プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

文、挿絵:ガチャM
設定協力:かにばさみ

※Pixivにも投稿しています。


第19回「トゥエルブの戦い」

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 プルトゥエルブは、アクシズの繁華街で所期の目標以上の成果を達成したことに大いに満足していた。

 軍事行動に例えるならば、主目標(プライマリターゲット)を撃破し、さらに副次的目標(セカンダリターゲット)までも破壊したといったところだろうか。そう思えるほどに、想定外の体験をしたのだ。

 

【挿絵表示】

 

「アイスクリームに異質なワッフルやパンケーキ、フルーツを組み合わせると、驚くべき味の向上がみられた。これは小隊に攻撃タイプと支援タイプの機体を組み合わせた場合、戦闘単位として飛躍的に打撃力が増加するのと似ている」

 

 食したデザートの衝撃的な味を思い出しながら、その理由を考えてみる。味だけではない、アイスクリームの冷たさとワッフルの熱さのコントラストは絶品だった。油断すればいくらでも食べることが可能であり、パイロットとしての体型維持が困難になるであろうことは間違いなかった。

 

「気をつけないとスリー姉さんに叱られてしまうな……」

 

 親衛隊に配属になったばかりなのに、自己管理能力なしと評価されてしまえば配置転換になりかねない。そうなれば自身のキャリアにとっては致命的だ。自分はこれまで親衛隊のパイロットになることだけを目標にしてきたのだから気をつける必要がある。

 

 でも、そんな危険な食べ物を、プルツー姉さんとフォウ姉さんが勧めてくれた理由が、今になってようやくわかった。姉さんたちは、コールドスリープから目覚めたばかりの自分を気にかけてくれていたのだ。

 

「あの味、初めてではなかった」

 

 強化人間としての調整のせいで、曖昧になってしまった記憶。それをしっかりと手繰り寄せるための糸を示してくれた。混乱した記憶を繋ぎ止め、整理するためにはキーとなるアイテムが必要なのだ。……それがアイスクリーム。自分はずっと前、戦艦の中でアイスを食べたことがある。姉妹とテーブルを囲んだ記憶が鮮明に蘇ってきて、自然と笑みがこぼれた。

 

「ファイブ姉さんは相変わらずだったな。いなくなってしまった姉さんも」

 

 それにしても、フォウ姉さんはあれほどカロリーの高い食べ物を恒常的に食べているのだろうか? 道理でバストサイズが平均値を超えているはずだ。スタイルが良いのは、行動時に胸が邪魔になるなど、軍人としてはデメリットもある。加えてカロリー過多は体に良いとはいえないので、ともすれば禁断症状すら引き起こしかねないアイスクリームは、まさに罪な食べ物だと定義した。

 

「……それでも、食べ続けたい」

 

 理屈や論理を無視してでも、心の底からそう思う。

 自分はこれまで食事とはエネルギーを補給する手段にすぎない、という認識しかなかったのだが、アイスクリームは、それが快楽を満たすものでもあることを気付かせてくれたのだ。クリーム、フレーバー、空気で構成された氷の塊を思い浮かべるだけでも、自然に口内に唾液が溢れ出してくる。

 

「アイスクリームとは、生まれながらに罪を背負い、欲望を追求し続ける人間が生み出した愚かな人工物。私たち強化人間も、そうかもしれない。つまり強化人間である私たちがアイスに惹かれるのは、それが理由だ。人間だけがデザートを食べるのだろうな……ん!?」

 

 アイスについて自問自答していたそのとき、まったく突然に脳裏に電流が走った。

 

「なんだっ!?」

 

 意識を集中させると、女性の悲鳴が聞こえた。驚いて周囲を見回すが、実際に聞いたのではない。そう、強化人間としての自分が有するニュータイプ能力で感知したのだ。

 

「襲われている!? 誰だ!?」

 

 誰であろうと、ただ事ならぬ事件が発生したことは間違いなかった。

 

 すぐさま全速力でダッシュして、悲鳴が発せられた場所へと急行する。脚力には自信がある。自分は遺伝子的に特に筋肉が強化されているので、姉妹の中でも一、二を争うくらい足が速いのだ。

 

「この感じは……セブン姉さんなのか!?」

 

 悪寒が走るような、全身がぞくりと冷える感覚。それは姉に危機が迫っている証拠だ。まさか、このアクシズに連邦軍が?

 暴漢に襲われた可能性もあるとはいえ、潜入任務のプロフェッショナルであり、戦闘能力に優れたセブン姉さんに限って、それは有り得ないことだ。軍の警戒レベルも上がっていないのでーその場合緊急連絡があるー敵性部隊の襲撃でもないはずだ。

 休むことなく走り続けて、いくつもの建物の間を通り抜け、裏通りをショートカットして増築エリアへと入った。このエリアは軍港などの施設を拡張しているエリアで、かなり大規模な拡張工事が行われている。

 

 走っている間にも、姉の凄まじい悲鳴と咳き込む音、泣き声が絶え間なく頭の中に聞こえていた。悲痛な声はとても聞いていられず、能力をシャットダウンしたいと思うほどだった。しかし、それは姉がまだ生きている証拠なのだ。

 だが、しばらくすると悲鳴はだんだんと弱くなっていって、ついには全く聞こえなくなってしまった。早くしないと取り返しのつかないことになる。

 目標地点にはあと一分以内に到着する。バッグから素早く九ミリ口径のハンドガンを取り出すと、弾が装填されていることを確認した。感知している限りでは相手はひとりだが、能力を過信するわけにはいかない。

 

「あの建物!」

 

 待ち伏せされている可能性もあるから、エントリーポイントを考慮しなければならない。建物を観察して構造を把握すると、いったん入り口を通り過ぎ、裏口に回り、まだガラスがはめ込まれていない窓から建設途中の建物内に入った。

 侵入した場所は小さな部屋で、壁に貼られたスケジュール表からすると、工事関係者の事務所として使われているようだった。物音を立てないように注意しながら、ドアをそっと開いて部屋から出る。

 フロアを確認するとほとんど何もなく、建設用の資材があちこちに置かれているだけだった。どうやら壁を隔てた向こう側にもう一つ部屋があるようで、感覚を研ぎ澄ませると、一人の人間を感知した。

 敵がいる。

 壁の側まで素早く近づいて、そっと向こう側を覗いた。すると右手に鞭、左手にナイフを持った女が、倒れた姉を打ちすえているのが見えた。

 たちまち怒りの感情が沸き起こったが、深呼吸して気持ちを落ち着けると、滑り込むようにして部屋に入り、銃を向けた。

 

「動くな! 動けば頭を撃ちぬく!」

 

 後頭部に狙いをつけながら、鋭く警告する。すぐに射殺するわけにはいかない。スパイならば、尋問して情報を聞き出さなければならないからだ。

 だが銃に狙われているにもかかわらず、女は驚く様子もなく、とっくに気づいているといったようにゆっくりと振り向いた。幅広のサングラスをかけていても、その表情に笑いが張り付いているのがわかった。

 

「あら、お仲間? いえ、ご家族かしら?」

「動くなといったはずだ!」

「あんがい遅かったじゃない。あなたは楽しませてくれるの? このボク、親衛隊のわりには弱かったわね。私、あなたたちのお姫様を捕まえようと思ってたの。でも失敗しちゃったから、替わりに倒してやった」

「姫様を捕まえるだと!?」

 

 アクシズの最重要人物を誘拐しようとする計画が、密かに進行していたことに衝撃を受ける。

 

「驚いた? 彼女が戦争犯罪人として逮捕されるのは当然でしょ。でも、さすがに厳重な警護だったことは褒めてあげる。あなたが、ここに来たことにもね!」

 

 そう言うや否や、サングラスをかけた金髪の女は、目に見えないほどの速さで鞭を振るった。

 

「ちぃっ!」

 

 素早くしゃがみ、バッグを盾にがわりにして迫り来る鞭を防御する。このバッグは特殊繊維であるネオザイロンの内張りがしてあるので、拳銃弾程度なら防げるのだ。だが鞭が直撃すると、バッグは分解しながら弾け飛んだ。まともにくらえば気絶しかねないほどの衝撃だ。

 

【挿絵表示】

 

 手の痛みをこらえながら、膝立ちの姿勢で九ミリハンドガンを速射する。この距離での射撃は、自分の技量なら間違いなく当たる。

 

「なにっ!?」

 

 が、その予測は外れた。女は姿勢を低くし、目にも留まらぬスピードで横方向にダッシュすると、全ての弾をかわしきったのだ。

 この至近距離からの射撃を避けきるほどの俊足は、まず強化人間に違いない。遺伝子強化された人間の身体能力は、全速力で走りながら、同時に恐るべき正確さで攻撃することさえ可能にするのだ。

 

「まずいっ!」

 

 凄まじい速さで投げ放たれたナイフを、膝立ちの姿勢から咄嗟に横っ飛びにジャンプして避ける。コンマ五秒前にいた場所に、見覚えのある特徴的な形のコンバットナイフが穴を穿った。

 わずかでも反応が遅れたら、頭に突き刺さって即死していた。だが戦慄している暇はない。転がりながら着地すると、床を思い切り蹴って一気に反転し、すぐさま攻撃に転じた。女も向きを変えて、こちらに向かって走りこんでくる。この距離は銃の間合いではないので、ハンドガンをためらうことなく捨てると拳に力を込めた。

 女の右手が素早く動くと、シュッと空気を切り裂く音がして、鋭い鞭の軌跡が眼前に迫った。これを喰らうわけにはいかない。回避するために無理な態勢から頭を勢いよく下げる。バチバチと音がして、電流を伴った鞭が髪を掠めるのを感じた。紙一重でかわせたことに安堵する。

 次はこちらのターンだ。奴は鞭を手元に戻すまで攻撃できない!

 突進した勢いを維持したまま、女の顎めがけて体重と速度を加えたパンチを繰り出した。間違いなく、確実に相手をノックアウトできるスピードとタイミング。

 だが嫌な予感がした。セブン姉さんにはいつも格闘技の手ほどきを受けているが、まるで姉には敵わないのだ。その姉を倒した相手だとすれば、自分の攻撃が通用しない可能性はある。

 はたして自分の拳が顎を砕く寸前、女は姿勢制御スラスターを噴射したかのごとく、急激に横方向へと体を移動させた。それは人間の反応速度を遥かに超える動きだ。

 

「ばかな! なんて動きだ!」

 

 連邦軍の強化人間と対峙したことは初めてだった。しかし、その予想以上の戦闘能力には驚いてしまった。機密情報に書いてあった『ハニートラップしか能がない欠陥兵士』という評価は改めなければならない。

 ぶつかり合うことなく交差し、お互いに異なる方向へと逃れる。敵は強い。こういう場合は、怯むことなく勢いで圧倒するしかないのだ。戦いが長引けば不利になる。

 次の攻撃に繋げるために、わざと床に転がると、その摩擦で勢いを減じて停止し、すばやく起き上がって相手の動きを見定めた。

 

「しまった!」

 

 女はまたしても驚異的な運動能力をみせた。こちらの動きを上回り、すでに攻撃態勢をとっていたのだ。彼女の右手が素早く動き、鞭が生き物のようにしなった。

 バシィンッ!

 がらんとした空間に、鞭が人間の皮膚を打つ音が響いた。

 

「やるわね。私の鞭をつかむなんて。かなり痛かったでしょ?」

「クッ……」

 

 女の言う通り、素手で鞭を受け止めたので、手のひらには凄まじい痛みが生じていた。いや、アドレナリンのせいで、その痛みはかなり減じられているはずだ。たぶん後でもっと酷いことになるのだろう。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。しっかりと掴んだ鞭を腕に勢いよく巻くと、女をぐいっと引き寄せた。

 女はこの戦いを楽しんでいるようだった。わざと力を抜いて近づいてくると、無理矢理に身体を押し付けてきた。お互いの胸が接触し、まるで抱き合うような格好になる。

 

「ふふふ、私を誘ってるの? いいわよ、ここでするっていうのなら」

 

 女は左手を伸ばして胸を弄ってきた。そのおぞましい感触に身体がぶるっと震えた。

 

「ふざけるなぁ!」

 

 怒りに任せてハイキックを繰り出すと、女は鞭を離して後方にバク転しながら攻撃を避けた。

 今が好機だ!

 追いかけて攻撃を加えようとも考えたが、いったん引いて、投げ捨てた銃を拾おうと考えた。鞭で飛ばされたバッグには予備マガジンも入っているから、入手出来れば有利になる。素早くフロアを見回すと、二つが壁のそばに転がっていることを確認した。

 だが銃を拾うために走り始めたとき、女はバク転したあと、そのまま向きを転じて逃走を開始したことに気がついた。あるいは自分が仲間を呼んだ可能性を考え、このまま戦闘を継続するのは不利だと判断したのかもしれない。この閉鎖空間であるアクシズにおいて、女は立場的には不利な状況なのだ。

 

「逃すか!」

 

 ここで逃せば捕らえることは困難になる。ためらうことなく猛然とダッシュすると、そのまま勢いをつけたまま思い切りジャンプして、相打ちになる覚悟で頭部をめがけて飛び蹴りを放った。

 驚いて振り向く女のサングラス越しに目が合う。はたして攻撃は側頭部にヒットし、女は苦悶の声をあげて転倒した。

 やった! あとは戦闘能力を奪って……。

 あらためて油断は禁物だということを思い知らされた。直後、目の前で激しい閃光と轟音が発生したのだ。

 

「フラッシュバン!?」

 

 閃光手榴弾(フラッシュバン)とは、凄まじい光と音で相手の見当識を失わせて行動不能にする武器のこと。

 咄嗟に両腕で防御したが、しばらく何も感じることができず、眩しさと大音量の高周波に苦しめられた。追うことなどできず、素早く後退して身を守ることしかできなかった。しくじった。女はこの隙に逃げてしまう。

 三十秒ほどすると回復し、すぐに追いかけようとも思ったものの、姉が心配でここから離れるわけにはいかなかった。

 

「セブン姉さん!」

 

 急いで姉に駆け寄ると、その無惨な姿に息を飲んだ。床に横たわっている身体はピクリとも動かない。慌てて抱き起こすと、彼女の手足がぐにゃりと垂れ下がった。胸に耳を当てると心臓が動いていなかった。

 身体中の血の気がひいていく。

 まさか。

 

「姉さん!」

 

 もはや一刻の猶予もなかった。心臓マッサージと人工呼吸だ!

 姉の下半身を圧迫しているパイプを取り除き、真っ直ぐに寝かせてから、両手を重ねて胸の真ん中を押した。連続して何十回も圧迫し、続けて気道を確保して口から息を吹き込む。このサイクルを何度も繰り返すのだ。

 親衛隊の衛生担当官であるスリー姉さんの講習は何度も受けている。だから、やり方は間違っていないはずだ。でも姉が息を吹き返す兆候はない。

 こんなときこそニュータイプ能力が役に立つべきなのだ。だが、何も感じられない。というよりも、何を感じればいいのかわからなかった。ニュータイプや強化人間などと、新人類のようなことをうたってみても、敵を殺すばかりで身内ひとり救えないのだ。

 何度も何度もマッサージと人工呼吸を繰り返しても効果はなかった。

 

「諦められるかっ!」

 

 心がもう少しで折れかけたとき、突然脳に閃きが走った。

 姉の精神と身体のリズムというか、鼓動を理解したような。とにかく何かがわかったのだ。感じたリズムに従って、必死に心臓マッサージと人工呼吸を続ける。

 永遠にも感じられた、引き伸ばされた時間のあと。ビクンッと姉の体が痙攣して跳ねた。再び身体が機能し始めたのだ。姉の目が開いて自分を見つめてきたことに安堵する。

 

「ト、トゥエルブ……」

「姉さん!」

 

 姉の命を感じて、自分の身体を同調させることができたのだろう。だから救えた。遺伝子的にコピーされたクローンであるということを、これほど感謝することはなかった。

 だが、まだ安心はできない。姉が重傷であることには違いないからだ。血溜まりの中で横たわる姉は、息も絶え絶えに、涙を流して荒い呼吸をしている。

 はだけた胸には、鞭でつけられたミミズ腫れと酷い火傷がいくつもあって、肌は真っ赤に染まっていた。加えて左腕はおかしな方向に折られていて、右ふとももには銃槍もあった。

 

「あ、あの女は………」

「喋らないで。安静にしていてください」

「あ、あいつはスパイだ。す、すぐに基地に連絡を」

 

 そういうと、姉は再び意識を失った。出血がひどく顔面は蒼白で、危険な状態だ。いそがなければ。

 バッグからコミュニケーターを取り出して急いで基地に連絡し、救急車の手配と、連邦軍のスパイが潜入していることを伝えた。ほどなくスペースポートは閉鎖されるはずだ。

 姉に応急処置を施すためにバッグから軍用のファーストエイドキットを取り出した。衣服を脱がせて怪我を確認していると、あまりの酷さに涙が出てきた。あの女は容赦なく姉を痛めつけたのだ。

 再び受講した緊急医療の講習を思い出しながら治療を施す。真似事でも、とにかく治療しなくてはならない。

 

 まず傷口を殺菌する必要があった。スプレータイプの消毒薬を取り出すと、それを患部に吹き付ける。そうしてからガーゼを置き、殺菌済みの圧迫包帯をぐるぐると巻いた。

 姉は激痛に呻いているが、傷は致命傷となるほど深くはないのが幸いだった。問題は出血が酷い右腿の銃槍だ。

 確認すると弾は貫通していて、体内に弾丸は入り込んではいなかった。弾を摘出するとなったら無理やりナイフで取り出すしかなかっただろう。だが弾が出ていった方の傷痕が酷く、大量に出血していた。

 医療キットをあさり、小型の釘打ち機のような形をした器具を取り出した。使い方は注射器と変わらない。キャップを外して傷口に刺し、プランジャーを押して中身を挿入するのだ。

 姉が悲鳴をあげた。

 これは消毒された小さなスポンジが、体内で血液の水分を吸収して膨らんで出血を止める治療器具だ。どうやら想定通りの機能を発揮したようで、すぐに出血は止まった。安堵しながら、消毒スプレーを吹き、殺菌された圧迫包帯を巻いた。続けて折れた左腕も処置し、あり合わせの添え木で動かないように固定した。

 これで大丈夫なはずだ。

 

 あらかた治療を終えると、一気に疲れを感じて地面に座り込んでしまった。おそらくアドレナリンが切れたのだろう。凄まじい痛みに気づいて手のひらをみると、まるで二倍は膨れたかのように腫れていた。自分も治療が必要だ。

 そう、いまの戦闘で下手をすれば大怪我をするか死んでいたかもしれないのだ。戦闘で生き残れる確実な保証などはない。幸運に感謝すると同時に、それは姉が奴を消耗させてくれていたからこそ呼び込めた幸運なのだと気づいた。姉は、ただやられていたわけではない。だからこそ、あの女を捕まえられなかった自分の未熟さに腹が立った。

 

 遠くからサイレンとワッパの飛行音が聞こえてきた。叫びだしたい衝動をこらえながら、救急エレカに位置を知らせるために立ち上がった。

 

 トゥエルブは、この小規模な戦闘が大きな戦いの始まりに過ぎないことに、まだ気づいていなかった。

 




夏コミ新刊の委託をはじめさせて頂いてます。よろしくお願い致します……!

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