの餌食となった哀れな子羊たちは、彼女の今にも(可愛い服などを着せたくてウズウズして)舌なめずりをしそうな態度にビクリと震えていた。

 可哀想に…。

「しかしそれにしても、神話の人たちって聞いたからどんだけすごいというかかっこいい人たちやと思ったら、案外普通やったな…」

 まあ、彼らの灰汁が強い個性というのも影響しているとはいえ、人間臭いところは多々ある。

「うん、結構びっくりした。王様とか、戦士って聞くと、なんか演劇とか映画とかみたいな凛々しいイメージあるわよね」

「そうだね〜」

 もちろんそういう側面があるのは否定しないが、英雄だって神であったりしても半神半人であったりしても、人間と同じように考え、感情があり、人生があった。だからそれらを除けば、彼らはあくまでも人間と同じだということは聖杯戦争で学んだことの一つだった。セイバーなどその典型だろう。

「英雄だって中身は人の子だぜ。俺は半神半人だから人生って言っていいのかはわかんねーけど、ちーっとばかしそれが普通の人間より壮絶だったってだけでよ」

「なるほど…」

 

 ───それから。

 居間で団欒している私達の中で、特にキャスターが食い気味にシグナム達のデバイスを見ていた。

 シグナムはデバイスだけを起動し、カードリッジを手にして仕組みをあれこれ説明をしていた。

「それでこれが我々が使うカートリッジです。これに魔力が貯蔵してあって、必要に応じてデバイスに装填して使うんです」

「すごいわ!魔力をこのように貯蓄して使うなんて!」

 キャスターはシグナム達のカートリッジシステムを使う古代ベルカ式魔法に目を輝かせていた。やはり根は生粋の魔術師だからだろうか、私の魔術を見たプレシアのような感じであった。

「この理論を応用して、魔力をあらかじめ何かしらの容器に充填しておいて、放出なり行使をして、また魔力が必要になったらその都度容器を交換するって杖を作ってみようかしら。そうすれば容器の数が許す限りいくらでも魔術が使えるし、いちいち魔力を確保しに行ったり工房にとどまらなくてもいいじゃない。材料と計算さえできればなんとか出来そうね…」

 結界内であれば固有時制御や空間転移といった魔法に近いことができる稀有な才能を持つ神代の魔術師は、プレシアと並ぶほどの天才であったようだ。

「貴方達、明日お寺に来てちょうだい。魔法を使える場所を用意するから」

「は、はあ…」

 シグナム達はそんなキャスターに終始圧倒されていた。

「魔術でも杖は使うけどよ、杖そのものが武器になったりするのは便利だな」

 原始のルーン魔術の使い手でもあるランサーも異なる魔力の使い方に感心していた。

 で、そこから視線を動かすと…。

「あの、や、やめてください」

「あの、ハヤテ、私の胸を揉んでも面白くは…」

「こんなおっぱい見たら揉まずにいられるかー!!」

 また桜とライダーの胸を揉んでいるおっぱい馬鹿魔神はもうなんか色々なので放置。

 さて、プレシアはと思って見たら…。

「宗一郎様がね…」

「うちの人もね、別れちゃったけど…」

 桜を見ていたらなぜかいつの間にか彼女の傍にキャスターがいてプレシアと二人でのろけ話をしていた。

 おいそこの天才二人組、どうしてそこまで妙に意気投合してるのと思った。

 

 そんなこんなで明日の用意があるらしいイリヤと夕飯の支度があるというキャスターが柳洞寺へ帰宅後、我が家の夕食は遠坂と桜が用意することになっていたらしい。

 様々な運命で引き裂かれた姉妹が同じキッチンにいるという光景を微笑ましく見ながら、どんな夕飯になるのか楽しみにしていた。

「なあ、今日のご飯はうまいのか?」

 ヴィータがワクワクしているのか尋ねてくる。

「美味しいよ、楽しみにしててね」

「落ち着け、ヴィータ。主殿の前、かつ他人の家だ。はしたないぞ」

 シグナムがピシャリとたしなめる。

「あう…ごめんなさい」

 しゅんとするヴィータに笑いかける。

 彼女達の料理の腕は保証できるし、楽しみにしてくれるのは作る人間としては嬉しいものだ。

「大丈夫、大丈夫。今回はなのはが作るんじゃないけど、そうやって期待してくれると作る人間としては嬉しいしね」

「はい、桜や凛が作る食事はとても美味しいですから楽しみにしてくださいね」

 

「うわ〜!」

 洋中と色とりどりの料理がテーブルに並べられた。

 ロンドンに旅立って以降我が家にはいなかったので家でこうやって沢山のメンバーで食事をともにするのも久しぶりだ。

「おお、これは美味しそうだね。遠坂の中華の腕はどうなったかな?」

 苦手意識があった中華も、世界を放浪しているうちにうまくなったと自負しているので少し挑発気味に言ってやった。

「あとで吠え面かいても知らないからね」

「言っててなの。じゃあみんな」

「いただきます」

 全員で挨拶をして、料理に手を付ける。

 いつものように合図と同時に勝手に食べ始めているセイバーは置いておくとして、とりあえずセイバーの被害に合わないように近くにいた子達に料理を取り分けてから、さっそく彼女の料理を口にしてみた。

「これは…!?」

 レタス炒飯はどこから業務用の強力なガスレンジでも持ってきたのかと思うぐらいパラパラだし、麻婆豆腐は泰山のあの劇物と違い、程よい花山椒と唐辛子の辛味と香り、そして子供向けに食べやすいようにくどくないレベルで適度な甘みもある味付けはそれは見事だった。五目春巻きはまったく余分な焦げ目がなく、その他の料理も文句の付け所がない。

「どうよ、なのは」

 ドヤ顔な遠坂を見るのが悔しいが、完全に私の負けだ。

「うう…やっぱり負けたの」

「中華で私に勝てると思ったの?」

 相変わらず遠坂の中華料理は絶品だし、桜の洋食もレベルがかなり上っていたのであなた達はいつの間にレストランか何かで料理修行でもしたの?と問いたくなった。

「なんだ凛姉さんと桜姉さんの嫁力…!うちなんか完全に雑魚レベルやないか」

 と言ったはやては箸を落としかけていた。

 いや、はやてちゃんも十分料理はできますよと心のなかでフォローを入れた。

 そうしている中でセイバーに負けず劣らずもぐもぐとすごい速度で食事をしていたヴィータに対して、隣に座っていた英雄が驚きの行動を取った。

「どうぞヴィータ、あなたの分ですよ」

「お、セイバー姉さん、ありがとな」

 私を含め、セイバーをよく知るメンバーの目が点になった。

 あの…あの……食事についてはあの虎から奪い取るほど誰よりも強欲?な騎士王が自分の食事をいったん置いてしかも分け与えている!と普段の彼女をよく知るメンバー全員が仰天していた。

「癒やされますね、ヴィータ」

「うまいな、セイバー姉さん!」

 そうして、二人揃ってすごい速度で箸をすすめる。セイバーとヴィータが食いしん坊キャラとして意気投合した!

 見た目は姉妹のようでもセイバーはああ見えて英霊の中では長生きした方で王様として十年もブリテンを治めていて人生経験は豊富だし、ヴィータは人生経験という意味では幼いのでこの奇妙な腹ペココンビはなんだと思った。

 

「ごちそうさまでした!」

 夕飯は一つ残らず全員の胃に収まった。

「はい、お粗末さまでした」

「いえいえ」

 そういってお皿を片付けていた姉妹を見ながらチャラい英雄が暇つぶしを言い出した。

「さて、飯を食ったとなったら次にするのは腹ごなしだ」

 ランサーは親指で道場の方角を指す。

 ああ、稽古ですかと納得した。

「腹ごなしってなんですか?」

 すずかが尋ねる。

「そりゃ決まってるだろ、試合だよ」

 相変わらずの戦闘狂だが、たまにはいいだろうということで付き合うことにした。

 

 いつものように我が家の道場の明かりをつけ、皆を招き入れる。

 ここに入るのも久々だ。

「こりゃまた立派な道場やなあ」

 はやてが感嘆する。

 ここは切嗣や藤ねえやセイバーとの生前の様々な思い出が詰まっている。

「まずは騎士であるセイバーとシグナムさんあたりにする?それでルールはどうするの、なのは」

 片付けが終わって顔を出した遠坂が質問する。

「えっと、ルールはミッド及びベルカ式魔法と魔力開放といった魔術等は使わない、宝具やデバイスの類は使用禁止、蹴りといったものは無し、使用する武器は私が投影した竹刀のみで壊れた場合は試合を中断して交換、あとは一本勝負…これでいいかな?」

 両者とも土俵が色々と規格外でバラバラなので、ここまで制限しないといろいろな意味で試合が成り立たない。

 遠坂が事前に頼んでキャスターには念のため、この道場自体を結界で補強してもらったようだ。

「了解した」

「わかりました、ナノハ」

「はいこれ、使ってね」

 二人にはバーサーカーが何百回も使っても壊れないぐらいの強さをイメージして投影した竹刀を渡す。

 一体どんな戦いになるかわからないから出し惜しみはできない。

 子ギルがそれならと王の財宝から黄金の竹刀?を出そうとしたが、使っているうちに目が痛くなりそうだったので丁重にお断りした。

「なぜかこの竹刀にはかなりの魔力が使われているようだが…」

「投影するのも限度があるから強いのにしておいたの」

「なるほど」

「シグナム、頑張ってな〜!」

「はい、主殿へ勝利を!…申し訳ありませんが私は貴女に恨みはないが、主殿が勝利を望むので騎士として全力で行かせてもらう」

 シグナムの目に闘志が宿る。

「構いませんよ。それが主君に仕える騎士の正しいあり方です。遠慮なく全力で来てください」

 セイバーが彼女に応えるように静かに、だが強い信念を持って竹刀を構えた。

 

 勝負は受肉後も抜群の剣技とパワーを誇ったセイバーの勝ちであった。

 普段デバイスで戦い、竹刀のような物質的な武器をそこまで使わないプログラムの存在であるシグナムもかなり善戦したほうであったし、ランサーやライダーや子ギルも大したもんだという表情で彼女を見ていた。

 英霊同士の戦いを見慣れている凛や桜以外は、あまりにもレベルが高すぎた剣道に終始ポカンとしていた。すずかも、先程頭に血が上って思わず黒鍵を投擲した騎士王がここまでの実力を持っていたと理解して震え上がっていた。

「貴殿は今まで私が出会った様々な騎士の中でも確かな腕を持つ者の一人です、シグナム殿。ハヤテ、あなたは素晴らしい従者に恵まれたようですね」

 彼女ははやてを見つめて微笑む。

 その風格はまさしくブリテンに住む騎士皆が憧れた騎士王そのものだ。対するシグナムは王に対して謁見する騎士のようにひざまずいている。

「あ、はあ」

 なれない堅苦しい賛辞と雰囲気に、はやては恥ずかしいのかポリポリと頬をかく。

「そちらこそ。貴殿は王であり女性であったと知って侮っていたところがありましたが訂正いたします。私など霞むほどの素晴らしい剣の腕前です。なのはが強くなったのは貴殿との日々の稽古があったからこそと伺っております。彼女はいい師に恵まれたのでしょう」

 そう言って一礼する。

「いえ、ナノハは己の努力だけであの域までいきました。私は僅かに助力をしただけです」

 両者の指摘はどちらも正解であった。セイバーと戦ったことで彼は剣の才能を開花させることとなり、そして日々の努力で結果に昇華させたのだ。

「貴女は立派な王だ、謙遜はなさらずに誇って頂きたい」

「今は王ではなく一人の女ですが、賛辞はありがたく受け取ります」

 口調は古臭いが剣を交えたことで二人は仲良くなったようだ。夕日をバックに河原で殴り合って仲を深めた不良のような言い回しだ。

 なんなんの、騎士というのはそういう生き物なの?

「ではナノハ、次、よろしいですか」

 連戦となるがケロリとしているセイバーに指名されたので、次は自分の番だ。

 久々に彼女と戦えることに心が躍る。

 シグナムから竹刀を受け取り、構える。

「じゃあいいかな、セイバー?」

「いつでもどうぞ、ナノハ」

 

 結局は魔力開放はせずとも地力の差でボロ負けてしまったが、まったく悔しくはなかった。むしろ、憧れのセイバーと再び剣を交えられたことが楽しくてしょうがなかった。

「───強くなりましたね、ナノハ」

「えへ、ありがとなの」

 この道場で倒れるのも久々だ。節々の痛みも心地よい。

「やっぱなのは、すごい…」

「なのははん、なんかもう完全に人間やめてはりませんか?」

 フェイトとはやてが畏怖の声を上げる。

「え?そんな……ことはな…いよ?───たぶんだけど…」

 そう言われると、少しというかかなり自信がなくなる。

 確かに、英雄王との最終決戦の際の立ち回りは半ば英雄レベルであった。

 イメージするのは常に最強の自分だとはいえ、最強になりすぎたか。

「嬢ちゃんはな、俺の槍で心臓を刺されたのにしぶとく生き残ったからな。いつ英霊になってもおかしくはないな」

「本当なんですか、マスター?」

 アリシアがぽかんとして尋ねる。

「あはは、事実なの」

 こっそりと目線でこれ以上話さないでという視線を送り、彼からわかったという返事の視線が返ってきた。

 血で血を洗った聖杯戦争については、まだ幼い彼女たちにはあまり話さないほうがいいと思っている。

「ま、ともかくこの嬢ちゃんの才能は俺達も一目置いてるってわけだ。今はこんな可愛い小学生になっちまってるけどな」

 と言いながらわしゃわしゃと頭を撫でた。

 ───コイツに子供扱いされるのはとても悔しい。

「あーもーなのはを撫でないで子供扱いしないで!」

「いや、今は完全に子供だろ。頭撫でるぐらい───」

「このセクハラサーヴァント、カレンにあとで言いつけてやるの!」

「んな!?ちょっと頭撫でただけだろ!」

「ふふん、女の武器なの」

「へっ、言うようになったな。ずいぶんといっちょ前になったじゃねえか」

 いつもの戯れのような話をしながらさて、次は…と考えていると戦士としての性が刺激されたらしい一人が手を上げた。

「あたし、あの青い兄ちゃんとやりたい!セイバー姉さんは三回目になっちゃうしな」

「俺とか?いいぞ」

 ランサーはニヤリと笑って返す。

 彼も戦いたくてウズウズしていたようだ。

「えっと…それなら二人はそこそこ体格差が結構あるし、初見だから三本勝負にしよっか?あと、ヴィータちゃん、怪我に注意してね」

「さて、一応そういうことだからハンデはつけるが容赦はしねえぞ。まあ戦争でもねえし子供で女だし顔とか体にはできるだけ当てないようにするけどな」

 とりあえず、自分が使っていた竹刀を彼女に渡す。

「それでさ、これどうやって使うんだ?」

 セイバーから受け取った竹刀を不思議そうに見つめていた彼女がつぶやき、その場で当事者以外の全員が盛大にズッコケた。

 彼女が使うのはメイスがベースのデバイスなので、剣の使い方を知らないのは当然だったとはいえその言葉は予想外だった。

「そっからかよ…」

 竹刀を杖代わりに床から起き上がりつつどうにも拍子抜けしてしまい、やる気満々だったランサーがほとほと呆れ返る。

「誠に申し訳ない、ランサー殿。彼女のデバイスの原型はメイスなので」

 シグナムが申し訳なさそうにしていた。

「よろしければ私が?」

 セイバーが手を挙げる。彼女なら性格も合うようなので適任だろう。

「ではお手数ですがお願いできますか、騎士王殿?」

「はい、シグナム殿。先程のお礼も兼ねて。よろしいですか、ヴィータ」

「うん!よろしくな、セイバー姉さん!」

 

 十分後、試合は一時中止され英霊たちによるヴィータ専属の剣道の稽古場が臨時に開かれることとなった。

 聖杯戦争がない今、一騎当千の伝説ばかりの三人から直接手ほどきを受けられるなどすごいことだと思う。

「そう、そんな感じです。では何回か竹刀で受け止めますのでまずは真っ直ぐ振り下ろして下さい。ではまず一回目を」

 竹刀のまともな握り方すらおぼつかなかったので、まずはそこからだった。こういう時はやっぱりセイバーの剣の教え上手は重宝する。シグナムはというと教え下手だと言っていたのでセイバーが申し出通り代わりにやっている。

「えい!」

 ヴィータの思いっきり振りかぶった竹刀がセイバーの竹刀にぶつかる音が響くが、荒っぽい。

 まだかなり余計な力が入っている音だな。

「力はありますが、もっと自然に振り抜いて下さい。メイスのように武器の自重を使って振り回す感じではなく、体全体をムチのようにしなやかにうごかしてください」

「うん!」

「いい返事です。じゃあもう一度」

「たぁ!」

 そういってヴィータがまた竹刀を振る。

 お、少し型が変わってきた。

 幼くても優れた騎士だからか吸収は早いようだ。

「少し余分な力が抜けてきましたね。その調子です。より自然に振って下さい」

 腹ペココンビだけではなく、いつの間にか師弟関係になりつつある。

 ───カリスマスキルBの無駄遣いではないかと思ったのはここだけの話だ。

「ふむ、ヴィータはなかなか伸び代がありそうですね」

「みてえだな、あのヴィータって嬢ちゃん。こりゃ育つのが楽しみだ」

 ライダーやランサーも彼女の素質に気がついたようだ。

「初見でも結構良い腕だなあと思ってたの」

 そんな話をしながら冬木滞在一日目の夜が更けていく…。

 

 ───場所は変わって深山町のある銭湯。

 狭っ苦しい我が家の風呂に全員が入るのは無理だし、何人も入れ替わりで入るといつまで経ってもお風呂が終わらないということでギルガメッシュが予め貸し切りにしておいてくれたらしい。

 なんでもその際に一年の収入分をぽんと出したそうだ。流石黄金律A…。

 さて、そんな裏事情はさておき男風呂はというとランサーが楽しそうにしていた。

「これからが楽しみってやつだ」

 いそいそと女湯を覗きに行こうとする彼に向かって貴方も好きですねえと呆れながら言う小さな英雄王に続いて、別の誰かが尋ねた。

「───一応聞いておくが、ランサー、今から何をするつもりだ?」

「そりゃお前、凛に桜にライダーに年齢不詳な未亡人とか男前な騎士や奥手そうな姉ちゃんとか、べっぴんさん揃いだし女風呂を覗きに───」

「お前が女湯に対してそのような不埒を行おうとした場合、貴様を容赦なく勝利すべき黄金の剣で斬って良いと凛とカレンから言われている」

 いつの間にか男湯の集団に混ざっていたアーチャー。

 なのはと同じく生前はエッチなゲームの主人公だったとはいえ今の彼は紳士なので性的なことで無礼なことはしない。元マスターを怒らすと後が怖いからというのもあるが。

「くっそ!男としての楽しみ全否定じゃねーか!!」

「この戯けめっ!貴様は下半身だけで生きているのか!」

「てめえも生前ハーレムを作っておいてよく言うぜ。俺も女は好きだがそこまでじゃねーぞ」

「ですよねー。それになのはさん、今も着々と後宮のようなものを作ってますし」

 ランサーと子ギルがアーチャーへ反論する。

「だから、あのちんちくりんは私とは完全に別物だっ…!!それを引いたとしても年齢は同じか年上なのだから───」

「僕は別に気にしませんけど、中身がお兄さんだから年齢的にも問題があるんじゃないんですか?わくわくざぶーんでイリヤさんに一番ドキドキしたってお兄さん前に言ってましたし。それに凛さんに聞きましたけど聖杯戦争で最初に凛さんとイリヤさんが戦った時も普通に殺せる状況だったのに殺さなかったようですし」

「うわぁ…お前シスコンでロリコンなのかよ。マジで引くわ。わりぃがめっちゃ引くわ。そりゃ昔は子供で結婚なんかは当たり前だったが、俺でも女の好みは下はギリギリで17ぐらいからだぞ」

「アーチャー殿、色々聞き捨てならない単語が聞こえたような気がしますが」

 ランサーはドン引きし、幼い少女が主であるザフィーラは厳しい目つきになった。

「ああくそっ!!」

 はやてというおっぱい魔神のおかげで阿鼻叫喚になりかけた女湯と違い、男湯はアーチャーがロリコンとシスコン疑惑をかけられ針のむしろになった以外はとても平和でした。

 

 そんなこんなで銭湯から家に戻り夜も深まったころ、私は衛宮邸で見かけないある人物を探していた。

 先程遠坂は何があっても絶対に来いと言っていたので、家のどこかにはいるはずなのだが台所や道場や土蔵や離れの客間にもいないとなるともしかしてと思って、怪力持ちであるライダーにお願いして土蔵からはしごを出してきてもらって、屋根にかけてもらいそれを登った。

 そうして登った屋根でキョロキョロと周囲を見てみたら、やはりあの弓兵が一角に座っていた。

 こんな所にいたのかと呆れながらとてとてと歩み寄ると、彼は振り返りもせず尋ねた。

「何の用だ高町なのは。私に何か用かね」

 やっと見つけた、未来の自分の一つの可能性である男。

 今までは時の庭や闇の書などろくでもない場所でばかり会ってきたので、ようやっと落ち着いて話すことができる。

「用がないと話しかけちゃだめなの?久しぶりだね、アーチャー」

 そう告げて私は彼の隣りに座り、夕飯も食べてないようだったので余り物と他に適当なおかずを詰めたお弁当とお茶を入れたポットも置いた。

 未来の自分は不満を丸出しにしていたが、この男相手に一々細かいことを気にしたら負けなので引かない。

「何を勝手に私の隣に座って余計なものまで!?ええい!相変わらず貴様は厚かましい奴だな衛宮士郎!それに私はお前のような少女の衛宮士郎になど会ったことなどない!」

「あっそ、知らないよそんなこと。なのははここに座りたいから座るんだもん」

 ぷいっとそっぽを向いて応えた。

「転生してついに精神まで女になったのかこの馬鹿者め」

 あの世界で戦った英霊エミヤはあくまで分霊なので、彼が自身のことを知らないように応対するのは最もだ。相変わらず口が悪い未来の自分に悪口を含めて言いたいことは色々あったが…。

「なのは、転生した世界で頑張ってるよ。アンタが正しいと思える『正義の味方』ができているかはまだわからないけど、沢山の人の涙を止められたの。だから向こうでこれからも頑張っていくね」

「───そうか」

 その時の顔を窺い知ることはできなかったが、その声色はどこか満足そうであった。

「用はそれだけか?ならさっさと去れ、子供は寝る時間だ」

 手でひらひらと消えろという仕草を取った。

 ムカつくので一発ビンタを加えたい衝動を抑えながら、言いたいことはとりあえず言えたので、とりあえずこの場は退席することにしよう。

 スカートを抑えながら立ち上がる。

「はいはい、わかったの」

「いったい、何をどうすれば衛宮士郎がこんなちんちくりんになるんだ。転生させた時の凛はいったい何を考えていたのだ」

「ちんちくりんで悪かったですね!」

 まったく、本当に失礼なやつなの!と思いながらずんずんと瓦屋根を歩いて、下へ戻った。

「彼と話せましたか?」

 自分にそう尋ねてきたライダーへ怒って答えたので、話の結果が容易にわかった彼女は苦笑いをするだけだった。

 ───後に考えるとこの時のことが翌朝の騒動に繋がったのかもしれないと私は思った。

 

 さて、今日やることはだいたい終わったので寝る時間だ。

「えっと、寝る場所はこんな感じね」

「それがいいと思う」

 遠坂の提案で部屋割りはプレシアとアルフ、シグナムとシャマル、ザフィーラ、子供たちとなった。とりあえずお客さんは元の私の部屋の周りにすれば、迷子になることもそうないだろう。

「何から何までありがとうございます」

 ザフィーラが礼を言う。

「いえいえなの。どうせ部屋はいっぱいあるし」

 さて私を含めた子供たちはというと布団を敷き詰めて寝ることとなったがどの順番で寝るかで揉めてしまい、結局はくじ引きで決めることになった。

 それにしても殺風景だねと子供の純粋な感想を言われて凹んだのはここだけの話だ。

 

 翌朝、平和な冬木市内である事件が起こった。

 ───衛宮家ではもはや恒例行事になりつつある事態だ。

 道場の中に干将(かんしょう)莫耶(ばくや)を持って自分を鷹の目で睨みつけるアーチャーがいた。士郎の外見はなのはという少女に変わっても中身はあくまで同一人物だ。

「さて───言い残すことはあるか、高町なのは。なに、せめてもの情けだ。最後に辞世の句ぐらいは聞いてやらんこともない」

「そんなことないの。そっちこそ座へ戻る前に遺言はあるかな?アンタとはあの橋の時以来もう一回決着をつけたいから」

 対する自分も彼と同じように夫婦剣を投影する。両者の間には殺気が満ち溢れていた。

 道場の隅にはこの二人はガス抜きができるまで放置するしかないと諦観の念で見つめるセイバーとライダー、そして今にも殺し合いを始めようとする二人をどうにか止めようとしてオロオロしている桜とヴィータがいた。

「───ついて来れるか」

「ついて来れるか、じゃない!アンタの方こそ、ついてきやがれなの───!」

 その一言で開戦の火蓋が切って落とされた。

 

 五分後、最早お互いに思いつく限りの罵詈雑言を言いながら斬り合っていた。

 干将・莫耶と強化した肉体によって盛大に鳴り響く金属音に衛宮邸にいたほぼ全員が道場に集まっていて、お互いが険悪だという事情がわからない者は呆然としていた。

 特に、守護者としての冷酷でロボットな一面の方がイメージとして強いメンバーは、アーチャーの露骨な怒りの態度に余計驚いているのだ。

「貴様のせいで、私は昨夜風呂でランサーやザフィーラにどれだけ身に覚えがない性癖で詰問されたと思っている!」

 そんなの責任転嫁だ。未来の自分が変態なだけだろう。

「そんなの知らないの!!アーチャーは変態さんなだけだから自業自得だよ!!」

「このぉ、小娘!私に責任転嫁をするんじゃない!!」

 なお、この喧嘩の最初のきっかけはお腹を空かせて早く起きてしまったヴィータであった。そして近くで寝ていた自分が起こされ、仕方ないと思いつつ彼女のためにと誰もいなかった台所を借りて朝ごはんを作ってあげ、居間で一足先に食べさせていたのを作りに来たアーチャーと桜が目撃したことから始まった。桜は元家主とはいえ一応はお客さんのなのはに朝ごはんの支度をやらせてしまったことを申し訳ないと思いつつ普通に残りを手伝おうとしたが、彼は違った。

 そして言い争いはついに喧嘩の発端となった内容にまで発展した。

「今朝お前が朝食の味噌汁に使った鰹節、あれはそこの欠食児童モドキに使っていいものではない!大切な懐石のためのものだぞ!」

「うるさいの!保存食とはいえいつかは使わないとだし、ヴィータちゃんは笑顔でちゃんと美味しいって言って食べてくれてたもん!」

「あれはセイバーや黒いセイバーと違って、道端に生えている雑草でも美味しいというようなタイプだ!この戯けめっ!!」

「いくらなんでもそれは言いすぎなの!!ヴィータちゃんだって味ぐらいは理解できるから!!」

 いきなり私達の言い合いの流れ弾を食らった心優しい少女である守護騎士は、内心で「あたしってそんなに腹ペコで貧乏舌だっけ?」とがっくりと項垂れていたし、セイバーもセイバーで嫌な意味で天秤に使われたのと可愛い弟子が心を痛めているのを思いやって青筋をいくつも浮かべていた。アホ毛をいつ自分で抜いてもおかしくはない。

「もー…何よ朝っぱらから。煩いわねえ」

 寝起きが最悪な魔女も、流石に道場からの連続して聞こえる爆音に目を覚まして彼女の部屋がある客間から文句を言いに来たようだ。

「あ、凛姉さん!なのはとエミヤの兄ちゃんがさっきから決闘しとって!」

 二人を止められそうなサーヴァントであるライダーは諦めているし、セイバーは怒っているし、桜は止められなくはないけどおろおろしていて戦力外、となると唯一なんとかこの場を収められそうな人物が来たのではやてが慌てて駆け寄って事情を説明した。

「あー…」

 はやてから話を聞いてようやく何が起こったか理解したらしい。

「だいたいアンタは、なのはが毎日研いで大事に使ってた包丁を勝手に別のに買い替えちゃうし!」

「あれは切れ味が悪い。使う上でよりよいものに買い換えるのは料理をする者としては当たり前だ、この馬鹿者が!」

「馬鹿はアンタよ!それは使い方が悪いだけ!!ちゃんと使えば綺麗に切れるの!」

 子守相手の宿題をするために様々な時間の自分同士で高度過ぎる喧嘩をした某青い猫型モドキロボット以下のレベルの争いに、朝っぱから大迷惑だと思いつつ彼女は平然とした顔で二人に近づいていく。

「はいはい、そこまで」

 寝間着のどこからか取り出した宝石剣と家宝のアゾット剣で二人の剣を受け止めた。

「凛!」

「遠坂!」

 喧嘩を無理やり止められたので私達は大層立腹した。

「まったくもう…。なんでそうアンタ達は顔を合わせる度にしょうもない理由で喧嘩するのよ。お互い、もっと腹を割ってお話すればいいじゃない。ああ、なのはのやり方なお話じゃなくて、ただの顔を合わせた話し合いよ。それとセイバー、この件についてはまず貴女に任せるわ。それについてはお話でかまわないから」

 そう言われハッとして振り返ると、怒りでわなわなと震えていたセイバーがいた。

 皆がライダーに誘導されそそくさと道場を後にするのを見て、ああ、自分たちがガス抜きした後始末に彼女のガス抜きをするために凛に売られたと悟り、似たようなことを口走った。

「遠坂───なのはを売ったの!?」

「了解した───地獄に落ちろ、凛」

 そうして、セイバーに道場でこってりと二時間ほど正座でお説───もといなのは流お話と二人への謝罪のために大量の食事作りをさせられることになった。

 なお、原因と凹んだ彼女のこともあり、誰も私達を助けなかったのは言うまでもない。




 なのはちゃんたち一行は、冬木一の霊脈スポットの一つである柳洞寺へと向かい、その後義理の姉が住むアインツベルン城へ行くこととなります。そこで思いもよらない人物との再会をすることなります。
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