リリカルでマジカルな世界に憑依転生した正義の味方(StrikerS編制作検討中)   作:四条小鳩

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 高町なのはちゃんの前に現れたのは世界を守るアラヤの守護者、英霊エミヤ。プレシア・テスタロッサを始末するために世界が彼を送り込みました。
 世界の圧倒的な加護を受けたエミヤに力負けをしかけたなのはちゃんでしたが、そこに旧知の赤い魔女が現れ、事態は急展開を迎えます。


最終話「その転校は始まりに」

 宝石剣をふんだんに使って別世界の遠坂凛から無限の魔力を調達し、魔女が膨大に飛来する剣や斬りかかってくる剣に八極拳で学んだ体術を応用して受け止めながら空間を切り裂き、剣を逸らしたり剣を弾き返しながら応戦する。

 逆に空間の斬撃や反撃をかわしながら様々な方角からの剣の嵐で対応し戦っている守護者の側から、アースラ局員の決死の覚悟で大怪我を負っているなのはとプレシアとアリシアが封入されたカプセルはなんとか救出された。

「大丈夫、なのは?」

 駆け寄ってきたフェイトが血を流している自分を心配そうに覗き込む。

「なんとかね。こんなの慣れてるから」

 ボロボロになるなんてよくあることだったし。

 局員の治癒魔法で傷はみるみる塞がっていった。とりあえず、痛みや疲労はだいぶマシになった。

 ここまで体と魔力が回復すれば遠坂の援護に回れるかな。

 ───そう思って動こうとしたら、止める人物が現れた。

「こりゃまたずいぶんな固有結界じゃのう。さてなのは嬢、今回のことの発端を教えてもらえるかな?」

「大師父!?」

 目の前に現れたのはまだ衛宮士郎の頃、遠坂を通じて一度だけ会ったことがある並行世界の管理人、カレイドスコープことキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグその人だった。

「誰…?」

 フェイトがぽかんとした表情で尋ねた。

 遠坂と自分以外はこの人物のことを誰も知らないし、彼女と同時にこの空間にいきなり現れたのだから当然の疑問だろう。

「ああ、美しいレディに皆さん。自己紹介が遅れてすまんのう。儂はキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ、数多ある並行世界を旅し、別世界の衛宮士郎という人間の魂をこの世界の地球にいた高町なのはという少女を依代に…ここにいる子の体に宿らせ、転生させた張本人だ」

 さらっととんでもないことを告白した。

 ───まあ本人である私はわかっていたが。

「なんだって!?」

「なのは、どういうこと!?」

「世界が魂を…超えたですって!?」

 事情を知らない全員が、特にアリシアのためにアルハザードを目指していたプレシアがあっけにとられ驚いた。自身の由来を知っている者はこの場には遠坂と大師父以外いなかったからだ。

 唯一状況を理解し冷静だったのが自分なので、事の次第を簡単に説明した。

「ふうむ…。そのようなことがあったのか。それで守護者が現界しておるのじゃな。ではなのは嬢、そのジュエルシードとやらの魔力を全部使ってしまえ。ちょうど、おあつらえ向きの状況だからのう」

「それはどういうことですか?」

 クロノが全員の代弁者となって質問する。

 守護者が現界しており、遠坂はゼルレッチのように半不死ではないのでいつまで相手ができるかわからない。そんな状況でジュエルシードに込められた全ての魔力をすぐに使うなど、大勢の魔導師がいる今でも無理な話だ。

「単純な話じゃ。そこのガラス瓶にいる娘さんを生き返らせれば魔力を消費するのによかろうということじゃ。そうすればあやつも現界する理由がなくなるだろう。幸い、素体となる子の遺体、由来となる母であるマダム、その子の魂の生き写しであるそこのレディと三拍子揃っておるしのう。あの儀式では魂はランダムに召喚されるものではなく必ず遺物と縁があるものが呼ばれるからな」

 プレシアと彼女が抱えているポット、そしてその側にいるフェイトに目をやる。

「あの…もしかしてアリシアちゃんを復活させることにジュエルシードの魔力を使うってことですか?」

 導き出された答えを口にした。

 確かに言われてみればアイツが戦う前に言っていたように召喚者と英雄には物質的に縁があるものが喚ばれるらしい。しかも彼が指摘したように縁はかなり強いものばかりが揃っている。遠坂もうっかりもあったがアーチャーを召喚したのは彼が生涯手にしていた家宝の宝石があったからこそ召喚できたのだ。

「そういうことじゃ。使えきれないほどの魔力をこの場ですぐに使うとなれば、魔力を適当な並行世界に送るより、サーヴァントの召喚の儀式を逆手に利用して使いきってしまうのが一番じゃろう?」

 本来の聖杯戦争は大聖杯に60年もかけて召喚に必要な莫大な魔力を大聖杯に溜め込んでから行われるということを考えればたしかに最も手っ取り早く確実な手段だ。

「わかりました!」

 自分以外のメンバーが話についていけず、呆然としていた。

「アリシアをどうするつもりなの!?」

 やっと混沌とした状況から意識を再起動させたプレシアが母親としての危機感からアリシアが入ったポットを抱きかかえる。

「マダム、そんなに心配せんでもちょっとした奇跡を起こすだけですよ。貴女にとってはかけがえのない贈り物になるでしょう。さて、召喚陣は儂が描くから、君は準備をなさい」

「わかりました。皆さん、ジュエルシードを一箇所に集めてなの!プレシアさんとフェイトちゃんは魔法陣のすぐ側にいて」

 その一言で封印にあたっていた局員がなんとかジュエルシードを一箇所に集めた。召喚陣の側に移動させられたプレシアとフェイトはわからないことだらけで疑問符をたくさん頭に浮かべていた。

 以前遠坂に聞いたサーヴァント召喚の呪文を思い出す。

 ゼルレッチによって描かれた魔法陣にジュエルシードが置かれ、それぞれがお互いに反応しあい、猛烈な魔力の渦ができる。

 すべての準備は整った。あとは魔術回路に魔力を流し、召喚の言葉を紡ぐだけだ。

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する」

 魔法陣が光り輝き、暴走していた魔力が急速に方向性をつけ一点に集中しだした。サーヴァント召喚に必要な詠唱だけが自身の脳内にあり、ある種のトランス状態に陥った。

 意識が何処かに行くような気分の中、ふうむ、正式な召喚ってこうなるのかとなんとなく考えてしまった。

 セイバーは埋め込まれた全て遠き理想郷(アヴァロン)との縁と以前の聖杯戦争で使われたであろうアインツベルンの陣でほとんど偶然召喚できたものだから、正しい手法での召喚は初めてだからだ。

「──告げる」

「──告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 周囲に魔力が集まり、それがまるで生命を帯びたように空へ向けて動く。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

「成功じゃな」

 大師父の言葉と同時にジュエルシードからの魔力の放出が収まり、ポットのガラスが割れる音がした。

 その音に全員の視線が移動する。

 死んだはずのアリシアがポットから出てきた事に、成功するか半信半疑であった自分も含めて腰を抜かすほど驚いた。

「───あなたが私のマスターですか?」

「アリシア…!?」

 プレシアが信じられないといった表情で驚いた。

 彼女はふらふらと驚いている自分の元まで来てうつろな目で問いかけた。左手にはセイバーと契約した時以来の令呪が浮かび上がっていた。

 この痛みも久しぶりだ。

「あれま、なのは嬢とのサーヴァント契約まで再現してしまったか。まあ悪いことはないから、嬉しい誤算かのう」

 ゼルレッチはケラケラと笑いながらサーヴァントになったアリシアを見やる。

 こんな状況で笑うなどさすが遠坂(あかいあくま)の師というか…。この爺さんの心臓は宝石でできているのだろうか。

「う、うん。なのはがアリシアちゃんのマスターだよ」

 とりあえず、アリシア?らしき子の問いに答える。召喚がまだ明確になっていないので意識がまだ回復していないようだ。

「───わかりました。ここに契約は完了しました」

 それを告げると糸が切れた人形のように彼女は倒れ、プレシアが纏っていたマントを毛布代わりに慌てて支える。

 彼女の体と自身の体にうっすらだが魔力のラインが繋がった。ラインから魔力が彼女へ僅かに流れていくのを感じ、サーヴァント契約が成立したことを実感した。

「ああ、アリシア…アリシア!大丈夫なの!?」

 彼女はゆさゆさと娘を揺さぶる。それに反応するように徐々に目を開けるアリシア。その瞳は正気に戻っていた。

 どうやら本当に召喚は成功したようだ───世界から彼女を守り、そして彼女と彼女の娘をも救うことができて本当によかった。

「ん…んん…?なあにママ?どうしたの?」

「アリシア!!」

 彼女は起きて状況を確認しようとした愛娘を泣きながらぎゅっと抱きしめた。

「ああ…あああ……アリシア、私の愛しいアリシア───本当に会いたかったわ」

「ねえママ、そんなにぎゅっとしちゃ苦しいよ」

 親子の感動の再会を複雑そうな顔で見るフェイトに「大丈夫だよ、私がついているから」という意味を込めて手を握り、微笑んだ。

 ただ安心させるために手を握っただけなのに顔面が一気に赤くなったのはなぜだろうか。

「さっきから急にどうしちゃったの?それになんで私びしょびしょなの…?変なとこにいたような気がするけど、お風呂にでも入ってたっけ?あれ、なんか大きくなった私がいるよ?顔真っ赤なの」

 彼女は体がずぶ濡れで変な所にいるのと、成長し生き写しの赤くなっている自分がいることに理解が追いつかず目を白黒させていた。

 落ち着いたので周囲をよく見れば元の世界に戻っており、エミヤの手が止まっている。彼が手を止め、固有結界を消したということは、世界の危機が終わったことを意味する。

 やっとこの事件も終わりだ。

「なのはたち、やったみたいね。会えなくてずっと色々言いたいことはあるんだけど、言い訳は聞かないからね!」

 やっと全てが終わったと思ったら、磨き上げられ、以前よりも段違いに威力を帯びた掌底で彼がものすごい勢いで時の庭の壁に叩きつけられた。

 世界の防衛機能に臆すること無く殴り掛かるなどどういう神経をしているんだと思う者がほとんどであった。

 あかいあくまはどこまでいってもあかいあくまだったと私は思った。

「───やれやれ、凛。君は歳を重ねても相変わらずお転婆なようだな」

 いつかの時のように体を構成する魔力を失い消えつつある体が盛大に瓦礫に埋まり、まったくいつも彼女は理不尽なものだといった雰囲気でアイツは言葉を紡ぐ。世界からの監視がいくぶんか緩んだためか、今はわずかに会話ができるようだ。

 彼の言動に二人は知り合いだったのかとまた周囲が驚いた。

「歳のことは余計よ!もう一発殴られたいの?大事な弟子…というか女の子達を傷物にしたのと、私に余計な手間かけさせた分、これでチャラ!わかった?」

 皮肉屋な英霊に彼女は怒りとともに言葉を投げつけた。半ば八つ当たりのようなことをされた彼はいつものように肩を竦めながら応えた。

「まいった、今回は私の降参だ。まったく、君自身が有利になるためにはすぐに荒事に頼ろうとする性格の悪さもいつでも変わらずか。ふむ、なるほど───ここはそういう世界なのだな。それと、おそらくあそこにいる少女の中身は衛宮士郎なのだろう?凛、奴に伝えろ。貴様の願いは本物だった、せいぜいこの世界で『正義の味方』らしく仮初の生活を楽しめとな」

「はいはい」

「さて、どうやら私はここでお役御免なようだ。またどこかで会おう、凛」

 彼女はコイツもコイツで相変わらず素直じゃないわねと思い、その言葉を受け取った。そう告げたエミヤは今度こそ完全に消失した。

 その光景を事情を知らない者は呆然と見守るしかできなかった。一体なのはを含めて彼女らの関係はなんだったのだろうかと疑問は尽きない。

「さよなら、士郎。また会いましょ」

 そう告げた彼女はあの時のことは忘れられていなかったということを実感してニッコリと笑っていた。

「あそこの痴話喧嘩も終わったようじゃの」

「ねえ、なのは」

 彼女はそのまま笑みを浮かべてなのはに歩み寄った。

「なに?」

「アイツがね、この世界で幸せになれ…って言ってたわ」

「あれが?あの馬鹿がそんな気持ち悪いこと言うわけないの」

 答えを得たとはいえあんだけ自分を殺したがっていたやつがそんな呑気なことを言うなんてありえないだろ。

 そんな返事をしたら彼女は呆れたのか肩をすくめながら、コートのポケットに手を入れて宝石をいくらか取り出した。

 何をするつもりだ。

「とりあえず、傷見せて。英霊…というかこの子を召喚して、傷も応急処置だけなんでしょ?宝石を持ってきたから治療するわ。それとそこのお母さん、貴女もね」

 そういって、アリシアを抱えたプレシアにも目をやる。彼女の口元は血で汚れ、様々な魔法の行使やジュエルシードの暴走で肉体には相当ダメージを負っていたのは明白だ。

「貴女は私を助けてくれるの?」

「なのはが必死になって助けようとした人を放置できるほど、私はコイツとの付き合いは短くないわ。いつもの心の贅肉よ。いいから見せて。私の…遠坂家の宝石魔術の真髄、見せてあげるわ」

 喧嘩っ早いのはともかく、昔は魔術師として損得勘定ばかりが先に出ていた彼女よりも言動がやけに素直だ。歳を重ねたからだろうか。

「───わかったわ、お願い」

「まかせて」

 そうして、なのはとプレシアを手早く宝石魔術で治療した凛は、アースラ局員とともに攻撃や暴走でボロボロになって崩落寸前であった時の庭をなんとか後にした。

 

 アースラの医務室でメディカル・チェックを終えたなのはは途中でここに残っていたアリサとすずかと合流し、食堂に足を運んでいた。プレシアとアリシアは念のため必要以上のメディカル・チェックを受けるためにまだ医務室にいる。

 ちなみに食堂へ向かっていたのは近くにいた局員から大師父はもう飽きたのかいつの間にかまたどこかへ行ってしまったと聞き、リンディと話を終え食堂にいる紅い魔女に文句を言いたかったからだ。彼女は食堂で家訓通り優雅にどこからか持ってきた自前のティーセットで紅茶を飲んでいた。

 まったく勝手にこっちの世界へ押しかけるだけ押しかけて、私抜きでアイツと勝手にお話をして、しかも挙げ句の果てにはお茶まで飲んでるなんてずいぶんな態度だ、あかいあくまめ。

「あら、おかえりなさい。体の方は大丈夫だった?まったく今は体内に全て遠き理想郷がないしセイバーもいないんだから、一人でアイツの相手をするなんて無茶しすぎなのよ。それと艦長のリンディさんとかになのはの武勇伝、色々と聞いたわよ。今回の事件で大活躍だったそうじゃない。小学生の女の子になってもやっぱり根本は士郎なんだなって改めて思ったわ」

「もともと大したことなんてなかったし。それに変な魔術かけとくなんて遠坂はお節介が過ぎるの!それになに人様のところでお茶飲んでるの!」

「そりゃ、保険ぐらいかけとくわよ。多くの魔術師が外道だってことぐらいあんたもよく知ってるでしょ?それに久々に聖杯戦争の時並の運動したんだから水分補給ぐらいいいじゃない。あの時だって、私がアイツに捕まってたりアンタが柳洞寺に拉致された時でも家に帰って寝てたでしょ?」

「そんな問題じゃない!」

 怒り心頭の自分にニヤニヤしながら相手をする遠坂がまったくもって腹立たしい。相変わらず無駄に口が達者というか、女性としての歳の分の経験の差か彼女のほうが余裕があるのが悔しい。

 その痴話喧嘩のような、挨拶のような、恋人のような───二人にとってはいつも通りのやり取りを側で見ていたすずかとアリサがおもむろに間に割って入った。しかも二人共恋人繋ぎのように自分の腕を絡ませて。今の彼女達の背景には、見る人が見れば百合の花がたくさん咲いているだろう。

 一体どうしたんだ急に。

「なのはちゃんは遠坂さんには渡しません!」

「なのはは私のものよ!」

「なんでなの!?」

 師に怒っていたら唐突に修羅場になり、なぜ女しかいないのに今は女である自分を取り合うの?と意味がわからないため目を白黒させるしかなかった。

 対して嫉妬の目線を向けられた遠坂はそうした相手への対応にも以前よりもかなり余裕を持てるようになったのかくすくす笑ってから二人に話しかけた。

「あらあら、あなた達小さいのにいっちょまえで可愛いわね。どうするかはすずかちゃん達の勝手だけど、コイツ昔から相当鈍感でいろんな子を泣かせまくってきたから、それなりに覚悟した方がいいわよ」

 生前恋人あった彼女が言うので、その言葉は意味もなく重い。

「えと、遠坂とすずかちゃん達はさっきからなんの話をしてるの?」

 話題がわからないという返答をしたら、コイツはどうしようもない朴念仁だからという意味を含めた視線を二人に送り、二人も理解してため息をつく。

 その状況に余計意味がわからず首をかしげるしかないし、遠くで様子を見守っていたフェイトまでなぜか悔しそうな顔をしていたのはなぜだろう。

「また何かあったら遊びに来るわ。今日は久々にアイツをぶん殴れて楽しかったし」

 そう告げてカップに残っていた紅茶を一気に飲み干し、宝石剣をコートから取り出し何もない空間を切り並行世界への入口を開ける。

 もともと聖杯戦争に勝つためだけに参加し最後まで生き残った肝が座っている女性だが、守護者の元サーヴァントと渡り合い、死へのカウントダウンをしていたような状況を楽しかったといえるほど、彼女は大師父によって鍛えられたのだろう。

「二度と来なくていいの、もう…」

 なぜか腕に絡みついてくる二人にげんなりとして遠坂へ返事をした。

「そう言われると、また来たくなっちゃうわよ。またね、なのは」

 そうして、自分にとって大迷惑でしかない台詞を残して遠坂はどこかの並行世界へと消えていった。

 なお、後に世界を守る英霊と戦闘でタメを張り、最後には殴り倒した遠坂凛は第九十七管理外世界のどこかにいるかもしれない紅い悪魔の魔法使いとして魔導師の世界で自分以上に畏怖の対象となったのはここだけの話だ。

 

 そしてPT事件解決から数日後の高町家次女の自室。そこには複数の少女がいた。

「お疲れ様、なのは」

「今のなのは、まるでゆるキャラみたいね」

「確かに〜」

「大丈夫ですか、マスター?」

 部屋の主はベッドで絶え間なく責め苦を与える筋肉痛に耐えながらぐったりしていた。

 それはそうだ。身体強化や投影魔術を衛宮士郎以上に長時間、初めて使っていたのだ。魔術は等価交換であり、いくら士郎としての経験があって効率よく使っても体にダメージが来るのは当たり前で、しかもあれだけの戦闘をこなして傷まで負ってまともに手足が繋がって動くだけでもマシな方だ。初めて投影した時、体の半身が麻痺し未来の自分に診断してもらったほどだ。

「うう〜痛いの〜〜!」

 全身の痛みで寝るにも寝れず、四人に親身に看病してもらっている現状だ。

 聖杯戦争で何度も死にそうになったが、あの時は気絶してたりしたときのほうが多かったので全身の痛みが麻酔無しで延々と続く今のほうがよほど辛い。

 そして美少女(幼女も含む)四人を看病という名目で侍らせている今の状況は、言い方を変えれば生前と同じようなハーレムなのだが、元アダルトなゲームの主人公であった彼女にとってはそんなペドでフィリアな人たちであればヨダレが出るほど羨ましいことこの上ない状況であるが、体調と鈍感さで当たり前のように気付かない。

「アースラのお医者さんによれば数日したら治るみたいだし、ゆっくりしてね。私が特別に看病してあげるんだから」

 なのはの背をアリサが蒸しタオルで拭いてくれている。これではろくにお風呂にも入れないので看病してくれるのはありがたい。

「わ、私もなのはの看病頑張るから」

 そうして、身体を拭くようにしてさり気なくなのはの体を触ろうとしたフェイトをすずかがニッコリと笑いながら止める。でも目は全く笑っていなかった。

「フェイトちゃん、抜け駆けは駄目だよ?」

「は、はい!?」

 フェイトはすずかのハイライトが消えた目にビクッとした。

 どうやら彼女は吸血鬼の末裔というだけでなくある世界の世話焼きでやきもち焼きな後輩が彼女の祖先にあたるのかもしれない。それとも混血という意味ではあの家の当主に近いのかもしれない。

「そうよ!」

 アリサもすずかに同調する。

「え?どうしたの?」

 背中をタオルで拭いてもらうためにうつ伏せに寝ていて顔が見えないので状況が理解できず、四人に尋ねる。

「なんでもないよ、なのはちゃん」

「そ、そうなの?」

 なんか穏やかじゃない空気を感じたようなと首を傾げながら納得する。

 ───時たま、彼女達が怖い気がする。

 

 ようやく身体中の痛みが抜けた翌日、テスタロッサ一家を連れて自分の出生の秘密や魔導師兼魔術使いでありこの世界の危機を救うために奔走していたことを家族に話した。

 いずれ自分のことは家族に話すつもりでいたので、これはいい機会であった。

 転生や魔術使い兼魔法少女であるという突拍子も無い話を家族四人は熱心に聴いてくれた。

「話してくれてありがとう、なのは。みんなのためにずっと頑張っていたんだね」

 士郎がPT事件での働きを労い、そして己の出生の秘密を打ち明けたことににっこりと笑って彼女の頭をなでた。

 なにか言われるかと思ったら褒められたので嬉しかった。

「生まれ変わりだなんてお伽話みたいだけど、うちに来たのも何かの縁があったのかもね〜」

 姉の美由希も内心は分かりかねるがにこやかに事実を受け止めてくれた。

「なのは、ずっとお前のことに気付かなくてすまなかった」

 この場で唯一、申し訳なさそうにしていたのは兄、恭也であった。

 彼は妹である私を大事にしているのは自身もよく分かっていた。ただ、今の関係があれば彼女にとっては十分だったからこう告げた。

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。今のなのはを受け入れてくれてもらえれば私は満足だから」

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しい」

「私の愛おしいなのはがその衛宮士郎さんの生まれ変わりだなんて素敵だと思うし、みんなを笑顔にするために一生懸命頑張れるって親としては誇りに思うわ」

 母の桃子はやはり強い人であった。

「なのははどんな形であれ、私と母さんの大切な娘だ。これからも私の家族でいてくれるかい?」

「うん、もちろんなの!」

 もう大切な家族を失うつもりはない。

「ありがとう。それとテスタロッサさん、なのはを今後共よろしくお願いします」

 士郎はぺこりとプレシアに一礼した。

「いえ、とんでもございません。むしろお世話になっているのは私達の方ですから」

「よろしくお願いします」

「マスターのお父さんにお母さん、よろしくお願いします」

「それにしてもマスターとサーヴァントってなんか響きが…ね」

 アリシアとなのはの関係性と意味を理解した美由希が苦笑する。確かに、関係性としては正確なのだが子供が無闇矢鱈と発していい言葉ではない…。

「あう…」

 あの場ではああするしか無かったが、事情を知らない人の前ではむやみにマスターと言わないようにきちんと言いつけておかないといけないだろう。

「なのは、フェイトちゃんやアリシアちゃんみたいなしっかりしたいい子ならお父さんは一向に構わないぞ」

「えっ!?」

 ───ん?

 急に何を言い出すんですかお父様。ちょっとなのはの理解の範疇を超えているのですが。

「お母さんもいいわよ。娘が二人できるのもいいわね」

 ───ちょっと待ってください、お母様。わかりきったことですが私は息子ではなく娘ですよ。

「あの、ちょっと」

「なのはさん、娘二人をよろしくお願いします」

 話が本人抜きに勝手に進められていく。

 だから嫁しかいない結婚式など開けないし、そもそもアリシアはまだ幼女だ。

「俺もこの二人ならなのはを任せてもいいかなって思うよ」

「私も。フェイトちゃん達って一途そうだし」

 姉と兄も乗ってきた。

 ───なんなんですかあなた達は。

「話を聞いてなの〜!!」

 

 そうして同性相手の婚約を勝手に決められるという意味がわからない騒動をなんとか沈めて、玄関でフェイトを見送る。

「今日はありがとね、フェイトちゃん」

 アリシアとプレシアはすでに外でフェイトを待っている。

「ううん、平気」

 ちなみにテスタロッサ一家は、実験で死亡したはずのアリシアの蘇生とサーヴァント化という前代未聞の事態が起こったため、ずっと様子をそばで見ていた母親がつきっきりでメディカル・チェックをする必要があるとのことでリンディ提督の権限でしばらくは処分保留の保護観察処分となった。

 そしてフェイトとアルフの二人が使っていたマンションを一家の住居として、その両隣の部屋をアースラ乗組員の待機兼親子の監視場所として使用することが決まった。

「ゆっくりプレシアさんとやっていこ?なのはもお手伝いするから」

「うん」

 事件以降、妙に距離感を感じてしまっているフェイトとそれに気付いてもどう歩み寄るべきか悩んでギクシャクしているプレシアとの関係は、これからまた構築していけばいいだろう。そのための時間はたっぷりある。

 

 そうしてあれこれあった以降初めて、アースラに私は召喚された。

 ここに来るのも一週間ぶりだ。

 対応に当たったエイミィによって艦長室に通されそこで少し待っているとリンディはやって来た。

「おまたせしてごめんなさいね。ええっと、砂糖は入れちゃダメなのよね」

「駄目です!」

 どうしても砂糖を入れたがるようなので釘を差した。

「今日はね、この事件の報告書とあなたにお願いがあって呼んだの。忙しい所ごめんなさいね」

「いえいえ」

 そうして彼女から事件の報告書を受け取り、目を通す。

 

 ざっと目を通し、彼女に目配せする。

「どうかしら」

 リンディが内容について問いかけてきたが、このレポートはどちらかと言うと欠陥品だ。

 なので疑問を素直に彼女へ投げかける。

「なぜ…なのはやアリシアちゃんのことを報告書に詳細に記載していないのですか」

 普通、自身の魔法ではない魔術やアリシアの死者蘇生は報告書に記載されていなければならないはずだ。

「アリシアちゃんやフェイトちゃんには寄り添ってあげる大人がいない。だから今、大人の都合で離れさせるわけにはいかないわ。それにあなたは救う対象に自分を入れていない気がして、あなた自身に救いがないのが酷いなと思ったからと言えばいいかしら。テスタロッサさんから聴取で聞いた事件の真相は流石に私としても見逃せないから管理局の方に改めて再捜査を依頼したわ。彼女が言うより私が指示したほうが動きやすいでしょうから。あと、あなたの師匠という遠坂さんからこちらで魔導師としての後見人を任されたというのもあるわね。あなたがたどり着く最後が正義の味方として体感する地獄ではなく、勤めを果たしきった対価として得られる理想郷であればと思うわ」

「リンディさん、お気遣いありがとうございます」

 ───遠坂め…気遣いが嬉しいけど余計なお世話だ。

「いいのよ。誤った判断をしかけたうちの子を正してくれたお礼も兼ねているから。そういうことだから管理局の局員も含めた第97管理外世界の海鳴周辺の魔導師の管理についてあなたに権限を与えます。テスタロッサさんたちを守ってもらえますか」

「わかりました。その任務、受けさせていただきます」

 今度こそ、親友やあの家族が悲しまないように自分が守りきらなければならない。そうしうて私はこの管理外世界の管理者(セカンドオーナー)となることとなった。

 

 アースラに召喚されてから数日後───朝の学活が始まる前の教室でいつもの二人に会って、挨拶を交わす。

「おはよ、なのは」

「おはよう、なのはちゃん」

「おはようなの〜」

「そういえば転校してくるの、今日だったっけ?」

「うん、そうなの〜」

 テスタロッサ一家の戸籍は、すずかから彼女達の話を聞いた姉の忍の命令を受けたメイド長であるノエルが一晩で全員分の戸籍を用意をしたと聞いた時は、いくら資産家でかつ闇の一族とはいえどんなめちゃくちゃをしたんだと思った。

 ともかくこうして海鳴で暮らすことが決まった家族は、アリシアはマンションの近所にある幼稚園へ、そしてフェイトは同じクラスへ転校することになった。

 今日は彼女が転校してくる日だ。

 彼女と友達となり、家族がいて、こうやって平穏な日々を送りながら学び舎にともに通うこととなったという平凡な幸せに嬉しさを噛みしめる。

「はーいみなさん、席について下さい」

 担任の先生が入ってきた。ドアの外に彼女のシルエットが見える。

「今日は出席を取る前に転校生の紹介をします。テスタロッサさん、入って下さい」

「みなさん、はじめまして。フェイト・テスタロッサです。今日からよろしくお願いします」

 彼女は教卓の前に立って、恥ずかしそうにしながらクラスメートにお辞儀をした。

 

 そうして、新たな親友を加えた賑やかな学校生活が始まった。




 ということで無印編終わりです。色々と駆け足気味でしたが、楽しんでいただけたでしょうか。
 A's編は少し時間を置いて投稿していく予定です。
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