プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

キャラクター、設定協力は、かにばさみさんです。

※Pixivにも投稿しています。


第11回「ワークホース」

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 地球連邦軍の量産型モビルスーツ《ヌーベル・ジムⅢ》の三機編隊が、背面に装備された四基のロケット・ブースターを噴射しながら月の重力に拮抗して飛行していた。その莫大な推進力は、もし媒体する空気があれば周囲に轟音を響かせたに違いなかったが、月は真空なので地表からは三つの輝点が動いているようにしか見えなかった。

 

【挿絵表示】

 

 月は地球圏にとって重要な戦略ポイントであり、相当数の地球連邦軍部隊が駐留している。そして、その重要さゆえに新鋭機が配備されることが多かった。

 地球連邦軍が昨年、宇宙世紀0087年に正式採用したモビルスーツRGM-86R《ヌーベル・ジムⅢ》は、ゴーグル・タイプのメインカメラを装備した頭部と、四角いブロックを基本形状とした胴体と四肢で構成された標準的な機体だ。しかし、際立った特徴はないものの、汎用機として設計されているために拡張性が高く、数多くのオプションであらゆる戦場に適応可能な、信頼できる使役馬(ワークホース)なのである。新型(ヌーベル)と呼ばれているのは、旧式のRGM-79R《ジムⅡ》を改修しただけの《ジムⅢ》とは異なり、新規設計されたモデルだからで、高出力のジェネレーターと武装、高性能センサーを装備したことによって、高級機にも匹敵する性能を誇っている。

 

「高度が下がるからといって燃料を使いすぎるなよ! ガス欠で都市に落下すれば始末書どころじゃすまんのだからな」

 

 月軌道艦隊第六機動歩兵中隊に所属するラッセル・ハント中尉は、編隊長であるアーニー・デイビス大尉が、いつも部下に口やかましく注意することにうんざりしていた。もちろん、そうする理由は理解できる。アーニーは一年戦争以来の叩き上げのパイロットで、ジオンの宇宙要塞攻略作戦に参加した経験から、わずかな判断ミスが死につながることを知っているのだ。

 この月面では独自の操縦技術が必要とされる。重力は地球の六分の一にすぎなくても、垂直方向に働く力は無視できるものではなく、モビルスーツは自由に飛行することができないのだ。そうした宇宙空間とは異なる挙動に対応できずに、重力に引かれて月面に墜落する間抜けなパイロットも珍しくはない。

 中隊のライト・ウイングを務めるラッセルは、全天周(オールビュー)モニター越しに眼下に広がるクレーターを眺めた。そうやって高度が下がっていないか目視で確認するのだ。クレーターの中から放射状に広がって建造物が配置されている人工都市は、周囲に広がる地形とは対照的に人の営みを想像させた。だから間違ってもトラブルで墜落することなどできない。

 

「隊長、よろしいですか」

「なんだ、ラッセル中尉」

 

 モニターに、いかにも叩き上げの軍人といった、いかつい風貌の男が表示された。

 

「こんな都市のど真ん中に、ネオ・ジオンの野郎どもの船が飛んでるとは思えません」

「当たり前だ! 偽装もせずに飛んでいるわけはない。民間輸送船に注意するんだ。不審な船は停止させて臨検を行ってかまわない、というのが上からの命令だ」

「不審な船とは、どのような船でありますか?」

「知るか。それが分かれば苦労はしない。怪しい動きをしているとか、こそこそ逃げているとか、その場で柔軟に判断するんだよ」

「了解!」

 

 編隊長の曖昧な答えに、納得できないまま返事を返す。この任務は簡単ではない。月は頻繁に輸送船が離発着していて船便が多いから、密輸や密航は日常茶飯事なのだ。まして、ここは月でも一、二を争う大都市グラナダなのである。

 グラナダは月の裏側にある月面都市で、もともとはスペースコロニー『サイド3』の建設用資源の採掘鉱山として発展し、そのまま宇宙の交通の要となった一大工業都市だ。宇宙移民は月に莫大な経済効果をもたらしたが、一方で資源開発や研究開発が主だった静かな衛星の様相をすっかり変えてしまったのだ。

 

「輸送船の積み荷は? モビルスーツの部品だと聞きましたが、ネオ・ジオンの秘密工場でもあるのですか?」

「この真下の企業だよ」

「真下?」

「この通信で言わせるなよ。とにかく小型核融合炉やモーター、センサーとかだな。部品は写真をとって司令部に送信すればいい。司令部の分析官が判断してくれるそうだ」

「ミノフスキー粒子が濃かったらどうするのですか?」

 

 電波かく乱を引き起こすミノフスキー粒子は一年戦争時に大量にばら撒かれたが、戦後は南極条約で散布が制限されていた。それでも太陽フレアなどの影響で濃くなるときがあって、その場合激しい電波障害が引き起こされて、まず通信は繋がらないのだ。

 

「そのときは俺たちで見分けるしかない」

「専門家じゃあるまいし、わかりかねます」

「大きさや形で判断するんだよ!」

 

 とかく上層部から急遽命令された臨検は現場に混乱を招いていた。本来は専門の部隊が行うべき任務なのだ。

 

「連中はネオ・ジオンにモビルスーツを売っているのですか?」

「奴らは死の商人だ。金さえ貰えれば誰にだって兵器を売るさ。コロニー落とし用のスペースコロニーだって、喜んで製造するだろうな」

 

 そう、今回の任務は、モビルスーツの部品が不正に輸出されるのを防ぎ、ネオ・ジオンの本拠地であるアクシズに届かないようにすることだ。ネオ・ジオンの連中は自前でモビルスーツを製造しているが、大尉の話ではセンサーやらコクピットなどはアナハイム・エレクトロニクス社から購入しているらしい。だから、奴らの戦力を元から断とうというのだ。

 

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「こんな回りくどいことはしないで、アクシズに攻め込めばいいんだ」

 

 レフトウィングに位置するパトリック中尉が勇ましく言った。その少し吊り気味の目が不機嫌さを表していたが、彼は外堀を埋めるのではなく、本丸を一気に突破するべきだと主張しているのだ。パトリックは戦果をあげて昇進したいという野心を隠しておらず、無意味な任務に就きたくはないと常々口にしている。だが地球連邦政府のお偉方はネオ・ジオンとの戦いに消極的で、軍を積極的に展開させようとはしなかった。おそらくはアクシズとの戦争を端緒として、地球とスペースコロニーとの戦乱が発生することを恐れているのだろう。地球連邦政府に不満をもつ宇宙居住民(スペースノイド)は大勢いるから、それが大きなうねりとなって、反乱が勃発する危険性は確かにあるのだ。

 

「連中の戦力はあなどれない。しかもアクシズは要塞だ。要塞を力押しすれば、攻撃側の三分の二は失われる。そんなリスクは避けたいんだろうな」

「弱腰の連中だから、ジャミトフのティターンズがのさばったんだ!」

「パトリック、めったなことは言うなよ」

 

 ティターンズは、地球連邦軍将校のジャミトフ・ハイマンが設立したエリート部隊で、地球連邦軍の中で地球至上主義を掲げる先鋭的な思想をもった集団だった。巧妙な政治、軍事行動で地球連邦軍の実権を握る寸前までいったが、スペースノイドを弾圧する過激な行動は、ティターンズに反対する軍事組織エゥーゴを産み、彼らによって倒されたのである。ティターンズの台頭は、絶対民主政治の脆弱さ、決断できない無責任さが招いた地球圏の危機だった。

 

「ティターンズにジオンの残党を根絶やしにさせてから、用済みになれば潰そうと考えたのかもな。お偉方は都合よく考えるものさ」

 

 政治家のその場限りの判断で軍隊は便利に使われる。今回の内乱は、ビジョンのない地球連邦政府の無能さを露わにしたが、軍隊がビジョンを持つのは危険だという証明も、またティターンズなのである。宇宙世紀にあっても、シビリアン・コントロールは絶対的な原則なのだ。

 しかもグリプス戦争は、宇宙世紀にあって、まるで中世のような戦いの様相を見せた。ティターンズやエゥーゴ、アクシズの指導者達が戦場でモビルスーツに乗って政治や理想を語り、軍隊を動かし、しまいには決闘まがいの戦闘までおこなったと言われているのだ。それは噂にすぎないが、軍隊を指揮するものが政治を語るのは危険な兆候なのだ。グリプス戦争の余波は、いまだ治まってはいなかった。

 ラッセルは、地球圏に混乱を招いた元凶たる、現在も地球連邦軍と緊張状態にあるネオ・ジオンの本拠地『宇宙要塞アクシズ』の方向を眺めた。するとグラナダへの訓練航海を終えて、サイド3『ジオン共和国』へと帰還するムサイ改級巡洋艦が、今まさにレーザー推進による加速をかけるところだった。並走している地球連邦軍の巡洋艦サラミス改級が、ムサイ改級の周囲を飛行していたRMS-106《ハイザック》を回収する。

《ハイザック》は、ジオンの象徴であったモビルスーツ《ザク》を地球連邦軍が発展・改良させたモデルだが、それは地球連邦軍とジオンとの戦争は終わったのだと、わざとらしく演出されたセレモニーなのは明らかだった。あのような三文芝居を演じたところで、何も情勢は変わりはしない。

 

 いずれ地球連邦軍とネオ・ジオンは雌雄を決することになるはずだったが、グラナダに戦闘の火種があるとは、ラッセルは知る由もなかった。

 

***

 

 地球の衛星「月」。太古から人類が見上げていた直径約三千五百キロメートルの冷たい岩石の球体は、宇宙世紀においてますますその重要性を増していた。大気はなくとも安定した地盤と豊富な資源を有しているこの地球の衛星は、宇宙時代になると急速に開発が進み、宇宙開発の要所となったのである。真空の地に移民を可能とした巨大な人工都市スペースコロニー群も、月の資源を元に建造されたのだ。

 だが、地政学的な月の立ち位置は、安定した地盤とは対照的に不安定なものだった。スペースコロニーほど地球に搾取されてはいないが、かといって地球と対等でもないという微妙な立場は、いつしか月に住む者たちを日和見主義を是とする『ルナリアン』と揶揄されるメンタリティへと変えてしまった。

 本来、月はスペースコロニーと比較しても圧倒的に人間が住むのに適している。その地下に都市を作れば広大な居住空間が確保でき、岩盤によって人体に有害な宇宙線も防ぐことができるのだ。いわば月は居住可能なスペース・スフィアともいえるのだが、だとすれば、なぜ地球連邦政府は月の開発をさらに推し進めて、より多くの人類を移民させなかったのか? 誰もが考える疑問の答えはただひとつ。地球連邦政府は、まさにジオンのような独立国家がうまれる可能性を危惧したのだ。

 もともと月の各都市は政治が独立していて、中央政府は存在せず、ゆるやかな同盟が形成されていた。しかし、その各都市が結束して月連合政府が生まれれば、それは旧世紀においてイギリス帝国からアメリカが独立したのと同じ結果をもたらすだろうことは、火を見るより明らかだった。事実、数か月前に発生したティターンズ残党による反乱事件は、保守層が多いエアーズ市を中心とした経済連合を経て、ゆくゆくは月を独立国家にしようという試みだったと言われていた。結果として他の都市からは無視されたのだが、文字通り月の潜在能力が示された事件だった。月面都市は独立国家を支えるだけの強固な経済基盤を有している。

 そんな月を実質的に支配しているのは、地球圏で最大のコングロマリットであり、莫大な収益を上げ続けているアナハイム・エレクトロニクス社である。

 

「本社から、ハース専務がお見えです」

「わかった、お通ししてくれ」

 

 アナハイム・エレクトロニクス社グラナダ工場の社長ヨンダ・ヨルグは、重厚な調度品が並ぶ社長室で、落ち着かない気分を紛らわすのに苦労していた。本社から直々に幹部がやってくるのだ。いったい何を伝えに来たのか? これまでの経験上、幹部がわざわざ出向いてくるということは悪い知らせに間違いないのだ。

 くそっ、いったいどういうわけだ。思わず悪態をついたとき、安っぽさを全く感じさせない重厚なドアが観音開きで自動で開いて、経営幹部のハースが威張ったように部屋に入ってきた。

 

「ひさしぶりだな、ヨルグ君。去年の会合以来か?」

「ようこそお越し下さいました、ハース専務」

 

 ヨルグは偉そうに頷く男に、にこやかに笑って握手を求めた。

 ハースは、精力的に働く社員だということをあからさまに態度で主張しているような男だった。何しろアナハイム社で最も若い役員なのである。もちろん、それなりに苦労はしたはずで、そろそろ毛髪のクローン処理、ようするに増毛が必要だということがすぐに分かった。

 

「どうぞお座り下さい。紅茶かコーヒーは、どちらを?」

「ああ、コーヒーを貰おうか。砂糖はいらん」

「わかりました。秘蔵の貴重なジャブロー産のコーヒーです」

「ジャブロー?」

「地球連邦軍の総司令部があった土地です」

 

 最も重要な戦略拠点でもあった南米アマゾンに位置するジャブローは、良質のコーヒー豆の産地でもあった。だが昨年、ジャブロー基地は連邦軍の内乱による核爆発で永久に失われてしまったから、この豆はかなり貴重な一品だということになる。

 ヨルグはドリッパーでコーヒーを淹れた。もちろんこれもアナハイム・エレクトロニクス製の家電で、ドリッパーから直接カップに注いで打ち合わせテーブルに運んだ。

 

「急なご来訪ですが、ご用件はなんでしょうか?」

「君にとっては楽しい話ではない……ほう、硝煙臭いと思ったが、なかなか美味いじゃないか」

 

 ハースは心から感心した風に言った。

 

「ありがとうございます。しかし、お話を聞くのが怖いですな」

 

 楽しくない話を聞く気はさらさらないが、こいつは地球連邦軍の内乱でモビルスーツの売り上げが上がっているのを知らないのだろうか?

 モビルスーツは精密な部品の集合体で、製造するには高度な専門技術を必要とするが、それゆえに利益率は高い。そして、この儲かる商品を大量に売りさばくために、自ら戦争を引き起こすとまでは言わないが、火種があれば軍事企業ならではの手法で積極的に介入しているのだ。

 そのやり方は、軍事組織やテロリストと取引をしてモビルスーツを直接供給するというもので、政治信条に関わらず紛争の両陣営を顧客とし、供給量で戦局をコントロールして紛争を長引かせるのである。有り体に言えばマッチポンプ。戦争経済、モビルスーツ経済で会社を回しているのだ。

 アナハイム・エレクトロニクス社が、フォン・ブラウン工場、グラナダ工場、アンマン工場といった各工場を独立採算制にしているのも、紛争の両当事者に対して個別にモビルスーツを供給するのに都合が良いからだ。当事者が言うのもおかしいが、いまだ地球圏の混乱が終息しない理由のひとつは、間違いなくこの欲望を膨れ上がらせた企業なのである。

 このグラナダ工場は、ティターンズやネオ・ジオンといった、世間的には評判の良くない軍事組織を得意先として売り上げを伸ばしてきた。汚い仕事の対価として昇進こそあっても、どこかの閑職に回される心配はない。

 だが、カップを持つ手が無意識に震えた。

 

「アクシズとの取引を一切停止してもらいたい」

 

 ハースの他人の将来を握りつぶす言葉に、もう少しでスーツをコーヒーで染め上げるところだった。

 

「馬鹿な!」

「上層部の意向だ。地球連邦政府から圧力があったのだ」

「軍に影響力をもつ我が社が、なぜそれほど弱気なのか分かりかねます!」

「君も知っているだろ? 現政権には、エゥーゴに参加したり、支援していた連中が多いということを」

 

 ハースの口調は、諦めろと言わんばかりだった。

 

「だとしても、とても承服できません! アクシズ向けの生産を減らせば、売り上げは半分になってしまいます。我々の主な顧客がジオンだということを、わざわざ説明することはないでしょうな?」

 

 ヨルグは工場の責任者として、必死の形相で抗議した。それも当然で、製品の出荷停止は死活問題なのである。

 

「いや、詳しく説明してもらいたいね。私は家電部門出身なんだ。本社に招聘されたのは今月でね」

 

 なるほど、無知だからわざわざ派遣されてきたということか。物事をよく知らなければ、それに対して疑問を抱くことなく命令できる。そう思ったが顔には出さなかった。

 

「わかりました。このグラナダ工場はモビルスーツの開発、製造を主業務としています。そして、主な顧客はジオン共和国やアクシズ、ネオ・ジオンなのです」

「君たちはテロリストに兵器を供給しているのか?」

「それは見方によりますな。スペースノイドにとっては、いまだジオンを支持する人間も多い。テロではなく抵抗運動です。それに、あなたも家電製品をジオンの人間だからといって売るのを拒否したことはなかったはずだ」

「まあ、確かに消費者を全て把握することなんて出来ない。だが、モビルスーツは冷蔵庫ほど大量生産はしないだろう。あんたの工場は顧客管理もできないのか?」

 

 お前は無能なのだと断じる、小馬鹿にする口調。この嫌味な野郎は、戦後の混乱期に生活必需品の家電製品を安く生産して売りまくり、若くしてアナハイム本社の幹部になったと聞いている。

 

「グラナダ工場は、もともとジオンの国営企業であるジオニック社の工場でした。戦後に我が社が吸収合併したことはご存知でしょう」

「そうだったな。敗北したジオンの遺産で、瞬く間にトップシェアを勝ち取った。まあ、他に民間のモビルスーツ製造会社はなかったのも幸いしたんだろう」

「仰る通りです。ですから、ジオンはいまだ得意先なのです。もちろん地球連邦軍のモビルスーツも生産していますが、ジオン共和国のモビルスーツやモビルワーカーのメンテナンスや改修作業は、売り上げのかなりの部分を占めています。あと、これは大きな声では言えませんが、抵抗運動を続けるジオン残党軍向けに古いモビルスーツのパーツを複製したり……」

「複製?」

「レプリカです。旧ジオン公国のモビルスーツはかなり普及していて、武装組織とか民間向けに、古いモビルスーツの複製パーツはかなり需要があるのですよ。ジオニック社から引き継いだ設計図から製造しています」

「なるほど。ホビーとしてモビルスーツを持つ連中もいるらしいからな」

「はい。さらにアクシズに対しては、モビルスーツの開発能力を向上させるために、新型機の設計開発に積極的に協力しています。さすがに製造まではしていませんが、フィールド・モーターや核融合炉、ロケットエンジンなど、主要コンポーネントも供給しているのです」

「だったら、なにか他の仕事をとってくるしかないだろうな」

「え?」

「うちのモビルスーツ工場は、それぞれ独立採算の別会社みたいなものなんだろ? 市場の競争原理に従って、新たな顧客を獲得すればいいんだよ。アンマンやフォン・ブラウン工場の顧客を奪えばいい」

「そう簡単にはいきません!」

「するんだよ! ともかく、一時的にでも出荷停止しろというのが上からの命令だ。直ちに実行する必要がある。今のあんたの話からすれば、グラナダ工場がパーツ供給を停止すれば、アクシズには致命的だろうが。平和な世の中、実にけっこうじゃないか。いつまでも子供のオモチャみたいな戦闘ロボットの時代でもないだろう」

「そうかもしれませんが……」

「議論の余地はない」

 

 ハースは、経営幹部らしい忙しさをわざとらしく感じさせるように、乱暴に立ち上がった。

 だが、実のところは使いっ走りにすぎず、このあとの予定といえば、本社に帰って今の話を報告したあと月面ゴルフをするくらいのはずだ。

 いっそのこと、こいつがこなかったことにすれば……。

 

「ん? これはエレバイクか?」

 

 立ち上がったアナハイム専務は、テーブル脇に置かれていた自社製品のパンフレットか気になったようだった。

 表紙にはエレバイクの製品名『リベッルラ』の文字が大きく書かれていて、鮮やかなオレンジ色の髪と濃紺の瞳が印象的な美少女が、可愛らしい制服姿で笑みを浮かべながらエレバイクの隣に立っている。

 

【挿絵表示】

 

 

「は、はい。モビルスーツのフィールドモーター技術を応用した新製品です」

「綺麗なモデルを宣伝に使うのはいいな。こういう風に儲ければいいんだよ。ともかく頭をもっと使え。でなければ、あんたは子会社に栄転だ」

 

 ハースは新人を教育するように言うと、ドアに向かって歩き始めた。受けた侮辱に、重厚なマホガニーの机からオートマティック・ピストルを取り出して、目の前の憎たらしい男を射殺したいという衝動が沸き起こったが、それをなんとか抑え込んだ。再び重厚なドアが開閉すると、ハースは部屋から出て行った。

 

「ふざけるなよ!」

 

 一人になると再び怒りが怒りがこみ上げてきて、棚に飾ってあったモビルスーツの模型を思い切り壁に投げつけた。東洋のカブトをはめたようなデザインの頭部がもげ、手足がバラバラになって床に散乱する。

 

「つまらない家電屋めが! あいつに経営の、政治の何がわかる! フォン・ブラウンの奴らに負けてたまるか!」

 

 売り上げと利益で他の工場に負ければ、出世競争からは脱落する。しけた子会社の社長になって、それで会社人生は終わりだ。なんとか手を打たなければならない。

 しばらく考えた後、一本の秘話通信をすることにした。

 そう、やっかいな問題を解決するには、それ以上にやっかいな問題を引き起こせばいいのだ。アナハイム・エレクトロニクスは、まさにそうやって生き残ってきたのだ。

 

 ヨンダ・ヨルグは、自分が思いついた素晴らしいアイデアを自画自賛した。




冬コミ新刊の委託をはじめました。よろしくお願い致します。

■COMIC ZIN
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