リリカルでマジカルな世界に憑依転生した正義の味方(StrikerS編制作検討中) 作:四条小鳩
温泉街で戦った翌日、彼女からメールが来た。
内容はこうだった。
『協力します。街中でジュエルシードの反応がありました。場所は〜』
彼女が約束を守ってくれたことが嬉しかった。
「今フェイトちゃんから連絡があってジュエルシードが見つかったみたいなの。じゃあ行こうか」
私はこっそりと抜け出せるようにと最近部屋においてある靴を取り出す。
しかし、ユーノの表情はよくない。
「本当に彼女のことを信頼していいのかい?横から掠め取られでもしたら…」
「大丈夫だよ、ユーノ君。あの子は真面目な子だし、もしそうなった時は私が彼女を止めるから」
彼の不安も最もだが、毎回余計なゴタゴタが起こるよりよほどマシである。
それに裏切りを疑いだしたらキリがない。遠坂流に言うなれば『心の贅肉』なのだが同盟を組んでも損はないと思っているところもあるし。
そうして私はフェレットになった彼を肩に乗せてジュエルシードの出現場所に向かった。
それから数日後、またフェイトからジュエルシードの反応があったと連絡が来たが、あいにくアリサとすずかの二人といた私は少し出遅れてしまった。
「ごめんね、なのはちゃん。無理言っちゃって」
一緒に来たいと言ったことについて今は身体強化と認識阻害の魔術をかけて片腕で抱えているすずかが謝罪する。
今更一人二人増えようと大差はないと思っている。
「私は大丈夫。気にしないで」
とはいえ強化した目で現場を見たが、あまりいい状況ではないとわかった。
「これはちょっとまずいかも…」
「大丈夫なの?」
木の蔦が鞭のように彼女に何度も襲いかかり、封印するために近づけそうにない。
───仕方ない。ここで一旦邪魔物を押さえた方がいいと判断した。
「ごめん、すずかちゃん、アリサちゃん。ちょっと間に合いそうにないからここから援護するから一旦降りるよ!」
あの厄介な蔦をまずは彼女の周囲から追い払わなければならない。
となると遠距離での支援が最適と判断し素早く、二人を近くに降ろして私は近くにあった大きな鉄塔の上に飛び乗った。
「───
私はいつもの洋弓を投影して、続けざまに矢を八本放った。
正確無比に矢が彼女に襲いかかる蔦を捉えたが、まだ生き残っているのがいた。
「もう一回かな」
更に十六の矢を投影して放ち、追撃をする蔦を押さえ込む。
「よし!二人共、急いでいくよ!」
重力軽減の魔術をかけながら急いで着地して、二人を抱えて現場へ急行する。
「なのはちゃん、今のって!?」
すずかがびっくりしたように私に問いかけてきた。
「えっとね、なのはってどっちかっていうと弓のほうが本職なの」
屋根から屋根へ飛びながら説明する。
「でも、剣道も結構やってるわよね?いつの間にアーチェリーなんて」
アリサが最もな疑問を投げかけてきた。
アーチャーと同じく、私も弓兵らしくない戦いが好きだというのは自覚している。
「それは弓と比べて剣が得意じゃなかったからというのと…」
彼女達は知らないが、私の弓は射つ前に外すと思うかよほど心が乱れていない限りは必ず当たる。だから本来はこちらがメインなのだ。
そんな私がなぜ、剣の道を目指したかといえば…目を閉じれば今でも思い出すあの月夜の日。
月に濡れたブロンドの髪、美しく気高い意志がこもった碧眼の
出会いは一瞬だったが、この記憶だけは転生した今でもよく覚えているし、例え地獄に堕ちたとしても忘れることはないだろう。
彼女との出会いがあったからこそ、私は剣の道を志すことになった。
「なのは?」
───アリサに呼ばれたことで意識が現実へと引き戻された。
何をしているんだ私は。
「ああ、ごめん。ちょっと昔を思い出しちゃって」
こんな時に感傷にふけっているとは少し気が緩みすぎだ。
「しっかりしなさいよ」
「ごめんなの」
気持ちを切り替え、意識を改めてフェイトへ向ける。
「もうすぐ着くよ!二人は離れててね!」
援護のために一瞬止まってしまったため、やっと彼女の元へたどり着けた。
「遅くなってごめんね、フェイトちゃん!」
「───なのは!」
魔樹もどきはまた蔦を生やして彼女へ襲いかかっていた。
「蔦は私が押さえるから、フェイトちゃんは封印よろしく!」
「うん」
───蔦の数は八本…。
これぐらいなら剣を使わなくてもいいかな
「怖い木さん!私はここなの!!」
木の意識を私に向けるように蔦の範囲内でちょこまかと動き回る。
相手の射線を予想して、射撃魔法をイメージする。
「予想通り…!リリカルマジカル───ディバインシューター!」
「Divine Shooter.」
意図通り動いてくれたので、私に迫ってくる枝を魔法で食い止め、そして出来る限り相手が動かないように足止めをする。
そして彼女へ『今のうちに封印を』という意味を込めた視線を送る。
理解してくれた彼女はコクリと頷いて、じっと怪物を睨みつけた。
「貫け豪雷!」
「Thunder Smasher.」
その言葉と同時に放たれた黄色い砲撃魔法の光が化物の木を飲み込み、元の状態へ戻した。
「やったね!」
フェイトちゃんが無事に出てきたジュエルシードを封印してくれた。
今日も無事にミッションコンプリート。誰も怪我なく封印できたし、めでたしめでたしなの。
そして、また
「私の友達の月村すずかちゃんと、アリサ・バニングスちゃん。それでこちらがフェイト・テスタロッサちゃんだよ」
二人に彼女を紹介する。
「はじめまして、月村すずかです」
「よろしくね。アリサでいいわよ」
「は、はじめまして」
同世代の子が急に二人も来たためか、警戒だけではなく緊張もしているようだ。
せっかくだし、どこかで一休みして二人をきちんと紹介したいと考えていたら予想外の事態が起こった。
「ストップ!そこまでだ!!」
「───誰!?」
彼女との初めての出会いを思い出す。
こんな時なのにフェイトとは昨日の敵は今日の友でずいぶん関係も良好になったなと思った。
「む…逃げられたか」
振り向くと彼女の姿は遠く離れていた。
「フェイトちゃん…」
逃げちゃった…。
───仕方ない。また会った時にでもゆっくり話そう。
バリアジャケットらしきものを身に着け、デバイスを持ってやってきた黒髪をショートカットにした男の子は不満そうにフェイトが飛び去っていった方向を睨みつけた。
「えっと、それであなたは?」
彼は私達の方を見て名乗りを上げた。
「僕は時空管理局アースラの執行官クロノ・ハラオウンだ」
時空管理局───聞いただけだと魔術協会のようなものだろうか?いや、私達を止めに入ったということは治安機関の可能性もあり、その意味なら教会の方が立ち位置は近いか。
「はじめまして、えっと高町なのはです」
「彼女にジュエルシード回収を依頼しているユーノ・スクライアです」
「たまたまなのはと一緒に来たアリサ・バニングスです」
「私も同じく…。月村すずかです」
各々が自己紹介をしていく。
「あの少女とジュエルシードについての事情聴取がある。アースラまでご同行願えるかな?」
やっぱりそうなるか、と思いつつとりあえずついていくことにした。
まだつかめない彼女の真の目的がわかるかもしれない、そんな直感があったからだ。
そうして転送ポットから彼に案内され、私達は艦長室へと向かっていた。
実はアースラの艦内の雰囲気がSFっぽくて少しワクワクしてる。魔術というのはどうも機械を嫌悪してかなりアナクロなものに囲まれることが多いからだろうか(機械音痴な遠坂の影響もあるかもしれない)。
「こちらが艦長室だ」
そう言って執行官であるクロノがノックをすると提督らしい女性が出てきた。
「クロノ、ありがとね」
「では、僕はこれで」
彼はこの場からそう告げて立ち去った。
「じゃあ入ってもらえるかしら」
「わかったの」
「わかりました」
「はい」
彼女に促され、靴を脱いで座った。
「リラックスしてもらえるかしら。今お茶を出すわ」
「ありがとうございます」
私達は提督自らのもてなしを受けることになった。
「まずは自己紹介ね。私はアースラの艦長であるリンディ・ハラオウンよ。先程の子は私の息子」
そう彼女が自己紹介するのを聞いて、彼と艦長は少し雰囲気が似ていると思ったけどそういうことか。
「はじめまして」
お茶が人数分テーブルに置かれた。
どうも日本のものをただ雑然と置きました的な頓珍漢な和風趣味はともかくとしてせっかく艦長自ら出してくれたのだ。日本人としては遠慮も大事とはいえ出されたものを飲まないのも失礼だろうと考え、湯呑みに口をつけた。
「ぐふぅ!?」
座布団を飛ばしながらひっくり返ると、湯呑みの中のお茶を一滴もこぼさないというありえない離れ業をしながら執務室のふすまを蹴破ってしまった。
「どうしたんだい!?」
「なのは!?」
「なのはちゃん!?」
「どうしたの?」
全員が私のリアクションに仰天した。
そんなことはどうでもいい───なんだこのお茶は!!
「こ、こ、これ、お砂糖、お砂糖入ってるよ!日本茶にお砂糖…しかも白糖なんて!」
れっきとした日本茶にお砂糖なんてふざけてるのか。
ちなみに自分がここまでのオーバーリアクションを取ったのは生前、藤村大河の策略により朝ごはんのとろろにオイスターソースをかけたご飯を食べる羽目になった時以来だ。今思い出してもあの組み合わせはない。
「え、何かおかしかったかしら?日本のお茶はお砂糖を入れるものでしょう?」
悲しい日本茶砂糖混入事件の過失犯であるリンディはシュガーポットを抱えて不思議そうにしていた。
そんな顔をされても困る。
「どこぞの毒舌シスターじゃあるまいし、日本全国の生産者さんとお茶屋さんに今すぐ謝ってなの!一部の国ではともかく、少なくとも日本では緑茶にお砂糖は入れないの!!」
一部の国では市販のペットボトル入りウーロン茶や緑茶に砂糖が入っていることがある。なので、日本で味わうものを飲みたければ加糖されていないものを買わなければならないこともあるのだ。生前、東南アジアを訪れた際に気付かず購入しそれで驚いたことがあった。
「はあ…」
未だに事情が理解できていない彼女の間違った日本文化の理解について、一度じっくりお話をする必要があるかもしれない。
アースラに到着して十日、フェイトの捜索に協力することになったはいいが彼女達はあの時以来行方不明であった。だが、いつか現れると信じて粘り強く私は待ち続けた。
そんなときに、食堂で休みを取っていたら見つかったと局員からの知らせを受け取った。
「クロノ君、フェイトちゃんが見つかったって本当!?」
食事を放り出してアースラの司令室に駆け込んだ。
そこには海鳴の海上と思しき場所が映されたモニターにフェイトが写っていた。封印を行おうとしているのはわかったが、巻き込まれている状況は最悪だった。
「回収のためにあえてジュエルシードを強制発動したことで自爆したな。だがこちらには好都合だ」
「酷い…」
痛めつけられている姿にアリサが顔をしかめる。
「フェイトちゃん…」
莫大なジュエルシードの魔力が齎す嵐に翻弄され、痛めつけられる姿をディスプレイ越しに苦々しく見つめる。
今助けなければ下手をすると死んでしまう。彼女を助けるためにどうやって現地に向かうか考えていると、クロノの声が聞こえた。
「彼女が弱ったところで取り押さえ、艦に連行する。仮に封印できたとしても、動くこともままならないだろう。こちらとしても都合がいい」
「待って!」
自身のあり方が、傷つけてから拘束することを良しとしない。だからどうするか考えるよりも先に自然と口が動いた。
───それ以上は言わせないし、させない。
「なのは?」
アリサが驚いて尋ねる。リンディは私が言いたいことを理解したのか語りかけてきた。
「なのはさん、お友達を想うその気持ちはわかりますが最善の選択を取ることが常に求められるのが私達の仕事だから我慢してください。私やクロノは局員の命を預かっています。彼女を今あの場から助け出すことがどれだけ危険かわかっていますか?」
「リンディさん、クロノ君、それ本気で言ってるんですか?」
彼女達の言うことはたしかに執行官としては最善の選択だろう。長として集団を守る義務があるのは理解している。だからといって放置していれば今助けを求めている彼女が傷つく。局員の安全ためにフェイトを切り捨てることなどできない。手を差し出せば助けられるのだ。
「もちろんよ。辛いのはわかるし、私も一人の人間としていい気分ではないけど、安全を取ることも時には必要なことなの」
「それに彼女はこの事件の重要参考人だからな。情報を集めるためにも確実に捕らえなければならない。なら弱っているところで捕らえるのが成功する確率が高いのはわかるだろう」
決意をもってクロノを睨む。
「そんなの間違ってる───なのはは今からあそこに行く。ユーノ君はジュエルシードの嵐に巻き込まれたら守りきれる自信がないからここに残って…。ごめんね」
衛宮士郎、今は高町なのはという人間は、育ての親である衛宮切嗣から受け継いだ空っぽで借り物だが掛け替えのない誰かを助けたいという願いが原動力である。
できる限りの人を助けるのはまだ自身が幼いから無理だが、今の自分でもフェイトという大切な友達を助けることならできるし、そのための能力とやれる状況であるなら尚更だ。あとは現地へ行く手段さえあればいい。
「Master, leave it to me. Go to the landing zone.」
レイジングハートがなんとかしてくれるようだ。なら私の行動は決まった。
「わかった。ありがとう」
転送ポットがある場所へ足を向ける。
「今行くのどれだけ危険かわかっているのか!君は正義の味方にでもなったつもりか!」
現実を顧みない私の態度にクロノが食ってかかってきた。執行官としてはもっともな言動だろうが、こちらもこちらで引くつもりは毛頭ない。
私は正義の味方という壮大な理想に溺れて溺死しそうになった人間だ。今更この程度なんとも思わない。
「正義の味方、か。なのははそうなの。それに今、私一人で助けに行くのがどれだけ危ないかぐらいよくわかってるよ。でも、フェイトちゃんが傷つくのを見過ごすのはすごく嫌だ。友達のフェイトちゃんが困っているから、助けたい。だから助ける。私がフェイトちゃんを助けられるのなら、この場で誰がなんと言おうが行く。行こ、レイジングハート」
「Yes, mom.」
「おい、お前!止まれ!僕の指示に従わないなら───!」
「───クロノ君、その先は地獄だよ」
誰にも見せたこともない表情で彼を見る。
その言葉と表情を見て彼を含めたその場にいた全員が呆然とした。
これはあの夢の中で未来の自分、英霊エミヤが過去の自分へかけたものだ。今後彼が執行官として体験するであろう人の痛めつけられた姿や死を見るという地獄を歩ませるには、この少年には今は無理だ。
上から目線ではあるが常にそんな宿命を背負うのは私かアイツだけで十分だ。
「えっ」
「今のあなたにいずれたどる地獄を歩む覚悟はあるのかな?」
今私が彼に向かって言った言葉の意味は、執行官として成長した時にわかるだろう。
「おい、ちょっと!なんなんだよ一体!?」
クロノの静止を振り切ってレイジングハートがアースラのシステムをハッキングして乗っ取ってくれたポットで現地に飛び立っていった。
「クロノ」
「母さ───リンディ提督」
「こうなっては仕方がありません。今すぐなのはさんに増援の部隊を送って。彼女をフォローするわよ」
「いずれたどる地獄ね……」確かにそうかもしれないと、彼女は冷静に部下へ指示を出しながら言葉を反芻する。
ある事件の時、乗組員全員を守るために一人殉職した夫が戻ってくればと思うことは今でもある。彼の判断が大勢を救ったのは事実で間違っていたとはまったく思わないが、彼の死は周囲の人間に多くの影響を与えた。目の前でこの状況に困惑する息子も…自分自身も。
亡くなってから数年間は自身の心にぽっかりと穴が空き、地獄を歩んでいた気分だった。それに今思えば私はなんのために彼のいない生活という地獄を生き延びたのだろうと考えた。それは未だにわからない。
そして、おそらく彼女は息子に人の死や怪我に直面するであろう道を歩ませるにはまだ幼すぎると考えてああ言ったのだろうと納得がいった。
「あの子は一体…」
この時の彼女は、高町なのはという自身の危険をまったく考慮に入れないほど異常に正義感が強い少女は一体何者なのだろうかと考えていた。
「わかりました。皆行くぞ!」
苦虫を噛み潰したような顔をしてクロノは局員に指示を出した。
「正義の味方、か。士郎さん…いえすっごくなのはちゃんらしいね」
「なりふりかまわない所がらしいんだけど…本当に大丈夫よね、すずか?」
すずかとアリサは心配そうにモニターを見つめていた。
「大丈夫だよ、私達はなのはちゃんを信じるしかないよ」
「そうね…」
現地のそばへ転送し、魔力の嵐に巻き込まれないように飛び回りながら目を魔術で強化して彼女を必死に探す。
「───つぅ!?」
「見つけた!」
嵐で痛めつけられていた彼女を見つけた。死地に赴く覚悟などとっくにできている。魔力を加えて瞬時に加速し、彼女の元へ向かう。
「フェイトちゃん!捕まって!!」
「なのは!!」
魔力の渦の中から手を捕まえ、抱え上げなんとか離脱する。ケルト神話のフィオナ騎士団、ディルムッド・オディナの宝具、
こうなったら遠距離から強制的に魔力の渦を始末するしかないと結論付けた。
「とりあえず、ここから一旦離脱するの。離さないでね!」
「うん、ここなら被害も出ないしいいかな。ユーノ君、フェイトちゃんを保護したよ!アースラの皆さんに伝えて、今からちょっと無理やり封印するからジュエルシードの半径500メートル以内には絶対に近付かないでって!」
ユーノ経由の念話で局員に近寄らないように指示した後に、三キロほど離れた暴風や周囲の状況を落ち着いて観察でき、かつ被害を受けない海沿いの崖の一角に着地しフェイトを腕から下ろす。
本当は高層ビルや橋の上のようなもっと見通しがいい高い所がいいが、贅沢はいっていられない。
「こんな遠距離からどうするつもりなの?」
少女の戦い方はおそらくどんなレンジもカバーできるのだろうが、かなり頑張って目を凝らしてようやっと暴風を見れるこの距離ではいくらなんでもこれは遠すぎると感じ、どうやってあれを止めるつもりなのだとフェイトは疑問に思っていた。
その疑問に対し、私はいたずらっぽく笑って答えた。
切り札の一つなのできっと驚くだろう。
「にゃはは、ちょっと威力がありすぎてそう簡単には使えないものを久々に使おうかな〜って思うの。フェイトちゃんには特別に、弓兵なのはの全力全開のとっておきを見せてあげるね。レイジングハート、ちょっと地面に置くけどごめんね」
膨大な魔力を帯びた渦には、膨大な魔力を内包させた宝具をぶつけて封印してみるのも一つの手だ。
───ならアレを使うのが一番だという算段があった。
「No problem.」
弓兵?射撃魔法ではなく、魔力を矢の形にして行使する攻撃魔法はあっただろうかとわけがわからずぽかんとしているのを脇目を、レイジングハートを脇においていつものように魔術回路を開き必要なものを投影する。
「───
干将・莫耶の次に愛用している武器の一つ、サイズを自分用にカスタマイズし直した馴染みの黒い洋弓を投影する。
剣もだが、魔法少女に弓ってのもあんまり似合わないよなあと、どこかの並行世界に存在する元魔法少女な女神に喧嘩を売るような事を考える。
「剣じゃなくて今度は弓!?なのは、あなたは何を考えているの!そんな弓じゃジュエルシードはどうにも───」
そうして立て続けにケルト神話、赤枝騎士団のフェルグス・マック・ロイが使っていた名剣
それを弓にかけ、身体強化の魔術で筋力を限界まで底上げし、投影した弓の弦が耐えられる限界まで引く。
「剣が矢に!?それに体と矢からすごい魔力が…!?」
偽・螺旋剣や体から漏れ出た魔力が風となり最早現実世界にまで影響を与えていた私は、はるか遠くで起こる暴風の中心に矢の狙いを定めた。
「私もわからないけど、わりとなったりするかもしれないよ?あとこれ発射地点でもけっこう衝撃波と音があるから注意して!」
「えっ!?」
「はぁっ!!」
矢を放った途端、崖の周囲に衝撃波でものすごい風が吹き荒れた。
「きゃっ!?」
「───
音速を超える速度で発射地点から一瞬で矢が暴風の中心地に着弾した瞬間、つぶやきに応じて魔力を放って大爆発した。
莫大な魔力同士で相殺され、暴走は治まったようだ。
───神秘の隠匿なにそれおいしいの?というほどの荒療治だがうまくいってよかった。
「これは…一体!?」
「驚かせちゃってごめんね。これ、偽・螺旋剣っていうの。なのはもこれ、初めて見た時はびっくりしたよ。あの時は死にかけたから」
今考えると、アイツ絶対バーサーカーとセイバーが墓場で初めて戦った時から私を殺そうとしてたよね。あの後新都で待ち受けるアイツと冬木大橋で戦ったりと一応アイツとの決着はついたとはいえやっぱり許せない。
「あと、ああやって使うとけっこう被害が大きいから使い所があんまりないんだよね。ともかくやったねフェイトちゃん、えへへ」
この少女は魔導師ではない何らかの別の強力な力を用い、格闘技もかなりのレベルで心得があり、全てが規格外過ぎるとフェイトは恐ろしさと強大な能力に震えていた。
「フェイトちゃん、ジュエルシードの暴走もやっと落ち着いたし早く封印しに行こう?」
「う、うん」
念話でユーノがアースラからの苦情やジュエルシードの破壊の可能性についてやいのやいの言っているが、今は些事だ。
魔導師でないようなことばかりするこの少女はいったい何者なのという疑問符ばかり浮かぶ。そんなフェイトの疑問は、もう少ししてから解決されることとなる。
ジュエルシードの元へとやってきた私達は、海底に6つのジュエルシードがうまっているのを見つけて取り出し、無事に封印した。
「それにしても、船とかが航行してなくてよかったの。うっかり巻き込んじゃったら大変だし」
「え、船がいたの?」
「ううん、一隻もいなかったよ。ちゃんと確認したし」
撃つ前から着弾後まで視力を強化した目で周辺を入念に確認したのでミスはない。
「確認できたの?」
「もちろんだよー」
やっと封印おわりと思っていたら、何かに縛られた。これはおそらく彼女の使い魔アルフのバインドだろう。さっきからフェイトの側にいなかったのは彼女達を待ち受けていたからか。
「にゃはは…なのは捕まっちゃったの」
「すまない…なのは、フェイト」
「アルフ!?」
そうして、私は海鳴市内から姿を消した。
アルフの転送魔法で敵の本拠地に連行された私は、玉座に座る主の女性を見やる。機械を使ってレイジングハートから強制的にジュエルシードが取り出された。
その光景を見ながらこれが今回の騒動の首謀者か、ようやっと会えたと思った。
管理局が動いていたということはおそらくユーノが巻き込まれた最初の輸送船の事故も、彼女が意図的に起こしたのものなのだろう。
「へっ、ご要望通りなのはを連れてきたよ」
彼女がやけに女性へふてくされて言うのを見ると、彼女は命令に渋々従ったようだということはわかった。
「母さん!?」
「まったく、ジュエルシード集めを放棄して何を遊んでいたの。お前は本当に使えない子ね」
フェイトの母親らしき女性は失態にかなり怒っているようで、暴力を振るおうとした。
「ッ!?」
「プレシア!なにするんだい!」
アルフが抗議するが、彼女は気にも留めない。そして振り上げた手を止めるために言葉を放つ。
「待って!!」
彼女が痛めつけられるぐらいなら、私が痛めつけられるべきだ。彼女を勧誘したのは私だ。その程度の罰なら甘んじて受けよう。
「お願いだからフェイトちゃんに何かするのだけはやめて。やるなら私を…私ならいくらでも───」
「あら、ずいぶんフェイトにご執心なのね。あなたが身代わりにでもなるつもり?それでやけにあっさりと捕まってくれたのかしら」
拉致された時、さして苦労せずあの拘束を抜け出せたが、あえてしなかったのは本拠地に乗り込むためだったということを読まれたようだ。
「あなたのその馬鹿馬鹿しい自己犠牲の精神に免じて、今は許すわ。フェイトに何かして、だんまりされて肝心なことを聞けなくなったら意味が無いですしね。それではあなたに質問よ。否定や沈黙は許さないわ。あなたの中身はただの魔導師ではないのでしょう?」
正体になんとなく気がついていたか。察しが良いのは優れた魔導師だからなのだろう。
「なのははどこにでもいる平凡な魔導師の女の子だよ?」
拉致してきた相手に素直に素性を明かすつもりはないので適当に誤魔化す。
「次にウソをつくのは許さないわよ。あの子との戦いをみていたけれど、卓越した体術、先程も使っていた奇妙な魔法、冷静沈着な態度と戦略眼、どれを取っても普通の子ではないのは明確だわ」
なるほど…温泉で気がついた使い魔モドキを一度潰したつもりでいたけどずいぶんと長い間見られていたようだ。娘への覗き見趣味もここまでくると親馬鹿レベルだ。
「言い方を変えましょう。あなた、アルハザードから来たのでしょう?」
「アルハザード…?」
聞きなれない言葉に首をかしげる。生前も今も覚えがない。
「ああ、あなたにはその意識がないかもしれないけれど、どこかにあったとされるとても高度な文明よ」
───ああそっちですか。
残念ながら己はアルハザードと呼ばれるところから来たのではなく、地球に魔法ではなく魔術が存在する数多の並行世界の一つ、すなわち別世界から来たのだ。だから彼女の推測は大外れなので肩を竦めて応えるしかなかった。
「申し訳ないけど、貴女の考えはほとんど間違ってるの。なのははそこじゃないところから来たから」
「なんですって!?」
「えっ!?」
予想外の答えが帰ってきたためかプレシアが眉を上げる。フェイトも驚いていた。
「私はこの世界、ようは時空世界が取りうる様々な可能性の中の一つからやってきた放浪者───とでも言えばいいかな?」
「世界の放浪者…!?」
フェイトは呆然としている。
「へえ…?それなら余計にアルハザードへの道が見えたといえるわね」
───何を言っているんだこの人は。
「あなたはいったい何を言っているの?並行世界へいくのと存在するか不明の文明へいくのはやることの次元が違うの」
根源に至るために必要な時間という足かせは、ぶっちゃけうまくいくかはともかく、吸血鬼に噛まれて死徒になれば解決できる。だがどこかの特定の時代などに行くのは話が別だ。時間の流れに逆らう魔術は記憶の中では固有時制御程度しかない。それは世界の修正力に抗うため術者の肉体に負担がかかるし、一時的なものであり過去に明確に行くものではない。
どうしても確実な手で行きたいのであれば使い物になる聖杯を使わないと不可能な話だ。
「あなたはその次元を超えた。ならアルハザードへいくのも可能ではなくて?」
「だから、そもそも私に対する認識がおかしいの。過去にいく魔術なんて私は知らないし、並行世界へは私は人の手によって知らぬ間に来ていたからどう行くかわからない。ジュエルシードだって魔術で作った聖杯じゃないんだから願いを正確に叶えられる保証はないしね」
内包している魔力がたくさんあってもそこへ至る正確な術がなければただの魔力の集合体にすぎない。そんなものがあっても何も意味は無いことは明確だ。
「なら、ジュエルシードでアルハザードへの道をこじ開けるだけね。可能性は十分にあるわ」
「そんなことをしても、あるかどうかもわからないから叶えられなくて魔力が暴発するだけなの。そんなことになるなら私は正義の味方として、プレシアさんを止める」
「はっ!今までのやり取りでかなりの切れ者かと思ったら、そうではなかったようね。正義の味方?正義なんて所詮は偽善よ。誰かを助けようとして、誰かを助けない、矛盾に満ちた物だわ。そんな自分より他人が大切なんて考えは所詮、貴女の自己満足にすぎないわ。ええ、だから私もアルハザードへ行くという自己満足をするの」
あの時の赤い弓兵といい最古の王といいこの人といい、どうしてどこの世界にも切嗣のような人間の尊い願いを否定したがる奴ばかりなのと思いながら───既に得ている答えを告げる。
「偽善…自己満足ですか。私は災害で失った空っぽ心に、世界にあるたくさんの地獄を覆してほしいという願い、誰かの力になりたかったのに…結局、何もかも取りこぼした男の果たされなかった願いを受け継いだ偽善者だよ。たしかに貴女の言う通り、自分のことより他人が大切だなんておかしいことだってぐらいはよくわかってるの。でも───世界の誰もが幸せであればという願い、そう思う心はとても美しい物のはず。だから私は無くさないし、この夢は決して…私自身が偽物だったとしても、決して…間違いなんかじゃないんだから───!」
「あなた、そういうところはただの子供なだけ?」
プレシアは嘲笑で返した。
「───体は剣でできている」
身体強化の魔術とダークを投影して手を縛っていたバインドを引きちぎり、そばにあったレイジングハートに手をかける。
ジュエルシードを抜き出した後にあえて自分のそばに置いたのは、アルフなりの抵抗だったのかもしれない。
「どうやってバインドを!?」
「!?」
「あなたがフェイトちゃんを困らせているなら、私は友達として彼女を助ける。そしてフェイトちゃんの前では、なのははずっと正義の味方であり続ける!」
まるで自分が答えを得た時にアイツへ決意を表明したように、レイジングハートを彼女に向け、告げる。
「本当にどこまで馬鹿なのかしら、あなたは」
「なのは…!」
「馬鹿だって突き通せば信念になる。レイジングハート、全力全開でいくよ!」
「Yes, mom.」
「あら、ここで私と戦うつもり?」
「もちろん」
ただ真っ直ぐ、彼女を見据える。だがまだ彼女の余裕は崩れないようだ。魔術師というのは、己の工房内であれば全力で戦えるのは聖杯戦争のキャスター戦で痛感していた。おそらく魔導師もそうなのだろう。
───だが、だからといって彼女が行おうとしていることを見逃す道理はまったくない。
「見慣れない魔法を使うようだけど、ここは私のテリトリーよ?勝てると思っているのかしら」
「やってみないとわからない!」
戦いの火蓋は切って落とされた。
さて、いよいよこの事件の黒幕と戦うこととなったなのはちゃんを待ち受けているのは、世界という強力な力でした。その力の前に彼女が下した決断は───。