プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

文、挿絵:ガチャM
設定協力:かにばさみ

※Pixivにも投稿しています。


第18回「強化人間 VS.強化人間 ~来訪者パート2~」

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「ゴミが目立つな……。道路も補修されてない。インフラが機能していないのは良くないよ」

 

 ネオ・ジオン親衛隊情報部に所属するプルセブンは、一ヶ月ぶりに帰ってきた『わが家』をつぶさに観察してひとりごちた。

 

 自分はいわゆるスパイが仕事であり、人物や組織、施設を精密に調査、分析することを得意としている。あらゆる時間、場所、状況において、観察するという行為が文字通り身に染み付いているのだ。だが、その染み付いた汚れが自然に見えるくらいでないとスパイは務まりはしない。諜報活動は、地道な努力を積み重ねる根気のいる作業なのである。

 

「汚れたままが普通だなんて、女には酷な仕事だよ」

 

 これまでアクシズのために、あらゆる類いの仕事をこなしてきた。偵察、監視、欺瞞、破壊工作、そしてあまり大きな声ではいえない暗殺任務まで。もちろん任務に私情は禁物であり、ただ正確に達成することだけを考えてきた。それがアクシズ、ネオ・ジオンのためだと信じて。誰もが嫌がる汚れ仕事。そうした暗部は、国が生き残るために誰かがやらなくてはならない事だ。国に忠誠を誓い、献身的になれる兵士だけがこなせる任務なのだ。

 でも、いまは自分の仕事が国家の役に立っているのかが分からなくなってしまっていた。なぜなら、地球圏におけるアクシズの政治的、経済的立場は悪くなる一方だからだ。

 

 地球連邦政府はアクシズに対して露骨に経済制裁を行なっているが、ネオ・ジオン軍の軍事費は増大しているので市民生活に回される予算は減り続けている。もちろん、ネオ・ジオンが地球連邦軍との決戦に備えて軍備を増強し続けているのは当然のことだ。仮に戦争に負ければ惨めな敗戦国となってしまうからだ。しかし、これはアクシズの軍人が言うことではないが、違う道はなかったのかとも思う。巨大な地球連邦政府に従属すれば、少なくとも経済的には保証される。任務で他のスペースコロニーに赴くことも多いが、繁栄している国家と比較すると虚しさを感じるのだ。

 

「だからって国そのものを改革しようだなんて大それたことを。姉さんたちは本気なんだろうか。軍人が思想を持つのは危険なんだよ……」

 

 ふと廃業した飲食店のガラスに映りこんだ自身の姿を見て、頭頂部のクセ毛がはねていることに気づいた。それを撫で付けるが、いつも通り失敗して思わず溜息をつく。

 このクセ毛が立っているのは、悪いことが起こる予兆だ。ニュータイプ能力と関係があるのかは分からないが、まるで警戒レーダーのような機能を有しているのだ。詳しくは分かりようもないが、『虫の知らせ』とか『嫌な予感』のようなものなのだろう。いずれにせよ、この能力には随分と助けられてきた。

 

「つまりアクシズに不穏な空気が漂っている、ということなのかな」

 

 そんなことばかり考えてしまうのは、姉プルツーから驚くべき『計画』について聞かされたからだ。アクシズを根本から揺るがす大それた目論見は、一兵士に過ぎない自分には重すぎる。

 

 いや、少し前から薄々気づいてはいたのだ。このところグレミー閣下は、アクシズに資金を提供している企業や団体に直接取引を持ちかけようとしていたからだ。そのような行為は国家反逆罪で罰せられるべき犯罪行為である。つまり、私腹を肥やす目的でなければ、それが意味するところは……。

 

「ハマーン様はボクを救ってくれた。恩を仇で返すなんて、軍人としてあるまじき行為だ。そんなことは絶対にできない」

 

 ジオンのためだと姉は言うが、たとえ大義があったとしても、つきつめれば権力争いにすぎないのだ。

 

「愚かな内輪揉めだけは避けないと……ん?」

 

 頭の中でさまざまな可能性をシミュレーションしていると、ふと工事ブロックで二人の女性が作業している様子が目に入った。その光景になんとなく違和感を感じ、すぐさま詳細な観察を開始した。

 二人には年齢差があることから、指導者と部下だということがわかる。しかしサングラスをかけた少女は華奢な感じで、あまり労働者という雰囲気ではない。なにより服装がカジュアルで不自然なのだ。普通、街というものはあらゆるものが違和感なく風景に収まっている。自分も偵察行動をするときは入念に街を観察し、そこに溶け込むために人々の服装や振る舞いなどに細心の注意を払う。他人に違和感を感じさせたなら、やはり余所者として見られてしまうのである。

 つまり、あの二人は注意するべき人物だということだ。行動を精査して、意図を確認しなければならない。

 

「近づいてみるか」

 

 気付かれないように、あくまで自然に脇にそれると、工事現場の敷地に入った。幸い人はいないから建設中の建物に入っても大丈夫だろう。階段かはしごを探し、あの二人が作業しているところまで登り、安全な監視場所を見付けて……。

 

「なにっ!?」

 

 ふいに殺気を感じ、同時に頭のくせ毛がピンと跳ねた。反射的に腰のシースに格納していたコンバットナイフをすばやく抜いて構える。

 このナイフは特注品で、S字型のカーブを描いた刃が、相手のガードを突き破って致命傷を与えるのだ。しっかりホールドするために滑り止め加工されたグリップは、あらゆる体勢での使用を可能にしてくれる。

 そして、この愛用のナイフを咄嗟に手に取ったことが、自分の命を救うことになった。

 

「なんだっ!?」

 

 空気を切り裂く音がして、グリップを握った手に凄まじい衝撃を感じると、弾かれた弾丸がコンクリートの床に突き刺さった。ナイフの刃に自分を狙った弾丸が直撃したのだ。防御していなければ、間違いなく心臓を撃ち抜かれていた。戦闘訓練を積んだ強化人間である自分に奇襲攻撃をする奴!?

 

「連邦の強化人間か!」

 

 攻撃を回避するため、咄嗟に横に飛び退いて地面を転がった。コンマ数秒前にいた場所に、高速で飛来した弾丸が何発も突き刺さる。恐ろしく正確な射撃だ。口径は弾痕から判断すれば45口径で、ひとところに一秒でも止まっていれば致命傷をくらうだろう。

 下半身をバネにして飛び起きると、工事資材が置かれている場所へと思い切りダイブした。嫌というほど身体を打ち付けてしまったが、弾に体を穿たれるよりはましだ。身を隠した状態でナイフを鞘に収めると、ホルスターからハンドガンを取り出した。

 このハンドガンはサプレッサーが一体となった22口径の小型オートマチックで、相手が撃ち放っている45口径よりも威力は低いが、それでも装備していないより遥かにましだ。

 

【挿絵表示】

 

「アクシズで銃撃戦をするなんて!」

 

 映画のように、派手な銃撃戦や格闘をすることがスパイの仕事ではない。忍耐強さと冷静さによって適切な偵察を行い、点と点をつないで意味のある図形をつくりだすことが本質なのである。しかし、だからと言って銃撃や格闘が苦手というわけではない。

 

「まだ上にいるな」

 

 密かに接近するため、二階から死角になっている足場の下を駆けぬける。ここはスペースポートの拡張工事をしている区画で、中央官制センターに接続される通信ケーブルや電源ケーブルを通すトンネルが掘られているのだ。

 

「ケーブル……。まさかデータを盗むつもりなのか!?」

 

 そのとき、突然目の前に人影が降り立った。同時に何かが振られ、それを避けるために反射的に頭を下げた。髪の毛がスパッと数本切られる。刀かとも思ったが、それは鋭い鞭だった。まともに食らえば打ち倒されていた。

 近接戦闘をやるつもりならば望むところだ。自分は親衛隊で最も格闘戦を得意としているからだ。格闘で相手を制するためには、不意打ちを食らわせ、激しい攻撃で圧倒しなければならない。まずはお互いに礼をして、ゆっくりと身体をほぐしてから戦いを始めるなどという贅沢は許されないのだ。

 

 鞭を恐れずに近づいて、滑り込むようにして攻撃を仕掛ける。敵は鞭を振ったあとだから、重心が偏った状態で避けられないはずだ。低い姿勢をとり、左足を軸とした円を描くように素早く右足を回して足払いをした。

 しかし相手は驚くべきバランスを発揮した。女はこちらの攻撃を軽やかなステップでかわすと、カウンターで体重をのせた回し蹴りを繰り出してきたのだ。すぐさま反応し、横に逃れながら両腕を固めて防御するが、腕が折れるかと思うほどの衝撃が襲い掛かり、一瞬呼吸ができなくなった。

 

「ぐっ!」

 

 転倒しそうになりながらも、衝撃を受け流してなんとか踏ん張ると、反動を利用して振り子のように立ち上がり、素早く22口径を左手に持ち替えて、右手でストレートパンチを放った。避けるには近すぎる距離だろう。間違いなく当たる。

 だが、女はボクシングのディフェンスの要領で身体を反らすと、こちらのパンチをギリギリで避けた。なまじの反射神経ではない。やはり神経と筋肉が強化され、鍛えられた兵士だ。それも相当なレベルで。戦闘能力は自分と同じか上回っている!

 

 女はすぐさま反撃に転じ、目にもとまらぬ速さで鞭を繰り出してくる。パンチを繰り出した態勢から、上半身を捩じるようにして攻撃を避けるが、避けきれずに左肩に鞭をくらってしまう。その威力は凄まじく、まるで肩の関節が外れたかと思うほどだった。

 押されていると感じる。この不利な状況を打破するためには、手数を増やして相手のリズムを崩すしかない。だから脚を狙って何度も連続して前蹴りを放った。攻撃はヒットし、女は一瞬顔をしかめる。だが、すぐさま反撃に転じ、こちらの倍以上の蹴りを繰り出してきた。その攻撃をガードするために、かなりのダメージを受ける。

 正攻法ではだめだ!

 

 コンマ数秒の葛藤の後、卑怯な手だとは思ったが、横に逃れるふりをして22口径を速射した。これはスポーツではないので、どんな手を使ってでも相手を倒せばよい。有利に進めている格闘戦に夢中になってしまったのがいけないのだ。

 だが、こちらの考えが読まれているとしか思えなかった。女は身体を半回転させると、至近距離で弾丸を全て避けてみせたのだ。

 なんて奴!

 驚いてさらに銃撃しようとしたが、素早く左腕をつかまれ、無理矢理に関節を可動範囲外にひねられてしまった。

 

「う、うわあぁーっ!?」

 

 骨がボキッと折れ、力を失った手から銃がこぼれ落ちる。女は床に落ちた銃を素早く蹴り飛ばした。

 

「フッ、その程度? つまらないの。あなたも強化人間なのでしょう? どこを強化しているの?」

「うぐぐっ……」

 

 まずい。戦闘能力が大幅に減少した状態で戦闘を継続すれば確実に殺される。ここはいったん引いて立て直すしかない。

 戦術的撤退を決心し、逃げるために女に強引にタックルを食らわせると、方向を転じて全力で走った。

 だが、その判断は誤っていた。

 

「ぐわあっ!」

 

 背中に鞭の強烈な一撃を受け、全身が痺れるほどの衝撃が走った。それは一瞬意識が飛ぶほどで、ガクンと足から力が抜けて、そのまま工事現場の雑多なパイプや足場の中に転がりながら突っ込んでしまった。ガラガラとパイプが身体の上に崩れてきて身動きがとれなくなる。

 さらに女は発砲してきて、45口径の弾丸が左脚に命中した。凄まじい痛みが腿に生じて、穴が空いた白いズボンから鮮血が流れ出した。

 

「はあっ、はあっ……」

「くくく……これで動けないわね。どこに行くつもりだったの? 勝手に逃げちゃだめじゃない」

 

 女はとどめを刺そうというのか、ゆっくりと近づいてくる。金髪に広いサングラスをかけた顔が笑っている。獲物を仕留めた、勝ち誇った表情。

 まだだ、まだ終わりではない。このままむざむざとやられはしない。気付かれないように、ゆっくりと腰の後ろに右手を回すと、シースからコンバットナイフをすばやく引き抜き、女の頭めがけて投げ放った。当たれば致命傷だ。

 

「なっ!?」

 

 だが攻撃がヒットするかと思われた次の瞬間、ナイフは鞭に絡めとられていた。

 

「残念。あとコンマ二秒遅かった」

 

 女は勢いよく鞭をふるうと、思い切り打ち付けてくる。

 

「あぁっ」

 

 胸に強烈な一撃が加えられ、激しい痛みに叫び声をあげる。加えて脳髄に響くような、全身がバラバラになるようなショックを受けた。息が詰まりそうになり、吐いてしまう。これはただの鞭ではない。モビルスーツが使用する近接武器『ヒートロッド』のように高圧電流を伴っているのだ。

 女は近づいてくると、グリグリとブーツの踵を胸に押し付けてきた。

 

「うああっ……」

「さて、じっくりと話を聞かせてもらおうかしら。あたし、かなり興味あるの、このアクシズに」

 

 体力を消耗して、もはや応えることも困難だ。

 

「ねえ、聞いてるっ!?」

 

 ドカッと頭を蹴られる。

 

「お、お前は連邦のスパイ……」

「スパイ? そんな汚らわしい職業じゃないわよ。スパイはあなたでしょ? いろいろ知ってるのよね」

「ボ、ボクは、何も話すつもりは……」

「ボク? 男の子ぶるなんて、意外と可愛いじゃない……」

 

 そう言うと、女はいきなり胸ぐらを掴んできて、ナイフで服を縦に切り裂いた。

 

「あっ!?」

 

 服と一緒に、動きの邪魔にならないように胸を潰していたさらしも切られて、乳房が露わになってしまう。

 

「あら、ずいぶん大きいのね。膨らみすぎて、まるで水風船みたい。このアクシズは食糧不足だとばかり思ってた。そっか、ここを強化されてるの?」

 

 女は心底おかしそうに笑った。その身体を舐めつけるような、まるで爬虫類のような視線がおぞましく、本能的に目をそらしてしまう。

 

「……ど、どうするつもりだ」

「だから、じっくり聞かせてもらうの! そう、例えばアクシズの戦力とか、あなたのID、アクセスコードとかをね」

「そ、そんなこと話すもんか」

「くくくっ。これは素晴らしいナイフじゃない。超硬合金のガンダリウム合金製。よく手入れされて切れそうね? この変わった形をしたナイフを使ったら喋ってくれる?」

「うっ……」

 

【挿絵表示】

 

 女はコンバットナイフを左胸に突き付けた。皮膚を傷つけないくらいのテンションがかけられて、乳房がわずかに歪む。よく知る愛用ナイフが、恐ろしげで冷徹な刃物に感じられた。

 

「話すなら今のうちよ。正直にいいなさい。拒否しないほうがいいわよ」

「め、命令するな!」

「仕方のないボクねぇ」

 

 女が右手に力を込めると、ショック死するかと思うほどの激痛が襲いかかった。

 

「うわあああーっ!」

 

 神経に達したナイフの刃から電気を流されたに違いなかった。まるで体の内側から熱せられたような凄まじい苦痛に悲鳴をあげて悶絶する。拷問に耐える訓練など役に立たないほどの痛み。この女はやり方を心得ているのだ。

 

「ねえ話す気になった? 私を舐めない方がいいから」

「が、がはっ……」

 

 スタンガンなどは見当たらないから、手から直接電気が流れているとしか思えなかった。いずれにせよ、このままでは身体が内部から沸騰してしまう。涙が眼から溢れ出て視界を遮った。

 殺される。

 だがネオ・ジオンの軍人として、連邦のスパイに情報を話すことなど絶対にできない。プライドにかけても。

 

「このアクシズにモビルスーツは何機くらいあるの? 戦艦は何隻? 兵士の人数は?」

「……」

「しらないの? それとも話せないのかしら……。わたし、トークもできない女は嫌いなんだから。共演したくない!」

 

 女はナイフを持ち上げると、容赦なく再び胸にプスリと刺した。痛みに備えて全身が硬直する。直後、再び身体の内側に凄まじい熱が生じた。

 

「ぎゃああっ!」

 

 あまりの痛みにぶわっと大粒の涙が溢れだし、体がぶるぶると痙攣した。自分では強いつもりだったが、簡単に泣き叫ぶ自分が情けなかった。

 

「くだらない意地を張るなら、まだまだ続くわよ。あなたが死ぬまでね……」

 

 人気のない工事現場に、何度も絶叫が響き渡った。

 

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