リリカルでマジカルな世界に憑依転生した正義の味方(StrikerS編制作検討中)   作:四条小鳩

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 ジュエルシード事件の黒幕であるプレシア・テスタロッサと戦闘を始めた高町なのはちゃん。その戦いの中で、彼女はプレシアの真の狙いを見抜きます。そして、自分の願望が叶えられないと知りジュエルシードを暴走させますがそんな彼女の前に、霊長が危機に晒されると察知した世界が送り込んだ掃除屋が現れます。そんな彼を前になのはちゃんはある決断をします。


第五話「Unlimited Blade Works.」

「あなた、いつまでも逃げ回ってちゃ私を倒せないわよ?」

 飛び出してきた傀儡兵を適当な魔法や剣であっさりと倒した後は、時の庭の壁や天井を縦横無尽に駆け抜けながら、プレシアのしつこい様々な雷撃を躱していただけだった。牽制や無力化に使えそうなガンドは遠坂の魔術刻印もないし生憎練習不足だった。

 投影や強化、あと隠蔽に必要な魔術ばかりを練習していて、そういう攻撃魔術の訓練を忘れていたといううっかりもあったことを悔やんだ。

 そして、何よりも躊躇させる原因は友人の前で母親を痛めつけることなどできないという躊躇いと断続的に攻撃しかけてくる彼女は何度か血を吐いているのに気付いていたからだ。おそらく何かしらの不治の病か魔法の反動が来ているのだろうと推測していた。それにここまでしてジュエルシードに拘るとなると強い動機が必ずある。

 ───なにか大切な守りたいもの、取り戻したいものがあるのかもしれない。だからどんなに狂っていようと彼女自身も救うことになる。

 こんなことならもっと色々な無力化に使えそうな魔術の練習をしておくべきだった。目くらましに使えそうな遠坂のような宝石魔術は懐的に流石に無理だけど。

「そっくりその言葉を返すの。あなたほどの魔導師なら、正体不明ななのはをもっと警戒して、より厳重な要塞にして私をあっという間に焼き殺すことだって簡単なはず。簡単にかわせるのばかりでなのはを殺さないのはジュエルシードがあってもそのアルハザードへ行く手段がよく分かってないからでしょ?それともなのはがフェイトちゃんの友達だから戸惑いでもあるの?」

「おかしなことを言うのね、あなたは。フェイトは私の子ではないわ」

「えっ───!?」

 その言葉に流石に私も一瞬動きが止まりかけた。

 彼女の側にいたフェイトも呆然としていた。

「母さん…それはどういうことなの?」

 何を言っているのか理解できず、青ざめた表情でフェイトはプレシアを見つめる。

「私がこんな人形のことをいちいち気にしていると思ったの?馬鹿馬鹿しい。はっ、笑わせないで」

「もしかして───!」

 あの子は誰かの体細胞クローン…もしくは何かのホムンクルスということか!

 そして彼女の奥にある物が視界に映る。会話と戦闘に気を取られており、それに気が付かなかった。

「フェイト…ちゃん!?」

 ───ポットの中に漂う幼子はまさにフェイトの生き写しであった。

 そうか、彼女はフェイトにそっくりな、おそらくは実子の死者蘇生を願っていたのか…。

 彼女の言動や願いの全てを理解した。

 だから彼女はあれほどまでにあるかどうかわからない文明にすがっていたのはそのためだったのか。

「あの子を亡くしてから、アリシアの記憶を与えたのに同じように育たないこの子を身代わりにしてずっと過ごした陰鬱な時間をようやっと終わらせられる手がかりを見つけたというのに、あなたはその邪魔ばかり」

「やめて!それ以上はやめて!」

 涙を浮かべたフェイトの悲痛な叫びが響き渡る。

「アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。アリシアはたまにわがままを言うけど、とてもいい子だった。いつも優しかった。フェイト、あなたは偽物にすぎなか」

「やめてなの!!」

 彼女の言葉を遮る。

 ───それ以上は言わせない。

 彼女に聖杯戦争の御三家に生まれ、小聖杯としての運命に翻弄され聖杯戦争の道半ばで無残に殺されたイリヤの姿が重なったからだ。

「あなたは知らないだけ。なのはの前で笑って、驚いて、恥ずかしがって…フェイトちゃんは立派な人間だよ!!」

 義理の姉だって魔術師として冷酷な面は多々あったが、それがなくなればいたずら好きな歳相応の女の子だった。

「そうだとしてもそれはアリシアではないわ。あなたに何が」

「わかる!あの子はちゃんとプレシアさんの子供だよ!親が子を否定するなんてあんまりなの」

 知らずのうちに自分は泣いていた。

 今の私には愛情を沢山注いでくれる大切な両親や姉と兄がいるが、衛宮士郎には育ての父親と姉もどきの虎や桜やイリヤがいただけで血の繋がった家族はあの大災害で記憶とともに失った。

 だから親というものが、例え血が繋がっていなくてもどれほど大切な存在なのか痛感していた。

「フェイトちゃんは大切なアリシアという子と確かに違うかもしれない。でも、でも……それでも、フェイトちゃんはプレシアさんの大切な子供。それは絶対に否定できない」

「あーあ…子を持ったことがないあなたがなにを偉そうに。本当に馬鹿みたい。これじゃ興醒めよ」

 彼女がアリシアが浮かんでいるポットを抱えた。

「何を…」

「あははははは──────!!もういいわ、あなたが協力してくれない以上、こうなったら無理やりアルハザードへの道を開くわ」

 プレシアがアリシアが入ったポットを抱えながら自らの周辺にジュエルシードをおいて魔力を暴走させる。

 世界の危機、それだけはなんとしても避けなければならない。

 ───アイツが来たら、彼女の辿る運命は決まってしまう。

「これは…かなりやばいの!!」

 ともかく攻撃は止んだのでジュエルシードを暴走させようとする彼女を止めなければと判断した彼女はレイジングハートを片手に破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を投影して走り出す。

 狭い空間なので、偽・螺旋剣(カラドボルグツー)で吹き飛ばす以外の手段となるとこれしかない。魔力の嵐を槍でかき分けながら、プレシアを目指す。

「あら、まだ私を止めようと?」

「当たり前なの!」

 でなければ、最悪の事態が起こる。なにもフェイトやプレシアの体調だけを心配しているのではない。「彼女の存在そのもの」が危うくなることを心配しているのだ。

「あなたのその諦めの悪さは、『正義の味方』とやらだから?」

 それももちろんだが、理由はもっと別にある。

 後数メートル、間合いに入った。

 あとは世界に気付かれる前になんとかしてジュエルシードの暴走を止めるだけだ。

「それもあるけど、すごく嫌な予感がするから!!」

 ジュエルシードによる魔力の暴走によって次元震が起きる…。

 これは時の庭を破壊するなんてレベルじゃなく、世界そのものを吹き飛ばすものだ。早くなんとかしないと、彼女は世界に霊長を滅ぼす敵として認識される。

 

 ただ虚しくもそれはジュエルシードが放つ魔力とは別に巨大な魔力の塊とともに彼女達の前に現れた。

「なんなんだ、アイツは!?」

 時の庭に突如現れた巨大な魔力を持つ存在にフェイトとアルフの二人が反応し、瞬時にカウンターを取ろうとしたがあっけなく倒されてしまった。同時に駆け付けた局員もいきなりの闖入者に動揺していた。

「フェイトちゃん!アルフ!大丈夫なの!?」

「私達はなんとか。でもしばらく動けそうにない」

 二人共見るからにボロボロだ。彼女たちを一瞬で倒した存在に嫌でも見覚えがあった。

「ああ───ついに来ちゃった…」

 世界によって送り込まれた抑止の守護者が時の庭に現れた。

 

 現れた男の名はエミヤ。霊長が危機に瀕した時に、世界から送り込まれるアラヤの守護者。

 ただただ、だれもが泣かない世界を目指すために少数を切り捨てなければならない己の心の悲鳴を殺し、がむしゃらに万人を救うためだけに走り続け、その結果人々に恨まれて絞首刑で殺され、自分が死ぬぐらいで救える命があるならとその後の運命を託し世界と契約したのに、守護者として古今東西様々な年代に召喚され人類の尻拭いのために酷使され、心までも磨り減った衛宮士郎(わたし)が辿る一つの可能性。

 プレシアが自分が来たと思っている世界、アルハザードを目指すためにジュエルシードを発動させたことで彼が召喚されたのだとすぐに想像がついた。この世界でも抑止の守護者は存在し、そして今最も出会いたくない相手だった。

「あいつは一体なんなのよ!」

 プレシアはジュエルシードの嵐の中で焦ってなのはに問いかけた。たいそう嫌な顔をして、彼の話をする。

「世界が、人類が危機に陥った時に現れる免疫機能───アラヤの守護者、英霊エミヤ。プレシアさんがジュエルシードを発動させたことで、世界があなたを危険人物として認識したの」

「英霊?」

「歴史とか、伝記で活躍した人…わかりにくいなら有名な魔導師とかでもいいけど、死後、そういう人は人々の崇拝とかによって魂が英霊の座という世界の枠外、アラヤとガイヤに存在するようになるの。それでそれらに属している方々を簡単に言っちゃえば英霊というの。アイツの場合はアラヤに属する未来の英雄でちょっと成り立ちが特殊だけど。ヤツは───正確にはあなたが世界を滅ぼす敵と認識し、排除するために送り込まれた存在。でも、アイツはなのはが止める。プレシアさんを殺させない」

 それと同時にエイミィが局員向けにしている通信をレイジングハートが受信した。アースラと局員との魔法通信のラインをこじ開け傍受してくれたようだ。

「クロノ君、時の庭に現れた男の正体はジュエルシードが内包している以上の莫大な魔力の集合体です。まるで、何かの意思に操作されているロボットのようなものです。構成術式は不明。ミッド式の魔法ではありません!敵性勢力の可能性が高いです!」

 プレシアの顔がジュエルシード以上の魔力という単語を聞き、世界の修正力の強大さに青ざめる。

「あなた正気!?世界が相手なのよ!?」

 自分を止めようとしただけじゃなく、世界を相手にしても罪人を助けようとする彼女に何を言っているんだと言う。

 先程まで死闘を繰り広げていた相手を助けようなど彼女には理解できなかった。

 ───ただ相手が悪人であっても私にとっては悪になる理由がわかれば結局は救う対象となる。

「アイツはね、私の中の人格が至る可能性の一つなの。自分の責任は自分で取るから」

 未来の自分のしている責任は現在の自分が取る。

「一体全体どういうことなのよ!」

「その話はあとで!レイジングハート、ヤツの剣とかからプレシアさんを守るようにプロテクションを維持して!」

「Yes, mom.」

「───投影開始(トレースオン)

 気休め程度の保護にはなるだろうとプロテクションとバリアジャケットを展開するのに必要なレイジングハートを念のために作っておいた特製のベルトをつけて背中にかけて、干将(かんしょう)莫耶(ばくや)を投影してプレシアとアーチャーの間に立つ。

 いくら強力なインテリジェントデバイスであるレイジングハートでも、非殺傷設定なんて生ぬるいものを使っていては殺されてしまうので、ここは魔術使いとしていくしか無い。

「その剣───あなたのインテリジェントデバイスから出した物のじゃないのよね。ずっと消えないものを出す魔法なんておかしいわ」

 優れた魔導士で元研究者である彼女はこんな状況でも投影魔術の異常さに気付いていた。

「確かにこれはミッド式の魔法じゃなくて私の元いた世界の魔術というもので生み出した英霊が使っていた武器である宝具、といっても贋作だけど…。なのはとアイツだけに許された唯一の魔術───無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)

「そんな魔法があるの!?」

 プレシアはユーノが彼女の魔術を知った時と同じように呆然としていた。

 ───それはそうだ。ミッド式の魔法で生み出された現象でも、世界の修正力がかかるのであくまで事象が存在できるのはその時だけだ。それが延々と存在できるのは異常としか言えない。

「クロノ君───避難と封印、頼んだよ。アイツの相手は私がするから」

 やってきた彼に指示を出す。

「わかった。皆、封印を行いつつプレシア・テスタロッサ容疑者を含めて全員がここから逃げられるように少しでも時間を稼げ!!」

 クロノが局員に指示を出す。

「ところで、フェイトちゃん。一つ確認してもいいかな」

 局員に連れられてやっと近くに来たフェイトに語りかける。

「なに、なのは?」

「皆がここから逃げる時間を稼ぐのはいいけど───別にアレを倒しちゃってもかまわないでしょう?」

 あの英雄が敗北する時のBGMが流れようと、自身が死ぬことでしか打開策がないためのセリフでもなく、必ずフェイトの元へプレシアを連れて生きて帰ってくるという約束であり決意だ。私はいつものスタイルで剣を構える。

「なのは、無理よ!」

「Are you seriously?」

 フェイトが止め、優しいとはいえ普段は特に戦い方に口を挟むことはないレイジングハートですら、強大な存在であると思われるエミヤを彼女が本当に倒せるのか不安で尋ねかけてきた。

 だから二人を勇気づけるために応える。

「うん、大丈夫だよフェイトちゃん、レイジングハート。なのはは本気だし大丈夫。絶対にプレシアさんは私が守る!」

 そう告げてゆっくりとプレシアに向かうエミヤに向けて走り出した。イメージするのは常に最強の自分、そして叩き伏せる相手はまさにその具現者。またも越えなければならない存在だ。

「てやああ!!」

 斬りかかったのをエミヤは同じ干将・莫耶で受け止めた。ひときわ大きな金属音が時の庭に鳴り響く。投影の精度が上がったとはいえまだイメージが甘いのか、自分の干将・莫耶にいくらかヒビが入る。反撃で繰り出された鋭い蹴りを後ろへ瞬時に飛んで躱しながら一旦間合いを取る。でも同時にあの時と同じように憑依経験で投影に必要な最適な理を得たので、それに自身のイメージを追いつけ、更に精度を上げる。

「こんの、まだまだ!」

 着地をして再度投影し直し、身体強化で体を加速させて斬りかかる。

 彼のターゲットがプレシアから自分へ移る。これも狙いだった。

「やあああ!!!!」

 この身は剣、剣のもっとも強いあり方をイメージし、彼に向かっていく。

 アーチャーと斬り合うごとに転生した時に欠け落ちた技術を吸収し干将・莫耶、体術や剣技といったもの全てが怒涛のように研ぎ澄まされていく感じがした。

「すごい。あれがなのはの本気なんだね…」

「デバイス無しであそこまで動けるなんて!?」

 封印と転送魔法が準備できるまでフェイト達を一旦別の場所に誘導したクロノやユーノは彼女の見たことがないレベルの動きに息を呑んでいた。

「あれは一体なんなんだい、フェイト」

 庭全体に響き渡る連続した剣がぶつかる金属音や火花。剣が衝突する毎に衝撃波が両者の間に広がり、どちらかが地面へ着地した時には床すらも破壊することがあった。

 今までのインテリジェントデバイスを使ったフェイトやプレシアとの戦闘などはレベルが違いすぎる、もはや人間を軽く超えた動きの戦いを行っている二人を見てアルフは驚愕していた。彼女の獣の目をもってしても、二人の動きを追うのがやっとだ。フェイトは一度場を離れたので冷静に状況を分析していた。

「あれがなのはの本当の実力なんだと思う…。彼女は彼と打ちあうごとに強くなっている。戦いながらあの人の技術を取り込んでいる?」

 彼女はエミヤからの憑依経験でなのはが急激に戦闘力を引き上げていることを見抜いていた。

「フェイト、あの子はどんだけ底なしの実力を持っていると思う?」

「たぶんだけど、いくらでも天井を上げられるんだと思う。彼女には限界がない、というより限界なんかあったとしても常に軽々と超えていける才能があるみたい」

 フェイトは彼女に秘められたであろう大きな才能に感嘆して、自分もいつか彼女と肩を並べる存在になりたいと感じていた。実際には才能というよりも常に己を高め続けるための努力を怠らない彼女自身のあり方が実力の天井をいくらでも引き上げているのだが、彼女達はそれを知らない。

 

 彼と打ち合う間に、ジュエルシードを封印している局員以外がなのはに援護砲撃をしてくれたおかげで、自身の戦況は若干ではあるが優位になってきた。

 とりあえず時間稼ぎはうまくいっているようだ。あとは封印するまで粘ればこちらの勝ちだ。それを悟ったためか奥の手を出すことにしたことに気付かなかったのが、この時の私の最大の落ち度だった。

「───I am the bone of my sword.」

「しまッ───!」

「今度はなんなの!?」

 プレシアが状況についていけず三度悲鳴を上げる。彼の生き様を表した大魔術の詠唱を口にしだした。

 あの発動だけは避けなければ…。

「───Steel is my body, and fire is my blood.」

 考えが甘かったという後悔の念を瞬時に切り替え、全員に指示を出す。

「今すぐ、局員全員で彼に全力で魔力砲を撃ってなの!!」

「わかった!」

「───偽・螺旋剣!」

 唐突な指示に驚いていたが、クロノ以下封印に回っていた局員達もが彼に砲撃を加え、弓を投影してとっておきの隠し玉、偽・螺旋剣を、治癒魔法で回復したフェイトも全力でアーチャーに向かって魔力砲を放つ。

「───I have created over a thousand blades.」

「───Unknown to Death.」

「───Nor known to Life.」

 だが、健闘むなしく世界という無限といってもいいほどの魔力の加護があり、投擲武器に対する絶対的な防御壁であるアイアスの宝具、熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)の前ではアリが象に挑むレベルで無力であった。

「───Have withstood pain to create many weapons.」

「───Yet, those hands will never hold anything.」

「───So as I pray, unlimited blade works.」

 彼が詠唱を終えた途端、周囲の景色が一変した。

 赤茶けた空に浮かぶ無人でいくつもの剣を孤独に鍛つ歯車、荒れ果てた大地と丘に刺さる無数の贋作の剣───その世界は正義の味方という理想を誰とも分かち合うことができなかった彼の嘆きそのものであった。

「なんなんだこれは!?」

「これは!?」

「なんなんだい、こりゃ!?」

 この場にいるほとんどのメンバーが固有結界に驚きを隠せずにいたが、私は懐かしいものを感じた。

 剣である自身の心を形にし、無限に剣を内包した世界を作る…今の高町なのは(わたし)とかつての衛宮士郎(わたし)、そして未来の自分である英霊エミヤにのみ許された魔術。

「アンリミテッドブレードワークス…。それが英霊エミヤの固有結界、いや、アイツの心のあり方を表した魔術なの」

 孤独なこの世界の主である彼以外誰も居ないような錯覚を覚える丘にふく乾いた風が己の髪を揺らすのを感じながら、この世界について独り言のようにフェイトへ明かす。

「心…でもなんでこんなに悲しくて寂しい世界なの?」

 フェイトは彼以外誰もいないように感じる、無数に突き刺さる剣だけが孤独に存在する心象風景から感じる悲しさに心を痛めていた。

 この世界は普通の人間には気分がいいものではないだろう。

「アイツはね、この世のすべての人を救いたいのに万人の危機を脅かす少数を切り捨てなきゃいけないことをよく思ってなくて、しかも、自分の考える正義を誰とも分かち合えなくて記憶がすり減り、自身の消滅を願うほどにずっと泣きながら世界を救っていたの。前に私と聖杯戦争という場で戦ってやっと自分の辿った道がどんなに辛くても決して間違ってなどいなかったという答えを見つけることができたんだけど───今、この世界のアイツがそれを覚えてるか、そもそもアイツと同一存在かすらわからない」

 今のこいつは世界の操り人形に過ぎないし、並行世界ではコイツが同じ存在なのかすら怪しい。

 そうなると例えあの時のことを覚えていたとしても、おそらくは何もできないだろう。

「そんな!?」

 フェイトは彼の壮絶な生き方に悲しそうな顔をしていた。みんなのためにひたすら頑張ってきたのに、その結果が壮絶な地獄と悲しみが待ち受けているなんて酷すぎると彼女は感じていた。

 だが、それが正義の味方という宿命のたどる道だ。己もそれを嫌というほど実感している。

「自分の世界を作る魔法なんて!?」

「これは封鎖結界じゃないのよね?アルハザードでもない…?ここは一体どこなのよ!?」

 クロノを筆頭に管理局のメンバーやプレシア達は現実を侵食し、自分の世界を上書きして展開するという魔法に極めて近い究極の魔術に驚きを隠せずにいた。

「なりふりかまっている余裕はなくなったかな…」

 みんなが奴の固有結界に取り込まれた。ここはエミヤの世界だ。状況は圧倒的に彼の有利に転じた。

 王の財宝(ゲートオブバビロン)のようにタイムラグ無しに多種多様な刀剣類を用意でき、空間内であれば魔力が許し、既知のものであり神造兵器でなければ宝具でも自在に作り出せる。

 いや───世界のバックアップがあるのならば固有結界の展開時間の上限や暴走、自身の消滅を恐れること無く真に限りなく迫った約束された勝利の剣(エクスカリバー)突き穿つ死翔の槍(ゲイボルグ)の投影、真名解放までも可能だろう。こうなると自分達にとっては不利でしかない。

 そのためには更に限界を超え、今以上に全力全開で相手をするしかない。

 ───全くもって皮肉なものだが、まるで自身のあり方をかけてアイツと戦ったあの時の再現だ。

 

 次々に向かってミサイルのように飛来する剣を全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)で対処しながら、まるで踊るように斬り合い、結界内に何度も金属音や爆音が鳴り響く。

 この状況では一歩でも自身が引けば、皆が死ぬ。それは正義の味方のスタンスとして許せない。だから全力全開で止まらない。

 ───むしろ意地でもあった。ここで引くことは救える誰かを助けるという正義の味方という自分の理想に対して挫折することだ。だからここで引くことは自分としても、衛宮士郎としても許されない。

「アーチャー、諦めが悪い男は女の子に嫌われるの!」

 なんだか最近は士郎というか男の口調を忘れて完全になのはっぽさが染み付いちゃったなあとか、少し感情的で暴力的なところを除けばすっかり言動が女の子っぽくなったなあとか場違いながらも思っていた。

「…」

 体のあちこちに切り傷ができ、出血しながらもう何百回と数え切れないぐらい斬り合っているが返事がないのを承知で嫌味を言い、肩で息をしながらぼろぼろになり投影し直した干将・莫耶を構えて再びエミヤに向かう。

 斬り合いと同時に飛来する剣を撃ち落とし攻める攻める攻める。その様子をまるで騎士の決闘のようだと固唾を飲んで見守る皆。

 ダメージが蓄積されていく体や折れそうになる心が悲鳴をあげどんなに辛くても、立ち止まることは決して許されないしするつもりもない。

「はあ!!」

 彼は攻撃を同じ剣で受け止め、自分に斬り返す。反撃を躱し、時には受け流し、そして隙があれば攻めながらながら肉薄する。

 イメージするのは常に最強の自分、自身を再び倒すために己の全てをかける。

「お前には負けられないの!」

 だが、抵抗も虚しく徐々になのはが押されていた。

 私の身体はあくまで人間で鍛錬もまだ十分ではない子供であり、魔力や魔術回路が多いとはいえ有限だ。それこそ世界のバックアップを受けている守護者には無限の魔力があり、魔力で編まれた肉体である彼に疲れなどはそもそも存在しない。

「ぐあッ!?」

 疲れでできたほんの一瞬の隙を突かれ、肩を深く切られた隙にプレシアの方に蹴り飛ばされ、盛大に吐血した。肋骨が数本折れたようだ。彼はその隙を見過ごさず、莫大な剣を射出してきた。

「なのは!!」

 フェイトの悲痛な叫びが固有結界内に響き渡る。

「しまった!熾天覆う七つの円環!」

 口元を拭いながらエミヤが放つ大量の武器をとっさに躱すが、彼は世界のバックアップを受けているので剣の持つ魔力量や精度が段違いであり、自身の七つの円環では防ぎきれず、一枚が強固な城壁と同程度の防御がある赤い花弁が一枚また一枚と散っていく。

「これは不味いの!」

 かろうじて持ちこたえていた最後の一枚が散り、なのははプレシアを押し倒しながら躱すが、数本の剣が彼女の身体のあちこちを傷つけ、追い討ちをかけるようにダメージを与えた。

「あっ!つぅー!!────ぐぅッ!?がはッ!?」

 再度吐血しながら痛みに顔をしかめる。このままではプレシアを守ることが出来ないと焦っていた。

 出血により意識があまりはっきりしないがなんとか立ち上がろうとすると、プレシアは驚きの言葉を告げた。

「もういいの…もういいのよお嬢ちゃん、こんな私のために世界を相手にしてまで戦わなくても。ここまで狂ってしまった私のために戦ってくれて…ありがとう」

 そう呟いて微笑んだ彼女は守ろうとした自分を押しのけ、エミヤの前に立った。

 ───囮になるつもりか。そんなことはさせない。先程彼女を守るとフェイトと約束したのだ。

「そんな…のだめ!逃げてなの!」

「Master, quick judgements are dangerous.」

 それでもなおプレシアを庇おうとするのを背中のレイジングハートが止めようとした。

 エミヤに傷つけられ、肉体的にも疲労が蓄積された身体は既に限界であるし、これ以上動こうとすれば生命に関わるぐらいわかってる。

 だが自分が死に体でも、体は動く。今の自分がたとえどんなに無様でも、限界は訪れないし心は折れない、ただの一度も敗北もない───ならば止まることはない。

「これぐらい…あう……なんとも───ない!」

「私が死ねば、こんな騒ぎはなくなるんでしょ?なら…」

「だめ!死ぬなんて許さない」

 アーチャーは徐々にプレシアとの距離を詰め、手にしたフランスのシャルルマーニュ十二勇士、英雄ローランが使ったとされる名剣デュランダルで斬りかかる。

 朦朧とする意識の中で最後の力を振り絞って、干将を投影し彼に投擲しようとした瞬間、事態は急変した。

「……ッ!」

 プレシアはアリシアの入っているポットを抱えながら死を覚悟して目を閉じたが、その剣がついぞ振り下ろされることはなかった。

「まったく…よくないことがあると思ってここまで来てみたら、またずいぶんなことになってるじゃないの」

「誰!?」

 どこからともなく、聞き慣れすぎた女性の声が聞こえたかと思いそちらに目をやると、プレシアとエミヤの間に割って入っていた赤いコートに七色に輝く宝石でできた剣を持ったツーサイドアップの黒髪の魔女が立っていた。

 突然の闖入者に、その場にいた全員の目がその女性に釘付けになった。

「まさか、こんなに早く私が召喚されることになるとは───しかもこの馬鹿、世界そのものを相手にしてるなんて、ね!」

 彼女はエミヤの剣を跳ね除けながら、自分のほうへ顔を向ける。

「遠坂…!なんでここにいるの!?」

 声からしてもしやとは思っていたが、なぜここにいる!?

「久しぶりね、士郎。いや今は高町なのはだったかしら。アンタになにかあった時に、自動的に私がこの世界に召喚されるように魔術をかけといたのよ」

 プレシアに振り下ろされたエミヤの剣を宝石剣で受け止めたのは、あれから時を経て第二魔法を修めついに魔法使いになったのであろう師である遠坂凛であった。

 あれから十年近く経過したためか、最後に会ったときよりも彼女はより美しく妖艶な美女になっていた。

 まさかこの世界でまた彼女に会うと思わずひどく驚いていたし、人間離れした戦闘をしていたなのはであっても苦戦していた守護者エミヤの相手を余裕を持ってしている女性に驚きを隠せないメンバーがほとんどだった。

「どうして…?」

「私だけじゃなくて裏で転生を助けてくれた大師父も来ているわ。まったく、保険でかけといた魔術がこんなにあっさりと使われるなんて思いもしなかったわ。アンタにはもう魔術と二度と関わりのないただの人として平穏な人生を送らせるつもりでけっこう平和そうな世界に転生させたのに、性分は変わらないのね」

「遠坂はうるさいの。なのはは好きでやってるんだもん」

 相変わらず恩義せがましい遠坂に、血まみれでボロボロになりながらもぶーたれる。

 本当に大きなお世話だ。それになにカッコつけてるんだ。

「ええそうだったわね。士郎は困ってる人を放っておけない正義の味方だもんね。三つ子の魂百までって言うし、転生したとしてもそんなに簡単にあり方が変わるわけないか」

 彼女は肩を竦めながら告げた。

「それに遠坂の助けなんて呼んでないし」

「素直じゃないのもコイツと同じで相変わらずね。とりあえずこの世界の魔術かなにかで傷を治してなさいな。私はその間に小さい女の子を傷物にしたこの大馬鹿を殴ってやるから」

 そう言って手にした宝石剣でエミヤに斬りかかる。

 彼がいた空間が切り裂かれ、彼は瞬時に横に飛び退いたが旧知の仲であるはずの凛の姿を見てもエミヤの動きは止まることがない。今の彼は世界の操り人形にすぎないのだ。そこに意思など存在しない。

「座に戻ったアーチャーは私のことも忘れちゃったの!?ったく、消える時に答えは得たから大丈夫だとか言って散々カッコつけたのはウソだったわけ!?今日という今日は徹底的にコテンパンにして、嫌でも思い出させてやる!」

 とても物騒なことを言いながら、過去にたくさんの因縁と深い愛情がある赤い魔法使いとアラヤの守護者は苛烈な戦闘を開始した。




 世界から狙われたプレシア・テスタロッサを救うためにアラヤの守護者英霊エミヤと戦っていた高町なのはちゃんの前に現れたのは赤がよく似合う魔術師、遠坂凛でした。
 彼女は過去に自分のサーヴァントであった彼を前に言いたいことがたくさんあるようです。

 世界を守るなのはちゃん達と世界の守護者、混迷を極めるこの戦いは果たしてどうなるのでしょうか。
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