プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち   作:ガチャM

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「プルフォウ・ストーリー2 ~月に降り立つ少女たち~」

舞台はUC0088年のアクシズ。ネオ・ジオン親衛隊のプルフォウを中心としたプルシリーズたちのストーリーです。

キャラクター、設定協力は、かにばさみさんです。

※Pixivにも投稿しています。


第06回「策謀」

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 スペースコロニーの外観は、どのコロニーもほとんど同じように見えるが、内壁に広がる街並みにはそれぞれ個性がある。ここ旧称『ムンゾ』ことジオン共和国は、中世ヨーロッパ風の落ち着いた街並みが特徴で、石造り風の古風な建築物が律儀に等間隔で立ち並んでいる。むろん石造りでは重くなりすぎてコロニーの回転に影響が出るので、重量を軽くするために実際は特殊プラスチックで出来ているのだが、街を覆う統一感は几帳面な国民性の現れでもあった。

 いま、そんな旧世紀の建築物を模倣した建物のひとつで重要な会合が行われていた。

 会合に使用されている部屋は五階にある奥まった部屋で、盗聴器やカメラなどのスパイ機器が設置されていないか入念にクリーニングされた後、電磁波シールドやジャミング・システムなどが据え付けられて、完璧な諜報対策が施されていた。それほど念入りな作業が行われたのは、ジオン共和国の政治家、官僚、企業の経営者、軍人などの重要人物が集まっていたからだ。

 しかし、それ以上に会合の内容が重要だった。仮に外部に漏れたりでもすれば、ジオン共和国にとってたちどころに致命的な結果を招く恐れがあるキナ臭い議題。だからセキュリティは万全の状態にされたのだ。

 部屋に集まっている人間は、その仕事は様々だが、ある政治的目標を共有し、目標を達成するために長年活動しているグループのメンバーだった。活動といっても普段からあからさまに『目標』について語ったり行動することはなく、過激で性急すぎるやり方を否定し、さほど重要だと思われることのない小さな事柄を各人が達成しつつ、最終的には大きな目標を達成することを目指す。いうなれば秘密結社めいた共謀者たち。

 そのゴールは、スペースノイドの理想郷たる国家の樹立。つまりはジオンの独立だ。

 ジオン共和国の前身は、地球連邦軍政府に独立戦争をしかけたコロニー国家『ジオン公国』である。ジオン公国は、全人類の半数が死滅する大戦争を引き起こした挙句に敗北を喫した、地球圏にとっては災厄そのものだった。敗北後、そのまま消滅してもおかしくはなかったが、疲弊した地球連邦政府はまだ戦力を残していたジオンと平和条約を結ぶことを選択した。それほどに人類そのものが存続できるかの瀬戸際だったのだ。だからジオンは共和国としてある程度の自治権を有して存続したのだ。以来、有数の工業力で戦後の復興を支え、平和国家としての道を歩んでいる。

 

「ジオンの現状は、決して良いとは言えません。それどころか、自治権を地球連邦政府に返還しろという動きもあるのです」

 

 ひとりの政治家が会合の議題を明確にする。ジオンの命運、それが彼らを結びつけているものだ。

 

「だからアクシズを利用しようというのだろ? あのような過激派は武力だけに頼ろうとする時代遅れの連中だ。だが、上手く使えば世論の流れを変えることが出来る」

「それは危険な賭けでしょう。手順を間違えばジオンそのものが無くなる危険性もある」

「甘いな。悠長なことをしていられるか! 今のままでは、いずれジオンは消滅する。そうなれば、すべてが終わるのだ」

 

 彼らは、地球連邦政府と平和協定を結んだジオン共和国の政治中枢にいる人間だ。しかしながら、『ジオン共和国』という結果にはけっして満足しておらず、いま一度ジオン公国の栄華を復活させようと夢見ていた。つまり、真にジオン・ダイクンが目指した理想を実現するために、再びジオンを独立国家として成立させようというのだ。“ある程度の自治権”では、どんなに小難しく解釈をひねり出したとしても、スペースノイドが真に地球から独立したことにはならない。だから表ではジオン共和国としての立場で地球連邦政府に従う一方、裏では火星近辺のアステロイドベルトに潜み、密かに戦力を拡充してきた宇宙要塞アクシズと連携し、策謀を巡らせていたのだ。

 だが、暴走し始めたアクシズが制御不能になりつつあることが、大きな問題となりつつあった。

 

 

「アクシズをあのような女に任せておくわけにはいきません。あれは個人的な恨みだけで軍を動かしている狂人だ! ジオンの高潔な理想など理解しているはずがない。いや、もともとそんなことはどうでも良いと考えているのです」

 

 元アクシズの会計担当士官ステファン・コレスは、ジオン共和国の官僚や政治家を前にして自らの意見を訴えた。彼はこの部屋の中で、唯一サイド3の人間でない男だった。

 

「だから君は、それを訴えるためにアクシズから逃げてきたというのか?」 

「そうです。事実、一部将校は不満を募らせ、叛乱を起こす動きをみせています」

「馬鹿な! それでは旧ジオン公国の失敗を繰り返すだけではないか!」

 

 ひとりの男が、そんなことは決して許すことはできないというように叫んだ。

 その“失敗”とは、ジオン公国を統率していたザビ家が内部分裂し、肉親同士で殺しあったあげくに軍事的混乱を招いて自滅したという愚かな歴史のことだ。それがアクシズでも再現されるならば、ジオンが真に愚者の集団だと評されても仕方がないだろう。

 

「そうなる前に介入しなければなりません。このままではネオ・ジオンは崩壊します」

 

 ステファンは、いかにも熱心なジオニズム信奉者のように熱を込めて言った。

 

「まさかハマーン・カーンがあれほどの野心を持っているとはな。所詮は上手く成り上がっただけの、高尚な理想を持たない女だということか。シャア・アズナブルが抑えきれなかったというのは情けない。ジオンのカリスマ的英雄が聞いてあきれる」

 

 官僚のひとりが失望したように言った。彼らは、けっきょくのところアクシズをごろつきのような集団だと考えているのだ。

 

【挿絵表示】

 

 そしてネオ・ジオンの軍人たちを、派手ななりをして目立とうとする愚か者だとみなす一方で、自らは慎重で抜け目がなかった。決して急進的な行動はとらずに、政治経済活動、巧妙な宣伝、マーケティングなどでジオニズムを広める地ならしを地道に行い、好機を伺ってきたのだ。戦後の混乱で地球連邦政府が弱体化すれば、いずれ政治的・軍事的空白が生まれる。その状況で上手く立ち回れば、再び独立国家への道筋が開かれるだろうというのがグループの狙いだった。

 そして、ついに地球連邦軍がエゥーゴとティターンズに分かれて内部分裂するというまたとない好機が訪れたとき、秘めた野望を実行に移したのである。アクシズをけしかけることで地球連邦政府と交渉し、サイド3の独立を図ろうという試みは、途中までは上手くいっていたはずなのだ。

 

「叛乱を企んでいるのは誰だ?」

「はい、これは内密にして頂きたいのですが……」

 

 わざと言葉をとめる。情報に価値があるのだということを相手に分からせるためのテクニックだ。

 

「もったいぶるんじゃない!」

 

 いかにも気が短そうないかつい顔の政治家が怒りを露わにした。たしか、テレビ番組でいつも過激な発言をしている男だと思い出した。

 だが動じることはない。

 

「……グレミー・トトです」

「グレミー・トト? あのトト家を継いだ若い将校か!」

 

 その場にいた全員の顔が驚きの表情に変わった。てっきり行方不明のシャア・アズナブルの名前が出てくると思っていたのだろう。グレミーという名前を初めて聞いた人間も多いはずだ。グレミー・トトとは、ジオン共和国が密かに支援し育てきた青年で、その出自にはある秘密があった。

 

「なぜ、君はそれを知ったのだ? まさか叛乱の同志だったというのか?」

「とんでもない! 私はアクシズでは経理を担当していました。そこで、彼らが不正に資金を横領している決定的な証拠を掴んだのです」

「家の金を盗むのか! やはりごろつきだな」

「自分はザビ家の後継者だ。彼はそう考えているのです」

「彼は頭でもおかしいのか? ザビ家の後継者はミネバ・ラオ・ザビだけのはずだ」

「そうか……彼は、あの『計画』の」

 

 ひとりの政治家が、納得したようにひとりごちた。

 

「計画? 計画とはなんのことだ?」

「ここで話すことはできないが、ミネバ殿下の地位も盤石ではないということだ。ハマーン・カーンもな。……しかし、一将校としてミネバ・ザビを補佐するだけでよかったものを。自らがスペースノイドの救世主だと勘違いしたようだな」

「今のうちに、叛乱の芽は摘む必要があります」

 

 ステファン・コレスは『計画』のことは初耳だったが、直感的にこれは金と権力を獲得するチャンスだと考えた。陰謀とか謀略は、限られたメンバー内で共有されて進められるものだが、その仲間に入ることができれば旨い汁を吸うことができるのだ。

 

「確かにグレミー・トトまで暴走させるわけにはいかない。彼はハマーン・カーンを暗殺しようというのか? それでは計画が狂ってしまう。あの女は暴走してはいるが、サイド3を地球連邦軍に譲渡させるという計画を実行しようとしているのだ。それに内乱で国力を減らすわけにはいかん!」

「グレミー・トトの切り札は親衛隊です。親衛隊を潰せば、野心は費えるでしょう」

 

 元アクシズの会計官ステファン・コレスは、含んだ笑いを漏らさずに、自分の『計画』を話し始めた。

 

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