プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

プルテンは、おにまるさん(https://twitter.com/onimal7802)にデザインして頂きました!

文、挿絵:ガチャM
設定協力:かにばさみ

※Pixivにも投稿しています。


第36回「嵐の前触れ」

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 モビルスーツのロケットエンジンから噴き出す青い燃焼ガスが、宇宙空間に散らばるゴミに反射して煌めく光の帯となっていた。燃料の主成分はネオメタンという物質で、酸化剤と混ぜ合わされ、さらに核融合炉の高熱によって爆発的に膨張することで、巨体を飛ばすエネルギーとなるのだ。

 この燃焼サイクルを繰り返すとモビルスーツは飛び続けることが出来るのだが、もし燃料が尽きてしまえば、方向を変えることも出来ぬまま永遠に宇宙を彷徨うことになる。つまりこの冷たい宇宙で燃料を失うのは致命的なのだ。それゆえネオメタンが燃焼する松明のような青い光を、パイロットの生命を現す炎そのものと表現しても良いのではないか。

 

現実主義者(リアリスト)の自分も、そのくらいの比喩はするのだな』

 

 アクシズ親衛隊の副隊長を努めるプルシックスは、新しい愛機に慣れない僅かな不安がそんなシニカルな思考を招いたのだと分かっていたが、と同時に、最近読んだ小説の影響も多分にあると自覚していた。

 航空機が危険な乗り物だった時代に、それでも空を飛ぶことを選んだ勇敢なパイロットたち。あえて危険に飛び込む人間の思考を理解しようと読み始めた旧世紀の物語は、人の性質は変わらないということを教えてくれたのだ。宇宙世紀に巨大な人型マシーンを飛ばす自分にも共感できる真理がそこにあった。

 だから、パイロットの変わらぬ習性を自分もしてみることにした。ヘルメットのバイザーを上げてコクピットを感じるのである。

 この機体はロールアウトしたばかりで、まだ乾き切っていない樹脂や接着剤、合成レザーの真新しい匂いがする。さらにグローブを外してシートやコンソールを触ってみれば、全て手作業で組みあげられた、丁寧な仕事だということがわかる。

 ディスプレイの情報だけではない、肌で触れた実感が、パートナーであるマシーンの存在感、ひいては安心感を与えてくれる。

 

『この機体の組み立て精度は高い。プルフォウ姉さんの気合いを感じる。あとは、どこまで潜在能力(ポテンシャル)を引き出せるかだ』

 

 機体形式番号AMX-004G《量産型キュベレイ》。親衛隊に与えられた最新鋭機で、プロトタイプであったキュベレイタイプを元に、生産し易い構造に再設計したモビルスーツ。

 無論それだけの機体ではなく、サイコミュ誘導型無人砲台『ファンネル』の搭載数を増やし、さらにファンネルを失った際に問題となっていた打撃力不足を補うべく背面にアクティブカノンを増設するなど、武装強化もされている。

 しかしながら実戦を経験した結果、構造的な脆弱性が明らかになっていた。それは高価なプロトタイプを量産モデルにする過程で生じたコスト削減の結果であったが、親衛隊としては受け入れられることではなく、姉のプルフォウがプロジェクトに参画して改良を施したのである。

 姉は幼いときからエンジニアとしての才覚があり、プライベートでジュニアモビルスーツを設計するほどだった。そんなアクシズ新進気鋭のエンジニアである彼女の努力の結果、量産型キュベレイはブロック20と呼ばれる仕様に進化し、機体の剛性強化に加えてマニュピレーターでビーム兵器をドライブできるようになったのだ。

 

『上層部は完成を急がせろと言うが、妥協するわけにはいかない。この機体で戦うのは姉妹たち。不安要素を排除することが、副隊長の自分の務めだ』

 

 いまテスト中の試作四号機は、改良された二次生産モデル(セカンドロット)であり、さらに親衛隊の副隊長である自分専用にカスタム化された機体だ。

 カスタマイズの内容は、各種センサーや通信装置など指揮統制機能の強化と、長距離支援用にアクティブカノンに替えてメガランチャーを装備したことである。この機体を受領して、ようやく自分の能力を活かせるマシーンを手に入れたと感じた。というのも、これまで搭乗していたAMX-009《ドライセン》はサイコミュやファンネルを搭載しておらず、ニュータイプ能力を最大限に発揮できなかったからだ。自分たち強化人間にとっては、無人砲台のファンネルを操れることが、戦場における決定的なアドバンテージになる。

 この《量産型キュベレイ》を親衛隊全てに配備できれば、部隊の戦闘能力はニ、三倍になるのではないか。加えて姉プルツーの専用大型モビルスーツ《クィン・マンサ》が完成すれば、もはや地球連邦軍の戦力など……。

 と、そこまで考えて、並進する僚機、妹プルテンが乗る機体を見て現実逃避をやめた。

 

「テン、機体の調子はどう?」

『はい、悪くないです。姉さんの機体ほどには良くありませんけどね』

 

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 妹は少し控えめに不満を表明した。武品不足のために《量産型キュベレイ》の製造は大幅に遅延していて、彼女はまだ新型を受領していなかった。

 とはいえ親衛隊用の高性能モビルスーツの調達は急務であり、その要求に応えるべく、姉プルフォウは《ガズアル/ガズエル》をベースとした改良機を提案してくれたのだ。

 

「その機体、あなたが乗っていたガズエルに、半壊したガズアルの部品を組み合わせて改造されたと聞いているけれど」

『はい。ファイブ姉さんのガズアルです。分解されてしまって可哀想でしたけど、二機が一緒になれたなら、それは幸せだと思うんです』

「感傷的ね」

『変ですか?』

「いえ、そんなことない」

『でも、この子は上手く出来てますよ。私も、ガズアルとガズエルを合わせたら面白いだろうな、と思っていましたから』

 

 テンが可笑しそうに言った。軍隊には似つかわしくない、素直な笑い声だなと感じた。

 彼女は動物を愛していて、非番の時にはニュータイプに覚醒した鳥や動物を探していたりする。その性格はパイロット向きでないとも思うのだが、意外にモビルスーツの操縦は上手い。誰にも二面性はあるものだ。

 

「フォウ姉さんとイレブンは良い仕事をしたと思う。コストパフォーマンスが良いから、部隊の予備機として何機か製造してもいいわね」

『はい。わたしも賛成です』

 

 そもそも《ガズアル/ガズエル》は、VIPや将校が乗る機体を護衛するためにガルバルディタイプを改良したモビルスーツで《ガズR(アル)》は右、《ガズL(エル)》は左と、半身にのみ増加装甲が取り付けられているのが特徴だ。それには装飾的な意味合いもあって、護衛機の左右に展開したときに、編隊として美しく見えるように設計されているのだ。

 だが増加パーツを左右に取り付ければ、完全体としてさらに性能が上がると考えるのは、単純だが自然な発想だろう。いまテンがテスト飛行させているのは、その発想を具現化した機体なのである。

 

クロスドミナンス・ガズ(両利きのガズ)、略してクロス・ガズってオシャレな名前ですよ。このまま私の専用機にしようかな、なんて』

「気に入ってもらえたなら良かった」

 

 これまでのところAMX-117S《クロス・ガズ》は想定通りの性能を発揮している。

 メインジェネレーターを交換、強化し、ロケットバーニアの出力を増加させたことで運動性能は三割ほど向上。両肩にウェポンラックを取り付けたことでミサイル搭載数が倍加し、打撃力は大幅に増加した。ビーム・キャノンや白兵戦用のヒートランスと組みあわせれば、あらゆる距離において戦闘力を発揮するはずだ。

 さらに機体制御と兵装コントロール用に簡易サイコミュまで搭載しているから、ガズアル/ガズエルより性能は五割増しになったと試算されている。

 

『テスト項目は順調に消化しています。最新型の量産型キュベレイにもついていけてますから、この子の潜在能力は高いです』

「戦力になりそう?」

『はい。キュベレイの製造遅れをカバーするためにも、しっかりテストを完了させます』

「助かる。プルフォウ姉さんは最善を尽くしてるけど、複雑なキュベレイの生産には、どうしても時間がかかってしまう。この前の戦闘で二機が半壊してしまったから、修復に部品を取られたのも痛かった」

『責任重大ですね。私、頑張ります。次は射撃テストです』

「了解。ターゲット用に適当なデブリを探して」

「わかりました」

 

 この宙域は、アクシズに構築されたセンサー網の有効半径内に位置するが、岩や残骸が多く、ミノフスキー粒子濃度もそれなりに高いので訓練には最適の場所なのだ。

 

「そういえば前にあなたが話していた、ニュータイプに進化した鳥や動物」

『あ、はい』

「奇妙に聞こえるけど、理論的にはあり得るのでしょう?』

『そうなんです。スリー姉さんには生理学的に、イレブンにはミノフスキー物理学的に可能性があるって言ってもらえたんですよ』

「それは興味深いわね」

『だから、わたし絶対に見つけたいんです。動物と交信できるだなんて、ワクワクするじゃないですか』

「たしかに動物と会話できたら世界は一変するでしょう。ただ、必ずしも好意的ではないかもしれない。戦争ばかりしてるのでは」

『だったら、私が平和の大使になりますね』

「フフフ。それは、いいわね」

 

 ニュータイプの動物か。実は人間が知らないだけで、動物たちはすでに交信しあっているのではないか。戦争で人間が絶滅したあとの地球で、彼らが主になるために……。

 いけない。今日は無駄な想像ばかりしてしまう。

 

『あ、ちょうど良い岩石を見つけました。的にはぴったりかなって』

「了解。なるほど、あの右舷前方にあるアステロイドか。座標は……ん、待って。アクシズから緊急レーザー通信が入った」

『えっ?』

「確認する。……サイド3、ジオン共和国で大規模な暴動が発生? アクシズの全部隊は、地球連邦軍の動向に注意しろと。私には緊急対策会議への参加要請が来ている」

『それって、戦いが始まるってことですか?』

「分からない。地球連邦軍との停戦協定は、まだ有効なはず……警戒! 付近にモビルスーツがいる!」

 

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 センサーで感知したのではない。キュベレイのサイコミュを通して、敵の脳波、意識を感じたのだ。

 

『こちらのミノフスキー・センサーでは、まだ感知してませんっ』

「サイコミュで感じたが、見られているな。周囲にモビルスーツが潜んでいる可能性がある。たぶん偵察機!」

『こんな場所に連邦軍が? 機体のデータを取られたら大変ですよ』

「わかってる。新型機のデータは送らせない。まだ反応はしないように。気付かれたと思わせたら逃げられてしまう」

『りょ、了解です!』

 

 ヘルメットを脱いでいたテンは被り直そうとするが、慌てたのか掴み損ねてしまった。

 

『あ、しまったっ。ひ、拾わないとっ』

「シートを離れないで! 待ち伏せ(アンブッシュ)があるかもしれない。それに新型リニアシートにはエアバッグ・システムが装備されてるから問題はない』

『え、Airパック? そういえばフォウ姉さんが話してましたけど、聞き逃しちゃいました!』

「衝撃で膨らむ緩衝装置。テストでは有効だったから、信じるしかないわね」

『うぅっ。怖いですけど、我慢します』

「私がついてるから心配しないで」

 

 自分も背もたれの固定を確認して、サイコミュ対応型のヘッドセットを頭にはめた。

 

 この宙域はミノフスキー粒子が濃いから、監視にはレーザー・レーダーか光学センサーを使うはずだ。しかも岩石やデブリが多くはないから、隠れる場所は少ない。

 

「レーザーや可視光では直線的に監視する必要があるから、センサーをこちらに向けているはずだ。モニターにフィルターをかけて、反射光を発見できれば……」

 

 いた。

 

「そこか!」

 

 一時的に停戦しているとはいっても、これほど敵陣近くまで接近すれば攻撃されても文句は言えない。それこそ協定違反だろう。

 スペクトル分析で大まかに判明した位置をサイコミュを使って正確に走査し、得られた三次元データを照準システムに入力すると、すぐさま最適な攻撃方法が提案された。

 

「ビームランチャーを使う!」

 

 セイフティを解除すると、背面に格納されていたメガ・ビームランチャーが脇の下を回り込みながら展開してきた。

 フレキシブル・アームによって安定化された長大な砲の薬室に、プラズマで高圧縮されたメガ粒子が急速充填されていく。充填が完了し、マニュピレーターがグリップを掴むと発射準備が整った。

 この動きで偵察機も気付いたはずだ。攻撃すれば戦端を開くことになるが、決戦兵器であるサイコミュ・マシーンの情報を連邦軍に渡すわけにはいかない。

 一瞬攻撃を躊躇したが、親衛隊の副隊長として責任をとるつもりだった。

 

「気の毒だが、データを送信させはしない!」

 

 コンピューターによる照準をマニュアルで僅かに補正すると、先制攻撃を仕掛ける興奮と不安を抑えながら、あくまで冷静に操縦桿のトリガーを引いた。

 

 光回路で接続されたシステム内を電気信号が通過し、トリガー操作からミリ秒の遅れなくランチャー本体にコマンドが送信される。

 高圧縮されたメガ粒子に、ジェネレーターから直接取り出された莫大な熱エネルギーがぶつかると、縮退して無理矢理に抑えられていた運動エネルギーが解放されて砲身からビームが飛び出した。

 凄まじい熱エネルギーを内包したパーティクルが闇を切り裂き、空間に漂うデブリを蒸発させながら突き進むと、二秒後にはターゲットに直撃した。

 

「やった!」

 

 敵機はすぐに離脱を試みたが間に合わず、ロケットエンジンが機体を動かすパワーを発揮する前にコクピットから上下に分断された。

 望遠モニターには、巨大なレーダーを内蔵した角ばった機体が大爆発する様が映し出された。

 機種はRGM-86E《EWAC GM III》だろう。頭部に大型センサー・ユニットを装備する、地球連邦軍の標準的な偵察型モビルスーツで、同系列のアイザックは接収してアクシズでも運用している。

 

『直撃です。機体からデータポッドが射出された形跡はありません』

「了解。だが警戒を怠らないように。あの一機だけではないはず」

『分かりました。……あっ、ミノフスキー・センサーに反応あり。モビルスーツが急速に接近してきます!』

「数は? いや、四機!」

『はい、光学センサーでも捉えました。アステロイドに隠れていたようです』

「ちっ、偵察機は爆発寸前にデータを送信したわね。新型機と分かったから捕獲するつもりだ」

『えぇっ!?』

「離れないで。劣勢のときは戦力をまとめていた方がいい」

『は、はいっ』

「連邦軍が実戦テストをさせてくれるというなら遠慮はしない。ついてきて!」

 

 円を描くような機動で、相手と一定の距離をとる。テスト中の機体だし、長射程武器を有しているので、自ら接近戦をすることはない。

 こちらの動きに対応して、敵部隊は二機ずつに別れた。挟み撃ちにするつもりだろうが、それだけは避けなければならない。敵モビルスーツの動きを観察すると、左に展開した二機の方がスキルが低いと判断した。優柔不断な動きというか、思い切りが悪いのだ。

 コンソールのディスプレイ上には、光学カメラで撮影された映像を元にコンピューターが機種を解析した結果が表示され始めていた。

 左の二機は《ジムIII》と、その砲撃仕様のキャノンタイプ。右の二機はキャノンタイプと不明機(アンノウン)。この不明機は少し大型で、非常に加速が良い。

 

「新型? 連邦軍は、こんなアクシズの近くでテストをしていたのか? 舐めてるわね」

 

 新型は武装や機動力が不明なので、どのように攻撃を組み立てるべきか分からず非常に厄介だ。

 でも、それは相手も同じこと。敵もこの新型機の性能を計りかねているはずで、まずは《ジムIII》に攻撃を仕掛けさせるだろう。機体形状からキュベレイタイプと判断しているとすれば、最初はあえてファンネルを使わないで意表を突くか。

 

「トパーズ2、攻撃パターン・シックス3デルタを実行。送信したパラメータを入力後にミサイルを発射して!」

『了解です』

 

 僚機に攻撃パターンを指示した五秒後、《クロス・ガズ》の両肩ウェポンラックから、AMS-01H対モビルスーツ・ミサイルが発射された。

 

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 計十二発のミサイルは、圧縮空気で格納ラックから押し出された後、次々と個体ロケットに点火して猛然と加速を始めた。

 これはコールド・ローンチと呼ばれる発射手法で、熱源から発射位置を特定されるのを防ぐ目的がある。レーダーが使えない戦場では、パッシブセンサーによる熱感知は有効な索敵手段なのだ。

 巡航状態に遷移したミサイルは、あらかじめ設定されたパラメーターに従って飛翔した。ミノフスキー粒子下では、高度な電子機器は誤作動を起こすので、シンプルな自律回路によって制御されるのだ。

 

「ミサイルが到達するまで三十秒。(バンディット)はビーム・キャノンで迎撃してくるはずだ」

 

 キャノンタイプは、データベースのマッチング結果によれば《ジムIII》を改修した支援砲撃型だろう。ロングレンジで攻撃する能力があるが、どれだけの精密射撃能力があるのか。

 

 はたしてキャノンタイプの右肩にマウントされたビーム・キャノンから、比較的低速のビームが連続発射された。対して《クロス・ガズ》が発射したミサイルはジグザグの乱数加速を開始する。これは迎撃を予想して、あらかじめプログラムしておいた回避機動だ。

 

『ミサイルが被弾! 一、二、三……」

 

 プルテンが被害報告をする。攻撃はかなり正確だ。ミサイルの回避機動に対して、敵機のコンピューターが軌道を予測して攻撃しているのだ。連邦軍の学習型コンピューターは侮れない性能がある。

 連続発射されたビームによってミサイルの1/4が破壊されたが、それでも九発が生き残った。

 

『ミサイルが終末機動を開始します』

 

 ターゲットに到達した対MSミサイルは、《ジムIII》とキャノンタイプを囲い込むように襲い掛かった。これも到達時間を予測し、経過時間をトリガーにしたプログラミングによるものだ。

 もちろん敵機もただ見ているだけではない。頭部に装備されたCIWS(近接攻撃システム)バルカン砲を発射して、防御の最終段階を開始した。

 だが、全てを撃破するにはいかんせん火力不足だった。さらに一発が撃破されたが、バルカンの射線をくぐりぬけたミサイルは、レーザー近接信管によって次々と起爆した。直撃ではないが、爆発による間接的なダメージで二機の機動力を少しずつ削いでいく。

 これが狙いだ。

 爆発を利用して罠に追い立てるという残酷な戦術だが、容赦するつもりはない。

 翻弄される敵機は、ミサイル全てが起爆し終えると動きを止めた。

 

「戦場でその動きは命取りね」

 

 隙は逃さない!

 すかさず操縦桿のファイアボタンを押すと、連動して《量産型キュベレイ》の右マニュピレーターがメガ・ビームランチャーのトリガーを引いた。すると砲口からビームが飛び出してターゲットに向かった。

 間違いなく命中する。

 結果は分かっているので、残りの二機に対応するために機体を方向転換させた。直後、暗い宇宙空間に光源が発生し、パッと明るくなった。コクピットを撃ち抜かれて、《ジムIII》とキャノンタイプが同時に爆発したのだ。位置が重なった瞬間に狙撃したのである。

 『外』からの強い光が差し込み、ディスプレイが見辛くなるのを防ぐために遮光フィルターが起動した。

 

『二機を撃破ですっ』

「残りの二機を迎撃する。不明機の観測データを送信して」

『わかりました』

 

 この短時間に収集したデータから新型の性能を推測するのだ。

 光学カメラの望遠映像と、レーザーセンサー、ミノフスキー・センサーを合わせたスキャン結果からCGモデリングが行われ、AIが性能を評価し始めた。もちろん誤りもあるだろうが、情報がないよりはましだ。

 コンソールのサブディスプレイに機体データが表示されていく。

 機体サイズは20mほどで、ゴーグル型カメラを有した頭部からはジムタイプに見えるが、フレーム構造からは70パーセントの確率でゼータ・タイプだと推測されていた。わずかながらメタス・タイプの特徴も備えていて、目立つのは左右の肩ブロックに接続されたユニットだった。これはネロ・トレーナーが装備しているような増速用ブースターではないか。先端にはビーム・キャノンが組み込まれているかもしれない。

 

『いろいろな機体の特徴を取り込んだ亜種でしょうか。品種改良で勾配させたような……』

「おそらくゼータ・タイプを元にした低コストモデルでしょう。地球では量産型が目撃されているし、指揮官機(エスコート・リーダー)として開発されているのでは。でも、これは変形機構は有していないように思える。有るなら変形して加速しているはずだから」

『遺伝的な特徴が、なんらかの要因で発現しなかったのでしょうか……。攻撃手順は?』

「攻撃パターン、シックス3アルファを選択。接近して白兵戦を仕掛けるから近接兵器の準備を」

『分かりました』

 

 ゼータ・タイプは高速戦闘に優れているから、思い切って白兵戦に持ち込んだ方が良い。ファンネルを装備するキュベレイにとって近距離戦闘は得意な領域だし、僚機のクロス・ガズは打撃武器『ヒート・ランス』を装備しているからだ。

 よし、やってやる。

 

『トパーズ2はバンディット2を迎撃。散開! 長距離攻撃に注意して』

『了解しました!』

 

 僚機に指示を出すや否や、敵のビーム攻撃が始まった。こちらを接近させまいと、ビーム・キャノンを撃ちまくっている。下手な機動をすれば被弾する侮れない攻撃だ。ランダム機動で動きを読まれないようにしなければ。

 

『きゃあぁっ』

 

 ズシンッという凄まじい爆発音と振動が、通信回線を通して聞こえた。慌てて僚機を見ると、大型シールドにビームが直撃したのだとわかった。

 

「大丈夫!?」

 

 自らもビームを回避しながら、被害状況を確認する。感覚で彼女が無事なことは分かっているが、戦闘継続が可能かどうかが心配だった。機体に問題があるなら即時撤退しなければならない。

 

『シールドが破損しました! でも機体の損傷は僅かです』

「動きを読まれないようにランダム加速して!」

 

 シールドには、熱を吸収しながら蒸発するアブレーション・ビームコーティングが施されているので、標準的なビームなら二、三回は耐えられる。だが、もし機体に直撃していたら妹は撃墜されていただろう。敵の照準は相当に正確だ。

《量産型キュベレイ》の肩バインダーにもビーム・コーティング処理がされている。だから両腕を四枚のバインダーに収納して防御形態をとりつつ、バーニアを全開にして加速した。

 敵機は後退しながら距離をとっているから、こちらは追いかける形になっている。

 

「……回避!」

 

 直撃コースの攻撃を感知して、素早く操縦桿を右に倒しつつフットペダルを踏み込んだ。

 機体が素早くロールしながら方向を転じると、ビームが数秒前にいた場所を通過した。

 間一髪!

 

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 サイコミュによって感覚が増幅、拡大されているから、敵パイロットの殺気を感じて攻撃を予測できる。感覚が鋭敏になると不愉快さも感じるが、アドレナリンが出ている状態では気にならない。

 機体の反応も良い。燃料を消費せずとも、羽根のように動くバインダーの反作用によって機敏に動くことができる。古い言葉で表現すれば『人馬一体』が適切だろう。

 機体の挙動を信じられなければ、自信を持って戦うことなど出来ないのだ。

 

「トパーズ1。三十秒で会敵予定」

 

 攻撃に備えて、サイコミュ誘導兵器『ファンネル』システムを起動させた。すると、アクチュエイターが動作する音がして、腰に取り付けられたファンネル・コンテナが展開した。

 ファンネル・コンテナは厚みのある三角形で、無人攻撃端末『ファンネル』の格納庫になっている。ファンネルに電力と燃料をチャージする機構が備わっており、《量産型キュベレイ》にとっては要となるシステムなのだ。

 

「ファンネルを射出する。展開宙域には侵入しないように」

 

 意識を集中して三次元的な攻撃パターンを思い浮かべると、ヘッドセットを通じてサイコミュが脳波を読み取り、それをコンピューター言語に変換して『ファンネル』に送り込んだ。

 コマンドを受信したファンネルは、下面に開けられた数十もの射出口から次々と射出されていった。

 勢いよく飛び出していったファンネルを横目にみながら相手の出方を待つ。すると、新型は素早く反応し、ビームライフルを続けざまに三連射してきた。

 眼前に迫る危機にニュータイプ能力が発揮されて、脳裏に回避する道筋が浮かんだ。そして、ほとんど同時に敵パイロットの意図を理解した。

 最初のビームを避ければ、その先に次のビームが待っている。迂闊に避ければ、逆に直撃を喰らってしまうというわけだ。

 

「やるな! こちらの機動性を逆手に取ろうと言うわけか」

 

 つまり、牽制ビームで意図する方向に追い立てて、ついには直撃を喰らわせようと言う戦術なのだ。さっきはこちらもミサイルを使って似たようなことをしたが、その手にはのらない。

 だからあえて軌道を変えずに、ビームを防御することにした。丸みを帯びたバインダーで弾くようにすれば……!

 

 ビームがバインダーに直撃して、ズシンッと機体全体が揺れた。

 アブレーション装甲で吸収し切れなかったメガ粒子がバインダーの上で弾けて、跳ねた粒子が機体の一部を溶かしていく。

 

「ダメージは僅かだ」

 

 攻撃が命中したと見るや、新型はバーニアを逆噴射させて急停止し、すぐさま反転してきた。

 とどめを刺そうというのだろう。赤外線センサーがサーチしている警告音がコクピットに鳴り響いた。

 

「やはり機動性は高い。だが、あんな機動をすれば、パイロットはGに耐えるのに必死なはずだ」

 

 敵は上手く誘いに乗った。今が好機だ。

 

「ファンネル、エンゲージ! 網にかかれ!」

 

 攻撃命令を出すと、周辺宙域でリング状に並んで待機していたファンネルが一斉に目を覚ました。同時にビームが発射されて、漆黒の空間に光のネットが張られた。

 それはまるで海で魚を取るための罠のようだった。記録映像でみた地球の習慣が一瞬脳裏に浮かんだが、果たしてそのイメージ通りになり、新型は罠に飛び込む形になった。

 ファンネルの細いビームが機体に次々と傷を付けていく。新型の肩ユニットが爆発して外れ、右肩の装甲が吹き飛んだ。

 しかし致命傷ではない。

 

「ちっ、流石に防御力は高い!」

 

 ファンネルは小型で機動性は良いが、核融合炉を搭載しておらず、バッテリーと小型メガ粒子カートリッジによる低出力ビームしか撃てないのが欠点なのだ。

 加えて敵のスピードは予想より速く、ビームが直撃せずに掠ってしまって、決定的なダメージを与えることは出来なかった。

 だが傷を負ったことは間違いなく、新型は機体のあらゆる部位から火花と煙を噴出させていた。

 勝敗は決しただろう。ならば投降勧告をするか?

 だが、それが自分の甘さだと気付いた。

 敵機は増速しながらビーム・サーベルを起動させてきたのだ。もはやこれまでと、刺し違えるべく突撃するつもりなのだ。

 その覚悟に軽い恐怖を覚える。いわゆる『窮鼠猫を噛む』ような追い詰められたパイロットは、爆発的な力を発揮するから危険だというのは知られた話だ。

 

「落ち着け! 相手の気迫に飲まれてはだめだ」

 

 深呼吸をすると、敵機のビームサーベルに対応するべく、操縦桿のボタンを押下して近接戦闘用の武器を起動させた。

 すると、普段は機体のバランスをとるためにカウンターウェイトとして機能している背面左のスタビライザーが、回転しながら脇の下を回り込んできた。

 スタビライザーは武器ラックにもなっていて、露になったグリップを右マニュピレーターで掴んで引き抜くと、長大なヒートサーベルが現れた。

 

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「一騎討ちを望むなら、受けて立つ!」

 

 このヒートサーベルは、ドライセンに搭乗していた時から愛用していた武装で、刃をプラズマ化させて相手を切り裂く斬撃兵装である。ビーム兵器より熱量は劣るが、大質量による運動エネルギーによって、文字通り叩き切ることが出来る。

 敵を正面に見据えると、マニュアル操作で剣を操作できるように、武器制御システムのモードを切り替えた。

 あと三秒で接触する。白兵戦には邪魔になるメガランチャーを背中に格納して、両手でサーベルを構えさせた。

 対して新型はビームサーベルを正面に構えて、フェンシングのように突きを放ってきた。速度を攻撃力に上乗せすることで威力を増すつもりだ。

 

「実体剣では防御できないとみたか。なら!」

 

 素早く左の操縦桿を操作して、《量産型キュベレイ》の左袖に格納されているビームサーベルを選択した。するとビームガンの砲身として機能しているサーベルの柄が素早く袖から飛び出し、左マニュピレーターがそれを掴むとサーベルが起動した。

 直後、凄まじい明るさの光球が二機の間に広がり、すぐに防眩シールドが自動的に降りて閃光がカットされた。

 ビーム・サーベル同士の鍔迫り合いで、ビームを形成する『Iフィールド』と呼ばれる力場同士が干渉したのだ。干渉は物理的な反発力を生み、ロケットバーニアを全開にして反動を抑えこまなければならなかったが、この状態から攻撃に転じるためには力のバランスを変化させなければならなかった。

 

「うおぉーっ!」

 

 無意識にあげた自らの叫び声を聞きながら、操縦桿を柄に見立ててヒートサーベルを振るった。

 操縦桿を一旦引いて相手の突きを受け流し、すぐさま上に捻って上方に弾く。相手の防御が手薄になったところで、右から左に大きく動かして、勢いをつけながらヒートサーベルを横薙ぎに払わせる。

 プラズマが金属を溶かす際に生じる凄まじいスパークが発生し、ヒートサーベルは敵機の左腕を瞬時に溶断して胴体に達した。

 このままパワーをあげて押し切る!

 だが新型は右腕でこちらの左腕を掴んでくると、グイッと引き寄せてきた。

 

「なにっ!?」

 

 新型は、そのまま密着した体勢で頭部バルカン砲を連射してきた。跳弾のダメージなど構わず、ゼロ距離射撃で撃破しようというのだ。

 もろとも自爆するつもりか!?

 60ミリバルカン弾の直撃で、左胸の装甲が吹き飛び、バインダーに穴が空いた。

 

「ちっ、離脱だ!」

 

 このままでは機体が穴だらけになって爆発する。左脚で敵機に勢いよくキックをくらわせると、その反動と逆噴射で一気に後退した。

 同時に胴体にめり込ませていたヒートサーベルを、逃れる勢いを利用してノコギリを引くように引き抜いた。

 致命傷だ。

 新型の上半身がガクンと左に傾き、熱で無理矢理切り離された断面が見えた。

 何度か右手が虚しく宙を掴み、まるで助けを求めるような仕草をすると、そのまま機体は大爆発を起こした。

《キュベレイ》に素早く肩バインダーで防御体勢をとらせると、無数の破片が機体にぶつかってきて、何十もの打撃音がコクピットに響いた。

 

「や、やったかっ! あの新型、ジムやネモとはパワーが違う。……テンは!?」

 

 自分の戦いに埋没していた意識から我に帰ると、僚機が無事かどうか確認した。

 オールビュー・モニターに拡大画像が表示されて、妹の《クロス・ガズ》とキャノンタイプが交戦する様子が映し出された。

 

『きゃああ、しまった!』

 

 テンの悲鳴がヘッドセットに聞こえてきて血の気が引いた。

《クロス・ガズ》が持つヒート・ランスを、キャノンタイプがビームサーベルで両断したのだ。

 

「後退してっ! テン!」

 

 シールドはすでに失われているので防御できない。キャノンタイプがさらにサーベルを振るうと、《クロス・ガズ》の左肩装甲が切り取られた。

 妹がやられる!

 援護するために全速力で向かうが、間に合わないと分かっていた。

 

『い、嫌あああ~っ!!』

「テン、反撃してぇ!」

 

 キャノンタイプのサーベルがコクピットを狙っていた。《クロス・ガズ》のコクピットは胴体中央部に位置するから、脱出ポッドで逃げてもサーベルに切り裂かれてしまう。

 が、テンは機体を反らせることで斬撃を寸前に回避した。そして、反動を利用して『起き上がり小法師』ように上半身を元に戻すと、両腕を揃えて前方に向けた。

 

『これを食べちゃえっ!!』

 

【挿絵表示】

 

《クロス・ガズ》の下腕部に内蔵された110m速射砲が猛然と火を吹いた。

 ゼロ距離射撃が外れるわけはなく、全ての弾がキャノンタイプに命中し、もはや装甲は意味をなさぬままに穴だらけになって上半身が文字通り吹き飛んだ。

 

『や、やりました!』

 

 涙で顔をぐちゃぐちゃに濡らしたテンが、嗚咽混じりに叫んだ。

 

 爆発煙の中から球形の脱出ポッドが飛び出してくる。テンは勢いで危うくポッドを撃ち抜くところだったが、寸前で発砲を停止すると、モビルスーツの両手を使って球体を掴ませた。

 その動きはぎこちなく、今にも落としてしまいそうだ。

 

『ど、どうしましょう、これ?』

 

 処理し難い、厄介な物を受け取ってしまったかのように、妹が困った声で言った。

 

『こ、降伏する。撃たないでくれ!』

 

 連邦軍パイロットが慌てて反応して叫んだ。

 年端もいかぬ少女の不安げな声に、打ち捨てられるか、証拠を残さぬために撃たれると思ったのだろう。

 

「我々は南極条約を遵守します。今は停戦中ですから、すぐに帰れるでしょう」

『尋問されても機密事項は喋らんぞ!』

「条約を遵守すると私は言いました。聞こえなかったのですか?」

『子供だな? あんたにそんな権限があるのか!?』

 

 ちっ、権威主義の連邦軍め、と思ったが、あえて反論はしなかった。

 

「脱出ポッドは壊れてるかもしれない。だから丁寧に持ち帰って。壊さぬように」

『わかりましたっ』

『だ、大丈夫なのか? 潰さないでくれ!』

「揺らすと誤って傷つけてしまいます。黙っていて」

 

 少し脅しておけば静かになるだろう。まったく勝手なものだ。逆の立場なら恫喝するくせに。

 アドレナリンが引いて、興奮した感情が収まってくる。敵機を四機撃墜という戦果を上げたものの、停戦協定にもかかわらず戦闘に持ち込んでしまったことは、やはりまずかったかもしれない。

 だがこちらが協定違反をしたとは考えなかった。連邦軍がアクシズ領内に侵入していたということは証明できるからだ。捕獲した脱出ポッドのフライトレコーダーには行動が記録されているはずで、こちらのデータと合わせて戦闘記録を作成して軍本部に提出することになるだろう。

 

『問題はない。単に偶発的な戦闘だったという結論になるはずだ。プルツー姉さんが不在だから、大事にするわけにはいかない』

 

 しかしながら、このちょっとした『イレギュラー』な戦闘は、さらなる戦いの予兆ではないか、という疑念が頭をもたげて始めていた。

 リスクを犯して、これほどアクシズの近くで機体テストや演習をしていたのは、あるいはジオン共和国で発生したという暴動と関連性があるのではないか? 偶然なのかもしれないが、戦争とはいつも政治的な歪みから生じるものだ。

 アクシズに帰還したら、何時間もの対策会議と報告書の作成が待っているだろう。デスクワークはうんざりするが、まずはシャワーを浴びてから取り掛かろうと考えた。

 

 プルシックスは操縦をオートパイロットに切り替えて一息つくと、ヘルメットのバイザーを上げてコクピット内の空気を吸った。だがそれでも心は落ち着かず、ざわめいていた。そう、まるでオールビュースクリーンに広がる漆黒の宇宙が、半刻前とは異なる、緊張に満ちた姿に変貌したように感じられたのだ。

 

「恐れは見るものを醜く変えてしまう。私は何を見ているんだ……?」

 

(第二部へ続く)




今回で第一部完結で、次回から第二部です。
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