プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

文、挿絵:ガチャM
設定協力:かにばさみ

※Pixivにも投稿しています。


第34回「襲われるもの」

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 近づいてきた男二人の酷薄そうな顔を見て、警戒心のゲージが跳ねあがった。彼らには、サインやツーショット写真をねだる熱心なファンという雰囲気はまるでなかったし、愛想の良さも感じられなかったからだ。

 警戒時には偵察することが重要だから、相手を観察することにした。

 一人は髪型をウルフカットにして、派手な刺繍の皮のジャンパーを着た二十歳くらいの男で、妙に冷静な眼は人の隙を伺っている感じだった。ポケットが膨らんでいるのは、中に護身用のナイフを入れているからだろう。

 もう一人は少し年下で、短髪に妙な柄のシャツ、ジャケットという服装の、相手を威圧するような目つきと態度の男。二人とも街にたむろするギャングのようであり、隙を見せれば危害を加えてくるように感じられた。

 

「おまえ、テレビに出てるファンネルなんとかだろ? そっちはマネージャーか?」

「楽しんでるなら俺たちも混ぜろって」

 

 品のない絡みかたに、すぐに頭の中の警告ブザーが鳴り響いた。間違いなく、面倒事を起こす人間だ。

 

「申し訳ありませんが、私たちは急ぎますので」

 

 面倒ごとに慣れているマネージャーのティモが冷静に応対するが、二人はニヤニヤと馬鹿にしたように笑うだけだ。

 こんなときに限ってニュータイプ能力が発現してしまう。二人の思考が遠慮なく頭に入ってきたのが最悪で、彼らの興味は全て自分に向けられていた。あからさまに卑猥なことを考えているのだ。

 

『うぅっ、最低! ……こんな低俗な連中に付き合うわけにはいかない』

 

 他人から性的なイメージで見られることはままあるが、それに慣れることはけっしてない。いつも堅い態度を保ち、誘いにはのらないと固辞する雰囲気を表して身を守るのだ。そんな態度が通じる相手ではないとは思うけれど。

 

「歌手なら、ここで歌ってみせろよ」

「そりゃ、いいや」

 

 あからさまな柄の悪さに乾いた笑いが出る。あたしの素性を知って目をつけたのだろうが、こんな暴動が発生している非常事態でも他人に迷惑をかけるのか? いや、むしろこういう混乱しているときだからこそ、火事場泥棒的な思考で、悪意を持って振る舞うのかもしれない。

 この場を穏便に済ませるにはどうしたらよいか思案していると、男の一人がコミュニケーターで動画を撮り始めた。

 

「おい君たち、勝手に撮影しないでくれ!」

 

 ボロボロの服を着たびしょ濡れの姿を撮られて、アンダーグラウンドに流されたらたまらない。

 プライバシーと肖像権を侵害する行為に憤慨し、ティモは抱き抱えていた私を降ろすと、動画を撮っている男に向かっていった。

 

「あ? 邪魔すんじゃねえぞ、おまえはっ」

「あがっ」

 

 ウルフカット頭のストレートパンチをまとも顔に受け、ティモはあっさりと地面に倒れて気絶してしまった。

 

「きゃーっ!?」

「馬鹿が、女の前で格好つけられなかったな」

 

 絡んできた相手に立ち向かった勇気は認めるが、これでは完全に逆効果だ。

 二人組は弱者を殴り倒して興奮したようで、ぞっとする笑いを浮かべながら迫ってくる。異常に興奮しているのが不気味でたまらなかった。

 

『感情が暴走している……!? このあたりの感応波は減衰してるはずなのに。まさか、あたしの周りに感応波が残留しているってこと!?』

 

 ニュータイプ能力を持つ人間は、感応波を中継できてしまうのだ。つまり自分は意図せず、感情をブーストする感応波を周囲に振りまきながら移動していたということになる。まるで他人を挑発しながら走り回っているかのように。

 

「ちょっと馴れ馴れしくない!? 近づかないで!」

 

【挿絵表示】

 

 さすがに身の危険を感じて、はだけた身体を隠した。すぐに助けを呼ばなくては!

 でも、周囲には誰もいなかった。みな避難してしまったのだ。

 逃げようかとも思ったが、気絶したマネージャーを置いてはいけなかった。自分が逃げたら袋叩きにされそうだから。

 そうだ、拳銃で威嚇すればっ。確かバッグに小型の二十二口径ピストルが入っていたはずだ。……駄目だ。運が悪いことに、バッグは倒れているマネージャーの身体の下にある。

 くっ、こうなったら二人を叩きのめすしかない! 意識を切り替え、軍人として本気を出せばこんな奴らなんて簡単に撃退できる。

 姉のプルセブンから、ジオン式格闘術のレッスンを受けている。格闘技術を駆使すれば相手が二人でも何とかなる。と言ってもまだ習いたての初級だから自信はないけれど。

 軍人は民間人を傷つけてはならないという原則はあるが、この状況では正当防衛になるはずだ。

 それにマネージャーは気絶しているから、正体がバレることはない。二人は武器を手にしていないから、順番に制圧していけば……。

 

「あっ!?」

 

 しまったっ。思考してた隙を突かれた! ウルフカット頭が素早く背後に回り込み、羽交い締めにしてきたのだ。

 

「は、離しなさい!」

「うるせえ、静かにしろっ。おい、ちゃんと撮ってるか!?」

「心配すんな。すぐ交代しろよな」

 

 感情が暴走してるわりには手際が良い。たぶん、普段からこんな行為を繰り返してるのだ。

 

「な、何をしようっていうの」

「決まってんだろ。俺たちを楽しませろっていうんだよ」

「ひっ!?」

 

 ウルフカット男は、いきなり服の隙間から手を差し入れてきた。

 

「やっ、やめて!」

「みかけの割に大きいな。本物か? アイドルは整形してるっていうからな。俺が確かめてやるよ」

「正気なの!? いやっ」

 

 胸を鷲掴みにされて揉まれる不快さに、身体を捻って逃れようとしたが、男は首に腕をまわして押さえ込んできた。

 

「へへへ……この感触は本物だな。おっと、逃げようだなんて思うなよ?」

「け、警察に通報するから!」

「呼べるなら呼んでみろよ。痛い目にあわせてやるぜ」

 

 ウルフ男は下品に笑いながら、爪を立てて思い切り胸を握り潰してきた。

 

「い、痛いっ!」

 

 敏感な部位に走った強烈な痛みに涙が滲み、どうしようもない怒りが湧いた。

 あたしが、こんな奴に辱めを。ネオ・ジオン親衛隊のあたしがクズにいいようにされるなんて許せるか!

 

 力を込めて拘束を解こうと試みるが、逃れたくても力負けしていた。

 強化人間と言うと怪力を持っていると思うかもしれないが、あたしに限って言えば、脚は速くても、力は普通の子供とそれほど変わらない。身体能力に優れた姉妹とは違うのだ。

 

「こいつ、乳臭えガキの割には力があるぜ」

「くっ……離せ!」

 

 首と胸に両腕をまわされ、腰を両脚で抱え込まれて、身動きがとれなかった。

 

「おい、てめえだけで楽しんでじゃねえよ。アホ!」

 

 動画を撮っていた短髪頭が、苛ついたように叫んだ。

 

「わかったよ。ほら、これで満足できるだろ」

「あっ!? や、やだっ」

 

 ウルフカット男が引きちぎらんばかりに衣装を引き下ろすと、上半身が露わになってしまった。

 

「いいねえ、このまま裸の撮影会といこうぜ」

 

 まるで手に入れた獲物に興奮した獣みたいにウルフカット男の動きが激しくなり、つまんだりつねったり、少しの遠慮もなく身体を散々に弄りまわしてきた。

 こいつにとって、自分は使い捨ての玩具なのだ。

 

「う、ああぁっ」

 

 痛みと気色悪さに喘ぐ声が、まるで他人の声のように聞こえた。

 もう限界だっ。こんなクズにいいようにされるくらいなら、相手を殴り殺せと姉プルツーなら言うだろう。あたしの本気をみせてやる!

 

「調子に乗るな変態!」

「へへへ、騒いでも興奮させるだけだぜ……うがっ!」

 

 反撃は素早く激しく実行するのが鉄則だ。左肘を素早くコンパクトに振り、ウルフ頭の鳩尾を強打してやった。

 密着しているほどに威力は増すから、背後の男は肺を圧迫されて呼吸がまったく出来ずに、口をパクパクとさせて悶絶した。

 その隙を付き、首に巻き付けた腕を捻りあげるようにして外すと、拘束から脱出した。

 

「こ、このアマが!」

「はっ、無様ね!」

「てめえ……ぶっ殺す」

「あ、そう。やってみたら?」

 

 ウルフ頭は、怒りに顔を歪ませると、腕を振り回しながら走ってきた。

 だが頭に血を昇らせた奴は怖くない。回りが見えなくなっているからだ。

 殴りかかってきたところを脚を引っ掛けて転倒させ、躊躇せずに体内にめり込むほどに急所を蹴り飛ばしてやった。

 

「うぎゃ、ぎゃああぁーっ」

 

 悲鳴が原っぱに響き渡り、ウルフカット男がもんどりうって悶絶した。

 

「ふん、わかった? 自分のしたことは自分に返ってくるのよ!」

「痛え~っ! 痛えよ!」

 

 これで1機撃墜。ははは、ざまあないわ!

 情けなく泣き喚くウルフ頭の無様な姿が、たまらなく快感だった。

 

「こ、こいつ。ふざけんじゃねえ!」

 

 仲間が倒されたのを見て、短髪頭が撮影するのをやめて、激昂しながら走ってきた。

 怒りと困惑が混ざった表情。まさか少女が反撃してくるとは思わなかったのだろう。

 

「ふざけてる? あんたも痛い目にあいたいようね!」

 

 短髪男は姿勢を低くすると、下半身目掛けてタックルを仕掛けてきた。力任せに押し倒すつもりだ。ここは攻撃を避けるために横に飛んで逃げる!

 が、体をひねった瞬間、シャトルに乗っていたときに捻挫した右足に痛みが走った。しまった、こんなときに!

 タックルから逃れられず、そのまま押し倒されてしまった。受け身をとったから良かったものの、危うく後頭部を強打するところだった。

 

「こいつ! 手間かけさせやがって。ガキだからって容赦しねえ!」

「くっ……!」

 

 ウルフ頭は馬乗りになると、両腕を掴んで押さえ込んできた。男の顔が眼前に迫り、息遣いを肌に感じて身震いするほど気持ちが悪かった。

 

【挿絵表示】

 

「動けないか? このままお前を……」

「離れろ!」

「ぎゃっ」

 

 油断しているところを、思い切り頭突きを喰らわせてやった。男は口の端から血を流し、ぽたりと服に垂れてきた。

 

「この野郎! 痛えじゃねえか!」

「きゃあっ!」

 

 報復で頬を叩かれ、髪を掴まれて頭を地面に叩きつけられた。痛みに涙が滲む。

 心を折り、抵抗する意思を失わせるつもりだ。

 

「このまま、いいことしようぜ」

「こ、子供を襲うなんて最低っ。クズよ、あんた達は!」

「どうとでも言えよ。お前のファンの連中も羨ましがるだろうな」

「ひあっ!?」

 

 くすぐったいような、不快な感触にたまらず声を上げた。こいつ、あたしの身体を舌で舐めてる。

 

「や、やめろ! 嫌っ!」

 

 ぬめったナメクジみたいに舌が身体を這い回り、身体を動かして逃れようとしても男はしつこく吸い付いてきた。

 ニュータイプ能力で状況を俯瞰的に認識できるのが最悪だった。悶える自分の姿を客観的に眺めるはめになったからだ。

 敏感になった身体が勝手に快感を感じ始めて、喉の奥から嬌声が漏れる。

 出演したアダルトムービーを自分で観れば、こんな気持ちになるのか。全身を震わせて喘ぐ自分の姿はとても正視できない。

 短髪男の行為はエスカレートする一方で、スカートの中にまで手を入れてこようとしてきた。

 もう力の加減なんてできない。相手を殺すことになっても、強化人間としての力を発揮してやる!

 

「……い、いい加減にしろ」

「抵抗しても無駄だぜ……ぐえっ!?」

 

 密着した体勢から、膝を思い切り腹に叩き込んでやった。自分の筋肉はまだ未熟だが、瞬間的に鍛えた成人男性並のパワーはだせるのだ。

 内臓まで達するほどの衝撃をうけて、短髪男の顔が歪み、口から吐瀉物が飛び出した。緩んだ両腕の拘束を外しつつ、横に転がって吐いた物を避けた。

 

「はあ、はあ……。なめるな!」

 

 短髪男は悶絶して何度か吐いていたが、口を拭うと、よろめきながら立ち上がってきた。

 

「へっ、冗談のつもりかよ。舐めごごちは良かったぜ。お前も感じてたんじゃないのか? すごい声出してたよな」

「言うな、変態! あなた、これまでも大勢の少女に破廉恥な行為をしてきたようね。二度と出来ないようにしてやるわ!」

 

 短髪男は驚いて顔を硬直させた。頭の中を覗かれたのだから無理もない。

 

「そ、そんなこと、お前に分かるわけねえだろうが!」

「このまま警察に自首なさいな」

「図にのるんじゃねえぞ。俺はボクシングの経験があるんだぜ。生意気なガキを叩きのめすのも面白えな」

「フン、やってみなさいよ。あんたのパンチなんて、簡単に避けてみせるから」

 

 挑発に怒った短髪男は、ダッシュしながらストレートパンチを放ってきた。

 

「喰らいやがれ!」

 

 確かになかなか速くて鋭いパンチだ。当たればただではすまない。が、自分はネオ・ジオンの兵士で強化人間なのだ。優れた動体視力を発揮すれば、相手の動きは止まってみえる。

 脚に負荷をかけられないから、上半身を反らすダッキングで攻撃を避けた。

 

「こ、こいつ!?」

 

 短髪の目が驚きで見開かれた。戦闘の勝敗は、たいてい最初の一瞬で決まってしまう。

 回避動作から間髪入れずに素早く身体を半回転させると、背後に向けて蹴りを放った。左足で急所を思い切り蹴り上げてやったのだ。

 

「う、ぎゃあああーっ!」

 

 短髪男は、股間を押さえながら凄まじい悲鳴をあげて倒れた。

 これで戦闘不能だろう。だが、身体をいいようにされた怒りがおさまらず、動けないところへ追い討ちをかけるべく走っていき、さらに急所に蹴りをねじ込んでやった。

 

「ぎゃあっ……」

「フン、もう使い物にはならないわね。気の毒だけど!」

 

 クズ男の自尊心と身体を文字どおりズタズタにしてやった。撃墜2。戦闘終了だ。

 倒した二人を一瞥し、乱れた衣装を整えると、気を失っているマネージャーに駆け寄った。

 倒れた彼の傍には自分のバッグがあった。中に護身用ピストルが入っていることを思い出すと、さらなる復讐心がふつふつと湧いてきた。バッグを開いて強化ネオプラスチック製のそれを掴むと、素早くスライドを引いて弾を装填し、クズたちに向けた。

 

「う……」

 

 引き金を引こうとしたとき、マネージャーのうめき声が聞こえて我にかえった。

 危うく民間人を射殺するところだったと気付いてぞっとする。

 

「だ、大丈夫?」

 

 倒れたティモに近づいて頭を抱き起こしながら顔を撫でると、ほどなく彼の意識が戻った。

 

「目が覚めた? 格好よく守ったつもりでも、倒されたら駄目じゃない」

「ぼ、僕は気絶してたのか」

「そうよ。危ないことはやめて。自分が弱いことを自覚しなさい」

「連中は撮るのやめたのか?」

「ええ、話したら撮るのをやめてくれたわ」

 

 襲い掛かってきたところを叩きのめしたとは、今は言えなかった。

 

「そうか……。思わずカッとなってしまって。反省するよ。始めから喧嘩腰はいけないな」

「馬鹿なんだから。もっとよく考えなさいよ」

 

 ひと安心したが、まだ心臓が高鳴っていた。暴行された恐怖と屈辱は、すぐに心から消えはしない。感情が昂っていて、気がつくと無意識に涙が流れていた。

 

「え、泣いてるの? なんで……。まさか、あいつらに何かされたのか!?」

「大丈夫、心配しないでいいから」

 

 今は話したくない。恥ずかしくて何をされたかなんて言えなかった。でも彼は違和感を感じているようだし、付き合いが長いから隠し事は難しい。

 

「だから、いちいち落ちこんでたら、この業界じゃ生きていけないでしょ……って、あっ!」

 

 背後に気配を感じて振り向く。そこには倒したはずのウルフカット頭が、ナイフを手にして立っていた。

 なんてタフな奴っ。アドレナリンの過剰分泌が痛感覚を麻痺させているのか、感応波がまだ意識に影響を与えているのか。

 

「本当にぶっ殺されてえようだな!」

「お前、彼女に乱暴したのか!? だったら、ただでは済まさないぞ!」

 

 ティモが飛び掛からんばかりの勢いで言った。

 

「ああ、楽しんでやったよ。てめえが情けなく気絶してる間にな。ガキとは思えねえいい身体してるよな。お前も、いつもヤってるんだろ?」

「こ、この野郎!」

「やめて、刺激しないで! あなたは下がって!」

 

 こうなれば仕方がない。射殺するわけにはいかないから、彼を守るためにも、あいつを完全に叩きのめすしかない。

 

「君はいますぐ逃げるんだ!」

「大丈夫だから!」

 

 マネージャーを制し、素性がばれても良いと覚悟を決めた。

 ナイフに対抗するために腰のリボンをほどいて左手に巻きつけると、今にも襲い掛かってきそうなウルフカット頭の動作に意識を集中し、両手を前に出して身構えた。

 と、そのとき不意に地面が大きく揺れた。それは、まるで地球で発生するという地震のようだった。

 

「こ、この揺れは何!? 隕石でもぶつかったの?」

「よそ見してんじゃねえぞ! 死ね!」

 

 ウルフカット頭が、ナイフを振り回しながら走ってきた。怒りに体を制御できない様子だ。

 

「危ない!」

 

 マネージャーが顔面を蒼白にして叫んだ。でもあたしは慌てず、相手の動きを見定めることに集中した。

 ウルフカット頭の攻撃は、素人らしい単調なリズムだ。だから、ナイフの軌道を予測することは容易だった。

 ウルフ頭は前にナイフを突き出したが、その攻撃をリボンを巻き付けた左腕でベクトルを逸らすようにして受け流した。

 ナイフの起動が逸れた結果、スカートの一部が切られたものの、相手の右腕を脇に抱えて固定することに成功した。すぐさま手刀で思い切り手首を打って、ナイフを手からはたき落した。

 力の加減をしなかったから、相手の骨が折れてしまった。

 

「ぐあぁっ! ち、ちくしょう! 手が、手が折れたっ!」

「観念なさい!」

 

 ウルフ頭は悲鳴をあげて、ガクッと膝を落とした。すぐさま腕を後ろに捻りあげると、リボンの切れ端でぐるぐると巻いて拘束した。

 姉プルセブンに習った、武器を持った相手を制圧するスキルが役に立ったのだ。

 

「す、凄い! いつの間にそんなことを覚えたの? まるでベテランの兵士みたいだ!」

 

 ティモがびっくりしながら近づいてきた。彼に褒められて嬉しいが、これまで披露しなかったスキルで軍人だとばれてしまわないか心配だった。

 上手く誤魔化さなくては。

 

「驚いた? オンライン講座で習ってたのよ。世の中物騒だし、おかしなファンとかいるから護身用にね」

「全く知らなかったよ」

「ふふん、あたし才能に溢れてますからね。まあ、ダンスみたいなものよ。世界には踊りみたいな格闘技もあるでしょ? リズムが大事なのよ」

「へぇ~っ」

 

 適当に言い繕ったが、彼は全く疑っていないようだった。心配することもなかったか。

 

「本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。こんなトラブルは慣れてるって知ってるでしょ……って、ちょっと。やめて」

 

 彼はギュッと抱きしめてきた。また子供扱いしてるのだ。

 彼から離れようとしたとき、脳裏にスパークが走って、ニュータイプ能力で迫りくる危険を感じとった。

 

「えっ、モビルスーツが!?」

 

 直後、まったく突然に、モビルスーツの下半身が木々をなぎ倒しながら森から飛び出してきた。気が付かなかったのは、かなり遠くに落下してから転がってきたからだろう。さっきの揺れがそうだったのだ。

 

「危ない、逃げて!」

 

 大きな音を立てながら、一対の巨大な脚が回転しながら迫ってくる。紺色の外装から判断すれば、上空の戦闘で撃破され、墜落した《ジム・クゥエル》の脚部に違いなかった。

 時間の余裕はない。すぐに逃げないと押し潰される!

 

 ニュータイプ能力で感知していたから、危険が迫る一瞬前にマネージャーの手を引いて逃げることができた。

 でもウルフカット男は痛みに悶絶していたので、背後に迫る危険に気付くのが遅れて致命的な数秒間を失った。短髪男は地面を転げ回っていて逃げるどころではなかった。

 最低の人間であっても、目の前で死なれたくはない。手を伸ばそうと向き直ると、恐怖に顔が引きつった短髪男と視線が合ってしまった。

 その直後、眼前を金属の塊が高速で通過して、二人の男はあっという間にモビルスーツの下敷きになった。

 悲鳴が聞こえたが、あれでは助からない……即死だ。

 自分たちも、あと数秒遅れたら死んでいただろう。まさに危機一髪のタイミングだったのだ。

 

「あ、危なかった……。ティモ、怪我はない!?」

「僕は大丈夫だ」

「あの二人は駄目だわ。……あと少し早く警告できていれば助けられたのに」

 

 男の恐怖に引きつった顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

「あんな奴ら気にすることはない。君に酷いことした報いを受けたんだ。死んで当然だ!」

「そ、そうだけど」

 

 あの二人にされたことを思い出して顔が赤くなるのを感じた。ティモが気を失っていて良かった。あんな姿を見られていたらと思うと死にたくなる。

 唾でベトベトした身体を洗うために、今すぐにでもシャワーを浴びたかった。

 

「……大丈夫?」

「ほんとに大したことないから」

 

 嫌な体験と感触を思い出してしまうから、彼がまた抱いてこようとするのを反射的に拒否してしまった。

 

「君が心配なんだよ」

「だから、それが余計だっていうの! 子供扱いしないでいいから。大丈夫だから!」

 

 感情にまかせて、思わず彼の頬を引っ叩いてしまった。

 力の手加減が出来なかったので、ティモの口が少し切れて血が流れた。

 

「あっ。ご、ごめんなさい!」

 

 心配してくれる人を傷付けるなんて本意じゃない。慌てて顔を近づけて傷を確認すると、当たり前だがティモと間近で見つめ合う格好になってしまった。

 

「……」

 

 彼が思い切り抱きしめてきて動けなくなる。

 さっきは抵抗したが、いまは頭が真っ白になってしまって駄目だ。

 お互いの顔が、半センチくらいの距離まで一気に接近したー。

 

「あらあら、こんなところで何をしてるのかしら? 公共の場で露骨に愛し合うなんて、サイド3じゃ犯罪じゃない?」

 

 突然聞こえたライバル女の声に、びっくりして彼を思い切り押しのけてしまった。

 振り向くと、ライバル事務所に所属するクリスティ・マッキンタイアが立っていた。

 

「クリス!」

「こんなところであからさまに抱き合うなんて、ずいぶん大胆ねぇ。誰もいないとでも思ったの?」

 

 クリスティはニヤニヤしながら、嫌味っぽく言った。

 彼女はレポーターとしてこのサイド3を訪れていて、私のコンサートも取材していたのだ。

 でも、彼女の服はボロボロで、怪我をしてふらついている。暴動に巻き込まれたのかもしれない。

 

「あなた怪我をしてる。その格好だと瀕死に見えるわよ」

「似た格好してるくせに。フン、暴徒が襲い掛かってきたのよ。なんとか押しのけて、ここまで逃れてきたというわけ。本当にジオンは民度の低い国だこと」

 

【挿絵表示】

 

 自分がされたことを思えば反論することはできなかった。旧公王庁周辺には、人の感情を逆撫でするような、暴力的な感情が漂っている。

 

「中継はどうしたの?」

「続けられるわけないでしょ。そうね、あなたがマネージャーさんと盛り上がって熱愛してるところを情熱的にレポートしてあげましょうか?」

「な、なに言ってんのよ!」

「そんなんじゃない、やめてくれ!」

 

 ティモが叱るように言った。ん、いつもと言い方が違う? 

 

「久しぶりね……。あなた、また女の子を泣かせてるの。困った男」

「えっ? あなたたち、知り合いだったの?」

 

 マネージャーとクリスが親しい知り合い? いえ、それ以上の、まさか恋人? ティモは昔はなかなか人気があったアイドルだったということは知っていた。

 

「あらあら? ファンネリアさん、私たちの関係を知らなかった? マネージャーさん、彼女に言ってあげないとダメじゃない」

「昔の話だよ」

「そう、昔の話ね。だけど、やっと理由がわかった。あたしと別れたのは、お子様と付き合いたかったことが理由なのね。このロリコンさん」

「な、何を言ってるんだ!」

「そのとおりでしょ。彼女、何歳なのよ? ま、それはいいとして、二人は一緒に危機を乗り越えて、立場や年齢差を超えて関係が急速に発展した、というところなのかしら?」

「勝手に想像しないで!」

「別にお邪魔するつもりはないの。二人で情熱的な行為を、一晩中飽きることなくしなさいな。私としたみたいにね……あれは良かったなあ」

「なっ……」

「ウブな彼女を虐めないようにね。さよなら」

「ちょっと、どういうこと! もっと話をきかせて!」

「またの機会にね。たっぷりと、あのクズ男の酷さを教えてあげるわ」

 

 クリスはあたしたちの関係を破壊する爆弾をばら撒くと、公園の外へと歩き始めた。

 

「あなた、病院に行ったほうがいいわよ!」

「ご心配ありがとう、ファンネリアさん。また会いましょう」

 

 あんな格好で歩いていたら襲われるんじゃないだろうか。嫌な女だが、酷い目に遭えとは思わない。

 

「彼女、怪我は大丈夫かな……」

「そんなに心配なら、病院まで付き添ってあげればいいじゃない。あたしは構わないわ」

「そんな、君を置いていけないよ」

「一人でも平気よ。早く行けばいいのに」

「……もしかして、怒ってる?」

「ねえ、クリスと付き合ってたって、なんで言ってくれなかったの!? あいつにマウント取られたじゃない!」

「い、いや。昔の話だし。君たちはあまり仲も良くないから言い出せなくて」

「ずいぶん仲が良かったようね。なによ一晩中って……いやらしい!」

「あれは、嘘だ!」

「どうだか。それにしてもライバル事務所の女優と付き合うなんて、社長がよく許したわね。……だから別れた?」

「そこまで深い関係じゃなかった」

「さっきの話を聞く限りは信じられないわね」

 

 この期に及んで嘘をつくなんて。本当に腹が立っていたので、眉間に皺がより、頬がふくらんだ。

 

「謝るから、機嫌なおしてよ」

「別に、事実なら謝る必要はないわよ。嘘をつかれるのが嫌なだけ。あなた、怪我で引退したって聞いてたけど、他の理由もあるんじゃなくて?」

「それは本当だ。ステージから落ちて、脚を痛めたから引退したんだ」

「加えてあの女が関係してるんでしょうね。改めて説明してもらうから、弁解する機会をあげます」

「弁解することなんてないよ」

「いいわ。誰でも傷はありますからね。とにかく事務所に戻りましょ。社長に無事だと報告しないといけないわ」

 

 事務所まではエレカを使えば二十分ほどだが、どこかでレンタルエレカを借りるにしても幹線道路が渋滞していた。渋滞しているのは、警察や軍が道路を封鎖しているからだ。

 モビルスーツがあればひとっ飛びでいけるのに……って、そうだ。すっかり忘れていた。ナインのハイザックは!?

 

 慌ててニュータイプ能力で妹の乗機を探すと、まだ上空にいた。ゆっくりと降下中であり、たぶん着陸できるところを探しているのだ。

 合流しようと考え、公園に降りてきてと呼びかけようとしたそのとき。誰かがコクピットから落ちたのがわかった。

 頭に悲鳴が直接響いたのだ。

 知らない女の子が、ナインの機体から!? まさか妹が他人を放り出すわけはないから、機体から脱出しようと考えた!?

 

「モビルスーツから、人が落ちた!」

「えっ!? マリーちゃんが!?」

「違う、妹じゃないけど……あの高さじゃ助からない!」

 

 

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