リリカルでマジカルな世界に憑依転生した正義の味方(StrikerS編制作検討中)   作:四条小鳩

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 闇の書事件を解決し、海鳴に遊びに来た魔法使いになった遠坂凛と共に冬木に里帰りしている高町なのはちゃんこと衛宮士郎は、因縁深い柳洞寺にて可愛い物が大好きな人妻エルフ魔術師ことキャスターの着せ替え人形にさせられたり、アインツベルンの城で義母であるアイリのトンデモな料理を食べさせられる羽目にになったりと散々なことばかりに巻き込まれます。

作者注
 前話でアルフの存在を忘れていました…。彼女は今回の旅行に同行していません。うっかりスッポ抜かしてしまいましたすみません。


その2「風雲アインツベルン城」

 冬木滞在二日目の昼前、私達は前日に魔法を見せて欲しいと言っていたキャスターの要望とアサシンに会うために柳洞寺へ向かっていた。

 そしていつもの石段のところまで来た。

「ほえー、今時こんな古風なお寺が……」

「ここの石段、すごく長いわね。門がよく見えない」

 寺の山門へ続く長い階段を見上げた八神はやてとアリサ・バニングスが感嘆の声をあげる。

「こんなお寺に来るなんて久しぶりです」

 月村すずかも同意した。

 確かに、今時こういった山奥にあるような寺はそうそう見かけないだろう。

「ここはなに…?」

 私の隣で見上げていたフェイト・テスタロッサが尋ねてきた。

 魔法やそれに付随したテクノロジーが全盛のミッドチルダには寺院はないかと思い応える。

「ああ、ここはお寺っていって日本の仏教っていう宗教文化の中心的な場所の一つなんだよ」

「なるほど」

 彼女は私の話に頷いた。

「なんだか周囲に妙な結界を感じるのだけれど気のせいかしら」

「だな。我々はここ以外から入るのを拒絶されているような?」

 プレシア・テスタロッサと守護騎士のシグナムが山に貼られた結界に反応した。

「柳洞寺には自然霊とかを弾く強固な結界が敷かれているからね」

「ここはキャスターが作り上げた特殊な結界があって、サーヴァントとかはここからしか通ることができなくて、ちょうど一番上にアサシンを置いて守ってたの。今はもう結界だけが残ってるだけなんだけどね」

 遠坂凛と私で結界の説明をする。

 ヴォルケンリッターにも反応するとは想定外だったが。

「私は高い抗魔力を持っていますが今でも山門以外ではここは突破することはできません。どうしても突破するには空間転移するしか手がないかと」

 とサーヴァントであるセイバーが補足する。

「へええ」

 私のサーヴァントであるアリシア・テスタロッサが感心する。

「じゃあ行こうか」

 私の合図で全員が石段を登り始めた。

 

 途中ここの石段を登り慣れていない子供達が疲れたと言って一度休憩を挟んでから、我々は入口となる山門にたどり着いた。

「あ、ここマスターがアーチャーさんに『理想を抱いて溺死しろ』って言われながら斬られた所だ」

 アレは正確には境内内だが…。

 また聖杯戦争の頃の私の記憶を垣間見たであろうアリシアが呟いた。

 ───あんまりその頃の話題をほじくり返してほしくないんだけどなあ…。あとであんまり過去の私の記憶については口外しないように言っておかないと。

「え?」

 同じく守護騎士であるシャマルが呆然とする。

 当のアーチャーはというとフェイト達のジト目に耐えられなくなったのかぷいっとそっぽを向いてしまった。

「どういうことなんですか、アーチャーさん」

「お話を聞かせてもらいたいわね」

 すずかとアリサの声が低くなる。

 こればっかりはアイツの自業自得なので弁護しないし、したくもない。

「───戦争中に敵に背を見せるのが悪いんだ」

「だからっていきなり背中をバッサリ斬っていいわけないの!」

 ───何を言い出すんだ。

 厳重に抗議する。

「ふっ、高町なのはのことなど知れたことか。あの時の私はしたいことをしたまでだからな」

 私達の間の空気が十度ほど下回ってきた。

 殺気立った雰囲気をまとっていた少女たちが思わず素に戻るほどであった。

「へえ…なんならここであの時の再戦をしてもいいんだけど?馬鹿の頭を冷やすにはちょうどいいしね」

「───ほう、いいだろう」

「はいはいやめやめ。アーチャー、アンタ朝の二の舞いになりたいわけ?」

 流石に見かねた遠坂が割って入ってきた。

「ナノハもです。少しは冷静になってください」

「先輩、気持ちは分かりますが落ち着いてください」

 セイバーや間桐桜も私をなだめてきた。

「───ちっ、仕方あるまい」

「───ふん!」

 ここで戦っても仕方ないので収めるとしよう。

 遠坂が呆れてため息を付きながら山門へと足を進めた。

「さ、目的地はここよ」

 久々に見る柳洞寺だ。

 そういえば高校卒業とともに出家した一成や零観さんは元気にしているだろうか。

 あ、せっかくならああ見えて甘党な一成へ差し入れで甘い物でも買っていけばよかったな。ん…ついでに高校時代色々とバイトで世話になった音子さんにも会いたくなってきたなあ。コペンハーゲンにも顔を出そうかな。

 だが、私こと高町なのはがあの衛宮士郎でしたというわけにもいかないと気付いたので声をかけるのは諦めた。

 そんなことを考えつつ私もいつものように門をくぐり抜けると箒で境内を掃除していた農民もといアサシンのサーヴァント、佐々木小次郎を見かけたので声をかけた。

「アサシン、久しぶりだね」

「おお、これはこれはセイバーのマスターではないか。またずいぶんと可憐な少女になったものだ」

「あはは…ありがと」

 ───そういえばこいつもなんだかんだで女の子を口説いていたりで軽い男だったな。

 英雄色を好むとはいえチャラいやつばっかじゃないかと思い始めた。

「この男の人は誰なのかしら?」

 アリサが尋ねる。

「ああ、私としたことがこのような美しい方々の前でうっかり自己紹介を忘れていたとは。アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎だ。よろしく」

「ど、どうも」

「はあ…」

「は、はじめまして」

 ナンパまがいの自己紹介にシグナムやプレシアやシャマルがぽかんとする。

 うん、やっぱりチャラいや。

「佐々木小次郎!?」

「あの宮本武蔵と決闘したっていう!?」

 はやてとアリサが驚いた。

「ほう…たかだか農民の私がこのような可憐な女子にも知られているとは、有名になったものだ」

「ちょっとアサシン!油を売ってる暇があったらさっさと残りの掃除をなさい!」

 本堂からやって来たキャスターがプリプリ怒りながら叱りつけた。

「やれやれ、魔女殿は花を愛でる暇すらもくれぬとは。まったく理不尽なものだ」

 肩を竦めながら応える彼。

「燃やされたいの!」

「わかったわかった。仕事に戻るとしよう」

 

 ───キャスターの案内で本堂の裏手から少し歩いたところにある広場にやって来た私達。

「さて、結界を貼ったわ」

 認識阻害等の結界を瞬時に貼れる腕、魔術について遠坂以外にも師事したいものだ。

 案外、今の姿なら多少嫌なことに目を瞑れば色々教えてくれるかもしれない…そう思っていた時もありました。

「わかったの」

 じゃあ早速変身といこう。

「いくよ、レイジングハート!」

「Yes, mom. Device mode set up.」

 いつものように私はバリアジャケット姿に変身する。

 それを食い入る様に見つめる冬木組の人々。

「これが…ナノハなんですね」

「すごい!アニメみたいです〜」

「あの時にも思ったけど、今のなのは、本当にアニメとかに出てきそうなコッテコテの魔法少女みたいねえ。でもなんでかしら…インテリジェントデバイスを見てると嫌な思い出しか出てこないんだけど」

「ま、まあ…」

 遠坂や桜、セイバー達に変身をマジマジとみられると同性とはいえ少し恥ずかしい。

 あとデバイスの件については私のせいであってレイジングハートに罪はないので言わないで欲しい。

「はあああ〜!!中身はあの坊やなのに可愛い可愛い可愛い〜!お持ち帰りしたい〜!」

 で、魔法を見せろと言った当の本人はアレだった。いや、予想通りとも言うべきだろうか…。

 ───おいそこのキャスター(へんたい)。己の欲望ダダ漏れだぞ。

「ねえ、写真撮ってもいい?撮るわよ?撮ります!」

 三段論法みたいに言えば許せるなんて思わないで欲しい。

「だめなの!なのはは見世物じゃないんだから!」

 まったくどいつもこいつもろくなのがいない…。

「えーなんでよー」

 可愛らしく頬を膨らませてもダメなものはダメだ。

「あ、写真撮るなら私にも焼き増ししてよねキャスター」

「キャスター、写真を私にもください」

「あ、私も先輩の写真欲しいです…」

 次々と声を上げていく冬木の女達。

「貴女達ね…」

 どうしてこう、私なんかの写真を欲しがるのだ。

「ともかく、他の子達もデバイスモードになってね」

 私の合図で全員が変身した。

 

 ようやっと落ち着いた可愛い物好き魔術師がコホンと咳払いをして、話を始めた。

「私のさっき貼った結界は防音及び認識阻害と防御のもので、それなりの強度のものだからよほどのことがない限りは何をしても外にいるお坊さんや檀家さんたちには気付かれないから平気よ。じゃあ高町のお嬢ちゃんからお願いできるかしら。ターゲットは向こうに見えるあれね。私の魔力で作り出した人形だし、いくらでも作れるから遠慮なくぶっ放していいわよ」

「わかったの」

 カードリッジを装填したレイジングハートが魔力を帯び、ターゲットとなる竜牙兵が動き出した。頭のなかで魔法をイメージする。

 朝と先程のうっぷんを晴らすのにはちょうどいい。

「いくよ、レイジングハート。ディバインバスター!!」

「Divine Buster.」

 ディバインバスターがターゲットを木っ端微塵に破壊した。

 うんうん、今日も威力は上々だ。

「わー!!すごいです先輩!」

 桜が私の砲撃に感心しきっていた。

 ───ちょっと張り切ってスターライトブレイカーを使うかとも考えたが、レイジングハートを壊しかねないとエイミィに怒られそうだし流石に威力がありすぎるので自重した。

「これは見慣れない魔術ですがすごいとしか言えませんね…。円卓専門の魔術師(メイガス)として迎えてもいいレベルです」

 セイバーが驚きを口にしていた。

 それなりに高威力とはいえ彼女や円卓の騎士の対魔力の前ではミッド式魔法は神秘もなにもないので傷一つつけられないだろうが。

「ほう…伊達に海鳴とやらの管理者(セカンドオーナー)を自称しているわけではないようだな」

 あいかわらず癪に障る言い方だが、アイツなりに褒めているのだろう。

 それにしてもこれは動く相手への攻撃の練習になるかもしれない。ホログラムの敵を相手に練習をするのもいいが、実際の威力や範囲を確認しながら訓練するほうがより自分のためになる。すずかやアリシアの攻撃魔術などの訓練にもいいだろう。

 キャスターに作り方を後で教えてもらおう。

「射出時に魔法陣を使うというのは私の魔術と似ているようだけど、ここにある霊脈とかの力を一切使っていないようね」

 食い入る様に見つめていたキャスターが呟く。

「リンカーコアという体内のオドを集めた魔力炉から魔力を取り出してデバイスから射出するから、マナが空気中にあればどこでも行使できるの。魔法はこのデバイスが勝手にやってくれるからイメージするだけで詠唱もいらないの」

「それについては魔術師として本当に羨ましいわね。詠唱も必要がないなんて」

 自分の力だけではマナをあまり溜め込めなかったり、高速詠唱を使うことで神代の魔術を行使するキャスターは感心しながら手に持ったメモ帳にあれこれメモを取っていた。

「へー、ミッド式魔法ってのは単発でも結構威力があるじゃない。概算だけど宝具でいうとランクCかC-ぐらいかしら?」

 初めて自分の魔法を見る遠坂も舌を巻いていた。

「正確にはわからないけど多分それぐらい。この煩い音を除けば結構使い勝手はいいかな。ジュエルシードも一発で封印できたし。本気のやり方で行けばBぐらいの威力のも出せるの」

「ふーん。体系が変わるだけでこうも色々変わってくるものなのね。これでも大師父にくっついて色々な世界の魔術を見て回ったけど、まだまだ知らない魔力の使い方があるなんて勉強になるわ」

「じゃあ次はシグナムさん、いいかしら?」

 キャスターが告げる。

「わかった」

 

 そんな感じで各々が一通り魔法を使って実演を終えた。

 キャスターは披露される度にあの耳がピコピコ動くほどに感心しきりであり、熱心に術者にあれこれ尋ねたり、魔導師としてはトップクラスのプレシアと情報交換をしてたりしたのだが、急に何かを思い出したのか全員の試射が終わると同時にお寺に戻っていった。

「貴女、名前は確か月村すずかよね?」

「はい、そうですけど…?」

 彼女は手に何かを持って戻ってきてすずかに尋ねた。

「これを付けるといいわ。肌身離さず持ってなさい」

「あの…これは?」

 すずかは不思議そうな顔をしてキャスターからシルバーの三日月型のアクセがついたネックレスを受け取った。

「貴女、おそらくは衰退した死徒の末裔でしょう?この礼装は貴女の死徒としての力を無理がない範囲で引き上げるのに使えると思うわ。サーヴァントや本来の真祖とまではいかないけど常人以上の能力を発揮できるようなるんじゃないかしら」

 流石キャスター。ひと目で彼女の正体に気づいていたようだ。

「え!?そんなすごいのをもらっていいんですか!?」

 すずかはそんな物をいきなりもらえることになったので大層驚いていた。

 私も正直、彼女の大盤振る舞いぶりに驚いている。

「ええ、今日は気分がいいからサービスよ。あとサーヴァントのお嬢ちゃんにはこれを」

 そういってアリシアには蝶をあしらったブレスレットを渡した。

「これは…?」

「貴女はまだ内包する莫大な魔力の制御がうまくいっていないでしょう?魔力の制御のアシストと、バカな魔術師に狙われにくくするお守りよ」

 私も頭を悩ませていたことを本当に的確に見抜いている。

「あ、ありがとうございます」

 アリシアはペコリとお辞儀する。

「わざわざすみません、娘のために」

 プレシアもペコペコしている。

「いいのよいいのよ。お互い主婦の仲ですから」

 よっぽどバリアジャケット姿の私達が見れたことが楽しかったのだろう。道具作成スキルAを遺憾なく発揮して作った現代の魔術師では最早作ることができないような高度な魔術礼装を何の躊躇もなく作ってポンと渡してしまうほど、今の彼女は浮かれているようだ。

 本人が幸せそうだし、すずかやアリシアは能力が引き上げられる礼装をタダ同然で手に入れられたのだからいいか。深く考えるのはやめよう。

 さてこれでとりあえずはキャスターの用事も終わったし、マウント深山あたりで昼ご飯にでもしようかと考え始めていたらいきなり爆弾が投下された。

「さ、次はお待ちかねのお着替えタイムよ!部屋の準備は整えてあるわ」

「え?」

 ───ちょっと待て。私達はただ魔法を見せに来たんじゃないのか?

 キャスターの本質を知らない全員が彼女の発言にぽかんとした。

「私も楽しみにしてたのよねー。士郎を転生させた時はどんな女の子になるかまでは知らなかったし」

「姉さん、本当に本当にグッジョブです!先輩のあーんな姿やこーんな姿、いっぱい見たかったんですよ!」

「私もナノハの可愛い姿を早く見たいです」

 もしかして私、遠坂達に嵌められた!?

 慌ててアーチャーを見るとざまあみろといった感じで見てきた。

「ええええええ!?」

 私の悲鳴だけが結界内に虚しく木霊した。

 

 それから私達は離れにあるキャスターと葛木先生の自室に連行された。

 その姿をセイバーは可哀想にでもウキウキといった表情で、桜はよだれが出そうな表情で、遠坂はニヤニヤとした表情で見つめていた。

 そんなふうに見るなら助けてくれ。こんな姿、一成達に見られたら恥ずかしさで死んでしまうぞ。

 そして私以外の少女達は何が始まるんだといって疑問符を浮かべていた。

「さて…まずはどれから着せていきましょうか……」

 彼女はタンスを漁り始めた。

 うう…まさか嫌われていると思っていた私まで被害にあうなんて。こんなことなら来なければよかった。

「じゃあまずこれね!」

 軽い感じで彼女から渡されたのはそれは見事なミニ丈のメイド服であった。

 ───一刻もはやく逃げたい。

「ええっと、流石にメイド服はないんじゃないかなあ…」

 私の態度に他の海鳴組もたじろぐ。

「えええ!!??だって小学生の女の子がミニスカメイド服を装備するとかもうセイバーに約束された勝利の剣(エクスカリバー)全て遠き理想郷(アヴァロン)を持たせるようなものじゃない!あえての正統派ロング丈とかも捨てがたいけど!」

「なんでなの!」

 なんだよその喩えは。

 ───うん、やっぱり逃げよう。

 私はメイド服をキャスターに押し付け、一目散に部屋の外へ逃げ出そうとした。

「だめよ、なのは。逃げたりなんかしちゃ」

 あかいあくまが私の前に立ち塞がった。

 仕方ない、じゃあ後ろの襖へ───。

「いけませんよ、ナノハ」

「先輩、逃げるなんて駄目じゃないですか」

 しかしまわりこまれてしまった!

「う、ふふふふ」

 後ろからの声にどきりとして振り返る。

 キャスターがそれはまた悪女な笑みを浮かべていた。

 前門には遠坂とキャスター、後門には黒い桜とセイバー…。これでは完全に四面楚歌だ。

「なんでなのー!!!!!!!!!!!」

 なんで最初にこうなることに気づかなかったのか───私ってほんとバカ。

 

「くすん…なのはもうお嫁に行けないの」

 結局、抵抗むなしく昼ご飯を挟んであれやこれやと二十着ほど着せ替えられ(しかも私だけ他の子よりもずっと多く)、とてもゲンナリしていた。

「まったくいつまでウジウジしてるのよ。これぐらいで泣かないの。女の子なんだから」

「だったら止めてよ!」

「それは無理ね」

「ですよね、姉さん」

「はい、今日は色々なナノハの姿を見れて大変気分がいいです」

 コイツら…!他人事だと思って。

「キャスターさん、すっごい人だったわあ…」

「うん…」

「そうだな…」

「そうね…」

「人ってああにもなれるんだなあ…」

 と述べるのはキャスター着せ替えの対象にさせられた少女一行。

「色々お洋服着れて楽しかった!」

 唯一着せ替えを満喫していたのは純真な幼女のアリシアだけであった。

 ちなみに、プレシアはちゃっかり娘達のコスプレ写真一式を受け取っていた。

 彼女も同族なのだろうか?

 

 そんな感じでまたも一騒動あった柳洞寺を後にした我々は、家のことがある桜を除いて次の滞在先に向かうことになった。

 ちなみに、今回の旅行では衛宮家とアインツベルンの城と遠坂家に一泊ずつすることになっている。

「士郎の家にあった荷物はライダーから受け取ってもうバスにのせてある。アインツベルンまで送る。乗って」

 バスを階段の前に横付けしたアインツベルン家のメイドの一人であるリーゼリットが乗るように促した。

「わかった。ありがとなの」

「じゃあ、皆、バスに乗ってちょうだい」

「では先輩、姉さん、また出る時に」

「うん、またねー」

 

 ───そうしてバスに揺られることしばらく。

 アインツベルンのあの鬱蒼とした森の入り口が、きちんと整備されずいぶんと小綺麗なものになっていたことに驚いた。

「あれ、森にこんなちゃんとした門とか外壁とか道路とかあったっけ?」

「ああそういえば、こうなってからここに来るのは初めてだっけ?」

「うん」

 自身がまだ衛宮士郎であった頃、聖杯戦争やあのウィンチェスター事件(おんなたちのたたかい)やよくわからない風雲なんとかがあった時に来た時はこんなではなかった。

 それが今は最新式のセキュリティーで開く自動の門に監視カメラ、外周には高さ数メートルの立派な格子に道路や歩道がレンガやアスファルトで舗装されて小奇麗になっていた。周囲のあの鬱蒼とした森以外はもはや別物だ。

「燃やされて壊れて、凛が壊したりあれこれあったのを契機に修繕と大改築した。ついでにイリヤとバーサーカー達がアハトとお話して、アインツベルンの本家の機能をこっちに移したから本家レベルまで周辺を整備した。ちなみに城の中も前のを維持しつつ近代化して物理、魔術のセキュリティーは万全」

 バスを運転しながらリズが現状を解説してくれた。

 アインツベルンの当主とお話ってさらっととんでもないことを言った気がするが気のせいだと思いたい。

 ───ああでも、バーサーカーがいれば本家に喧嘩を売るのも無理じゃないか…。

「ちなみにリンは来る度に門でどうやってチャイム鳴らすかいつも迷ってる。それでいつもセラか私が迎えに行ってる」

「にゃはは、相変わらずなんだね」

 変わらないなと思って思わず笑ってしまった。

「凛姉さんって機械苦手なんです?」

 はやてが尋ねてきた。

「パソコンとか携帯とかろくに使えないんだよ?家にもろくな電化製品がないし」

 アーチャーが出入りするようになってから、ようやっとまともな家電がいくらか導入されるようになったようだが、それでも一般家庭のレベルを大きく下回っている。

「あうう…。だって最新式のインターホンなんてよくわからないんだもの!」

「凛の意見には賛成です。私も迷います」

 セイバーも同意する。

 ああ、そういえばこの騎士王さんも機械苦手だったっけ…。

 彼女は中世の人間だったので機械がわからないというのは仕方がないとはいえ、現代人である遠坂は論外だ。

「押して名乗るだけなのに」

「凛の場合、一から十までインターホンの使い方を指示しないとダメだ。鳴らし方を書いて貼っておくといい」

 アーチャーが呆れながらリズへアドバイスする。

 流石アーチャー、遠坂の扱いがよくわかっている。

「わかった。今度からはそうする」

「ううー…」

 遠坂が恥ずかしそうに唸るのを余所に、すずかやフェイトがなんだか意外だなあという顔をしていた。

 彼女達は知らないが、以前コペンハーゲンでのバイトが急遽入ってしまいブルーレイレコーダーのHDDに代わりに格闘技の番組を録画しておくように頼んだら散々悩んだ挙句にアーチャーに当たり散らした後に別番組を録画していたことがあったのだ。あと、彼女がウィンチェスター事件の後始末で渡英中に設置した当時の最新家電でセイバーも犠牲にさせられた離れのウォシュレット事件とか…。

 ───ちなみに後で桜から聞いた話では、最近ようやっとスマフォ(ただし中高年層向けの機能が簡単な機種)を買ったらしい。

 そんな昔のことを考えていたら、城が見えてきた。

 修繕・改築したと言われた通り、何が起こってもおかしくない場所だったりダンジョンだった城が完全に元通りになっていた。エントランスにある車止めの前にはすでにイリヤスフィール・フォン・アインツベルンともう一人のメイド、セラとイリヤのサーヴァントであるバーサーカーが立っていた。

「ナノハとお客様の皆さん、いらっしゃい。ようこそアインツベルン城こと我が家へ。歓迎するわ」

「今日はごゆるりとおくつろぎくださいませ、皆様」

 イリヤが優雅に出迎えた。館の主としての貫禄たっぷりである。

 しかし、聖杯戦争の余波(主にロビーで宝具をぶっ放しまくった英雄王と火をつけたランサーのせいで)で焼け落ち、極め付けに城内が特異点となったあの悲しい事件であそこまでボロボロになった家をよくここまで修理して改築したもんだ。

「ありがとなの〜。今日はよろしくね」

「これは!?なんともすごい……!」

「大きい」

「ほえ〜。すずかはんちとはもう比べ物にならへんなあ。これがヨーロッパのセレブか!」

「マスター、お城、お城だよ〜!絵本に出てくるみたい!」

「でっけえ!!」

「すごいわね…。こんな家、ミッドチルダでも見たことがないわ」

「ええっと、なのは。ここって文化遺産とかじゃなくて個人の家なのよね?どっかの遊園地のアトラクションとか、公爵家とかそんなんじゃなくて?」

 各々がアインツベルン家の財力の凄さに腰を抜かしていた。

「ええ、もちろんここは私の家よ。お茶の用意ができているからどうぞ入って。あなた達の荷物はリーゼリットに部屋まで運ばせておくからそのままでいいわ」

「じゃあ皆、入ろうか」

 さて皆を促してエントランスホールに入ろうと思ったら、あまりに見慣れすぎた人物と美しい女性が私達を出迎えた。

 見慣れた男は相変わらずくたびれた黒いスーツを着て無精髭を生やしいつものように穏やかなほほ笑みを浮かべて自分を出迎えてくれた。

「やあ、士郎…いや、今は高町なのはちゃんか。いらっしゃい。またずいぶん可愛くなったんだね」

「お、親父!?」

 エントランスにいたのは私…衛宮士郎の育ての親である切嗣だった。

「どうして…切嗣が!?死んだはずじゃ───なんでここに」

 驚きのあまり口をパクパクさせてしまった。

 自分のサーヴァントであるアリシアも死者であったが、彼女は遺体があって反則的なことをしたから復活できたのだ。それがとうの昔に死に、火葬したはずの人物が蘇生するという事態に腰を抜かしてしまった。

「ああ、ちょっと色々あって生き返ったと言えばいいのかな?それと昨日は出迎えに行けなくてごめんね。ちょっとドイツでアハトとお話があったから帰ってきたのが昨日の夜だったんだ」

 心臓に悪いサプライズもいいところだ。

 またも聞きたくない単語が聞こえた気がするので聞かなかったことにする。

「ナノハ、びっくりしたでしょ?サプラーイズ!にしし、成功ね。キリツグもお母様もノリノリだったのよ」

 イリヤは悪戯が成功したのか小悪魔っぽくニッコリしていた。

 どうやら今回のドッキリの考案者は彼女だったようだ。

「なのは…えっと、こちらの人はなのはのお父さんの士郎さんじゃなくて衛宮士郎さんのお父さん?」

 切嗣を知らない海鳴側のメンバーを代表してフェイトが尋ねる。

「えっと、うん…。なのはの生き方を示してくれた人って言えばいいかな」

「そんな大層なことをしたつもりはないけど遠坂さんやイリヤから色々話は聞いているよ。はじめまして、僕は衛宮切嗣といいます。それと皆さん、うちの子がそちらでお世話になってるみたいで…ありがとうございます」

「だから、親父、恥ずかしいからやめてなの…」

 私は顔を真っ赤にしてあわあわした。

「あはは、今のなのはは昔と違って恥ずかしがり屋さんなんだね」

 相変わらずこういう時は意図的に空気を読まない親父が憎らしい。

「うう〜そんなことないもん」

「負けず嫌いなとこは士郎らしいね」

 と言ってわしゃわしゃと昔のように自分の頭を撫でてきた。

 否定しても、自分でもわかるぐらいに顔が真っ赤なので否定が否定になっていないので説得力がないのが悲しい。

 普段、年齢にしてはかなり落ち着いている彼女があまり見せることがない妙な子供っぽさに士郎をよく知らないメンバーは驚いていた。

「あなたが士郎くん、いえなのはちゃんなのね」

 その光景を微笑ましく見守っていた切嗣の隣にいた女性が声をかけてきた。

 見た目でイリヤ達のようなアインツベルンのホムンクルスであるのはわかるが誰であろう。

「あの、あなたは…?」

「イリヤの母、そして切嗣の妻のアイリスフィール・フォン・アインツベルンよ、高町なのはちゃん。私も話はイリヤや切嗣、遠坂さんから伺ってるわ。切嗣の娘なら私の娘でもあるから、気軽にアイリお母さんと呼んでね。よろしくね」

 イリヤが成長したらこうなるのかなという雰囲気の美しい白髪に赤目でイリヤとは違って非常に優しそうな女性が自己紹介をした。

「親父!奥さんいたの!?」

 イリヤという子がいたのは分かっていたが、ホムンクルスとはいえこんな美人な奥さんがいれば驚く。

「あー…ごめんね。色々あってね」

 切嗣が気不味そうに目を逸らした。

 第四次聖杯戦争でアンリ・マユに汚染された大聖杯と融合し、冬木に大災害を齎してしまいましたなんてことを幼い義理の息子に話せるはずもないので申し訳なさそうにしてた。

「ま、まあ事情はなんとなくわかったからいいけど、びっくりしたの」

「すごい…イリヤさんとはまた違ったお姫様みたいな人だね。外人さんってすごい〜」

「ドイツ人ってすごいわね」

「アリサちゃんもハーフですよね?」

 明後日の方向に驚く日米ハーフの美少女アリサにとりあえず突っ込む。

「すっげえ…桜姉さんやライダー姉さんとは違ったお───」

「はやてちゃん、それやったら今度は本当にライダーに石化してもらうからね?」

「すみませんでした!」

 アイリのおっぱいに目がいったので釘を刺す。

 まったくこの魔神は…。

「二人共おかえりなさい、お疲れ様でした。アハトの方は?」

「ただいま、セイバー」

「ありがとう、セイバー。ああ、その件についてはつつがなくいったよ。今回の訪独で彼の魔術刻印を持ってきたから向こうで隠居という形にして、アイリがアインツベルンの当主を継ぐという方向でまとまった。あとホムンクルスの調整に必要な機材や資料などもこちらに送ることになったよ。全員分のスペアの体は人形師に発注できたし、キャスターの協力も得られたからこれでイリヤ達の問題も解決だ」

「それは良かったです。安心しました」

「話し合いにはバーサーカーだけではなく君やアーチャーがいたからというのもある。改めてありがとう」

「例には及びません」

 切嗣とセイバーが聖杯戦争を抜きにして穏やかに会話をしているというのもなんだか感慨深いし、余命が長くないイリヤが長生きできるのならば嬉しいのだが───ああ、やっぱり向こうでそういうお話をしてきたんですね…という思いは拭えない。

「あはは…」

「?」

 私が苦笑したのを見てフェイトが三人が交わしている言葉の意味がわからず首を傾げる。

 三人のしている会話の意味は子供にはわからないほうがいいのです。

 そんなことを考えていると皆についてきた遠坂は早速アーチャーに指示を出した。

「アーチャー」

「今日、明日と連れ回されることになった時点で私の役割などわかりきっている。セラ、厨房を借りるぞ」

「ええ、準備は整えてあります」

 相変わらず遠坂やアインツベルン専属執事というかメッシーのようにこき使われている未来の自分がキッチンへ消えていったのを見ながら、ダイニングへと通された。

「さあどうぞ、用意はできているわ」

 広々としたアンティークテーブルに並べられていたのは、ヨーロッパ各国の色とりどりのお菓子であった。

 ずいぶん手間暇をかけていたものばかりなようなので、それを見てさぞ仕込みが大変だったろうとつい考えてしまったのは生前からの癖であろうか。

「わあー!!」

 こういう光景に慣れていない子供たちがキラキラと目を輝かせていた。かくいう私も久々の真面目なお茶会が楽しみだ。

「あの、その前に支度を」

「私もいいかしら?」

 海鳴ではお嬢様であるすずかやアリサはお菓子や調度品などの光景に驚きはしつつも、いつものお茶会ではなく正式なティータイムでのマナーをわきまえているため、きっちりと女の子として準備をしてから望みたいようだ。

「ええ、かまわないわよ。行きたい子はセラについていって」

 そう言って目配せをする。

「かしこまりました。では、行かれる方は私に着いてきてください」

 

 イリヤの声で始まった子供たちの賑やかなティータイムをダイニングルームの端で微笑ましく見守っていた夫婦のもとへ私は足を向けた。

「えっと爺さん…今いいかな?」

「ああもちろん」

 私達を見て気を利かせたのか席を立ち上がろうとするアイリ。

「どうしたんだい、アイリ?」

「お邪魔かしらと思って。切嗣となのはちゃんは何年も会ってなかったんだし喋りたいことはたくさんあるでしょ?私もなのはちゃんのお母さんだと思うけど、二人きりで喋りたいこともあるでしょうし」

「いいんだよアイリ。僕はかまわないけど、なのはは?」

「大丈夫だよアイリ…お母さん」

 桃子の他にお母さんというのも慣れないけど、そう呼んでくれと言われたので律儀に従う。

 それならと彼女は座り直した。

「こうやってゆっくり話すのも久しぶりだね。なのは、でいいかな?君と最後に話したのは…あの夜か」

 彼女が席についたのを見てコーヒーを飲みながら彼が話し始める。

「うんいいよ。そうだね…どれぐらい爺さんが願った『正義の味方』ができてるかまだわからないけど、ここでも向こうでも私なりに頑張ってるよ」

「アーチャーもそうだったけど、僕の最後の一言で酷な人生を歩ませて君にはずいぶん迷惑をかけてしまった。けど、僕の意志を継いでくれて嬉しいよ。本当にお疲れ様、そしてありがとう」

「そんなことないよ。そのお陰で今ここでこうしてささやかだけど落ち着いて話せてるんだし。遠坂とか桜とかセイバー、それにフェイトちゃん達に会えたのも、あの災害で空っぽになった私に親父が道を示してくれたからだって思ってるの」

「ああ。なのはの姿は士郎とは変わったけど、また会えてこうして話せるなんて僕は本当に幸せ者だ」

「えへ、恥ずかしいの」

 そう言って顔を赤くしながらも屈託のない笑顔で笑う少女と養父を、穏やかな表情で見つめるアイリ。

「そういえば僕がいなくなってからとか向こうでの生活とか、よかったら聞かせてくれるかい?」

「もちろん」

 そうして藤村大河や桜との生活、怒涛のような第五次聖杯戦争をセイバーと遠坂と共に駆け抜け、時計塔へと渡った後は紛争地帯を渡り歩き、封印指定となった自身は大師父の手によって別世界の高町なのはという少女に生まれ変わることになり、初めて経験する肉親との生活と、偶然巻き込まれたとはいえその世界で魔導師となり、PT事件や闇の書事件などを経て師以外にも理想を分かち合えるかけがえのない大切な友人を得たという話をした。

 彼らは興味深そうに自分の話を熱心に聞いてくれた。

 私の長話を聞き終わった切嗣はコーヒーを一口飲んでこう告げた。

「親としては嬉しい半面、その士郎さん達には少し妬けちゃうね。僕はなのはの実のお父さんじゃないし、僕が知らないところをたくさん知っているだろうから」

「そんなことないの!親父も立派ななのはのお父さんだよ。それに、これからまた一緒に───」

「本当かい、なのは!生まれ変わっても君はこんな僕のことをお父さんだって思ってくれるのかい!?」

 切嗣が私の肩をつかんで涙混じりに見つめれきた。

「う、うん。当たり前だよ」

 まるでどこかの並行世界で愛娘にパパはお父さんだけだと言ってもらえたことに涙した彼が乗り移ったかのような態度に驚いた。

「切嗣は泣き虫さんだもんね。ちょっとしたことですぐ感極まっちゃうんだから」

 ニコニコと微笑むアイリ。

「あはは…」

「ああ、すまない…コーヒーの湯気が目に染みただけだよ」

「まったくもう、オーバーなんだから」

 彼の苦しい言い訳に思わず苦笑いをする。

 セイバーや遠坂、それと時計塔にいた頃に聞いた話などで魔術師殺しであった彼がどういう人生を歩んできたのかをなんとなく知っているので親父の感動そのものは否定はしないけど。

 さり気なく話題を変えてくれたのか、今度はアイリが尋ねてきた。

「それにしてもそちらの世界の魔法っていうのは私達魔術師が定義している魔術が根源に至った魔法とは違うのよね?」

 キャスターと同じく魔法について食いついてきたアイリに、もしかしてこの母もイリヤと同じく優れた魔術師なのだろうか?と思って応える。

「ええそうなんです。行使するのに魔力を使うというのは同じなんですけど、えっと、この赤い宝石、レイジングハートっていうインテリジェントデバイスってのを使うんです」

 首に紛失しないようにネックレス状の入れ物にしてかけていたレイジングハートを取り出す。

 彼女や切嗣はそれを興味深そうに見つめていた。

「これは魔術礼装…といえばいいのかな?それにしてはずいぶんと小さいけど」

「遠坂さんが使うような宝石魔術とは違うのよね」

 二人は不思議そうにレイジングハートを見つめる。

「魔術礼装や宝石魔術じゃないけど、イメージはそんなものです。普段はこんな状態ですけど、変身時には変形してステッキになって体内にあるリンカーコアという魔力炉みたいなものから魔力を取り出して行使するの。魔術がプログラムって概念で体系化されてるので、イメージするだけで魔力を使った砲撃とか飛行とかわりと色々できます。でも応用性や柔軟性は魔術の方が上ですね。じゃあレイジングハート、二人に挨拶してもらえる?」

「Yes, mom. Hello, Mr.Emiya and Ms.Irisviel. Pleased to make your acquaintance. Call me Raging Heart.」

「レイジングハートか。なのはのことを頼むよ」

「よろしくね、レイジングハートちゃん。お話もできるってすごいわねえ。あとで魔法を私にも見せてもらっても?」

「はい。じゃあ今度はなのはからいいかな?」

 まずは一番の疑問を聞きたい。

「なんだい?」

「親父は…死んだんだよね?私は藤ねえと雷画爺さんと一緒に葬式したのをちゃんと覚えているし、どうしてまた」

 素体となる遺体があったアリシアならともかく、遺灰になった切嗣がどうやって復活したのか不思議でしょうがない。大聖杯の解体で復活したのは基本五次の関係者だけのようだし…。

「ああ、たしかに僕は死んだ。でも虎聖杯というものによって復活したんだ」

「───ッ!?」

 思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

 そこまでにしとけよ藤村。

 どこかの世界にあるはた迷惑な道場といい、本当に毎度毎度他所様を巻き込んでなにをやってんだ。

「なんでなの…」

「僕もアイリもそれによってここに来たからね。正直よくわからないんだ。でも、こうやってなのはやアイリ、イリヤにまた会えたから十分だよ」

「……………………………そうだね」

 いろいろ考えたが、あの虎のやらかすことについてこれ以上まともに思考するほうが無駄だという結論に至った。

 あの暴れ虎の相手をいちいちして気が付いたら自分の足元がいつの間にかバターの海になって溺死していたなんて嫌だし。

「えっと親父は今こっちに住んでるの?」

「こっちと向こうと半々って感じだね。日本にいたのは短いとはいえ、やっぱりあの家の雰囲気は好きだし、なによりアイリやイリヤがあの家を好んでいるからね」

「そっか。なんか嬉しいな」

 あの家で語った最後の時を思い出す。また夏の日に浴衣を着て縁側で親子の語らいが出来たらいいなと思っていた。

「また夏に来た時にでもお祭りへ行こうか、イリヤ達も連れて」

「うん、賛成なの!」

 夏にこちらに来るのが楽しみだ。

 まだだいぶ気が早いけど新しい浴衣、選んでおかないとな。

 

 そしてつつがなくティータイムが終わり、各自が割り当てられた部屋へと移動した。

 そんな中、悲劇は時刻が夕方に差し掛かり遠坂と明日の予定について話しながら一階の廊下を歩いていた時に起きた。

 キッチンの方からなにやら異臭がしたので二人して何があったのかと様子を見にきたら、親父とセラが入り口で呆然とした表情で突っ立っていた。

「なにか────これは!?」

 入り口からキッチンを覗いたら、アイリが楽しそうな物で何かを作っていた。

 そのフライパンの中に鎮座しているどす黒い、この世全ての悪(アンリマユ)のような物体は一体なんでしょうか。

「あら、なのはちゃんに遠坂さんじゃない」

 隣りにいた遠坂さえもあまりの惨劇に冷や汗をダラダラとかいていた。

「あの…アイリお母さんはいったい何を作っているのでしょうか」

「今日はね、せっかくお客さんがたくさん来てるから久々にお料理してみようと思ってね。特製のハンブルグよ」

「アーチャー様…」

「アーチャー、なぜアイリを止めなかったんだい」

 セラは呆れ返り、切嗣が大粒の冷や汗をかき、台所を預かっていたアーチャーはいたたまれなくなって目を伏せる。

 キッチンには先程の何十倍もの異様な匂いが広がっていた。業務用の大型の換気扇はきちんと回っているはずなのに、なぜここにまで酷い匂いがしてくるのだろうか…。

 ───というか本人はこの状況に何も思わないのか。

「すまない爺さん…。今日使うスープを煮込んでいる間に明日の仕込みも済ませてしまおうと僅かばかりコンロから目を離していたら、いつの間にか一角で作っていたんだ。それにアイリスフィールのあの純粋な目を見たら止められなかった…」

「みんなしてどうしたの?もしかしてお腹が空いて我慢できなくなったのかしら?」

 ドイツの白い天然悪魔(アイリ)はニッコリと笑ってきた。

 これはまずい。いくらなんでもあんなものを食べさせられるなんてゴメンだ。

「いや、なんでもないんだアイリ。とりあえずみんなはこっちに」

 あの泰山の麻婆豆腐とは別ベクトルの劇物料理対策会議だということで親父とアーチャーと遠坂と私がアイリから死角になる位置で密談をする。

「衛宮さん、アイリスフィールさんのあれ、どうにかなりませんか?匂いからしてまずいこと確定ですよ」

「無理だね…。アイリの料理下手は今に始まったものじゃないから……」

 そう告げて遠い目をした切嗣。

 魔術師としては優れていたとしても完璧な奥さんはいないということか…。キャスターといい、この人といい、もしかして魔術師の女性は料理下手が一定数いるのだろうか。

 そう思うと親父がなんだか哀れになってきた。

「じゃあどうするの。あれ見るからに色々とヤバイの。隙を見て処分するしかないんじゃ…」

「捨てたのに気付いたらアイリが傷ついてしまうよ…それはできない」

 愛妻家である彼は首を横に振る。

「その気持はわかるが、あの毒物を夕食に出すことはできないだろう」

 切嗣の気持は確かにわかるが、アーチャーの言うことも最もだ…。来客達を危険に晒すわけにはいかない。

 というわけで捨てるわけにも誰かに出すわけにもいかないならどうしようと四人で頭を悩ませていると、無邪気に死刑宣告を告げにきた執行官のようなアイリがそばまで来ていた。

「みんな、さっきからそんなところで何してるの?あ、もしかして味見したいってわけ?まかせて!出来栄えには自信があるのよ」

 ───あ、これはまずい。なんというか色々まずい。

 しかし悲しいかな厨房から逃げられそうな時間はないし、逃げたら逃げたで本日の夕食が大惨事になる。

 この危険物を子供たちに出すわけにもいかない。

 ───もしかしたらなんとかなるかもしれないと思って私は腹をくくった。一人の被害で済むなら安いもんだ。

「よかったら、なのはが食べたいなーって思ったんですけど」

「なのは!?」

 切嗣が私が突如とんでもない行動に出たことに焦っていた。

「そういえば、なのはちゃんには私の手料理を出すのは初めてだったわね。いいわよ」

「楽しみです」

「───おい貴様、大丈夫なのか」

「なのは、いきなり何を言うんだい!?」

 普段険悪なアイツも私のことを心配したのか怪訝な表情で尋ねてきた。切嗣も心配そうに聞いてきた。

「大丈夫だよ…たぶん。食中毒になるぐらいなら…多分───多分大丈夫。最悪遠坂に治療してもらうから…。宝石、用意しておいてもらえる?」

「ええ…用意しとくわ」

 小声で遠坂が応えた。

「じゃあさっそく」

 アイリはウキウキしながら皿を取り出し、その黒い何かを皿の上にのっけて私の前に出した。

 匂いだけではなく、見た目が焼け焦げた炭化物か何かのようだし、ナイフでなかなか切れなかったり、切った所が粉のようなものがポロポロと何かがこぼれ落ちている時点で嫌な予感しかしないが気にしてはいけない。

「い、いただきます…。こ……れは!?」

 形容し難い匂いと見た目と切れ味で覚悟していたが、一口口に入れてた瞬間味がよくわからないことになった。意味がわからないように硬いし、パサパサだし、しょっぱい?甘い?辛い?苦い?酸っぱい?いや、言葉にできない味だ。そして全身に毒が回るような感じになっていった。頭がフラフラする。変な毒草でも使ったのだろうか?

「お手製なんだけど、どう?」

 火加減を間違えて中が生焼けだったり、表面がコゲたり、うまく整形できなくて崩れたりするぐらいなら初心者にありがちなミスでまだわかるし笑って許せるぐらいの可愛いものだ。私も衛宮士郎の頃、初めてジャンクフード好きな親父にハンバーグを作ったときに失敗したものだった。

 ───だがハンバーグをどうすればこんなにまずく、しかも毒のような効果を持つ一品に仕上げられるのだろうか。

 そんなことを考えていたらついにアイリの作り出した暗黒物質料理によって消化器官だけではなく体全体へ毒が侵食し、体がしびれて立てなくなってきた。

 誰かが倒れそうになった自分に駆け寄ってくる気がした。うっすらとした意識で考えると、私を抱きかかえてくれているのは遠坂と切嗣のようだ。

「うふふ、気絶しちゃうぐらいに美味しかったのかしら。嬉しいわね〜♪」

 それは絶対に違う!と倒れている私を除く全員が内心で突っ込んでいた。

「ちょっとなのは!しっかりしなさい!!今治療するから待ってて」

「なのは、しっかりするんだよ!気を確かに!」

 なんかもう疲れてどうでもよくなってこのまま消えていい気がしてきた。

「大丈夫だよ───遠坂、親父。なのはもこれから頑張っていくから」

 未来の自分がこの世から消える時のセリフを口走ってしまう。

「なのはッ!」

「なのは、なのは!それアンタが言っていいセリフじゃないし、色々とまずいから!!」

 治療のために手にした宝石を放り出して必死になっている遠坂と切嗣に揺さぶられて私はようやっと意識が再起動した。

「はっ!?なのはは一体どうしたの…!?」

 まだ意識がフラフラするが少なくとも英霊になることは避けられたようだ。

「なのは、あとは僕に任せてもらえるかな?」

 切嗣が唐突に言い出した。

「親父!?」

「爺さん!?」

 彼は意を決して危険物が盛られた皿へ意を決して歩みだし、椅子に座った。

「僕はね───アイリの美味しい手料理が食べたかったんだ」

「あら、切嗣ったら♪」

 夫に褒められたのでアイリはたいそう喜んでいるが、彼女が考えている意味と彼の言っている言葉の意味は間違いなく逆だろう。

 そうして、意を決した彼はハンブルグのような何かをもっきゅもっきゅと食べていく。切嗣の顔が人間がしていい表情や顔色でなくなっていくが、彼は決して動きを止めることはない。

 これが真の夫婦愛なのだろうか。

 あまり考えたくはないが、親父は泥によって死んだのじゃなくてこの料理が死因じゃないかと思ってきた。

「親父!!それ以上はだめなの!!」

「衛宮さん!!」

「あらあら切嗣ったら、夕飯前でお腹が空いてたのね。美味しいかしら?」

「ああ───とても美味しいよ」

 月夜の晩に別れた時のようなとても穏やかな表情を浮かべる切嗣。これはいよいよもってまずい。

「爺さん、まだ死ぬのは早い!しっかりしろ!今すぐ助けるからな!」

 そう言って真っ白になってぱったりと倒れそうになった親父を慌ててアーチャーが支え、遠坂が急いで宝石で治療する。

「切嗣様…」

「キリツグ、無茶しやがって」

 そんな光景を呆れながらに見守っていたメイド二人であった。

「なにやら悲鳴が聞こえたのですがどうしたのですか?───ってキリツグ!?」

 悲鳴を聞いたセイバーが駆けつけたときには、なんとか切嗣は息を吹き返していた。

 

 そんな文字通りの意味でのメシマズ騒動を経てアイリやイリヤや親父にキャスターのように魔法を見せたあと、豪華な夕食(こちらはアーチャーが丹精込めてまっとうな手法で真面目に作った料理なので味は極めてまともなものであった)を終え、食堂から出られるテラスで自ら淹れたお茶を楽しんでいたアイリにプレシアが声をかけた。

「お隣、よろしいですか?」

「ええ、もちろん。プレシアさんもどうです、お茶?」

 彼女はテーブルに置かれていたポットと使っていない茶器を差し出す。

 流石に紅茶に関しては不味くなることはないようだ。

「いただけますか?」

 アイリは慣れた手つきでプレシアの前においたカップにお茶を淹れる。

「ここに来たということは、何か私にお話したいことがあるんじゃないですか?」

「わかってしまいましたか?実は…娘、正確には義理のですがフェイトとの接し方に悩んでいまして」

「子供との接し方?」

「はい」

 表面上、PT事件後フェイトとはそれなりに和解はしたとはいえ、まだ若干どうすべきか迷っている面があるプレシア。並行世界で遥かに長い間、イリヤの母親をしていたアイリに母親として色々聞きたいことがあるのだろう。

「そんなに難しく考えなくても、思いっきりハグしてなでなですればいいんじゃないかしら?」

「えっ?」

「プレシアさんは子育てについて難しく考えすぎよ。親子はこうじゃなきゃとか、義理の娘にはこうとかじゃなくて、こう今の自分の気持ちを全面に押し出して接すれば、自然とどうにかなるわよ」

「でも…あの子がどう思うかが。アリシアと違ったあの子にかなり辛く当たってしまった事実は消せないですし…。実子であるアリシアと私と、そうじゃないあの子との間をどう埋めればいいのか」

 アリシアとの違いに心が荒んでいた頃からは半ば虐待気味で接していたのだ。一応は和解したが彼女はホムンクルスで血は繋がっていなく、しかも実子とは性格行動が異なるフェイトにどう付き合えばいいのか気を揉むのも当然だった。

「それはその時次第よ。今はあなたの気持ちをきっちりとフェイトちゃんに伝えることが大事じゃないかなって思うの。あの子は優しい子みたいだから、そう簡単にあなたのことを嫌いにはならないわよ。もっと子供のことを信用しなくちゃいけないかしら。じゃないと子供はついてきてくれないわ」

「…できるだけやってみます」

「大丈夫よ、新人お母さん。イリヤのように血は繋がってても、なのはちゃんのように無くても、親子ってわりとなんとかなるものだから。また何かあったら相談にのりますから」

「ありがとうございます」

 そう言って、お茶を飲み干して席を立つプレシアを見送った彼女はさっきから気付いていた存在に話しかける。

「───だそうよ、フェイトちゃん」

 ちらりとテラスの脇を見るアイリ。そこには食後に夜風にあたっていたフェイトがいた。

「気付いてたんですか?」

「ええもちろん、ママだから」

「子育てってのはお母さんはお母さんなりに悩んでるし、娘は娘なりに悩むのが母と娘ってものだと思うけど、たまにはどーんとお母さんの胸に飛び込んでみるのもいいことよ」

「はい…」

「関係性の変化を恐れちゃダメよ。二人の日々は色々あったかもしれないけど、それはかけがえのないものだったはずよ」

「ええ」

 

 アインツベルンの城には大きな浴場があったため、男女入れ替わりで入ることとなり、特に昨日のような遠出をすること無く済んだのだが…。

 ───まさか柳洞寺に続きまたこんな目に合うとは…。

「じゃじゃーん!!」

「え?」

「あなた達の服の大体のサイズは凛から聞いていたから、用意しておいたの」

 ウォークインクローゼットには様々な子供服が収められていた。

「はあ…」

 六時間ほど前に飽きるほど着せ替えさせられた私達の意見を代表して私がため息をついた。

「どうしたのよなのは達、さっきからやけにテンションが低いじゃない。せっかく可愛い服をたくさん用意したのに」

「ちょっと色々あってね…あはは……」

「変なの」

 とはいえキャスターと違って彼女の場合は悪意がないのでとりあえずは付き合おう。

 

 ───そして三十分後。

「なのは…今の君はとってもかわいい。イリヤと同じぐらい可愛い」

 親父はさっきから一眼で何枚写真を撮るつもりなんだ。メモリーカードが満タンになっちゃうよ。

 子供の頃からなんとなく親ばかなところがあると思ってはいたが、ここまでなのか。

 あとセイバーもセイバーで涎が垂れてるぞ。さっきのことといい、生前は妻がいたと聞いたがもしかしてライダーと同族なのか?

「ううー…」

「恥ずかしそうにしてるなのは、可愛いわね」

「わかるわ〜」

 小悪魔とあくまがケラケラ笑っている。

 ───早く終わってくれないかなあ…。

「じゃあなのは、次はこれにしましょ。あ、ここからは切嗣は出てって」

「うん…わかった……」

 可哀想かな親父は主催者により退場を命じられた。

「これ、絶対似合うわ。早く着て見せて」

 イリヤはスケスケのベビードールを手にとって私に迫ってきた。遠坂もそれを煽る。

「うわ、イリヤさんってすごいのを持ってるわね」

「えっろいわあ…」

「こんな恥ずかしいの着れません…」

「すけすけ…」

「マスター、大胆です…」

 アリサ、はやて、すずか、フェイト、アリシアがシースルーすぎるベビードールに思わず赤くなる。

「いや、流石にこれは…ちょっと」

 下着がほぼ丸見えのベビードールなど流石に女の子になったとはいえ恥ずかしいというか、だからこそ恥ずかしいというか。

「ええー、スケスケーでフリフリーななのはが見たいんだもの」

 はあ……今日は本当に散々な目にばかりにあうなあ。

「なんでなの…」

 私のぼやきはイリヤ達のテンションの高い声にかき消された。

 

 なんとか着替え大会を終えて、あとは寝るだけとなった。

「私、なのはちゃんとイリヤとセイバーと一緒に寝たいから」

 昨日のような誰が一緒に寝るのかという騒動は、アイリの鶴の一声で収まった。

 アイリさん、強い…。押しの強い子ばかりが一言も喋らずにそのまま納得してしまった。

 切嗣は可哀想に女の子達の部屋で寝かせないわよとアイリにいわれ別室で就寝することになったが、なぜか満足そうだった。

 ───ということで、私は四人でアイリ達の私室にある大きなベッドで横になっているのだが…。

「じゃあ恒例のガールズトークといきましょうか」

「ふえっ!?」

 唐突にアイリからとんでもないネタを振られた。

「あ、なのはの恋人知りたーい!」

 イリヤがワクワクした表情で私に近寄ってきた。

「それはぜひ聞きたいですね、ナノハ。今、貴女の本命は誰なのですか?」

 セイバーまで乗ってきた。

 普段はこういう話はしないように思うんだけど…。

「私、まだ恋愛とかあんまり興味ないというか」

「正直なのはちゃんは女の子が好きなの?それとも男の子が好きなの?」

「───いえ、だからですね…」

 そもそも、今の所はどちらの性別でも恋愛感情を抱くような相手がいないのだから説明しようがない。

 

 ───そんな感じで混沌とした私の冬木滞在二日目の夜は更けていった。




 翌日は冬木滞在の最終日。そこでまたも衛宮士郎の頃の顔見知りに会うこととなり、ちょっとしたピンチをむかえることになる高町なのはちゃん。彼女の運命はいかに───?
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