プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち 作:ガチャM
舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。
文、挿絵:ガチャM
設定協力:かにばさみ
※Pixivにも投稿しています。
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アクシズの旗艦グワンバンがサイド3に堂々と入港してきたことは、ジオン共和国に大きなインパクトを与えていた。大げさではなく、シリンダーの内側に作られた国を圧迫せしめる外圧そのものだった。地球連邦軍と一触触発の状態にあるネオ・ジオンの艦艇が、国民に予告されることなく突然に来訪したのである。ジオン共和国は地球連邦の友好国なので、それは明らかに連邦政府に対する挑発行為だった。
しかし、国民はアクシズの意図を図りかねていた。
ジオン共和国に地球連邦政府との仲介役を頼もうとしているのか、あるいは併合を望んでいるのか。袂を分かった同胞が何をするつもりなの分からず困惑するばかり。
そのような状況では、どのような報道にも飛びついてしまうのが人間の心理であり、仮に丸いマスコットロボットが報道したとしても熱心に見入ってしまうに違いなかった。
「今日は軍事評論家のガレット・ギャレット氏をお招きしています。ガレットさんは国際コロニー関係論の専門家で、一年戦争に関する著作も数多く書かれています。今日はよろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
ジオン共和国の国営放送では、グワンバン訪問に関する特別番組が始まっていた。人当たりの良い女性アナウンサーと、細いフレームのメガネをかけた、少々神経質そうな軍事評論家が挨拶し、番組は和やかな感じで進められた。
「早速ですが、アクシズについて教えて頂けないでしょうか」
「わかりました。みなさんご存知だと思いますが、アクシズとは旧ジオン公国が所有していた資源衛星のことで、地球圏に移動してくる前には、火星付近のアステロイドベルトに位置していました。かなり大きな小惑星です」
軍事評論家のガレットは、アクシズの全景をとらえた写真を見せながら説明を始めた。
「火星は地球からずいぶん遠いですよね? なぜそんなところに基地が必要だったのですか?」
宇宙空間に浮かぶスペースコロニーに居住する人間にとっても、火星は遥か彼方の別世界なのである。アナウンサーは一般的な共和国国民の意見を代弁していた。
「核融合炉の燃料であるヘリウム3を採取するために、木星間輸送船が航行していることはご存知でしょうか」
「たしか何年もかけて木星まで旅をして、燃料を取りに行くのですよね?」
「はい。そのような惑星間航行を行う宇宙船の中継基地としても、アクシズは利用されていたのです」
「中継基地?」
「艦船に燃料や水、食料を提供する基地です。もちろん宿泊施設もあります」
「なるほど、長旅の疲れをとる宿みたいなものなんですね」
「ははは。まあ、そんなところです」
女性アナウンサーはかたい雰囲気を和らげる術を心得ている。無論、この女が中継基地を知らないほどの馬鹿ではないことは、事前の打ち合わせでわかっていた。
「では、今回サイド3に入港したグワンバンとは、いったいどんな船なのでしょうか?」
「はい。グワンバンは小惑星アクシズで建造された戦艦です。この船も火星から地球まで航行することが可能で、資源や鉱物を運んだりもできます」
「これも輸送船なのですか?」
「いえ。本来は軍の旗艦と呼ばれるものです」
「旗艦とはどのような船なのでしょうか? たしかに船は旗を掲げますよね」
「まさに旗を掲げるのです。文字通り軍の指揮、命令を行う艦で、総司令官が乗り込むこともあります」
「では、このグワンバンにも司令官が乗っているのですか?」
「場合によっては乗っているでしょう。旧ジオン公国にもグワジンという旗艦がありました。グワンバンは、その発展型だと言われています」
細部はあまり似ていなかったが、一般的なレベルではそれなりに精巧に作られている艦船の模型をテーブルに並べて説明を始めた。
「こうしてみると良くわかると思います」
グワンバンとグワジンは、どちらも滑らかな流線型をした優雅な船で、同じ系譜であることが一目でわかった。
「本当に良く似ていますね」
「アクシズはグワンバンの同型艦を少なくとも二隻所有しています。他にも先の戦争で一隻沈みましたが、より大型のグワダン級、さらには最新鋭艦のサダラーン級が確認されています」
「小惑星で、そんなにたくさんの船が作られたのですか?」
「驚くべきことです。他にも巡洋艦を十数隻保有していて、各艦には人型兵器であるモビルスーツが二十機ほど搭載されていますから、アクシズはかなり強力な艦隊を保有していると考えるべきでしょう」
「では、そこまでの戦力をもつアクシズの目的は何なのでしょうか?」
女性アナウンサーは一息おくと、あらかじめ決められたタイミングで核心をつく質問を発した。顔は笑っていたが内心はかなり緊張しているように見える。あくまで、ふと質問を思いついてしまった、という雰囲気を出せ、というのがプロデューサーの指示だったと思い出した。
「それは明らかです。スペースノイドの自治権の拡大と地位向上です」
視聴者を安心させるかのように自信たっぷりに発言する。影響力のある人間が自信をこめていえば、それは事実となるからだ。
「軍事力で地球連邦政府を打倒するのですか?」
「違います。アクシズは各サイドに特使を派遣していますが、スペースノイドの力をあわせて、あくまで平和的に地球連邦政府に対して自治権拡大の要求を行うつもりでしょう」
「では軍事行動が目的ではないわけですね?」
「その通りです。この数年、スペースノイドを弾圧、虐殺した特殊部隊ティターンズなど、地球連邦軍の横暴な行動が目立っています。そのティターンズを鎮圧したエゥーゴも、いまやアクシズと地球連邦政府との交渉を邪魔して利益を得ようとする身勝手な組織にすぎません。アクシズは、スペースノイドが感じている不満を改善しようとしているのです」
自分は軍事評論家を名乗ってはいるが、実際はアクシズ同盟派の広報担当のようなものだ。事実、銀行口座には、かなりの入金がある。しかしアクシズにとっては、それで共和国国民の反発が抑えられるなら安いものなのだ。
一年戦争という大戦争を引き起こしたザビ家が率いたジオン公国を憎むスペースノイドは多い。ジオンは地球に質量爆弾としてスペースコロニーを叩き落としたから、その悪行は未来永劫避難されるだろう。戦争に負けたジオン公国はジオン共和国となり、戦後八年を経てようやく手に入れた平和なのだ。ジオン公国の残党であるアクシズを受け入れない人間が多いのは当然で、さらに、つい先日アクシズは再びコロニー落としをやってみせたから、いくら近年の地球連邦軍がスペースノイドへの弾圧を強化していても、ネオ・ジオンを正当化するのはなかなか骨が折れる作業なのである。
まあ、大金がもらえるなら嘘だろうと創作だろうと、なんだって話してやるつもりだった。
「アクシズ、ネオ・ジオンはスペースノイドの救世主になるのではないか、というのが私の考えです」
「なるほど……」
「そのための行動力と資金を、アクシズは有しています」
「では、アクシズは、なぜそこまで資金を持っていたのでしょう?」
確かにそれは当然の疑問だ。数年前までは宇宙の片隅、火星のアステロイドベルトに位置していた小惑星基地が、なぜこれほどの戦力を拡充できたのかはほとんど知られていない。
女性アナウンサーは、観ている者が求めている情報を伝えるために、あくまで自然に話を進めた。次は、アクシズの資源採掘衛星としての能力を解説しなければならなかった。
「過去数年間、アクシズは地球圏に対してかなりの量の鉱石を供給していました。アステロイドベルト産の安くて質の良いレアメタルは地球圏に輸出されて、スペースコロニーや宇宙船、モビルスーツの建造などに使われたのです。地球圏を復興させた影の立役者だと言えるかもしれません」
「私たちの生活を支えていたわけですね」
「はい。地球圏の資源は年々減り続けています。アクシズのような資源衛星は、今後ますます重要になってくるでしょうね」
貿易の実体は正規ルートでの輸出ではなく密輸に近いものだったが、そこにあえて言及はしなかった。実のところ、強大な軍事力と資源、工業力を有するアクシズは、地球圏に存在していることで地政学的な緊張感を高め、結果的にレアメタルやヘリウム3の価格をつり上げているのだ。レアメタルやヘリウム3は、アクシズも供給しているのである。
「では、ここで専門家の方へのインタビューをお聞きください」
自らの言説を確かなものにするために、総合商社であるルオ商会の資源開発担当者のインタビューを用意していた。
『アクシズの資源供給能力は比類がありません。その埋蔵量と採掘された鉱物の品質から評価すると、資源衛星としての能力はフィフス・ルナやパラオを遥かに超えています』
ルオ商会の人間は、アクシズで採掘される鉱石はフィフス・ルナやパラオのものより質が良いことを明らかにした。そして、その理由として、アクシズに逃れた多くの旧ジオン公国技術者が、精錬技術の改良に関わっているだろうことを説明した。
加えて、モビルスーツの装甲などに用いられているガンダリウム・ガンマ合金と呼ばれる新素材も、おそらくアクシズで開発されたものだろうとも語った。これで視聴者はアクシズの潜在能力がわかったはずだ。
「艦船やモビルスーツを製造していることからも分かりますが、アクシズの技術力は相当に高いのです」
「よくわかりました」
「現在アクシズと地球連邦軍とは緊張状態にあります。それは誤解から生まれたものですが、サイド3はアクシズを迎え入れて、地球圏に平和をもたらすという役目を積極的に果たすべきでしょう」
地球連邦政府が、サイド3をネオ・ジオンに譲渡するのではないかという噂が、ジオン共和国では囁かれている。それが現実となれば、軍事政権が台頭し、ひいては八年前に大戦争を引き起こしたジオン公国が復活する可能性があると、サイド3の住民は恐れているのだ。
自分のようにテレビ番組に出演している『評論家』たちは、そんな国民感情をマスコミを通じて抑えるのが仕事なのである。
「ガレットさん。わかりやすい解説ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「引き続き、サイド3旧公王庁前から中継をお送り致します」
ようやく放送が終わり息をついた。そして、プロデューサーの安心した顔を見て上手くいったことが分かった。彼も自分の首がかかっているのだ。上層部が番組の出来を気にくわなければ、プロデューサーは田舎の観光コロニー紹介番組か、ショッピング番組の制作担当に異動することになる。
ガレット・ギャレットは、とりあえず自分の役割はこなしたと判断して、銀行口座に金が振り込まれたことを確認しようと思った。