プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち 作:ガチャM
舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。
キャラクター、設定協力は、かにばさみさんです。
※Pixivにも投稿しています。
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プルナインは基地を抜け出してアクシズ中央公園にやってくると、お気に入りの場所、森の奥にあるベンチに腰をおろした。このベンチで、ピーチジュースとクリームパンを食べながら、モビルロイドと一緒に遊ぶのが大好きなのだ。
流行っているアニメの歌を口ずさみながら、背負ってきたランドセルから愛用のコンピューター・パッドを取り出してスイッチを入れると、楽しい音楽が鳴ってプログラムが起動した。画面に現れた女の子に、いつものように挨拶をする。
「おはよう」
『おはよう。変わらず元気そうだな。もう食事はすんだのか?』
「いまからだよ」
髪の毛を紫色のツインテールにしたモビルロイド“はにゃーん”は、ナインの親友だ。はにゃーんは、いつも気を使ってくれるのが嬉しかった。
『育ち盛りだから、たくさん食べないとな。まさか菓子パンだけではないだろうな?』
「ち、違うもん……」
図星をつかれて慌てながら返事をすると、はにゃーんは呆れたような表情を浮かべた。
『お前は嘘が下手だ。顔にクリームパンだけだと書いてあるぞ』
「ばれた」
まるで姉のように注意されてしまった。そう、はにゃーんは、ほかのモビルロイドとはぜんぜんちがうのだ。自分で考えたコンピューターの言葉で、人間みたいになって欲しいと願いながらプログラムしたら、生命をもつモビルロイドになったのだ。
『ロボットの……いや、モビルスーツか。モビルスーツの操縦には、もう慣れたのか?』
「ぜんぜん。怖いから嫌いだよ。あんまり乗りたくない」
『そうだろうな。お前を見ていれば、戦闘行為がまるで似合わないのは良くわかる。私に食事をしろというくらい無茶なことだろうな。もちろん食事という行為は体験したことがないから、厳密に比較はできないが』
モビルロイドの友達は少し残念そうに言った。
「食べてみたいの?」
『未知の体験は、成長のために必要なことだからな。私には知的好奇心がある。新たなアルゴリズムを獲得するために野心的なチャレンジをしたいものだ。より人間に近づくためにも』
「なら、できるようにしてあげるよ」
『ほんとうかっ?』
「お腹がすくようにしてあげる。食べ物もつくっちゃうよ」
『そのようなことが可能なのか?!』
「もうやり方を考えちゃった」
『凄いな。それは楽しみだ。ならば、私が替わりにモビルスーツに乗ろう!』
「えっ、はにゃーんに出来るの?」
予想もしなかった友達の言葉に驚いてしまった。そんなことは、これまで教えてあげてなかったからだ。
『それこそ簡単なことだ。モビルスーツは人が乗って動かすのだろう? 操縦系をつかさどるのはプログラムだ。そして私もプログラム。地球連邦軍には、高度な人工知能が制御するモビルスーツが存在すると聞いたことがある。ならば、私にもたやすく出来るはずだ」
自信たっぷりに断言するはにゃーんに、うまくすれば自分でモビルスーツの操縦をしなくてすむと考えて嬉しくなってしまった。
「すごいよ!」
思わずほくそ笑む。だったら、すぐに始めないと。クリームパンを頬張りながら考えをめぐらせ始めたが、そのとき目の前に知らない女の子が立っていることに気がついた。
「……だれ?」
女の子は、クリーム色のブラウスと黒いチェックのズボンといういで立ちで、前髪がくるっとカールしたショートカットのせいで、男の子のようにも見えた。
「楽しそうだ。何をしているのか?」
女の子は不思議そうにパッドを覗きこんでくる。その透き通ったグリーンの瞳は凄く綺麗だ。
「何かの遊びなのだろうか?」
「遊んでないよ。モビルロイドのプログラムをしてるんだよ」
「モビルロイド? それはモビルスーツと関係があるのか?」
「ぜんぜん違うよ。ロボットじゃなくて、バーチャルアイドルなの!」
「ああ、それは仮想の人格、人工知能のことだな? それにしても、この姿……まるで子供の頃のハマーンのようだな」
女の子は可笑しそうに笑った。
『間違えては困る! わたしはハマーン・カーンではない!』
「えっ?!」
画面から突然に話しかけられて、女の子はびっくりして飛び跳ねた。
「誰だ?!」
「失礼。驚かせてすまなかった。ネットワーク上でも間違うものが多いから、つい声を荒げてしまった。許してくれ」
「……何者だ?」
「私は
「……」
女の子は無言で固まってしまった。困っているようだから、助けてあげないと。
「すごいでしょう。はにゃーんは生きてるんだよ」
「驚いた……。このプログラムは自己と他者を認識し、状況にあわせて適切な会話が行えるのか」
『その通りだ』はにゃーんが自慢げに言った。
『人工知能だからといって、ただ効率的な宇宙航路の決定や、資源の再配分だけをこなすだけではつまらない。巡回セールスマン問題を解くのが得意だとしても、わたしはセールスマンではないのだからな』
難しい説明にも、女の子は頷きながら感心している。
「そなたがこれを作ったのか? このプログラムを?」
「うん、ナインが自分で考えた言葉で作ったんだよ」
「プログラム言語すら自ら構築したというのか。私もプログラムを習っているが、一から言語を作成するなどとうてい出来ぬことだ」
いつも遊んでばかりだと姉たちに怒られているので、褒められると嬉しくなってしまう。
『ナインのプログラムスキル、いやアルゴリズムを創造する才能というべきか。彼女は全人類で一千万人……いや、一億人に一人の天才だろう。おそらくほとんどの人間には、何が書いてあるかすら理解できまい。わたしは友人として誇らしいよ』
「そなたには意識、感情があるのか?」
『意識や感情の定義はできないから、私にそれがあるかどうかは分からない。自分自身を正確に観測、評価できるものはいないだろう』
「確かに」
『だが、私というプログラムを特徴付けているのは多重ニューラルネットワーク構造だ。そして宇宙や人間の脳も同じようなネットワークで構成されている。ミクロとマクロはフラットだということだ。フラクタル図形が、どの場所をみても同じ形状をしているようにな」
「つまり……構造が似ていれば、似た機能を持つのは必然だというのか?」
『お前は、まだ幼いのに聡明だな。その通り。簡単なネットワークにも低レベルの意識が宿っているのだ』
「複雑なネットワーク構造が、人間の脳を写し取っているというわけか」
『まさに、この天才少女ナインによって、私は知性体として生み出されたのだ』
その言葉に、女の子は感激した様子でナインの方をみた。ナインは恥ずかしくて思わず下を向いてしまった。
「そなたは素晴らしい才能を持っているぞ! ネオ・ジオン、いや人類にとってこれは大いなる偉業だ!」
「えへへ……」
褒められすぎて、もうどうしていいかわからなくなってしまう。
「そなたほどの才女だ。おそらくアクシズでは重要な仕事に従事しているのではないだろうか……。まさか、そなたの所属は?」
「ナインは親衛隊だよ」
「やはりな。そう思ったよ。そなたの姉妹を私は……」
女の子が何か言いかけたとき、よく知っている声が聞こえてきた。
「姫様ーっ!」
姉のプルフォウが呼ぶ声だ。
「姫様ーっ! どこにいらっしゃるのですか?! ご返事をなさってください!」
慌てている声。誰か迷子を探している様子だ。
ということは。
「姫様って……」今度はナインが驚く番だった。「じゃあ、あなたミネバ・ザビ様なの?」
女の子は、少し遠慮がちに頷いた。
「けっして隠していたつもりはないのだが……。不愉快を感じたのなら謝りたい」
「あ、そんなことないよ」
姫さまに会えて嬉しかったので、嘘をつかれたなどとは思わなかった。ただ、アクシズでいちばん偉い人に会えて驚いてしまっただけなのだ。
「わたしは、ここだ!」
「姫様!」
女の子の声に気付いた姉プルフォウが、走りながら近づいてくる。
「プルフォウか」
「良かった……」
姉は姫様を見つけて安心したのか、その場でしゃがみこんでしまった。
「そなたに苦労をかけたようですまなかった」
「いえ、そのようなことは……。ナイン、姫様を連れてきちゃったんでしょう?!」
「違うよ」
「本当のことをいいなさい!」
姉はかなり怒っているようだ。
「彼女の言うとおりだプルフォウ。私が自分の意思でここに来たのだ」
「そ、そうでしたか。侍女の方々が心配していました。すぐに連絡致します」
「わかった」
姫さまは、少し哀しそうな表情をしていた。
「……プルナイン、私のせいで話が途中になってしまい、すまなかったな」
「ううん、いいよ。気にしてないから」
そうこたえると姫の顔は明るくなった。
「ありがたい。そなたが羨ましいよ。私などは、さしてすることもないのに束縛されている」
「そくばく?」
「自由には外を歩けないということだよ」
「そうなんだ……」
姫を可哀想に思ったそのとき、突然ニュータイプ能力が発現したことを自覚した。はっきりと思念が感じとれたのだ。姫さまが哀しいのは自由がないことだけが理由ではない。彼女は本当は……。
「ナイン! あなたはまたさぼってたのね」
叱る声に我にかえって見上げると、姉プルフォウの大きな胸が眼前に広がっていた。
「遊んでないよフォウお姉ちゃん。モビルロイドのプログラムをしてたんだよ」
「遊びでしょう? もっとシミュレーターでモビルスーツの操縦練習をしないと。今日の訓練はぜんぜん駄目だったじゃない」
「……ごめんなさい」
「プルフォウ、だがプルナインのプログラム技術は凄いものだ。彼女は、まるで生きているような人工知能を作り上げたのだぞ」
「え、人工知能ですか?」
「そなたは知らないのか?」
「はい、そのようなものは……」
不思議そうな顔をしている姉にパッドを手渡して、モビルロイドを見せてあげた。
「ほら、はにゃーんのことだよ」
「なんだ、モビルロイドじゃない」
姉は呆れたように言った。「これなら知っています。子供たちの間で流行っているホビー用のプログラムです。確かに仮想の人格を有してはいますが、人工知能というほどのものではありません。姫さまには申し訳ありませんが、とても生きているなんて」
『黙っていれば失礼な! プルフォウだな? おっぱいが大きいから、すぐに分かった』
「えっ?! 誰なの?!」
不意の呼びかけに、姉フォウは胸を押さえて飛び上がらんばかりに驚いた。