プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

文、挿絵:ガチャM
設定協力:かにばさみ

※Pixivにも投稿しています。おかげさまで冬コミが無事に終わったので連載再開します。


第24回「ネオ・ジオン士官として」

     24

 

 

 

「驚いた」

 

 戦闘で負傷した妹プルファイブを見舞うためにアクシズ中央病院を訪れていたプルフォウは、サイド3の報道番組を見て思わず声をあげてしまった。

 

 

「なぜですか? フォウお姉さま」

 

 隣に座っているイレブンの冷静な声は、すべては予測通りだとでも言いたげだった。自分は、サイド3は批判的な論調が主流だと考えていたから、そのすました顔が少しばかり憎らしく思えた。

 

「だって、ずいぶんアクシズに好意的な報道だったじゃない。正確かどうかは別にしても、ジオン共和国の人たちは素直に受けとめてくれるの?」

 

 病室には姉のスリー、妹のテン、トゥエルブもいるが、レーザー通信による国際映像で流れてきた番組の内容には、皆コメントしかねているようだった。

 負傷した妹の見舞いにきているからこそ、番組の内容には困惑してしまうのだ。たとえ元は同じジオン公国だったとしても、アクシズは地球連邦軍と戦争をやっていて、ジオン共和国は地球連邦政府と平和条約を締結しているからだ。

 サイド3国営放送はアクシズに好意的で、見ていて少し恥ずかしくなるほどにネオ・ジオンを正当化してくれたが、それを単純に喜んでしまうほど自分たちは能天気ではない。客観的、戦略的な視点を持てなければ士官失格なのである。

 

「最近行われた国営放送によるネットワーク上でのアンケートによれば、『アクシズを好まない』と回答した人の割合は七割ほどだったそうです。もちろんネットワークコミュニティで積極的に発言する人々は政治的に熱心なわけですから、いわゆるサイレントマジョリティー層がアクシズに反対しているかは分かりません」

 

 イレブンが、コンピューターパッドにアンケート結果のグラフを表示させながら言った。

 

「ジオン共和国の人たちは戦争にうんざりしてるだろうから、アクシズに不信感を持つのは当然でしょうね。……そうか。つまり、この好意的な報道は世論を操作するためだってこと?」

 

 そう訊ねると、イレブンは頷いた。

 

「はい。アクシズの情報戦略の一環でしょう。ジオン共和国のアクシズ推進派と協力して、適切な情報を発信して民衆をコントロールすることができれば、それは最善の策ですから」

 

 イレブンはバニラ味アイスのレーションを飲んで冷たく言った。主体性なしに周囲に流される人々が好きではないのだろう。

 ちなみに妹が飲んでいるレーションは、彼女が開発に参加している、味と栄養を兼ね備えた試作品だ。自分もひとつ分けてもらって飲んでみる。

 

「美味しい。戦闘中にこんな贅沢していいの?」

「ありがとうございます。飲みやすいパッケージへの改良、保存期間、製造コストの問題をクリアして量産したいと思っています」

「頑張ってね。何か協力できることがあれば言って」

「わかりました。フォウお姉様には、製造工程を見て頂きたいと思っていますので」

「楽しみだわ。……そう、ジオン共和国の人たちも、このアイスみたいな美味しい利益がないと味方してくれないわよね」

「上層部はその点も考えているでしょう。つまるところ、景気が良くなり、生活レベルが向上すれば大衆は満足するのです。地球はスペース・コロニーからの輸入品に対して高い関税をかけています。関税の撤廃など、地球連邦政府と対等な条件で平和条約や貿易協定を締結することが最終目標です」

「でも、ジオン共和国はアクシズを本当に理解した上で味方になってもらえるのかしら?」

「最初は形から入ってもいいのでは? お見合いみたいなものです。お互いによく知らない方がいいこともありますから」

「なんなの、それ?」

「あ、開会式が始まりますよ」

 

 イレブンが言う例えがわからなかったので困惑したが、体良くはぐらかされてしまった。

 サイド3の国営放送は、ズムシティ旧公王庁前広場に大勢の人々が集まっている様子を映しだしていたが、その光景は、まるでたくさんのエキストラを集めた映画の撮影のようだった。前衛芸術的な、奇怪なオブジェめいた形をした旧公王庁は、まるで映画のセットみたいなのだ。

 そんな特徴的な建築物の足元に設けられた式典会場では、いままさに開会式が始まるところだった。

 

【挿絵表示】

 

『ジオン共和国国民の皆様。アクシズから参りましたトリッパーと申します。本日は、このような暖かなセレモニーを設けて頂きましてありがとうございます。アクシズを代表して御礼を述べさせて頂きます。今日という日が、ジオン共和国とアクシズにとって素晴らしい日にならんことを切に願っております』

 

 グワンバンのトリッパー艦長は、友好的な親善訪問であることを強調した。そのスピーチに呼応して、今夜開催される豪華なパーティーに招かれた財界の著名人や俳優、スポーツ選手から拍手が沸き起こり、続いて観衆からも大きな拍手が沸き起こった。

 

「いい雰囲気ね」

「艦長はジオン共和国に対して友好と平和をアピールしていますが、それは同時に地球連邦政府へのメッセージでもあるわけです」

「イレブン姉さん、つまり同盟を結んで仲良くしよう、とアピールしているのですか?」

 

 トゥエルブが率直な質問をする。彼女も左手を怪我していて、厚く包帯を巻いている。

 

「大衆にはそう思ってもらいたいのです。でも指導者に対しては反対の意味が込められていますよ」

「反対の、ですか?」

「脅しです。武装した戦艦で首都に乗り込んでいるわけですから。これ以上ない軍事的プレゼンスを示しているんです」

「あ、そのような意図が」

「視点を変えて物事を捉えることを心がけてくださいね、トゥエルブ」

 

 イレブンが、ちょっと先輩風をきかせながら言った。いずれにせよ、地球連邦政府高官はこの光景を苦々しく眺めているに違いなかった。

 アクシズは、地球連邦軍の内戦が終わった直後から各サイドに使節を送っているが、その目的は軍事的プレゼンスを維持することと同時に、スペースノイドに敵意を持たれないことを第一の戦略としたからだった。八年前の第一次ジオン独立戦争におけるジオン公国の敗因は、他のサイドと敵対したことも大きかったと理解したのだ。だからアクシズは各スペースコロニーに使節を派遣し、市長や議員を招いたパーティーを開き、ジオンの姫ミネバ・ザビ殿下のパレードを行ったりした。

 その努力が身を結んで、ジオン・ダイクンの革命以来のムーブメントが起これば、それは地球連邦政府に対する圧力となったに違いない。地球圏に改革が起こるならば、それは大衆と文化によるものだろうというのが、少し前までのアクシズ指導者の考えだったはずだ。

 

『トリッパー艦長、ありがとうございます。本日はアクシズの同胞をサイド3に迎えることができ、大変嬉しく思っております。過去の不幸な歴史を乗り越え、共に力を合わせてスペースノイドの平和と繁栄のために貢献できれば、これ以上の喜びはありません』

 

 続いてサイド3市長が祝辞を述べると、再び会場から大きな拍手が巻き起こった。これほど大勢の民衆が集まっていたことは驚きだが、そこには万全の準備があったのだろう。

 スピーチを終えた市長が艦長に歩み寄ると、二人はしっかりと握手をした。

 

「艦長、堂々としてるじゃない?」

「グワダンを沈めてしまったので、まさに汚名返上の千載一遇の機会だと考えているのでは?」

「ジオン共和国と同盟を結べれば、他のサイドとの関係も改善するかもしれないわね。……艦長は責任重大よ」

 

 そう、アクシズとサイド3以外のスペースコロニーとの関係は再び悪化していた。その最大の理由は、地球連邦政府との交渉が決裂して、コロニー落とし作戦が実行されたことにあった。

 ネオ・ジオンと地球連邦政府との交渉決裂後、連邦内で存在感を見せつけたいエゥーゴはアクシズ攻略作戦を仕掛けてきたが、その奇襲を戦術を駆使して退けたあとで、アクシズの一部艦隊が先導して、あらかじめ用意されていた廃棄コロニーを地球に落としたのである。

 それは、これまでの外交努力が一瞬にして崩壊したことを意味した。自分たちスペースノイドが住む居住地を爆弾として使われれば、その印象は最悪だし、民間人を巻き込んだことは作戦として致命的だった。

 ネオ・ジオン外務省は、この破滅的な状況をなんとかフォローするべく『ネオ・ジオンはけっしてコロニー落としを望んでいたのではない。ダブリンへのスペースコロニー落下は不幸な事故だった。アクシズのネオ・ジオン艦隊は、地球に降下し始めたスペースコロニーを全力を持って止めようとしたが、残念ながら間に合わなかった』という声明を出したのだが、もちろんたいして役には立たなかった。

 

 実際のところ、ネオ・ジオン将兵の大半にとってもダブリンへのコロニー落とし作戦は寝耳に水で、最高機密である作戦の全貌を知る者は少なく、軍部はしばらくの間混乱していた。徹底的に情報の区画化、つまり作戦に関わる部隊のみに情報を開示してセキュリティ保全を行う手順が実施されたのだ。それほどにコロニー落としは戦局を左右する作戦なのである。文字通りスペースコロニーを巨大な質量爆弾として用いる、攻撃というよりは災厄にも等しい人類史上最大の攻撃手段であり、その威力は地球の自転スピードを何ミリ秒か加速させてしまったほどだった。

 

 ネオ・ジオン士官なら作戦の成功を喜ぶべきかもしれない。でも、自分は否応無しに民間人を巻き込んでしまうこの大量破壊兵器には、決して賛成することは出来ない。もちろん、夢の中に住む人間のつもりはない。アクシズが生き残るために必要な作戦だった、ということくらいは想像できる。それほどまでに地球連邦軍とは圧倒的な戦力差があり、ネオ・ジオン軍は、眠れる巨人を起こさぬように注意深く戦っていたのだから。

 つまり、わざわざ地球に出向いて地球連邦政府の上層部のご機嫌をとり、エゥーゴを好戦的で過激な地球連邦軍内の鼻摘まみものと思わせ、エゥーゴを排除した報酬としてジオンの自治を目指すという戦略をとったのである。

 そんなストーリーをハマーン閣下が破綻させた理由がまるでわからなかったが、あえて彼女を擁護するなら、それで戦争が早く終結すると考えたのだろう。全面戦争になって人類そのものが絶滅するよりも、それよりは少ない犠牲で平和が訪れるという理屈だ。

 でもハマーン・カーンは、この軍事作戦が姫様の名を傷つけることになるとは考えなかったのか? これでは一年戦争の繰り返しだ。そう思うと、最近独裁的な政治体制を築きつつある女宰相に怒りを覚えた。彼女はミネバ殿下の威光をバックにして権力欲を満たし、自分の私腹を肥やしている、と密かに批判する人間もいる。権力が集中し過ぎると政治が腐敗するのは世の常だ。

 

『コロニー落としが不満なようだな? 悩みを戦場に持ち込むなよ』

 

 姉プルツーと交わした会話を思い出す。姉は、感情的な脆さや弱さは自らの死を招くと叱責したのだ。

 

『個人的な感情は軍務に不要だと』

『まあな。とはいえ、大量破壊兵器を好む奴はいないだろう。実際、ネオ・ジオン内部にも反対意見はあったようだね。だが、ハマーン閣下は直属の部下に命令して決行した。……あたしもこの目で見たが、凄まじい破壊だったよ』

『姉さんもダブリンに?』

『エゥーゴと戦闘になったのさ』

 

 姉の声は、いかにも不愉快そうな、苦々しい感じだった。妹を叱責したのは、自身への反省も込めたものだったのではないか、と思えてしまうほどに。姉はクールに見えるが、実のところ感情を隠すことがあまり得意ではない。

 

『民間人を犠牲にするなんて酷すぎます』

『フン、良心が痛むなら、バカでかいミサイルを撃ったのだと解釈するんだね。付近にいた民間人は不幸にも巻き込まれてしまった。そう思えばいいのさ』

『巻き込まれた?』

『そうだよ。不幸にもな』

『何も殺すことはなかったんです。スペースコロニー自治体とは仲良くし、地球連邦政府を敵とみなしてスペースノイドの連帯感を醸成する。それがネオ・ジオンの戦略ではなかったのですか? これでは地球やコロニーに住む全ての人達から敵対されます』

『だったら全員を潰すまでだ』

『それは乱暴すぎます!』

 

 そう非難すると、姉の表情が変わった。

 

『戦場で甘いことを言ってられないんだよ! 相手も必死なんだ。やらなければ、やられる。戦闘中に相手が誰かなんて気にしてられるか!」

 

 姉は感情的になってきていて、その突き放した言い方に、自分もつられて感情的になってしまった。

 

『地球や宇宙に住む人々をすべて排除して、ハマーン閣下は何をしようというのですか!? 自らの状況を省みず、冷静さを欠いた人間に政治や軍の全権を委任することは危険です。権力が集中し過ぎているんです。このままではアクシズは破滅に向かって……』

 

 このところ感じていた、組織に関する不満を姉にぶつけてしまった。姉は上官だが、身内だからなんでも話してしまえるという安心感もあったからだ。

 

『そのくらいにしとくんだな。ご大層に体制批判か? まるで反乱を起こすみたいに聞こえるぞっ』

 

 姉が急に血相を変えて胸ぐらを掴んできたので驚いてしまった。その顔には、怒りとも焦りともとれる表情が浮かんでいた。

 

【挿絵表示】

 

『そ、そんなつもりは』

『お前はネオ・ジオンの軍人なんだ。たとえ思うところはあっても、表に出すんじゃない! 軍人が思想を持つなよ? この意味がわからなければ営倉にぶち込んでやる!』

『違います! 私はただ……。あっ!?』

『消えな!』

『す、すみませんでしたっ』

 

 姉に頬を思い切り叩かれた。

 激昂した上官が歩き去り、後には涙を流した迂闊な部下が取り残された。

 少しの異論さえ認めない威圧感と強烈な一撃に、反論する意思は消え失せていた。 理不尽な叱責に、悔しさと怒りと情けなさがないまぜになる。

 が、客観的にとらえてみれば、傲慢な態度をみせて上層部から厄介者と目を付けられないように忠告してくれたのだと気付いた。新衛隊は独立部隊で特権が与えられているから、ただでさえ軍上層部から疎まれているのだ。ハマーン閣下直属の部隊があげた戦功に対して親衛隊が異を唱えれば、軍の主導権を握りたいと思われるのは必至だ。

 もう二度とネオ・ジオンへの不信感を表さないと、そのとき誓ったのだ。

 

 意識を報道番組に戻すと、ズムシティ上空では、派手なデモンストレーション・カラーに塗装されたジオン共和国の《ハイザック》。そしてグワンバン艦載機である、非武装の《ザクⅢ》や《ドライセン》などのアクシズ新鋭モビルスーツが、アクロバットショーのようなデモ飛行を行ってみせていた。

 

「お姉さま? 思いつめたような顔をしてますが、大丈夫ですか?」

「あ……そう見えた? キュベレイの組み立てで疲れてるんでしょうね。このセレモニーで、ジオン共和国の国民が少しでもアクシズを良く思ってくれたら良いわね」

 

 話題を逸らすために、姉妹に話題をふってみる。自分だけで考えていると暗くなってしまうから。

 

「あいつらは弱腰の奴らだから、どーせ何もしねーよ! これまでもオレたちを無視してたじゃねーか! 気に食わねえ連中だぜ。弱っちい味方なんて、邪魔なだけだね!」

 

 右脚を吊り下げられてベッドで寝ているファイブが大声で怒鳴った。

 

【挿絵表示】

 

「ファイブ、共和国は私たちとは違うのよ」

「あいつらだって、もともとはジオン公国なんだろ?」

「この八年間で平和な生活に慣れすぎてしまったのよ」

「楽しやがって! なんでオレたちばっか苦労しなくちゃいけねーんだよ」

 

 必死に戦っている人間からすれば、サイド3の国民は事なかれ主義の無責任な人たちに思えてしまうだろう。スペースノイドの自治独立よりも、美味しい食事や旅行を優先させる人たちだ。

 もちろん考え方は人それぞれだし、自分だって幸せな人生を送りたいとは思う。逆の立場から考えれば、アクシズなどは好戦的な粗野な人間の集まりにしか見えないのだ。環境が違いすぎるのである。

 

「共和国の立場では仕方のないことよ」

 

 姉スリーがファイブを諭すように言った。

 

「知っていると思うけど、ジオン公国が解体されて生まれたジオン共和国は、一年戦争終結時に地球連邦政府と講和条約を結んでいるの。ネオ・ジオンに味方をすることは、講話条約の破棄、敵対行為にあたるから、そうなればサイド3は即時占領されて自治権の放棄を要求されてしまうでしょう」

 

 姉は、客観的な視点で共和国の立場を解説してみせた。

 

「知らねーな。連邦野郎の言いなりの奴らにジチケンなんか必要ねえよ。そーだろ」

「ダルシア政権は地球連邦政府の傀儡政権だから、多くは期待出来ないの。でも、だからこそジオン共和国は戦争責任を回避することができたのよ」

「首相の息子も政治家ですが、彼はアクシズに好意的で独立志向だと聞いています」

「イレブン、するどいわね。野心家は、こういう複雑な状況を利用して成り上がりたいと考えるもの」

「スリー姉さんは、サイド3に何度か行ってますよね?」

「ええ、遊びで行ったみたいなものですけどね」

「どうなんですか? 街の雰囲気は」

「平和よ。この戦争に巻き込むのは気の毒に思えるほどにね」

「連中の助けなんて、いらねーっ! アクシズだけで連邦野郎を潰せるぜ!」

 

 ファイブは怪我をしていない右腕を振り回した。

 

「そうは言っても、サイド3の工業力はアクシズにとっては魅力よ。旧ジオニック社の施設でモビルスーツを生産できれば、生産数はおよそ三倍になる。部品供給だって、月のアナハイム・エレクトロニクス社を頼らなくてもよくなるわ」

「フォウお姉さまの言う通りです。戦力の拡充は緊急課題ですが、アクシズの工場は、すでにフル稼動状態にあります。モビルスーツの設計は複雑化する一方で、製造効率は低下しています。解決策は、比較的製造し易い機種を外部の工場に委託して、生産ラインを整理することでしょう。サイド3は、連邦政府の監視が厳しいという懸念はありますが」

 

 イレブンが言うように、いくらアクシズに工業施設があるとは言っても、その生産力には限りがある。サイド3の数十基ものスペース・コロニーは強固な経済基盤となりうるのだ。

 

「アクシズにとっては、ジオン共和国と同盟を結ぶことは絶対に必要だと思うわ。急いては事を仕損じるというから、少しずつ関係を良くしようと思ってるんでしょうけど……。グワンバンは、しばらくサイド3にとどまるみたいね?」

「ですが、グワンバンが地球連邦軍に拿捕される危険性もあります。港を戦艦で抑えられたら、出航することは困難です」

 

 イレブンの懸念はもっともで、いくらジオン共和国に自治権があるとはいっても、地球連邦軍が圧力をかけてくることは考えられることなのだ。不可侵ではあっても、包囲されたら閉じ込められてしまう。

 

「共和国も艦隊を持っているけど、味方してくれはしないでしょうね。トゥエルブ、グワンバンにモビルスーツはどのくらい搭載されているの?」

「はい、正確な機数は把握していませんが、親善目的なので少ないはずです。多くて六機程度でしょうか」

「それは少ないわね……」

「ですが、ドライセンやザクⅢなど最新鋭機がそろっていますし、しかも、それだけではありません」

「それだけではない?」

「はい。あの艦には試作機が」

「まさか、それってプルツーお姉さまの?」

 

 知らなかった事実に驚きの声をあげると、トゥエルブが頷いた。

 

「はい、フォウ姉さんに報告しようと思っていました。私も先ほど知ったのですが、NZ-000クィン・マンサが極秘テストのために搭載されているようなのです。プルツーお姉さまが不在なのは、パイロットとして同行したためかと」

「あれが組み上がったの!? まだ製造段階だとばかり思っていたけど」

「アクティブ・バインダーは未完成ですが、本体のみでテストしているようです」

 

 アクティブ・バインダーとは、シールドとウェポン・コンテナを兼ねた、本体ほどの大きさがあるパーツで、クィンマンサには肩にフレキシブル・アームを介して取り付けられる。

 その自由度の高さは、四肢を動かさずにAMBACを行うことができるほどで、キュベレイタイプが装備している肩のバインダーをさらに発展させたものなのだ。

 

「急ぎすぎるわ。サイコミュの調整だって終わってないだろうし、プルツーお姉さまへの負担は大きいはずよ。まさか、エイトやナインにはテストさせてないわよね?」

「二人は、別の仕事でサイド3に向かったようです」

「そう、良かった……」

「フォウ姉さんが開発チームに加わればいいんです。姉さんならサイコミュのことも良く分かっていますから」

 

 トゥエルブが真剣な顔で訴えかけてくる。

 

「私も量産型キュベレイが完成すれば、イレブンと一緒に開発チームに加わる予定だったの。でも、その前に完成させるみたいね」

「上の連中は、所詮オレたちを駒にしか考えてねーのさ。今度命令に反抗して、ちょっと脅かしてやるか」

「ファイブ、それ以上はやめなさい!」

 

 普段は穏やかな姉スリーが、珍しく怒った調子で叱責した。その態度は、姉プルツーがコロニー落としに反感を抱いた自分を激しく叱ったのと似ていて、その類似性が妙に気になった。

 

「冗談くらい、いいじゃねーか!」

「アクシズの士官としての自覚を持ちなさい!」

 

 姉が怒りを露わにするのは珍しいことだが、部屋の外を気にしているのだと気付いた。この会話を誰が聞いているかわからないからだ。といっても、ファイブの冗談をそこまで深刻に捉えることはないとは思う。

 

「……オレがわりィみたいだな」

 

 部屋に気まずい沈黙が訪れた。その雰囲気を変えるために、わざとモニターの音量をあげた。

 ズムシティ旧公王庁では、セレモニーが進行中で、さらに多くの人々が集まっていた。会場にはステージが設けられていて、派手な装飾パネルが据え付けられている。

 ふと、パネルに貼られた写真の人物に目が止まった。

 

「えっ、あれはエイトじゃない!?」

「本当ですか?」

「間違いないわ。会場で歌うみたい。こんな式典で歌わせるなんて、事務所は何を考えてるの」

「おそらくは、ジオン共和国の政治的な判断でしょう。事務所は上層部の意向に沿って動いているはずです」

 

 プルフォウは、サイド3にいるエイトとナインが心配になり、何も起こらないことを願った。

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