プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

文、挿絵:ガチャM
設定協力:かにばさみ

※Pixivにも投稿しています。


第28回「散歩するプルナイン」

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四十分前

 

 プルナインは暇だった。

 本当は今ごろ『シーエム』の撮影をしてたはずなのに、急に姉のコンサートが決まったせいで延期になり、やることがなくなってしまったのだ。

 楽しそうなコンサート会場にも行けず、がらんとした控え室で待ってるのはものすごく退屈だった。

 

 

 あ~ん、することないよぉ~。エイトお姉ちゃんのシャトルに三日も我慢して乗ってきたのに~。お風呂にも入れないし(ずっとシャワーだけだったよ)、お姉ちゃんはコンサートで忙しくて遊んでもらえないし。あ、今はファンネリアお姉ちゃんって言わないといけないんだったね。

 ひとりでも遊べるから街に遊びに行きたいって言ったのに、危ないから絶対に行っちゃだめなんだって。つまんない、退屈すぎるよぉ。眠くなって、あくびがでてきちゃった。

 もうお昼寝しようかなと思ったけど、そのとき、やっとコンサートが始まったんだ。テレビをみたら、外にはすっごくたくさんの人が集まってる。サイドスリーって、こんなに人が住んでるんだね。あっ、お姉ちゃんがステージにでてきた。新しい服可愛い~。みんなが応援してて、凄い拍手!

 

 お姉ちゃんはすごいよね。こんなにたくさんの人の前で歌ったり踊るなんて、絶対ナインにはできないし。もしかして『しーえむ』も同じなのかな? みんなの前で歌うなんて、そんなの無理! なんか心配になってきちゃった……。

 マネージャーのティモお兄ちゃんにきこうと思って横を見たら、じ~っとテレビをみてた。ナインが見てるのにも気がつかないみたい。

 ねえねえ、きいてる?

 あ~っ、怪しいんだ~。お姉ちゃんをじっと見てる~。

 そのときね、頭の中に電気が走って、お兄ちゃんの考えてることがはっきりわかっちゃった!

 驚いた? すごいでしょ。他の人が思ってることがナインにはわかるんだよ。このことは絶対にないしょだからね?

 

「ねえ、お兄ちゃん」

「マリーちゃん。ごめん、いま忙しいんだ。後にしてくれないかな」

「うん、あとでもいいんだけど……」

「頼むよ」

 

 そんなにお姉ちゃんのこと見たいの? うんうん、そっか~。

 

「……お姉ちゃんが好きなんでしょ?」

「え、えっ!?」

 

 お兄ちゃん、びっくりして飛び上がちゃった。

 

「あたし、知ってるよ」

「ち、違うって!」

「違わないよ」

「ぼ、僕はマネージャーとして好意を持ってるんだ。あ、いや好きとか嫌いじゃなくて。そういう感情じゃないんだよ、マリーちゃん!」

 

【挿絵表示】

 

 

 マリーっていうのはナインの新しい名前、げいめいなんだよ。違う名前を使うのは、他の人になったみたいで面白いよ。

 

「隠さなくていいのに。かわりに言ってあげてもいいよ」

 

 そう言ったら、お兄ちゃんが焦った顔になっちゃった。

 

「や、やめてくれよ。ファンネリアに知られたら殺されるから!」

 

 もぉ泣きそうな顔してる。

 わかってる。お兄ちゃんは、エイトお姉ちゃんが、自分のこと好きじゃないんじゃないかって心配してるってこと。

 

「んふふ。お兄ちゃんカッコいいから大丈夫。お姉ちゃんはカッコいい人が好きだからね」

「……えっ? そ、それ信じていいのかな?」

「うん、まかせて。ピース」

 

 今度は急に嬉しそうな顔になっちゃった。そんな顔でお姉ちゃんに会ったら、好きだってばれちゃうんじゃない?

 

「でもね、お姉ちゃんにキスとかエッチなことしちゃだめだよ」

「そっ、そんなことするわけないだろ!」

「恋人は抱き合ったりキスとかするんだよねぇ」

「ま、マリーちゃん。退屈だったら会場みてきたら? いろいろ楽しいからさっ。お小遣いあげるから、なんか食べてきなよ」

「えっ、いいの? お金もらっちゃダメだってお姉ちゃんにいわれたけど?」

「僕からはいいの! 特別だからさ。たっぷり楽しんできてよ」

「うん、わかった。ありがと!」

 

 わーい、お兄ちゃんから五千クレジットももらっちゃった! こんなにあったら、ぜんぶのお店で買い物できる!

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

 ちょうどお腹が減ってたから、すぐに支度してコンサート会場に向かったんだ。つまらなかったから嬉しい!

 外に出たら、たくさんの人がいて驚いちゃった。

 

「すごいねぇー」

 

 混んでると歩くのも大変だね。ぶつかって転びそうになっちゃうよ。外のお店にも人がたくさん並んでるし。食べるのにこんなに並んでたら、お腹減っちゃわない?

 たくさんあって迷うな~。わ、あの丸い食べ物ってなんなのかな? 買ってみよっと。

 

 ……長い時間並んで、やっとタコヤキって食べ物とりんごジュースを買えたよ。疲れた!

 このタコヤキってお菓子みたいだけど、タコが入ってるんだって。早く食べたいけど、座って食べるところが見つからないんだよね……。

 仕方ないから、会場の外に出て、座る場所を探すことにしたんだ。

 

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「お姉ちゃん人気あるね」

『そのようだな。だが人々が熱狂するのは、それだけが理由ではないだろう。この場所、ズムシティは宇宙世紀の歴史そのものだからだ。お前の姉プルエイト……いや、いまはファンネリア・ファンネルか。彼女を通して、皆ジオン、スペースノイドを讃えているのだ』

 

 友だちのはにゃーん(はにゃーんはナインが作ったバーチャルアイドルね)が、パッドから立体映像で飛び出してきて説明してくれたよ。

 

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「歴史?」

『うむ。九年前、ジオン公国はこの地ズムシティで地球連邦からの独立を宣言した。スペースノイドの希望を背負ってな。だが、それを良しとしない地球連邦政府との間で戦争が始まってしまった。人類が苦労して手に入れた統一政府が、一気に瓦解することを連邦政府は恐れたのだ』

「仲が悪くなったの?」

『そう、性格の不一致と表現しても良いかもしれない。スペースコロニーやアステロイドベルトに住もうと考えた冒険的な人間は、無限に広がる宇宙をみたとき、地球の枠組みがひどく小さく思えたのだろうな。自由を好むお前も、あれもこれも指図されるのは嫌だろ?』

「うん」

『逆に他人に指図したがる人間もいる。地球連邦政府はあまりに人々を管理しようとしすぎたのだ。無論、それが彼らのなすべき仕事だったのだが』

「ふーん」

『その状況が、いま繰り返されているのだ。地球連邦政府は、ジオン共和国がアクシズと再会することで国民の独立心が呼び覚まされると懸念している。つまり、昔のようなジオン公国が再び産まれるのではないかと。さらに言えば、その呼び覚まされた独立心が他のサイドに波及することを恐れているのだ』

「そうなんだ」

 

 ちょっと退屈だったけど、言ってることはだいたいわかったよ。

 

『事実、そういう動きや兆候はあるのだ。いまネットワークの投稿を収集して分析してみたが、あらゆるフォーラムにおいて、ナショナリズムを励起させるような意見が増えている』

「サイド3のみんなが、そう思ってるの?」

『おまえは、するどいな。そこが問題なのだ。注意しなければならないのは『サイド3はアクシズと手を組んで独立するべきだ』という意見が、意図的に増やされているということだ。この動きやパターンには作為的なものを感じる。アクシズにとっては良い話かもしれないが……。早急すぎる展開は物事を成功に導きはしないし、逆に失敗を招いてしまう』

 

 はにゃーんの声、ちょっと怖くなってるみたい。

 

『フォーラムへの投稿は、AIで行われているようだ。高度な思考誘導プロトコルで適切なスクリプトを作成し、最適なタイミングと場所に投稿する……。心理操作、つまり個人に特定の感情や思想、信条を形成する目的でストーリーを組み立てているのだ。まあ、私と比較すればはるかに稚拙で単純なAIなのだが、機能に特化している分、凄まじい処理速度だ』

「よくわかんないけど、はにゃーんが止められないの?」

『してもいいが、今の状態ではこちらの位置がばれてしまう。それではお前に迷惑がかかる。だがプルナイン、気をつけた方がいい』

「気をつけるって、何に?」

『暴動だよ。扇動された人間が暴徒化することもある。背後に隠れて工作している者たちは、自分たちの政治的思惑を達成するために、人が集まる場所を利用しようと考えているのだ。地球連邦政府を打倒しろ! といった具合にな。煽る、というのか? 敵と味方、わかりやすい対立構造を演出して、頃合いをみて着火させるつもりなのだろう』

「火遊びするの?」

『文字通りな。偽名だと人は気が大きくなり、馬鹿なことを平気で言い始める。暴言や非難、中傷が蔓延するが、そうした憎悪から生み出された火薬には火がつきやすい』

「なんか、こわいね」

『実際には少数の人間が仕組んでいるのだろうが、アクセス元や文体を巧妙に変化させて複数人に見せかけているのだ。もちろん私にはそれが同一組織の人間だとわかってしまうがな。危険な状況だと判断したら警告する』

「うん、わかった」

 

 緊張してきて、コンピュータパッドをぐっと握りしめちゃった。

 

『それにしてもプルナイン。お前はコマーシャルの撮影をするのではなかったのか?』

 

 あ、そっか。パッドが充電中だったから、はにゃーんは知らないんだ。

 

「うん、お姉ちゃんが忙しいから伸びたけど、コンサート終わってからするみたいだよ」

『そうか。はるばるそのためにサイド3まで来たのだからな……。お前も準備をしておいたほうが良いと思うが?』

「なにすればいいの?」

『私は専門外だが、発声練習などだろう。声がよく通る場所で歌ってみるとかな。ここは広々としているから、ちょうど良い環境ではないのか?』

「他の人がいたら恥ずかしいよぉ~」

『その恥ずかしさを克服せねば、とうてい撮影などは無理だろうな』

「あーん」

『まあ焦る必要はない。景色でも観ながら、少しずつマインドセットを変えることだ』

「うん、わかった。……でも、アクシズには岩があるけど、ここにはないから広いね。あと、空に街があるのが面白いなぁ~。よく落ちてこないね。逆さまになったら大変じゃない?」

『コロニーは自転しているが、その遠心力を重力としているのだ。バケツに水を入れて回せば、水はこぼれないのと同じ理屈だよ』

「あ、それナインもお風呂でやってる!」

『風呂でバケツを振り回すのは危険だぞ? いつもプルフォウやプルイレブンに叱られているのを知ってる』

「えへへ……」

 

 はにゃーんには、ぜんぶばれてるみたい。

 

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「サイド3に来たことは、お前にとっては知見を広める良い機会かもしれない。これまでアクシズを離れたことはないのだろ?』

「うん」

『わたしはネットワークを自由に旅して行けるが、人間には物理的限界があり、時間と空間に束縛されている。だが、お前の思考は普通の人間よりは自由だ。他人の考えや離れた場所の様子が理解できるのは、ミノフスキー粒子を介して意識を外に解放できるからだ』

 

 はにゃーんの言ってること、なんとなくわかったよ。

 

「上から見てるような感じはいつもしてるね」

『俯瞰から見ているのだな。普通の人間より視点が私たちに近いのだ。そう……だから、あのマネージャーの男にプルエイトのことをストレートに話したのは良くなかったぞ? たとえ彼の気持ちを知っていたとしてもな』

「えっ? なんで?」

『わからないか? 意識してしまって、返って関係が気まずくなってしまうのだよ。惹かれあう磁気が強くなりすぎると磁石のように反発する。恋愛行為は、感情や肉体的欲求など予測不可能なパラメータが多いからな。わたしは、そこを理論化するところに面白さを感じる』

「どういうこと?」

『恋愛行為は、当人同士をニヤニヤ笑いながら見ている方が楽しめるということだ』

「それならわかる!」

 

 いま読んでるホロコミック『宇宙のラブレター』も、主人公の女の子が学校で好きな男の子と仲良くなったり悪くなったりして、すごく面白いんだよ。

 

『感情は私の研究テーマだ。あらゆる感情を定義して予測モデルを構築し、アルゴリズムを生み出すのは困難だが、非常にチャレンジングでもある。まあ、お前の行為が逆に二人を結び付けることもあるだろう。そうなったら、私はこれを事例にして新たな理論を構築するよ』

 

 はにゃーん、なんだか可笑しそう。

 

「頑張ってね。……それにしても座るところないかなあ。もう疲れちゃった」

 

 気がついたら、コンサート会場をでてけっこう遠くまできてた。わっ、会場の外にもいろいろ展示があるんだね。街全体がお祭りみたい。アクシズも、いつもこんな風なら面白いのに。

 そう思ったら、ビルの向こう側に急にモビルスーツがいてびっくりしちゃった。こういうとこは、アクシズと同じなんだね。

 

「あ、ザクだ!」

 

 ひとつ目で、ホースをくわえてる口と、トゲがついてる肩。お姉ちゃんたちに教えてもらって勉強してるから、すぐにわかっちゃった。

 

『このような街中にモビルスーツが置いてあるのか……。なるほど、展示をしているのだな。RMS-106ハイザック。ジオン共和国防衛隊の機体だろう』

「『はい、ザク』? ピンク色してるね。可愛い」

『ハイザックは、ザクの改良モデルだ。しかし、あの機体はカスタマイズされているようだな。標準タイプと細部が異なっている。頭部に通信アンテナが取り付けられていることから、指揮官機だということがわかる』

「アンテナ?」

『ジオンでは、部隊長はモビルスーツの頭部に通信アンテナをつけるのが習わしではないのか? シャア・アズナブル大佐のザクが有名だぞ?』

「あ、ツノか~。ナインも知ってる。ファイブお姉ちゃんが、早くつけたいって言ってたよ」

『そうか。それには戦果をあげなければ。ただ自己顕示欲を満たせるのはいいが、目立つので敵に狙われやすいというデメリットもある。ふむ、この機体は大型の装飾されたヒートホークを装備しているから、デモンストレーション用だろうな。これから式典に参加するのだろう。高い熱量から判断して核融合炉が稼働しているし、燃料も注入されているようだ』

「この『はい、ザク』さんも空飛ぶのかな。……あ~、向こうで劇やってる!」

『まったく……プルナイン、お前は落ち着きがなくて困るよ』

 

 ビルの前にステージがあって、ドレスの上に四角いグレーの衣装を着てる女の子が飛んだり踊ったりしてる! 可愛い。

 緑色のザク人形も踊ってるから、たぶんだけどモビルスーツの劇なんじゃないかなぁ。『しーえむ』の勉強のために、少し見てみようっと。

 それにね、やっと座れるところを見つけちゃった。だって、観客席には前の方に五人くらいしか座っていないんだもん。

 女の子が一生懸命に演技してるのに、誰もみてない……。可哀想だから、少し恥ずかしかったけど、一番前の席に座ったんだ。

 

「アレックスちゃん、チョバムアーマーを脱ぐのよ! 変身してあの悪いザクを倒して!」

 

 女の子が、着てた四角い服を脱いでドレス姿に変身した。前に座っていた男の人が、応援しながらホロカメラで写真を撮ってる。

 

「ひとは怖いのは耐えられる。でも、ひとりぼっちには耐えられないのよ」

 

 女の子がくるくる回りながら、光る剣を取り出したっ。

 

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「だからスペースコロニーの平和を乱すのは、このわたしが許さない! あなたはアステロイドベルトにいれば良かったの! ビーム・サーベル!」

「ぎゃあ~! ジ、ジオン公国に栄光あれ~」

 

 女の子が剣を振り下ろしたら、ザクの人形が叫びながら倒れちゃった。

 観客席にいたおじさんたちが拍手してる! ナインもしよっと。

 そしたら女の子と目があっちゃった。笑いながら手を振ってくれたよ。

 

『フン、観客が少ない理由もわかるというものだ。ジオンのイベント会場で、地球連邦軍のモビルスーツがザクを倒す劇など誰が観るものか』

 

 はにゃーんが呆れちゃった。

 

「ガンダムって、レンポーグンのモビルスーツでしょ?」

『そうだ。お前にとっては敵だ』

「なんか怖いなって思うんだよね……がんだむって。あ、劇が終わったから、あの女の子に会いに行ってみようっと」

『迷惑ではないのか?』

 

 はにゃーんは心配性だね。

 

 

***

 

 

「くそぅっ! こんな衣装なんか!」

 

 控え室になってる大きなテントに入ったら、女の子が衣装を壁に投げつけてたからびっくりしちゃった。

 

「こんなとこでガンダムの劇をしても、客がくるわけないし! ジオンにとってガンダムは敵なんだからさっ。企画したやつバカじゃないの!」

「仕事なんだから仕方ないでしょ! お給料もらってるなら文句を言わないで仕事しな!」

「うるさいっ。もっとましな仕事とってきなさいよ、あんた!」

 

 女の子とおばさんがすごい勢いで喧嘩してる。話をきこうと思ったけど無理かなあ……。

 入り口の前に立ってたら、女の子が気づいてこっちを見た。

 

「あんた途中からきた……。何か用?」

「あ、あたし、プルナイ……じゃない、マリー、です」

「あ、そ。ここに入ってこないでっ。関係者以外は立ち入り禁止だから」

 

 女の子は怒ってるみたい。さっきは笑ってくれたのになぁ……。なんかイライラしてる。

 

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「ご、ごめんなさい」

「まあ、いいけどさ。どーせ来るのはおっさんばかりだし。あ~あ、カッコいい男の子こないかなあ! ま、こんな田舎コロニーにいるわけないか」

 

 女の子は大きなため息をついた。それにしても、おっきな声。

 

「で、なんなの? あんた、あたしのサインが欲しいわけ?」

「え、えっと……」

「はっきりしなさいよ」

「じゃあ、ください」

「はいはい。色紙ある?」

「あ、もってない……」

「仕方ないわね。じゃあシャツに書いたげる。あんたの胸、ぺったんこだから描きやすいし」

「あ、ありがとうございます」

「はいはい」

 

 くすぐったかったけど、黒のマジックで、シャツの胸のところにサインしてもらっちゃった。

 ほんとは、このシャツお気に入りだったんだけど……。

 

「将来、あたしがもっと有名になったらプレミアつくからさ。あと、これあたしの歌が入ってるホロメディアね。サービスしてあげるよ」

 

 表紙には女の子が可愛いドレスを着てる写真が浮かんでる。この子も唄を歌うんだ。テレビじゃ全然観たことないけど。

 お礼を言おうと思ったら、急におっきな音が聞こえてきた。モビルスーツが動くみたいな、でっかい音が。

 

「なんなのよ、この音? さっきからガーガーうるさいなっ。変な演説もはじまるし、最悪だよ、ここは!」

 

 ほんとにうるさいかも。近くで、誰かがスピーカーを使って大声で話してるみたい。なんなんだろ?

 あ、そうだ。質問しなくちゃ。

 

「あの……ひとつきいていいですか?」

「なに?」

 

 女の子は服をたたんで帰り支度をし始めてる。だから、ほんとに面倒くさそうな感じなんだよね。。

 

「演技って、どうやってするんですか」

「演技? あんた役者なの?」

「ち、ちがうけど、でもしーえむの撮影があって……」

「ああ……そういうこと。ちょっと可愛いからコマーシャルに呼ばれたってこと? よくいるのよね、そういう素人さんが。あのファンネリアなんて典型的じゃない? ヘッタクソなのに唄なんて歌ってんじゃないよ! ジオン訛りが強い田舎者のくせに」

 

 なんだか、すごく嫌そう。もしかして、お姉ちゃんのこと嫌いなのかな……胸に書いてもらったサインは何て書かれてるか読めなかったけど、貼ってあるポスターにはクラリッサ・ロールズって書いてる。あとでお姉ちゃんに聞いてみよ。

 

「あの、忙しかったらいいです……」

「ああ、そんなことないよ。アドバイスねぇ。まあ、素人があまり意識しても失敗するだけよ。不自然な、妙な演技になっちゃってさ。だから深く考えないで、遊びと思えばいいんじゃない? あんた、そんな感じじゃん。自分が楽しめば、観てるほうも楽しくなるんだよ」

 

 クラリッサちゃんの言葉をきいて、脳がピカッと光った感じがした。それ、いい!

 

「あ、そっか! そうだよね。ありがとう」

「ははは。まあ、人のこと言えないけどね、あたし。この仕事楽しんでないし」

「ほら! クラリッサなにしてるの! 支度が済んだらさっさと行くよ!」

「うるっさいな、わかってる!」

 

 クラリッサちゃんは、空のペットボトルをゴミ箱に放り投げながら怒った。あのおばさん、マネージャーさんかな。こわいひと。

 

「あんた……マリーちゃんか。あたし帰るよ。劇を観てくれてありがとね」

「あ、ありがとうございました」

 

 そのとき、突然からだに電気がはしった感じがして、頭の中に周りが爆発する風景が浮かんだの! わーっ!

 

「あぶない! 爆発するからふせてーっ!」

「えっ!?」

 

 次の瞬間、熱い風が吹いてきて、自分の身体がふわっと浮き上がった。

 

「きゃーっ!!」

『頭を両手で抱えて守れ!』

 

 はにゃーんの声が遠くで聞こえた。

 バリバリいう音がして、椅子やテーブルが飛んでいって、自分もくるくると回転しながら飛ばされちゃった。

 もう、なにがなんだか分からなくなっちゃった。

 

「……」

 

 気がついたら、まわりはめちゃくちゃになってた。テントがなくなって空が見えてる。

 

「い、いたた……」

 

 身体が痛いのを我慢して起き上がった。起きたら、すぐとなりに椅子が地面にめりこんでるのが見えた。この椅子のおかげで地面にぶつからなかったんだ……。

 膝がすりむけて痛いし、喉も熱くて水が欲しかった。

 そうだ、はにゃーんは? パッドがない!

 

「はにゃーん、返事してーっ!」

 

 壊れてたらどうしよう。はにゃーんは、今はパッドの中にいるから、壊れたら消えちゃう!

 

『わ、わたしはここだ……』

 

 声がする方に這っていったら、テーブルや椅子が転がってる下にパッドが見えた。下にもぐって、思い切り手を伸ばすとなんとか届いた。

 パッドの画面が割れてる。

 

「だ、大丈夫!?」

『ああ、衝撃でメモリーの一部が失われたが、記憶が少し失われただけだ。お前は大丈夫か?』

「う、うん」

 

 そのとき、クラリッサちゃんが悲鳴をあげてるのが聞こえてきた。

 

「ちょっと、あんた返事しなさいよ! ねえ!」

 

 人が倒れてる。マネージャーのおばさんだ。怪我して気を失ってるみたい……。

 

「なんなのよ、これ! もう、いやあ、こんなとこ!」

 

 大変、救急エレカを呼ばないと! でも呼びかたがわかんないよ。

 

『プルナイン、わたしが緊急回線で連絡しておいた。救助はすぐ来る!』

「あ、ありがと!」

 

 そのとき、また頭に電気が走った。わ、悪いモビルスーツがくる!? 悪いモビルスーツは、はにゃーんが言ってたみたいなことするんだって! そんなのだめぇ!

 ナインは悪いモビルスーツをやっつけるのが仕事なの。そうだ、あのピンクの『はい、ザク』に!

 

「『はい、ザク』に乗るよっ』

『プルナイン、おまえ、まさか?』

「はにゃーん。敵が来るって!」

『敵だと? ニュータイプ能力で感じたのか? だが、おまえの腕では撃墜されるぞ!』

「ナインはね、練習したの!」

 

 ナインだってパイロットなんだからね。

 モビルスーツに乗らなきゃと思って必死に走ったよ。『はい、ザク』はさっきの爆発で倒れて座ってたけど、入り口が開いてた! ジャンプして登ったらなんとか中に入れた。

 

【挿絵表示】

 

 この子……動くよ!

 椅子は大人用だけど、前にずらして座ってシートベルトをしめたらちょうど良かった。スイッチとか、いつも乗ってるのと一緒みたい。これならできそう。

 

「よし、いっくよ!」

 

 まず立たせてから空を飛ばないと……。

 

「あんた、なにやってんの!? やめなさいよ!」

 

 びっくりした! クラリッサちゃんが叫びながら、すごい勢いで走ってきてる。大丈夫だよ、ナインはパイロットなんだから……あ、なかに入ってきちゃった!

 

「だめだよぉ。危ないから入ってきちゃダメぇ!」

「危ないのはあんたでしょ! 遊園地のアトラクションと間違えてんじゃないの!? これ本物のモビルスーツだって!」

「ナイン……じゃなくてマリーは操縦できるから平気なの!」

「あ、わかった。映画のセットだと思ってるんだ。さっき撮影とか言ってたし。これは違うから! 軍人がきたらやばいって! ほら、降りなさいよ、早く!」

 

 クラリッサちゃんは手を掴んできた。危ない!

 

「わーっ!?」

 

 ほら、だから言ったのにっ。掴んでたスティックが倒れたから、モビルスーツも傾いちゃった!

 ナインはベルトしてたから平気だったけど、クラリッサちゃんが転がってきて頭ぶつけちゃったよ。いったーい。

 

「いたた……危ないから椅子の横にしゃがんでて」

「えっ、なによこれ!? まわりが全部画面になってる!」

「よーし、いっくよ!」

 

 操縦桿を手前に倒したら、『はい、ザク』はゆっくりと立ち上がったよ。

 

「わわっ、揺れてるっ」

「大丈夫だよ。モビルスーツって自分で動いてくれるんだから」

「あんた、まさか操縦してないの? 真似してるだけか! じゃあ、どうやって降りんのよ!」

「降りないよ」

 

 訓練を思い出しながら、次にゆっくりペダルを踏んだら、『はい、ザク』はぴょんと飛び上がった。

 

「わっ、跳んだ!? 高い高い! あたし高所恐怖症なんだって! 椅子ないの椅子!?」

「ごめんなさい。ないから我慢して!」

「やめて、やめて! わーっ!」

 

 あ、いけない! 入り口閉めてなかった!

 

「馬鹿、扉が開いてる! 閉めて閉めて! 違う違う、すぐに降ろして! 降ろせーっ!」

 

 前からすごい風が入ってきたから、スイッチを押して入り口を急いで閉めたよ!

 でも、涼しくてちょうど良かったかも。モビルスーツの操縦って難しいし、もう汗かいちゃった。

 どうしよ、ガタガタ揺れてる。えーと、これからどうするんだっけ。忘れちゃった……。

 

「あんた、めちゃくちゃ操縦下手じゃないの! 揺れすぎだって! この揺れ止めなさいよ! うげっ、なんか気分悪くなってきた……」

 

 クラリッサちゃんの顔が真っ青になってる。たしか酔い止めが椅子の下の救急箱の中にあったはずっ。でも、揺れすぎてて取るの無理。あーん。

 あ、そうだ! 揺れなくする方法があった!

 フォウお姉ちゃんに習ったことを思い出してそのとおりに操作したら、なんかシューって音がして揺れが止まったよ。よかった。

 

「あ、あんた。ほんとに操縦できるの?」

「えへへ。まだ、あまり上手くないんだけど、お姉ちゃんに習ってるの」

「お姉ちゃんって……。そっか、あんたんとこ金持ちってわけ? プライベートでモビルスーツ持ってんのか!」

「違うよ。お金はないけど、お仕事なんだもん」

「仕事? あ、一応芸能関係なのか。とにかく、これはただのロボットじゃなくて、軍のモビルスーツなの! 戦う兵器なんだよ! わかってんの!?」

「う、うん。知ってるけど」

「だから、こんな爆発事件があったときに盗んだモビルスーツで飛んでたら犯人扱いされるでしょうが! 撃たれたらどーすんだよ! 死んじゃうから! いますぐ降りなさいよ!」

「ううん、駄目! 悪いモビルスーツを止めなくちゃいけないの!」

「はああ? わけわかんないこと言わないで……わわわっ!」

 

 悪いモビルスーツの方に行くために、スティックを動かしてくるっと方向転換させたよ。

 この『はい、ザク』って操縦し易い!

 

「悪いやつを止めるって、正義の味方、ガンダム気取りかっての!」

「えっ? ガンダムって敵だけど?」

「あ、そっか。ジオンじゃガンダムは敵か。ははは、我ながら馬鹿な劇をしちゃってさ。アホかって……」

 

 そういえば、さっきガンダムのぬいぐるみを着てたね。言って悪かったかも……。

 

「とにかく子供がでしゃばんじゃないよ! 痛い目にあうのがオチだから。そう、芸能界と同じ。先輩の言うことは聞くもんだよ!」

「やだ」

「はっきり言うな。……あんた、顔の割に頑固だな」

「終わったら降りるからね」

「その前に墜落して死んでるっての。あ~あ、こんな子にかまうんじゃなかったよ。終わったわ、あたしの人生……」

 

 クラリッサちゃん、がっくりしてしゃがみこんじゃった。まあ、静かになったからいいかな。

 

「わっ、なによあれ!?」

「えっ、なに?」

 

【挿絵表示】

 

 

 クラリッサちゃんが驚いて指差した方をみたら、コンサート会場が水でビシャビシャになってた! 椅子とかお店も全部倒れてる!

 なんか大きなタンクを背負ったモビルスーツが水をまいてるみたい。

 あ、ステージにお姉ちゃんがいない! 大丈夫かな……。

 

「酷いよ! 会場めちゃくちゃじゃん! やっぱり犯人扱いされるって! あ~っ、こんな目に会うなら仕事断ればよかった! ジオンなんかくるんじゃなかった!」

 

 もう泣きそうになってるし、どこかで降ろしてあげた方がいいかな。(うるさいし)でも、その前にお姉ちゃんを探さないと。

 そう思ったら、急にお姉ちゃんの声が頭の中に聴こえてきたよ。

 

『ナイン、なんでモビルスーツに乗ってるの!?』

「お姉ちゃん!」

『勝手に遊びにいったりして! 言うこときいてって、いつも言ってるでしょ!』

「ご、ごめんなさい」

 

 あーん。またお姉ちゃんに怒られちゃった。

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