プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち 作:ガチャM
舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。
キャラクター、設定協力は、かにばさみさんです。
※Pixivにも投稿しています。
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プルフォウは、妹のファイブが戦闘で重傷を負ったことにショックを受けてしまった。開発を担当しているAMX-004G《量産型キュベレイ》の生産が遅延しているせいで、ファイブは性能に劣る《ガズアル》を使用しなければならなかったのだ。姉妹たちの命を守るために、可能な限り高性能な機体を用意するのは自分の責務なのに。
もちろん全力は尽くしているが、製造スケジュールはかなり遅れていて、《量産型キュベレイ》は先行量産型の三機が完成しているだけだ。しかもその三機でさえ、自分がテスト中に全損させた機体を
彼女は待機室にいると聞いたので、格納庫の近くにあるその部屋へと急いで向かった。妹のシックスは、軍事作戦や開発プロジェクトの管理業務で常に忙しい。優秀で真面目な彼女は、そうした仕事に長けているから管理を任されているのだ。
待機室にたどり着いて中を覗くと、シックスはひとり座っていた。いつものように戦術ヘッドセット用の通信マイクを身に着けているが、珍しく仕事用のコンピューター・パッドではなく、まるで違うものを手に持っている。それは何か古いアンティークのようにも見えた。
「シックス、いま忙しい?」
「フォウ姉さん」
声をかけると、手元を見ていたシックスは顔をあげた。
「ファイブ姉さんのことですか?」
「ファイブは大丈夫なの?」
「はい。重症ですが、命に別条はありません」
「そう……良かった」
無事だと知ってはいたが、あらためて言葉で聞くと安心する。たとえ強化人間やニュータイプが以心伝心のようなことができるとは言っても、頭に入ってくる情報だけでは落ち着かないのだ。
「でも、しばらくは安静にしていなければならないでしょうね。頭を強く打っているんだから」
「そのとおりです。入院の手続きなどはスリー姉さんが進めています」
「スリー姉さんに診てもらえば安心ね」
姉のプルスリーは医師の資格を有していて、姉妹全員の健康管理を担っているのだ。姉はファイブが負傷したと聞いて、すぐに巡洋艦グランドラに向かっていた。
「ファイブには、本当に悪いことをしてしまった。なぜキュベレイに乗せてあげられなかったのか……。ガズアルのリニアシートも、エアバッグ付きの新型に交換しておくべきだったのに」
モビルスーツの操縦時、衝撃でコンソールに頭や体を打ち付けてしまう事故はよくあって、重傷を負ったり死亡する原因になっている。だから最新型のリニアシートには、機体に衝撃が加わった際に大きく膨らんでパイロットを保護する、透明樹脂製のエアバッグが装備されたのだ。
「ファイブ姉さんは訓練に向かったのですから。まさか実戦になるとは誰にも予想できませんでした」
「そうだけど、姫さまの操縦訓練のときだって、いきなり実戦になったのよ。優先順位を間違えた自分に腹が立つわ」
建造中の《量産型キュベレイ》には全てエアバッグを装備済だ。シート自体の衝撃吸収機能も強化したので、安全性は飛躍的に高まっている。しかし、訓練に使用しているモビルスーツにこそ先に装備するべきだったのだ。
「フォウ姉さんが優先させるべきは、一刻も早くキュベレイを完成させることだと思いますよ」
「……」
「ファイブ姉さんもわかってくれます」
「……実はそのことで相談があるのよ」
「組み立てが遅延している件ですか?」
シックスの表情がわずかに曇る。さらに状況が悪化したのかと思ったのだろう。
「私と顔を合わせると、いつもキュベレイの話題ばかりで嫌になるわよね」
「そんなことは。でも、急いで頂ければ助かるのは確かです。スケジュールが遅れてコストもかかってますから」
「ごめんなさい」
サイコミュを搭載した特殊なモビルスーツゆえの、複雑な製造工程とたび重なる仕様変更、部品の供給不足。製造遅延には様々な要因があるのだが、責任者として言い訳はできないので、ただ謝るしかなかった。
「いろいろ無理なことをお願いしているのは分かっているんですが、なんとかマネージメントをしてリカバリをお願いします」
「うん……。スキルの高いメカニックをもっと増員できないかしら?」
「それは難しいですね。もちろん予算的な問題もありますが、熟練したメカニックは不足しています」
「やっぱり無理かしらね。知り合いにも聞いてみたけど、どの部隊でもメカニックは足りないみたいね」
「お知り合い?」
「そうよ」
「差し支えなければ、軽く情報を頂けますか?」
「モビルスーツのパイロット」
「ああ、お姉さまの恋人の……」
「違います!」
「ご心配なく、個人情報は口外しませんよ」
シックスはくすっと笑った。
「彼とはいい友達なんだから! とにかく、マンパワーをつぎ込めばいいというわけではないのよ、キュベレイの組み立ては」
「どのあたりが難しいのですか?」
「複雑な外装だから、組み立てに細かいところまで気を使う必要があるし、内装にしてもサイコミュの組み込みや配線がとにかく大変なの。ガザDの五倍はかかるわ」
「性能が高くても、構造が複雑すぎるわけですね。でも、何か改善できる点があるはずです」
「改善か……」
「はい。例えばアナハイム・エレクトロニクス社の組み立て工場は、製造行程がかなり自動化されているそうですね。地球連邦軍のモビルスーツは、自動化し易い構造にもなっているのでしょう」
「それはあるでしょうね。部品の共通化、ひいては生産の効率化にもつながるから」
「では時間とコストを削減するために、キュベレイをもっと生産しやすいデザインに変更できませんか? 例えば四角いブロックみたいな」
妹が真剣な顔をして言ったその言葉に思わず吹き出してしまった。
「そんな積み木細工みたいなモビルスーツはいやよ! あなた、乗りたいの?」
「もちろん私もいやです」
シックスは真面目で仕事には厳しいが、たまには冗談も言うのだ。
「でも、組み立てにも時間がかかるけれど、パーツの供給が遅れているのも問題なの。マニュピレーターばかり十機分もあるのに、モノアイは一機分しかないとかね。サイコミュなんか全く届かないわ」
このパーツ不足の問題は、地球におけるネオ・ジオンと連邦政府との交渉が決裂してから深刻になってきている。アクシズは連邦から経済制裁を受け、レアメタルや基幹部品の輸入が難しくなっているのだ。
「その問題は私も認識しています。兵站にも関わりますから、重大な問題です」
「上層部に解決策を考えてもらわないと。プルツーお姉さまも知っているの?」
「はい。ネオ・ジオン資材コマンドと対策会議を行う予定です。でも、サイコミュについては、新型のクィン・マンサの開発が優先されていることも原因かもしれません」
《クィン・マンサ》とは、軍工廠で極秘裏に設計された四十メートル級の大型モビルスーツで、《キュベレイ》タイプの発展型ともいえるマシーンだ。
「クイン・マンサか……。かなり急いで開発されているみたいね。グワンバンで秘密テストが行われたとか」
「フォウ姉さんも聞きましたか。あのマシーンのポテンシャルは凄いものです。戦闘能力は一個大隊に匹敵するだろうと言われています」
「乗りこなすことができればね」
「あれほど多くのサイコミュを搭載したモビルスーツは、おそらく隊長にしか扱えないでしょう」
「確かに。でも、プルツーお姉さまでも身体に相当の負荷がかかるはずよ。……あれは危険なモビルスーツよ」
「グレミー閣下や上層部は、あのマシーンを地球連邦軍に対しての切り札と考えているんです」
「批判はしたくないけど、それは短絡的な考え方だわ」
「ニュータイプ能力を持つパイロットと高性能モビルスーツの組み合わせは、戦局を変えるほどの戦果をもたらしたことがあります。それと同じことを考えているのでは?」
「テム・レイ博士が開発したRX-78ガンダムとアムロ・レイのことね」
「はい」
RX-78《ガンダム》とは、八年前の第一次ジオン独立戦争において地球連邦軍が実戦投入した試作モビルスーツのこと。開戦時に、ジオン公国が実用化した史上初の人型兵器《ザク》によって大打撃を受けた地球連邦軍は、対抗策として『V作戦』なるプロジェクトを立ち上げ、最新技術の粋を集めて独自のモビルスーツを開発したのだ。同じく『V作戦』で新規開発された強襲揚陸艦《ホワイトベース》によって運用された《ガンダム》は、《ザク》を遥かに凌駕する性能を発揮し、その活躍はジオン公国が地球連邦軍に敗北する大きな要因となった。《ガンダム》は、ジオンにとっては仇ともいえるモビルスーツなのである。
「ガンダムは、主武装にメガ粒子砲を小型化したビーム・ライフルを装備して、装甲材には新素材のルナ・チタニウムを採用していたから、攻撃力と防御力はザクをはるかに凌駕していたわ」
「ルナ・チタニウム?」
「月で発掘される純度の高いチタニウム鉱からつくられた合金のことよ。月ではチタン、クロム、ジルコニウムがとれるけど、月面の低重力下で合金として特殊精錬すると、とてつもない硬度になるのよ。ガンダムは、マシンガンやバズーカが直撃しても傷ひとつ付かなかったらしいわね」
「驚異的ですね」
「うん。このルナ・チタニウムからガンダリウム合金に発展したのよ。ガンダムにあやかって『ガンダリウム』ってネーミングされたんだとか」
「ああ、そうなんですね。ガンダリウム合金を採用したから『ガンダム』と呼ばれたのかと思ってました」
「それだけ衝撃的だったのね」
実はガンダリウム合金は、このアクシズで開発されたのだ。終戦後、《ガンダム》を徹底的に研究したジオン開発陣は、装甲材のルナ・チタニウムに注目し、ルナ・チタニウムを元に強度と粘り強さを飛躍的に高めた新合金を開発したのである。《ガンダム》はジオンにとっては悪魔みたいなモビルスーツだが、ブラックユーモアであえて名付けたのかは分からない。
「でもガンダムという名前の由来ってなんなのでしょう。銃のダム? 兵器を大量搭載していたからとか……」
「『ガンボーイ・フリーダム』を略して、『ガンダム』ってネーミングしたみたいね」
「えぇっ、それ本当なんですか? 『ガンボーイ』って、まるで子供のオモチャみたいじゃないですか」
「イレブンに連邦軍のホストコンピューターから機密資料を入手してもらったから、情報は確かだとは思うんだけどね。まあ、ジオンから連邦国民を解放する自由の戦士、みたいに考えたんじゃないかしら? こっちからすれば失礼な話だけど」
「なるほど……連邦軍は新兵器にかなり期待をかけていたと」
「作戦名も『勝利作戦』だしね。とにかく最新技術のかたまりなのよ。特に凄いのが自己学習する教育型コンピューターね。すでに人工知能を搭載していたんだから! 噂ではパイロットと会話したり、限定的に無人で戦闘することも出来たらしいわ」
「まさか! 無人で動くなんて、いまでも実用化されていません」
「そこが怖いところよ。テム・レイ博士の先見性でしょうね」
「そのテム博士は、いまは?」
「戦闘に巻き込まれて行方不明になってしまったらしいわ」
「そうなんですか」
「でも他の博士が引き継いで開発を継続したのよ。あの有名なモスク・ハン博士とかね。ガンダムの改修時にマグネット・コーティングを施したらしいわ」
「磁石をコーティング?」
「ハン博士が開発した技術で、可動部を磁気フィールドで包むことで、抵抗を減少させて駆動レスポンスを向上させるの。いまは標準的な技術になってるけど」
NRX-044《アッシマー》やORX-005《ギャプラン》、そして有名なMSZ-006《ゼータガンダム》など、地球連邦軍のモビルスーツには高速形態に変形する機体が多いが、わずかコンマ五秒以下で変形を可能にする性能は、このマグネット・コーティング技術があってこそ成り立つのだ。
「なるほど、当時のガンダムに採用されたのもわかります。アムロ・レイはニュータイプだと言われてますから反射神経は良かったのでしょう。私も旧式のモビルスーツをテストで操縦すると、反応が悪くてもどかしいなと思うことがよくあります」
「ガンダムはニュータイプ専用機に改修されたといえるわね。ただ開発費も恐ろしく高くて、量産するのは難しかったらしいけど」
「あ、すみません。ですが資料を読むと、ガンダムは陸戦タイプや白兵戦仕様、局地型や砲撃型、水中型まで、あらゆるバリエーションがあったようですが……。量産されていたのではないですか?」
「ガンダムタイプは実験機でもあったから、試作した機体を改修していろいろテストしたみたいね。あわせてニ十機はないはずよ」
「そうなんですね。前から疑問だったのです。……フォウ姉さんは本当にモビルスーツに詳しくて、いつも驚きます」
シックスは、笑いながら手に持っていた物を閉じて机に置いた。
「あっ、ごめんなさい。すこし喋りすぎてしまったかしら」
妹のわずかに困ったような表情から、自分の趣味を少し語りすぎたと反省した。
「いえ、そんなことはありません。フォウ姉さんの専門性は貴重です」
「連邦軍のガンダムタイプに負けないために、もっと勉強しないとね」
《ガンダム》こそはジオンにとって最も脅威となる兵器である。いまも、改良発展型の《ダブルゼータ》と呼ばれるガンダムタイプにネオ・ジオン軍は痛い目にあわされているから、対抗するためにネオ・ジオン開発陣は全力で新型機の開発を行っているのだ。
自分も、いつかオリジナルのモビルスーツを製造してみたいと思っていて、個人的に設計をしてみたりしている。最初は何もわからずに、ただ与えられた仕事としてモビルスーツの開発業務に関わったが、いまではすっかり機械の巨人に魅了されてしまったのだ。
「でも、確かにガンダムは高性能ではあったけど、父親の開発したモビルスーツに乗って息子が大活躍するなんて、ちょっと出来すぎたストーリーに思えるわよね。実際はどうなのかしら? 確かにガンダムの戦果が高かったのは間違いないけど、けっきょくのところ、デチューンされた生産型のジムが大量投入されたことが勝因なのよ。一機で戦局を変えただなんて、マスコミの創作でしょう」
「どうなんでしょう……。もしかして、フォウ姉さんはクィン・マンサの開発には反対なのですか?」
「反対ではないんだけど、クィン・マンサより量産型キュベレイの生産を優先した方がいいわよ。定数をそろえるには、まだまだ時間がかかるわ」
山積している作業を想像して思わずため息をつくと、シックスの向かいの椅子に腰を降ろした。
「フォウ姉さんなら出来ますよ」
「だといいけど……。とりあえず製造工程を一から見直してみるわ。他の工場に組み立てを外注できる部分もあるかもしれない」
「私にできることがあれば、いつでも言ってください」
「ありがとう、いつも助かるわ。……ところで、それって『本』でしょう?」
「あ、そうです」
シックスは、机に置いた長方形の物を手に取った。
「植物から作られたペーパーに、文字がインクで印刷されているメディア。珍しいわね」
「かなり古いもので、アクシズの倉庫で見つけたんです。読んで見たら面白くて。内容は小説なんですが、好きな作家になりました」
「フィクション? 」
「はい。サン=テグジュペリ、旧世紀の作家です。『星の王子さま』が有名で、他にも『夜間飛行』とか『人間の土地』とか」
「『星の王子』って響きがロマンチックね」
「でも真実の言葉が書かれているんですよ。旧世紀に書かれたなんて思えないほどに」
「人は変わらないってことなのかしら?」
「心や感情は不変的なものですから。サン=テグジュペリは作家でありパイロットでもあったんです。空を飛ぶことの厳しさも小説に書いています」
「パイロット? 民間の?」
「郵便業務がメインだったようですが、軍務にもついたそうです。最期は偵察任務で出撃したところを撃墜されてしまいました」
「そう……」
撃墜、という言葉には胸が締め付けられた。自分たちにとっても仲間が撃墜されて亡くなるのは日常的なことなのである。ファイブだって命を落としかけたのだ。
「小説を書きながらパイロットもするって、どういう心境なのかしら。小説の題材のため?」
「空が好きだったのでしょうね。純粋に飛ぶことが。攻撃部隊には所属しなかったようですから。厳しい世の中で純粋さを貫くのは難しいことです」
その作家パイロットには共感を覚えた。自分も本当はモビルスーツの操縦や開発が好きなのであり、できることなら戦闘行為を避けたいと思う。とは言え、そんな甘い考えでは、彼と同じように撃墜されてしまうだろう。
「宇宙世紀に暮らすわたしたちの方が汚れているのかもしれないわね。シックスが憧れるのもわかる気がする。あなたの部屋には他にも本があるんじゃない? よかったら私にも……」
「ありません! 」
シックスは突然取り乱すと、焦ったように返事をした。
「そ、そうなの?」
「はい。何もない、殺風景なつまらない部屋ですから!」
「そういえば、最近入れてもらったことがないけれど……」
「いずれ機会があれば。でも、来ても仕方ない部屋ですよ」
「なんだか怪しいわね。まさか誰かと同棲なんかしてないわよね?」
「とんでもない!」
「冗談よ。まあ、プライベートを見せるのは、姉にでも嫌なものよね」
「すみません、そういうわけではないんですが」
シックスは、本当にすまなそうに謝っている。普段は軍務のことしか話さない堅物の妹だが、部屋には彼女の本来の姿があるような気がした。
「気にしないで。また話を聞かせて」
「はい」
「あ、それから、彼とは本当に友達だからね?」
「安心してください。言いふらしたりはしませんから」
くすっと笑うシックスを後にして、プルフォウは自分の仕事場である格納庫に向かった。
冬コミ新刊の委託をはじめました。よろしくお願い致します。
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