特異点D・S 『赤色分断大地北海道~未完の平和~』   作:あわじまさき

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第二節「将軍」

二〇〇一年八月二六日

八雲町付近・北海道 

 

 数時間後、彼女たちは車上の人となっていた。 塹壕から這いだした後、陸自もサーヴァントの扱いに困ったのか藤堂とともに函館へ行くように勧めてきた。

「こんなことになって悪いね。まさか救難ヘリも来てくれないとは」

藤堂は呆れるように言った。彼は立香たちの函館行きに賛同し、自分を捜しに来るであろう救難ヘリでひとっとびだと請け負ったのだ。しかし救難ヘリは来なかった。塹壕を受け持っていた中隊司令部で函館へ連絡を取り、五体満足だと伝えるとそうか、なら新幹線で帰ってこいとそっけない返事が返ってきた。

「俺が負傷でもしてると言っておけばよかったんだ」

「藤堂さんのせいじゃないですから」

立香は気を使って言ったが実際のところ原因は逼迫する戦況にあった。ほとんどのヘリが、前線への輸送と負傷者の後送に使われており、空自救難隊のヘリの一部もそちらへ振り向けられている有様だった。本来のサーチ&レスキューをするヘリが限られている中で、自分で連絡してくるようなパイロットに差し向けられている余裕はなかった。もちろん藤堂機の撃墜を確認した後に発進はしているのだが、連絡を受けて当該機は噴火湾に落ちたパイロットの捜索に振り向けられた。 

「これがシンカンセンというものですか・・・・・・」

アルトリアが車窓を熱心に眺めている。しかし窓の向こうに流れる景色のほとんどがトンネルだった。

 彼女たちはあちこちに被弾のあとが残る長万部駅からこの高速列車にのった。どこか犬を思わせる外観をもった車両で、窓の下に紫の帯がのびており、それを境に上半分が白、下半分が暗い青で塗装されていた。駅の路線図によれば、この新幹線は札幌から函館へ、さらに津軽海峡を渡って本土までつながっているらしかった。戦時である現在は、長万部を北端として運行されているようで、乗客はもっぱら自衛隊員と空になった何かのケースばかりだった。

 これらは二〇〇一年の北海道にあってはならないものであるはずだった。立香の知る限り北海道新幹線は二〇一六年に開業し、いまだ函館以北は建設中なのだ。

 しかし立香が今乗っている列車は、特異点となったのちに聖杯や魔術で生み出されたとは思えない。この世界に対する疑念は積み重なっていくが、いまだにカルデアとの通信は復旧しなかった。

 列車はもう一五分ほどで新函館駅に到着するとのアナウンスが入った。この分だと函館もどうなっているかわからない。ひとり不安を高めていたそのとき、隊員から歓声がわき起こった。デッキと客室をつなぐドアが開いて、ひとりの男が入ってきたのだ。

「マスター、サーヴァントです」アルトリアが耳打ちをする。ロンゴミニアドこそ出していないものの、いつでも戦闘に入れる体制を整えていた。

「あの人が・・・サーヴァント?」

座席から乗り出して、よく観察した。

 年齢は五〇代ほど、少なくとも日本人ではなかった。男は自衛隊員とはまったく違った茶色い軍服をまとっていた。腰には拳銃がはみでたホルスターを下げている。彼は黄色く汚れた歯をむき出しにしながら笑顔で自衛隊員たちと握手を交わし、優雅とさえ思える足取りでこちらに近づいてきつつあった。

「万が一ということもあります。私の後ろへ」

「おい、どうしたんだ。君たち」藤堂がアルトリアの険しくなった表情をみて困惑する。

 男はついに彼女たちの前まできた。

「君たちは・・・・・・」

男は口を開いた。すでにサーヴァントだと気づかれている。アルトリアと藤堂が言い出す前に、立香が口を開いた。

「私はカルデアのマスター、藤丸立香。彼女は私のサーヴァント・ランサー」

男は立香を見据えた。そして右手を拳銃のグリップの上に置き、歯をむき出しにして笑った。

「サーヴァント・ライダー。真名は隠しちゃおらん。俺はジョージ・パットンだ」

「パットン?」

立香には聞き覚えなのない名前だった。

「パットン将軍を知らないのか?!」

藤堂がすっとんきょうな声をあげた。

「日本史でならっただろう?最後のGHQ司令官で北海道戦争の時の国連軍司令官だぜ?」

立香が知っているGHQ司令官はマッカーサーだった。それを伝えると怪訝な表情で

「マッカーサーなんてマニアックな将軍の名前をよく知ってるな。たしかレイテで死んだはずだよ」

やはりこの世界は私たちの世界とは根本的に違う。立香は確信した。

「失礼しました。将軍」

「マッカーサーより知名度が低いのは不満だが、謝ることはない」

それはともかく。とパットンは前置きした。

「長万部に新たなサーヴァントが召還されたことは聞いていた。とりあえず俺と一緒に方面隊司令部に来るのがいいだろう。状況を説明しやすい」

混乱と疑念が深まるこの世界の把握のためには願ってもない話だった。

「どうするアルトリアさん」

「マスターの命じるままに。私から申し上げるならば、司令部には情報が集約されているはずです。この特異点の原因を探るにはよい場所かと」

「なら将軍の言うとおりに司令部まで行ってみようか」

 トンネルを抜けると、田園のあちこちに対空陣地が構築されているのが見える。そこもまた戦場だった。

 

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