プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

20 / 36
「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

文、挿絵:ガチャM
設定協力:かにばさみ

※Pixivにも投稿しています。


第20回「不穏なアクシズ」

    20

 

 

 

 プルフォウは、親衛隊専用のモビルスーツ格納庫で量産型キュベレイの組み立てを急ピッチで行っていた。

 部品の供給不足が原因でキュベレイの製造は計画より大幅に遅延しているが、姉プルツーと妹のシックスがネオ・ジオン資材コマンドと交渉してくれたおかげで、ようやく三機分のパーツを確保できたのだ。

 

【挿絵表示】

 

 妹のセブンが連邦の工作員らしき女に襲われたと知らされたときは、ちょうど慎重な作業を必要とする、人間でいえば背骨に相当するフレームを介して胴体を接合する作業を行っていたところだった。基本構造の組み立て精度が悪ければ機体全体に影響を及ぼすから、作業の邪魔が入ったことに気分を害しつつコミュニケーターを取り出した。でも緊急メッセージを読んだとたん、煩わしいと思った軽率さを後悔することになった。

 

 妹が重傷を負ったのであれば、もう作業どころではない。

 セブンが運び込まれたアクシズ中央病院に向かうために、メカニックチーフに後を任せると、急いでシャワーを浴び、服を着替えてエレカに乗りこんだ。ちょうど量産型キュベレイを見学するために友人のイロン・バルトニックが工場に来ていたので、送ってもらえることになったのだ。

 メッセージを送信してくれたテンによればセブンは重傷で、容体は予断を許さない状況だった。

 

 動揺で手が震えている。もちろん妹の容態も心配だったが、アクシズに敵が乗り込んできて直接攻撃をしかけてきたことに衝撃を受けていた。戦艦やモビルスーツによる攻撃ではない、生身の人間による破壊工作というスケール感がかえって恐怖を感じさせるが、戦闘技術に優れたセブンを倒してしまうほどの暗殺者がアクシズに自由に出入りしていると想像しただけでぞっとした。

 もはやアクシズは安全地帯ではない。もとより前線と後方地域があると考えていたのが甘かったのかもしれない。

 

「大丈夫?」

 

 エレカを運転しているイロンが心配そうに話しかけてくる。彼は新型モビルスーツの仕組みについて学習すると言って工場にやってきたのに、それが台無しになってしまったのは申し訳なかった。

 

「ごめんなさい。せっかく来てもらったのに。……上官に報告義務があるでしょう」

「どうってことないよ、君のためなら。『緊急を要する輸送任務が発生したので支援作業を実施した』とか適当に報告するよ」

「それでいいの?」

「いつもやってる」

 

 と言っても、部外者の彼に身内のことで迷惑はかけたくはなかった。

 

「このアクシズに連邦軍の工作員が潜伏していただなんて……。信じられない」

「俺も驚いた。アクシズの防衛隊も気が緩んでるのかもな。でも戦争をしてるんだから、スパイはどこにでもいるんだよ。妹さんは、たぶん悪いところに出くわしたんだ」

「……」

 

 機密なので、妹もスパイ活動を専門にしているとは彼に言えなかった。同種の者同士、引き合うことはあるのだろう。似た感覚、行動パターンを持っているからだ。

 

「セブンにもしものことがあったら……!」

 

 大粒の涙が胸にこぼれ落ちた。

 

「俺たちみたいなモビルスーツパイロットは、生々しいことには慣れてないんだろうな。でも戦争は容赦ないんだよ。俺の部隊の仲間だって……」

「そんな話聞きたくない」

「いや、オレは君のことを」

「なら言わないで!」

 

 今は言葉を吐き出したいだけなのだ。自分だって軍人だから、仲間が傷ついたり亡くなったりしたときの、メンタル的な対処方法は知っている。でも頭と心は違うのだ。感情は脳で生み出されるはずだが、胸が苦しくなる理由は良くわかっておらず、ニュータイプや強化人間といったって身体の仕組みが違うことはない。

 

「……ごめんなさい。取り乱してしまって」

「いいさ」

 

 さらに心を乱しているのは、敵も強化人間らしいという事実だ。自分も一応強化人間ではあるのだが、まさか一人で敵陣に乗り込もうとは思わない。おそらくは強化処理とか再調整とか呼ばれるような、心理的に洗脳された兵士なのではないだろうか。アクシズでもパイロットの能力を引き出すために研究されている技術だが、個人的には人間をマシーンとして扱う恐ろしい行為にしか思えず、仮に姉妹がそうした処置を受けると強制されたなら全力で阻止するだろう。

 

 だが、そうした非人道的なことを連邦軍は平気で行なっている。敵のやり口は残虐で、嬲るようにセブンを痛めつけた。連邦軍の強化人間は、精神が崩壊していることもあると聞く。そのような危険人物がアクシズに潜入していて、しかも姫さまを拉致するつもりだったというのだ。

 あまりのことに感情が抑えられず、ハンカチが涙で濡れすぎて役に立たなくなりつつあった。

 

「ハンカチ……使う?」

「大丈夫」

 

 いまは感情を律して論理的に考えなければならない。

 姫様を警護する親衛隊としては、連邦軍がアクシズに直接侵攻してくることを考慮する段階にきているのだ。もちろん、その可能性を全く考えていなかったわけではない。しかし、尖兵としてニュータイプ能力を持つ兵士が送り込まれるならば、これまで以上の警戒と対策が必要となる。

 あるいは、これは全面戦争の前触れなのではないだろうか。そう考えると空恐ろしさを感じた。

 

「プルフォウ、着いたぞ」

 

 気がつくと病院の前だった。

 

「ありがとう。助かったわ」

「何か力になれることがあれば言ってくれよ。一緒について行こうか?」

「あなたも任務があるでしょ。姉さんがいるから大丈夫。それに家族しか入れないのよ」

「君が心配なんだよ」

「弱く見える? 私も親衛隊の兵士なのよ。あなたは早く部隊に帰って」

 

 イロンに礼を言うと、ハンドバッグを掴みエレカのドアを開けて、走り出したい気持ちを抑えながら病院のエントランスに入った。手続きをしてから、急いで関係者の待合室に向かう。集中治療室があるのは別の棟なので、少し歩くことになった。焦燥感にかられながらようやくたどりつくと、部屋には姉スリーと妹のテン、イレブンがいた。任務でこれない姉妹にも容態を伝えているとテンが話していたから、内心命を落とすことはないだろうと思っていたものの、三人が深刻な顔をしていたので急激に不安に襲われてしまった。

 

「スリー姉さんっ、セブンの容体は!?」

 

 感情が抑えきれずに、椅子から立ち上がって出迎えてくれた姉に抱きついてしまう。姉のふっくらした身体に身を預けると、大人びた香水の匂いが鼻腔を満たした。スリー姉さんは、しっかりと抱きしめて安心させてくれた。

 

「いま手術中よ。でも峠は越したわ。トゥエルブが危機を感知して助けに向かったのが幸いだった。敵を撃退して、適切な処置を施してくれたのよ」

「セブンは大丈夫なんですね!?」

「大丈夫よ。アクシズの医療技術は進んでるんです。傷だって、皮膚の再生技術でほとんど跡は残らないんですから」

「よかった……」

 

 セブンの命が助かることに安堵して胸をなでおろす。スリー姉さんの落ち着いた態度にも助けられて、緊張が緩み、部屋の椅子になんとか腰を下ろした。

 妹たち二人を見ると、普段はあまり感情を表さない二人が微笑んでくれたのが嬉しかった。

 安堵したら喉が渇きを覚えて、姉が用意してくれていたドリンクを飲んだ。ハーブの香りが心を落ち着かせる効果を発揮し、ざわついていた心がいくらか収まった。

 

「敵は連邦の強化人間って」

「トゥエルブの話では、相当な戦闘能力があったそうです。セブンは銃や電磁ムチのようなもので攻撃されたようなの。傷は無抵抗で受けたものが大半で、肋骨と左腕も折られていた」

「酷い……」

 

 あまりのことに飲んでいたドリンクを戻しそうになる。敵は妹から情報を聞き出すために拷問したに違いなかった。

 

「でもセブンはその女の力を相当に削いでいたはずよ。でなければトゥエルブだって危なかった」

「セブンは頑張ったんですね」

「そうね」

「でも、あたしセブン姉さんが倒されるなんて、まだ信じられません……」

 

 テンが、長い前髪で右目が隠れた顔を沈ませながら言った。

 

「おそらく奇襲されたのでしょう」

 

 イレブンが確信を持って言った。

 

「セブンお姉様の、兵士としての格闘能力は傑出しています。たとえ相手が複数人だとしても、簡単には負けはしません」

「きっとそうだわ。だってセブンの格闘技術は並外れているし、私たちはみんな彼女から護身術を習っているのよ」

 

 自分もイレブンの意見に同意する。それは少しでも安心したいからでもあった。

 

「ですが、その強化人間が姫様を狙っていたと話していたのは気になります。本当なのですか?」

「本当よ。トゥエルブの話では姫様の誘拐が目的だと話していたそうです。戦争犯罪人として逮捕すると話していたとか」

「そんな、犯罪人だなんて。無礼だわ!」

 

 姫様に対する非礼は許すわけにはいかない。一国の姫君を犯罪者などと。今すぐモビルスーツで飛び出していきたいほどに怒りが湧いた。

 

「地球連邦政府は、姫様を交渉の材料にしようと考えているかもしれないわね。ミネバ殿下が亡命してサイド3に入国すれば、アクシズは一転して反乱分子になってしまう………」

 

 姉スリーは、椅子に脚を組んで座りながら思慮深く言った。こんなときに思うのも変だが、姉の仕草は大人びていて艶めかしかった。そんな女性が話すといっそう深刻な感じがする。

 

「私は、姫様のモビルスーツ訓練の際に、地球連邦軍が襲撃してきたこととの関連性を気にしています」

「まさか偶然ではなかったっていうの、イレブン?」

「はい。間違いなく情報が漏れています。つまり高レベルの機密情報にアクセスできるスパイが内部にいた、ということです」

 

 妹の声は冷静だった。分析の結果、論理的に導き出されたという感じだった。

 

「そうね……」

 

 姉は脇のテーブルに置いていたコンピューター・パッドを手にとった。

 

【挿絵表示】

 

「実は二週間前、アクシズを離れて地球連邦に亡命した文官がいるの。経理を担当していた男で、名前はステファン・コレス。かなりのお金を着服していたことが分かっています。イレブンには、データベースのトランザクションや通信を分析してもらっていたのよ」

「そんな不正行為が、ばれないように出来るんですか?」

 

 あまりに大胆な犯罪に驚きを隠せなかった。物理的にも、ネットワーク的にもセキュリティが高いアクシズで犯罪行為をするなんて。だが、その男がネットワークに対して高いアクセス権限を持っていたなら、けっして不可能というわけではないと気付いた。

 

「コレスは、宇宙引越公社やコロニー銀行との取引を上手く利用したのね。だからハマーン閣下は自らサイド6に赴いて調査を行った。ファイブとテンが警護で同行したのを覚えている?」

「はい。……えっ、じゃあ最近の出来事には全て関連性があったというんですか?」

「おそらくは。ネオ・ジオン情報部では、彼の足取りを追っています。探し出して逮捕しないといけないわ。情報漏洩は上層部でも問題になっているの」

 

 姉はネオ・ジオン高官に知り合いが多いのだ。何人かとは交際している、とも聞いている。地位や権力を持つ男性は、それを誇示しようと付き合っている女性に軽い気持ちで話してしまうことがよくあるらしい。

 

「その男は、以前から情報を漏らしていたんですか?」

「どのくらい前かは分からないけど、外部と不正な通信を行ったのは最近よ。これまでは中間連絡員(カットアウト)とだけ接触していた可能性があるわね。彼は一年戦争時代からジオン軍に所属している。なんらかの心境の変化があったのか……」

「あるいは自尊心か、お金か。巧みな心理誘導を行ったのでしょう。自分の背信行為がネオ・ジオンのためだと思い込んでいるのです」

 

 イレブンが冷静に物事を捉えた。

 スパイする人間は、敵の工作員にうまく乗せられて、自分は重要なことを成し遂げているのだと信じ込まされるらしい。もちろん、同時に報酬もたっぷりとはずまれる。そのうち引くに引けないところまで突き進んで、ついには悪事が露呈して亡命するというわけである。

 地球連邦軍との冷戦が長引き、経済が疲弊すれば、敵に籠絡される人間も増えてくるだろう。経理担当士官が亡命を企てるほどだから、アクシズの経済状況は思った以上に悪化しているのかもしれない。だから、アクシズは早急にサイド3と一緒になる必要があるのだ。

 

「居場所の見当はついているんですか?」

「少し前まではサイド3にいたようね。でも、いまは月に潜伏しているらしいわ」

「月に?」

「アナハイム・エレクトロニクス社やルオ商会の人間と接触しているみたいなの」

 

 ルオ商会とは、地球のホンコンシティを本拠地とする総合商社のこと。だがそれは表向きのことで、裏社会にも繋がり、ブラックマーケットに兵器を横流ししているらしい。エゥーゴの地球での支援組織『カラバ』にも資金提供しているが、カラバの実体は企業の私兵のようなものだろう。こうした企業が組織した軍事力ほどやっかいなものはない。モラルも低く、市民の治安を乱すことが多いからだ。

 

「亡命ですね。汚い男。身の安全と引き換えに情報を売ろうというんだわ。企業にとって価値がある情報は、お金が動くところです」

「月に調査に向かう必要があるわね。プルツー姉さんとシックスは、そのために上層部と交渉しています」

「工作員の足取りは? イレブンは銃声を聞いたそうですけど、民間人にも目撃情報があるんじゃないかと、私思うんです」

 

 テンが静かに言った。

 

「そう。シャトルの停泊記録や入国手続きを調べてるところよ。でも抜け目ない工作員だとすると証拠は見つからないかもしれないわね」

「過去にはモビルスーツでアクシズに潜入したエゥーゴのパイロットもいたらしいです。アクシズって、ダミー隕石を配置しすぎですから。セブンは、密かに潜入した工作員が、スパイ行為か破壊工作をしていたところを見てしまった……」

「エコーズのような特殊部隊かもしれない」

 

 エコーズとは地球連邦軍が公式には認めていない特殊部隊で、高い練度と専用装備を備え、情報収集や破壊工作、要人暗殺、モビルスーツ戦闘までこなす戦闘集団だ。そんな部隊が展開しているなら、厄介なことになる。

 

「彼女だから気づいたのかもしれないわね。みんなも気をつけて。シックスには情報部他の部隊にも注意喚起してもらいます」

「わかりました」

 

 みな頷いたが、緊張からかその動作はぎこちなかった。未来を予測するニュータイプ能力は、このような状況にこそ発揮されるべきだといつも思うのだが、無論そのような便利な能力ではなく、ただ不穏な空気が蔓延しているな、という漠然とした思いしか感じなかった。

 

 だが、ひとつだけ確実なことは、セブンをひどい目に合わせ、姫様を侮辱した人間はけっして許すことはできないということだ。必ず探し出してやっつけてやるとプルフォウは心に誓った。




夏コミ新刊の委託をはじめさせて頂いてます。よろしくお願い致します……!

■とらのあな
https://ec.toranoana.shop/tora/ec/cot/circle/LUPA046P8X76dC6Td687/all/

■COMIC ZIN
http://shop.comiczin.jp/products/list.php?category_id=6289

■メロンブックス
https://www.melonbooks.co.jp/circle/index.php?circle_id=32971
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。