リリカルでマジカルな世界に憑依転生した正義の味方(StrikerS編制作検討中) 作:四条小鳩
そんなある日、下校途中に見つけた不思議なフェレットに助けを求められ、成り行きで魔導師としてジュエルシードという危険物を封印するというミッションに身をおくことになります。
なんとか当局を振り切り窓の鍵を開けておいた自室にこっそり戻ってきて、治癒魔術で簡単な治療を施した。
幸い、見かけほど大きなダメージはなかったので自分のレベルでも十分にできた。あと数日すれば室内を自力で自由に動きまわれるぐらいまでになるだろう。
そして治療の途中で、このフェレットは輸送船の事故で地球に散らばったオーパーツを探しに来たユーノ・スクライアという少年の仮の姿で、今は魔力切れでフェレットの姿になっているということを聞いた。
「ユーノ君、おおまかにだけど治療完了したよ。一週間もすればこの体であちこち走り回れるぐらいには回復すると思う」
治癒魔術の補助に消毒液などを使ったので、リビングからこっそりと持ち出した救急箱を閉じた。
「ありがとう。それで君は一体何者なんだい…?今、治癒魔法や薬品とか器具もあまり使わずに僕の傷を治したよね」
「いい機会だから、ユーノ君にはなのはのこと話しておくね」
そうして、自分は並行世界という世界がたどる様々な可能性の中の一つで生きた魔術使いの衛宮士郎という人間の魂が宿った存在であり、その世界ではユーノ達がデバイス経由で魔力を使うような魔法はないが魔術という別の体系のものがあると説明した。
魔術使いとして暮らしていた高校生だったある時、育ての父が大災害に巻き込まれた己を救うために体内に埋め込んでいた
「んー……僕達の世界の魔法と君の言う魔術の違いを説明できるかな?僕は魔術を知らないから」
彼、もとい彼女の送ってきた壮絶過ぎる人生そのものにも興味があったが、魔術というものにユーノは興味が沸いた。
あえて彼の人生を聴くこともないだろうという配慮もあったが。
「それは正統派な魔術師の遠坂の方がずっと詳しいと思うからいつか会った時にでも聞いてほしいけど、簡単に言っちゃえばデバイスを使うか使わないかなの」
「なる…ほど…?」
「実演してみるね」
百聞は一見にしかずだ。私の魔術は見せたほうが早い。
「うん」
「───
いつものように撃鉄を下ろすイメージで魔術回路に魔力を流して、手に一対の夫婦剣を投影した。
「デバイスをまったく介さずに自在に魔力を放出したりできるというのかい!?それに物を作り出せるなんて」
「そういうことなの。それとなのはの体を見て」
体の一部や顔の一部に網の目のように魔術回路が浮き出ていた。
「えっと…たぶんだけど魔力でできたような模様があるね」
「そう、これがなのはの魔術回路。正確に計測してないからわからないけど、ざっと70ぐらいあるの。これは魔力の神経とパイプラインみたいなもので結構すごい数があるんだよ」
「へへ〜」
「それとこれが私の扱う魔術の異常さなんだけど」
といって干将・莫耶をゴトリとテーブルにおいて手を離した。
でもうんともすんとも言わない。
彼はこの剣の異常さに気がついた。
「あれ、なんか変だな…。これ、僕が触っても平気かい?」
「もちろん。刃は潰してないから刃先で怪我をしないようにね?」
「え…これ、消えないよ?」
ユーノは恐る恐る前脚でグリップ部分を触ったが、布の下は無骨な金属の触感がするだけだ。なので彼は魔導師としてもっともな疑問を投げかけた。
一般的な魔術師でも消えないこの投影魔術の異常さにはすぐに疑問を感じるものだ。これのお陰で、遠坂は自身への魔術の指導に何度も頭を悩ませたものだった。
「普通、こうやって魔力で作り出したものは世界の修正力、つまり世界が正しいと認めている元の状態に戻ろうとする力を受けてすぐに消えちゃうんだけど、私の場合、
「世界の修正力…上手い例え方だね。僕達の世界の魔法が自然に消えちゃうのもそのためなんだ」
褒められて楽しくなったのか、それとも籠の縁にもたれかかったユーノが食い入るように観察し剣について議論するのが久々に味わう男の子っぽさで楽しかったからなのか、次々と効果や使い方などなどを説明をしながら投影品を出していった。
「それでこれは物干し竿。洗濯物を干すあれじゃないんだけど、変な名前でしょ?見た目はただのやたらと長い日本刀なんだけど、使い手がすごくって
「多重次元屈折現象…それはどういう?」
聞いたことが無い言葉に彼は首を傾げる。
「えっと、レイジングハートは同時に多方面に砲撃はできる?」
「ううーん、できるけど訓練もいるし、リンカーコアの魔力量とかけっこう複雑な術式を使わないとまず無理だね。それができる魔導師は限られてると思うよ」
「それがほとんど予備動作や仕込みがなく無くできちゃうんだ。三回、剣を同時にまったく別の方向へ振るなんていうデタラメをすることで、術を使われた相手は避けることができないで大体死んじゃうの」
初見では最優のサーヴァントであるセイバーに重症を与えたほどの威力だ。
───生前、ただ燕を斬るというためだけに極めた剣撃の一つの到達点だ。佐々木小次郎というのは座を持たない架空の英霊ではあるが、剣術の使い手の一人としては憧れの存在だ。
「うええ…それは怖いなあ。そんなことができるんだね」
「それでこれは、弓はちょっと邪魔だから投影しないけどある英雄が使っていた
「これが…剣?」
またツンツンと触って不思議そうな顔をしているユーノ。
「にゃはは、たしかにそう思うだろうね。かなりの魔改造をして矢っぽくした物だから原型殆どとどめてないし。あとは盾だったら例えばトロイア戦争でアイアスって英雄が使った
「宝具とか知らないことばかりだ。魔術というのはすごいなあ…。時空管理局に知れたらすぐに危険な魔法としてマークされそうだけど」
ユーノは一人の研究者として、投影魔術で作られた多数の刀剣類が並べられた机や宝具という物の奥深さに目を輝かせていた。
「あはは、封印指定はもう勘弁なの」
「あっ、ごめんね。そんなつもりはなかったんだけど…」
しゅんとしたフェレットに笑いかける。
───たとえ己の行く先に待ち受けているのが地獄でも歩き続けていく覚悟はもうとっくにある。
「大丈夫。なのはは地獄になれてるから。そして…一番使い慣れて好きなのはこれかな」
数々の投影品から、最初に投影した
やはり、自分にはこれが一番馴染むし好きな刀剣だ。
「その干将と莫耶という剣はなのはにとって思い入れがあるのかな?」
その様子にユーノは穏やかに語りかける。
「うん、私が初めて衛宮士郎として、強い武器がほしいと願って投影したのもこれだし、なのはの…衛宮士郎としての生き方を未来の自分と争った時に使ったのもこれだし、聖杯戦争の最後、英雄王との戦いで幕引きに使ったのもこれだった」
「なるほど」
ユーノは、この少女もとい中身の青年が辿った壮絶過ぎる人生に一体何があり、どうしてそのように生きてきてこの少女になったのだろうと思った。もしかしたら、この少女に出会ったことこそが自分にとって何かの運命かもしれないと思っていた。
「さて、明日は学校だしそろそろ寝ないと。じゃあ、ユーノ君、これ消すね」
そういって投影品を消す。
それは今の体はどうにも朝の場合は昔のように起きられないので、起こしてもらうことが多いからだ。その時に桃子や美由希が来たら見せるわけにはいけない品ばかりが卓上に並んでいる。投影で作った贋作とはいえ、人を殺められる武器であることには変わりはない。
───それにこの年齢で刀剣類の不法所持で警察のご厄介にはなるのはゴメンだしね。
「あれ、消えちゃった」
彼はまた不思議な事が起こったので首を傾げた。
「なのはが消えろと思うか壊れない限りはずっと世界に存在し続けるからね」
「そうなんだ……。本当にデタラメだね」
ユーノが苦笑したのでついつられて自分も苦笑した。
「よく遠坂にも言われたの」
思わずつられて笑ってしまった。
「魔法少女になったですって!?」
「ええっ!?」
翌日の昼休みの時間、いつものように仲良し三人組でお昼ご飯を食べていた時に昨日拾って病院に預けたフェレットによって魔法少女になり、この街に散らばったジュエルシードの欠片を封印することになったことを明かした。
ちなみに、家族には怪我をしたフェレットを一時的に引き取りたいと告げた。自宅で面倒を見るとはいえ飲食店を経営しているためと、年齢を鑑みて渋い顔をされたが、自分だけできちっと面倒を見るという条件で許可を取り付けた。
───今まであまりわがままというわがままを言わなかったので許されたという所もあるだろう。
ちなみにまだ傷は回復していないので今は魔術で簡単な念話のパスを繋いで家で休んでもらっている。
「それって一つの願いを叶える代わりにほとんど詐欺同然のやり方で魂を別の器に入れられて、定期的に成れの果てを狩ったりしないとかじゃないでしょうね」
「アリサちゃん、あんまり変なこと言ってると怒られちゃうよ?」
明後日の方向へボケとツッコミをしている二人に苦笑しながら応える。
───それにその魔法少女は爺さんが参加した第四次聖杯戦争絡みだ。
「あははは…うん、そういうのはたぶん大丈夫だよ。それになのはは自分の身は自分で守れるし、ユーノ君が嘘言ってるとは思えないし」
「そう言われればそうだったわね」
誘拐されそうになった時、犯人達を逆にコテンパンにしたのはすずかとアリサの目の前に座る童顔などこにでもいそうな少女、中身は衛宮士郎という青年だ。それも以前彼女達に打ち明けた事実だった。
さすがにこの世に生を受けてからずっと女の子をやっているということで特に咎められることはなかったが、すずかは恥ずかしそうにし、アリサに至っては顔を赤らめていたのでなんだか申し訳ない気持ちになった。見た目は少女とはいえ中身は男なのだから、年頃になりつつある女の子が異性に裸を無防備に見られていたと知ったらいい気持ちはしないだろう。
だから最近は体育のときなどは努めて目立たないように着替えている。
「ともかく、なのはは海鳴に散らばっているジュエルシードっていうロストロギア…ようは昔なくなった文明の遺跡を封印すればいいの」
「へ〜、まるでお金持ちの女性が古代文明の遺跡を渡り歩いてトレジャーハンターとして大活躍するみたいだねえ」
「すずか、それどこかから怒られるわよ」
どうやらこの二人はたまに変な所から電波を受信するようだ。
───そろそろ色々な所から苦情が来ないか心配だ。
「なのはは大丈夫だから、心配しないでね」
「でも前みたいに抱え込みすぎないで、ちゃんと話しなさいよ?」
「もちろん!」
それは理解していた。アイツとの戦いやその後の放浪で己の理想や願いを分かち合うことの大切さを痛感していたので、今後も彼女達にはできる限り話すつもりだ。だが、話すことはあっても危険なことに巻き込むつもりはない。
「あ、今日なのはちゃんのお家に行ってもいい?フェレットさんに会ってみたいな」
「私もいいかしら?」
「うん、いいよ〜」
放課後、二人は竹で編まれた籠にタオルをしいて作られた特製のベッド(なのは作)に寝かされているユーノのお見舞いに来てくれた。
「ユーノ君、昨日のお友達を連れてきたよ」
「なのは、この子達は信頼できる子なのかい?」
「うん、そうだよ。右の子が月村すずかちゃん、左の子がアリサ・バニングスちゃんね。魔法のことも魔術のことも知ってるの」
「よろしくね」
「よろしくお願いします、フェレットさん」
「どうも、僕はユーノ・スクライアです。今回はジュエルシード回収でお世話になっています」
包帯まみれのフェレットはどうもと器用にお辞儀をした。
「じゃあ、お茶淹れてくるからちょっと待っててね」
なのはがお茶を入れにいったタイミングで二人は彼に詰め寄った。そう、彼女達がユーノに会いに来た目的は別であった。
「駄フェレット、なのはちゃんを危険な目に合わせたら…わかってますよね?」
「ひえっ!?」
先程までのおしとやかな雰囲気であったすずかがいきなり態度を豹変させ、絶対零度の声でユーノを脅した。隣に座るアリサの目もまったく笑っていなかった。
「モ、モチロンナノハサンハチャントオマモリシマス。スクライアゾクノナニカケテチカイマス」
今にもナイフで皮を剥きそのまま毛皮にしそうな目に彼は震え上がった。
「───何かあった時は夜道に気をつけることね」
アリサがぼそりと告げる。
「ひっ!?」
「ただいま。三人でどうしたの?」
紅茶を淹れたトレーを持ったなのはが帰ってくる頃には、この場での力関係は確定していた。
「なにもないわよ?」
「なんでもないよ。なのはちゃんをよろしくねって言っただけだよ。そうだよね、ユーノ君?」
「ハイ、ソウデス」
そうとしか答えようがないよ!と彼は内心で突っ込んでいた。
「なんで片言なの、ユーノ君?」
「アハハ…」
脅された哀れなユーノは人生の中で怒らせては不味いという危険女性リストの最初の一ページ目に、月村すずかとアリサ・バニングスの名を書き込むこととなった。
その後の何箇所かの封印作業は、ルーン魔術を応用した防音、人避けの結界や巻き込まれた人への暗示による記憶操作の魔術によって聖杯戦争よりもはるかに穏やかに行うことができた。
ただまだレイジングハートの使い方には十分に慣れていないし、音の問題もあった。郊外の誰もいない森の中で適当な的を目標にして封印の練習をしようとしても、どうも最初の馬鹿でかい威力の遠距離砲撃がデフォルトの攻撃法になってしまったらしく、イメージを調整して威力を抑えることはできても音はそれでも煩いのが難点だと考えていた。ユーノにそのことを相談した所、途中で元の世界に戻れたらデバイスのプログラムを書き換えて、イメージよりも音を抑えられるようにしてみるとのことなので、それを待つしかないだろう。
魔術ではなかった空中での戦闘は自分を相手にした攻撃・防御魔法を織り交ぜた模擬戦でやっているが、まだまだだ。
───さてそんなメルヘンであるべき魔法少女らしくない極めてテクニカルな悩みは頭の片隅に置いて、今日は月村邸で開催される恒例のお茶会である。
「お、ありがとな」
空になったはやてのカップに新しく淹れた紅茶を注ぐ。
種類に応じた適切な茶葉の量から、きっちりと沸騰させた水、予め十分に温めておいた鉄分を出さないための白磁のポットとカップ、十分にジャンピングをさせ、余計な渋みを出さないタイミングで注ぐことまで完璧だ。
カップに注いだ瞬間、紅茶の持つ素晴らしい香りがする。
───ちなみに本場イギリスで定められた正しい紅茶の淹れ方の仕様書によれば事前に犬の散歩をすることも加えればいいらしいが、それは贅沢を言い過ぎか。
「いえいえ」
今回のお茶会にはユーノはいつジュエルシードが出てもいいように私が持ってきたカバンの中に敷いたタオルの一角に陣取り、ゲストとして八神はやても呼ばれていた。
「うん、なのはの淹れたお茶って最高よね。やっぱりうちかすずかの屋敷でメイドにならない?高待遇で今ならオプションでヨーロッパでの結婚もつけてあげてもいいわよ」
「うんうん!アリサちゃんなら私は正妻でも愛人でもいいからね」
お茶をそれぞれ評価する二人。
それ以外の小学生が言って良くない言葉は聞かなかったことにする、いや聞きたくない。
「おっぱいのついたイケメンで百合ハーレム持ちだけじゃなくて家事ができて嫁力も高いときたか」
暑い暑いとポーズで手扇子をあおぐはやて。
まったく他人事だと思って…。
「みんな何を言ってるの…」
そんな彼女達に呆れながら給仕する。
このお茶会で紅茶を淹れたりお菓子を用意するのはすずかの家のメイドであるノエル達を差し置いてもっぱら自分の役割になっていた。一度すずか達が自分の家に遊びに来た時に紅茶を振る舞ってあげたら大絶賛で、なし崩し的にそんな立場になってしまった。よく手伝っている翠屋でも、母である桃子の独壇場であるお菓子以外の紅茶やコーヒーといった飲み物を出すことが多い。
こんなことのために衛宮士郎の頃にエーデルフェルト家で執事のバイトをしてたわけじゃないんだけどなあと思いつつも、誰かに用意してと言われれば遠坂への応対のようについついお茶などを淹れてしまうのは己の魂の根本にまで刻まれた癖なのだろう。
今日は昨日から準備しておいたレアチーズケーキを振る舞っている。小学生の旺盛な食欲の前に美味しいチーズケーキは、あっという間に残りが四分の一にまでなった。次はもう少し大きいサイズで作ってもいいかもしれない。
───ちなみに、彼女の身につけている家事スキルや修理スキルは学校でも遺憾無く発揮されており、通っている聖祥大附属小学校の同学年である一部の男子からは「聖祥小のばかスパナノハ」とか、女子からは「聖祥小の小さなメイドさん」などと生前のような大変不名誉なあだ名をつけられていることをまだ知らない。
「またまたご謙遜を言っちゃって〜。いったいなのはさんのヒロイン力と恋愛戦闘力はいくつなんやろな〜」
「なんでなの!」
彼女の理不尽な言い方に抗議するが、もはや聞く耳を持たれていないのが悲しい。
「いやあ、ほんま羨ましいわ。いっそうちもなのハーレム要員に入れてもらえばええんかな」
「何言ってるの…」
その瞬間、アリサとすずかの二人の目がなぜか鋭くなったが、確信犯なはやてはどこ吹く風であった。
いつもの痴話喧嘩もどきをしていたらカバンの中にいたユーノから念話が来た。どうやらすぐ近くでジュエルシードの反応があったようだ。
「ちょっと、お手洗いに行ってくるね」
給仕の手を止め、適当な口実を告げて席を外す。
「うい〜、いってら〜」
「いってらっしゃい」
「気をつけてね」
ユーノを入れたバッグを持って屋敷に向かいトイレの方角へ向かう。
「ん?───って…!?」
偶然、一緒についてきた兄とすずかの姉である忍がいる部屋の前を通ったら、
己は別に肉親である兄へ恋愛的な意味で特別な感情を抱いていないし、愛し合う二人を別に止める気はないのだが気まずいものは気まずいのだ…。
「はあ、お兄ちゃん…ちょっと見る目が変わっちゃったなあ」
若い恋人たちのラブシーンを見てうなりながら一度トイレの前まで来て近くにある窓から脱出し、ユーノをカバンから出してレイジングハート片手にジュエルシードを探していたらあっさりと見つかった。
「にゃああ──────!!」
今回のジュエルシードは猫屋敷である月村邸にいた子猫の大きくなりたいという願望を叶えたようだ。遠目で見ればその様子は可愛いと言えなくはないけれど、これだけ大きいのではもはや化け猫だ。
───猫のためにも、そして猫に可愛いというイメージを持っている人のためにも早く封印をしようと決め、バリアジャケットを展開する。
「レイジングハート、セットアップ───!」
「Device mode set up.」
「じゃあ、封印に…」
「なのは、待って!」
「なのはちゃん!」
さて皆が待っているしすぐに化け子猫退治を終わらせようとした瞬間、誰かが自分を引き止めた。
───こんな非常事態に一体誰だ!
「アリサちゃんにすずかちゃん!?なんでここに!?ってか今はアレを倒さないといけないんですけど」
そこにはテラスにいたはずの二人がいた。
目と鼻の先で巨大猫が暴れまわっているのに、呑気にこっちの様子を見に来るなんてなんて無防備というか能天気な子達だ。
「ごめんね、ちょっとなのはちゃんの活躍、見てみたくて。急に席を外すなんておかしいって思ったからついてきたの」
「それにしても今のなのはかわ……結構きわどい衣装よね」
アリサが本音をいいかけて、慌てて服の感想を言った。
確かにピンクを基調としてフリルが付いて可愛いとはいえミニスカートだし、背中は大胆に露出している。あの時はジュエルシードを封印することと、バリアジャケットを考えることに必死で、ゆっくりとデザインを考えている余裕など無かったのだから仕方がない。
「私はなのはちゃんらしい色合いだし、なんか魔法少女って感じでフリフリでいいと思うよ。なんでカメラ持ってこなかったのかな」
すずかは令嬢らしくわりと少女趣味なのかバリアジャケットを可愛いと言った。
───あとこの姿をカメラで撮影とか本当にやめて下さい。恥ずかしくて死んでしまいます。
「うう…とっさになんかこれがいいって電波みたいにイメージが頭のなかに浮かんで」
二人にジロジロ見られるのが妙に恥ずかしくてモジモジしてしまう。スカートやフリルなど女の子らしい服装にはとうに慣れたものだが、こんな体になっても心は硝子というか一人の乙女だ。
「ともかく、私達に役に立てることがあったらなんでも言ってね、なのはちゃん」
そうすずかが告げる。
しかし庭で暴走する子猫を前にして二人の手のとり方が恋人繋ぎになっているのはなぜだろう。
「えっとですね…お二人ともよろしければそろそろ手を離してもらってもいいでしょうか?ジュエルシードの封印ができないんですけど…」
「…うん」
「…はい」
そういうと名残惜しそうに手を離した二人。
本当にこの子達の最近の自分に対する態度はいったいなんなのかな…。時間ができた時に聞かなきゃな。
それはともかく、今度こそ封印しなきゃいけない。
「えっとすずかちゃん、この紙を庭の端に置いてきてもらえるかな?猫さんに見つからないようにね」
「わかりました」
足の速いすずかに結界用の仕込みを任せ、ようやっと開放された両手に改めてレイジングハートを握り直して猫に対峙する。
「はー…やっと封印できるの。いくよ、レイジングハート!」
「Yes, mom.」
今度こそこの子猫をもとに戻して、一刻も早くはやての元に戻らなければ…と考えていたのだが、また邪魔が入った。
「───待って」
「今度は誰なの!?」
天丼ネタは勘弁してほしい。こっちは早く「アレ」を封印しなきゃいけないんだから。
そう思いながらとっさに声がした方を振り向くと、美しい金髪をツインテールにした私と同い年ぐらいの少女がインテリジェントデバイスらしきものを持って庭にある木の上に立っていた。
「そのジュエルシードを私に渡して下さい」
「あなたは誰なのかな?」
「───それは言えない」
「あのですね…見て分かる通り今子猫さん?が目の前でで大変なことをしてるから、ジュエルシードを渡すか渡さないかは後にしないかな?」
「なのは、あの子はどうやら魔導師みたいだね」
肩にのっているユーノが言う。敵か味方かはともかく、戦う理由もないしジュエルシードを回収してから話し合いをしたほうが単純に早いと思った。
「駄目。今すぐここから立ち去って。あれは私が倒す」
「時間が…」
これでは押し問答である。この子猫が外に出たら大騒ぎどころではない。となればあの少女の言い分は後でゆっくりと部屋ででも聞き、この場はあの巨大子猫?を早く元に戻すことに集中しよう。
「とりあえず、話は後でっ!これが終わってお茶会が終わったらなのはの部屋で何時間でもお話に付き合うから〜!」
「ああっ!?」
考え込んでいた様子だったので諦めるだろうと思っていたら、突如子猫に向かって猛烈なダッシュをかけた相手に面を食らった謎の美少女ことフェイト・テスタロッサであったがすばやく気持ちを切り替え、回収の邪魔になるなのはを止めるために射撃魔法の体制に入った。
「バルディッシュ───フォトンランサー、フルオートファイア!!」
「Photon Lancer.」
自分の水着のような露出の高いジャケットはともかく、やけにふりふりで実用性に欠けそうではあるが一応はジャケットを着ているようだし、あの少女も防御するためにシールドを展開するだろう。もしシールドが外れても貫通しても非殺傷設定にしているのでせいぜい打撲を負う程度の怪我で済むだろうと思った彼女の予想は大いに裏切られた。
「そんな!?」
肩にフェレットを器用にのせて無抵抗に猫に向かっていた少女の口元が何かしらの言葉をつぶやき動きを止め、デバイスを持っていない手が砲撃元を向いた瞬間、ミッド式では見たことがない赤い花弁のような何層もの膜が彼女の無防備な側面に展開され、一枚も魔力の弾丸によって散ることもなく散弾は完璧に防御された。
「あのシールドは一体!?」
「Master?」
彼女は魔導師として初めて身につけ絶対的な自信がある魔法が、正体不明の魔法に防がれたことに驚き、寡黙なバルディッシュが珍しく彼女に心配して話しかけた。
「なんなの…」
加減はしたとはいえそれなりの威力のはずなのに、シールドで守られていた彼女は何事もなかったかのように平気な顔をしている。そして行動を再開し、何度も繰り出される猫パンチを器用に躱しながら、あっという間に封印するのに程よい距離まで来ていた。
「驚かせて本当にごめんなの!あとでゆっくり貴女のお話を聞くから…リリカル・マジカル───封印すべきは忌まわしき器!ジュエルシード!」
防音結界は足が速いすずかに頼んで代わりにルーンを描いた紙を要所に置いておいてもらったので、テラスに居る轟音をはやてに聞かれる問題はない。元に戻った子猫からジュエルシードが飛び出しとりあえず無事に封印することができた。
「ジュエルシード、封印!」
「Sealing mode set up. Stand by...ready.」
「ジュエルシード!シリアル14、封印!」
「Sealing.」
「これでおしまい、と」
使い魔アルフの援護がなく相手の魔導師としての能力がわからない今は撤退するしかないと考え、フェイトは離脱を決断した。
「───バルディッシュ!」
「Yes, mom. Blitz action.」
さて、封印も完了したしようやっと落ち着いてあの金髪の女の子と…そう思ったらあっという間に彼女は飛び去っていってしまった。
「ああ、ちょっと待って!!って行っちゃったの…。あう、なのは悪い事しちゃったなあ。せっかくなら共同戦線でもと思ったのに」
聖杯戦争のように無意味に戦いたくはないし、ジュエルシード集めという共通の目的があるなら一緒に探したり封印したほうが早いし効率的だから協定でも結ぼうかと思っていた。
「お疲れ様、なのは。なんか攻撃されたみたいだけど大丈夫だった?」
「さっきの子、何だったんだろうね」
駆け寄ってきた二人もあの子を見たのか、謎の少女の行動に首を傾げていた。
「私は平気。ううーん、あの子の目的はなのはと近いと思うよ。たぶんジュエルシードを集めてればまた会うだろうけど…」
「平気よね?」
「まあ、たぶん。実験でやってみたけど魔術で魔法を防御できるのはわかったから」
そんなこんなでやっと封印をして、あらかじめ三人でこんな時の為の切り札として用意しておいたはやての名前が刺繍された猫のぬいぐるみをサプライズプレゼントとして用意していたから遅くなったということにして彼女を誤魔化した。
───しかし、先程化け猫モドキを倒したばかりでこのチョイスはいかがなものか。
「これ、みんなからのプレゼントです」
そうして彼女へ綺麗にラッピングした箱を渡す。
「なんや!?え、え!?」
彼女は驚きながらも丁寧にラッピングを剥がし、ぬいぐるみを取り出した。
「ええ、これもらってええんか!?めっちゃうれしいわ!うち、こんなに人に優しくされたの、久々やわ。ほんまにありがとな〜」
ごめんね、はてちゃん。遅くなったのはジュエルシードを封印してたからなんだ…。
「遅くなっちゃってごめんなさいなの」
「遅れたのなんかかまへんかまへん。こんな嬉しいことしてくれるんなら大歓迎や」
プレゼントを受け取り涙ぐんでいた彼女はそんなこともつゆ知らずえらく感激していたのを、とても気まずい気持ちで見ていた私達であった。
お茶会とジュエルシードの封印が終わり門限の六時が近づき、もう少し二人きりの時間を楽しみたいであろう兄や忍に気を使い一足先に家へと向かっていたはずなのだが…途中で変な結界に取り込まれ、目の前には仮面をつけた二人組が立っていた。
月村邸でのジュエルシードと謎の少女との小競り合いといい、このいきなり現れた不審人物達といい、今日は厄日なようだ。
あかいあくま恒例のうっかりやわけがわからないトラブルを引き込む体質が私に感染ったのだろうか?
「お前は誰だ」
仮面組の一人が尋ねてきた。
さてどうしようかと一瞬考えて、あの皮肉屋のマネをしてみることにした。結局手を出さなかったとはいえ遠坂に対し記憶がないと途中まで騙したり、キャスターからセイバーを取り返す混乱に乗じて彼女を攫ったり、執拗に自分を殺そうとした意趣返しも込めて。ついでに表情もヤツを真似て真顔にしてみた。
「私がどのような人間かは答えられないの。何故かって言えば、自分でもよく分からないから」
「はあ!?お前は私達を馬鹿にしているのか?」
二人組のもう一人が怒ってきた。それを気にせず大袈裟に肩をすくめながら続ける。
「えっと、あなた達を侮辱するつもりはないんだけどね。今ここに構築されてる不完全な結界のせいで、自分の記憶にどうも混乱があるみたいなの。私の名前とかどこに住んでるかとかが曖昧で───まあ、さして重要な欠落じゃないからあなた達が気にすることはないんじゃないかな?」
まったくの嘘八百だが、自分の正体を向こうが明かさないならこっちも正体を明かす道理はない。
「この…さっきから黙って聞いていればペラペラとウソを!!」
「だから些末な問題でしょ?」
相手の地雷をまったく気にせずずんずんと踏みぬいていく言動にユーノがヒヤヒヤしているのに対して、おー、怒ってる怒ってると私は内心腹を抱えて笑った。
冷静に状況を判断しつつ省みると、腹黒さや狡猾さは遠坂から譲り受けたようだ。
「むき───!!」
仮面組の一人が地団駄を踏んでいるのを見て、冷静なもう一人と違ってどうやらこいつはかなり感情的なようだと思った。こういう相手は戦う上で扱いやすい。案外、遠坂やルヴィアと渡り合うために身につけたであろうアイツの癪に障る言い回しは他人にも有効なようだ。
今のように意図的に相手を煽りたいときには使えるかもしれないなんて考えていたら、とある並行世界で「風邪でもひいたの?」「いや…そんなはずはないのだが」と赤い主従コンビが首を傾げていたりした。
「これは魔導師の結界だよ!しかもさっきの子とは違うみたいだ」
空気を読んで名前を使わないのはありがたい。
「わかった───
魔導師相手ならレイジングハートで相手をしてもいいが、魔法の制御もまだ練習不足だし、空中での戦闘もまだ不慣れ。いくら能力があっても使いこなせる技術がなければ意味がない。己の技量は魔導師として求められている技量からすればまだ見習いのレベルもいいとこだ。
魔術を使うとこちらの手の内を見せてしまうが、相手の実力もわからない現段階では使い慣れた手段で相手をした方がいいと判断して、いつもの夫婦剣で対応することにした。攻撃魔法は先程の実験で試した通り、トロイア戦争の英雄ヘクトールの宝具、
「ちっ!!この件から手を引け。お前は危険だ」
干将・莫耶を見て動揺したのか威嚇してきた。いよいよ答えは決まりつつあるか。
「できないのなら実力で排除する」
「にゃは、それはできない相談かなあ。あなた達みたいな街の危険人物を見逃すなんてできないしな〜」
ヘラヘラと笑っていたら仮面の下で謎の人物達が怒りの表情へ変えるのが手に取るように分かって面白い。
どうやら平和的解決は不可能、そういうことらしい。
彼らの構えから見るに訓練はしているようだが体術は一般的な英雄以下、魔導師としての実力は未知数と判断した。
「では貴様との交渉は決裂ということだな」
「みたいだね。あと…私はともかく他の人に手を出したら許さないから」
そう言って身体強化の魔術を全身にかける。今の魔力残量であれば全力の
「全力全開!」
いきなり襲っきた魔導師のような仮面組の魔法を干将・莫耶で切り伏せ、かつ複数を地面に投擲して動けないように威嚇してから最後は
そして諦めて帰宅すると、一番会いたくない人物が家の玄関に仁王立ちしていた。
───詰んだ、と瞬時に悟った。
「───おかえりなさい。今何時だと思ってるのかしら、なのは?」
桃子の顔や目がまったく笑っておらず、自分の額に一筋の冷や汗が流れる。今の己にとってジュエルシードやあかいあくまよりも人生の中で母親は最大の天敵だ。
「───た、ただいま帰りました、桃子お母様。本日は門限の時間より帰るのが大変遅くなり、申し訳ありませんでした」
門限を破ったという非はこちらにあるのでとりあえず丁寧に謝ってみよう。そうすれば穏便に事が運べるかもしれない。
しかし現実は無常で母から玄関先でこってりとお説───もとい元祖高町流のお話を受けることになり、泣いた。
いいことをしても正義の味方に世間は冷たいのだ。
八神はやてちゃんの登場は若干早めていますが、彼女に魔導師や魔術の存在を隠し通すのがアクセントになるかなと思い、あえて登場させていたりします。