プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

■デザイン協力 
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
ねむのと 9 twitter @noto999
おにまる 10 twitter @onimal7802
アマニア 7 twitter @amania_orz
いなり 8 twitter @inr002
センチネルブルー 6 twitter @sentinel_plesix

※Pixivにも投稿しています。


第01回「巨人が目覚めるとき」

      プロローグ

 

 

 その機体は人の心を不安にさせるほどに巨大だった。

 標準的なマシーンであれば十数機を収納できるスペースを占有しているさまは異様で、狭い檻に閉じ込められた巨獣のような姿は、それが既存の枠組みを超えた怪物であることを容易に想像させた。

 だが、格納庫に足を踏み入れたパイロットは機体の大きさに怯まなかった。

 

「フン、使える機体なんだろうな?」

 

 ライトグリーンに塗装された機体は全長四十二メートルもの大きさで、“モビルスーツ”と呼称される人型マシーンの中でも最大サイズを誇っている。本体重量は百四十トン、ジェネレーター出力は二万キロワットを超え、ロケットバーニアの推力は三十万キログラムに達する。標準的なモビルスーツの十倍にも値する数値は、すでに物理的限界に近づいていた。

 

【挿絵表示】

 

 正式名称NZ-000《クィン・マンサ》と呼ばれるモビルスーツがこれほどの大きさとなったのは、極限の攻撃力と防御力、機動力を追い求めたからだ。コンセプトは、巨体に備わった圧倒的な攻撃力で敵をせん滅すること。武装や装甲は強力無比で、比類する機体は存在しない。反面、重量がありレスポンスが悪いので、パイロットは相応の負担を強いられる。加えて脳波でコントロールする遠隔操作兵器も搭載されているので、すでに常人に扱えるマシーンではなくなっていた。

 だが、大きければ良いという短絡的思考は、断じて否定されなければならない。様々な機能を盛り込みすぎて肥大化し、結果として使い物にならなくなってしまったマシーンは数えきれないほどあるからだ。 

 

「あまり手間をかけさせるなよ」

 

 図体ばかり大きくても、中身が空っぽでは役に立たない。その言葉はまるで幼児に向けられたものに聞こえたが、事実このマシーンは産声をあげたばかりだ。ところどころ金属フレームが剥き出しとなっているのは、未だ機体が完成していないという証拠で、機体の発進準備を整えるために何人ものメカニックが機体に張り付き、慌ただしい作業が行われていた。

 喧騒の中、パイロットは床を蹴ると、鮮やかな橙色の髪をなびかせて、マシーンの頭部に向かって真っ直ぐに飛翔した。

 この機体はコクピットが頭部に位置している。巨大な胴体には、高出力の核融合炉とそれに直結した強力なビーム兵器『メガ粒子砲』が納められているので、必然的にコントロールユニットは頭部に集約されているのだ。

 手元のコントローラーを操作すると、マスク部分にあるハッチが顎のヒンジで前方に展開し、全天周(オールビュー)モニターを備えたコクピットへの入り口が露になる。ひさしに手をかけて勢いを減じ、身をひるがえすようにして中に入ると、そこはいかにも試作機といった様相だった。むき出しのコードが這いまわり、雑多な計測機器が無造作に設置された空間は、機器が発する単調なリズムと相まって、まるで研究所の実験室を想像させた。苦労してコードを避けてシートに腰を下ろすと、それに反応してHUD(ヘッドアップディスプレイ)が自動的に起動して立ち上がった。

 

【挿絵表示】

 

 

「システム・オンライン、メイン・エンジン起動」

 

 周囲にそう宣言すると、コンソール・パネルを操作して起動手順を開始した。すぐさま機体から低い唸り声があがり、主動力炉であるミノフスキー・イヨネスコ型核融合炉の力強い鼓動が格納庫に響き渡る。機体全体に電力が供給されると、頭部の人間を模したツインアイが鈍い音とともに点灯した。

 巨人が眠りから目覚めたのだ。

 

「操縦系や兵装コントロールのインターフェイスはキュベレイに合わせてあります」

 

 機体の最終確認を行っていたメカニックが、外からコクピットを覗き込み話しかけてくる。彼は機体のことを良く知ってはいたが、実際に操縦するパイロットの口から直接意見を聞きたいのだとわかった。

「助かる。あのマシーンにはいちど乗ったことがあるが、慣れたリニアシートの方がいいな」

「こいつは、基本的にはサイコガンダムをベースとしてキュベレイの設計を取り入れたハイブリッド機だといえます。システムをうまく融合させるのに苦労しています」

「女王だなんて、偉そうな名前を誰が付けたんだ? 名前で強くなるなら苦労しないんだよ」

 

 思わず口をついて出た皮肉にメカニックが苦笑する。

 

「サイコミュの調整にも時間がかかっています」

「それはあたしの問題だね。脳波とサイコミュをマッチングさせるのは手間がかかるんだ」

「ですが、それだけの価値はあります。これは必ず良いモビルスーツになりますよ」

「でないと予算の無駄遣いさ。……よし、テスト飛行を開始するぞ。モニタリングを頼む」

「了解」

 

 メカニックが機体から十分に離れたことを確認してからコクピットハッチを閉鎖する。分厚い装甲が固定された重厚な音がして、ハッチは機体と完全に一体となった。

 

『パイロット搭乗! メカニックは格納庫から退避。ブリッジに知らせろ!』

 

 発進準備が整ったことがブリッジに報告された。ほどなくして格納庫からの退避を促す警告ブザーが鳴り響き、ノーマルスーツを着ているカタパルト・オフィサーだけが残った。金属が擦れる摩擦音とともにロックが外れ、巨大なハッチがゆっくりと開放されていく。排気ガスや機械油、化学薬品などの臭いが入り混じった澱んだ空気が吐き出されると、格納庫は漆黒の宇宙とつながった。

 あとは発進許可を待つだけだ。そう、発進のタイミングが重要なのだ。

 

「それにしても航行中にテストとはどうかしてる。上の連中の考えてることはわからないな」

 

 新型モビルスーツを開発するには、スケジュールがあまりにタイトすぎる。無論、機密性ゆえの圧縮されたテストだということは理解しているが、時間が短いので消化できるテスト項目が限られてしまうのは問題だった。

《クィン・マンサ》が搭載されているのは、ネオ・ジオン軍が独自に建造した大型艦艇《グワンバン》である。《グワンバン》はネオ・ジオンの旗艦として設計され、全長四百十五メートルもの巨体を誇る、文字通りフラッグシップに相応しい宇宙戦艦だ。

 いま《グワンバン》は、旗艦に相応しい任務として、サイド3『ジオン共和国』への要人移送を遂行中だった。小惑星『アクシズ』を本拠地とするネオ・ジオンとジオン共和国とは、元は一つの国家であり、袂を分かった同志だともいえるのだが、いまはその関係を修復する歩み寄り(デタント)が進められているのだ。

 首脳陣同士が会談し、両者の譲ることのできない主権、軍事、経済について妥協点を探りながら、お互いに利害が一致する目標に向けて擦り合わせを行う。小惑星アクシズを本拠地とするネオ・ジオンは、巨大な地球連邦に対抗する軍事、経済同盟を一刻も早く締結したいと考えている。その意味で、この軍艦がもたらす外交は国家の運命そのものだった。それほど政治的に重要なのだ。

 と同時に、新型兵器《クィン・マンサ》のテストが、この航海を利用して秘密裏に実施されている事実は、やはり最後に頼るのは外交ではなく軍事力だと考えるアクシズの本音を表していた。宇宙世紀を支配してきたのは、言葉よりも力なのだ。

 今回のテストは航路の途中で実施される予定で、カモフラージュされた試験には機密を保つ意味があった。ネオ・ジオンでも《クィン・マンサ》を知るものは限られていて、開発プロジェクトそのものが機密扱いなのである。だから、すべてにおいて複雑な秘密保持手順(プロトコル)が適用され、パラノイア的な機密確保が行われていた。

 

「面倒なことは嫌いだね……。ブリッジ! 早く発進許可を出さないと勝手に出ていくよ!」

『いま周囲をスキャン中だ! もう少し待ってくれ!』

 

 もどかしいほどにセンサーやレーダーによる走査が念入りに行われ、周囲を航行する艦船や民間船がいないことが確認された上で、ようやく発進許可が与えられた。

 

『クイーン1へ。オールクリアーだ。発進を許可する』

「了解だ」

 

 カタパルト・オフィサーの合図とともに格納庫から接続アームがせり出し、巨大なモビルスーツを宇宙空間に押し出した。そしてアームが完全に展開すると《クィン・マンサ》はグワンバンと並走する形となった。

 

「メイン・スラスター起動。燃料供給システムに問題なし、点火する」

 

 フットペダルを踏み込むと、ただちにメイン・ロケットブースターに火が灯された。プロペラントタンクから供給された推進剤と酸化剤が燃焼室で混ぜ合わされ、それが核融合炉が放出する莫大な熱によって膨張すると、圧倒的な推進力となって宇宙空間に放出されるのだ。

 巨体はわずかに震え、次の瞬間唸りをあげて凄まじい加速を開始した。

 

「ぐっ……」

 

 急激なGにシートに身体を押し付けられて、思わず呻き声をあげる。これほどの加速を感じたことは、これまでになかったことだ。

 

「フン、いい加速だ! あとは、こいつがどれほどの攻撃力を持っているのか……見せてもらうよ!」

 

 操縦桿をひねり、グワンバンから離れてテスト・フィールドへと向かう軌道をとる。与えられた新兵器に心が湧きたつのを感じた。生まれながらの兵士である自らの闘争本能を、これ以上ないほどに表現できるマシーンだということが分かるのだ。

 《クィン・マンサ》は、漆黒の宇宙空間を青白いバーニア光で切り裂きながら飛翔する。秘密裏のテストではあっても、こそこそと隠れるようなことはしない。なにより小賢しい策を弄することは好きではない。

 

 ネオ・ジオン親衛隊隊長であるプルツーは、自身の精神の高揚を表現するかのように《クィン・マンサ》を全開で機動させた。

 

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