リリカルでマジカルな世界に憑依転生した正義の味方(StrikerS編制作検討中)   作:四条小鳩

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 年末が迫った冬の日、衛宮士郎の生まれ変わりである新米魔導師高町なのはちゃんはクリスマスに向けて不安がありながらものんびりと生活をしていました。ですが、『正義の味方』を目指している彼女の前にまたも大きな事件が立ちはだかることになります。

作者注
 繰り返す四日間の記憶は衛宮士郎本人は持っていませんが、持っていないと色々話がややこしくなるのでうっすらと記憶があるという状態になっています。

17/10/21 タイトルを改題しました。


A's編
第一話「秋の日、運命の出会い」


 ───ジュエルシードを巡った事件から数ヶ月ほど経過し、十二月、師走と呼ばれる時期になった。

 日本では旧暦の十二月を指す言葉であり、師も走るほど多忙といっても、家訓である『余裕を持って優雅たれ』を対外的には見事に実践しているであろう遠坂凛があちこちを忙しそうに走り回っている姿は想像できないが、年末は衛宮家に出入りする住民が増えた以降、転生する前、日本にいた頃の衛宮士郎(わたし)は年末の大掃除だけではなく人数が増えた分だけクリスマスやお正月の準備などなどが増えたのでそれなりに多忙であることが多かった。

 今の高町なのは(わたし)はというと…はっきり言ってそこまで忙しくはない。

 冬休みに出されるであろう宿題はエスカレーター式の進学校とはいえ正直小学生なのでほとんど大したことはないし、両親が営む翠屋はシュークリームが名物とはいえあくまで本業は喫茶店である。この時期最も忙しいであろうケーキ専門店ではないのでクリスマスが必要以上に多忙になることもない。

 せいぜい年末に向けそれなりに考えなければならないのは、翠屋で友人である月村すずか達を招いて開催される年末恒例のクリスマスパーティーに向けて私がどんなお菓子や食べ物を作るか考えるぐらいであった。衛宮士郎が転生した存在であるという出生の秘密を知った母である桃子から料理の腕前を改めて認められた私は、以前と比べて家のキッチンについてはかなり自由に使うことができるようになった。最近は忙しい時には自分が姉である美由希に代わって夕食などを作ることもある。

 私の作った料理を食べるたびに美由希はなんだか複雑そうにしていることもあるが、そればかりは私のせいではないと思いたい。

 そのため、一般的なクリスマスで作る料理程度であれば十分余裕を持って作ることができる。

 今年は父である士郎にお願いして普通のスーパーよりも安く仕入れができる業務用スーパーでフィレ肉のブロックを手に入れられそうなのでお手製のローストビーフをメインディッシュに私の義理の姉、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの出身地であるドイツに敬意を表して代表的なクリスマスの食べ物であるであるシュトレンを作っている。シュトレンは当日に出来上がるのを待つだけだ。

 あとはプレゼント交換にするものをどうするかだ。それについては来週にでもファンシーショップあたりを覗きに行こうと思っている。

 昔に比べてそういうお店に抵抗感が無くなったのはいいことなのか悪いことなのか。

 だがそれよりももっと大事なことがある。

 それは親友である八神はやてである。元々足を悪くしている彼女であったが、ここ数週間で体調が急に悪くなり市内の大学病院に入院している。盗み聞きするつもりはなかったが、一人でお見舞いに来た時に聞こえた主治医の話では年を越せるかが不明な状態であるという。

 私になにかできるかどうか…最近はそんなことを延々と考えている。だが治癒魔術にはあまり明るくないし、そもそも原因不明の病気を魔術で治せるのかどうかもわからない。慎二とは別ベクトルの悪友とはいえ、せっかくできた得難い友人を失うかもしれないのに何もできないというもどかしさが私の心中の大部分を支配していた。

 

 私は一人、『正義の味方』として八神はやてという少女をどのようにして助けるか、決められずにいた。

 

Interlude

 

 ───数ヶ月前、海鳴市のある家で闇の書が起動した。

「なんやアンタ達!?」

 家主である少女は突如現れた守護騎士の四人組に心底驚いていた。

「私達は闇の書の防衛システムの一つであるヴォルケンリッターです、主殿」

 場を代表して代表格の女性が話をした。

「なあ、ドッキリとかじゃないよな?それとも夢?」

「冗談でも夢でもありません。これから貴女には大事な話をします。聞いてもらってもよろしいでしょうか」

 そうして、彼女は自身のことや蒐集が必要なことを話しだした。

 

 闇の書…それは本来は古代に開発された古今東西様々な魔導師が用いる魔法の知識を蓄積するためのデータベースであった。だが時代を経て様々な魔導の知識を吸収する毎に中身が変質し、書が主と認めた者から生命力を吸い取り、蒐集をしなければ持ち主が衰弱死、もしくは蒐集が完成した時点で闇の書が暴走し大災害を齎すというものに変化した。

 主への侵食を止めるためには、闇の書の防衛システムを兼ねた使い魔、ヴォルケンリッターが魔導書に魔導師のリンカーコアから魔力と魔法を収集し力を貯めることで闇の書を完成させることだ。だから契約者に忠誠を誓うヴォルケンリッター達は今回の主である少女に蒐集を進言した。

 ただでさえ主と認められた少女の体が悪い今、その生命力が魔導書により更に削られ、命がすぐに燃え尽きてしまうのは目に見えていたからだ。

 

 話を聞き終わった少女はゆっくりとその内容を反芻してからこう言い切った。

「それはダメや」

 彼女は蒐集の提案を真っ先に否決した。

「しかし主殿…それでは貴女の命が危険に晒される!」

 ヴォルケンリッターの筆頭格である女性がその決断に異を唱えた。

「蒐集が完了すると闇の書ってのは暴走するんやろ?他所様に迷惑かけてまで死ぬぐらいなら、ウチ一人でひっそり死ぬほうがマシや」

「そんなこと、認められません!」

 もう一人の女性が声を上げる。

「これはウチからのお願いや。頼むから……そんな酷いことをしてまで助けないで欲しい…」

「わかりました…主殿がそう仰るのであれば……」

 彼女達は結局、せめて彼女が迎える最後の時まで一緒にいさせてくれと言って同居しながら各々が適当な言い訳をつけて隠れて魔物などを蒐集し、主を助けるしかないと判断した。

 

 ───そして十一月下旬。

 それからも機会を伺い聞くものの、彼女の意志が固く同意を得ることができずにいたため、次元世界の様々な場所や時間で魔物を狩ることなどで蒐集を進めていたが遅々として進まず、恐れていたことが起こった。ついに様態が悪化したのだ。

 異変はいつものように車椅子で移動できなくなったことから始まった。そして数日もしないうちに主はベッドに寝たきりになった。

 防衛システムにすぎないヴォルケンリッター達では十分な世話をすることができず、どうしたものかとなっていたが、幸い異変を感じた主の友人たちが家に来たことで、彼女はそのまま近所の大学病院に入院することになった。

 

 そして入院が決まった当日。

 一家のムードメーカーであった騒々しい家主がいなくなった寂しいリビングにヴォルケンリッター達が集合していた。

「───主には悪いが、やはり魔導師を襲うしかない。異存は?」

 筆頭格の女性が深刻な顔で仲間に蒐集について問いかけた。

「ないぞ」

「ありません」

「ない」

 四人の答えが一致した。

 彼女達は自身が信じることのためについに禁じ手を解禁することを決断した。

 

Interlude end

 

 PT事件の報告書を見せてもらって以来、定時連絡以外で初めて直接口頭で伝えたい事があるとリンディから言われ私とフェイトはアースラに召喚された。

 クロノによって艦長室に通された私達は深刻な表情をしてある資料を見つめている彼女と向き合った。

「リンディさん、なのは達にお話ってなんですか?」

「今日は来てくれてありがとう。最近起こっているある事件について貴女達に警告をと思って今日は来てもらいました」

「一体何が起こっているんですか?」

「一言で言えば魔導師の襲撃です」

「魔導師の襲撃?」

 直接呼ばれただけあってそれなりの覚悟をしていたが、随分と物騒な話題だ。

「ええ。管理局が長年捜査しているあるロストロギア───貴女達が回収していたジュエルシードと同レベルで危険性がある遺物、闇の書が起動した可能性があります」

「闇の書…それはなんですか」

 フェイトが問いかける。

「今の段階では古代ベルカ───古代で使われていた遺物の一つであるというぐらいしかつかめていないわ。ただ、ジュエルシードは魔力を暴走させるものだけであったのが、闇の書は時代を渡り歩き様々な魔導師を契約者として他の魔導師のリンカーコアの魔力と魔法を目当てにし、蒐集・完成させることで契約者に莫大な力を与えるといういわくつきの代物です」

「またですか…」

 ───聖杯戦争といい、繰り返す四日間といい、ジュエルシードといい、闇の書といい、私はどうも願望器もどきの騒動に巻き込まれすぎではないかと思う。

「力を与える…それだけで済めばまだいいのかもしれないですが、そこからが問題で…」

 彼女は大きなため息をついたことからその先の言葉が容易に想像できた。

「要するに、完成すると災害が起こる───そういうことですね?」

「ええ」

 この世全ての悪(アンリマユ)を取り込んだ冬木の大聖杯レベルの話になった。

「問題は複数あって、まず闇の書は自己再生と転生機能があること。つまり、私達魔導師が高火力の魔法で破壊しようとしてもあっけなく再生されてしまうし、宿主が亡くなった場合は転生して別の宿主を探す。そしてリンカーコアから魔力を奪われた魔導師は最悪死亡することもあります。つまり、蒐集だけではなく死人が出ることもありうるということです」

 ───厄災だけではなく人死がでるなんてますます放置できないではないか。

 そこで彼女の意図が理解できた。

「つまり、なのはに闇の書に関連する事件解決を管理局として依頼したい…そういうことですか」

「ええ、本当に申し訳ないのですれど…。本来は私達管理局だけで解決すべき問題なのですが、先程も述べたように闇の書を止めるには様々な障害があります。完成し、暴走した場合は艦載砲で直接破壊しなければならない可能性も出てきます。それは避けたいと思っています。ならば貴女の使う『魔術』が少しでも解決に役に立つのなら…手段はあまり選んでいられないというのが本音です。最悪の結末を避けるためにも」

 彼女としても、PT事件の二の舞い…すなわち子供である高町なのは(わたし)に頼ることは出来る限り避けたかっただろう。だが、今まで管理局が取ってきたやり方では上手くいかなかった。リンディが藁にもすがる思いで私を頼ってきたのもよくわかる。

「───わかりました。その依頼。受けます」

 どうせ乗りかかった船だ。自分が乗っている船が沈みかけているなら全員は無理でも、できるだけでも救うことぐらいならできるだろう。ならば『正義の味方』として、私にできることをするまでだ。

 

 アースラから帰還した私達をいつものメンバーが出迎えた。

「おかえり、なのは」

「なのはちゃん、おかえりなさい。話ってなんだったの?」

 すずかとアリサ・バニングスが尋ねてきた。

「今から話すね。もしかしたらなのはだけで済まないかもしれないから…」

 私はリンディから聞かされた闇の書について、及び守護騎士であるヴォルケンリッター達の活動が確認され、魔導師である私やフェイトが狙われる危険性があることを話した。

「プレシアさん、ベルカ式魔法ってどんな特徴があるんですか?」

 とりあえず魔導についてはまだまだ新米である私はミッドチルダ式との違いをしっかりと知らなければと思い、専門家であるプレシアに尋ねる。

「昔に途絶えてしまった魔法体系なので断片的な話しかできないけど、私達が使うミッド式と違って対人相手に特化しているというのが特徴としてあげられるわね。更に、カートリッジシステムといって一時的に莫大な魔力を魔導師に与えることができたりもするみたい」

「なるほど…。となると一筋縄ではいかない、ということですね」

 対人相手に優れているとなると、最も使い慣れた魔術を戦闘時の第一選択に据えたほうがいい場合もあるということになる。

「闇の書、聞いたことあるね。かなり厄介なロストギアだ」

「ユーノ君も知ってたんだ。となるとますます解決しなきゃだなあ…」

 とそんなことを話していた私へある少女が声をかけた。

「あの、なのはちゃん」

「どうしたの?」

 そういえばいない間に飲んでていいよと出しておいた紅茶が無くなりかけているから新しいのがほしいのだろうか、なら入れなければと思った瞬間、まったく予想外の言葉が彼女から紡がれた。

「私、魔術師になれないかな?」

「え?」

 ───何を言っているんだ、この子は。

「私ね、ほら…前にも話したけど夜の一族だから、もしかしたらなのはちゃんみたいに魔術を使えるんじゃないかなって思って」

 冷静になって考えれば、彼女の言うことも最もだ。

 彼女の言う、夜の一族───すなわち吸血鬼が魔術を行使できないなんてことはない。紅い月のブリュンスタッドに噛まれ死徒となった第二魔法の使い手である大師父がいい例である。

 だが、彼女が考えている以上に問題のほうが大きいのも事実だ。

「───すずかちゃん、殺されたり死ぬ覚悟はある?」

 だから私は彼女へ問いかけた。

 こればかりは避けて通れない…魔術を使う者が通らなくてはならない道だ。

「えっ」

 唐突な言葉に彼女の顔がひきつった。

 魔術は基本的に等価交換で肉体に負担がかかる。

 この前の事件後の筋肉痛などいい例だ。私もいつ、母譲りのこの栗色の髪や瞳や肌が投影の反動で色素が抜け落ち皮膚が焼けるか不明だと思っている。

「魔術ってのはね、魔術回路…簡単に言っちゃえば魔力の神経と電気コードなんだけど、それを作る時に死ぬこともあるしその制御を間違って死ぬこともあるの。それにすずかちゃんは吸血鬼、それだけで魔術師にとっては根源に至るための格好の研究材料になる。だからすずかちゃんが私が知らない魔術師に実験の材料としてさらわれることもあるかもしれないよ」

 後者については嫌というほどそんな事例を目にしてきた。あの性格はともかく遠坂のような良心的な魔術師は基本的には少ないのだ。

「そんなっ!?でもそれじゃなのはちゃんは───」

 アリサとフェイトもはっとしている。魔力の反動を実体験として身に刻まれたプレシアは顔を伏せる。

 自分も初めて干将(かんしょう)莫耶(ばくや)を投影をした時は半身を持っていかれたし、最後は封印指定執行者に追われていたのだ。

「私はたまたまうまくいってる…けど、それもいつかは……」

 髪や瞳の色が抜け落ち、肌が焼けた晩年を思い出す。対魔力といった何かしらの反動を抑える術がなければ、いつかは死んでしまう。

 それならまだいい方だ。生きたままサンプルとしてホルマリン漬けにされたすずかなどできれば見たくない。

 ───けど……それでも魔術師になりたいと言うなら、私は止めるべきじゃないとも思った。彼女が自分でそうなりたいという美しい気持ちを私のエゴで否定することもできない。

「それでも魔術師になりたいと言うなら、なのはが協力するの。決断はいつでもいいよ。その時になったら言ってね」

「わかった」

 

Interlude

 

 部屋の主は、自身の使い魔達から報告を受けていた。

「闇の書の契約者である八神はやての様態が悪化し、ヴォルケンリッター達が魔導師からの蒐集を開始したことを確認しました」

「───わかった」

 男の目は葛藤、悲しみや嘆きなど様々な感情が宿っていたが、やがて決断をした。

「では引き続き彼らの動向を監視、闇の書を確実に完成させるように。管理局や関係者が蒐集の阻止をする場合、妨害工作を行ってくれ」

「承知しました」

 命令を受けた使い魔は転移魔術で消えていった。

 一人だけになった空間には一つのため息が響き渡った。

 

Interlude end

 

 すずかの予想外の志願から一週間経ったある日の放課後、私の部屋にすずか、アリサ、フェイト、アリシア、プレシアが集まっていた。

 まず制服を脱いだ彼女の体に軽く解析の魔術をかけて魔術回路の有無を確認する。眠ってはいるが魔術回路は存在するようだ。

「本当に、いいんだね?」

 最後の意思確認をした。

「大丈夫。私はお姉ちゃんとなのはちゃんを守る力がほしい」

「それじゃあいくよ?すずかちゃんが我慢できても、体や回路に問題があったら止めるし、魔術師になるのは諦めてね」

「うん」

 すずかがゴクリと息を呑む。

「回路を開く時、かなりの痛みがあっても我慢してね」

 私は回路に魔術を流し、彼女の眠っている回路に少しずつ探るように魔力を流していく。

「い…た……いぎ!?あ!あ!!!!」

 彼女の顔が苦悶に歪む。

 止めるべきかと思いながらも、ゆっくりと慎重に、解析魔術で彼女のバイタルや内蔵、回路の状況などを丹念に確認しながら魔力を流し、眠っている回路を起動する。

 錆びつき眠っているいる回路を呼び覚ますには本来は十分な鍛錬がいるのだが、必要もないのに何回も魔術回路を構築するという血反吐を吐くような強引なことばかりをしていた私はあいにく正しい魔術回路の鍛錬の仕方や開き方といった手順をよく知らない。なので、今回はこうしてむりやり外部からすずかの体内に眠る回路に魔力を流して私が構築することになった。

 自殺もどきのことをしていた私も人のことは言えないが、構築時が最もリスクと反動が伴う。

「大丈夫、もうすぐ回路が作れるから、もうちょっと我慢して」

「いたいいたいいたい…!!!!あああああああ!!!!!」

「もうすぐ…もうすぐなの……」

 あまりに酷い彼女の様子を心配した周囲が本当に大丈夫なのかと口にしようとした瞬間、構築は終了した。

「はい、もう終わり。大丈夫だよ、すずかちゃん」

「はあ……はあ…終わったの?」

 全身汗だくになった彼女が聞いてきた。

 ざっと見たところ彼女の魔術回路は15、混血のため魔術師としての能力は薄れているためか回路の数は多くはないが彼女は吸血鬼として抜群の運動神経があるので後は訓練次第でなんとかなるだろう。

「うん。とりあえず麻痺や壊死があったりするかもしれないから、一週間ほどは様子を見てね。何かあったらすぐに私に相談して」

「麻痺なんてあるのね」

 アリサが尋ねてきた。

「うん。なのはも、眠っていた回路が驚いたから胴体が七センチ中よりにずれて半身が麻痺しちゃったよ」

 あの時は家の皿を落としてしまったりしてけっこう大変だった。

「───ん?ちょっと待って壊死って…!本当に大丈夫なんでしょうね」

「まああの時は大丈夫だったし、今なら遠坂の宝石魔術には及ばないけど治癒魔術とかも使えるから」

「それならいいんだけど…」

 その様子を見ていた幼い少女が立ち上がった。

「私もマスターの役に立ちたいです。だから私も魔術師にして下さい!」

「───え?」

 まさかの発言に流石に一瞬自分の耳を疑った。

「えっとアリシアちゃん?魔導師になるのはともかく、すずかちゃんにも言ったけど魔術師になるのは危険なことなの。特にアリシアちゃんはすずかちゃん以上に魔術師になるのは危険なことだよ」

 魔術師は起源によっては怪異を呼び寄せるだけではなく、その不可思議な力を解明するために命を狙われることもある。彼女は魔術師になる以前に蘇生者という特異すぎる存在だ。それだけでもすずか以上に魔術師に生きた標本として狙われる可能性がある。

 私の庇護下に居る限りは彼女の安全は保たれるだろうが、それがなくなれば自分の身を自分で守らなければならなくなってしまう。

「それでも、私は皆んなの涙を止めるためにお姉ちゃんやマスターと一緒に頑張りたいです」

 今の彼女はサーヴァントであり、私の左手には三画の令呪がある。だからアリシアの願望は容易に実現可能であるのも事実だ。

 令呪の使い方はなにもマスターがサーヴァントを律したり命令したりするだけのものではない。聖杯戦争の時にセイバーを学校へ瞬時に呼び寄せたり、繰り返す四日間で冬木大橋からセンタービルまでの四キロの距離を一直線に跳ばせるためにサーヴァントへ莫大な魔力を提供するといったことも可能なものだ。

 ───ならばリンカーコアの生成と魔術回路の同時構築などという不可能を可能なことにすることもできる。だからアリシアの体を自身のように魔術師兼魔導師にすることも可能であった。

 魔導師として必要なインテリジェントデバイスはアースラで用意してもらえばいいだろう。

 あとは保護者の同意さえあれば、構築はすずかよりも簡単だ。

「どうしますか、プレシアさん?」

「───親としては危険だから止めたいのですけど…。この子が決めたのなら、私は構わない」

 一度失った子とはいえやはり親か…。

 判断を求めたほうが間違っていたかもしれない。

「うーん、わかったよ。でもこれからはなのはとかと自分の身を守る練習をすること、なのはの言うことはちゃんと聞くこと、危ないと思ったらなのは達を置いてでもすぐに逃げること、当分の間は幼稚園以外でお外に出る時はなのはかフェイトちゃんかプレシアさんの側から離れないこと…かな。とりあえずこれを守れるならアリシアちゃんのその願い、叶えてあげるの」

 幼稚園の護衛は令呪があるとはいえ限りがあるので手が空いている局員に任せるか…。

「マスターとの約束は絶対に守ります。だからよろしくお願いします」

 ───即答か。

 芯の強さはマスターである自分譲りなのだろうかと思いつつ根負けしたので使用を決めた。

 魔術回路に魔力を流して左手をかざして命令の言葉を紡ぐ。

「聖杯の誓約に従い、アリシア・テスタロッサのマスターが命じる。自身の体にリンカーコアと魔術回路を構築せよ!」

 令呪によりアリシアの目が虚になり、サーヴァントとして肉体の一部を構成していた膨大な魔力が空中に出され、胸に集中する。その魔力の集合体が胸の前へ移動し眩いリンカーコアが形成され体内に埋め込まれる。

 同時に身体中に魔力が走り網の目のようになって魔術回路が構築されていく。その様子をプレシアとフェイトは固唾を飲んで見守った。

 特にプレシアは魔術の想定以上の力に腰を抜かしていた。

 魔力の嵐で部屋の様々な物が散らかった後、ようやっと正気を取り戻したアリシアは自分の胸に愛おしそうに手を当てる。

「胸に魔力の塊のようなものを感じます、マスター。ありがとうございます」

 とりあえず成功のようなのであとでクロノとエイミィに連絡して彼女用のデバイスを用意してもらおうと思った。

 

 ───魔術回路の構築から二日後。

 私の部屋にはすずか、プレシアとアリシアが集まっていた。

 フェイト達は私と分かれてアースラで魔導師の襲撃事件についての捜査に加わっていた。

 まずはまだ全身に少し痛みがあるというすずかの体を魔術で検診する。丹念に解析をした結果、壊死などはなかったのでおそらく急に魔術回路の構築をしたことで回路が驚いている状態であろうと思った。

「体調の方は問題ないよ。たぶん、錆びついてた回路が開いたからびっくりしちゃったんだと思う。数日は痛いかもしれないけど、ひどくならなければ平気」

 彼女は制服を着直しながら答えた。

「うん、わかった。ありがとうね」

 半身がずれているといった私のようなことではないのでこれならそんなに遠くないうちに戻るだろう。

 アースラから彼女のためにインテリジェントデバイスが届いたアリシアへの魔導的な指導はプレシアに任せ、私はすずかの体に開いた魔術回路が馴染むまで座学で魔術の基礎体系を学ばせるつもりであったのだが…。

「なんでなのはは伊達メガネをかけなきゃいけないのかな…」

 私は黒のフレームではなく赤のフレームだが師匠モードの遠坂みたいなことをさせられていた。

「なのはちゃん、メガネも似合うかなあって…」

「まったく遠坂じゃないんだから」

「え?」

「───遠坂もね、私に何か教える時によくメガネをかけてたの」

「へー、凛お姉ちゃんがそんなことを。ふむふむ…」

 とりあえず衛宮家にいつの間にか持ち込まれていたホワイトボードはないので、適当なスーパーのチラシの裏に鉛筆で書きながら説明をすることにした。

「まずは魔術師のエネルギー源、魔力についてから始めようか。魔導師は魔力はリンカーコアの中にあるエネルギー、そしてそれをインテリジェントデバイスで使うとしてしか考えないみたいだけど、魔術師は違うの。魔力は体内にあるのをオド、自分の外側…つまり大気とか地脈、簡単に言えば地中にある魔力の流れなんだけどそれをマナと分類していることがまず大きな違いかな。基本的に、オドを魔術の行使に使うの。だからいくらでも使えるってわけじゃないの。使ったらその分回復を待たないといけない…ゲームで言うところの自然回復するMPみたいなものかな。ただ、遠坂みたいに魔力を外部…アイツの場合は宝石に蓄えたりすることもできるよ。宝石魔術はものすごくお金がかかるからオススメは全くしないの。あとは魔力のパスを繋げたりとか。これもオススメはしないけど…」

 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト(ほくおうのなりきんしょうじょ)のようにバカスカと宝石を使うのも、赤い守銭奴(とおさか)のように宝石の確保のために年中質屋流れの宝石を探したり金策に走ったりするすずかという姿も想像できないけど。

 特に後者はすずかと直接肌を重ねる必要がある。

 私は残念ながらロリコンではないしすずかも恥ずかしがると思うのでその方法は却下だ。

「ふむふむ…」

 すずかは可愛らしいノートに熱心にメモをとっていた。

「なるほど。魔術師は魔力をそのように考えるのね。参考になるわ。あと、私の傷を治した時に遠坂さんが宝石を持ってたのかもそういうことだったのね」

 プレシアもあの時を思い出しながらなるほどといった様子でうなずいた。

「そうなんです。それで、そのオドを魔術回路…この前開いたコードに流して呪文を唱えることで魔術や呪詛は始めて行使できるの。魔力はこのパソコンを動かす電気、魔術回路はパソコンのコードと基盤って考えてもらえばいいかな」

「そっか!回路と演算機みたいなんだね」

「大雑把に考えればそんな感じなの」

 例え方が機械が好きなすずからしい。

「あとは必要な触媒とかを使うときもあるよ。例えば血とか髪の毛。すずかちゃん、女性の魔術師にとって髪の毛は資本だから大事にしてね」

「体液とかは無線LANみたいな感じでいいのかな?うん、髪の毛はできるだけ切らないようにするね」

 私も、魔術師になると決めてから髪の手入れにはかなり気を使っている。遠坂や桜、イリヤもかなり入念に手入れをしていた。

 ちなみにいつもヘアゴムを変えずにいるのも、オシャレをサボっているわけではなくこれが魔力を貯蔵する役割を兼ねたりするからだ。

「あと、古代の文字を描くことで魔術を行使することもできるよ。それがあの猫さんの事件の時に置いてもらった紙に使ったルーン魔術」

「あの紙なんか変な文字みたいなの描いてあったね」

 彼女は思い出したように手を打った。

「そう、それだね」

 とこんな感じで彼女たちに魔術の基礎を教えていくことになった。

 

 ───ずずかとアリシアに魔術回路を構築してから一週間後。

 また三人が私の部屋に集まった。

 もう一度検診をした結果、痛みも引いたらしくだいぶすずかの魔術回路が体に馴染んできたようなので、今日からは座学だけではなく実践的な魔術の訓練を始めることとなった。

 こういうときに関しては時計塔の天才である五重属性である遠坂やあの小学生の情操教育に悪い時計塔の名物教授の方が遥かに指導に適しているだろうが贅沢はいっていられない。

「じゃあまずは魔術回路に魔力を流したり止めたりするのを練習しよっか。これが自在にできるようになればまずは第1段階」

「えっと、魔術回路はコードだからパソコンのスイッチのオンオフでいいんだっけ?」

「そうそう、そんな感じなの。一度構築した回路は閉じなくてもいいから、イメージはコンセントにコードを繋いだ電気製品の電源を入れるか入れないかでいいと思う。私は回路を開ける時は撃鉄を下ろすイメージをしているけど、起動するイメージは二人の好きなものでいいよ」

「わかりました」

「はーい」

 アリシアとすずかが元気よく返事をする。

 二人の飲み込みはかなりいいほうなので、実践も予想より早く進むかもしれない。

 

 そらから更に数日後。

 私が投影で用意したガラスのコップをシートの上でわざと壊した。

「じゃあすずかちゃん、教えたとおりにしてみて」

「うん───Minuten vor schweisen.」

 ナイフで指先を切ったすずかの血がついた割れたガラスが詠唱を唱えた途端、時間を巻き戻したように戻っていく。

「すごいわね…。全体の時間を巻き戻しているわけじゃないんでしょう?」

「ええ」

 修復の魔術はうまくいっている。順調だ。

 悲しいかな、属性と起源が剣で固定されてしまったため、どこの流派でも教えるそんな初歩の初歩もできなかったのが過去の私なんだが…。

 

 そうして、月村すずかとアリシア・テスタロッサの二人の新米魔術師の面倒を見ながら私は闇の書事件の解決に奔走することになった。




 なのはちゃんは闇の書事件の解決に向けて、二人を指導しながら動き出すことになりますが、そこに赤い少女の魔導師が立ち塞がることになり…。
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