プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち 作:ガチャM
舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。
文、挿絵:ガチャM
設定協力:かにばさみ
※Pixivにも投稿しています。
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火薬の炸裂音が幾度も鳴り響き、そのたびに人型のプレートに穴が穿たれた。まるで精密な工業製品が次々と流れ作業で製造されていくかのような、正確なルーチンワーク。
基地の地下に設けられた射撃場では、射撃の技量を向上させ、またそのレベルを維持するべく、兵士やパイロットに関わらず多くの軍人が訓練に励んでいた。射撃場はワンフロアをほぼ占有していて、固定ターゲットや移動ターゲット、ホログラフィック・ターゲットなどが用意されている。これらを的にして、各人が目的に即した訓練を行うのだ。
「ちっ、これでは遅いな! ダメだ」
ネオ・ジオン親衛隊隊長プルツーは、腕に残る拳銃の反動を感じつつ、自らの射撃を冷静に評価して呟いた。
三つ並んだ固定ターゲットには全弾が命中し、全ての弾痕が
しかし、それでもまだ足りないのだ。
「彼女にはいつも護衛が二人ついている。奴らが反応し、銃を抜いて発砲するまで約一秒。つまり三人をその間に射殺する必要があるわけだ……。無茶を言ってくれる」
強化人間の筋肉と反射神経は常人よりも優れているから、理論的には十分に可能であり、自殺行為に等しい無謀な任務とは言えない。しかし、だからと言って練習なしで出来るほど簡単な仕事ではないのだ。
ホルスターから右手で拳銃を抜き、両手で構えて真っ直ぐターゲットに向けた後、照準がぶれないように滑らかに引き金を引く。火薬の爆発による反動を腕全体で吸収しつつ、素早く左右に振って連続して二発を発射する。
任務を成功させるためには、この一連の動作をさらに練り上げる必要があり、それができなければ逆に射殺されるだけだ。
「フン、これはパイロットにさせる仕事じゃないな」
無意識に恨み節を吐き出す自分に苦笑しつつ、弾を撃ち尽くしてスライドが後退したナバン・オートマチックからマガジンを抜き、新しいマガジンをはめ込み、スライドリリースボタンを押して初弾を装填した。そうしてから安全装置をかけて腰のホルスターにしまった。
軍人は、いつでも銃を撃てる状態で保持しておかなければならないのだ。
「今日はここまでだ」
息をついてゴーグルとイヤープラグを外し、それをポーチにしまうと射撃ブースを離れた。防音処理が施された部屋をでて階段を上がり、エントランスから中庭を通って、親衛隊の待機室がある建物へと足を向ける。
中庭には木々が広がりを持って植えられていて、ここが閉鎖空間であることを巧みに隠していた。
本腰を入れて射撃訓練を始めてから二週間になるが、確実に技術は向上している。しかしながら、その目的を考えると葛藤があった。仮に地球連邦軍の将軍を暗殺するという任務ならばシンプルだろう。だか、上官であるグレミーから命ぜられたターゲットは、よりにもよって……。
「プルツーお姉さま」
自分を呼ぶ声に我に帰ると、目の前に妹のプルフォウが立っていた。気付かなかったのは注意力が散漫になっている証拠だ。軍人として恥ずべき振る舞いに心の中で舌打ちをした。
「なんだ、プルフォウか」
「どうされたのですか? 思い詰めてるような表情で……」
妹は心配で仕方ないといった表情で見つめてくる。彼女は心配性なのだ。だから、いつも何事かを心配している。
「そう見えるか?」
「はい。何かあったのですか?」
「いや、なんでもない。射撃訓練で疲れただけさ。少し撃ちすぎたかな?」
「最近よく射撃訓練をされていますが、何が特別な理由が?」
さらに不安そうな顔。
まさか、暗殺任務を引き受けることになったからだ、とは妹には言えない。なるべく余計なことを考えないようにして、この場は誤魔化すしかないだろう。
「理由なんてない。おまえは射撃訓練をサボっているんじゃないか。最後に身を守ってくれるのは拳銃なんだ」
「すみません、気をつけます。……でも」
「ん?」
「私たちに心配をかけまいとして、ひとりで抱え込まないで下さい」
プルフォウの涙を浮かべている姿には驚いてしまった。お互いに思考を読み取るニュータイプ能力があるから、たとえ脳波を遮断するスキルがあったとしても、隠し事は難しいのだ。
「わかった。何か問題を抱えることになったら、必ず相談する」
「よかった。約束ですよ」
「ああ、約束だ」
やっと妹の顔が明るくなった。
「それで、何の用なんだ?」
「えっ?」
「お前の顔でわかるよ」
「あ、はい。じ、実は」
プルフォウは、バッグから軍人には似つかわしくない派手な包装の小包を取り出した。
「お姉さま宛の荷物を預かってきましたっ。第十二装甲歩兵大隊のロッシ大尉からっ」
妹は、まるで危険な爆弾を人に押し付けるかのように、ぐいっと荷物を押し付けてきた。一刻も早く手放したいといった感じだ。
「……知らない奴だな。補給品なら倉庫に入れておきな」
「そうじゃないんです。私も本当に困ってしまって」
妹の顔には、嫌がっているような恥ずかしがっているような、微妙な表情が浮かんでいる。
このやりとりを続けるのは少々もどかしいなと感じてしまう。
「なら、ここで開けてくれ」
「えっ?」
「二人で中を確認してみればいいだろ?」
「あ、でも。これはプライベートなことですのでっ」
「あたしは知らない奴とプライベートを共有するつもりはないね。だから、お前を巻き込むんだよ」
「そんな……」
「やるんだ」
「わ、わかりました。では、失礼して」
プルフォウは小包から手紙とリボンがついた小箱を差し出した。
「なんなんだい、このふざけた箱は! ……ちっ、名前が書いてある」
その無駄な包装と自分の名前が書かれた宛名ラベルからは、厚かましさと恩着せがましさ、さらにはこの程度で喜ぶだろうという馬鹿にした態度を感じた。加えて、そんなモノを妹に頼んで持っていかせるという能天気な感覚。
たまらずに、ふつふつと怒りが湧いてくる。
「これは、お姉さまへの贈り物ではないかと思います。普通なら悪い物ではありません」
「気安く人から物を貰う理由はないよ!」
知りもしない人間との妙な付き合いは不要だ。だから箱を乱暴に妹に突き返した。
「お、お姉さま! いちおう手紙も読んであげてください」
「フン、時間の無駄だろう」
手紙の封を乱暴に引き裂き目を通すと、気取った字体で『親愛なるプルツー~』と始まっていて、そのあとには虫酸が走るようなくだらない文章がずらずらと並んでいた。
「……」
「手紙には、なんて?」
その問いには応えずに、手紙も突き返してしまう。
「二つとも地面に置いてくれ。置いたら後ろに下がれ」
「お姉様?」
「さっさとやるんだ!」
「は、はい!」
妹は二つを地面に半ば放り投げると、慌てて後方へと走り去った。
「ふざけるんじゃないよ!!」
ホルスターからナバン・オートマチックを素早く引き抜くと、ターゲットめがけて速射した。その一連の動作は、おそらくはゼロコンマ四秒。これまでは決して達成できなかった領域で、まさしく会心の出来だった。
ガガガガーンッ!
凄まじい音とともに弾丸が連続発射され、小箱はたちまち穴だらけになっていく。箱の中からは金や宝石で出来た装飾品が飛び出した。
「きゃあーっ?!」
プルフォウが手で口を押さえて悲鳴をあげた。
銃弾はさらに命中し続けて、凝った作りの装飾品はズタズタに引き裂かれていった。
「お、お姉様、なんてことを!」
「なめるんじゃないよ!」
マガジンを撃ち尽くすと、スライドが後退したままのオープンホールド状態となり、銃口から立ち昇る硝煙は発砲の凄まじさを現わしていた。それは自分の感情そのものだ。
「宝石が、宝石が!」
妹は走ってくると、パニックに陥りながら地面を這い回り始めた。
「こいつに言っとけ! くだらない真似をする暇があるなら、戦果でもあげてみろってな!」
人間の愚かしい惰弱な感情を利用する、破廉恥極まりない行為に付き合うほどバカバカしいことはない。必死に破片を拾い集めている妹を気の毒には思ったが、腹が立つのを抑えられないので、そのまま立ち去った。