プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち 作:ガチャM
舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。
キャラクター、設定協力は、かにばさみさんです。
※Pixivにも投稿しています。
2
デブリが漂う宇宙を、強烈な光が瞬時に通り抜けた。それはあらゆるものを飲み込んで消滅させる光の奔流だ。とてつもないエネルギーを内包し、触れたものに莫大な熱量を与えて気化させる最新素粒子理論の産物。
近年発展著しいミノフスキー物理学を応用した『メガ粒子砲』は、ミノフスキー粒子と呼ばれる物質を圧縮、縮退させることで、質量をエネルギーに転換させて撃ち出すビーム兵器である。情け容赦なく対象物をせん滅し、それはたとえ“巨人”モビルスーツといえども例外ではない。
だからロングレンジから突然の攻撃を受けたモビルスーツの三機編隊は、直ちに回避行動をとった。
「長距離狙撃! 散開して!」
ネオ・ジオン軍親衛隊ブルーチームの指揮官であるプルフォウは、チームに素早く命令を出すと、自らも操縦桿とフットペダルを素早く操作して急激なスパイラルダイブを行った。命令を出している間にも恐ろしいほど精度が高い長距離攻撃が続き、各機体とも回避するのが精一杯の状態となる。さらにビーム攻撃の支援を受けながら、攻撃部隊がこちらのテリトリーに突入してくる様子がセンサーに表示された。
絶妙な連携攻撃。こちらは逃げているだけで連携するどころではない。圧倒的な技量の差に絶望と怒りがないまぜになるが、それを克服して冷静にならなければ勝ち目はなかった。
「イレブン、ナイン! 敵機が接近している! インターセプトして!」
「了解。イレブン、敵機をインターセプトします」
ブルーチームの一員であるイレブンの、白兵戦用の槍『ヒート・ランス』を装備した《量産型キュベレイ》が、ロケットブースターを最大に稼働させて迎撃に向かう。流麗な羽根のようなバインダーを両肩に装備した機体は、推進剤の青白い炎を曳いてあっという間に見えなくなってしまった。
一方で、後方に位置していたナインの機体はまるで反応していない。頭部に備えられたセンサー『モノアイ』も消灯している。
「ナインどうしたの?!」
「お姉ちゃん、動かなくなった」
「またコンソールをダウンさせてしまったんでしょう?! システムを再起動しなさい!」
ナインはモビルスーツの操縦を始めたばかりで技量は未熟だった。基本的な操作もままならないのだ。
妹が慌ててスイッチを操作する様子がモニター越しに見える。だが、突如高出力ビームが襲いかかって、ナインの機体キュベレイ09はコクピットを貫かれた。
「ああっ?!」
無残に上下に分断された残骸は、ゆっくりと宇宙の闇に飲み込まれていく。
「エイト! 敵の狙撃地点を割り出して攻撃して!」
強力なスナイパーを潰さなければ、こちらは全滅する。それを避けるために、後方からスナイパーライフルで支援射撃を行っている、チームの選抜射手(マークスマン)に反撃を促した。
「さっきからやっています! でも『地点』ではありません! 敵は高速移動しながら狙撃しているんです!」
それが恐ろしい技量を必要とすることは知っている。精密射撃時には、普通は機体を停止させなければならないからだ。いくら
「なら、あなたも移動しなさい! 相手と条件が同じなら狙撃タイミングを予測できるはずよ!」
「了解! ……と仰いますけど、簡単にはいきません。援護してください!」
「わかったわ!」
プルフォウは《キュベレイ》に加速をかけた。注意を自分に引き付けて、敵が攻撃してきた瞬間にエイトに狙撃させるしかない。
「やるわね……シックス!」
イレブンはインターセプトした敵機、自機と同型のマシーン《量産型キュベレイ》を捕捉した。その黄色と黒のツートーンで塗られた機体は、欺瞞行動をとることなくストレートに突っ込んでくる。単純な思考回路を持つ、姉ファイブらしい機動だ。一対一の白兵戦に持ち込んで、力で相手を圧倒して勝利する。しかし、それは仮に相手の技量が上回っていた場合は敗北するしかない危険な戦い方だ。そのことを姉に教えてあげなければ。
操縦桿のスイッチを押して右腕に装備させた『ヒート・ランス』を起動し、前方に突き出して攻防一体の構えをとる。ヒートランスとはモビルスーツが用いる巨大な槍のこと。自分が最も得意としている武器だ。
『イレブン! 相変わらずの戦法か?! オレには通用しねェぞ!』
レッドチームに所属する姉ファイブは、すでに勝利を確信したかのようだ。彼女は勢いとバイタリティに溢れているのは良いのだが、少々迂闊なところがあるところが欠点だ。
「ファイブお姉さま、戦場で油断は禁物です。私は実戦を経ているのですから、以前と同じ技量だとは判断するのは愚かな行為です」
『言うじゃねェか! いくぜ!』
ファイブ機は、いきなり右腕を振り上げて、飛び掛かるように襲い掛かってくる。
彼女の機体は、両手のマニュピレーターが大型の爪『アイアン・ネイル』に換装されていて、一年戦争時の水中戦闘用モビルスーツのように近接格闘を得意としているのだ。
動物のような俊敏な動きに惑わされてはいけない。動きを見極めることが肝心だ。
ガシーンッ!
左腕のシールドを前面に展開して、アイアン・ネイルの攻撃を防御する。単純明快な攻撃ならば、こちらも正面からぶつかるだけだ。
二十メートルものマシーン同士がぶつかり合う激しい衝撃音がコクピットに響き、同時にインパクトが許容範囲を超えたことを示す警告音が鳴り続けた。
「くっ……!」
赤熱したアイアン・ネイルによる斬撃は鋭く食い込んでいて、シールドには大きな亀裂が入ってしまった。
姉にのせられたのだと分かった。
『これで終わりじゃねーぞ!』
言うや否や、姉は左のネイルでシールドを強引に引き裂きにかかってくる。
「なにを?!」
『こんなものぶっ壊してやるぜ!』
すさまじいパワーで、シールドの亀裂がメリメリと音を立てて広がっていく。このシールドは分厚いガンダリウム合金の板から削りだされたもので、簡単に破壊できるものではない。だが、ファイブ機がアイアン・ネイルで手刀をくらわせると、シールドはあっさりと割れてしまった。
「シールドが?!」
姉の機体は白兵戦用にパワーが強化されていることを思い出す。背部アクティブ・カノンを廃止し、さらにファンネル用のコンデンサーを小型化することで、その余剰パワーをすべて手足のフィールドモーターに回しているのだ。
しかし、だとしても、マニュピレーターの力だけでシールドが破壊されることはまずあり得ない。
「……このような事象は、確率的には起こりえないことです」
『馬鹿言ってんじゃねーよ。確率も何も、壊れちまってるぜ!』
姉はシールドを壊した勢いで、ネイルを薙ぎ払うように振るってくる。
「このくらい!」
爪による斬撃を避けるのではなく、それを同じくモビルスーツの拳で受け止めた。指に仕込まれた鋭い刃が眼前に迫ってきて停止する。
さらに相手の勢いを相殺するために、フットペダルを蹴ってロケットエンジンをフル稼働させる。金属が軋む音と、ノズルから噴射される推進剤の咆哮がコクピットを満たした。
『イレブン、腕を上げたのは間違いねーみたいだな! でも、まだまだ甘いぜ!』
「えっ?!」
姉ファイブは手首をひねって逃れると、機体を回転させて、まるで格闘家のように後ろ回し蹴りをキュベレイに繰り出させた。
「きゃあーっ!」
ボディに強烈な打撃を喰らって、そのリニアシートでも吸収しきれないほどの衝撃に悲鳴をあげてしまう。
姉は、あらかじめ白兵戦用の動作をプリセットしておいたのだ。派手なだけで、まったく無意味なモーションに思えるが、その意表をつく攻撃に翻弄されてしまったことは否定できない。自分の常識外の攻撃だ。
『とどめだ!』
ファイブ機は再び上段にネイルをかまえると、それを思い切り振り下ろした―。
お互いの技量に差はないはずだ。エイトは内心舌打ちしながら、狙撃から逃れるために隕石の影に隠れた。敵のビーム・スマートガンから放たれるビーム攻撃を避けるためにあらんばかりの機動テクニックを駆使しなければならなかったが、そのすべてを避けきることはできず、機体のあらゆる箇所にダメージを受けてしまったのだ。リニアシートのコンソールには、真っ赤な警告メッセージがいくつも点灯している。
『ビーム・スマートガン』とは機体本体からアームで接続された大型の支援火器のことで、
「回避するだけで精一杯だなんて!」
優れたスナイパーだと自負しているので、狙撃戦で押されているのは我慢ならなかった。いや、技量が劣るのではない。こちらの技量が優れているから、相手は狙撃させない作戦をとっているのだ。
「やりますわね、シックスお姉さま!」
このまま隠れていても埒があかないだろう。機体の上半身を慎重に隕石の影から出すと、スナイパーライフルのバレル下部に装着された
「これ以上好きにさせませんわよ!」
精密狙撃に対応するためにリニアシートのヘッドレスト右に装備された精密照準器を掴むと、顔の正面に移動させた。
この精密照準器は、ターゲットを立体的に認識することができる最新型だ。リニアシートには投影型の照準システムが備わっているのだが、あえて照準器を使って精密狙撃をするのが好きだった。ターゲットとの距離を計り、空間に存在する粒子によるビームの偏向や減衰を考慮しつつ、息を止めて狙いを定める。そして、突然に訪れる一瞬のチャンスを逃さずに、研ぎ澄まされた反射神経でトリガーを引く。その緊張感と高揚感は、得難い快感と満足感を与えてくれる。
照準器を覗きながら、緊張で乾いた唇を濡らすように舌舐めずりをした。
「動き回って狙撃をするなんて、スナイパーとしては邪道。わたしが狙撃の真髄を見せてあげますわ……」
ビームの軌道と味方が撃墜された位置から計算すれば、おおかたの位置は予測できる。だが、そこに大きな落とし穴がある。姉妹であり狙撃を得意とする二人だから、その思考パターンと戦術はどうしても似てしまうのだ。つまりそれは相手の、いや自分自身の思考を超えなければならないということ。
「そう、フォウお姉さまを囮にする……それがベストな戦術」
相手を出し抜くためには味方すら利用する。道義的に許されないことだが、この状況では極めて合理的、論理的な判断だ。
「フォウお姉さま、敵は先ほどビームが来た方向にいます! 追えますか?」
『了解、追うわ!』
姉プルフォウのキュベレイ04が加速し始めたのを見てから、センサーでその後方を注視した。
敵はおびき寄せた獲物を後方から狙撃するはずだ。なるほど良い作戦だが、こちらはその瞬間を狙えば良い。まさか狙撃しているときに自身も狙われているとは考えないだろう。
「いた!」
はたして、敵を探しているキュベレイ04を狙う敵機を発見した。巧妙に隕石の影に隠れているから、注意していないと見つけることは出来なかった。
『こちらキュベレイ04、敵機は発見できない。支援を……あっ?!」
姉プルフォウのキュベレイは、不意に真後ろからのビーム攻撃を受け、大爆発して宇宙から消滅した。
「いまよ!」
エイトは勝ち誇った笑いを浮かべると、精密照準器で狙いを定めた。敵はこちらに気がついていないし、機体はビームを撃った反動で固まっている。
「シックスお姉さま、私の勝ちですわ! ファイアッ!」
だが、あとコンマ五秒でトリガーを引き切ろうとしたとき、突然に気配を感じて戦慄した。姉シックスの攻撃的意識を感じとったのだ。
「まさか?!」
キュベレイ06は、いつの間にか背後に位置していた。隕石に隠れていた機体はダミーだったのだ。姉フォウの機体は、おそらくワイヤーかなにかで遠隔起動させたライフルで撃破したのだろう。裏をかいたと思っていたが、姉シックスはさらにその上をいっていたのだ。
「しまったっ!」
フットペダルを蹴り飛ばし、操縦桿を捻ってキュベレイを急速離脱させるが、すでに手遅れだった。
「うああああっ!」
背後から頭、腕、足を次々と撃ち抜かれ、キュベレイ08は戦闘能力を奪われていった。そしてエイトが敗北を受け入れたとき、ついにコクピットを狙うとどめの一撃が放たれた―。